◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸が直すのはデータの形・通信手段・取引先ごとの運用ルールで、受発注の流れ自体は変わらない
- 改修範囲は、現在の受注方式(旧来EDI・FAXや電話・Web-EDI)によって重くなる箇所が異なる
- 負担は一度で済む部分と取引先ごとに繰り返す部分に分かれ、取引先数と個別運用の有無で大きくなる
- INSネットの補完策は2028年12月31日に終了予定で、小売ごとの期限は取引先に直接確認する
- 対応方法は金額だけでなく、取引先数・基幹連携・メッセージ範囲・帳票・運用体制の軸で比べる
目次

小売から流通BMS対応を求められたとき、卸の業務とデータは何が変わるのか
取引先の小売から「流通BMSで受発注を切り替えたい」と連絡が来ても、自社の受注から請求までのどこを直せばよいのか、費用と手間がどれだけかかるのかは見当がつきにくいものです。
流通BMSは、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務を、標準のメッセージとインターネット経由の通信でやり取りする仕組みです2。
卸が直すのは、主にデータの形、通信手段、取引先ごとの運用ルールです。
負担の大きさは、いまの受注方式、取引先の数、1社ごとの個別運用で決まります。
金額を考える前に、この三つを自社について棚卸しすることが見積りの出発点になります。
流通BMSが定める6業務・8種のメッセージ
流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)は、小売・卸・メーカーが受発注などのデータを電子的にやり取りするときの約束事を定めた、EDI(電子データ交換)の標準仕様です。
やり取りする電子取引文書(メッセージ)の形と、通信プロトコル・セキュリティの両方を定めています。
製造・卸売・小売の三層の業務をつなぐことを目的に策定されました3。
スーパーなどとの取引で使う基本形は、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務を、8種の標準メッセージで扱います2。
基本形は2007年にVer1.0が公開され、2018年のVer2.0で消費税の軽減税率に対応しました2。
2025年時点の最新版はVer2.2.2です1。
取引先がどの版を前提にしているかで扱う項目が変わりうるため、依頼を受けたら、どの版で接続するのかを最初に聞いておきましょう。
そうしておくと、後の見積りで前提がずれにくくなります。
卸の側から見ると、6業務は「受け取るデータ」と「返すデータ」に分かれます。
小売から届くのは、発注、受領、返品、支払に関するデータです。
卸から送るのは、出荷と請求のデータです。
受注担当がふだん扱っている発注書、出荷の明細、請求書が、それぞれ決まった形のデータに置き換わると考えると、全体をつかみやすいでしょう。
ただし、依頼の時点で6業務すべてを求められるとは限りません。
「まず発注だけ」「発注と出荷まで」といった範囲の違いが、そのまま改修範囲の違いになります。
なお、取引先が百貨店の場合は、基本形とは別に百貨店版があります。
百貨店版では2010年に標準メッセージ26種が整備されています2。
同じ流通BMSという名前でもメッセージの体系が違うため、基本形を前提にした見積りはそのまま使えません。
変わるのはデータ形式と通信で、受発注の流れではない
流通BMSに切り替えても、取引の流れは変わりません。
小売が発注し、卸が商品をそろえて出荷し、締めごとに請求します。
変わるのは、発注をどう受け取り、出荷や請求の内容をどう返すかという部分です。
たとえば、毎朝FAXで届く発注書を、受注担当が読み取り、販売管理システムに一行ずつ入力している卸を考えてみます。
流通BMSに切り替わると、発注は決められた項目をもつデータとして届きます。
受注担当の仕事は、紙を見て打ち込む作業から、届いたデータを取り込み、欠品や数量の訂正が必要な行を確かめる作業へ移ります。
