◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸価格の管理が誰の記憶に依存しているかを、価格表の所在・決め方の根拠・例外対応の三点で書き出す
- 人手が減って崩れるのは価格そのものより、例外の理由と確認の経路である
- 価格を分ける基準は、得意先の組織階層と適用条件という二つの言葉に置き換えられる
- 組織階層に応じた卸価格の切り替えは、最大5階層まで設定として持たせられる
- 切り替えた後は、変更の記録と基準との突き合わせを続けることで精度を保つ
目次

卸価格の管理は今誰の記憶に頼っているか
前任者が抜けた後の卸価格の管理は、人を増やすことではなく、価格を分ける基準を言葉にすることで回せるようになります。価格表そのものは引き継げても、その価格になった理由と例外の扱いは記憶の中に残るため、後任は一件ごとに確認を求められて止まります。逆に、得意先をどの階層で分け、どの条件でどの価格を当てるのかを文章にできれば、判断の大半は設定として持たせられます。組織階層に応じて卸価格を切り替える設定は最大5階層まで対応できるため1、得意先の本体と傘下の区分を分けて持つ形まで基準に落とせます。まず棚卸し、次に明文化、そのうえで設定化という順で進めれば、少人数の体制でも同じ精度を保てます。
価格表の所在と決め方の根拠を分けて書き出す
引き継ぎの最初にすることは、価格表そのものを探すことではなく、価格表がどこに何種類あるかを並べることです。得意先ごとのExcel、営業が持つ見積の控え、紙の稟議書、基幹システムの登録値と、同じ得意先の価格が複数の場所に散っている状態は珍しくありません。どれが正で、どれが写しなのかが決まっていないと、後任は照合のたびに前任者へ確認することになります。
次に、その価格になった根拠を、価格の隣に書き出します。取引量に応じたものか、長年の関係によるものか、競合との兼ね合いで一度だけ下げたものか。根拠の欄が空のまま残る行が、記憶に頼っている箇所です。
例外対応こそ記録に残っていない
通常の価格は表に残りますが、期間を区切った特別価格、特定の品目だけの据え置き、納入先の都合で分けた単価といった例外は、担当者の記憶とメールの往復にしか残らないことが多くあります。棚卸しの段階では、この例外を通常の価格と混ぜずに、別の一覧として抜き出しておきます。
例外の件数が通常の価格表より多い、あるいは例外の期限が誰にも分からないという状態であれば、その時点で運用は一人に依存していると判断できます。人数の問題として扱う前に、まずこの依存の範囲を見えるようにします。
依存の範囲と、人手が減ったときに崩れる箇所が見えたところで、次はその依存を減らせるかどうか、つまり価格を分ける基準を言葉にできるかを確かめます。
人手が減っても価格は正しく保てるか
引き継ぎで落ちるのは価格ではなく理由
価格表のファイルは渡せます。落ちるのは、その価格を当てる条件と、当てない場合の判断です。後任が同じ数字を使っていても、適用する相手を一段間違えれば、請求の訂正や値引きの積み増しにつながります。
前任者が在籍しているうちは、口頭の確認で穴が埋まるため問題が表に出ません。退職や異動で経路が切れた時点で、同じ質問が答えられないまま残ります。引き継ぎ期間の長さではなく、理由が文章になっているかどうかが分かれ目になります。
確認待ちが価格の回答を遅らせる
少人数の体制で起きやすいのは、誤りよりも遅れです。得意先から価格の問い合わせが入るたびに、担当者が過去の経緯を探し、判断できる人に確認を回すため、回答までの時間が伸びます。件数が少ないうちは吸収できますが、繁忙期や担当者の不在が重なると滞留します。
遅れが常態になると、現場は確認を省いて手元の数字で答えるようになり、誤った価格が新しい前例として残ります。人手不足が価格の精度を落とすのは、この経路をたどるためです。
基準を言葉にできたら、それを人の記憶ではなく仕組みの側に置き換える段に進みます。
