◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 手戻りは、不備が見つかった工程と生まれた工程を分けて記録し、取引先の記載不備・発注・検収情報の不足・入力・照合のミス・承認ルールの曖昧さに振り分ける
- 手戻りの工数は件数×1件あたりの修正時間×関与者数で原因別に試算し、外部調査の約53分は請求書処理全体の平均として区別する
- 工数の大きい原因から、不備が生まれる工程に近い対策を当て、翌月の同じ原因の件数・分数・見つかった工程で効果を確かめる
- 照合の自動化は発注と受領の情報が電子で揃っていることが前提で、揃っていなければ受取ルール・承認経路・照合基準の整備を先に進める
目次

差し戻しが続く月末、手戻りは請求書のどこで起きているのか
月末になると請求書の差し戻しや修正が続き、問い合わせと再確認で残業が増えていきます。
それなのに、どの工程で何時間取られているのかを上司に聞かれると、答えに詰まってしまう。
この状態は、買掛業務の手戻りを請求書1件の流れで記録し直すと変わります。
誰が・どの書類を・誰に戻し・何を直したかを、取引先の記載不備、発注・検収情報の不足、入力・照合のミス、承認ルールの曖昧さに振り分け、件数×1件あたりの修正時間×関与者数で原因別の工数を出します。
工数の大きい原因から手を付け、翌月の件数と分数で効果を確かめれば、上司や発注部署に根拠をもって説明できます。
請求書1件の流れで手戻りの発生点を並べる
手戻りが多いと感じていても数字で説明できないのは、戻った請求書が「どこで止まり、誰のところへ戻り、何を直して再び流れたか」が記録に残っていないからです。
そこで、請求書1件が支払までにたどる流れを、受領、記載内容の確認、発注・検収との照合、入力・仕訳、承認、支払の順に並べます。
手戻りとは、このどこかで不備が見つかり、前の工程や社外へ書類が戻る動きのことです。
このとき分けて考えたいのが、不備が見つかった工程と、不備が生まれた工程です。
たとえば承認者が金額の違いに気付いて差し戻した場合、見つかったのは承認ですが、原因は発注時の単価の伝達漏れかもしれませんし、入力時の転記ミスかもしれません。
見つかった場所だけを数えると「承認で戻りが多い」という結論になり、承認者に注意を促すだけで終わってしまいます。
原因の置き場所まで記録しておくと、直すべき相手と工程がはっきりします。
もう一つの手掛かりは、戻る距離です。
受領した直後に見つかった不備は、取引先へ問い合わせるか担当者が直すだけで済みます。
一方、承認の段階で見つかると、承認者、経理担当、発注担当、場合によっては取引先まで、すでに通った工程を逆にたどることになり、関わる人も時間も増えます。
同じ不備でも、見つかるのが遅いほど1件あたりの手戻りは重くなる、という見方を持っておくと、後で対策の順番を考えるときに役立ちます。
取引先側の記載不備:確認できる必須記載事項
取引先から届いた請求書そのものに原因がある手戻りは、受領時点で確認できる項目がはっきりしています。
国税庁は、取引相手から交付を受ける適格請求書等の記載事項として、次の項目を示しています1。
<ul><li>書類作成者の氏名または名称と登録番号</li><li>取引年月日</li><li>取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)</li><li>税率ごとに区分した合計額と適用税率</li><li>税率ごとに区分した消費税額</li><li>書類の交付を受ける事業者の氏名または名称</li></ul>
登録番号の欠落や税率ごとの区分の漏れは、承認の段階で気付くと、取引先への再発行の依頼からやり直しになります。
受領した時点で上の項目を見ていれば、その場で取引先に連絡でき、社内を一巡した後に戻す手間は生まれません。
なお、小売業や飲食店業、タクシーなどでは、交付を受ける事業者名の記載が不要とされています1。
取引先が適格請求書を発行しない事業者である場合や、自社で作成する仕入明細書などを使う場合は、この一覧だけでは判断できないため、扱いを社内の税務担当や顧問税理士と確かめておきます。
記録の上では、記載事項の欠落や誤りで取引先に戻したものを「取引先の記載不備」にまとめます。
請求書の宛名や記載事項は揃っているのに、社内の発注内容と食い違う場合は、記載の問題ではないため次の分類へ回します。
