◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 5階層——得意先の組織をたどって卸価格を切り替えられる対応の上限として示されている数です1。本社と支店で違う価格も、この形なら申し送りの例外ではなく規則として置けます。
- 43.1%——国内のBtoB取引のうちECを経由した割合で、金額では514.4兆円に達します4。掛け率を紙とExcelだけで持ち続ける運用は、この流れの中で負担が重くなっていきます。
- 3位——価格転嫁のしやすさの業種別で卸売業が置かれた位置です5。順位が上のほうにあるうちに、掛け率の根拠を担当者の記憶から一覧へ移しておきたいところです。
- 20万円の標準的なプランで足りるか、つくり込みまで要るか2。分かれ目は、掛け率の例外を何件抱えているかにあると見ます。
目次

卸価格設定の基本と掛け率の考え方
卸価格の設定は、原価へ一律の掛け率を乗せる作業ではなく、得意先ごとの取引量と役割を価格表へ翻訳する作業です。掛け率の段を決め、組織の階層まで含めて「誰にどの価格を出すか」を一覧にし、その表を人の記憶ではなく仕組みへ持たせます(詳しくは得意先ごとに価格を変える仕組みで解説します)。この三手がどう働くかを、卸の現場で見ていきます。
日東電工CSシステム株式会社は、全国の販売加盟店へ材料を届ける卸の商流を抱えています。朝いちばんの営業事務の机には、FAXの感熱紙が温かいまま積み上がります。担当者は得意先名を指でなぞり、掛け率の一覧表をめくって見積書の数字を埋めます。「この店はいくらだったか」——問いはいつも同じで、答えだけが相手ごとに違います。
扱う品目も相手先も、一人の記憶に収まる量ではありません。3,800品種——同社が法人向け販売サイトへ載せていた品種数で、2018年時点の値です3。3,000社——2020年時点で全国に広がっていた加盟店数で、その一社ずつに「この得意先はこの掛け率」という約束が紐づきます3。掛け率の管理は、品目数と得意先数を掛け合わせた広さで考える作業。
めくり直しと電話での問い合わせは一件ずつなら小さな手間ですが、見積もりの訂正と請求の差し替えまで数えると、掛け率の確認作業はそのまま毎月の人件費に置き換わります。
BtoB EC化率の伸びと価格交渉の動き
受発注の入口が紙のままだと、掛け率の置き場所も紙に残ります。FAXと電話で注文を受けている限り、価格は「担当者が思い出すもの」であり続けます。注文が画面から入る形になれば、価格は「システムが引くもの」へ変わります。入口が動くと、出し間違いの起きる場所そのものも移ります。
その入口の移り変わりの速さは、割合で見るとよく分かります。43.1%——国内のBtoB取引のうちECを経由した割合で、2024年時点の値です4。514.4兆円という金額は、取引全体の四割超がすでに画面の上を流れていることを示します4。掛け率を手元の表だけで持ち続ける限り、「前回いくらで出したか」を人が覚えておく役回りは消えません。
その表への依存とは別に、調査では価格を上げ直す難しさの業種差も出ています。53.5%——価格交渉促進月間の後に測られた全業種平均のコスト価格転嫁率で、2025年の値です5。3位——同じ調査で価格転嫁のしやすさの業種別に卸売業が置かれた順位で、化学・機械製造業に次ぐ並びです5。原価の上昇分を卸価格へ乗せるのか、それとも自社の利益で飲むのか。順位が上のほうにあるうちに、「なぜこの価格か」を示せる一覧へ移しておきたいところです。
その一覧作りを後回しにして例外を足し続けた先に待つのは個別のつくり込みで、その初期費用は1,500万円からと示されています2。
得意先ごとに価格を変える仕組み
得意先別の価格は、一つの数字ではなく積み重ねで決まります。基準となる建値があり、そこへ得意先の区分に応じた掛け率が乗り、さらに数量や期間を限った条件が重なります。「7掛け」といった言い方は特定の商材で使われる一例にすぎず、業種をまたいだ相場として通用するものではありません。自社の建値と区分を書き出すところが出発点になります。
厄介なのは、相手が一つの会社とは限らない点です。本社で契約し、支店ごとに納入し、部門単位で請求先が分かれることもあります。5階層——得意先の組織をたどって卸価格を切り替えられる対応の上限として示されている数で、2026年時点の値です1。「本社価格」と「支店価格」を別々に持てる形にしておけば、担当者の口頭の申し送りに頼らずに済みます。
