◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 締め請求の差異は、当月分に含める取引の線引きのズレと、消費税額の丸め方のズレという性質の違う二つの層に分かれる
- 差額が明細一行分に近く翌月に反転して消えるならタイミングのズレ、税抜が一致していて数円だけ違うなら端数処理のズレを疑う
- 下請法が適用される取引では、支払期日は受領日から起算して60日以内に定めることとされ、検査の有無は問われない
- 適格請求書の消費税額は税率ごとに1回の端数処理で計算し、商品ごとに処理した税額の合計を記載する方法は認められない
- 値引き・返品などの対価の返還等にあたる差異は適格返還請求書で訂正し、税込1万円未満なら交付義務は免除されるが、帳簿上の税額調整は残る
目次

締め請求の差異はどこで生まれるのか―受領日・検収日・税額端数のズレ
月次の締め日で集計した請求金額が、取引先の検収明細や支払通知と合わない。
数円だけ違うこともあれば、一件分がまるごと当月に入っていないこともあります。
この二つは同じ「差異」に見えて、原因の層が違います。
片方は受領から検収、締めへと進む日付のどこを起点に計上したかというタイミングのズレ、もう片方は消費税額の端数をどの単位で処理したかという計算のズレです。
差額の大きさと動き方を見れば、どちらの層で起きているかはかなり絞り込めます。
そのうえで、タイミングのズレは締め日と検収フローの設計で、端数のズレは請求書単位の税額計算をそろえることで減らせます。
それでも残った差異は、値引きや返品に当たるかどうかで、訂正に使う書類が変わります。
締め請求でまず決まるのは、金額ではなく「どの取引を当月分に含めるか」です。
一件ごとに請求書を出す運用なら、取引と請求書が一対一で結び付くので、含める・含めないという判断は生まれません。
ところが一定期間をまとめて請求すると、月末をまたぐ取引のどこに線を引くかを、受注側と発注側がそれぞれ自社の記録で判断することになります。
ここで見ている日付が違えば、差額は明細一行分まるごとの単位で現れます。
一つの取引には、出荷した日、先方に届いた受領日、先方の検収が完了した日という複数の日付が付きます。
受注側は納品を終えた時点で売上を立て、発注側は検収が済んだものだけを当月の買掛に計上する、という組み合わせは珍しくありません。
月の中旬に納品したものなら両者の判断は一致しますが、月末の二、三日に納品したものは、受注側の当月分と発注側の翌月分に分かれます。
単価も数量も正しく、締めの線だけがずれている状態です。
この線引きを考えるうえで手がかりになるのが、下請代金の支払期日の定め方です。
下請代金支払遅延等防止法では、支払期日は親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日の期間内において、かつできる限り短い期間内に定めなければならないとされています1。
起算点は受領した日であり、検査をするかどうかは問われません。
さらに、支払期日を定めなかった場合には受領日が支払期日とみなされます1。
制度上の時間の基準は、検収が終わったかどうかではなく、モノや成果物が相手に渡った日に置かれているということです。
ただしこの規定が及ぶのは、資本金の区分などの要件を満たす親事業者と下請事業者の間の、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託にあたる取引です1。
すべてのBtoBの掛け売りに一律で適用されるわけではありません。
なお、この法律は近年の改正で名称や条文の整理が行われているため、社内規程や契約書に条番号まで引用する場合は、最新の公式表記を確認してください。
適用対象外の取引であっても、受領日を基準にそろえるという考え方自体は、締め日を相手と話し合うときの共通言語になります。
もう一つの層は、まったく違う桁で起きます。
税抜の合計は一円まで一致しているのに、税込金額だけが数円合わない、という現れ方をするのが消費税額の端数処理です。
適格請求書では、一の適格請求書につき税率ごとに1回の端数処理を行う必要があり、切上げ・切捨て・四捨五入のどれを採るかは事業者の任意とされています3。
逆に、個々の商品ごとに消費税額を計算して端数処理し、その合計を請求書に記載する方法は認められていません3。
この違いは、明細が増えるほど効いてきます。
行ごとに一円未満を切り捨てていけば、切り捨てた端数が行数分だけ積み上がり、請求書単位で一度だけ計算した税額との間に差が残ります。
