◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 東京23区の中小企業を中心とした2024年の調査(回答1,218社)では、ITを活用して社内業務を効率化している段階にある企業が43.8%です。エクセルの受注台帳は、この段階の入り口に当たります。
- 同じ2024年の調査で、取組の課題に費用の負担を挙げた企業は31.9%、適切な人材の不足を挙げた企業は31.0%でした。小規模の移行は、この2つを踏まないための順番で組みます。
- 電子取引データの検索要件は、基準期間の売上高が5,000万円以下の場合に不要とされています(2024年時点の解説)。台帳へ検索用の欄を作り込む前に、確かめる事柄です。
- 適格請求書には6項目の記載が求められます(2023年の案内)。請求の様式だけを先に整えると、受注の台帳に無い情報を毎月書き足すことになります。
目次

受注から請求までを1本化する注文管理
注文管理システムとは、受注の登録・在庫の引き当て・出荷の指示・請求の締めを、1本の台帳でつなぐ仕組みです。小規模でエクセルから移るかどうかは、注文の件数ではなく、証憑の保存と単価の管理が台帳の外へこぼれ始めた時点で決まります。
注文1件が通る受注・引当・出荷・請求
朝9時、事務所の複合機がFAXの受信音を鳴らします。担当者は用紙を抜き取り、エクセルの受注台帳へ品番と数量を打ち込みます。同じ内容が、午後には出荷の指示書へもう一度書き写されます。夕方には、請求のためのブックへ三度目の転記が起きます。注文は1件でも、人が数字に触る回数は1回では終わりません。
注文1件は、受注の登録、在庫の引き当て、出荷の指示、請求の締め、という4つの段を通ります。エクセルの台帳がよく引き受けるのは、このうち受注の登録までです。残る3つは、別のブックや紙の指示書、会計の仕組みへ散っていきます。散った先で同じ品番と数量を打ち直す時間が、毎日積み上がるのです。
エクセルが担える範囲と担えない範囲
エクセルの台帳が担えるのは、行を足していく作業です。取引先が増えても、列の意味を変えずに1行を足せば済みます。担いにくいのは、同じ数字を別の帳票へ渡す作業のほうです。渡す先が出荷の指示書と請求のブックに分かれると、その間に人の手が入ります。手が入る回数だけ、打ち間違いの入り口が増えていきます。
打ち間違いの入り口が増えていく手元の台帳に対し、注文を出す側の環境は先に動いており、従業者100人以上の企業を対象とした2024年の調査では、クラウドサービスを利用する企業が80.6%です3。この数字は、小規模の事業者の実態をそのまま示すものではありません。ただ、注文を出す側が画面やメールで発注を済ませる場面は、確かに増えています。受け取る側の台帳だけが手元のファイルに留まると、入り口と出口の形が合わなくなりますね。
打ち直しに費やす時間はどの請求書にも載りませんが、給与という形で毎月支払われている費用です。
エクセル運用が限界に達する共通の兆候
同時編集と版の分岐が生む転記ミス
兆候の1つ目は、ファイルが開けない時間の発生です。誰かが台帳を開いていると、後から開いた人には読み取り専用の案内が出ます。「誰か開いてます?」と事務所で声が飛ぶのは、この時です。待てない人は手元のコピーを作り、そこへ注文を入れます。2つの版に別の注文が入った時点から、どちらが正しいかを人が判断する作業が始まります。
担当者1人に集中する更新作業
兆候の2つ目は、台帳を直せる人が1人に絞られることです。関数と条件付き書式を積み重ねた台帳は、作った本人以外には触りにくくなります。取引先の追加や単価の改定が、その1人の手空きを待つ作業へ変わります。東京23区の中小企業を中心とした2024年の調査では、取組の課題に適切な人材の不足を挙げた企業が31.0%でした2。台帳の側で起きているのは、この不足が1人分に凝縮された状態にほかなりません。
月末の締めに消える時間
兆候の3つ目は、月末の突き合わせで同じ数字を三度見る作業です。受注の台帳、出荷の控え、請求の明細を並べ、品番と数量を目で照らし合わせます。同じ2024年の調査では、取組の効果として業務効率化を挙げた企業が81.0%、人手不足の解消を挙げた企業は18.8%でした2。効率化の側には効果が出やすく、人を減らす効果までは届きにくい、と読めます。締めの時間を削る目的なら、期待する先は前者です。
