◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 売掛の費用は、事務原価・資金原価・貸倒原価の3層で数えます。事務の側だけを削っても、回収までの日数と貸倒の見積りは残ります。
- 回収の前提は制度の側から動いています。下請代金の支払に用いる手形等のサイトは、60日を超えると指導の対象となるおそれがあります(2024年時点)。
- 紙の請求書は通数がそのまま費用になります。2026年時点の料金表では、定形郵便物が50gまで110円、通常はがきが85円です。
- 貸倒の幅は倒産の実数から置けます。2025年の全国企業倒産は10,300件で、負債総額1,000万円以上を集計した数です。
- 投資の締め切りは自社の都合では動きません。電子交換所での手形・小切手の交換は、2027年度の初めに廃止されます。
目次

売掛の費用対効果を決める3つの原価
売掛の費用対効果とは、請求から入金までに払う事務原価・資金原価・貸倒原価の3層が、投資でどれだけ減るかを同じ期間で並べて測ることを指します。2025年の全国企業倒産は10,300件で、貸倒原価を外した試算は過小になります。
事務原価が生まれる場所は、月末の夕方に印刷したままの請求書が積まれる経理の島です。三つ折りにして封筒へ入れ、宛名を指で確かめ、押印の欄だけ別の担当者の戻りを待ちます。翌朝は入金の明細と請求の一覧を並べ、金額の合わない行を探すところから始まります。同じ数字を販売の台帳と会計の台帳へ二度打ち込む会社も残っており、その手は毎月同じだけかかります。
入金の確認が取れない請求には、督促の連絡が積み上がります。先方の締めの日程を聞き直し、翌月へ回すかどうかを担当者どうしで決め直します。手形で受け取った分は、期日が来るまで社内で待つほかありません。ここで動いているのは紙と時間で、そのどちらも売上の側には見えません。
売掛の費用は、この光景の三か所で生まれます。封入や押印や消込(入金の明細と請求の記録を突き合わせて売掛金を消す作業)に人が使う事務原価、入金までの日数だけ資金が寝る資金原価、回収できなかった分を負う貸倒原価の3つです。費用対効果を測るなら、この3層をそろえて数えるほかありません。
封入や押印や消込に使った時間は、どの請求書にも載りませんが、給与としては毎月そのまま払われています。
手形60日の指導基準が変えた回収前提
60日超が指導対象になる線引き
回収の前提を先に動かしたのは、制度の側です。下請代金の支払に用いる手形等のサイト(手形の振出から支払期日までの期間)について、60日を超えるものは指導の対象となるおそれがあるという運用が示されました(2024年時点)1。これは違法と断ずる線ではなく、指導が入り得る線です。取引の条件を決め直す場面では、この線が実務上の上限として働きます。
60日という数字は、資金原価の計算にそのまま使えます。売上を計上してから現金が入るまでの日数が延びれば、その日数分の運転資金を自前で立てておく必要があります。手形等のサイトの短縮は、相手の資金の都合を自社が肩代わりする期間を縮める話でもあるのです。
600者への注意喚起が示す実態
この線引きは通知だけで終わっていません。60日以内への短縮を求める注意喚起の対象となった親事業者は、600者にのぼります(2024年時点)1。注意喚起の対象がこれだけの規模になったことは、60日を超える支払が例外ではなかったことを示しています。自社が受け取る側であれば、条件の見直しを申し入れる根拠にできますね。
2027年度初の交換廃止という期限
条件の見直しで詰められるのは日数までで、紙そのものにも期限が付きました。電子交換所(手形・小切手の画像データを金融機関の間で交換する仕組み)での交換は、2027年度の初めに廃止されます4。交換枚数をゼロにする目標の期限は、その前の2026年度末に置かれています4。紙の手形が使えなくなるという話ではありませんが、交換の廃止の後は相対での決済(当事者どうしで支払の方法を決める形)の段取りを自社で用意する必要があります。
枚数の側は、目標に届いていません。電子交換所の交換枚数は2024年に1,967万枚で、同じ年の削減の実績は501万枚、目標は822万枚、達成率は61%でした2。2025年には削減の目標が984万枚へ改められています2。1979年のピーク時には年4.4億枚が交換されていましたから、水準は下がったものの、残りの枚数を目標の期限までに落とし切る話になります3。
いまの形を続ける費用を一つの数値で言えば、手形での受け取りが残る限り、入金は60日先まで後ろへずれ得ます(2024年時点の指導基準の上限)。
請求書1通110円が積み上げる年間費用
