◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 手書き注文書の転記ミスは主に読み取りと入力のあいだで起き、確認の電話は読み取りで判断がつかないときに生まれるため、まず工程ごとに取引先別に数える。
- 取引先に送り方を変えてもらう方法と自社側で受け口を整える方法は、取引先の負担と自社に残る確認作業の兼ね合いで選び、組み合わせてもよい。
- 移行は取引量か頻度が多く対応力もある取引先から段階的に進め、手書きしか使えない取引先は様式をそろえて受け、見直す時期を決める。
- 依頼では操作の変化・取引先の費用・手書きを併用できる期間を示す。補助金の電子取引類型は発注側から受注側へ無償アカウントを出す形で、受注側の申請範囲は公募要領で確かめる。
- 並行期間は注文頻度の低い取引先の注文が一巡する長さを下限に自社の基準で終え、効果は移行前と同じ項目・期間で比べる。
目次

手書き注文書で、どの工程が転記ミスと確認の電話を生んでいるか
朝、FAXで届いた手書きの注文書を読み、品番や数量を社内の台帳へ打ち直す。
読みにくい字があれば取引先へ電話で確かめ、締め間際には入力が重なる。
手書きの注文書から移行したくても、長く付き合う取引先に新しいやり方を頼むのは気が引けるものです。
ただ、全取引先を一度に切り替える必要はありません。
最初に、受け取りから保管までのどの工程で手間とミスが出ているかを切り分けます。
次に、取引先に送り方を変えてもらう方法と、自社側で受け口を整える方法を、取引先の負担・自社の負担・導入条件で比べます。
そのうえで、対応しやすい取引先から手書きと並行して始め、手書きが残る相手は期限を決めて別に扱います。
受け取り・読み取り・入力・確認・保管の5工程
中小企業庁のミラサポplusは、手書きやFAXで受発注する場合の課題として、手入力での転記が必要になり、ミスや書類紛失のリスクがあることを挙げています1。
これは手書き・FAXというやり方に伴う一般的な課題で、自社でどれくらい起きているかまでは分かりません。
同じ「ミスが多い」という悩みでも、どこで生まれているかによって打つ手が変わるため、注文書が届いてから保管されるまでを工程に分けて見ていきます。
たとえば、取引先からFAXで手書きの注文書が届き、事務担当者が受注台帳や販売管理の画面へ入力している会社を考えます。
1枚の注文書は、おおよそ次の5つの工程を通ります。
<ul><li>受け取り:FAX機や郵便から注文書を取り出し、どの取引先の注文かを仕分ける</li><li>読み取り:手書きの品名・品番・数量・納期・納品先を読む</li><li>入力:読んだ内容を受注台帳や販売管理の画面へ打ち込む</li><li>確認:読めない字や在庫と合わない数量を取引先に電話で確かめ、出荷前に照合する</li><li>保管:紙の注文書を綴じて残し、問い合わせがあったときに探し出す</li></ul>
転記のミスが生まれるのは、主に読み取りと入力のあいだです。
「1」と「7」、「0」と「6」の読み違い、行の読み飛ばし、別の取引先の単価での入力などは、紙の字を目で追って別の画面へ打ち直すから起きます。
確認の電話は、読み取りの段階で担当者が判断できないときに生まれます。
字がかすれている、品番の書き方が取引先ごとに違う、といった場面です。
一方、注文書がほかの書類に紛れる、綴じた後に見つからないといった問題は、受け取りと保管の工程で起きます。
工程を分けると、解決したいことの中身が具体的になります。
読み取りで迷うことが原因なら、取引先に書いてもらう欄をそろえるだけでも電話が減る余地があります。
入力の量そのものが重いなら、注文をデータで受け取る方法が効いてきます。
紛失が問題なら、受け取った時点で記録を残す仕組みが先です。
次の節で方法を比べる前に、自社の困りごとがどの工程に偏っているかを決めておくと、比べる基準がぶれません。
自社で数える指標
工程ごとの偏りは、感覚よりも数で見たほうが判断を誤りません。
担当者が「確認の電話が多い」と感じていても、実際には特定の数社に集中していることもあれば、締め間際の数日だけ増えていることもあります。
どちらなのかで、先に手を付ける取引先も方法も変わります。
数える項目は、次のようなものが考えられます。
<ul><li>取引先ごとの注文書の枚数</li><li>確認の電話の回数と、その理由(読めない字、品番の書き方、数量の食い違いなど)</li><li>入力後に見つかった誤りの件数と、どの工程で起きたか</li><li>注文書1日分の入力にかかったおおよその時間</li><li>注文書を探した回数や、見つからなかった件数</li></ul>
