◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 受発注は相手の手順まで同時に変わるため、一度に切り替える方式より、範囲を区切る段階移行や新旧を重ねる並行運用が出発点になる
- 最初の段階は、取引先の合意がなくても変えられる自社の工程に置くと、次の取引先への説得材料と手順書が手元に残る
- 優先順位の軸は取引量・対応のしやすさ・自社の準備状況で、どれを選ぶかによって最初に出てくる成果が変わるため、社内では選んだ軸を先に共有しておく
- 旧来の経路は入口だけ残し、登録後の処理を新しい側へ一本化すると、見に行く場所が増え続ける状態を避けられる
- 次の段階へ進む判断は、旧来の経路に戻った件数や問い合わせの中身を、誰がいつ見て決めるかを先に決めておく
目次

なぜ一括移行ではなく段階的な移行が必要なのか
取引先ごとにFAXと電話とメールが入り混じったまま、来月から全部オンラインに切り替えます、と決めてしまうと、初日から注文の取りこぼしと問い合わせ対応に追われることになります。
ここで自分たちが決められるのは、移行するかどうかではなく、どこから手を付けてどの順で広げるかという範囲の区切り方です。
システム移行には、稼働を止めて一度に切り替える一斉移行のほかに、業務や拠点ごとに区切って進める段階移行、新旧を並行して動かしてから旧を止める並行運用があります3。
注文を一日止められない受発注では、自社だけで判断できる範囲から始め、新しい流れで問題が起きないと確認できてから取引先へ広げる順序が現実的です。
受発注の移行が社内システムの入れ替えと違うのは、切り替えの影響が自社の中で完結しないところです。
会計ソフトを入れ替えるなら、操作を覚え直すのは自社の担当者だけで済みます。
一方で受発注には、注文書を送る相手と、注文を受けて納期を返す相手がいて、その人たちの手順まで同時に変わります。
全取引先へ同じ日から新しい方法でお願いします、と通知することはできても、相手がその日までに社内の段取りを組み替えてくれるかどうかは、こちらでは決められません。
システム移行の進め方は、大きく三つに分けて整理されています。
現行システムを止めて一度に切り替える一斉移行、業務内容や機能、拠点ごとに範囲を分けて順に進める段階移行、新旧を並行して稼働させ、新しい側に問題がないと判断できた時点で旧を停止する並行運用です3。
これは基幹システム全般の移行についての分類で、受発注業務に限った話ではありません。
ただ、注文が一日止まることが取引の停止に直結する業務では、切り替えの瞬間にすべてが入れ替わる一斉移行は選びにくく、残る二つ、あるいはその組み合わせが検討の出発点になります。
もう一つ、最初から完成形を決めきれない事情があります。
中小企業では2018年時点で、電子文書での商取引や受発注情報管理を導入していた割合が18.5%と、2割を下回っていました1。
この数字は導入率であって移行の進め方を示すものではありませんが、社内にも取引先にも経験者が少ない状態で計画を立てることになる、という前提は読み取れます。
段階を区切るのは慎重さの問題ではなく、机の上では分からないことを、実際に動かして確かめるための時間をつくるためです。
たとえば四十社の取引先に対して、同じ月初から新しい発注画面へ一斉に切り替えたとします。
初日に届くのは注文そのものよりも、ログインできない、いつも書いている品番の欄が見当たらない、箱単位で発注していたのに入力単位が違う、といった問い合わせです。
担当者はその対応に時間を取られ、急ぎの注文は結局電話で聞き取って自分たちで入力することになります。
そうなると、旧来の方法が非公式に復活したうえで、新しい画面の説明という仕事だけが増えた状態になります。
範囲を区切って進めれば、同じ問い合わせが一社目で出た時点で手順書に反映でき、二社目以降の説明が短くなります。
切り替えの失敗が全取引に波及しないことと、最初の数社で得たことを次に使えることが、段階を踏む実質的な利点です。
移行の優先順位はどんな基準で決めるべきか
では、どこで区切るかをどう決めるか。
実務で突き当たる見方は、おおむね三つに集約されます。
取引量の多い相手から進めるか、対応しやすい相手から進めるか、自社の準備が整った業務から進めるかです。
どれを選んでも移行自体は前に進みますが、最初の段階で手元に残るものと、そのとき抱えるリスクが変わります。
ここから先は、移行方式の考え方に自社の取引構造を当てはめて整理したものです。
業種や取引先の数によって答えは変わるので、どれが正しいかではなく、その軸を選ぶと何が起きるかという形で読んでください。
取引量・頻度が多い取引先を優先する場合
月に何百件と注文が届く相手を先に移すと、社内の作業量の変化は早く見えます。