発注・検収情報の不足:何と何が合わないと戻るのか
請求書の記載に問題がなくても、社内の発注や検収の情報と合わずに戻ることがあります。
この照合の考え方は、会計システムの照合機能を見ると整理しやすくなります。
MicrosoftのDynamics 365 Financeでは、請求書照合を、仕入先の請求書・発注書・製品受領の情報を突き合わせる処理として説明しています2。
請求書と発注書の価格を照合するのが双方向照合、それに加えて請求数量と製品受領書の数量を照合するのがスリーウェイ・マッチング(3点照合)です2。
差異は設定した許容率や許容金額と比べられ、範囲を超えると照合不一致になります2。
これは一つの製品の仕様であり、自社の運用やほかのシステムが同じ動きをするとは限りません。
それでも、価格は発注書と、数量は受領した記録と比べる、という組み合わせは手作業の照合にもそのまま当てはまります。
請求書の単価が発注書と違えば、発注時の単価が古いのか、取引先の請求が誤っているのかを発注担当に確かめることになります。
請求数量が受領の記録と合わない、あるいは検収の記録そのものが見当たらなければ、現場に納品の事実を問い合わせることになります。
ここで気を付けたいのは、差額の大きさだけで原因を決めないことです。
差額が小さいと端数処理の違いに見えますが、明細を突き合わせると数量の一部が未納だったということもあります。
手戻りの原因を分類するときは、差額の大小ではなく、照合したときにどの情報が欠けていたか、どちらの数字を直したかで判断します。
発注単価や検収記録が社内に揃っていなかったために戻したものは「発注・検収情報の不足」に入れます。
入力・照合ミスと承認ルールの曖昧さ
残る二つは、経理の中や承認の経路で生まれる手戻りです。
入力・照合のミスは、請求書と発注・受領の情報は揃っていたのに、転記や科目の選択、支払日の設定などで誤りが生じ、後の確認で見つかったものです。
人によって照合で見る項目や一致とみなす範囲が違うと、同じ請求書でも担当者によって通ったり戻ったりします。
承認ルールの曖昧さは、誰が承認するのか、どの条件で承認者が変わるのか、差し戻すときに誰へ戻すのかが決まっていないことから起きます。
承認者が判断に迷って経理に問い合わせ、経理が発注担当に聞き、回答を待つ間に書類が止まる、という往復は、個々の担当者の不注意というより決まりの不在から生まれています。
中小企業の経理担当者を対象にした調査でも、悩みとして最も多く挙がったのは業務の属人化で、その背景としてルール整備やマニュアル作成の不足が挙げられています4。
この調査は経理業務全般の悩みを尋ねたもので、買掛の手戻りに限った結果ではありませんが、決まりが特定の人の頭の中にしかない状態が確認の往復を生む、という見方とは重なります。
ここまでの4つ、取引先の記載不備、発注・検収情報の不足、入力・照合のミス、承認ルールの曖昧さは、請求書1件の流れに沿って原因の置き場所を分けた整理です。
統計上の分類ではなく、どれが多いかは会社によって違います。
どちらに入れるか迷う手戻りは、直した情報が誰の持ち物だったかで振り分けると、記録する人によるばらつきを抑えられます。
| 原因の分類 | 主に見つかる工程 | 戻す相手 | 直す内容 |
|---|---|---|---|
| 取引先の記載不備 | 受領・記載内容の確認 | 取引先 | 登録番号や税率ごとの区分などの記載 |
| 発注・検収情報の不足 | 発注・検収との照合 | 発注部署・検収担当 | 発注単価や受領数量の記録 |
| 入力・照合のミス | 入力・仕訳から承認 | 経理担当 | 転記した金額・科目・支払日 |
| 承認ルールの曖昧さ | 承認 | 承認者・経理担当 | 承認者の確認と差し戻し先 |
手戻りの工数を自社で試算する:件数×修正時間×関与者数
1か月分の差し戻しを1件ずつ記録する項目
原因の分け方が決まったら、次は上司や発注部署に示せる数字にします。
外部の平均値を借りるより、自社で1か月分の差し戻しと修正を1件ずつ記録するほうが、説明の根拠として強くなります。
記録する項目は次のとおりです。
