◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 値上げ額を決める前に、仕入コストの上昇分を「価格に反映済み」「自社で吸収中」「増加額が未把握」に分けると、交渉で示す根拠がそのまま出てくる
- 全体の価格転嫁率54.2%(2026年3月調査)と、原材料費55.7%・労務費50.0%という費目別の水準を自社の割合と比べ、下回る費目から交渉対象にする
- 受注側集計の業種別順位で卸売業は3位にあり、全体平均に届いていなければ業界内でも低い側にいる可能性がある
- 協議に応じる立場が相手に生じるのは申し入れがあった場合で、協議なく価格を据え置く行為は独占禁止法や取適法上の問題となるおそれがあると示されている
- 申し入れ日・提示資料・回答・合意内容を段階ごとに残すと、次の改定で説明をやり直さずに済み、見送った費目だけを取り上げられる
目次

仕入コスト上昇にどう向き合うか、まず何を切り分けるか
仕入先からの値上げ通知が届くたびに社内で吸収し、気づくと一品あたりに残る利益がほとんどなくなっている。
それでも得意先に値上げを切り出せば取引そのものを失うのではないかと、提示の一歩手前で止まっている。
この場面で先に動かせるのは「いくら上げるか」ではなく、どの費目がいくら上がり、そのうちどこまでを転嫁の対象にするかという切り分けです。
中小企業庁の調査では価格転嫁率が全体で54.2%(2026年3月調査)と公表されており1、費目ごとの水準も分かるため、自社の交渉目標の当たりをつける物差しになります。
そのうえで費目別のコスト増を示して協議を申し入れること自体を先送りしないことが、結果として取引を守る備えにもつながります。
値上げ額より先に、上がった分がいまどこにあるかを見る
仕入先からの値上げ通知が届くたびに、今回は自社で吸収しようと判断してきた。
その判断を何度か重ねた結果、一品あたりに残る利益がほとんどなくなり、ようやく得意先への値上げを考え始めた。
こうした順序で検討が始まると、最初に出てくる問いは「いくらまでなら上げられるか」になりがちです。
ただしそこから入ると、得意先に示す材料が何も手元にないまま金額だけを決めることになります。
先に決まるのは、上がった分が現在どこにあるのかという内訳です。
仕入単価の上昇だけでなく、配送委託費や倉庫の保管料、庫内作業や配送を担う人の人件費も、扱う量が変わらないまま金額だけが増えていることがあります。
これらを費目ごとに分けたうえで、すでに販売価格へ反映できている分、自社の利益で抱えている分、そもそも増加額を把握できていない分の三つに置き直すと、交渉で求める金額の根拠がそのまま形になります。
三つ目の「把握できていない分」が残っていると、交渉は必ず弱くなります。
得意先から「御社でもう少し努力できないか」と返されたとき、粗利が落ちた感覚しか手元になければ、そこで話が止まるからです。
逆に、どの費目がいつからいくら増え、そのうち何割を自社で抱えてきたかを言えれば、相手が検討する対象は「上げるか上げないか」ではなく「どの範囲をいつから認めるか」に変わります。
自社の転嫁がどのくらいの位置にあるかを測る
自社の内訳が見えても、その水準が高いのか低いのかは単独では判断できません。
そこで使えるのが、中小企業庁が価格交渉促進月間に合わせて行っているフォローアップ調査です。
2026年3月の調査では価格転嫁率が全体で54.2%となり、前回調査から約1ポイント増えました1。
前回にあたる2025年9月の調査では53.5%でした2。
この数字は、コスト上昇分のうちどの程度を価格へ反映できたかを示す割合として公表されているものです。
半分強が通っている状態が全体の平均という位置づけになるため、自社で同じ計算をしてみて、たとえば二割程度しか反映できていなければ、相場に対して明らかに低いという判断ができます。
逆に平均を上回っていれば、次の交渉で狙う幅は費目を絞ったうえで考えることになります。
参照するときに外せない条件があります。
この調査は受注側の中小企業30万社を対象として、価格交渉・価格転嫁・支払条件について尋ねた集計です2。
自社が中小企業に当たらない場合や、得意先との関係が平均的な取引と大きく違う場合は、当てはまり方が変わります。
また全体の54.2%は全業種をまとめた数値で、どの費目から交渉すべきかまでは、この一つの数字では決まりません。
卸価格へどこまで転嫁すべきか──費目別の転嫁実現水準を目安にする
原材料費・労務費・エネルギーコストの転嫁実現率
同じ調査では、コスト要素ごとの転嫁率も公表されています。
2026年3月の調査では原材料費が55.7%、労務費が50.0%でした1。