出荷のときは、出荷した品目と数量をデータとして小売に返します。
通信の面では、旧来のJCA手順との大きな違いとして、通信回線がインターネットに変わる点が挙げられています3。
JCA手順や全銀手順は、電話回線などを使って長く使われてきた旧来の通信手順です。
旧来手順でEDIをしている卸にとっては、データの形に加えて、つなぎ方そのものが変わることになります。
標準があるのだから、一度対応すればどの小売とも同じようにつながる、と考えたくなるところです。
実際には、どの業務から始めるか、切替日をいつにするか、テストをどう進めるかは、取引先ごとに決める必要があります。
旧来手順からの移行では、1社ずつスケジュールを調整したという事例もあります4。
データの形が標準化されても、相手ごとの段取りは残ります。
この点が、改修箇所と負担を見積もるときの土台になります。
卸・メーカーの導入状況
流通BMSを導入した卸・メーカーは、2025年6月時点の推計(第28回)で21,600社以上とされます1。
直近の半年で700社以上増えています1。
この数は卸とメーカーを合わせた推計で、卸だけの社数ではありません。
それでも、受注側の対応が一部の大手に限られた話ではなく、いまも新たに対応する企業が出ていることは読み取れます。
取引先から依頼が来たときに、自社だけが特別な対応を迫られていると考える必要はありません。
多くの受注側企業がすでに通ってきた手順をたどる話だと捉えてよいでしょう。
一方で、導入済みの企業が多いからといって、自社の改修が軽く済むわけではありません。
負担は、いま自社がどの方式で受注しているかによって大きく変わります。
現状の受注方式別に、どこを改修するのか
旧来のEDI(JCA手順・全銀手順)から移る場合
改修箇所は、次の4つに分けて考えると整理しやすくなります。
通信手段、メッセージの項目を自社のデータに対応付ける変換、基幹システム(販売管理や在庫管理)との取り込み・書き出し、取引先と取り決める運用ルールです。
どの方式から移るかで、この4つのうち重くなる場所が変わります。
以下は編集部の整理で、実際の改修範囲は現行システムの作りによって変わります。
JCA手順や全銀手順で、すでにデータを受け取って基幹システムに取り込んでいる卸は、受注をデータで扱う流れ自体はできあがっています。
中心になるのは、通信手段の入れ替えです。
あわせて、旧来のデータ形式で作ってきた項目の対応付けを、流通BMSのメッセージに合わせて作り直します。
基幹システム側の取り込み口が残せるなら、改修は通信と変換の部分に寄せられます。
医薬品や健康食品の製造・販売と卸事業を手がけるピップグループ(フジモトホールディングス)は、2016年の取材時点で約500弱の取引先とEDIでつながっていました4。
当時は、旧来のJCA手順・全銀手順がまだ多く使われていました4。
IP網に対応した流通BMSやWeb-EDIなどへ移行済みの取引先は10%強でした4。
切り替えには1社ずつ調整が必要で、事前の調整から利用開始まで約1か月かかったと紹介されています4。
この事例は、取引先が非常に多い企業の当時の話です。
約1か月という期間を、そのまま自社の予定に当てはめることはできません。
参考になるのは、システムを作る作業とは別に、取引先ごとの調整に時間がかかるという構造です。
取引先が数社なら目立たない手間でも、数十社になると、誰がいつどの取引先と調整するかという段取りそのものが仕事になります。
FAX・電話受注から移る場合
FAXや電話で受注している場合は、4つの箇所すべてに手が入りやすくなります。
必要になるのは、データを受け取る通信の仕組み、届いたデータを基幹システムに取り込む口、出荷や請求をデータで作って返す仕組みです。
これらが社内にまだ無ければ、それぞれ用意しなければなりません。
その代わり、変化がいちばん目に見えるのもこの方式です。
発注書を読み取って入力する作業、入力した内容を発注書と見比べる確認、読み取りにくい数字の問い合わせといった転記にまつわる作業が、データの取り込みに置き換わります。