<ul><li>日付と請求書を特定する情報(取引先名、請求書番号など)</li><li>不備が見つかった工程</li><li>原因の分類(前の節の4つのいずれか)</li><li>戻した相手(取引先、発注部署、承認者など)</li><li>直した内容(どの項目をどう直したか)</li><li>手を動かした時間(分)</li><li>関与した人数</li></ul>
見つかった工程と原因の分類を別の欄にしておくのは、前の節で見たとおり、両者が一致しないことが多いからです。
戻した相手の欄は、後で対策を誰に依頼するかを決めるときにそのまま使えます。
直した内容は短い言葉で構いませんが、「単価相違」「検収記録なし」のように言い回しをそろえておくと、月末に集計するときに数えやすくなります。
時間の欄には、問い合わせを書く、回答を受けて直す、もう一度照合するなど、実際に手を動かした分数を入れます。
取引先からの再発行を待っている間の日数は工数とは性質が違うため、同じ欄に混ぜず、必要なら備考に残します。
待ちの長さは支払期限に間に合うかどうかに関わるので、工数とは別の困りごととして上司に伝える価値があります。
分数は厳密に測れなくても、おおよその値を毎回同じ考え方で書いておけば、原因どうしを比べるには足ります。
原因分類ごとに集計して試算する
1か月分の記録が揃ったら、原因の分類ごとに件数、1件あたりの修正時間、関与者数を出し、掛け合わせます。
式にすると、原因別の手戻り工数=件数×1件あたりの修正時間×関与者数です。
関与者数を掛けるのは、1件の差し戻しで経理担当だけでなく、発注担当や承認者も同じ請求書のために時間を使っているからです。
経理の作業時間だけを数えると、発注部署や承認者の負担が数字から抜け落ち、関係部署に協力を頼むときの説明が弱くなります。
この式は、関わった人がそれぞれ同じくらいの時間を使ったと仮定した簡略版です。
経理担当は長く、発注担当は短い、というように人によって時間が大きく違う場合は、人ごとの分数を記録して足し合わせるほうが実態に近くなります。
まずは簡略版で全体の傾向をつかみ、上司への説明で中心に置く原因だけ人ごとの時間を確かめる、という進め方でも十分です。
集計すると、件数は多いが1件が短い原因と、件数は少ないが1件が重い原因が並ぶことがあります。
件数だけで並べると前者が上位に来ますが、工数で並べると順位が入れ替わることがあり、どちらを先に直すかの判断が変わります。
原因別の工数を大きい順に並べたものが、着手の優先順位の候補になります。
上司に示すときは、記録した期間、件数の数え方、時間の測り方、関与者数を掛けた前提を添えておくと、数字の根拠を問われたときに答えられます。
記録した月に決算や大口の取引が重なっていた場合は、その事情も前提として書き添え、可能なら翌月も続けて記録して、月による揺れを見られるようにします。
外部調査の「約53分」をどう読むか
手戻りの時間を調べると、請求書の処理時間に関する調査結果を目にすることがあります。
Sansanが2021年1月に、請求書を取り扱う業務を担当するオフィスワーカー1000サンプルを対象に行った調査では、請求書を受け取ってから保管するまでに費やす時間を約53分と算出しています3。
これは受け取り、開封、振り分け、内容確認、申請などの各工程の時間を合算した平均で、手戻りや差し戻しにかかった時間ではありません3。
そのため、この値を自社の手戻り工数の代わりにしたり、手戻り時間の上限の目安にしたりすることはできません。
調査は請求書の受領サービスを提供する会社によるもので、2021年時点の回答でもあります。
使い道があるとすれば、上司から「請求書1件にどれくらいかかるのか」と問われたときに、処理全体の時間と手戻りの時間は定義が違う、と区別して説明する場面です。
手戻りの工数は、前の項で記録した自社の実測値で示します。
原因別に、まず着手する対策を決める
取引先の不備:受領時点の確認項目を共有する
原因別の工数が出たら、大きい原因から対策を当てはめます。
どの対策にも共通するのは、手戻りを生む情報を、それが生まれる工程に近いところで揃えるという考え方です。
見つかるのが早いほど戻る距離が短くなる、という最初の節の見方を、対策の側から使います。
取引先の記載不備が大きい場合は、受領した時点で確認する項目を決め、それを取引先にも共有します。
確認項目は、国税庁が示す適格請求書等の記載事項をもとにすると、社内で根拠を問われたときにも説明しやすくなります1。