件数の多い相手の分だけ手入力と転記が減るので、移行に取り組んだ成果を社内に説明しやすくなります。
一方で、取引量が多いということは、うまくいかなかったときの影響も大きいということです。
主力の取引先が最初の確認役になる形になり、入力単位の食い違いや締め時間のずれが、そのまま出荷の遅れとして表に出ます。
この軸を採るなら、後述する旧来の経路との併存を先に用意し、何かあればその日のうちに元のやり方へ戻せる状態をつくってから切り替えるのが前提になります。
また、件数の多い相手ほど、自社側の受け皿の粗さが早く露見します。
これは欠点であると同時に、直すべき点が短期間で出そろうという意味でもあります。
システム対応のしやすさで選ぶ場合
相手がすでに何らかの受発注システムを使っている、あるいはCSVファイルでの受け渡しに慣れている場合、移行の手数は少なく済みます。
逆に、注文書を手書きしてFAXで流している相手には、画面の開き方から説明することになります。
やりやすい相手から進めると、最初の段階で手順書と想定問答が整い、次の相手への説明時間が短くなります。
ただし、対応しやすい相手は件数が少ないことも多く、社内の作業時間はあまり変わりません。
この軸は効果ではなく学習を優先する選び方だと理解しておくと、進捗報告のときに成果が出ていないという誤解を招かずに済みます。
社内で説明するときは、最初の数社は手順を固めるための段階であり、作業時間の変化は次の段階で見る、と先に言っておくのが無難です。
自社の準備状況を基準にする場合
三つ目は、取引先ではなく業務の側で区切る見方です。
注文を受け取る、内容を登録する、在庫を引き当てる、出荷を指示する、請求へ回す。
この流れのうち、取引先の同意がなくても自社の判断だけで変えられる工程があります。
段階移行が業務内容や機能、拠点ごとに範囲を分けて進める方式として整理されている3のは、こうした区切り方が想定されているからです。
相手との調整を待つ間も自社側の準備は進められるので、移行の日程が取引先の都合だけで決まってしまう状態を避けられます。
この軸の弱点は、外から見て進んでいるように見えないことです。
取引先への案内がまだ一通も出ていない時期が続くため、社内では何をしているのか分かりにくくなります。
何が終わったら取引先への案内に進むのか、区切りを先に決めておくと説明しやすくなります。
最初の段階では何を対象にすべきか
三つの軸を踏まえると、最初の段階に置きやすいのは、取引先の合意がなくても変えられる自社側の工程です。
注文の届く経路はしばらく変えず、届いた後の処理を新しい仕組みへ寄せる、という順番になります。
具体的には、FAXで届いた注文をこれまで基幹システムの画面へ手入力していたとして、その入力先を新しい受発注の画面に変えます。
受け取り方は今までどおりでも、登録してからの在庫引き当てと出荷指示は新しい側の流れに乗ります。
この時点で減る作業はまだ多くありませんが、自社の担当者が新しい画面に慣れ、品番や単位の設定の不備が見つかります。
この順番を勧める理由は、逆の順番で起きることを考えると分かります。
自社の受け皿が整わないうちに取引先へオンラインでの送信をお願いすると、送られてきたデータを結局は印刷して手入力する、という状態になります。
相手には新しい操作を覚える手間だけが増え、こちらの処理は何も速くなりません。
一社目でそれが起きると、その取引先に二度目の依頼をするのは難しくなりますし、業界内で話が伝わることもあります。
最初の段階では、効果の見積もり方も決めておきたいところです。
中小企業共通EDIの実証事業では、参加した12のプロジェクトで業務時間が平均51.4%削減されたという結果が示されています1。
ただしこれは実証事業の平均で、どの業務のどの作業が対象だったかまでは特定されていないため、自社のすべての工程に同じ率が当てはまると考えることはできません。
自社で判断材料にするなら、移行前の段階で、一件あたりの入力にかかる時間と月の件数を実際に計っておくことです。
移行後に計り直せば比較できますが、移行前に記録がなければ、変化を語る根拠が残りません。
第二段階として取引先を選ぶときは、前の節の三つの軸のうち、自社が説明できる軸を一つ選んでおきます。
なぜこの会社を先にしたのかを聞かれたときに、件数が多いから、あるいは既にデータでやり取りしているから、と答えられる状態にしておくと、後回しになった取引先への説明も揃います。
旧来の方法(電話・FAX等)とはどの範囲・期間で併存させるべきか
並行運用は、新旧を同時に動かしたうえで、新しい側に問題がないと判断できたタイミングで旧を停止する方式として説明されています3。
受発注の場合、並行するのはシステムそのものというより、注文が入ってくる経路です。
新しい画面を開けている間も、FAXと電話は鳴り続けます。