残るのは、在庫が足りない品目の扱いや、取引先との数量の行き違いを確認する仕事です。
転記の手間がどれだけ減るかは、その取引先からの発注件数と、ほかの取引先がFAXのまま残るかどうかで変わります。
注意したいのは、1社だけ流通BMSに切り替えると、社内に「FAXで受ける取引先」と「データで受ける取引先」が併存する点です。
受注の入口が二つになると、どちらの経路で入った注文かを基幹システムで区別したり、締め処理の手順を分けたりする必要が出ます。
この併存期間の運用も、改修の範囲に含めて考えておきましょう。
そうしておけば、切替後に慌てずに済みます。
Web-EDIを使っている場合
Web-EDIは、取引先が用意したWebの画面にログインして発注を確認し、出荷の情報を入力する方式です。
日経クロステックの記事では、流通BMSとWeb-EDIが、ともにIP網に対応したEDIの移行先として並べて扱われていました4。
どちらもインターネットを使う点は同じですが、卸の作業は大きく違います。
Web-EDIでは、担当者が画面を開き、発注をダウンロードしたり、画面上で出荷数量を入力したりします。
取引先ごとに画面が用意されている運用であれば、取引先の数だけログインと操作の手順を覚えることになります。
流通BMSに移ると、こうした画面操作はシステム間のデータ送受信に置き換わります。
取り込みや送信は、自社側の仕組みで行うようになります。
Web-EDIからダウンロードしたファイルを、すでに基幹システムへ取り込んでいるとします。
その場合は、取り込みの経路を流通BMSのメッセージに合わせて作り替える形で進められます。
画面を目で読んで手入力しているなら、FAX受注に近い範囲の改修になります。
同じWeb-EDIでも、社内でデータをどう扱っているかによって負担が分かれます。
基幹システム連携・マスタ・運用ルールの見直し
どの方式から移る場合でも見落としやすいのが、データの中身の対応付けです。
小売の発注データに載る商品コード、取引先コード、店舗や納品先の情報が、自社の商品マスタや得意先マスタとそのまま一致するとは限りません。
一致しない部分は、変換の段階で対応表を持つか、マスタ側に項目を追加するかを決めることになります。
運用ルールの見直しも、システムの改修と同じくらい重要です。
欠品で出荷できない品目を出荷データでどう返すか、発注の訂正や取消をどう受けるか、請求の締めと受領データの突き合わせをどうするかを決めなければなりません。
紙やFAXのころには、担当者同士の電話で済ませていた部分かもしれません。
データでやり取りするようになると、こうした例外の扱いを事前に取り決めておく必要があります。
取り決めがないと、取り込めないデータや合わない請求が残ります。
| 現在の受注方式 | 通信手段 | 変換(項目の対応付け) | 基幹システムとの連携 | 運用ルール |
|---|---|---|---|---|
| 旧来EDI(JCA手順・全銀手順) | インターネット経由へ入れ替え | 旧来の形式から作り直し | 既存の取り込み口を活かせるか確認 | 取引先ごとの切替日とテストを調整 |
| FAX・電話 | 新たに用意 | 新たに作成 | 取り込み口と出荷・請求データの作成を用意 | 例外の扱いと併存期間の運用を決める |
| Web-EDI | 画面操作からシステム間の送受信へ | ダウンロード形式から作り替え(手入力なら新たに作成) | ファイル取込の有無で範囲が変わる | 画面で行っていた例外処理を取り決めへ |
負担の大きさは何で決まるのか。期限の考え方も含めて
取引先数と1社ごとの調整
費用と手間は、一度作れば済む部分と、取引先が増えるたびに発生する部分に分けると見通しが立ちます。
通信環境、変換の仕組み、基幹システムの取り込み口は、最初の1社に対応するときに用意する部分です。
これに対し、接続の設定、項目の対応付けの確認、接続テスト、切替日の調整は、取引先ごとに繰り返し発生します。
取引先が1社だけなら、負担の大部分は最初に用意する部分にかかります。
取引先が多い卸では、2社目以降に繰り返す部分の合計が無視できない大きさになります。