締め請求は一枚に何十行も載ることがあるので、取引の中身はすべて正しいのに税額欄だけが合わない、という状況が生まれます。
整理すると、締め請求の差異は「どの取引を当月に含めたか」というタイミングの層と、「税額をどの単位で丸めたか」という計算の層に分かれます。
原因の層が違えば、直す場所も違います。
前者は締め日と業務の流れを動かす話、後者は請求書の作り方を直す話です。
では、いま手元にある差額がどちらの層のものかは、どう見分ければよいのでしょうか。
自社の差異がどちらの原因か切り分ける方法
計上タイミングのズレを疑うサイン
差異を見つけたとき、最初にやることは原因の推測ではなく、差額そのものの形を見ることです。
差額が数千円、数万円といったまとまった金額で、しかも自社の明細のどれか一行と同じ金額になっているなら、計上タイミングのズレを疑う場面です。
一行がそっくり相手の当月集計に入っていない、あるいは自社が翌月に回した一行が相手の当月に入っている、という形だからです。
見分けやすいのは、翌月に反転して消えるかどうかです。
当月に不足していた分が翌月の相手側集計に現れて帳尻が合うなら、金額の認識ではなく線引きが違うだけだと分かります。
逆に、翌月になっても現れないなら、受領そのものが記録されていない、相手が返品や値引きとして処理している、といった別の話に移ります。
次に、差額に一致した取引について、出荷日・受領日・検収完了日・自社の計上日を一列に並べます。
該当する取引が月末の数日に固まっているなら、締めの線が業務の実態より前か後ろにずれています。
検収完了日だけが翌月に入っているなら、検収の完了を待って計上する運用が原因です。
支払期日の起算点が受領日に置かれている1ことを踏まえると、検収待ちで計上を遅らせる運用は、相手の支払管理とも噛み合いにくくなります。
この切り分けは、受領日と検収完了日を取引ごとに後から引ける状態にあって初めて成り立ちます。
納品書の控えしか残っておらず、相手がいつ受け取っていつ検収したかを自社の台帳で追えない場合は、差額の形を見ても原因までは絞れません。
そのときは、まず数件の取引について相手に受領と検収の記録を照会し、記録の持ち方そのものを直すところから始めることになります。
税額端数のズレを疑うサイン
差額が数円から十数円にとどまり、明細の行数が多い請求書ほど大きくなるなら、端数処理の違いです。
決め手になるのは、税抜の合計が一致しているかどうかです。
税抜が合っていて税込だけが違うなら、単価も数量も認識は一致していて、丸め方だけが分かれています。
自社の請求書がどちらの作り方になっているかは、明細行の税額欄を見れば分かります。
行ごとに税額が入っていて、その合計が請求書の消費税額欄とぴったり一致しているなら、行単位で端数処理をしている作りである可能性が高くなります。
適格請求書として求められるのは税率ごとに1回の端数処理であり3、個々の商品ごとに処理した税額の合計を記載する方法は認められません3。
ここは取引先との合意以前に、請求書の記載ルールとして直すべき箇所です。
軽減税率の対象品目を扱っている場合は、税率ごとに分けて考えます。
10%対象の合計と8%対象の合計をそれぞれ出し、それぞれに一度ずつ端数処理をする形になります3。
混在する請求書で税率をまたいで一度だけ処理してしまうと、これもまた数円単位の差になります。
発注側の支払通知が、自社と違う丸め方で作られていることもあります。
処理方法そのものは任意とされている3ため、どちらかが誤りとは限りません。
この場合に必要なのは正誤の判定ではなく、請求書に記載された税額を正とするかどうかを、あらかじめ取り決めておくことです。
差額の形から層が特定できたら、次はその層に効く手当てを選ぶ段になります。
原因別の対処法―運用改善かシステム連携か
運用改善で対応できる原因
計上タイミングのズレは、システムを入れ替えなくても、締め日と検収の運用を動かせば小さくできます。
やることは、社内の計上を何の日付で行うかを一つに決め、その日付が相手の記録と同じものを指しているかを確かめることです。
受注側の「納品した日」と発注側の「受け取った日」が一日ずれているだけでも、月末の取引では締めが分かれます。
納品書の控えに相手の受領印と受領日が入っているなら、それを計上日の根拠に使えます。
検収完了の連絡を待って計上している場合は、検収に何日かかるかを取引先ごとに把握したうえで、締め日をその手前に置くか、受領日基準へ切り替えるかを選びます。
支払期日が受領日から起算して定められる取引1では、受領日基準にそろえたほうが、請求と入金の対応も追いやすくなります。