価格を分ける基準は言葉にできているか
得意先の組織階層で分けるという考え方
基準を言葉にする際の軸は、大きく二つです。一つは誰に当てるのかという得意先の区分、もう一つはどの条件で当てるのかという適用の条件です。前者を得意先の組織階層として整理すると、本体と傘下の事業所、さらにその下の区分までを段として扱えます。組織階層に応じて卸価格を切り替える設定は、最大5階層まで対応できます1。
階層の数を先に決める必要はありません。今の得意先の中で、価格が変わる単位がどこにあるかを確かめ、必要な段だけを使います。段が足りずに例外で補っている状態か、段が多すぎて運用が追えない状態かを見分けることが目的です。
基準に載らない値引きは条件として書き出す
階層で分けきれない価格は必ず残ります。数量に応じた単価、期間を区切った特別価格、特定の品目だけの扱いなどです。これらは例外として放置せず、条件と期限を持つ規則として書き出します。
条件を書けないものが残った場合、それは基準ではなく個別の判断です。個別の判断として扱うと決めること自体も、明文化の一部になります。誰が決裁し、どこに記録するかまで書いておけば、後任が同じ判断を再現できます。
特定の人がいなくても運用できる仕組みか
基準を文章から設定へ移す
文章にした基準は、そのままでは運用の手間を減らしません。得意先の階層と適用条件を、価格を出す仕組みの側に設定として持たせて初めて、手作業の差し替えが減ります。価格の問い合わせに対して、担当者が経緯を探すのではなく、設定された条件を確認すれば答えられる状態が目標です。
移す順番は、棚卸し、明文化、設定化、定着の四段です。明文化を飛ばして設定化から入ると、前任者の記憶をそのまま写すことになり、依存の形が変わらないまま残ります。
扱う数が増えるほど記憶では追えない
品目と得意先の数が増えると、記憶で補える範囲は急速に狭くなります。産業用粘着テープ等の製造・販売を手がける日東電工CSシステム株式会社では、取り扱う品種は3,800品種にのぼり2、全国の販売加盟店は3,000社にのぼります2。この規模では、誰か一人が価格の組み合わせを覚えて捌くことは前提になりません。
自社の規模がこれより小さくても、考え方は同じです。品目数と得意先数の掛け合わせが、一人が把握できる範囲を超えているかどうかを確かめます。超えているなら、人を増やすより基準を設定に移すほうが先になります。
体制を整えた後も精度は落ちないか
変更の記録を残す
基準を設定に移した後に崩れる原因は、記録のない変更です。得意先からの要請でその場で価格を変え、設定にも文書にも反映しないまま運用が進むと、元の属人的な状態に戻ります。誰が、いつ、どの階層の価格を、どの理由で変えたのかを、一箇所に残す決まりにします。
記録の形は台帳でも構いませんが、価格を変える操作と記録を同じ流れの中に置くことが大切です。別の作業として残すと、忙しい時期に省かれます。
基準と実際の価格を定期的に突き合わせる
一定の周期で、文書にした基準と、実際に出ている価格を突き合わせます。差が出た行については、基準が実態に合っていないのか、例外が記録されずに増えたのかを切り分けます。前者なら基準を直し、後者なら記録の流れを直します。
この突き合わせは、後任が一人で回せる範囲に作業量を収めるための確認でもあります。差が増え続けるなら、階層の切り方か条件の書き方に無理があると判断できます。
ここまでで、卸価格の管理を一人の記憶から切り離すための順番が整理できました。棚卸しで依存の範囲を確かめ、得意先の階層と適用条件という二つの言葉で基準を書き、それを設定として持たせる。組織階層に応じた切り替えは最大5階層まで設定できるため1、多くの得意先構成はこの枠の中で表せます。残るのは、自社の価格表のどこから手を付けるかという判断です。

価格表の棚卸しまでは社内で進められますが、得意先の組織構成をどの段で分けるかは、実際に設定として持たせられる形を知らないまま決めると後から組み替えになります。引き継ぎの期限が迫っている段階ほど、先に枠を確かめておく価値があります。