先のピップグループの例のように1社ずつ調整が必要になると4、担当者が同時に進められる取引先の数が、全体の期間を左右します。
個別運用の有無
同じ取引先数でも、負担が大きく違ってくるのが個別運用の有無です。
取引先が標準のメッセージを標準どおりに使っていれば、1社目で作った変換や運用の取り決めを、2社目以降にも流用しやすくなります。
反対に、独自の項目を使っていたり、標準にない運用を求めていたりする取引先では、その分だけ対応付けとテストが増えます。
見積りがぶれやすいのは、個別運用の有無が依頼の段階では見えにくいからです。
「流通BMSで」とだけ言われても、どのメッセージを使い、どの項目に何を入れるかの細部は、仕様書や説明会の資料を見るまで分からないことがあります。
見積りを取る前に、取引先の仕様書を手元にそろえておきましょう。
そうすれば、提供元が何社分の個別対応を見込めばよいかを判断しやすくなります。
通信回線(INSネット終了)の確認済みの期限
期限を考えるときは、通信回線の側で決まっている期限と、取引先の小売が求める期限を分けて扱います。
回線側の期限は、通信事業者が公表しているため日付で確認できます。
NTT東日本の案内によると、INSネットのディジタル通信モードは2024年1月から地域ごとに段階的に終了しており、現在は使えません5。
通話モードは引き続き使えます。
一方、切替後のINSネット上でデータ通信を続ける補完策では、伝送遅延などにより、機器によっては通信に影響が出る可能性があるとされています5。
INSネット64などと、この補完策の提供は、2028年12月31日に終了する予定です5。
ほかの事業者と契約している場合は、その事業者の案内で日付を確かめてください。
旧来手順のEDIをISDN回線で運用してきた卸にとって、この日付は、流通BMSへの対応とは別に動かせない期限です。
取引先との調整に1社ずつ時間がかかることを合わせて考えると、回線の期限が近づいてから動き出したのでは、調整の順番待ちが起きるおそれがあります。
2016年の記事でも、期限直前に切替が集中すると間に合わない取引先が出る、という懸念が述べられていました4。
ただし、同記事で示された当時の移行時期は2016年時点の計画で、現在の期限ではありません。
回線側の制約と取引先との調整時間の両面から、早めに現状を確かめておくほうがよい、というのが編集部の見立てです。
小売ごとの期限は取引先に確認する
取引先の小売が、いつまでに流通BMSへ切り替えてほしいと考えているかは、小売ごとに方針が異なります。
依頼文や取引先説明会の資料に期限が書かれていれば、それが基準になります。
書かれていなければ、直接確かめることになります。
確かめるときは、期限の日付だけでなく、その期限を過ぎたら旧来の方式での受注が止まるのか、当面は併用できるのかも聞いておきましょう。
社内で優先順位を付けやすくなるからです。
併用できる期間があるなら、回線側の期限から逆算した計画のなかで、取引先ごとの切替順を組み立てられます。
| 負担の種類 | 発生するタイミング | 大きさを左右する条件 |
|---|---|---|
| 通信環境の用意 | 最初の対応時 | 現在の回線と通信設備 |
| 変換の仕組み | 最初の対応時 | 対象となるメッセージの範囲 |
| 基幹システムの取り込み・書き出し | 最初の対応時 | 既存の取り込み口の有無 |
| 接続設定・項目の確認 | 取引先ごと | 個別運用の有無 |
| 接続テスト・切替日の調整 | 取引先ごと | 取引先数と担当者の体制 |
自社改修・EDIサービス・変換機能は、どの条件で比べるのか
比較の軸(取引先数・基幹連携・メッセージ範囲・帳票・体制)
流通BMSへの対応方法は、大きく三つの考え方に分けられます。
一つ目は、自社の基幹システムや社内のサーバーに、流通BMSの送受信と変換の仕組みを組み込む「自社改修」です。
二つ目は、外部の事業者が提供する接続と変換の仕組みを、サービスとして利用する「EDIサービス」です。