記録の中で実際に欠けていた項目、たとえば登録番号や税率ごとの区分を、該当する取引先に「次回からこの項目の記載をお願いします」と具体的に伝えれば、相手を責める形にならずに済みます。
すでに届いた請求書の誤りをどのように直してもらうかは、制度上の扱いが関わるため、社内の税務担当や顧問税理士と相談してから依頼の仕方を決めます。
この対策で減るのは、承認の段階まで進んでから取引先へ戻す往復です。
一方で受領時の確認という作業は増えるので、翌月に効果を見るときは、受領時の確認にかかった時間も合わせて記録します。
発注・検収情報の不足:照合前に情報を揃える
発注・検収情報の不足が大きい場合は、請求書と照合する前に、発注の単価と数量、受領した数量が経理から見える状態にしておくことが対策になります。
発注部署への依頼は、「注意してください」ではなく、何を、いつまでに、どこへ残してほしいかで伝えます。
たとえば、発注した単価と数量を発注書の控えとして決まった場所に置く、納品を受けたら受領日と数量を記録する、単価が変わったら経理にも知らせる、といった具体的な行為です。
記録の「戻した相手」と「直した内容」の欄を集計すると、どの部署のどの情報が欠けがちかが分かります。
その集計を添えて依頼すれば、発注部署にとっても、自分たちの記録が欠けたときに経理で何が起きているかが見えます。
この対策で減るのは、照合のたびに発注担当へ問い合わせ、回答を待つ往復です。
入力・照合ミス:照合基準を決める
入力・照合のミスが大きい場合は、照合の基準を決めます。
どの項目は完全に一致しなければ戻すのか、どの項目は一定の差までなら通すのか、差がある場合は誰に確認するのかを、担当者が変わっても同じ判断になる形で書き出します。
最初の節で見たDynamics 365 Financeの照合でも、差異は設定した許容率や許容金額と比べて不一致かどうかを判定する仕組みでした2。
システムを使わない場合でも、許容する範囲を事前に決めておくという考え方は手作業の照合に応用できます。
範囲内の差額は担当者の判断で進めてよい、範囲を超えたら決まった相手に確認する、と分けておくと、担当者ごとの迷いが減ります。
ただし、範囲内の差額にも数量の一部未納や単価の改定が隠れていることがあります。
同じ取引先で範囲内の差額が続くときは明細を見直す、といった決まりも併せて置いておくと、許容範囲が見逃しの理由になるのを防げます。
この対策で減るのは、担当者ごとに判断が分かれることで起きる、承認段階での差し戻しと再照合です。
承認の曖昧さ:承認者と差し戻し先を明文化する
承認ルールの曖昧さが大きい場合は、承認者と差し戻し先を明文化します。
書き出す内容は、どの条件で誰が承認するか、承認者が不在のときは誰が代わるか、差し戻すときは誰へ、どの情報を添えて戻すか、の三つです。
差し戻しの際に「何が足りないか」を書き添える決まりがあるだけでも、受け取った側が承認者に聞き返す往復を減らせます。
明文化した決まりは、経理の中だけでなく承認者と発注部署にも共有します。
決まりが一人の担当者の頭の中にしかない状態では、その人が休んだ月に手戻りが増えやすくなります。
効果を次月の件数・分数で確かめる
対策を始めたら、翌月も同じ項目で記録を続け、同じ原因の件数と分数を前の月と比べます。
件数が減っていれば対策が効いている可能性があり、変わらなければ、原因の見立てか対策の当て方を見直します。
見ておきたいのは件数だけではありません。
取引先の記載不備のように受領時の確認を始めると、件数は同じでも見つかる工程が承認から受領へ移り、1件あたりの分数と関与者数が減ることがあります。
これは不備がなくなったのではなく、戻る距離が短くなったという変化で、工数の数字にはきちんと表れます。
反対に、ある原因の件数が減った代わりに別の原因が増えた場合は、記録の付け方が変わったのか、問題が別の工程へ移ったのかを、直した内容の欄から確かめます。
月ごとの請求書の量や締めの重なりで数字は揺れます。
一度の比較だけで効果を言い切らず、その月に処理した請求書の件数も並べて示すと、上司への説明が正確になります。
| 原因の分類 | 着手する対策 | 減らしたい往復 | 次月に確かめること |
|---|---|---|---|
| 取引先の記載不備 | 受領時の確認項目を決めて取引先と共有する | 承認後に取引先へ戻す往復 | 同じ原因の件数と見つかった工程 |