併存が避けられないのは、相手の事情がこちらの計画とは別に動いているからです。
2019年に公開された調査をもとにした報道では、日本の中小企業の7〜8割が受発注をファクスでやり取りしているとされていました2。
これは2019年時点の数字で、現在の割合をそのまま表すものではありませんが、FAXでの受発注が長く前提になってきたことは読み取れます。
取引先の中に、送信の手段を変えるには社内の承認が要る会社や、担当者が一人で全部を回している会社があるのは、例外ではなく普通のことです。
問題は、併存を無期限に続けると確認の手間が増えることです。
注文がどちらの経路から来ても取りこぼせないので、担当者は新しい画面と受信トレイとFAXの受信簿を全部見ることになります。
締め時間の直前に届いた一枚を見落とせば、オンライン化する前より状況は悪くなります。
併存は移行のための一時的な状態であって、落ち着いた形ではありません。
そこで、併存させる範囲を入口だけに絞る考え方があります。
FAXや電話で届いた注文は、受けた担当者がその場で新しい画面へ登録し、そこから先は他の注文とまったく同じ流れに乗せます。
入口は二つあっても、在庫の引き当てと出荷指示と進捗の確認は一つの画面で済むので、見に行く場所が増え続けることを防げます。
この形にしておくと、後から取引先が自分で入力するようになったとき、社内の手順は変えずに入口だけが切り替わります。
期間については、全社一律の期限を置くより、取引先ごとに合意した期限を持つほうが現実的です。
相手の側にも、期のはじめ、棚卸の後、担当者の交代といった動かしやすい時期があります。
いつまでに切り替えたいかをこちらから一方的に決めるのではなく、その相手が動ける時期を聞いたうえで、その日以降は新しい経路でお願いします、と一社ずつ決めていきます。
何か月が適切かを示せる資料はありません。
ただ、期限を決めずに始めると、併存は例外なく長引きます。
期限を置く目的は相手を急かすことではなく、いつまで二つの経路を見る体制を維持するのかを、自社の側で確定させることにあります。
次の段階に進んでよいと判断する基準は何か

並行運用では、採用したシステムに問題がないと判断できたタイミングで旧システムを停止するとされています3。
裏を返せば、問題がないという判断を誰かが下さないかぎり、旧来の経路は残り続けます。
日々の業務が回っていると、この判断は後回しになりがちです。
では、何をもって問題がないとするか。
公的な資料で示された数値基準は見当たらないため、ここでは確認の手がかりとして挙げられるものを並べます。
新しい経路で受けた注文のうち、旧来のやり方に戻して処理したものがどれだけあったか。
受けた内容の訂正や差し戻しが、移行前と比べて増えていないか。
締め時間に間に合わなかった注文がなかったか。
取引先から来る連絡の中身が、操作が分からないという問い合わせから、納期や数量の相談という通常の業務連絡に戻っているか。
このうち一つでも引っかかるなら、対象を広げるより先にそこを直したほうが結果的に早く進みます。
最初の取引先で残した課題は、次の取引先でもほぼ同じ形で出るからです。
時期の取り方にも注意がいります。
受発注には月末の締めや期初の集中のような波があり、平常時だけを見て問題なしと判断すると、忙しい時期に崩れます。
繁忙の山を一度越えて、そのときの処理が新しい経路で回ったかどうかまで見てから次へ進むと、判断の確かさが変わります。
もう一つ決めておきたいのは、判断する場です。
誰が、いつ、何を持ち寄って決めるのか。
月に一度、受注担当と出荷担当と情報システムの担当が、旧来の経路に戻った件数と問い合わせの内容を持ち寄って話す、という程度の形でも構いません。
場がないと、判断そのものが誰の仕事でもなくなります。
次の段階へ進むときには、前の段階で作ったものをそのまま持っていきます。
手順書、問い合わせの多かった箇所とその回答、旧来の経路に戻った理由の記録です。
二社目、三社目への説明は、この三つがあるかないかで所要時間が変わります。
段階を区切る価値は、リスクを小さくすることだけでなく、こうした資産が段階ごとに積み上がることにもあります。
最後に、着手前に手元に揃えておくと判断が早くなる情報を整理します。

最初の段階に置ける範囲は、注文を受けてから出荷を指示するまでのどこで転記が起きているかによって変わり、日常的に処理している側からは切り分けが見えにくくなりがちです。
現在の受け取り方と社内の転記箇所を書き出したうえで、取引先の合意がなくても変えられる工程はどこまでか、合意が要る工程との境目を一緒に確認できます。無料相談で要件を整理する
着手範囲を決める前に書き出しておく情報
自社だけで確認できる情報を先に、取引先に聞かないと分からない情報を後に置いて並べています。
- 取引先ごとの現在の受発注方法(FAX・電話・メール・既存システム)