三つ目は、いまの販売管理システムなどはそのまま使い、流通BMSのデータと自社の形式を変換する機能を追加する「変換機能」です。
どの方法を選んでも、準拠する標準仕様は同じです3。
違うのは、通信や変換の仕組みを誰が持ち、誰が取引先ごとの設定を行い、基幹システムとどうつなぐかという分担です。
そのため、金額だけで比べると、取引先が増えたときや例外処理が発生したときの手間が見えなくなります。
この表で判断が分かれやすいのは、取引先数と運用体制の組み合わせです。
自社改修は基幹システムに合わせて作り込める反面、取引先が増えるたびの設定やテスト、通信のトラブル対応を社内で引き受けることになります。
EDIサービスや変換機能では、その一部を外部に任せられる可能性があります。
ただし、どこまで任せられるかは提供元ごとに違うため、表の多くの欄は「確認すること」として残しています。
帳票の出力も見落とされがちな軸です。
データでやり取りするようになっても、社内の出荷作業で紙の一覧を使っていたり、取引先から紙の書類を求められたりする場面が残ることがあります。
どの書類を紙で出し続けるのかを先に決めておけば、帳票の機能を必要以上に求めたり、逆に足りなくなったりせずに比べられます。
状況別の選び方
依頼が来たのが1社で、受注の大半がFAXや電話という卸の場合、まず考えたいのは、自社に流通BMSの仕組みを持つか、外部の仕組みを使うかです。
取引先が当面増える見込みがなく、社内にシステム担当者もいないなら、通信や変換を外部に任せられる方式のほうが、社内で引き受ける運用を小さくできます。
ただし、届いたデータを基幹システムへどう取り込むかは、外部任せにできない部分です。
そこに手作業が残らないかを比べる必要があります。
旧来手順のEDIで多くの取引先とつながっている卸では、取引先ごとに繰り返す作業の合計が判断の中心になります。
比較のポイントは、取引先ごとの設定やテストを誰がどこまで行うのかです。
旧来手順と流通BMSを併用する期間に、両方を同じ仕組みで扱えるのかも確かめます。
社内にシステム部門があり、基幹システムを自社で保守しているなら、自社改修も現実的な選択肢になります。
いまの販売管理システムを入れ替える予定がない場合は、変換機能を追加する考え方が候補に入ります。
この場合は、変換できるメッセージの範囲が、取引先の求める範囲を満たすかを確かめます。
既存システムの提供元が、流通BMSへの対応をどう位置づけているかも確認しておきたい点です。
ここで挙げたのは考え方の目安で、どれか一つが常に有利というわけではありません。
| 比較の軸 | 自社改修 | EDIサービス | 変換機能 |
|---|---|---|---|
| 取引先数が増えたとき | 取引先ごとの設定とテストを自社で行う | 提供元が取引先ごとの設定をどこまで担うか確認 | 変換の設定追加を誰が行うか確認 |
| 基幹システムとの連携 | 自社の作りに合わせて組み込む | 受け取ったデータの取り込み方法を確認 | 既存システムとの相性が前提になる |
| 対応するメッセージの範囲 | 必要な分を自社で作る | 提供範囲に含まれるメッセージを確認 | 変換できるメッセージを確認 |
| 帳票の出力 | 自社で用意する | 帳票機能の有無を確認 | 既存システムの帳票を使えるか確認 |
| 運用体制 | 社内に保守できる担当者が必要 | 障害時の窓口と対応時間を確認 | 既存システムの保守先との分担を確認 |
| 費用の確認先 | 社内の開発体制またはシステム会社 | サービスの提供元 | 既存システムの提供元 |
対応を決める前に、小売へ何を確認し、どう進めるか
取引先に確認する項目
方式を比べる前に、取引先の小売に確かめておきたいことがあります。
ここが曖昧なまま見積りを取ると、提供元ごとに前提が違う見積りが並び、比べようがなくなるからです。
<ul><li>対象となるメッセージ(発注だけか、出荷・請求まで含むか)</li><li>採用している標準の版と、独自に追加している項目の有無</li><li>通信方式と、接続に必要な準備</li><li>旧来の方式と併用できる期間</li><li>欠品・訂正・取消などの例外の扱い</li><li>接続テストの日程と切替日、問い合わせ窓口</li></ul>