端数処理も運用改善の範囲です。
請求書単位・税率ごとに1回という計算に直し3、丸め方を社内で統一するところまでは、自社の判断だけで進められます。
ここまでで減るのは、月次で数円を追いかける照会と、明細一行分の計上漏れを探す作業です。
システム連携で対応できる原因
一方で、運用を整えても手作業が残る種類のズレがあります。
相手から届いた受領明細を表計算ソフトに打ち直して自社の売上データと並べる、返品の連絡をメールで受けて台帳に手入力する、といった転記が挟まる箇所です。
ここでのズレは締め日の設計とは関係なく、写し間違いと写し忘れから生まれます。
こうした転記を減らす仕組みとして標準化されているのが、業界団体が策定した電子データ交換の共通仕様です。
流通BMSは、発注、出荷、受領、返品、請求、支払の6業務を対象に2、取引先ごとに異なるデータ形式を個別に開発・保守しなくても、共通仕様で複数の取引先と電子商取引を処理できるようにするものです2。
受領と返品が請求と同じ仕組みの上に乗るので、請求書を作る前の段階で、相手の記録と自社の記録を突き合わせられます。
ただし、この標準はスーパー業界・グロサリー業界の基本的な取引形態を主な対象として策定されたものです2。
別の業種で同じように機能するかは、業界の慣行と取引先の対応状況によります。
また、電子データ交換は自社だけ導入しても成立せず、相手も同じ方式でデータを出せることが前提になります。
取引先が数社で、月の明細も数十行という規模なら、運用改善のほうが先に効く場面もあります。
データが自動で届くことと、照合が自動で終わることも別の話です。
受領数量と請求数量が一致しない件を仕組みが拾い上げることはできますが、なぜ一致しないのか、返品なのか誤配なのかを決めるのは人の確認です。
連携で減るのは転記と突合の手数であり、判断そのものは残ります。

差異を防ぐ締め請求の運用設計
ここまでは、起きてしまった差異をどう読むかの話でした。
設計の側から見ると、決めておくことはそれほど多くありません。
基準になる日付、締めの線、端数の丸め方、そして月末近くの取引の扱いです。
基準日については、取引基本契約などの書面で起算点を明示しておくのが要になります。
支払期日を定めなかった場合に受領日が支払期日とみなされる1という規定は、裏を返せば、決めておかなければ受領日が基準になるということです。
締め日と支払サイトを書面に残すとき、その締め日が受領日で判定されるのか検収完了日で判定されるのかまで書いておくと、月末の取引で解釈が分かれません。
毎月の照合で読み合わせるのは、この一行があるかどうかで大きく変わります。
検収に時間がかかる取引先とは、締めの線をどこに置くかを個別に決めます。
受領から検収完了まで一週間かかる相手に対して、月末締めの受領日基準で請求を出せば、月末近くの分は相手の当月集計には入りません。
この場合は、相手の検収サイクルに合わせて締め日を数日前倒しするか、受領日基準で請求したうえで検収が翌月になる分を相手が翌月に計上することを事前に合意しておくか、どちらかになります。
どちらを選んでも差異が消えるわけではありませんが、毎月同じ場所に同じ理由で出る差異なら、原因を調べる時間はほとんどかかりません。
端数処理は、一度決めれば毎月の判断がなくなる部分です。
税率ごとに1回という計算3を請求書の作り方に反映し、丸め方を取引先と共有しておきます。
相手の支払通知が別の丸め方であっても、どちらの数字を正とするかを決めてあれば、毎月数円の照会をしなくて済みます。
設計を整えても、納期の変更、緊急の返品、月末の追加発注といった例外は残ります。
運用の目的は差異をゼロにすることではなく、差異が出たときに原因を一目で言えるようにしておくことです。
受領日と検収完了日が記録されていて、端数のルールが決まっていれば、月次の照合で確かめる対象は例外だけに絞られます。
差異が発生した場合の訂正・合意形成の手順
少額な差異(税込1万円未満)の場合
差異の内容が固まったら、次は訂正の形を選びます。
ここで最初に確かめるのは金額の大小ではなく、その差異が値引き・返品・割戻しといった「対価の返還等」に当たるのか、それとも単純な転記ミスや計上漏れなのかという性質です。
性質が違えば、交付する書類も帳簿の処理も変わります。
値引きや返品にあたる場合、売上げに係る対価の返還等を行った適格請求書発行事業者には、その返還等を受ける事業者に対して適格返還請求書を交付する義務があります4。
ただし、その売上げに係る対価の返還等の金額が税込1万円未満である場合など一定の場合には、その義務は免除されます4。
