◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 勧告は21件、指導は8,230件。卸価格の改定は、書面と記録が残っているかから確かめられます1
- 勧告等に伴う原状回復は総額135,279万円。返す作業は取引先ごとの履歴に沿って進みます1
- 取引価格が7割以上引き上げられた事業者は82.5%。満額か据え置きかの二択ではありません2
- 得意先の組織階層に応じた卸価格の切り替えは、5階層まで対応できます3
目次

卸価格の設定で問われるリスク
卸価格の改定とは、得意先ごとに定めた仕切り値を、原材料費や労務費の変動に応じて見直すことです。卸価格を得意先ごとに変えること自体は禁じられていません。問われるのは、改定の理由と協議の経過を後から示せるかどうかです。下請法(下請代金支払遅延等防止法)は、下請取引の適正化を図る法律です。優越的地位の濫用(独占禁止法が禁じる不公正な取引方法の一つ)も、下請法と並んで相談の対象になります。下請法と優越的地位の濫用に関する相談は22,956件にのぼります1。価格表と改定履歴は、担当者の手元から一箇所へ移します。
夕方の営業事務の机で、得意先別の価格表を印刷した紙束をめくる音が続きます。画面には版違いのファイルが並び、いちばん新しい一つだけが見当たりません。卸価格の改定は、こうして「担当者の記憶」に支えられたまま回っていきます。値上げを求めた側も、据え置きを通した側も、根拠の紙は手元にありません。
問われるのは価格そのものではなく、決め方の記録です。下請法では、対価を一方的に低く定める行為が「買いたたき」として問題になり得ますが、その判断は取引の実態を踏まえて個別に行われます。値引き幅が何割を超えたら該当する、といった単純な決まりではありません。自社の改定が当てはまるかどうかは、公正取引委員会の相談窓口や弁護士へ、取引の中身を持ち込んで確かめてください。
価格表の版を電話で確かめる十数分は、改定のたびに担当者の人件費へ積み上がります。
価格転嫁が進まない実態
価格転嫁が進むかどうかは、得意先ごとの温度差として現れます。まず規模を見ます。110,000名へ調査票が送られた特別調査では、労務費の転嫁に関する指針の認知度が59.6%にとどまりました2。半数をわずかに超える水準で、「知らない相手と協議している」場面が残っている計算になります。指針を示すところから始める得意先が自社に何社あるか、数えてみてください。
受け入れられた割合も見ておきます。67.4%が労務費の要請を受け入れたという結果は、2025年の調査によるものです2。一方で、取引価格が7割以上引き上げられたと答えた事業者は82.5%にのぼりました2。要請が通るかどうかではなく、どこまで通るかが分かれ目になります。「満額か、据え置きか」だけでは言い表せない実態が、この二つの数字に出ています。
この実態が協議の形だけ化として表れると、法の側から声がかかります。4,334名へ、独占禁止法上の懸念がある行為について注意喚起の文書が送られました2。労務費の指針に関わるものを含めると9,747名で、2025年の取組に伴う件数です2。文書が届いた時点では処分ではありませんが、取引の記録を遡って見直す作業が発生します。「協議はした」と口頭で述べるだけでは、その作業は終わりませんね。
協議の経過を書面で受けるか、口頭で終えるか。自社の直近1年の改定について、記録が取引先ごとに残っているかを数えてみてください。
記録を持たないまま改定を重ねる費用は、勧告のうち8件が下請代金の減額であったという運用実績の重さで測ってください1。
違反時の賠償・原状回復の規模
勧告に伴う原状回復
規模を件数で押さえます。21件が下請法に基づく勧告で、指導の8,230件と比べると少数です1。うち11件が不当な経済上の利益提供要請、8件が下請代金の減額でした1。卸価格の改定と支払の減額は、現場では「値引き」の一語でつながっていることがあります。
その「値引き」が返された額も、公表されています。135,279万円が、2024年度の勧告等に伴う原状回復の総額です1。受け取った側は下請事業者3,026者にのぼりました1。均等に割り振るのではなく、取引先ごとの取引履歴に沿って返す作業になりますから、「どの品番をいつからいくらで」が残っていないほど確かめる手間が増えますね。
自発的申出による原状回復
その手間を負う前に、自ら申し出る道も開かれています。32件が親事業者からの自発的な申出で、これに伴う原状回復は35,328万円でした1。勧告を受けてから動くか、気付いた時点で申し出るか。「見つかってから考える」やり方では、返す範囲と時期を自社の手で決められません。
迷った時点で聞く動きは広がっています。22,956件が、2024年度に寄せられた下請法と優越的地位の濫用に関する相談です1。ここに挙げた件数と金額は下請法と独占禁止法の運用実績の統計であり、個別の卸価格設定が適法かどうかを保証するものではありません。「うちの改定はどうか」という問いには、取引の中身を見た専門家の確認が要ります。