このうち、対象となるメッセージと独自項目の有無は、改修範囲と取引先ごとの手間を直接決めます。
通信方式は、どの対応方法を選べるかに関わります。
併用期間と切替日は、社内の作業をどの順で進めるかを決める材料です。
取引先が仕様書や説明資料を用意していることもあります。
口頭のやり取りだけで済ませず、資料として受け取っておくと、社内の検討や見積り依頼にそのまま使えます。
発注・出荷から始める進め方
取引先が段階的な導入を認めている場合は、受注の入口である発注と、それに対応する出荷から始める進め方が考えられます。
接続テストで問題がないことを確かめてから、受領・返品・請求・支払へ広げます。
これは編集部の提案で、取引先の方針によっては、最初から全業務の接続を求められることもあります。
発注と出荷から始める利点は、毎日の業務で必ず発生するやり取りから慣れていける点です。
発注データの取り込みと出荷データの返送が回るようになれば、マスタの対応付けや例外の取り決めの多くがこの段階で固まります。
請求や支払のように締めごとに発生するやり取りは、その上に積み上げる形で確かめられます。
2社目以降の取引先は、1社目で固めた変換と運用の取り決めを土台に進めます。
ただし、取引先ごとの接続テストと切替日の調整は省けません。
回線側の期限や取引先の希望時期を見ながら、どの取引先から順に切り替えるかを決めておけば、調整が一時期に集中するのを避けやすくなります。
社内調整と見積り依頼
見積りを依頼する際は、提供元が同じ前提で答えられるよう、次の情報をまとめて渡すと比べやすくなります。
取引先ごとの現行の受注方式と、流通BMSへの切替を求められている取引先の一覧。
対象となるメッセージの範囲と、取引先から受け取った仕様書。
使っている基幹システムと、現在の取り込み・書き出しの方法。
紙で出し続ける帳票と、社内で運用・保守を担える体制です。
社内では、受注担当、物流、経理、システム担当で影響の出る場所が違います。
受注担当は、入力作業が取り込みと確認に変わります。
物流は出荷データの作成、経理は請求データと受領データの照合が新しい仕事になります。
改修の見積りだけでなく、各部署の作業がどう変わるかを並べて示すと、社内の合意を取りやすくなります。
流通BMS協議会は、流通BMSの説明・導入効果・導入方法をまとめた導入の手引きを無料で頒布しています6。
あわせて、「既存EDIが利用できなくなる」「導入コスト」などを扱う導入支援ガイドブックも頒布しています6。
ガイドブックは中小小売の事例も扱う資料と案内されているため、卸の立場で読む際は、受注側の作業に当てはまる部分を選んで使うのがよいでしょう。
社内向けの説明資料を一から作る前に、こうした一次資料で用語や全体像をそろえておくと、取引先や見積り先との会話もかみ合いやすくなります。
受注方式が取引先ごとに混在していると、どこから手を付ければ負担を抑えられるかを社内だけで決めにくいためです。
自社の受注方式と取引先の一覧をもとに、改修が重くなりそうな箇所と、取引先に確かめておくべき点を整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 | |
|---|---|---|
| 改修の範囲 | 対象メッセージと現行の受注方式で決まる | |
| 負担の大きさ | 取引先数・1社ごとの調整・個別運用の有無 | |
| 回線の期限 | INSネットの補完策は2028年末に終了予定 | |
| 小売の期限 | 小売ごとに異なるため取引先に直接確認する | |
| 方式の比較 | 取引先数・基幹連携・メッセージ範囲・帳票・運用体制 | |
| 進め方 | 発注・出荷から接続テストを経て他業務へ広げる |
取引先から仕様書を受け取った段階で見積りの前提をそろえておくと、対応方法を同じ条件で比べやすくなるためです。 受け取った仕様と現行システムの状況を照らし合わせ、見積り依頼に含める項目に漏れがないかを確認できます。