2024年の調査では77.9%が取組の成果を認めており2、台帳のままでいる期間は、この77.9%の側へ入らない時間として積み上がります。
電帳法とインボイスが迫る保存の要件
エクセル台帳だけでは残せない証憑
電子取引とインボイスの要件は、3つの段に分けて確かめれば足ります。1段目は、電子取引データの保存が要る証憑を数えることです。メールに添付された注文書、画面に残る注文の控え、電子で受け取った請求書が当たります。これらは紙に出して綴じるだけでは済まず、受け取った形のまま残す必要があります。エクセルの台帳は数量と金額を持てますが、証憑そのものの原本は持てません。
売上5,000万円以下で外れる検索要件
2段目は、検索要件が要るかどうかの確認です。電子取引データの検索要件は、基準期間の売上高が5,000万円以下の場合に不要とされています4。売上高がこの線の下にあるなら、台帳へ検索用の欄を作り込むより、保存先を1か所へ決める作業が先に来ます。猶予の扱いは、所轄の税務署長が相当の理由を認める場合を前提とするものであり、無条件の免除ではありません。
適格請求書に必要な6項目の記載
3段目は、適格請求書の6項目をどこで持つかの決定です。適格請求書には6項目の記載が求められます5。請求の様式だけを先に整えると、受注の台帳に無い情報を請求の段で毎回書き足すことになります。登録番号や税率ごとの区分といった欄を、受注の段で持てるかどうか。ここが、台帳を作り替えるか仕組みへ移すかの分かれ目です。
最小構成で始める移行の手順と費用の見方
受注の入り口だけを先に分ける
判断の軸は3つです。1つ目は、受注の入り口です。注文がFAXとメールと取引先の画面に分かれて届くなら、受注の入り口だけを先に仕組みへ載せます。会計や基幹の仕組みまで同時に触ると、止まった時に戻す先が消えます。FAXとメールの受け口を1つにまとめるだけなら、社内の運用の見直しで始められます。
既存の会計・基幹はCSVで並走
2つ目の軸は、並走の期間を置けるかどうかです。既存の会計と基幹は残したまま、CSVの受け渡しでつなぎます。並走の間は二重入力が残りますが、元の台帳が生きているため、止まっても戻せます。戻せる形の確認ができた時点で、二重入力を止める置き換えの判断へ移ります。
費用負担31.9%という壁の越え方
3つ目の軸は、費用の見方です。2024年の調査では、取組の課題に費用の負担を挙げた企業が31.9%でした2。金額そのものは公表資料で確かめられないため、本稿では具体額を示しません。見るべきは、入り口の分離までで一度止めた場合に、いま払っている打ち直しの時間がどれだけ減るかです。
どこから手を付けるかで止まっているのは自社だけではなく、2026年の調査(回答1,272社)では、計画を策定している企業が20.1%、策定を検討している企業が43.4%でした1。検討の段にいる企業のほうが、策定を終えた企業より多い状態です。同じ調査で、取り組んでいる企業のうち80.9%が成果を挙げたと答えています1。着手そのものよりも、着手の順番を決める段で時間が溶けている、と読めますね。
着手の順番を決める手がかりに見えるのが、2026年の調査で社内業務の効率化の段にある企業は38.1%という数字です1。この後に触れる2024年の段階別の分布とは調査回が異なるため、同じ系列の推移として並べられません。時点を分けたうえで、自社がどちらの数字の近くにいるかだけを見てください。
ここまでが標準の進め方で、以降は自社の受注の入り方が標準から外れていると感じる方に向けた内容です。
ここまでの手順を自社の条件で確かめたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。
自社の位置が分かるデジタル化4段階の分布
段階ごとの分布は公表された調査に依るもので2、ここから先は、受注の入り方によって見る場所が変わります。

順位根拠:公表された調査
- ITを活用して社内業務を効率化している段階が43.8%で、回答した1,218社のうち該当する企業の割合が最も大きい区分です(2024年)。エクセルの台帳から専用の仕組みへ移る判断は、この段階の中で起きます。
- 紙や口頭のやり取りをITへ移している段階が29.6%です(2024年)。受注の入り口だけを先に分ける進め方は、この段階の出口に当たります。
- 口頭・電話・紙の帳簿が中心の段階が17.7%です(2024年)。ここでは台帳の作り込みより、注文の経路を1か所へ集める作業が先に来ます。