半年前の2025年9月の調査では、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%となっています2。
三つの費目を並べると、原材料費がもっとも高く、労務費はちょうど半分、エネルギーコストは五割を下回るという順に並びます。
半年の変化を見ても、原材料費が55.0%から55.7%へわずかに動いたのに対し、労務費は50.0%のまま変わっていません12。
つまり、賃上げ分の転嫁は全体として足踏みしている状態が続いていることになります。
この差を説明の難しさとして読むなら、原材料費は仕入先からの値上げ通知や仕入伝票という外部から届いた書面でそのまま示せるのに対し、労務費やエネルギーコストは自社の内部の数字として扱われやすい、という違いが考えられます。
これは数値の並びからの見立てであり、調査が理由を示しているわけではありません。
ただ、労務費分を含む改定ほど何を根拠として出すかを先に用意しておく必要がある、という準備の順序には使えます。
自社の転嫁率が平均を下回る費目の見つけ方
公表値と比べるには、自社でも同じ形の割合を出しておく必要があります。
作り方は単純で、ある得意先との一定期間の取引について、費目別に増えたコストの額と、その期間に実現した値上げで回収できた額を並べるだけです。
仮に、ある得意先向けの年間取引で、仕入単価の上昇が300万円、物流費の増加が80万円、庫内作業の人件費の増加が120万円だったとします。
合計500万円のうち、実施できた改定で回収できたのが200万円であれば、全体での転嫁は四割にとどまっていることになります。
この四割という水準を、全体54.2%1と並べれば、少なくとも平均には届いていないという判断がその場でできます。
費目ごとに分けるには、改定を申し入れるときの文書に内訳を書いておくのが現実的です。
「今回の改定は原材料費の上昇分」「次回は配送委託費の改定分」と書き分けておけば、あとから何がどこまで認められたのかを追えます。
そこまで細かく分けられない場合でも、申し入れ時の資料に費目別の増加額を残しておけば、次の交渉で出発点を作り直さずに済みます。
比べる相手は、原材料費分なら55.7%、労務費分なら50.0%という水準です1。
自社の割合がこれを下回っている費目から順に、次の協議で取り上げる対象を決めていくと、要求の優先順位に理由がつきます。
ただしこの平均は全業種・受注側中小企業をまとめた数値であり、得意先の規模や取引の力関係によって実現しやすさは変わります。
得意先ごとに分けて計算すると、どの相手との協議が取り残されているかも同時に見えてきます。
業種別ランキングでの卸売業の位置づけ
もう一つ、目標の置き方に関わる材料があります。
直近の月間調査では、受注側の回答を集計した業種別の価格転嫁の順位で、卸売業は1位の化学、2位の機械製造業に次ぐ3位に位置づけられました3。
この調査は直近期間に実施され、受注側の中小企業の回答をまとめたものです3。
注意したいのは、公表されているのが順位であって、卸売業の転嫁率が何%かまではこの発表では示されていない点です3。
したがって「卸売業の平均は何%だからそこまでは通る」という読み方はできません。
使えるのは、卸売業が相対的に上位のグループに入っている以上、自社の転嫁率が全体平均の54.2%1に届いていなければ、業界の中では低い側にいる可能性が高い、という方向の判断です。
この順位は、得意先に見せる材料にはなりません。
「卸売業は3位だから当社も上げたい」という話は、相手にとって自社のコストとは無関係だからです。
順位が役に立つのは、自社の目標水準を決める段階までで、交渉の場に持ち込むのは自社の費目別のコスト増そのものになります。
| 費目 | 2025年9月調査 | 2026年3月調査 |
|---|---|---|
| 原材料費 | 55.0% | 55.7% |
| 労務費 | 50.0% | 50.0% |
| エネルギーコスト | 48.9% | — |
| 全体 | 53.5% | 54.2% |
得意先に納得してもらうための根拠と伝えるタイミング
費目別のコスト増加分を示した説明の組み立て方
値上げの申し入れを受け取る得意先の担当者は、その場で可否を決められないことがほとんどです。
仕入部門の担当者であれば、社内の上長や本部に対して「なぜこの金額を受けるのか」を説明する必要があります。
そのため、渡す資料が相手の社内でそのまま使える形になっているかどうかが、回答の速さと通り方を左右します。
対象をどこまでにするかを最初に書くのは、相手の検討の重さを下げるためです。
