◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 5階層。得意先の組織階層をここまで分けて卸価格を切り替えられる仕組みがあり、掛率の違う得意先も価格表の個別修正なしで改定が通ります4
- 54.2%。価格転嫁率は全体で5割をやや超えた水準まで来ており、交渉の成果を得意先ごとの価格へ移す段取りがなければ、請求の単価は元のまま残ります1
- 50.0%。労務費の転嫁率は初めて5割へ届きました。費目をまとめて一本の改定率へ丸めず、積算の形のまま階層の欄へ移します1
- 52.4%。全体の転嫁率が初めて5割を超えた回の値です。反映を価格表の書き換えに頼る限り、改定のたびに得意先数と同じ回数の作業が発生します3
目次

得意先ごとに違う卸価格、反映のたびに生じる手間
得意先ごとに違う卸価格とは、得意先ごとの条件に応じて卸価格を変えて運用する仕組みです。得意先ごとに異なる卸価格は、価格表を一件ずつ書き換えるのではなく、得意先の組織階層へ卸価格を結び付けて切り替えます。転嫁交渉で決めた改定は費目ごとに分けます。階層の該当する段だけを直せば、掛率(品目群ごとの掛け率)も特別価格(品目別の価格)も同じ操作で全得意先へ通ります。
火曜の朝、営業企画の島では、得意先別の価格表を開いたまま表計算のシートが並んでいます。プリンタから出たばかりの改定通知が、まだ温かいまま机へ積まれます。値上げの合意は取れました。しかし、合意した改定率を得意先ごとの掛率へ移す作業は、ここから一件ずつ始まります。担当者は「A社は掛率、B社は特別価格」と口に出しながら、行をたどって数字を打ち替えていきます。
得意先の数だけ掛率があり、そこへ品目ごとの「特別価格」が重なります。改定のたびに、価格表のどの行を直し、どの行を据え置くかを判断する必要が出ます。判断を誤ると、請求の段で単価が食い違い、得意先からの照会になって戻ってきます。転記が溜まり、照合の時間が延びます。
一件ずつの打ち替えと、その後の照会対応に費やす時間は、得意先数と改定回数を掛けた人件費として毎回積み上がります。
得意先の階層で卸価格を切り替える仕組み
得意先ごとの卸価格を保つやり方は、大きく二つに分かれます。価格表そのものを得意先の数だけ持つか、得意先の組織階層に「掛率」を結び付けて切り替えるかです。前者は一覧性に優れる一方で、改定のたびに全件を書き換えます。後者は、どの段へ価格を置くかを先に決めておき、置いた段から下へ価格を引き継がせます。
ここで一つ数字を挙げます。5階層。得意先の組織階層をここまで分けて卸価格を切り替えられるBtoB向けECの製品が、2026年時点で提供されています4。本社、事業部、支店、営業所、店舗と並べれば、多くの法人取引はこの並びに収まります。上の段に置いた掛率は下の段へ引き継がれ、下の段で別の値を置いた時だけそこが優先されます。改定で触るのは、値を置いた段だけです。
掛率と特別価格、どちらを先に当てるか
階層へ価格を置くだけでは足りません。品目単位の特別価格は、階層の掛率とぶつかることがあります。どちらを先に当てるかを決めていないと、同じ得意先の同じ品目で、担当者ごとに違う単価が出ます。「特別価格があればそれを優先し、無ければ所属する段の掛率を当てる」という順を、取引開始の時点で書き残してください。順が書かれていれば、改定の反映は機械的な作業になります。
改定日と適用の開始をそろえる
価格の値だけを直しても、いつからその値で請求するかが決まらなければ、現場は動けません。得意先ごとに交渉の妥結時期が違うため、適用の開始もばらつきます。階層へ価格を置く形なら、開始の時期も同じ段へ持たせられます。「この段は翌月から、この得意先だけは翌々月から」という置き方ができれば、遡及の処理と据え置きの処理を分けて扱えます。
ここで一つ。54.2%。2026年時点の価格転嫁率は全体で5割をやや超えるところまで来ましたが1、得意先ごとの価格へ移すまで請求書の単価は元のままで、反映が一月遅れればその一月分は取り返せません。
転嫁の合意を得意先の卸価格へ移す手順
反映の手順は、値を決める作業と、値を置く作業を分けると崩れにくくなります。交渉で決まるのは改定率と適用の開始時期です。決まった改定率をどの段のどの欄へ書くかは、交渉とは別の仕事として並べます。「決めた人」と「入れる人」が違う会社ほど、この分け方が効きます。