締め請求で出る数百円の値引きや、送料調整の端数のような少額なものは、この免除に当たる範囲に収まることが多くなります。
交付義務が免除されることと、税額の調整が不要になることは別です。
対価の返還等に係る消費税額は、課税標準額に対する消費税額から控除して調整する4という扱いは変わりません。
書類を出さない場合でも、自社の帳簿では返還等として記録し、いつ、どの取引について、いくらの調整をしたのかが後から追える形で残しておくことになります。
一方、差額が値引きでも返品でもなく、単価を入力し間違えた、一行を二重に計上した、という誤りであれば、これは対価の返還等ではありません。
この場合はもとの請求書の内容そのものが誤っていたことになるので、正しい内容の請求書を出し直す方向で整理します。
同じ「数千円の差異」でも、相手の仕入税額控除の扱いに関わる部分なので、どちらとして処理するかは相手と認識を合わせてから決めるほうが安全です。
適格返還請求書が必要な場合
対価の返還等にあたり、金額が税込1万円以上であれば、適格返還請求書の交付が必要になります4。
これは適格請求書発行事業者の間の取引についての扱いです4。
翌月の締め請求書に返還の内容を併記する形で対応する運用もありますが、その場合も、返還等の対象になった取引がいつのものかが分かる形で記載することになります。
相手との話の進め方は、金額の差を伝えるところから始めないほうが早く終わります。
「請求額と支払通知が三万二千円違う」とだけ伝えれば、相手は自分の集計を一から見直すことになります。
差額に一致する取引を先に特定し、伝票番号、受領日、検収完了日、金額を並べて示せば、相手は自社の記録の同じ行を開くだけで済みます。
切り分けの手順をこちらで踏んでおくことが、そのまま合意までの時間を縮めます。
そのうえで、どちらの締めに乗せるかを決めます。
受領日で判定するのか検収完了日で判定するのかは、ここで初めて相手と正面から話す論点になります。
支払期日の起算点が受領日に置かれる取引1であることは、この話し合いで基準を選ぶときの根拠の一つになります。
結論が出たら、その月の処理だけで終わらせず、基準日の取り決めとして契約書か覚書に残しておきます。
毎月のように同じ相手と同じ種類の差異が出ているなら、訂正の手順を磨くより、締め日か記録の持ち方を変えたほうが早く収まります。
訂正は、例外が起きたときの手当てとして使うものです。
層の見分けと訂正の形まで決まったら、残るのは、自社が運用の整備とデータ連携のどちらから着手するかという選択です。
差異の層が分かっても、受領日や検収完了日を取引ごとに引ける形で持てているかは、いまの受注・請求の仕組みの作りによって変わります。
手元のデータでどこまで切り分けられるか、締め日を動かしたときに影響が出る範囲はどこかを、実際の運用に当てはめて確かめられます。無料相談で要件を整理する
差異の起点になりうる記録と、そこで確かめること
締め請求の集計で、当月分に含める金額の判定に関わる記録という共通点で挙げています。
- 受領日―相手がモノや成果物を受け取った日。支払期日の起算点になるため、自社の計上日と離れていないかを見る
- 検収完了日―相手の検査が終わった日。自社の計上をここに合わせている場合、締めがずれる原因になりやすい
- 自社の計上日―売上をどの日付で立てているか。取引先ごとにばらついていないかを確かめる
- 締め日―当月分に含める線。相手の検収サイクルの手前にあるか後ろにあるかで、月末の取引の行き先が変わる
- 税率ごとの税額―請求書単位で一度だけ端数処理しているか、明細行ごとに丸めた合計になっていないか
差額が明細一行分に近いときは上の四つの日付から、数円単位のときは最後の税額の項目から確かめると早く絞り込めます。

対処の型別に見る進め方―運用改善型とシステム連携型
| 型 | 有効な場面 | 前提になる条件 |
|---|---|---|
| 運用改善型(締め日・検収フローの整備) | 毎月同じ取引先で、月末数日の取引が当月分と翌月分に分かれている | 受領日を取引ごとに記録でき、検収完了を待たずに計上できる体制があること |
| システム連携型(電子データ交換の標準仕様の利用) | 受領明細や返品連絡の転記が手作業で、取引先ごとに様式が異なる | 取引先も同じ方式でデータを出せること。業種と取引形態が標準の想定に合うこと |
運用改善型―どこから手を付け、どこで限界が来るか
着手する順番―記録の確認から締め日の変更へ
運用改善を締め日の変更から始めると、たいてい途中で止まります。
