◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
目次

電話・FAX・メール受注でミスが起きる仕組みと、オンライン受発注で変わること
電話で聞き取った品番をメモに書き、FAXの手書き数字を見ながら受注システムに打ち込む。
その途中で一桁ずれれば、出荷が済んでから発覚し、謝罪と再手配に半日を取られます。
オンライン受発注に切り替えると手入力や手書きに由来するミスが減ることは公的機関の解説でも共通して挙げられますが、「ミスが何%減る」と直接測った公的統計は見当たりません。
確認できるのは、受発注の業務時間が平均51.4%短縮したという中小企業庁の実証データ1と、デジタルシフトに取り組んだ企業の81.0%が「業務効率化(コスト削減、時間短縮、ミス防止等)」を効果に挙げた調査2です。
この二つが何を測った数字かを分けて読めば、自社の工程に当てはめて効果を見積もる材料になります。
聞き間違い・転記ミス・対応漏れが起きる理由
受注の情報は、注文元の手を離れてから自社のシステムに収まるまでに、何度か人を経由します。
電話であれば、相手の声を聞き取ってメモに書き、そのメモを見ながら受注システムに打ち込みます。
FAXであれば、手書きの文字を目で読み、同じ内容を画面に入力し直します。
メールでも、本文に書かれた品番や数量を見ながら別の画面へ移し替える作業が残ります。
ミスが混入するのは、この「移し替え」が発生している地点です。
聞き間違いは、注意力だけの問題ではありません。
電話では音の情報しか届かないため、たとえば「B-1250」と「B-1205」のように末尾の並びだけが違う品番は、相手が読み上げた通りに聞き取れたかどうかを確かめる手段が、その場の復唱しかありません。
手書きのFAXなら、1と7、0と6のような字形の近さがそのまま読み取りの分かれ目になります。
メールの場合は文字としては正確に届きますが、「10ケース」と「10箱」が同じ数量を指すのか、入数がいくつのケースなのかは、受け取った側が過去の取引から補って解釈することになります。
対応漏れは、また別の仕組みで起きます。
注文が担当者個人のメール受信箱や、机の上のFAX用紙という形で置かれていると、その一件が処理済みなのか手つかずなのかは本人にしか分かりません。
担当者が休んだ日や、注文が集中して紙が積み上がる時間帯に、確認の網から落ちる件が出ます。
さらに、電話で受けた内容は記録が残らないため、数量や納期の食い違いが後から出てきたときに、どちらの認識が先だったのかを照らし合わせる材料がありません。
つまり受注のミスは、担当者の慣れや注意の量よりも、情報がどこに置かれ、何回移し替えられるかという構造の側で起きやすさが決まっています。
手入力をなくす仕組みが期待される効果
受発注のオンライン化やEDI化のメリットとして、中小企業庁の解説では手入力による人為的ミスがなくなる点が挙げられています1。
電子受発注を扱った民間の解説でも、データの手書き・入力・計算における人的ミスの削減が一般的な利点として説明されています3。
ただし、どちらも定性的な記述にとどまり、ミスが何件からいくつに減ったという数値は示されていません。
そのため、期待できる範囲を見積もるには、何がどう変わるのかを仕組みの側から押さえておく必要があります。
変わるのは、先ほどの流れ図でいえば真ん中の工程です。
発注側が画面に入力した内容がそのまま受注データとして届けば、聞き取りと書き写しと再入力という三つの工程が、その注文に関しては発生しません。
品番が選択式であれば、存在しない品番は最初から入力できません。
数量と単位が別々の項目として決まっていれば、ケースか箱かを読み手が解釈する余地も狭まります。
受け取った注文が一覧の形で残り、未処理か処理済みかの状態が共有されていれば、個人の受信箱に埋もれる形の対応漏れも見つけやすくなります。
一方で、残る作業もはっきりしています。
発注側が画面で一つ下の行の品番を選んでしまった注文は、形式としては正しいデータのまま届きます。
単価や入数を登録したマスタが古ければ、計算は自動でも結果は実際の取引条件と合いません。
納品先の指定や分納の希望が備考欄に自由記述で入ってくれば、読んで判断するのは今まで通り人です。
オンライン受発注に期待すべきなのは「ミスがゼロになること」ではなく、どの種類の移し替えが構造的に起きなくなり、どの確認が手元に残るのかを見分けることです。
「業務時間51.4%減」「効果実感81%」の数字は何を測っているのか
中小企業庁の実証事業が測ったのは業務時間
受発注のデジタル化を調べると、削減率としてよく目に入る数字があります。
中小企業庁が平成28年度補正予算で実施した中小企業共通EDIの実証事業では、12のプロジェクト・6業界・5地域で導入効果が測定され、中小企業の受発注業務時間が平均して51.4%削減されたと報告されています1。