| 発注・検収情報の不足 | 照合前に発注単価と受領数量を揃える | 発注担当への問い合わせと回答待ち | 同じ原因の件数と1件あたりの分数 |
| 入力・照合のミス | 照合基準と許容範囲を決める | 担当者ごとの判断違いによる再照合 | 承認段階での差し戻し件数 |
| 承認ルールの曖昧さ | 承認者と差し戻し先を明文化する | 承認者からの聞き返し | 関与者数と1件あたりの分数 |
ルール見直しとシステム化は、前提条件で比べる
比較の軸:前提データ・運用変更の量・効く工程
原因別の対策を考えていくと、業務ルールを見直すだけで足りるのか、照合を自動化するシステムを使うべきかという判断に行き当たります。
この二つはどちらか一方を選ぶものではなく、同じ業務の中で併用できます。
比べるときは、製品の機能の多さではなく、前提となるデータや形式、運用を変える量、手戻りに効く工程、効果の確かめ方の4つで見ると、自社の記録と結び付けやすくなります。
表の中で判断が分かれるのは、手戻りに効く工程の行です。
照合の自動化が直接扱うのは、請求書と発注・受領の情報の食い違いです。
取引先の記載不備や承認ルールの曖昧さが工数の上位にある会社では、照合を自動化しても、その原因の手戻りは残ります。
自社の記録で、発注・検収情報の不足や照合のミスが工数全体のどれだけを占めているかが、システム化を検討する優先度の目安になります。
3点照合に必要な情報と許容範囲の考え方
3点照合は、請求書、発注書、受領(検収)の記録の三つを突き合わせる確認です。
Dynamics 365 Financeのスリーウェイ・マッチングでは、請求書の価格を発注書と、請求数量を製品受領書の数量と照合し、許容率や許容金額は設定で定めます2。
この仕組みが動くには、発注書と製品受領の情報が電子的に入力されていることが前提です2。
言い換えると、発注をメールや電話で済ませ、検収は納品書への押印だけ、という運用では、システムの中に照合の相手となるデータがありません。
機能として照合が用意されていることと、自社のデータでその照合が動くことは別の話です。
また、許容率や許容金額をいくつに置くかはシステムが決めてくれるものではなく、前の節で触れた照合基準をどう決めるかという、ルールの問題がそのまま残ります。
前提が欠けるときの優先度
発注と受領の情報が電子で揃っていない場合は、まずルールの見直しから始め、その中に発注・検収の記録を残す決まりを含めておくのが現実的です。
受取ルール、承認経路、照合基準を整え、発注単価や受領数量が決まった形で残るようになってから照合の自動化を検討すれば、システムに渡すデータが最初から揃います。
紙での受領が中心の職場では、この順番がより重みを持ちます。
先に挙げたSansanの調査では、受け取る請求書の半数以上が紙だと答えた人が大半を占め、請求書関連の業務のために出社が必要だと答えた人も多くいました3。
これは2021年1月時点の回答で、現在の電子化の状況を示すものではありません。
ただ、紙が前提になっている職場で、データを揃える段階を飛ばしてシステム化だけを進めても照合の相手がない、という構造はいまも変わりません。
反対に、発注と受領の情報がすでにシステムに入っていて、工数の上位が照合の不一致であれば、ルールの見直しと並行して照合の仕組みを検討する意味があります。
| 比べる軸 | 業務ルールの見直し | 照合のシステム化 |
|---|---|---|
| 前提となるデータ・形式 | 紙・PDFのままでも始められる | 発注と受領の情報が電子で入力されていること |
| 運用変更の量 | 受取ルール・承認経路・照合基準を決めて共有する | 照合基準の決定に加え発注・検収の入力手順も変わる |
| 手戻りに効く工程 | 受領・照合・承認の各工程 | 主に発注・検収との照合 |
| 確かめ方 | 翌月の同じ原因の件数と分数 | 照合不一致の件数と手作業で直した分数 |
自社の状況別に、進める順番を決める
受領形態(紙・PDF)による違い
最後に、ここまでの原因、工数、前提条件を、自社の状況に当てはめて進める順番を考えます。
見るのは、請求書の受け取り方、発注・受領データの有無、承認者の数の三つです。
以下は状況ごとの考え方の例で、効果が裏づけられた手順ではないため、自社の試算と翌月の記録で見直す前提で使います。