決める作業では、費目ごとに数字を並べます。55.7%が原材料費、50.0%が労務費、48.9%がエネルギーコストの転嫁率です1。いずれも2026年時点の調査で、同じ5割前後に見えても、労務費は初めて5割へ届いた段、エネルギーコストはまだその手前にあります。費目をまとめて一本の改定率へ丸めると、得意先から内訳を問われた時に答えられません。費目別に積算し、その積算の形のまま階層の欄へ移してください。
移す先は、得意先の一覧ではなく階層の段です。全得意先へ同率で通す改定なら、最上段の掛率を一度直せば下の段へ引き継がれます。個別の合意がある得意先だけ、その段で上書きします。上書きした得意先を改定のたびに書き出しておけば、次の改定で「なぜここだけ違うのか」を調べ直さずに済みます。
最後に、反映した価格で請求が出るかを照合します。開始日をまたぐ受注は、受注日と出荷日のどちらの価格で請求するかで金額が変わります。開始日の前後に入った受注を抜き出し、単価が想定どおりかを確かめてください。ここで食い違いが見つかる得意先は、たいてい古い特別価格が登録されたまま残っています。
階層で切り替えるか、価格表を配り直すか
階層で切り替えるか、価格表を配り直すか。分かれ目は、得意先の数と改定の回数です。改定がまれで、得意先の顔ぶれも変わらないのであれば、配り直す形でも回ります。改定が続き、掛率と特別価格が混ざっているのなら、一件ずつの書き換えは毎回同じ工数を要求します。自社はどちらに寄っているでしょうか。直近1年の改定の回数と、そのたびに書き換えた価格表の件数を掛けてみてください。
もう一つの分かれ目は、得意先の組織に段があるかどうかです。本社が価格を決め、支店や営業所が発注する取引なら、階層へ価格を置く形がそのまま当てはまります。窓口が一つで段のない小口の得意先が大半なら、階層を作る手間のほうが大きくなります。「本社と支店で価格が変わるか」を得意先ごとに数えてみると、必要な段の数が見えてきます。
決め手になるのは、得意先の数と改定の回数、そして得意先の組織に段があるかどうか。これらを自社の数字で埋めてから、価格の置き場所を選んでください。
ここまでの要点を、次の一覧で振り返ります。
得意先の数と改定の回数、組織の段の有無を並べたところで、自社の取引がどちらの形に寄っているかは、いまの価格表と受注の実物を突き合わせないと決められません。
掛率と特別価格の現在の持ち方を持ち込めば、階層へ置き換えた場合に改定一回分の作業のどこが消えるかを確かめられます。無料相談で要件を整理する
卸売業の価格転嫁、進む転嫁率と残る差
- 得意先の組織階層へ卸価格を結び付け、改定で触る箇所を価格を置いた段だけに絞る
- 掛率と特別価格の適用順を取引開始の時点で決め、合意書と同じ形で書き残す
- 改定率を費目別に積算し、原材料費と労務費とエネルギーコストを混ぜずに反映する
- 適用の開始時期を得意先ごとに持ち、遡及と据え置きを分けて扱う
- 反映後の請求単価を照合し、古い特別価格が残っていないか確かめる
この並びに優劣の順序はありません。
同じ手順でも、商流の形が変われば、自社が価格を決められる段も、改定を通知する相手も変わります。

転嫁率が上がっても、得意先への反映は商流の形で変わる
| 商流の形 | 卸価格を決める場所 | 改定を反映する先 | 先に確かめる点 |
|---|---|---|---|
| 多段階卸を跨ぐ商流 | 一次卸ごとの掛率 | 一次卸の段と参考価格の別表 | 下の段へ引き継ぐ範囲 |
| 直販中心の取引 | 得意先本社との個別合意 | 品目群ごとの掛率と特別価格 | 合意書と登録値の一致 |
| 代理店・加盟店を通じた全国流通 | 本部との契約で定めた統一掛率 | 本部の段と加盟店の段 | 地域別の上乗せの有無 |
一次卸の先にもう一段ある商流での反映
自社から一次卸へ、一次卸から二次卸へ、そこから小売へと渡る商流では、自社が卸価格を決められるのは最初の一段だけです。一次卸への卸価格を改定しても、その先へどう渡すかは一次卸の判断になります。「末端まで転嫁できたか」を、自社の価格表から読み取ることはできません。
ここで見るのは階層の段数ではなく、自社が価格を決められる範囲がどこで切れるかです。ひと呼吸おいて、全体の数字を挙げます。52.4%3、次の回で53.5%2と、価格転嫁率は半年ごとの調査で5割をわずかに超える水準へ上がってきました。どちらも2025年時点の値です。取引の段が増えるほど、この上げ分が末端のどこで止まっているかは、自社の帳票からは追えません。
一次卸向けの卸価格は自社の階層へ置き、二次卸向けの参考価格は別の表として持ってください。同じ表に混ぜると、請求の根拠がどちらの値かを後から追えなくなります。改定の合意には、改定率と適用の開始時期に加えて、二次卸への案内をいつ出すかを含めます。表を分けて持つ設定そのものは難しくありませんが、案内の時期を一次卸とそろえる調整に、初回は打ち合わせを重ねる時間が要りますね。