もう一つ、価格を動かすのは数量です。一度に多く引き取る得意先と、都度少量で注文する得意先へ同じ掛け率を当てると、物流にかかる手間が価格へ反映されません。数量の段を設けるか、掛け率そのものを分けるか。どちらにせよ「段の切れ目」と「適用の順番」を文章で残しておかないと、担当が代わった時点で同じ価格を再現できなくなります。価格表は、担当者の記憶から取り出して引き継げる一覧へ。
BtoB取引の四割超がすでに画面上でやり取りされる状況では、本社・支店・部門という組織の実態を一覧に持たせられるかどうかが、そのまま受注の正確さを左右します4。階層を紙の申し送りに頼ったままにしておくと、注文の入口だけ電子化しても、価格の間違いは別の場所へ移るだけです。
価格ロジックを支えるシステムの基準
標準プランと個別のつくり込みで開く初期費用
費用は、初期費用と月額に分けて見ると迷いが減ります。既製のプランへ自社の掛け率を載せるのか、基幹システムの都合に合わせてつくり込むのか。この選び方で入口の金額は大きく開きます。「安く始めたい」という希望と「うちの商習慣に合わせたい」という希望は、たいてい逆を向きます。
金額で並べると差がはっきりします。20万円——標準的なプランの初期費用として示されている額で、2026年時点の値です2。1,500万円からというのが、大規模なつくり込みを選んだ場合の初期費用の下限です2。17万円からの月額利用料も別にかかるため、入口の金額だけで比べると運用が始まってから総額が合わなくなります2。最初に数えたいのは、掛け率の例外が何件あるかという件数です。
組織階層で卸価格を切り替える持たせ方
価格の切り替えを仕組みへ預けるとき、確かめたいのは階層の扱いです。得意先の情報が一社につき一件のままだと、本社と支店で違う価格を出す約束は結局「備考欄」へ落ちます。備考欄の文字は検索できず、担当が代わればそのまま忘れられます。選ぶ場面では、画面の見た目より階層をどこまで持てるかを先に聞くことになります。
先に挙げた階層の上限まで対応する仕組みであれば、本社・支店・部門という実際の取引の形をそのまま価格表へ写せます1。数量の段や期間を限った条件も、担当者の裁量に委ねず設定として置けます。「誰がどの理由で決めたか」が残る形にしておけば、担当交代のたびに価格の根拠を掘り起こす作業は要らなくなります。掛け率の引き継ぎは、口頭の申し送りから設定の受け渡しへ。
ここから先は、卸売りの形によらず先に決めておきたい点を整理したうえで、単一の掛け率で回している卸売りと、得意先別・数量別に価格を分けている卸売りに分けて、それぞれの決め方と費用の見方を詳しく見ていきます。
卸価格の設定は、掛け率の段と組織の階層をどこまで仕組みへ持たせるかで初期費用も引き継ぎやすさも変わるため、既製のプランとつくり込みの境目を実際に見てきた相手と一度話しておく値打ちがあります。
自社の掛け率が何段あるかを手元に置いたうえで、対応できる範囲と費用感を確かめてもらうのが近道です。無料相談で要件を整理する
価格の出し間違いを止めるために先に決めること
- 得意先別の掛け率を一枚の表へ集め、本社・支店・部門の階層まで書き分ける
- 数量の段の切れ目と、条件が重なったときの適用の順番を文章で残す
- 初期費用と月額を合算した総額で比べ、入口の金額だけで決めない
- 掛け率の例外を数え、既製のプランで足りるかつくり込みが要るかを見極める
- 価格を変えた人と理由が残る形にして、担当交代のたびの掘り起こしをなくす
この並びに優劣の順序はありません。
もっとも、単一の掛け率で足りている卸売りと、すでに得意先別・数量別に分けている卸売りとでは、先に手を付ける場所が変わります。

掛け率の分け方で変わる進め方
| 卸売りの運用の形 | 掛け率の段の数 | 先に手を付ける場所 | 費用の見方 |
|---|---|---|---|
| 単一掛け率で運用する卸売り | 得意先区分ごとに一つ | 建値と区分の定義の文章化 | 標準的なプランの初期費用と月額で収まるかを確認 |
| 得意先別・数量別に価格を分ける卸売り | 得意先区分と数量の組み合わせ | 組織の階層と数量の段の決め方 | つくり込みと連携の分まで含めて総額で比較 |
単一掛け率で運用する卸売り