記録は、取引先別に分けて残しておくのが要点です。
どの取引先から移行するかを決めるときに、この取引先別の枚数と電話の回数がそのまま判断材料になります。
期間は、月末の締めのように注文が集中する時期を含めておくと、普段は見えない入力の詰まりも記録に残ります。
移行が終わった後にも同じ項目で数え直すことになるため、最初に項目を決めたら途中で変えないようにします。
数え終えたら、解決したいことを一文にしてみます。
「取引先Aからの毎日の注文の打ち直しをなくす」と「読めない注文書による確認の電話を減らす」では、選ぶ方法が違ってきます。
前者は注文をデータで受け取る方向、後者は注文書の書き方や受け取り方を整える方向が先に候補になります。
取引先に変えてもらう方法と、自社側で受け口を整える方法の違い
取引先に変えてもらう方法
一つ目は、取引先が注文を出す手段そのものを変えてもらう方法です。
受発注ソフトの画面から注文してもらう、あるいは企業間で受発注のデータをやり取りする共通の取り決めを使ってもらう、といった形があります。
この共通の取り決めはEDI(電子データ交換)と呼ばれ、中小企業向けには「中小企業共通EDI」の標準仕様があります。
標準仕様書は注文メッセージとして全135項目を定め、そのうち業務アプリケーションに対応を求める最低限の項目を13項目としています1。
取引先の入力した内容が項目に分かれたデータで届けば、自社で紙を読んで打ち直す工程は小さくなります。
前の節で見た読み違いや確認の電話は、その工程から生まれていたものです。
その代わり、取引先には新しい画面の操作を覚えてもらう必要があり、自社にもデータを受け取って受注台帳や販売管理へ取り込む準備が要ります。
今使っている販売管理と受け取ったデータをどうつなぐかは、使っているソフトによって変わります。
13項目という数字は、標準仕様として業務アプリケーションに求める最低限の範囲で、個々のソフトがどの項目まで扱えるかを示したものではありません。
ただ、注文をデータでやり取りするなら、取引先と自社のあいだで「どの項目を必ず埋めるか」を決めておく必要があるという考え方は、手書きの注文書を見直すときにも役立ちます。
いまの注文書で取引先ごとに書き方がばらついている欄が、データ化しても迷いが残る欄になるからです。
自社側で受け口を整える方法
二つ目は、取引先には今までどおり手書きの注文書をFAXや紙で送ってもらい、受け取った自社の側で電子化する方法です。
FAXを紙に出さずにデータとして受ける、手書きの文字を読み取る仕組み(OCR)で入力の下書きを作る、自社で用意した様式に書いてもらう、といった手当てがこれに当たります。
この方法の強みは、取引先の操作がほとんど変わらないことです。
取引先に新しい画面を覚えてもらう必要がなく、依頼のハードルは低くなります。
一方で、手書きの字のばらつきは自社の側で引き受けることになります。
読み取った結果が正しいかを人が確かめる作業は残り、読めない字があれば確認の電話も残ります。
読み取りの精度や費用は製品と注文書の書き方によって違うため、実際に届いている注文書で試してみないと判断できません。
後で触れる補助金の電子取引類型は、発注側が受注側へ無償でアカウントを発行できるクラウド型の受発注ソフトを対象としています2。
手書きのまま届く注文書を自社で電子化する仕組みは、この類型の対象ツールには当たりません。
どちらの方法を選ぶかで、この補助金を検討できるかどうかが分かれる点も念頭に置いておきます。
3軸の比較表
2つの方法を、取引先の負担・自社の負担・導入条件に、移行後も残る手作業を加えて並べると次のようになります。
判断が分かれるのは、取引先の負担をどこまで許せるかと、自社に確認作業が残ってもよいかの兼ね合いです。
注文の大半が少数の取引先から来ているなら、その相手にだけ一つ目の方法をお願いすれば、転記の大部分を減らせる見込みが立ちます。
反対に、少量の注文を出す取引先が数多くいる場合は、一社ずつ依頼する手間が大きく、二つ目の方法で受け口をそろえたほうが早いこともあります。
2つの方法は、どちらか一方に決める必要はありません。
取引量の多い取引先にはデータで送ってもらい、残りの手書きは自社側で受け口を整える、という組み合わせも取れます。
そうなると、どの取引先をどちらに振り分けるかが次の判断になります。
| 観点 | 取引先に変えてもらう方法 | 自社側で受け口を整える方法 |