- デジタルを差別化・競争力強化に活用している段階は8.9%です(2024年)。受注の情報を単価や在庫の判断へ回す段で、注文管理の台帳が起点になります。
この4つのどこにも自社が当てはまらないと感じた方は、次の表で受注の入り方から型を探せます。
受注の入り方で分かれる移行の型
| 型 | 当てはまる条件 | 先に決めること |
|---|---|---|
| 紙とFAXが主体の受注 | 注文の原本が紙で事務所に残る | 注文の経路を集める順番 |
| 取引先別の単価が多い受注 | 同じ品番でも取引先ごとに単価が違う | 単価を持つ場所と適用日 |
| 電子取引の証憑が散る受注 | 注文と請求がメールや取引先の画面に残る | 電子取引データの保存先 |
紙とFAXの受注は台帳より先に経路を1か所へ集める
原本が事務所に残る間は二重入力が続く
この型では、第1ブロックの進め方がそのままでは動きません。理由は、注文の原本が紙のまま事務所に残るためです。仕組みへ入れても、紙の束は別に綴じられ、探す場所が2か所に増えます。入り口を分けた効果が、紙の管理の手間で相殺されるのです。
仕組みを入れずに済ませる道もあります。受け口のメールアドレスを1つ作り、複合機の受信をそこへ転送する設定にすれば、紙とデータの入り口は1か所にまとまります。ここまでなら社内の設定で足り、費用の判断を先送りできます。
先に決めるのは経路を集める順番
この型で見る軸は、注文の件数ではなく経路の数です。届く経路を数え、どの経路から先に集めるかを決めます。経路が減るまでは、台帳の欄を増やす作業に手を付けません。順番を逆にすると、欄だけが増えて入り口は分かれたまま残ります。
この型の難しさは作業の量ではなく順番の決め方にあり、受注の担当者と経理の担当者が同じ表を見て経路を数える時間を取れるかどうかで、つまずく場所が変わります。
| 作業 | いまの形 | 経路を集めた後 |
|---|---|---|
| 注文の受け取り | 複合機の用紙を配る | 1か所の受け口で受ける |
| 台帳への登録 | 受け取った人が打ち込む | 登録の担当を1本にする |
| 原本の保管 | 紙のまま綴じる | 電子取引データの保存と分けて扱う |
取引先別の単価は台帳の欄ではなく単価表で持つ
同じ品番で単価が分かれると請求の突き合わせが増える
この型では、同じ品番でも取引先ごとに単価が違います。台帳の行に単価を直接書く形だと、改定のたびに行を1つずつ直すことになります。過去の注文まで直してしまえば、請求済みの金額と合わなくなります。月末の突き合わせで差異が出る原因が、ここに紛れ込むのです。
単価を持つ場所を決める判断
この型で見る軸は、単価の適用日を残せるかどうかです。単価表を台帳の外へ出し、適用日を添えて持たせると、過去の注文は当時の単価のまま残ります。台帳の欄で持つ形は、取引先の数が少ないうちは動きます。改定の頻度が上がると、手が回らなくなります。
この型の難しさは単価表を作る作業そのものより、いま台帳に散っている単価を取引先と品番の組で洗い出す段にあり、営業の担当者と経理の担当者の記憶を突き合わせる時間が要ります。
| 決める事柄 | 台帳の欄で持つ場合 | 単価表で持つ場合 |
|---|---|---|
| 単価の改定 | 行ごとに直す | 表の1か所を直す |
| 過去の注文 | 直すと請求済みと合わなくなる | 適用日で当時の単価を引く |
| 請求の突き合わせ | 目で照合する | 品番と取引先の組で照合する |
電子取引の証憑は保存先を決めてから台帳を触る
注文と請求がメールと取引先の画面に残る
この型では、注文も請求も電子で届きます。届いた証憑は、担当者の受信箱や取引先の画面に散らばったまま残ります。台帳の数字が正しくても、電子取引データの保存の側が整っていなければ、後から求められた時に出せません。仕組みを入れる前に、保存先の話が先に来ます。
保存先を決めてから欄を足す
この型で見る軸は、証憑が届く経路の数です。受信箱、取引先の画面、電子の請求書と、届く先ごとに保存の担当と置き場所を決めます。基準期間の売上高が5,000万円以下であれば、検索要件は不要とされています4。台帳へ検索用の欄を作り込む前に、置き場所の一本化から着手できます。
この型の難しさは制度の読み解きの側にあり、適格請求書の6項目と電子取引データの保存の要件を自社の証憑の種類ごとに当てはめる時間が要りますが、見る軸そのものはどの型でも変わりません。