紙での受領が中心の場合、受領時の確認は開封した人の目視になります。
開封する人が記載事項の確認項目を手元に置き、その場で欠けている項目に気付けるようにすることが、最初の一歩になります。
紙の回覧の中では記録も抜けやすいため、差し戻しの記録表を受領の窓口に置き、戻すたびに書く場所を一つに決めておくと集計が楽になります。
PDFやメールでの受領が中心の場合は、届く窓口が担当者ごとに分かれていることが手戻りの起点になることがあります。
受け取るアドレスや保存場所を決める受取ルールを先に整えると、請求書が見つからない、二重に処理される、といった確認の手間を減らせます。
記載内容の確認項目を共有する対策は、紙の場合と同じように使えます。
発注・受領データの有無による違い
発注・受領のデータが電子で揃っていない場合、照合を前倒しする手段はシステムではなく、発注部署との決まりになります。
発注書の控えと検収の記録を、請求書が届く前に経理が参照できる場所へ置いてもらうことが、3点照合を手作業で早めるための条件です。
この段階では照合の自動化は後に回し、受取ルールと承認経路、照合基準の整理を先に進めます。
データが揃っている場合は、照合の仕組みの検討を前倒しできます。
そのときも、許容範囲をどこに置くか、不一致になったら誰に戻すかは、ルールとして先に決めておく必要があります。
自社の記録で照合の不一致が工数の上位にあることを示せれば、検討を提案するときの根拠になります。
承認者の数による違い
承認者が多い会社では、承認の段階で見つかった不備がそれぞれの承認者を巻き込むため、関与者数が大きくなり、1件の手戻りの工数が膨らみます。
承認者と差し戻し先の明文化、差し戻し時に添える情報の決まりを、ほかの対策より先に置く理由になります。
承認より前の工程で不備を見つけるほど承認者の手を煩わせずに済むため、受領時の確認や照合基準とも組み合わせます。
承認者が少ない会社では、関与者数は小さくても、承認が一人に集中していることで、その人が不在の月に書類が止まりやすくなります。
代わりに承認する人を決めておくことが、優先度の高い対策になります。
実際の職場では、三つの状況のどれか一つに当てはまるのではなく、組み合わさっています。
紙での受領が中心で、発注データがなく、承認者が多い会社であれば、受領時の確認項目、発注・検収の記録の置き場所、承認と差し戻しの決まりというルールの整備が先に来ます。
どの順で進めるにしても、着手の根拠は自社で記録した原因別の工数であり、翌月の記録を見て順番を入れ替えることもあります。
| 自社の状況 | 先に進めること | 次の段階で検討すること |
|---|---|---|
| 紙での受領が中心 | 受領時の確認項目と差し戻し記録の置き場所を決める | 受領の形の見直し |
| PDF・メールでの受領が中心 | 受け取る窓口と保存場所を決める受取ルール | 受領時の確認項目の共有 |
| 発注・受領データが電子で揃っていない | 発注書の控えと検収記録を残す決まり | 照合の自動化 |
| 発注・受領データが電子で揃っている | 照合基準と許容範囲の決定 | 照合の仕組みの検討 |
| 承認者が多い | 承認者と差し戻し先と添える情報の明文化 | 承認前の工程での確認の強化 |
| 承認者が少ない | 承認者の代理の決定 | 承認経路の見直し |
差し戻しの記録を取り始めても、どの原因に振り分けるか、関与者数をどう数えるかで迷うと、集計の前提がぶれて上司への説明に使いにくくなります。
手元の差し戻し記録をもとに、原因の振り分け方と試算の前提に無理がないかを一緒に確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 手戻りの分け方 | 見つかった工程と原因の工程を別に記録し、4つの原因に振り分ける |
| 工数の出し方 | 件数×1件あたりの修正時間×関与者数を原因別に集計する |
| 外部調査の約53分 | 請求書処理全体の平均で、手戻り工数の代わりにしない |
| 着手の順番 | 原因別の工数が大きい順に、不備が生まれる工程に近い対策から |
| システム化の前提 | 発注と受領の情報が電子で揃っているか |
| 効果の確かめ方 | 翌月の同じ原因の件数・分数・見つかった工程を比べる |