対処は3段で足ります。第一は通数の把握です。月ごとに郵送している請求書と、同封している控えや通知の通数を数え、1年分に伸ばします。ここは新しい調査ではなく、発送の記録と切手の購入の記録を合わせれば出ます。
第二は単価の当てはめです。2026年時点の料金表では、定形郵便物が50gまで110円、通常はがきが85円です7。通数へ110円を掛ければ、郵送の費用の年額が1本の式で出ます。封筒や用紙や印字の費用は別に積みますが、まずは郵便料金だけで桁を掴めます。
第三は対象の決定です。ここで迷ったら、期限が先に来るものから選びます。電子交換所での交換の廃止という期限が付いた紙の手形・小切手が先で、期限の定めがない請求書の郵送はその次に置けます。順序を逆にすると、期限のある側だけが後ろに残ります。
費用対効果を1年で測る4つの指標
回収日数の短縮で減る資金原価
測る指標は4つに絞れます。1つ目は回収日数です。請求から入金までの日数を月ごとに記録し、前年の同じ月と比べます。手形サイトが60日から短くなれば、その差の日数だけ資金原価が減ります1。減った日数へ自社の調達の利率を掛ければ、金額に直せます。
事務時間の削減で減る人件費
2つ目は事務時間です。封入と押印と消込に使った作業時間を、郵送の通数とあわせて記録します。通数が減った分と、1通あたりの作業時間が縮んだ分は、別々に数えるほうが後で説明しやすくなります。ここで削れた時間が、事務原価の減り分になります。
3つ目は貸倒原価の見積りです。取引先の倒産件数と負債総額の水準を置き、回収できない前提の金額を見込みます。2025年の全国企業倒産は10,300件で、前年比は2.9%増、負債総額は15,921.9億円でした8。これは負債総額1,000万円以上の集計ですから、それを下回る規模の停止はこの外にあります。
効果88.2%の裏にある測り方
4つ目は投資の回収の期間です。事務原価と資金原価と貸倒原価の減り分を足し、投じた金額を割れば、何年で戻るかが出ます。前提を書き添えるのが要点で、通数や日数の見込みを変えれば答えも動きます。断定した1つの数字より、前提を並べた幅のほうが稟議では通りやすいですね。
効果の数値を借りるときは、設問の意味に気を付けてください。クラウドサービスの利用で効果があったと回答した企業は88.2%です(2024年)5。これは利用の効果を尋ねた設問への回答であり、売掛の業務の効果を測った数値ではありません。自社の効果は、上の4つの指標で自社の数字として出すほかありません。
ここまでで売掛の費用の数え方と1年で測る指標はそろいますので、以降は回収の手段が紙の手形やでんさいに分かれている場合の、更に詳しい段取りです。
ここまでの手順を自社の条件で確かめたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。
クラウド採用80.6%の到達点と残る紙
クラウドの採用の水準は公表された調査に依りますが4、採用が進んだ後も紙が残る先はあり、その残り方は回収の手段ごとに分かれます。
順位根拠:公表された調査
- 順位は、制度で期限が定まっている順に並べています。第1位は、紙の手形・小切手の受け払いをやめる段取りです。交換枚数をゼロにする目標の期限は2026年度末に置かれ4、削減の目標は2025年に984万枚へ改められました2。
- 第2位は、相対での決済の段取りの用意です。電子交換所での交換は2027年度の初めに廃止されますので4、それ以後の受け払いは当事者どうしで決める形になります。取引先ごとに、振込かでんさいかを先に決めておく作業が残ります。
- 第3位は、手形等のサイトの短縮の申し入れです。60日を超えるサイトは指導の対象となるおそれがあり、2024年には600者が短縮を求める注意喚起の対象となりました1。受け取る側からの申し入れにも、この運用が根拠になります。
- 第4位は、でんさい(電子記録債権。手形の代わりに債権を電子で記録する方式)への切替です。発生記録の請求件数は2014年の62万件から、2024年には802万件へ伸びています3。加入は相手方の意思によりますので、自社だけでは完結しません。
- 第5位は、請求書の郵送の電子化です。制度上の期限は定まっていませんが、テレワークを導入している企業は47.3%(2024年)で5、紙の受け渡しが在宅の働き方と噛み合わない場面が残ります。
- 第6位は、クラウドでの運用への移行です。クラウドサービスを利用している企業は80.6%(2024年)に達しました6。到達点としては高い水準ですが、利用の有無を尋ねた数値であり、売掛の業務が電子化されたことを示すものではありません。
この順位に自社の行が見つからない方は、次の型の表から、回収の手段ごとに自社が当てはまる行を探せます。
回収手段別に分かれる3つの打ち手