全取扱品の一律改定として出すと、相手は自社の仕入総額への影響を全品目分計算し直さなければならず、判断が重くなります。
影響の大きい品目群に絞って提示すれば、相手が確認する範囲も限られます。
費目別の増加は、前回の改定からの期間を区切り、いつからいくら上がったのかを金額で書きます。
自社で吸収した分を併記するのは、要求額が増加分の全部ではないことを示すためです。
たとえば増加額のうち一定割合を自社で負担し、残りの改定を求めているという形が見えれば、相手の社内でも「先方も負担している」という前提で検討が進みます。
最後の適用希望時期は、相手の決裁期間を見込んで余裕を持たせます。
公表されている転嫁率を資料に添えることもできますが、役割を取り違えないようにします。
全体54.2%や費目別の水準1は、自社のコストが上がった事実を証明するものではありません。
これらは、同じ立場の事業者が一定の転嫁を実現している状況を示す補足であり、説明の軸はあくまで自社の費目別の増加額です。
両方を混ぜて「統計がこうだから上げてほしい」と書くと、相手の社内では根拠が弱い資料として扱われます。
協議の申し入れを先延ばしにしないことの意味
資料が整っても、切り出す時期を決めかねて止まることがあります。
ここで知っておきたいのは、協議を申し入れるという行為自体に制度上の意味があることです。
取適法では、中小受託事業者から価格の協議の求めがあった場合に、協議に応じなかったり必要な説明を行わなかったりすることが、委託事業者の禁止行為とされています(第5条第2項第4号)5。
つまり、相手に協議へ応じる立場が生じるのは「求めがあった場合」であり、申し入れないかぎり何も始まりません。
公正取引委員会も、協議することなく取引価格を据え置く行為について、独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法上の問題となるおそれがあるとしています4。
ここで問題として挙げられているのは、価格が据え置かれたという結果だけでなく、協議が行われていないという経過の部分です。
申し入れを先送りしている状態は、自社が不利を引き受けているだけでなく、相手の側にも判断の機会がないまま時間が過ぎている状態にあたります。
ただし、この規定は委託事業者、つまり発注側に課されるものです5。
適用があるのは、得意先が取適法上の委託事業者にあたり、自社が中小受託事業者にあたる取引関係である場合に限られます。
買いたたきの定義も「製造委託等代金」について書かれているため5、自社と得意先の取引がこれに当たるかどうかは、取引の内容と双方の規模によって決まります。
対象外であっても、協議なく価格を据え置く行為については独占禁止法上の優越的地位の濫用という観点が示されています4。
時期の目安としては、中小企業庁が設けている価格交渉促進月間が使えます。
直近では2025年9月と2026年3月の月間についてフォローアップ調査が行われ、結果が公表されています12。
この時期は、取引先の側でも価格交渉への対応が社内で話題になりやすく、申し入れを切り出す口実としても使えます。
もっとも、月間でなければ申し入れられないわけではありません。
実務としては、コストの増加額が確定した時点と、適用したい時期から逆算した時点の、早いほうで動くことになります。
期初や年度の切り替え、カタログの改定といった区切りに合わせるなら、相手の社内決裁に要する期間を見込んで、その手前で資料を渡しておく必要があります。
据え置いた期間の差額は、あとの改定でさかのぼって戻るものではありません。
遅らせるほど、回収できない期間だけが積み上がります。
価格転嫁が進まない場合のリスクと、取引を守るための記録の残し方
買いたたきに問われうる行為とは
申し入れても応じてもらえない、あるいは協議の場すら設けてもらえないという状況も起こります。
その場合に何が問題になりうるのかを、制度の側から押さえておきます。
取適法では、買いたたきは「類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い製造委託等代金を不当に定めること」と定義され(第5条第1項第5号)、委託事業者に課される十一の禁止行為の一つとされています5。
参照する際に一点、名称と条文番号に注意が必要です。
この規定は、2026年1月1日に施行された改正によって、下請代金支払遅延等防止法(下請法)から中小受託取引適正化法(取適法)へと名称が変わり、条文番号も改められています。
社内に残っている古い解説や社外の資料には旧法の条文番号で書かれたものがあるため、同じ内容を指しているかを確認したうえで使います。
これらはいずれも発注側に向けられた規定であり、交渉の場で相手を追い込むために持ち出す材料ではありません。