| 価格を置く段 | 価格を決める先 | 改定のたびに直す箇所 |
|---|---|---|
| 一次卸向けの卸価格 | 自社 | 一次卸の段の掛率 |
| 二次卸向けの参考価格 | 一次卸 | 案内文と参考価格の別表 |
| 小売の店頭価格 | 小売 | 反映の対象外 |
一次卸より先の価格は自社では決められないため、どこまでを自社の価格表に持ち、どこからを案内で伝えるかを先に決める必要があります。
一次卸ごとの掛率と二次卸への案内の出し方を見せれば、自社の階層に持つ段と持たない段の分け方を整理できます。無料相談で自社の条件を持ち込む
得意先の本社と直に決める取引での反映
中間に卸を挟まず、得意先の本社と直に価格を決める取引では、段ごとの掛率よりも品目ごとの特別価格が効きます。案件ごとに値を切り、その値を登録したまま案件が終わります。登録した「特別価格」は、案件が終わっても自分から消えてはくれません。次の改定で掛率だけを直すと、古い値が残った品目だけ旧価格のまま請求が出ます。
ここでの基準は、階層の段数ではなく、合意書に書いた改定率と登録した値が一致しているかどうかです。数字を一つ置きます。55.7%。原材料費の価格転嫁率は2026年時点の調査でこの水準にあり、費目のなかでは最も高い値です1。原材料費の上昇を根拠に交渉した改定率は、合意書へ費目名のまま残し、登録した値と突き合わせられる形にしてください。
改定のたびに、本社との合意書、品目群ごとの掛率、案件限りの特別価格を並べて照合します。支店からの追加発注が本社の掛率を引き継いでいるかも、同じ場で確かめてください。作業そのものは表を突き合わせるだけですが、案件限りの値が多い会社ほど照合の件数が増え、初回は品目の棚卸しに相応の時間が要ります。
| 取り決めの場 | 価格に効く要素 | 改定時に確かめる点 |
|---|---|---|
| 本社との商談 | 品目群ごとの掛率 | 合意書の改定率と登録値の一致 |
| 個別案件の見積 | 案件限りの特別価格 | 案件終了後に値が残っていないか |
| 支店からの追加発注 | 本社の掛率の引き継ぎ | 支店に古い単価が残っていないか |
本社との合意書と登録した特別価格が食い違ったまま改定を重ねると、案件限りの値が古いまま請求へ出続けます。
合意書と登録値の突き合わせ方を相談すると、改定のたびに見る箇所と見なくてよい箇所を決められます。無料相談で自社の条件を持ち込む
本部と加盟店に分かれた流通での反映
本部と契約を結び、発注は全国の加盟店から届く取引では、価格を決める相手と発注する相手が分かれます。本部が統一の掛率を握る一方、配送の条件は地域ごとに違います。「本部と決めた掛率が、加盟店の発注画面にそのまま出るか」が、現場での確認事項になります。
この掛率をめぐる基準は、例外をどこに置くかです。一つ数字を挙げます。48.9%。エネルギーコストの価格転嫁率は2026年時点の調査でこの水準にとどまり、原材料費や労務費の値には届いていません1。配送にかかる分を本部の掛率へ溶かして載せると、どの費目でいくら上げたのかが加盟店へ伝わりません。地域別の上乗せは、本部の段の掛率とは分けて加盟店側の段へ置いてください。
加盟店の数が多いほど、例外を一店ずつ置く形は続きません。原則は本部の段に置いて下へ引き継がせ、例外は地域の単位でまとめて一段だけ設けます。改定の通知は本部へ出し、加盟店へは引き継いだ後の値を見せます。ここまで見てきた三つの商流の形を、最後に要点として整理します。
| 価格を置く段 | 対象 | 改定の通知先 |
|---|---|---|
| 本部の段 | 全加盟店に共通の掛率 | 本部の担当窓口 |
| 地域の段 | 配送条件の違う地域の上乗せ | 地域を束ねる本部の部署 |
| 加盟店の段 | 契約で定めた例外だけ | 該当する加盟店 |

本部と加盟店で発注の窓口が分かれるため、統一の掛率と地域ごとの例外を同じ仕組みへ載せられるかが先に問われます。
加盟店の数と例外の件数を伝えると、本部の段へ置いて下へ引き継ぐ形が自社の契約で成り立つかどうかが分かります。無料相談で自社の条件を持ち込む
要点の整理
| 決め手 | 見る数字 | 選ぶ形 |
|---|---|---|
| 得意先の数と改定の回数 | 直近1年の改定回数と書き換えた価格表の件数 | 件数が積み上がるなら階層で切り替える |