|---|---|---|
| 取引先の負担 | 新しい画面や送り方を覚える。契約や費用が生じる場合がある | 送り方はほぼ変わらない |
| 自社の負担 | 依頼と説明。データの受け取りと取り込みの準備 | 電子化の仕組みの準備と、読み取り結果の確認 |
| 導入条件 | 取引先の同意と、やり取りする項目の取り決めが要る | 自社だけで始められる。実際の注文書で読み取れるかを試す必要がある |
| 残る手作業 | 移行しない取引先の分と、操作に慣れるまでの確認 | 読み取り結果の確認と、読めない字の問い合わせ |
どの取引先から移行し、どの取引先は手書きのまま残すか
先に動く取引先の条件
ミラサポplusは、企業間でEDIを導入する際に、取引先企業と共通認識を持ち、連携を取りながら取り組むことを求めています1。
受発注のやり方は自社だけでは完結せず、相手の協力がなければ動きません。
ただ、どの取引先から、どんな順で進めるかの手順までは示されていません。
ここから先の順番の付け方は、記事としての提案です。
取引先を並べる軸として、取引量、注文の頻度、ITへの対応力の3つを使います。
取引量と頻度は、最初の節で数えた取引先別の枚数からそのまま分かります。
ITへの対応力は数では測りにくいものの、すでにメールで見積もりや請求のやり取りをしているか、注文を担当する決まった人がいるか、といった日ごろのやり取りから見当がつきます。
先に動いてもらう候補は、取引量か頻度が多く、対応力もある取引先です。
転記の量が大きい相手ほど、移行したときに減る打ち直しが多く、注文の回数が多いぶん並行運用で確かめられる機会も早くそろいます。
取引量は多いのに対応力に不安がある取引先は、すぐに依頼せず、自社側の受け口で手当てしながら、時間をかけて話を進める相手として分けておきます。
一斉に切り替えるか、段階的に進めるかについては、段階移行を基本に考えるのが無理の少ない進め方です。
全取引先を同じ日に切り替えると、手書きしか使えない取引先には、取引の方法を急に変えてもらうか、例外として扱うかを迫ることになります。
ただし、取引先が数社しかなく、どこも新しい方法に対応できると分かっているなら、一斉に切り替えたほうが並行運用の管理が一度で済み、かえって簡単なこともあります。
当面手書きを残す取引先の扱い
手書きのまま残す取引先は、何もしないで置いておく相手ではありません。
手書きで届く注文が残る限り、その分の読み取りと入力は続くため、受け口の側を整えておく必要があります。
たとえば、品番・数量・納期・納品先の欄を決めた注文書の様式を渡して使ってもらうと、取引先の書き方はほとんど変えずに、読み取りで迷う箇所を減らせます。
FAXを受け取る担当者と、読めない字があったときに誰がどう確かめるかを決めておくと、確認の電話がその都度だれかの判断任せになるのを防げます。
残す取引先にも、見直す時期を決めておきます。
期限といっても、その日で手書きを断るという意味ではなく、改めて新しい方法を相談する区切りのことです。
次の締めの時期や年度替わりなど、取引先にとっても区切りのよい時期に合わせると、話を切り出しやすくなります。
その時点で先に移行した取引先の様子が分かっていれば、「操作はこのくらいで済んだ」と具体的に伝えられます。
取引先から見て一番気になるのは、手書きのままだと取引に差が付くのではないかという点です。
当面は手書きでも変わらず注文を受けることを最初に伝えておけば、関係を損なわずに次の機会を待てます。
取引先に依頼するとき、何を伝え、何を用意するか
伝える3点
依頼を受ける取引先の立場に立つと、いつもの注文のやり方が変わり、費用がかかるかもしれず、いつから手書きが使えなくなるのかも分からない、という不安が一度に来ます。
頼みづらさの正体は、この不安に答える材料を自社がまだ持っていないことにあります。
そこで、依頼の最初に次の3点を示すことを提案します。
<ol><li>取引先の操作がどう変わるか</li><li>取引先に費用がかかるか</li><li>手書きをいつまで併用できるか</li></ol>
操作の変化は、言葉で説明するより、実際の画面や送り方の見本を見せたほうが伝わります。
注文1件分を一緒に入力してみる機会をつくれば、取引先は自分にできるかどうかをその場で判断できます。
費用は、取引先の側に新たな契約や支払いが必要かどうかを、依頼する前に自社で調べておきます。
自社が費用を持つのであれば、そのこともはっきり伝えます。