知っておく意味は別のところにあります。
得意先の側でも、コンプライアンスの観点から同じ基準で自社の対応を点検していることが多く、協議の求めに応じないまま据え置くという選択は、相手の社内でも説明がつきにくい行為になっているからです。
だからこそ、こちらから申し入れておくこと自体が、相手に検討を促す働きを持ちます。
実際の状況も、動かないわけではありません。
公正取引委員会の特別調査では、値上げを要請した品目のうち7割以上で価格が引き上げられたと回答した事業者の割合が、令和6年度の80.7%から令和7年度は82.5%へと上がっています4。
この調査は令和6年6月から令和7年5月までを対象期間とし、43業種・約11万事業者を対象として実施され、うち462件については立入調査が行われています4。
ここに含まれるのは要請を行った事業者の回答であり、要請しなかった取引は入っていません。
「言っても通らない」という前提は、少なくとも要請した事業者の回答の傾向とは合っていないことになります。
交渉記録として残しておくべき項目
協議が一度で決着しないことを前提にすると、残しておく価値があるのは結論よりも経過です。
理由は三つあります。
担当者が交替しても経緯が引き継がれること、次回の改定でどこから話を始めればよいかが分かること、そして価格の決まり方が問題になったときに事実関係を説明できることです。
書面やメールでやり取りした分は、そのまま残せば足ります。
難しいのは、訪問や電話で口頭のまま進んだ場合です。
この場合は、その日のうちに「本日ご相談した件」としてやり取りの要点をメールで送っておくと、日付と内容が形に残ります。
相手から訂正が入れば、それも含めて経緯になります。
これは実務上の工夫であって、送っておけば法的な効力が生じるという意味ではありません。
記録を残すことで値上げが通るようになるわけでもありません。
減らせるのは、次に協議するときに前提から説明し直す手間と、社内で「前回はどの費目がどこまで認められたのか」が分からなくなる状態です。
費目別の内訳を申し入れ時から書き分けておけば、次の改定では認められなかった費目だけを持ち出すことができ、交渉の範囲が毎回ふりだしに戻らずに済みます。
そして、申し入れに対して協議に応じてもらえない状態が続く場合も、その経過自体が記録の対象です。
いつ申し入れ、どのような資料を渡し、どの時点で回答がなかったのかが残っていれば、取引条件の見直しを社内で判断するときの材料になります。
取適法の適用があるかどうかは取引関係によって変わりますが5、適用の有無を判断するにも、まず何がいつ行われたのかという事実が必要になります。
ここまでで、転嫁の目安をどこに置き、どう切り出し、何を残すかまでは決められます。
残るのは、決めた改定を得意先ごとの価格と日々の受注にどう反映していくかという段取りです。
| 発注側(委託事業者)の行為 | 公的資料に示された位置づけ |
|---|---|
| 中小受託事業者からの価格協議の求めに応じない/必要な説明を行わない | 取適法第5条第2項第4号の禁止行為 |
| 類似品等の価格又は市価に比べて著しく低い製造委託等代金を不当に定める | 取適法第5条第1項第5号の買いたたき |
| 協議することなく取引価格を据え置く | 独占禁止法上の優越的地位の濫用や取適法上の問題となるおそれ |
費目別の増加額を出すところまでは社内で進められても、得意先ごとに異なる価格と条件の中でどの取引から改定するかを決める段になると、受注や請求の運用と切り離して考えられなくなるためです。
現在の価格の持ち方と受注の流れを一緒に確認し、改定をどの取引先のどの品目からいつ適用するかを、日々の処理に落とせる形で整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 判断の軸 | 目安 |
|---|---|
| 交渉目標の水準 | 全体の価格転嫁率54.2%(2026年3月調査)を下回っていないかを最初の基準にする |
| 費目の優先順位 | 原材料費55.7%・労務費50.0%(2026年3月調査)、エネルギーコスト48.9%(2025年9月調査)を下回る費目から取り上げる |
| 業界内での位置 | 受注側集計の業種別順位で卸売業は3位。全体平均に届いていなければ業界内でも低い側にある |
| 申し入れの時期 | コスト増が確定した時点と、適用希望時期から相手の決裁期間を逆算した時点の早いほう |
| 示す資料 | 対象範囲・費目別の増加額・自社で吸収した分・希望改定額・適用時期の順に組む |