公的な実証事業としてまとまった形で公開されている、数少ない定量データです。
注意したいのは、ここで測られているのが業務時間だという点です。
受注を1件処理するのにかかっていた時間が、導入の前後でどれだけ短くなったかを比べた数字であり、ミスの発生件数を数えたものではありません。
ミスが減れば確認の電話や訂正の手間も減るため、短縮された時間の中に手戻りの減少分が含まれている可能性はありますが、その内訳は示されていません。
したがって、この51.4%を「ミスが半分になる」と読み替えることはできません。
社内で資料に引用するときも、時間の物差しで測った数字として扱う必要があります。
もう一点、これは12のプロジェクトを通した平均値です1。
対象は6業界・5地域に限られており、業種も取引の形も異なる企業の結果をならした値ですから、自社が同じ率になることを示すものではありません。
使いどころは、同じ種類の取り組みでこの規模の時間短縮が公的な実証で確認されている、という位置づけの説明です。
東京商工会議所調査の「ミス防止」は複数要素の一部
もう一つよく引かれるのが、効果を実感した企業の割合です。
東京商工会議所が東京23区内の中小企業10,000社を対象に行い1,218社から回答を得た調査では、デジタルシフトに取り組んだ企業の81.0%が効果として「業務効率化(コスト削減、時間短縮、ミス防止等)」を挙げています2。
8割を超えるという大きさから、ミス防止の裏づけとしてそのまま引用されることがあります。
ただし、この選択肢はミス防止を単独で聞いたものではありません。
コスト削減と時間短縮とミス防止が一つのカテゴリーに束ねられているため、81.0%のうち何割がミスの減少を実感したのかは、この数字からは分かりません。
対象も受発注に限ったデジタル化ではなく、デジタルシフト全般への取り組みです。
加えて、効果を感じたかどうかという回答者の評価であって、件数の実測ではありません。
調査対象は東京23区の中小企業であり、全国一律の数値でもありません。

では何に使えるかというと、取り組んだ企業の多くが何らかの効率化を実感しているという広がりの目安です。
稟議や社内説明では、「ミスが81%減る」ではなく「取り組んだ企業の8割超が効率化の効果を実感している」という形にしておくと、後で数字の出どころを問われたときにも説明が崩れません。
二つの数字は役割が違います。
51.4%は時間という測れる物差しでの実証結果、81.0%は取り組んだ企業の手応えの広がりです。
そしてミスの削減率そのものを示す公的な数値は、今回の調査では確認できませんでした。
この部分は数字ではなく、前の節で見た「どの移し替えが消えるか」という仕組みの説明で補うことになります。
| 数値 | 測っているもの | 調査の範囲 |
|---|---|---|
| 51.4% | 中小企業の受発注業務時間の平均削減率 | 中小企業共通EDI実証事業(12プロジェクト・6業界・5地域)/平成28年度補正での実証 |
| 81.0% | 「業務効率化(コスト削減、時間短縮、ミス防止等)」を効果に挙げた企業の割合 | 東京23区内の中小企業10,000社へ調査・回答1,218社/2024年 |
効果が出やすい条件・出にくい条件
企業規模による削減率の違い
同じ取り組みでも効果の大きさが一律でないことは、実証事業の結果そのものに表れています。
中小企業共通EDIの実証では、大企業と比較して中小企業の方が業務時間の削減率が高かったと報告されています1。
削減率という指標は、導入前の業務時間を分母に取るため、もともと手作業が占める割合が大きい側ほど数字が動きやすいと考えられます。
この読み方は実証事業の傾向からの解釈であり、規模ごとの法則として示されたものではありませんが、自社がどちら寄りかを考える手掛かりにはなります。
この見方を当てはめると、電話とFAXで受けた注文をすべて手入力している状態は、削減の余地が大きい側に位置します。
逆に、すでにメールの注文書を決まった書式で受け取り、ある程度自動で取り込む仕組みを組んでいるなら、オンライン化によって追加で消える転記は限られます。
効果が小さくなるのは仕組みが悪いからではなく、消すべき工程がすでに減っているためです。
自社の位置を確かめる材料は、大きく三つあります。
1日あたりの受注件数、そのうち人が手で入力している件数の割合、そして訂正や再確認が発生している頻度です。
件数が少ない会社でも、1件のミスにつき出荷の差し替えや先方への連絡が長く尾を引いているなら、効果は処理速度よりも手戻りの側に出ます。
件数と手戻りのどちらが自社の負担の中心かで、見積もるべき効果の置き場所が変わります。
取引先の対応状況や運用体制で変わりうる点