併用期間は、新しい方法に移った後も、一定の期間は手書きやFAXでの注文を受け付けると約束するものです。
慣れるまでの逃げ道があると分かれば、取引先は試すことに前向きになりやすくなります。
取引先にとっての利点も、自社の都合とは別に伝えられます。
読めない字や数量の食い違いを確かめる電話は、自社だけでなく、電話を受ける取引先の手も止めているからです。
転記と確認が減れば、その電話も減ることになります。
用意するものは、操作の手順を1枚にまとめた資料、困ったときの問い合わせ先、試し注文の機会、そしてやり取りする注文項目の取り決めです。
中小企業共通EDIの標準仕様が最低限の項目を定めているように、データでやり取りするなら、どの項目を必ず入れるかを先に決めておくと、取引先が入力で迷いません。
補助金で取引先の費用負担が下がる場合の条件
取引先の費用負担を下げる材料として、デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠(電子取引類型)があります。
対象となるITツールは、インボイス制度に対応した受発注機能を持つクラウド型のソフトで、発注側が受注側へ無償でアカウントを発行できるものです2。
補助率は中小企業・小規模事業者等で2/3以内、補助額の上限は350万円以下とされています2。
対象者は、中小企業と取引する発注側の事業者(大企業を含む)と、受注側の中小企業・小規模事業者等です2。
ここで押さえておきたいのは、無償のアカウントが発注側から受注側へ渡る形になっていることです。
自社が取引先へ注文書を出している発注側であれば、自社が対象のソフトを導入し、受注側の取引先に無償のアカウントを発行する形になり、取引先の費用負担を下げる説明の材料になります。
反対に、自社が手書きの注文書を受け取っている受注側の場合、注文を出す取引先が発注側です。
この場合、取引先が対象のソフトを導入すれば自社がアカウントを受け取る側になり、自社が導入して取引先の利用を無償にするという形とは向きが逆になります。
受注側の自社が申請者として何を導入できるのかは、公募要領で確かめる必要があります。
また、無償のアカウントを発行できることと、取引先がまったく費用をかけずに使えることは同じではありません。
どこまでが無償の範囲かは製品ごとの条件と公募要領で確かめ、取引先に伝える際も「アカウントは無償で発行できる」という確かな範囲にとどめておくほうが、後で食い違いが出ません。
期限にも注意が要ります。
申請期間は2026年3月30日に始まり、6次締切は2026年10月30日17:00、交付決定予定は2026年12月10日です2。
これは2026年10月時点の公開情報で、その後の変更は事務局の案内で確かめることになります。
補助金を待つことで移行全体が止まらないよう、補助が受けられなかった場合でも進められる範囲、たとえば手書きの様式の統一や取引先別の記録は先に始めておくと、締切に日程を左右されずに済みます。
手書きと新方式の並行期間をどう決め、いつ手書きを終えるか
突き合わせの方法
並行運用とは、新しい方法で注文を受け始めた後も、しばらく手書きの注文書と照らし合わせて、新しい方法の注文に抜けや誤りがないかを確かめる期間のことです。
取引先が操作に慣れないうちは、数量の桁の打ち間違いや、似た品番の選び間違い、送信したつもりで届いていない注文が起こり得ます。
手書きのときには起きなかった種類の誤りなので、新しい方法だけに切り替えてしまうと、出荷の段階まで気づかないおそれがあります。
突き合わせのやり方は、取引先の負担をどこまでかけられるかで選びます。
<ul><li>新しい方法で送ってもらい、同じ注文をこれまでどおり手書きやFAXでも送ってもらう</li><li>新しい方法だけで送ってもらい、自社が受け付けた注文の一覧を取引先へ返して確かめてもらう</li></ul>一つ目は確実ですが、取引先に二重の手間をかけるので、短い期間に限るのが前提です。
二つ目は取引先の手間が少ない代わりに、返した一覧をきちんと見てもらえる関係があることが条件になります。
照らし合わせる項目は、品番、数量、納期、納品先など、誤ると出荷に直接響くものに絞ります。
食い違いが見つかったら、どちらの内容で出荷するかをその場で決めるのではなく、出荷する前に取引先へ確かめると事前に決めておきます。
食い違いの件数と、どちらが正しかったか、原因が取引先の入力か自社の取り込みかを記録しておけば、終了を判断する材料になります。
終了条件の置き方
並行期間の適切な長さは、取引先ごとの注文頻度によって変わります。