締め日を動かせば請求の対象範囲が変わり、支払サイトも動くので、取引先との合意と社内の売上計上の切り替えが同時に必要になるからです。
先に済ませておくのは、いまの記録で受領日を取引ごとに引けるかどうかの確認です。
一か月分の請求について、明細一行ずつに受領日と検収完了日を付けられるかを試してみると、自社の記録の穴が見えます。
受領印のある納品書控えが数件だけ欠けているのか、そもそも受領日という欄が台帳にないのかで、次の手はまったく違います。
欄がないなら、締め日を動かす前に記録の項目を増やすほうが先です。
ここを飛ばして締め日だけ変えると、差異が出たときに原因を追う材料が以前のまま残ります。
記録がそろったら、いまの締め日で当月分に入る取引と、受領日基準にしたときに入る取引を並べて差を出します。
差が数件なら、締め日の変更より、その数件の扱いを取引先と取り決めるほうが影響は小さく済みます。
差が毎月十数件に及ぶなら、締め日そのものを相手の検収サイクルに寄せる話になります。
変更を相手に伝えるときは、最初の一か月だけ請求対象の期間が長くなる、あるいは短くなることも合わせて共有しておきます。
この型で収まらないときの見極め
運用改善で収まるのは、判定の基準を決めれば答えが一つに定まる種類のズレです。
受領日で判定すると決めたのに、その受領日を自社の担当者が相手からのメールを見て一件ずつ台帳に打ち込んでいるなら、基準を決めても写し間違いは残ります。
差異の原因が判定基準ではなく入力の手数にあるときが、この型の限界です。
見極めの目安になるのは、月次で何件を人が転記しているかです。
取引先が数社で、受領明細も月に数十行なら、転記の量そのものが少ないので、チェックの手順を決めるだけで十分に収まります。
取引先ごとに様式の違う受領データが毎日届き、それを締めまでに全件突き合わせているという状態なら、運用の工夫では吸収しきれません。
もう一つの目安が、例外の頻度です。
月末の追加発注や当日返品が毎月何件も発生する取引では、締めの線をどこに引いても、その時点で確定していない取引が残ります。
この場合に必要なのは、線の引き直しではなく、確定していない取引を請求前に相手と確認できる経路です。
システム連携型―負担の所在を見てから導入を判断する
個別対応の負担はどこで積み上がるか
取引先ごとのデータ形式に個別に合わせる作業は、一社ごとに見れば大した量ではありません。
負担が重くなるのは、それが取引先の数だけ並び、しかも様式の変更があるたびに保守が発生するからです。
流通BMSのような共通仕様は、この個別の開発と保守を不要にし、一つの仕様で複数の取引先とやり取りできるようにするものとして策定されています2。
締め請求の差異という観点で効いてくるのは、対象業務の範囲です。
この標準が対象としているのは、発注、出荷、受領、返品、請求、支払の6業務です2。
受領と返品が請求と同じ経路に乗ることで、相手が何を受け取り、何を返したかを、請求書を作る前に自社のデータとして持てます。
差異が起きてから照会するのではなく、請求前に数量と金額を突き合わせられる点が、訂正の手数を減らします。
逆に、発注と出荷だけを電子化していて、受領と返品は紙やメールのまま、という状態では、継ぎ目の部分に転記が残ります。
締め請求の差異が受領数量の食い違いから来ているなら、電子化されているのが前工程だけでは効きません。
どの業務の受け渡しを手で行っているかを先に洗い出すと、連携の対象をどこまで広げる必要があるかが決まります。
導入の前に確かめること
最初に確かめるのは、取引先が同じ方式でデータを出せるかどうかです。
電子データ交換は片側だけでは成立しないので、自社が対応しても、相手が従来どおり紙の受領明細を送ってくるなら、その取引先については転記が残ります。
主要な取引先の対応状況を確認したうえで、対応している相手から順に切り替え、残りは運用改善で受けるという分け方が現実的です。
業種の適合も見ておく必要があります。
この標準は、スーパー業界・グロサリー業界の基本的な取引形態を主な対象として策定されたものです2。
別の業種で同じ仕様がそのまま使えるかは、取引の流れと相手の対応によって変わるので、自社の取引形態に当てはまるかを個別に確かめることになります。
市場全体でどれだけ使われているかという話とは切り離して、自分の取引先との間で成立するかどうかで判断してください。
導入したあとに何が残るかも、あらかじめ見ておくと期待値がずれません。
受領数量と請求数量の不一致は仕組みが検出できますが、その原因が返品なのか、納品先の取り違えなのか、検収基準の違いなのかを決めるのは人の確認です。