効果の出方を左右するもう一つの条件が、注文を出す側の状況です。
取引先が一斉にオンラインへ移ることは考えにくく、しばらくは画面から届く注文と、これまで通り電話やFAXで届く注文が併存します。
この期間は、確認すべき場所が受注画面とFAXの両方に分かれるため、工程がいったん増えることもあります。
どの取引先から順に移し、その間どちらの窓口を正とするのかを決めておかないと、二重に受けた注文が二重に出荷される形のミスが新しく生まれます。
社内の受け皿も効果を左右します。
オンライン受発注で品番や単価が自動で引き当てられるということは、引き当ての元になる商品マスタや取引条件の正しさに結果が依存するということです。
新商品の登録や単価改定を誰がいつ反映するのかが決まっていなければ、入力の手間は減っても内容の誤りは残ります。
急ぎの追加注文、分納の希望、特注品の扱いといった例外の処理方法を決めていない場合も、その分だけ電話での相談が戻ってきます。
なお、取引先のシステム対応状況別や運用体制別に効果を比較した公的データは、今回確認できませんでした。
確認できたのは、実証事業の範囲内で企業規模によって削減率に差があったという点までです1。
ここは他社の平均値を当てはめるのではなく、自社の取引先構成と例外処理の量から見積もるほかありません。
その見積もりに使える材料が、日々の受注業務の中にどれだけ残っているかが次の話になります。

導入前に自社の受発注フローで確認しておくべきこと
ミスが起きている工程の洗い出し方
効果を見積もる出発点は、製品の機能一覧ではなく、自社ですでに起きたミスの記録です。
直近の数か月について、訂正した受注伝票、再出荷や引き取りが発生した件、先方へ確認や謝罪の連絡を入れた件を並べてみます。
ここで見るのは合計件数よりも、その誤りがどの地点で混入したかです。
分類の目安は、聞き取りでの取り違え、手書き文字の読み取り違い、システムへの転記入力の誤り、単価や入数など取引条件の参照違い、そして連絡の行き違いや対応漏れです。
この形で並べると、前半で見た仕組みの話と重なります。
聞き取り・読み取り・転記入力に分類された件は、発注側の入力がそのままデータになる形に変われば、その工程自体が消えます。
取引条件の参照違いはマスタの整備に、備考欄の解釈に関わる件は例外処理の決め方に移ります。
この仕分けができていれば、導入の効果として見込んでよい範囲と、別の手当てが必要な範囲が分かれます。
受注手段ごとに分けておくと、移行の順番も見えてきます。
たとえば電話受注が件数の3割で訂正の大半を占めているのに、メール受注は件数が多くても訂正がほとんど出ていないという分かれ方をしていれば、先に手を入れる対象は件数ではなく訂正の集中している側です。
どの取引先がどの手段で注文してくるかまで紐づければ、最初に声をかける相手も絞れます。
業務時間を指標にした比較のしかた
洗い出したミスを社内で説明するとき、件数だけでは投資の判断につながりにくい場面があります。
公的な実証事業でも、効果の測定には業務時間という指標が使われていました1。
自社でも同じ単位に揃えておくと、外部の数値と同じ土俵で話を進められます。
測り方は二段構えにすると扱いやすくなります。
一つは、注文を受け取ってからシステムに登録し終えるまでの1件あたりの時間です。
もう一つは、ミスが1件起きたときに、確認の電話、伝票の訂正、出荷の差し替え、先方への連絡までを含めて何分かかるかという手戻りの時間です。
後者に月あたりの発生件数を掛ければ、ミスの負担が時間として表れます。
この形にすると、処理そのものの短縮と、ミスが減ることによる手戻りの短縮を、一つの物差しの上で足し合わせられます。
比較のときに気をつける点が二つあります。
一つは、自社の測定は公的な調査と同じ設計ではないため、51.4%という値と自社の数字を直接並べて優劣を言うものではないということです1。
使えるのは、自社の導入前と導入後を同じ測り方で比べる前後比較です。
もう一つは、基準値を導入前に取っておくことです。
切り替えた後になってから以前の時間を思い出して記録すると、比較の土台が曖昧になります。
受注件数は時期によって大きく動くので、繁忙の度合いが近い期間どうしを選んで比べると、増減の理由を取り違えずに済みます。
ここまでの見積もりと並行して、取引先側の状況も確かめておくと導入後の見通しが立ちます。
主要な取引先が自社の画面から注文できる状態になるのか、それとも先方の基幹システムとデータでつなぐ必要があるのか。
この見極めによって、当面どれだけの注文がオンラインに乗り、どれだけが従来の手段のまま残るかが決まります。
乗る割合が分かれば、洗い出した工程のうち実際に消える分を掛け合わせて、初年度に見込める効果の幅として示せます。