そこで、注文頻度の低い取引先の注文が少なくとも一巡する長さを、下限の目安として置くことを提案します。
毎日注文してくる取引先なら数週間で多くの注文を突き合わせられますが、月に一度しか注文しない取引先は、1か月たっても1回分しか確かめられません。
月末の締めに注文が集まるなら、締めを一度はまたぐ期間を見ておくと、注文が重なったときの誤りも拾えます。
終える判断は、日数ではなく自社で決めた基準で置きます。
たとえば「突き合わせで食い違いのない注文が続いた」「抜けや誤りの件数が、最初の節で数えた手書きのときの件数を下回った」といった基準です。
何件続けば終えてよいかは注文の重みによって違うため、出荷の誤りが大きな損失につながる取引先ほど基準を厳しくしておきます。
基準に届かない取引先は、期間を延ばすか、操作の説明をやり直してから改めて突き合わせます。
手書きを終える日は、取引先に前もって伝えます。
あわせて、終了後に手書きやFAXの注文が届いた場合にどうするか、受け付けたうえで新しい方法を改めて案内するのか、といった例外の扱いも決めておきます。
急ぎの注文が手書きで届いて受け取りを断るような事態になれば、移行そのものへの信頼が揺らぐからです。
移行後に抜け・誤りが減ったか、どう確認して定着させるか
移行前後で比べる指標
効果を確かめるときは、最初の節で数えたのと同じ項目、同じ長さの期間で比べます。
取引先別の確認の電話の回数、入力後に見つかった誤りの件数、入力にかかった時間、注文を探した回数です。
締めの時期を含めて数えたのであれば、移行後も締めを含めて数えないと、注文の少ない時期の数字と比べることになってしまいます。
公的な実証では、中小企業共通EDIを導入した12のプロジェクトで、中小企業の受発注業務時間が平均して51.4%減ったと報告されています1。
ただし、これは企業間でEDIを導入した実証の平均で、手書きの注文書の転記だけを置き換えたときの削減率ではありません。
実証の条件も自社とは違うため、自社の目標値や見込みとしては使えません。
受発注にかかる業務時間が効果を測る指標として扱われていることの参考にとどめ、自社では自社の移行前の数字と比べます。
数字が思うように下がらないときは、どの工程で誤りが残っているかを見直します。
取引先の入力の段階で品番の選び間違いが続いているなら、操作の説明や項目の取り決めを直す余地があります。
自社でデータを取り込む段階で誤っているなら、取り込みの手順を見直します。
残っている手書きの取引先の分が確認の電話の大半を占めているなら、見直す時期を決めておいたその取引先に、改めて相談する材料になります。
測る、比べる、手順を直す、また測るという繰り返しの中で、新しい方法が社内の通常の手順として定着していきます。
保管で確認すること
移行すると、注文が紙で届く取引先とデータで届く取引先が混在します。
最初の節で見た保管の工程は、移行で終わるのではなく、紙とデータの二本立てに変わります。
問い合わせがあったときに、どの取引先の注文がどこにあるかを探せるよう、紙の綴じ方とデータの保存場所、探すときの手がかり(取引先名、注文日、注文番号など)をそろえておきます。
データで受け取った注文をどのように保存するかは、電子帳簿保存法との関係を確かめておく必要があります。
どのような保存が求められるか、FAXで受けた注文書がどの扱いになるかは、実際の受け取り方と保存のしかたを踏まえて判断することになるため、ここでは断定しません。
国税庁の一次資料を確かめ、実際の受け取り方を顧問税理士に伝えて相談するのが確実です。
並行運用の期間は、同じ注文が手書きとデータの両方で手元に残ります。
どちらを注文の記録として残すのかを決めておかないと、後で内容を確かめるときに二つを見比べることになります。
並行期間の扱いも保存の相談のときにあわせて確かめておくと、移行が終わった後の整理が楽になります。
取引先ごとの事情と自社の注文の流れを並べて見ないと、どこから手を付けるかは決めにくいものです。
現在の注文書の受け取りから入力までの流れと取引先別の件数をもとに、先に移行を相談する取引先と、自社側で受け口を整える範囲の案を確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 困りごとの切り分け | 受け取り・読み取り・入力・確認・保管のどこで手間とミスが出ているかを、取引先別に数えて決める |
| 方法の選び方 | 取引先の負担を許せるなら送り方を変えてもらう。取引先の操作を変えたくないなら自社側で受け口を整え、確認作業が残ることを見込む |