| 型 | 当てはまる条件 | 先に決まっている期限 |
|---|---|---|
| 紙の手形の受取が残る型 | 取引先から紙の手形を受け取り、期日まで社内で保管している | 電子交換所での交換が2027年度の初めに廃止される |
| でんさいへの切替が途上の型 | 一部の取引先はでんさい、残りは紙で、手段が二つ並んでいる | 取引先ごとの加入の状況で決まる |
| 請求書の郵送が残る型 | 請求書を郵送で出し、押印と封入を人手で回している | 制度上の期限は定まっていない |

紙の手形の受取が残る型で先に決める相対決済の手段
紙の手形の受取が残る型では、第1ブロックの順序がそのまま当てはまりません。通数を数えて単価を当てる手は、郵送の請求書には効きますが、手形の受け払いには効きません。手形の費用は通数ではなく、期日までの日数と、紙を保管して持ち回る手間の側に載ります。期限の側も自社では動かせず、電子交換所での交換の廃止は2027年度の初めに決まっています4。
この期限の中で先に切り替える先を選ぶ基準は、費用の大小ではありません。取引先ごとに、交換の廃止の後も紙で受け取り続ける先がどれだけ残るか、その先が振込やでんさいへ動けるか、この二つで分けます。動ける先は先に切り替え、動けない先には相対での決済の取り決めを個別に用意します。自社の締めの日程と相手の支払の日程がずれる先を先に洗い出せば、でんさいへの切替が途上の型で決める順序も見えてきます。
行動は、受取手形の一覧を取引先ごとに並べ、廃止後の受け取り方を1件ずつ決めるところから始まります。決めた内容は支払条件の覚書へ落とし、社内の締めの日程もあわせて直します。この組み替えは相手方の合意と社内の日程の両方に触れますので、経理と営業管理の担当者が並行して当たる必要があり、片手間では終わりません。
| 確かめる事柄 | 見る先 | 分かれ目 |
|---|---|---|
| 受取手形の残高と件数 | 受取手形の一覧 | 廃止後も紙で残る先の数 |
| 支払条件の記載 | 覚書や取引の基本契約 | 手形での支払の記載が残っているか |
| 期日までの日数 | 手形の期日と自社の締め | 60日を超えているか |
でんさいへの切替が途上の型で分かれる取引先ごとの段取り
手段が二つ並んでいる型では、費用がかえって増えている場面があります。でんさいの記録の確認と、紙の手形の保管が、同じ月の中に両方残るためです。発生記録の請求件数は2024年に802万件へ伸びましたが3、伸びた分だけ自社の中の紙が消えたわけではありません。切替の途上という状態そのものが、二重の手間を生みます。
選ぶ基準は、相手方の加入の状況です。一括決済の方式やでんさいへの加入は、下請の側の自由な意思によることが前提ですから、自社の期限で押し切る話にはなりません。加入済みの先、加入の意向がある先、紙のままとする先の3つに分け、先の二つを電子へ寄せます。紙のままとする先は数を確定させ、その数だけ紙の運用を残す形に設計します。
行動は、取引先の一覧へ加入の状況の欄を1つ足すことです。欄が埋まれば、紙の運用を残す先の数が確定し、二重の手間の終わりが見えます。加入の意向の確認は先方の回答を待つ工程ですので、自社の作業としては軽い一方、期間の側は自社では詰められません。
| 取引先の区分 | 受け取りの手段 | 残る手間 |
|---|---|---|
| 加入済みの先 | でんさいの発生記録 | 記録の確認と消込 |
| 加入の意向がある先 | 紙とでんさいの併存 | 同じ月に二度の確認 |
| 紙のままとする先 | 紙の手形または振込 | 保管と持ち回り |
請求書の郵送が残る型で通数から決める電子化の順序
郵送だけが残っている型は、期限の側が空いています。制度上の期限が定まっていないため、他の二つの型に比べて後ろへ回りやすい位置にあります。それでも費用は毎月出ていきます。2026年時点の郵便料金へ通数を掛ければ、年額は式1本で出ます7。
選ぶ基準は、宛先の側の受け取り方です。電子の請求書を受け取れる先か、紙の原本を求める先か、押印の欄を必要とする先か、この3つで分けます。費用の大きい先から手を付けるより、受け取れる先から順に移すほうが早く止まります。紙を求める先が残っても、通数が減れば年額はその割合で下がるのです。
この型は、外に頼まずに済ませられる場合があります。宛先の数が数え切れる範囲に収まり、押印の欄を求める先がなければ、いま使っている会計の仕組みの送付の機能だけで足ります。手を入れるのは、宛先の一覧と、送付の記録の残し方の二か所です。紙の先と電子の先が混ざる場合は締めの日程も先ごとに違い、宛先ごとの取り決めを一件ずつ確かめる手間が要りますので、型ごとに分かれてきた判断の軸を、ここで表へまとめます。