扱う品目が絞られ、得意先の顔ぶれも長く変わらない卸売りでは、掛け率は区分ごとに一つで足ります。この形で先に困るのは、価格の出し間違いよりも建値の改定です。仕入れ値が動くたびに、「どの得意先まで新しい建値を伝えたか」が分からなくなります。
ここでの選び方は、例外の件数ではなく建値を改定する回数です。53.5%——全業種平均のコスト価格転嫁率で、原価の上昇を「全額は乗せきれない」場面が続いていることを示す数字です5。改定が年に何度も起きる商材なら、価格表の版を管理するだけでも仕組みへ預ける値打ちがあります。
まず建値と区分の定義を一枚へ書き出し、次に改定の連絡先を得意先の一覧へ紐づけます。先に挙げた標準的なプランの初期費用の水準で収まるかどうかを、最初の見積もりで確かめます2。「いまは足りている」という状態のうちに手を付けるほうが、移し替えの手間は軽く済みます。難易度は低く、工数の大半は既存の価格表を一枚へ整える作業に収まります。
その作業を終えたあとの環境で見ると、卸売業は価格転嫁のしやすさで3位に位置づけられており、化学・機械製造業に次ぐ並びです5。単一の掛け率で運用している卸売りほど、建値を上げ直す交渉の窓口は一つで済むため、この順位が示す環境の良さを活かしやすい立場にあると言えます。
| 書き出す項目 | 残しておく中身 |
|---|---|
| 建値 | 改定した年と適用を始めた時期 |
| 得意先区分 | 区分ごとの掛け率と、そう決めた理由 |
| 改定の連絡先 | 得意先ごとの宛先と、伝えた記録 |

単一の掛け率で回っているうちは費用も抑えやすく、建値の改定をどう伝え切るかという一点に絞って相談できる時期にあたります。
いま使っている価格表を一枚持ち込み、標準的なプランのままで収まるかを見てもらうのが近道です。無料相談で自社の条件を持ち込む
得意先別・数量別に価格を分ける卸売り
同じ品目でも相手と数量で価格が変わる卸売りでは、掛け率は一つでは収まりません。得意先が増えるほど、価格表は縦にも横にも伸びていきます。「支店ごとに納入先が違う」「まとめ買いのときだけ別の掛け率」といった条件が、一件ずつ積み上がります。
ここでの選び方は、費用の安さではなく階層の深さと基幹システムとの連携の有無です。3,000社——2020年時点で全国に広がっていた加盟店数のような規模になると、価格の変更を一件ずつ手で直す運用は続きません3。17万円からの月額利用料に、連携のつくり込み分がどれだけ乗るかを先に確かめることになります2。ここでの問いは「いくらか」よりも「どこまで持てるか」です。
手順としては、本社・支店・部門の階層を紙に書き出し、数量の段の切れ目と適用の順番を決め、そのうえで見積もりを取ります。順番を逆にすると、「できます」と言われた範囲と実際に必要な範囲がずれたまま契約へ進みます。難易度は高く、工数は階層と数量の段を決める最初の話し合いに最も厚く積み上がります。
その最初の話し合いを終えた先でも、514.4兆円という取引規模が画面上でやり取りされる時代には、得意先別・数量別に分けた価格を基幹システムと連携させて自動で反映できるかどうかが問われます4。連携が取れていなければ、せっかく仕組みへ移した掛け率も、結局は最初に触れた見積もりの取り違えを別の形で繰り返す種になりかねません。
| 価格を分ける条件 | 表へ持たせる中身 |
|---|---|
| 得意先区分 | 区分ごとの基準となる掛け率 |
| 組織の階層 | 本社・支店・部門それぞれに出す価格 |
| 数量の段 | 段の切れ目と、段ごとの掛け率 |
| 適用の順番 | 条件が重なったときにどれを優先するか |
得意先別と数量別が絡む卸価格は、階層の決め方を誤ると後から直す費用が膨らむため、最初の話し合いの段階で場数を踏んだ相手を入れておきたい場面です。
本社・支店・部門の階層と数量の段を書き出した状態で、実現できる形と総額を見積もってもらうのが近道です。無料相談で自社の条件を持ち込む
要点の整理
| 決めること | 置く基準 |
|---|---|
| 建値と得意先区分 | 一覧へ定義を書き出し、担当者の記憶に残さない |
| 組織の階層 | 本社・支店・部門まで価格を切り替えられる形にする |
| 数量の段 | 段の切れ目と適用の順番を文章で残す |
| 費用の見方 | 初期費用と月額を合算した総額で比べる |
| 引き継ぎ | 価格を変えた人と理由が残る形にする |