得意先ごとの卸価格管理という備え
最初にすることは、得意先ごとの価格表を一箇所へ集めることです。担当者の手元にあるファイルを回収し、品番と適用の開始と価格を並べます。「特別対応」と呼ばれてきた値引きも、例外を作らずに同じ表へ入れてください。ここまでで、口頭の約束がいくつ残っていたかが見えます。
次に、改定のたびに理由を一行で残す欄を作ります。原材料費か、労務費か、数量の変化か。要請に対する得意先の回答も同じ行へ書き添えると、協議の経過が一続きで追えます。2025年の調査では、労務費の要請受諾率が67.4%でした2。この記録の整え方は、次の導入事例に見る品種数と価格階層で具体的になります。
導入事例に見る品種数と価格階層
日東電工CSシステム株式会社は、法人向け販売サイトで3,800品種を扱っています4。カタログ一冊に収まらない品数で、得意先ごとに紙の価格表を配れば、改定のたびに刷り直しが要ります。品種が増えるほど、「どの得意先にどの価格か」を人が覚える形は続きません。
切り替えの幅にも上限があります。5階層まで、得意先の組織階層に応じて卸価格を切り替えられる仕組みが、2026年時点で示されています3。本社と支店と店舗で価格が違う取引でも、階層の数え方を先に決めておけば表は一つで足ります。3,800品種という規模は2018年の参考値ですが、品数と階層の掛け合わせで表が膨らむ形は今も変わりません。
選ぶ基準は二つです。改定の履歴を品番ごとに遡れること、そして得意先の階層に価格を結び付けられること。「根拠を見せてください」と言われた場面で答えを出せるかどうかが、この二つで決まります。
ここから先は、卸価格の改定で先に整える項目を並べていきます。
得意先ごとの価格表と改定履歴をどこまで一箇所へ集められるかは、いまの受注と請求の流れを見ないと判断がつきません。
品番の数と階層の数え方を持ち込めば、改定の根拠を後から示せる形へどこまで寄せられるかが分かります。無料相談で要件を整理する
卸価格の改定で先に整える項目
- 得意先ごとの価格表を一箇所へ集め、品番と適用の開始と価格を並べる
- 改定の理由を、原材料費・労務費・数量の別で一行残す
- 要請への回答を書面で受け取り、協議の経過と同じ行へ書き添える
- 得意先の組織階層に価格を結び付け、階層の数え方を先に決める
- 受け入れられなかった要請と、据え置いた取引の記録を保存する
この並びに優劣の順序はありません。
整える項目が決まったら、次は自社の取引が下請法の対象に入るかどうかで手順が変わります。

取引の区分で変わる卸価格の確かめ方
| 取引の区分 | 卸価格の改定で先に確かめる決まり |
|---|---|
| 下請法の対象となる卸価格設定 | 書面の交付と、下請代金の減額の禁止 |
| 下請法の対象外となる卸価格設定 | 独占禁止法の優越的地位の濫用 |
下請法の対象となる卸価格設定
製造や修理を委託する側で、資本金の区分が当てはまるなら、卸価格の決め方は下請法の下に入ります。ここでの基準は、価格が高いか安いかではありません。発注の内容を書面で交付したか、改定の理由を残したか、請求の段で代金の減額をしなかったか。この三点が先に問われますので、該当するかどうかの判定は取引ごとに専門家へ確かめてください。
勧告の内訳も、この三点に沿っています。11件が不当な経済上の利益提供要請でした1。卸価格を据え置く代わりに協賛金や作業の負担を求める形は、「値引きではない」と言い換えても同じ区分で見られる場面があります。先に挙げた勧告の件数は運用の実績であって、個別の取引に対する評価ではありません。
件数の意味合いはともかく、この三点を自社で整える難易度そのものは高くありませんが、既存の発注書面と価格表をすべて突き合わせる工数がかかります。
| 確かめる場面 | 対象となる取引でしておくこと |
|---|---|
| 発注時 | 品番と卸価格と支払期日を書面で交付する |
| 改定時 | 改定の理由と適用の開始を双方の書面へ残す |
| 請求時 | 協議のないまま代金を差し引かない |
書面の交付と代金の減額は、様式を差し替えるだけでは追いつかず、受注から請求までの流れごと見直す必要があります。
発注書面に載せる項目と、改定の理由を残す欄の置き場所を、いまの運用に当てて確かめられます。無料相談で自社の条件を持ち込む
下請法の対象外となる卸価格設定
資本金の区分に当てはまらない取引でも、卸価格の改定が自由になるわけではありません。継続して取引する相手に一方的な価格を求める行為は、独占禁止法の優越的地位の濫用として扱われる場面があります。下請法の書面義務ではなく、協議をどう行ったかが見られる点が違います。「うちは対象外だから」と切り分けた瞬間に、記録を残す動機だけが消えます。
注意喚起は、対象外の取引にも関わります。4,334名へ、独占禁止法上の懸念がある行為について文書が送られました2。労務費の指針に関わるものを加えると9,747名で、2025年の取組に伴う件数です2。処分ではないとはいえ、届いた会社は取引先ごとの経緯を遡って確かめることになります。