原因別の工数が出た後、ルールの見直しから進めるか照合の仕組みを検討するかは、発注・受領データの揃い方や承認体制によって変わり、社内だけでは判断しにくいことがあります。 自社の受領形態、発注・受領データの有無、承認者の数を踏まえて、どの対策から着手するかの順番を整理できます。
よくある質問
手戻りの件数や時間を記録する時間が取れないとき、最小限どの項目から記録すればよいですか。
まずは「見つかった工程」「原因の分類」「戻した相手」「手を動かした分数」の四つに絞ると、原因別の工数のおおよその大きさをつかめます。
関与者数や直した内容は、上位に来た原因だけ後から書き足しても、優先順位の判断には間に合います。
記録表を受領の窓口など戻すたびに目に入る場所に置き、差し戻した直後に一行だけ書く形にすると、まとめて思い出す手間が省けます。
取引先に請求書の記載の修正を依頼しにくい場合、受領時点の確認をどう進めればよいですか。
取引先に何かを求める前に、自社で受領した時点に確認項目を当てる運用から始められます。
承認の段階ではなく受領直後に気付ければ、同じ依頼でも社内を一巡させずに済み、戻る距離は短くなります。
依頼するときは、記録で実際に欠けていた項目を挙げ、「次回からこの項目の記載をお願いします」と今後の話として伝えると、角を立てずに済みます。
すでに受け取った請求書の直し方は制度上の扱いが関わるため、社内の税務担当や顧問税理士と相談してから依頼の仕方を決めます。
発注データが電子化されていない会社でも、3点照合を前倒しできますか。
自動照合という意味での前倒しは難しいですが、手作業の照合なら前倒しできます。
発注書の控えと検収の記録を、請求書が届く前に経理が参照できる決まった場所へ置いてもらえば、請求書の到着時点で価格と数量を突き合わせられます。
照合の自動化は、発注と受領の情報が電子で揃ってから検討する順番が現実的です。
差し戻しの原因が発注部署の情報不足のとき、経理側から何を依頼すればよいですか。
「気を付けてください」ではなく、何を、いつまでに、どこへ残してほしいかを具体的に依頼します。
発注した単価と数量の控え、受領日と受領数量の記録、単価が変わったときの連絡などです。
差し戻し記録の「戻した相手」と「直した内容」を集計し、どの情報が欠けたときにどれだけの往復が起きたかを添えると、依頼の理由が伝わりやすくなります。
工数の試算結果を上司に説明するとき、どの数字と前提を併せて示せばよいですか。
原因別の件数、1件あたりの修正時間、関与者数、その掛け算の結果を並べ、記録した期間、時間の測り方、取引先の再発行待ちの日数を工数に含めていないことを添えます。
関与者数を掛けた簡略版で出した場合は、その旨も書いておきます。
記録した月に決算などの事情があれば前提として書き、その月に処理した請求書の件数も並べると、数字の大きさを判断しやすくなります。
外部調査の処理時間は請求書処理全体の平均で、手戻りの時間とは定義が違うことも区別して伝えます。
許容範囲(価格差・数量差)を設ける場合、どの単位で決めればよいですか。
Dynamics 365 Financeの照合では、許容率と許容金額という二つの物差しで差異を判定する仕組みが用意されています。
手作業の運用でも、割合だけ、金額だけで決めると、少額の請求書と高額の請求書で判断がずれることがあるため、両方を見る考え方は参考になります。
取引先ごと、品目ごと、請求書全体のどの単位で決めるかに一律の答えはないため、記録で差額が出ている単位から決め、経理だけでなく承認者とも合意しておくと運用がぶれにくくなります。
- 1 出典:国税庁「No.6625 適格請求書等の記載事項」(2026年)
- 2 出典:Microsoft「買掛金勘定の請求書照合の概要(Dynamics 365 Finance)」(2026年)
- 3 出典:Sansan株式会社「請求書に関する業務の実態調査2021」(2021年)
- 4 出典:株式会社ミロク情報サービス MJS税経システム研究所「中小企業の経理担当者の働き方&実務の困りごと実態調査」(2024年)
画像の出典元
- Two professionals collaborating on financial documents in a modern office setting./Photo by Artem Podrez on Pexels