掛け率の根拠が担当者の頭の中にある限り、システムを入れ替えるたびに同じ引き継ぎ作業が繰り返されます。 価格の決め方を表へ移す最初の一歩として、いまの運用をそのまま聞いてもらうところから始めるのが近道です。
よくある質問
卸価格の掛け率に相場はありますか
「7掛け」のような言い方は特定の商材で使われている一例で、業種をまたいだ相場として当てはめられるものではありません。仕入れ値、物流の負担、取引量、決済の条件がそれぞれ違う以上、他社の数字を写しても自社の利益は守れません。まず自社の建値と得意先区分を書き出し、区分ごとに根拠を添えるところから始めるのが現実的です。
得意先別の割引は何段くらい設けるのが適当ですか
段の数に決まった正解はなく、得意先の顔ぶれと注文の入り方で変わります。大切なのは段数そのものよりも、段の切れ目をどの数量に置くか、条件が重なったときにどれを先に適用するかを文章で残しておくことです。段を増やすほど例外も増えるため、自社で運用できる範囲に収める判断も併せて必要になります。
本社と支店で卸価格を変えたい場合はどう持たせますか
得意先を一社につき一件で持つのではなく、組織の階層として持つ形になります。先に挙げた階層の上限まで対応する仕組みであれば、本社で契約して支店へ納入するような取引も、価格の例外ではなく規則として書けます1。備考欄へ書いた申し送りは検索できず、担当交代で失われやすい点に注意してください。
Excelでの管理を続けると、どこで行き詰まりますか
得意先の数と例外の件数が増えたときです。同じ品目に複数の価格が並び、どのファイルが最新か分からなくなると、見積もりと請求で違う価格が出ます。先に挙げたEC経由の取引の割合を踏まえると、注文の入口が画面へ移っていく流れの中で、価格表だけを手元に置き続ける運用は負担が重くなると考えられます4。
費用はどこまで見込んでおけばよいですか
初期費用と月額を分けたうえで、合算した総額で比べるのが基本です。標準的なプランと大規模なつくり込みでは初期費用の桁が変わり、月額のベースエンジン利用料も別にかかります2。さらに基幹システムとの連携、既存データの移し替え、公開後の設定変更の手間まで見込んでおくと、契約後の追加費用で慌てずに済みます。
価格転嫁の交渉に、価格表の整備は関係しますか
根拠を示せるかどうかに効いてきます。仕入れ値の上昇分をどの得意先へどれだけ乗せるかを決めるとき、区分ごとの掛け率と過去の改定の記録が手元にあれば、そのまま説明の材料になります。卸売業は価格転嫁のしやすさで上位に置かれていますが5、順位にかかわらず根拠のない申し入れは通りにくいと考えられます。
- 1 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Riderお役立ちコラム『BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える』」(2026年) 経路
- 2 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider(BtoB EC受発注システム)料金プラン・費用ページ」(2026年) 経路
- 3 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社)」(2026年) 経路
- 4 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年) 経路
- 5 出典:中小企業庁(公表:独立行政法人中小企業基盤整備機構J-Net21)「価格交渉促進月間フォローアップ調査結果」(2025年) 経路
画像の出典元
- Business meeting with diverse professionals discussing a job/Photo by Tima Miroshnichenko on Pexels
- Business meeting between colleagues in a modern office setti/Photo by Sora Shimazaki on Pexels
- Overhead view of a worker walking through a warehouse aisle/Photo by Tiger Lily on Pexels