自社の得意先構成が何段の階層で表せるか、例外として残っている価格のうちどこまでを条件として設定に移せるかを、手元の価格表をもとに確かめられます。無料相談で要件を整理する
引き継ぎ前に確かめておきたい項目
- 得意先ごとの価格表が何箇所に存在し、どれが正となる版か
- それぞれの価格が決まった根拠が、価格の隣に書かれているか
- 期間限定の特別価格が何件あり、それぞれの期限がいつまでか
- 価格を変更する際に誰の決裁が必要で、どこに記録されるか
- 得意先の本体と傘下の区分で価格が分かれている先があるか
- 価格の問い合わせに対して、前任者に確認せず回答できる割合
この並びに優劣の順序はありません。
以下は、前任者が在籍しているうちに確かめておくと、後から追えなくなりにくい項目です。順位ではなく、いずれも欠けると引き継ぎ後に確認の手戻りが生じる観点として並べています。

要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 価格を分ける単位 | 得意先の組織階層(最大5階層まで設定可能) |
| 階層で分けられない価格 | 条件と期限を持つ規則として書き出す |
| 規則にできない価格 | 個別の判断とし、決裁者と記録先を定める |
| 切り替えの順番 | 棚卸し→明文化→設定化→定着 |
| 切り替え後の維持 | 変更の記録と、基準と実価格の定期的な突き合わせ |
| 見直しの合図 | 基準と実価格の差が回を追って増えている状態 |
明文化した基準が、今の人数で維持できる作業量に収まるかどうかは、設定に移した後の運用まで見ないと判断できません。後任が一人で回す前提であれば、その前に見通しを立てておく必要があります。 現在の品目数と得意先数で、価格の維持にどれだけの確認作業が残るか、変更の記録をどの流れに組み込めるかを具体的に確かめられます。
よくある質問
価格表をExcelで管理したまま、属人化だけを解消できますか。
記録の形をExcelのままにしても、価格の根拠と適用条件を書く欄を設け、変更の記録を残す決まりにすれば、依存はある程度減らせます。ただし得意先や品目の数が増えると、条件の組み合わせを手作業で保つ負担が残ります。まず基準を書き出したうえで、手作業で追える件数かどうかを確かめてください。
得意先の組織階層は、何段まで分けられますか。
組織階層に応じて卸価格を切り替える設定は、最大5階層まで対応できます1。すべての段を使う必要はなく、自社の得意先で価格が変わる単位に合わせて必要な段だけを使います。
基準を明文化しても、例外の値引きが残ってしまいます。
例外をなくすことが目的ではありません。条件と期限を持つ規則として書けるものは規則にし、書けないものは個別の判断として、決裁者と記録先を決めておきます。個別の判断であると明示すること自体が明文化にあたります。
後任が一人でも、価格の精度は保てますか。
基準が設定として持たされており、変更の記録が残る流れになっていれば、一人でも保てます。定期的に基準と実際の価格を突き合わせ、差が増えていないかを確かめることが条件です。差が増え続ける場合は、階層の切り方か条件の書き方を見直します。
- 1 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Riderお役立ちコラム『BtoB向けECサイトで取引先ごとに卸価格を切り替える』」(2026) 経路
- 2 出典:株式会社フライトソリューションズ「EC-Rider B2B 導入事例(日東電工CSシステム株式会社様)」(2020) 経路
画像の出典元
- 30代後半の日本人男性が電話での問い合わせ対応をしている場面/画像:生成AI(自社)
- 40代前半の日本人女性が発送控えのファイリングをしている場面/画像:生成AI(自社)
- 50代前半の日本人女性が朝礼での連絡をしている場面/画像:生成AI(自社)