| 宛先の区分 | 受け取りの形 | 移す順序 |
|---|---|---|
| 電子で受け取れる先 | 電子の請求書 | 先に移す |
| 原本を求める先 | 紙の請求書 | 覚書の確認の後 |
| 押印の欄を求める先 | 押印済みの紙 | 最後に残す |

この型に当てはまる場合は、判断の抜けによる手戻りを防ぐために、無料相談で自社の条件を持ち込むのが確実です。
要点の整理
| 判断の軸 | 置く基準 |
|---|---|
| 費用の数え方 | 事務原価と資金原価と貸倒原価の3層をそろえて数える |
| 資金原価の測り方 | 請求から入金までの回収日数を月ごとに記録し、前年の同じ月と比べる |
| 事務原価の測り方 | 郵送の通数と、封入や押印や消込の作業時間を別々に記録する |
| 貸倒原価の置き方 | 負債総額1,000万円以上の倒産の水準を踏まえ、回収できない前提の金額を見込む |
| 着手の順序 | 制度で期限が定まっているものから対象を決め、期限の定めがないものを後に置く |
| 型ごとの分かれ目 | 相手方の合意が要るかどうかで、自社の期限で詰められる範囲が変わる |
| 効果の示し方 | 前提を並べた幅で示し、断定した1つの数字に寄せない |
よくある質問
売掛の費用は、どの科目から拾えばよいですか
先に拾えるのは、給与や郵便料金のように既に支払っている費目です。封入や押印や消込に使った作業時間は人件費の中に埋もれていますので、通数と時間の記録を別に取ります。回収までの日数に応じた資金の原価は費目としては現れませんから、日数と自社の調達の利率から計算して足します。
手形のサイトが60日を超えていると、違反になりますか
違反と断ずる線ではありません。下請代金の支払に用いる手形等のサイトについては、60日を超えると指導の対象となるおそれがあるという運用が示されています(2024年時点)1。2024年には600者が短縮を求める注意喚起の対象となりました1。条件の見直しを申し入れる根拠として使える範囲です。
紙の手形は2027年度から使えなくなりますか
使えなくなるという説明は正確ではありません。決まっているのは、電子交換所での手形・小切手の交換が2027年度の初めに廃止されることです4。廃止の後は、当事者どうしで支払の方法を決める相対での決済の段取りが必要になります。取引先ごとに受け取り方を決めておく作業が残ります。
電子化に投じた費用は、どのくらいの期間で回収できますか
期間は前提で変わりますので、1つの数字では出せません。郵送の通数と回収日数と貸倒の見込みを、それぞれ変えた幅で試算するのが実務的です。2026年時点の郵便料金は式に置ける固定の値ですが7、通数と日数は自社の見込みにすぎません。前提を並べた試算のほうが、稟議では説明が通ります。
取引先にでんさいへの切替を求められますか
求めること自体はできますが、加入は相手方の判断です。一括決済の方式やでんさいへの加入は、下請の側の自由な意思によることが前提ですから、自社の期限では決められません。発生記録の請求件数は2014年の62万件から2024年の802万件へ増えていますので3、加入済みの先は以前より増えています。
貸倒の見積りは、どの数値を根拠にすればよいですか
公表された倒産の実数を出発点に置けます。2025年の全国企業倒産は10,300件で、前年比は2.9%増、負債総額は15,921.9億円でした8。これは負債総額1,000万円以上の集計ですので、それを下回る規模の停止は含まれません。自社の取引先の規模の分布に合わせて、見込む幅を決めます。
- 1 出典:公正取引委員会「手形等のサイトの短縮について(報道発表)」(2024年) 経路
- 2 出典:一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について」(2025年) 経路
- 3 出典:一般社団法人全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ(特設ページ)」(2026年) 経路
- 4 出典:金融庁「手形・小切手機能の全面的な電子化について」(2026年) 経路
- 5 出典:総務省「令和6年通信利用動向調査の結果(報道資料)」(2025年) 経路
- 6 出典:総務省「令和7年版 情報通信白書(クラウドサービス)」(2025年) 経路
- 7 出典:日本郵便株式会社「国内の料金表(手紙・はがき)」(2026年) 経路
- 8 出典:株式会社東京商工リサーチ「2025年(令和7年)の全国企業倒産1万300件」(2026年) 経路
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