| 残す記録 | 申し入れ日と方法、提示資料、回答者と回答日、理由、合意額と適用開始日、見送った費目 |
改定が決まったあとも、適用開始日をまたぐ受注の単価や、得意先ごとに異なる適用時期の管理が残り、ここで手戻りが起きると交渉で得た分が目減りするためです。 改定の適用と記録を今の業務のどこで持つのが無理がないか、現状の運用を前提にした進め方を具体的に確認できます。
よくある質問
価格協議の申し入れは、いつ行うのがよいのでしょうか。価格交渉促進月間に合わせる意味はありますか。
中小企業庁は価格交渉促進月間を設けており、直近では2025年9月と2026年3月の月間についてフォローアップ調査の結果が公表されています12。
この時期は取引先の側でも価格交渉への対応が社内で意識されやすく、申し入れを切り出すきっかけとして使えます。
ただし月間以外は申し入れられないという制度ではありません。
実務上は、コスト増加額が確定した時点と、適用したい時期から相手の決裁期間を逆算した時点の、早いほうで動くことになります。
得意先が取適法上の委託事業者に該当するかは、どう確認すればよいですか。
取適法の規定は委託事業者と中小受託事業者の取引関係を対象としており、協議に応じないことを禁止する規定も委託事業者に課されるものです5。
該当するかどうかは、取引の内容と当事者双方の規模によって決まります。
買いたたきの定義も「製造委託等代金」について書かれているため5、自社が商品を仕入れて販売している取引がそのまま対象になるとは限りません。
判断に迷う場合は、取引基本契約の内容と双方の資本金・従業員規模を手元にそろえたうえで、公正取引委員会の解説で対象範囲を確認するのが確実です。
値上げに応じてもらえない場合、公的機関に相談することはできますか。
公正取引委員会は、価格転嫁の状況について43業種・約11万事業者を対象とする特別調査を行い、うち462件では立入調査を実施しています4。
発注側の対応が監督の対象になっていることは、この調査の実施からも分かります。
一方、個別の相談窓口や申告の手続きについては本記事で参照した資料では扱っていないため、具体的な進め方は各機関が公表している最新の案内で確認してください。
いずれの場合も、いつ申し入れ、どの資料を渡し、どのような回答があったのかという経過が残っていることが前提になります。
交渉の記録として、具体的にどこまで残しておけばよいですか。
最低限は、申し入れた日と方法、提示した費目別のコスト増加資料、得意先の回答者と回答日、示された理由、合意した改定額と適用開始日です。
口頭だけで進んだ場合は、その日のうちに要点をメールで送っておくと日付と内容が形に残ります。
あわせて、見送りになった費目を書き留めておくと、次回の協議でその費目だけを取り上げることができます。
記録があれば値上げが通るというものではなく、減らせるのは説明をやり直す手間と、社内で経緯が分からなくなることです。
全体の転嫁率が5割強という数字は、コスト増の半分しか通らないという意味で受け取ってよいですか。
公表されているのは、2026年3月調査で全体54.2%1、2025年9月調査で53.5%2という水準です。
これは受注側の中小企業30万社を対象とした集計の平均であり2、個々の取引で通る上限を示したものではありません。
費目別に見れば原材料費は55.7%、労務費は50.0%と差があり1、どの費目を含む改定かによって実現の度合いは変わります。
自社の割合を同じ形で出して平均と比べ、下回っている費目から交渉対象にする、という使い方が実務に合います。
- 1 出典:中小企業庁(経済産業省)「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(2026年)
- 2 出典:中小企業庁(経済産業省)「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年)
- 3 出典:中小企業庁(J-Net21掲載)「価格交渉促進月間フォローアップ調査結果」(2025年)
- 4 出典:公正取引委員会「令和7年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の結果」(2025年度)
- 5 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)における委託事業者の禁止行為の解説」(2026年)
画像の出典元
- Overhead view of hands highlighting financial documents on a desk./Photo by RDNE Stock project on Pexels