減るのは打ち込みと目視の突合であり、相手との合意が必要な判断は同じだけ残ります。
その判断を早く済ませるために、受領日と検収完了日がデータとして手元にある状態をつくる、というのが連携の実際の効き目です。

要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 差額の形 | 明細一行分に近いか、数円単位で行数に比例するか |
| タイミングのズレの判定 | 受領日・検収完了日・自社の計上日を並べて、どこで分かれたかを見る |
| 税額のズレの判定 | 税抜合計が一致しているか、請求書単位・税率ごとに1回の端数処理になっているか |
| 防ぐ設計 | 締め日を受領日で判定するか検収完了日で判定するかを書面に明記する |
| 訂正の分岐 | 対価の返還等か記載の誤りか、対価の返還等なら税込1万円未満かどうか |
運用の整備で足りるのか、受領と返品のデータ連携まで踏み込む必要があるのかは、取引先の数と明細の量、例外の頻度で変わります。 いま人が転記している箇所と取引の規模を照らし合わせて、どちらから着手すると照合の手数が減るのかを整理できます。
よくある質問
検収がまだ終わっていない取引を締め請求に含めてもよいですか
自社の売上計上基準と、取引先との取り決め次第です。
下請法が適用される取引では、支払期日は受領日から起算して60日以内に定めることとされ、検査の有無は問われません1。
制度の考え方としては、受領が済んでいれば請求の前提は整っていることになります。
ただし、相手が検収完了を基準に買掛を計上していれば、その分は相手の当月集計に入らず差異として現れます。
含めるかどうかを都度悩むより、どちらの日付で当月分を判定するかを先に合意しておくほうが、毎月の照合は軽くなります。
取引先ごとに端数処理の方法(四捨五入・切り捨てなど)が違う場合、どちらに合わせればよいですか
処理方法を切上げ・切捨て・四捨五入のどれにするかは任意とされている3ため、方法が違うというだけではどちらかが誤りとは限りません。
ただし、処理する単位は共通のルールです。
一の適格請求書につき税率ごとに1回の端数処理を行う必要があり3、個々の商品ごとに計算して端数処理した税額の合計を請求書に記載する方法は認められません3。
まず自社の請求書がこの単位になっているかを直し、そのうえで丸め方の違いによる数円の差については、請求書に記載した税額を正とするかどうかを取引先と取り決めておきます。
税込1万円未満の少額な差異は、訂正の書類を出さなくてよいのですか
その差異が値引き・返品・割戻しなど「対価の返還等」に当たり、金額が税込1万円未満である場合など一定の場合には、適格返還請求書の交付義務は免除されます4。
免除されるのは交付の義務であって、税額の処理まで不要になるわけではありません。
対価の返還等に係る消費税額は、課税標準額に対する消費税額から控除して調整します4ので、帳簿には対象の取引と金額を記録しておきます。
なお、単なる転記ミスや計上の誤りは対価の返還等ではないため、この免除の話とは別に、請求内容そのものを正す扱いになります。
下請法の対象にならない取引先との締め請求にも、受領日基準の考え方は参考になりますか
法的な義務としては及びません。
受領日を起算点とする支払期日の規定は、資本金の区分などの要件を満たす親事業者と下請事業者の間の、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託が対象です1。
ただし、支払期日を定めなかった場合には受領日が支払期日とみなされる1という考え方は、締め日の解釈が分かれたときに、どちらの日付を基準に話すかを決める材料になります。
対象外の取引では契約で自由に取り決められる分、書面に基準日を明記しておかないと解釈が分かれやすい、とも言えます。
- 1 出典:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」(2026年)
- 2 出典:一般財団法人流通システム開発センター(流通BMS協議会)「流通BMS標準仕様」(2007年)
- 3 出典:国税庁「タックスアンサー No.6371 端数計算」(2025年)
- 4 出典:国税庁「タックスアンサー No.6359 値引き、返品、割戻しなどを行った場合の税額の調整(売上げに係る対価の返還等)」(2023年)
画像の出典元
- Teenage student concentrating in computer lab using a deskto/Photo by Elements Interactive on Pexels