難易度は取引先の数に比例し、協議の記録を誰が残すかを決めるところに工数がかかります。
| 対象外でも残る問い | 卸価格の改定で用意する材料 |
|---|---|
| 取引を続ける力関係 | 協議の申し入れと回答の記録 |
| 一方的な値下げの要請 | 原価の変動を示した資料 |
| 取引先からの相談 | 窓口で確かめた内容の控え |

対象外の取引ほど協議の経過が個人の手元に残りがちで、注意喚起の文書が届いた時に遡れる材料が足りません。
協議の申し入れと回答を、誰がどの画面でいつ残すところまで具体的に詰められます。無料相談で自社の条件を持ち込む
要点の整理
| 卸価格の取り決め | 確かめる中身 |
|---|---|
| 得意先ごとの価格表 | 品番と適用の開始と価格が一箇所にあるか |
| 改定の理由 | 原材料費・労務費・数量の別で一行残っているか |
| 協議の経過 | 要請と回答が書面で残っているか |
| 組織階層への対応 | 本社・支店・店舗で価格を切り替えられるか |
| 取引の区分 | 下請法か独占禁止法かを取引ごとに確かめたか |
| 専門家への確認 | 個別の改定について窓口や弁護士に当てたか |
卸価格の賠償や原状回復は、求められてから記録を作ることができない性質の備えです。 取引先の数と品種の規模を伝えれば、価格表と改定履歴をどの順で移すかの見通しが立ちます。
よくある質問
得意先ごとに卸価格が違うこと自体が問題になりますか
価格差があること自体が直ちに問題になるわけではありません。数量や物流の負担、支払条件の違いなど、差を付けた理由を説明できるかどうかが見られます。逆に、同じ条件の相手へ理由なく別の価格を適用していると、説明の材料が手元にありません。「昔からこの価格で」という答えしか出ない取引がないか、確かめてください。
買いたたきに当たるかどうかは、どのように判断されますか
対価の決め方や協議の有無、同種の取引の価格など、取引の実態を踏まえて個別に判断されます。「値引き幅が何割まで」といった単純な決まりではありません。自社の改定が当てはまるかどうかは、公正取引委員会の相談窓口や弁護士へ、取引の中身と経緯を持ち込んで確かめてください。
得意先からの値上げ要請を断ることはできますか
断ること自体が直ちに違反になるわけではありません。協議に応じたか、断る理由を示したか、その経過が残っているかが問われます。先に挙げた受諾率のとおり、受け入れに至らなかった要請も一定の割合で存在します。「検討します」で止めた要請ほど後から経過をたどれませんので、回答は書面で返してください。
改定履歴はどこまで遡って残す必要がありますか
法が求める保存期間とは別に、返還を求められた場面では取引の履歴に沿って額を確かめる作業が発生します。原状回復の対象となった下請事業者は3,026者にのぼり、一者ずつ取引を突き合わせる形になります1。「直近の価格表だけ」を残す運用では、この突き合わせに応じられません。
自ら申し出た場合の扱いはどうなりますか
親事業者からの自発的な申出は32件、これに伴う原状回復は35,328万円でした1。申し出るかどうかの判断は、返す範囲と時期を自社で確かめられるかにかかります。「気付いた時点で相談する」動きが実際にあることは、この件数から読み取れます。個別の判断は専門家へ相談してください。
下請法の対象外なら、記録は軽くても構いませんか
対象外でも、継続して取引する相手に一方的な価格を求める行為は、独占禁止法の優越的地位の濫用として扱われる場面があります。先に挙げた注意喚起の文書は、独占禁止法上の懸念がある行為を対象に送られています。「うちは対象外だから」と切り分けるほど、協議の経過を残す動きは弱くなります。
品種が多くて価格表を一つにまとめられません
品種と得意先の掛け合わせで表が膨らむ場合は、品番ごとの価格を並べるのではなく、階層と適用の開始で束ねる形へ移します。先に挙げた事例の品種数のように、紙の価格表では刷り直しが追いつかない規模もあります。「まず主力の品番から」と範囲を区切って移すやり方でも構いません。
- 1 出典:公正取引委員会「令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組」(2025年) 経路
- 2 出典:公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果について」(2025年) 経路
- 3 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Riderお役立ちコラム「BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える」」(2026年) 経路
- 4 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社)」(2026年) 経路
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