| 証憑 | 届く経路 | 決めること |
|---|---|---|
| 注文の控え | メールの添付 | 保存先を1か所にする |
| 電子の請求書 | 取引先の画面 | 受け取りの担当を決める |
| 適格請求書の6項目 | 請求の様式 | 台帳のどの欄で持つか |

この型に当てはまる場合は、判断の抜けによる手戻りを防ぐために、無料相談で自社の条件を持ち込むのが確実です。
要点の整理
| 判断の軸 | 標準の進め方での基準 | 型ごとに変わる基準 |
|---|---|---|
| 受注の入り口 | 注文の経路が2つ以上に分かれているか | 紙とFAXの原本が事務所に残るか |
| 単価の持ち方 | 台帳の欄で改定に追いつくか | 取引先ごとに単価が分かれるか |
| 証憑の保存 | 電子取引データの保存先が決まっているか | 基準期間の売上高が5,000万円以下か |
| 戻せるか | CSVで元の台帳へ戻せるか | 並走の期間を置けるか |
よくある質問
いまのエクセルの台帳は、移行後に使えなくなりますか。
並走の期間を置けば、台帳はそのまま残せます。受注の入り口だけを仕組みへ移し、会計や基幹へはCSVの受け渡しでつなぐ形なら、元の台帳は参照用として生きています。二重入力を止める判断は、戻せる形の確認ができた後で構いません。移行の初日に台帳を捨てる必要はありません。
無料のテンプレートで済ませることはできますか。
注文の件数が少なく、証憑が紙だけで完結しているなら、テンプレートで回る範囲があります。止まるのは、電子で受け取った注文や請求の原本を残す段です。電子取引データの保存は、表計算の欄を増やしても代わりになりません。テンプレートを選ぶより先に、証憑の置き場所を決めてください。
導入の費用はどのくらいかかりますか。
本稿では、公表資料で確かめられる金額がないため、具体額を示しません。判断の材料になるのは、2024年の調査で取組の課題に費用の負担を挙げた企業が31.9%だった点です2。費用を抑える道は、入り口の分離までで一度止め、打ち直しの時間がどれだけ減ったかを測ってから次の段へ進む形です。
猶予の扱いがあれば、当面はエクセルのままで問題ありませんか。
猶予の扱いは、所轄の税務署長が相当の理由を認める場合を前提としており、無条件の免除ではありません。電子で受け取ったデータを電子のまま残す義務そのものは残ります。検索要件については、基準期間の売上高が5,000万円以下であれば不要とされています4。要件の有無を確かめたうえで、保存先を決めてください。
移行に失敗したとき、元の台帳へ戻せますか。
戻せるかどうかは、並走の期間を置いたかで決まります。会計と基幹を残したまま、CSVの受け渡しでつないでいれば、入り口の仕組みを止めても元の台帳で業務が続きます。最初から全部を入れ替えると、戻す先が消えます。戻せる形の確認を、置き換えの判断より前に置いてください。
会計や基幹の仕組みも同時に入れ替える必要がありますか。
同時に入れ替える必要はありません。最小の構成は、受注の入り口だけを分け、会計と基幹はCSVでつなぐ形です。2026年の調査では、計画を策定している企業が20.1%、策定を検討している企業が43.4%でした1。検討の段で全体の入れ替えを描くと、着手そのものが遠のきます。
- 1 出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果」(2026年) 経路
- 2 出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果」(2025年) 経路
- 3 出典:総務省「令和7年版 情報通信白書(クラウドサービス)」(2025年) 経路
- 4 出典:財務省「ファイナンス 令和6年8月号 特集 令和5年度の税制改正により見直された電子帳簿等保存制度の内容と中小企業の対応策」(2024年) 経路
- 5 出典:国税庁「インボイス制度の概要(適格請求書等保存方式)」(2023年) 経路
画像の出典元
- オフィスの自席で納品書とノートパソコンを見比べる日本人の会社員/画像:生成AI(自社)
- Neatly arranged silverware in a kitchen drawer with plastic/Photo by Bilguun Gantumur on Pexels
- オフィスの自席で納品書とノートパソコンを見比べる日本人の会社員/画像:生成AI(自社)