公開されている数値は業務時間や効果実感を測ったものなので、自社のどの工程が置き換わり、どの確認が残るのかは、受注手段の内訳や取引先の状況を見ないと見積もれません。
現在の受注の受け取り方と訂正が起きている工程を持ち寄っていただければ、消える転記と残る確認の切り分け方、業務時間を指標にした測り方の組み立てを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 51.4%が示すもの | 受発注業務時間の平均削減率。中小企業共通EDI実証事業(12プロジェクト・6業界・5地域)の平均であり、ミスの削減率ではない |
|---|---|
| 81.0%が示すもの | 東京23区の中小企業1,218社の回答。「コスト削減、時間短縮、ミス防止等」を束ねた選択肢への回答割合で、ミス防止単独の数値ではない |
| ミス削減の根拠 | 削減率を示す公的統計は確認できず、聞き取り・読み取り・転記入力という移し替え工程が消える仕組みで説明する |
| 効果が大きく出やすい側 | 実証事業では大企業より中小企業の削減率が高かった。手入力が占める割合が大きいほど余地が大きいと考えられる |
| 導入後も残る作業 | 発注側の入力内容の確認、商品マスタと取引条件の保守、備考欄など例外注文の判断 |
| 自社での測り方 | ミスが混入した工程を分類し、1件あたりの処理時間と手戻り時間で換算して、導入前後を同じ条件で比較する |

併用期間の窓口の決め方やマスタ保守の分担は、導入の効果が出るかどうかを左右しますが、社内だけでは判断の分かれ目が見えにくい部分です。 取引先ごとの注文手段と例外注文の量を確認しながら、どこから移行すると手戻りが減りやすいか、初年度に見込める効果の幅をどう示すかを検討できます。
よくある質問
オンライン受発注に切り替えれば、聞き間違いや誤発注は完全になくなりますか
なくなるのは、聞き取り・読み取り・転記入力という移し替えの工程に由来するミスです。
公的機関や民間の解説でも、手入力や手書きによる人為的ミスの軽減がメリットとして挙げられています13が、いずれも定性的な記述で、ゼロになると示したものではありません。
発注側が画面で選び間違えた注文は正しい形式のまま届きますし、商品マスタの単価や入数が古ければ自動計算の結果も実際の条件と合いません。
備考欄の自由記述を読んで判断する作業も残ります。
「どの確認が残るか」を先に把握しておくことが、導入後の期待値のずれを防ぎます。
ミス削減の効果を社内で示すには、何を指標にすればよいですか
業務時間に換算する方法が扱いやすく、公的な実証事業でも業務時間が効果の指標として使われています1。
具体的には、注文を受け取ってからシステム登録を終えるまでの1件あたりの時間と、ミスが1件起きたときの手戻り時間(確認連絡、伝票訂正、出荷の差し替えなど)に月間の発生件数を掛けた値を組み合わせます。
件数だけで示すより、削減される負担の大きさが伝わります。
あわせて、ミスが混入した工程別の件数を並べておくと、どの工程の減少を見込んだ数字なのかを説明できます。
取引先がオンライン受発注に対応していない場合、どう進めればよいですか
当面は、画面から届く注文と電話・FAXで届く注文が併存する前提で設計することになります。
併用期間は確認先が分かれるため、どちらの窓口を正とするか、二重に受けた注文をどう突き合わせるかを決めておかないと、新しい種類の取り違えが起きます。
移行の順番は、訂正や手戻りが集中している取引先・受注手段から検討すると効果が出やすくなります。
なお、取引先のシステム対応状況別に効果を比較した公的データは今回確認できなかったため、他社の平均ではなく自社の取引先構成から見積もる形になります。
効果測定はいつ、どのくらいの期間で行うのが妥当ですか
基準値は導入前に取っておく必要があります。
切り替えた後に以前の処理時間を思い出して記録すると、比較の土台が曖昧になるためです。
期間の長さについて推奨値を示した確認済みのデータはありませんが、受注件数は時期によって大きく動くため、繁忙の度合いが近い期間どうしを選んで比べると増減の原因を取り違えずに済みます。
また、切り替え直後は操作に慣れる時間や取引先からの問い合わせが加わるため、その影響が落ち着いた後の期間も別に測っておくと、定常状態での効果が見えます。
- 1 出典:中小企業庁「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!(ミラサポplus)」(2018年、実証は平成28年度補正)
- 2 出典:東京商工会議所「中小企業のデジタルシフト・DX実態調査 集計結果」(2024年、2025年公表)
- 3 出典:オリックス・レンテック株式会社「受発注のデジタル化は製造業にどんなメリットをもたらすか」(2021年度調査の引用)