- 注文を受けてから出荷指示までに社内で転記している箇所と、その所要時間
- 取引先ごとの月あたり注文件数と、注文が集中する時期
- 締め時間と、締めに間に合わなかったときの現在の取り扱い
- 取引先側で実際に操作する人と、自社側で問い合わせを受ける人
- 旧来の経路に戻す場合の連絡先と手順
取引先が数社で日常的に連絡が取れる場合は、先に相手の動ける時期を聞いてから社内の整理に入っても構いません。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 移行方式の選び方 | 注文を止められない受発注では、範囲を区切る段階移行か、新旧を重ねる並行運用を出発点にする |
| 最初の段階の対象 | 取引先の合意がなくても変えられる自社側の工程から着手する |
| 優先順位の軸 | 取引量・対応のしやすさ・自社の準備状況のどれを採るかで、最初に得られるものが変わる |
| 旧来方式の併存範囲 | 入口だけ二つ残し、登録後の処理は新しい側へ一本化する |
| 併存の期限 | 全社一律ではなく、取引先ごとに動ける時期を聞いて個別に合意する |
| 次段階への判断 | 旧経路に戻った件数と問い合わせの内容を、誰がいつ見て決めるか先に決めておく |

併存の範囲と期限、旧来の経路を閉じる判断は、取引先ごとの事情と自社の繁忙期の両方が絡むため、社内だけでは時期を決めきれないことがあります。 取引先ごとの移行時期の置き方と、旧来の経路に戻った場合の扱いを含めて、段階の区切り方と次へ進む判断の材料を整理できます。
よくある質問
取引先が全社分オンライン対応できない場合はどうすればよいか
対応できない取引先を残したまま移行を進めて差し支えありません。
並行運用は、新しい側に問題がないと判断できるまで旧来の側を残す方式として整理されています3ので、相手ごとに移行の時期が違うこと自体は想定の範囲です。
実務上は、FAXや電話で届いた注文を自社側で新しい画面へ登録し、その後の処理は全件同じ流れに乗せる形にしておくと、見に行く場所が増えずに済みます。
そのうえで、対応できない理由が設備なのか、社内の承認なのか、担当者の人手なのかを一社ずつ聞いておくと、次に相談できる時期の見当が付きます。
旧来のFAX・電話は完全に廃止すべきか
全廃を前提にしなくても移行は成立します。
判断材料になるのは、残す場合に誰がその経路を見続けるのかという点です。
入口を二つ残すと、締め時間の直前まで両方を確認する人が必要になり、その負担は取引先の数が減っても大きくは変わりません。
一方で、システム障害時や急な数量変更など、電話が残っていて助かる場面もあります。
通常の注文は新しい経路に一本化し、例外的な連絡手段として電話を残す、というように用途で分けると、確認の負担と実務の柔軟さの折り合いが付けやすくなります。
移行の優先順位を社内でどう合意形成すればよいか
どの軸で順番を決めたのかを言葉にしておくことが出発点になります。
取引量の多い相手からなのか、対応しやすい相手からなのか、自社の準備が整った業務からなのかで、最初の段階で出てくる成果がまったく違うためです。
対応しやすい相手から始めた場合、作業時間はすぐには減りません。
それを事前に共有していないと、効果が出ていないという評価になり、途中で計画が止まります。
最初の段階は手順を固めるための期間で、作業量の変化は次の段階で見る、というように、段階ごとに何を見るかを先に決めて合意しておくと、進捗の説明が噛み合います。
段階移行と一括移行でコストや期間はどのくらい変わるか
金額や期間の差を示せる資料は手元にありません。
ただ、費用のかかり方が違う点は説明できます。
一斉に切り替える方式では、切替の前後に問い合わせ対応と手直しが集中するため、その時期に人を厚くする必要があります。
段階を踏む方式や並行運用では、二つの経路を見る期間が続く分、その間の確認作業が重なります。
どちらが安いとは一概に言えず、注文が一日止まったときの損失をどう見るかで判断が変わります。
自社で比べるなら、切替時に集中してかかる負担と、併存期間中に毎日かかる負担を、それぞれ何人が何か月見るかという形で並べてみることです。
- 1 出典:中小企業庁「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!(ミラサポplus)」(2020年)
- 2 出典:日経BP(日経クロステック)『中小企業の8割が「ファクスで受発注」の現実、DX時代に日本の競争力が失われる』(2019年)
- 3 出典:発注ラウンジ「システム移行とは?オンプレミスからクラウドなど種類や手順を解説」
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