よくある質問
FAXや電話で受注している卸でも、流通BMSに対応する必要があるのか
流通BMSは業界の標準仕様で、対応するかどうかは取引先との取り決めによって決まります。
FAXや電話での受注を続けられるかは、取引先の小売が旧来の方式をいつまで受け付けるか次第です。
依頼を受けたら、対応しない場合や時期を遅らせた場合にどうなるのか、ほかの方式での受注を続けられるのかを確かめたうえで判断するとよいでしょう。
対応する場合、改修の範囲は広くなりやすい一方、発注書の読み取りと入力といった転記の作業はデータの取り込みに置き換わります。
小売側が百貨店の場合、基本形とメッセージはどう違うのか
百貨店との取引では、基本形とは別の百貨店版が使われます。
基本形が6業務・8種のメッセージを扱うのに対し、百貨店版は2010年に標準メッセージ26種として整備され、2014年に百貨店版Ver2.1が公開されています2。
メッセージの体系が異なるため、基本形を前提にした改修の見積りや変換の仕組みがそのまま使えるとは限りません。
スーパーと百貨店の両方と取引がある場合は、それぞれどちらの体系で接続を求められているかを分けて確認してください。
旧来のJCA手順・全銀手順は、いつまで使えるのか
使い続けられる期間は、手順そのものよりも、使っている通信回線と取引先の方針で決まります。
ISDN回線で運用している場合、INSネットのディジタル通信モードはすでに終了しています。
切替後のデータ通信の補完策も、2028年12月31日に提供終了の予定です5。
取引先の小売がいつまで旧来の手順で受け付けるかは小売ごとに異なるため、取引先へ直接確認する必要があります。
取引先ごとに仕様が違うとき、どこまで標準に合わせてもらえるのか
流通BMSはメッセージと通信を標準化していますが3、どのメッセージを使うか、例外をどう扱うかといった運用の細部は取引先ごとに決まります。
独自の項目や運用を求められた場合は、標準との違いを一覧にし、それぞれが必須なのか、標準の項目で代替できるのかを取引先に尋ねるのが現実的です。
どこまで合わせてもらえるかは取引先の事情によりますが、違いを具体的に示すほうが話し合いは進めやすくなります。
取引先が複数あるとき、1社目の対応を2社目以降に使い回せるのか
通信環境、変換の仕組み、基幹システムの取り込み口といった、一度作れば済む部分は使い回せます。
取引先が標準どおりに使っていれば、変換の設定や運用の取り決めも流用しやすくなります。
一方、接続の設定、接続テスト、切替日の調整は取引先ごとに発生します。
旧来手順からの移行では、1社ずつの調整に約1か月かかったという2016年の事例もあります4。
取引先が多い場合は、この繰り返し部分を見込んで計画を立てる必要があります。
- 1 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)流通BMS協議会「流通BMS(第28回 卸・メーカーの流通BMS導入企業数推計)」(2025年)
- 2 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)流通BMS協議会「流通BMS標準仕様」(2025年)
- 3 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)「流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)の概要」(2025年)
- 4 出典:日経BP(日経クロステック)「ISDN移行のハードルは業界によって様々、EDIなどは早期対応が必要」(2016年)
- 5 出典:NTT東日本「INSネットをご利用の事業者さまへ(固定電話のIP網移行)」(2025年)
- 6 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)流通BMS協議会「無料頒布資料(流通BMS導入の手引き・導入支援ガイドブック)」(2025年)