| 得意先の組織の段 | 本社と支店で価格が変わる得意先の数 | 段があるなら上の段へ価格を置く |
| 費目ごとの内訳 | 原材料費・労務費・エネルギーコストの積算 | 内訳を残したまま階層の欄へ移す |
| 適用の開始時期 | 得意先ごとの妥結時期のばらつき | ばらつきが大きいなら段ごとに開始時期を持つ |
| 商流の段数 | 自社が価格を決められる範囲の切れ目 | 切れ目の先は案内で伝える |
価格転嫁の交渉は期ごとに続き、反映の手間も同じ回数だけ繰り返されるため、次の改定が動き出す前に置き場所を決めておく必要があります。 いまの価格表と得意先の組織の並びを持ち寄れば、次の改定で触る箇所がどこまで減るかを見積もれます。
よくある質問
掛率と特別価格の両方がある得意先では、どちらを先に当てればよいですか
品目に特別価格があればそれを優先し、無ければ所属する段の掛率を当てる、という順が扱いやすい形です。順を先に決めておけば、改定のたびに「この品目はどちらだったか」を担当者が思い出す必要がなくなります。順そのものは取引開始の時点で書き残し、得意先との合意書にも同じ順で残しておいてください。
改定の開始日をまたぐ受注は、どちらの価格で請求しますか
受注日の価格か、出荷日の価格か。どちらでも構いませんが、得意先ごとに違う扱いにすると照合が通りません。合意書へ「開始日以降に受注した分から新価格」と書いたなら受注日で判定し、開始日の前後に入った受注を抜き出して単価を確かめてください。ここで食い違う得意先は、古い特別価格が残っていることが多いです。
費目ごとの内訳は、得意先へどこまで示すべきですか
原材料費と労務費とエネルギーコストでは、転嫁の進み方が同じではありません。一本の改定率だけを示すと、根拠を問われた時に内訳へ戻れなくなります。社内の積算は費目別に残し、得意先へ渡す資料にも「費目ごとの上昇分」を残した形にしておくと、次回の交渉で前回の積算をそのまま引き継げます。
価格転嫁率の水準は、自社の改定率の目安になりますか
先に挙げた全体の転嫁率は多くの企業を均した値であって、自社の適正な改定率ではありません。「自社で積算した上昇分」と、交渉で得られた値との差を、得意先ごとに並べてください。平均との比較よりも、自社の積算と実際の反映との差のほうが、次の交渉で使える数字になります。
得意先の組織階層は、どこまで細かく作るべきですか
先に挙げた段数の上限まで使い切る必要はありません。本社と支店で価格が変わらない得意先なら、段は一つで足ります。段を増やすほど、どの段に価格が置かれているかを追う手間も増えます。「価格が変わる場所にだけ段を置く」と決めておけば、改定のときに見る箇所も自然に絞られますね。
価格表を配り直す形のまま、手間を減らす方法はありますか
改定の対象を得意先ごとではなく品目群ごとに区切り、同じ掛率の得意先をまとめて扱う方法があります。ただし、まとめた単位に当てはまらない得意先が増えると、例外の一覧が別に育ちます。例外の件数が改定のたびに増えているなら、「まとめ方」を直すより、価格を置く場所そのものを見直す段階に来ています。
- 1 出典:経済産業省中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査の結果」(2026年) 経路
- 2 出典:経済産業省中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査の結果」(2025年) 経路
- 3 出典:経済産業省中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年3月)フォローアップ調査の結果」(2025年) 経路
- 4 出典:株式会社フライトソリューションズ「BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える」(2026年) 経路
画像の出典元
- Business meeting between colleagues in a modern office setti/Photo by Sora Shimazaki on Pexels
- Expansive warehouse filled with large stone slabs for indust/Photo by SQUAREFEET MARBLE on Pexels
- Colorful stacks of industrial materials organized in an outd/Photo by Michael Orshan on Pexels