| 移行の順番 | 取引量か頻度が多く、対応力もある取引先から。手書きしか使えない取引先は様式をそろえて受け、見直す時期を決める |
| 依頼で伝えること | 操作の変化、取引先の費用、手書きを併用できる期間 |
| 補助金 | 電子取引類型の無償アカウントは発注側から受注側へ渡る形。受注側で申請できる範囲と締切は公募要領と事務局の案内で確かめる |
| 並行期間と終了 | 注文頻度の低い取引先の注文が一巡する長さを下限に、自社で決めた基準で終える |
| 効果の確認と保管 | 移行前と同じ項目・期間で比べる。データの保存は国税庁の資料と顧問税理士で確かめる |
依頼の伝え方や並行期間の基準は、取引先との関係や注文の重みによって変わるため、自社だけで決めると迷いが残りがちです。 取引先に示す3点の内容と、並行運用の突き合わせ方・終了の基準を、自社の取引先に当てはめて整理できます。
よくある質問
FAXで届く注文書は、電子帳簿保存法の電子取引に当たるのか
この点は国税庁の一次資料での確認が必要で、ここでは断定しません。
電子取引に当たるかどうかは、国税庁の資料を確かめたうえで、自社が実際にFAXをどう受け取り、どう保存しているかを顧問税理士に伝えて判断するのが確実です。
FAXの受け取り方を変えることを検討しているなら、変える前に相談しておくと、移行後に保存の手順を決め直さずに済みます。
取引先がITに不慣れで、手書きしか対応できない場合はどうするか
無理に切り替えてもらわず、当面は手書きで受ける取引先として扱います。
品番・数量・納期・納品先の欄を決めた注文書の様式を渡す、FAXを受け取る担当者と確認の手順を決める、といった自社側の手当てで、読み取りの迷いを減らせます。
そのうえで見直す時期を決めておき、先に移行した取引先の様子を伝えながら改めて相談します。
手書きでも変わらず注文を受けると伝えておくことが、関係を保つうえでの前提になります。
受注側の自社が補助金を使って受発注ソフトを入れることはできるか
デジタル化・AI導入補助金2026のインボイス枠(電子取引類型)は、対象者に受注側の中小企業・小規模事業者等を含めています2。
ただし、対象のITツールは発注側が受注側へ無償でアカウントを発行できる受発注ソフトで、アカウントは発注側から受注側へ渡る形です2。
受注側の自社が申請者として何を導入でき、取引先からの注文の受け取りにどう使えるのかは、公募要領で確かめる必要があります。
6次締切は2026年10月30日17:00で2、その後の変更は事務局の案内で確かめてください。
並行運用中に、手書きとデータの内容が食い違ったらどちらを正とするか
どちらを正とするかは、並行運用を始める前に取引先と取り決めておくことをおすすめします。
その場でどちらかに決めて出荷すると、誤っていた場合に取引先との認識がずれたまま残ります。
食い違いが見つかったら出荷する前に取引先へ確かめる、という手順を先に合意しておけば、判断に迷う場面を減らせます。
食い違いの件数と原因は記録し、手書きを終える判断の材料にします。
自社が発注側で、取引先へ手書きの注文書を出している場合の進め方は
工程の切り分けは同じで、自社の側では注文書を書く・送る・控えを残す、取引先の側では受け取る・読む・入力するという流れに読み替えます。
手書きの読み違いや確認の電話は取引先の側で起きているため、どこで手間がかかっているかを取引先に聞くところから始めると、移行の目的を共有しやすくなります。
補助金の電子取引類型は、発注側が受注側へ無償でアカウントを発行できる受発注ソフトを対象としているため2、取引先の費用負担を下げる説明の材料になります。
その場合も、無償の範囲と申請の条件は製品の条件と公募要領で確かめてから伝えます。
- 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年公開・2026年3月最終更新)
- 2 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(デジタル化・AI導入補助金事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 インボイス枠(電子取引類型)」(2026年度)
画像の出典元
- Businessperson typing on a laptop in an office setting with documents and pen./Photo by Jack Sparrow on Pexels