◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸価格の改定通知の日数を一律に定めた法令は、確認できた範囲では見当たりません。期限は取引基本契約と取引先との合意で決まります。
- 規格品を売る通常の卸売は取適法の対象外とされます。一方、取引先の仕様で製造した品は製造委託に当たり得るため、品目を切り分けて自社の立場を確認します。
- 契約では、通知期間、合意の要否、みなし承諾、発注済み分の扱いを取引先別に読み比べ、日程の下限を決めます。
- 原価を要素別に分けて変動と改定幅を対応させ、根拠の確定・事前の打診・正式な通知・交渉期間・適用日の順に逆算します。
- 通知から合意までを取引先別の台帳に残し、所要期間や取引先の反応を次の改定の逆算に使います。
目次

卸価格の改定通知に「何日前まで」と決めた法令はあるか
原材料や物流費が上がり、卸価格を改定したい。
ところが、取引先への通知を改定日の何日前に出せばよいのか分からず、社内の日程が組めない。
この場面でまず押さえたいのは、日数を決めているのが法令ではないという点です。
確認できた公的資料の範囲では、卸価格の改定通知について日数を一律に定めた法令は見当たりません。
規格品を売る通常の取引は、取適法の対象外とされています1。
通知の期限は取引基本契約の定めと取引先との合意で決まります。
そのため、逆算の起点は自社の契約書と、取引先の発注・販売の段取りになります。
取適法が対象とする取引と、卸の通常の売買
価格改定の日程を組むとき、最初に知りたいのは「守らなければならない日数」が法令にあるかどうかでしょう。
確認できた公的資料の範囲では、卸売の価格改定について「改定日の◯日前までに通知する」と一律に定めた法令やガイドラインは見つかっていません。
ただし、見つからないことは、存在しないことの証明ではありません。
自社の業界に特有の取り決めや、取引先と交わした覚書がないかは、社内の契約管理の担当者や業界団体に確かめておくと安心です。
価格交渉のルールとしてよく名前が挙がるのが取適法です。
取適法は、委託事業者と中小受託事業者の間の取引を対象に、価格交渉への対応などを定めています。
公正取引委員会のQ&Aでは、規格品や標準品の購入は原則として取適法の対象外とされています1。
汎用性が高く、発注する側に向けた変更を加えない品の発注も、規格品の購入に当たる例として示されています1。
卸が自社で扱う商品をそのままの仕様で取引先へ売る通常の卸売は、この「規格品の売買」に近い形です。
もう一つ押さえておきたいのは、取適法の価格協議のルールが誰に向けたものかです。
Q&Aでは、委託事業者が中小受託事業者から価格交渉を求められた際に、必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めてはならないとされています1。
義務を負うのは、発注して代金を支払う側です。
卸が売る側として値上げを知らせる場面で、卸に「何日前までに通知せよ」と求める規定ではありません。
通知期限の答えを探して取適法を読み込んでも、日数は出てこないということです。
取引先が仕様を指定して作らせる取引は別扱い
同じ卸でも、取引によっては立場が入れ替わります。
取引先が仕様や規格を指定し、それに沿って製造した品を卸が納める場合です。
Q&Aでは、仕様等を指定して製造を依頼する場合は製造委託に当たるとされています1。
たとえば、取引先が指定した配合や包装で作る専用品を扱っている場合は、その品目を通常の卸売とは分けて考える必要が出てきます。
製造委託に当たる取引では、取引先が委託事業者、卸が受託する側になり得ます。
その場合、卸が価格交渉を申し入れたとき、取引先は必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めることはできません1。
要求額を受け入れないときも、取引先には理由や根拠を十分に説明する必要があります1。
卸にとってこの規定は、自社が従う義務ではなく、話し合いの場を確保する根拠として働きます。
ただし、この場合も通知の日数が法令で決まるわけではありません。
期限を決めるのが契約と合意である点は、通常の売買と変わりません。
どちらに当たるかは、仕様の指定の有無など取引の中身で決まります。
品目一覧に取引先の指定で作る品が混じっているなら、改定の日程を組む前にその品目だけを切り分けておきます。
そうすれば、交渉の場で自社の立場を取り違えずに済みます。
個別の取引が製造委託に当たるかどうかは、所管の相談窓口や弁護士に確認するのが確実です。
| 取引の形 | 取適法との関係 | 卸の立場 | 通知期限を決めるもの |
|---|---|---|---|
| 規格品・標準品をそのまま売る通常の卸売 | 原則として対象外 | 売る側として改定を申し入れる | 取引基本契約と取引先との合意 |
| 取引先の仕様で製造した品を納める取引 | 製造委託に当たり得る | 受託する側になり得る(取引先に説明の義務) | 取引基本契約と取引先との合意 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 法令の側
- 日数の定めは確認できた範囲で見当たらない
- 価格協議のルールは代金を支払う側が対象
- 通常の卸売
- 規格品の売買は原則として取適法の対象外
- 卸は売る側として値上げを知らせる
- 日数を決めるもの
- 取引基本契約の定め
- 取引先との合意
自社の取引基本契約で確認する項目
価格改定条項・通知期間・合意の要否
法令に日数がない以上、日程を左右するのは取引基本契約です。
取引基本契約は、取引先ごとに結んだ時期や雛形が違うことがあります。
そのため同じ値上げでも、ある取引先には通知を送れば足り、別の取引先には書面での合意が要る、ということが起こり得ます。
改定日を一つに決める前に、取引先別に該当する条項を読み比べるのが出発点になります。
条項を読むときに日程へ直結するのは、通知期間と合意の要否です。
「改定の◯日前までに書面で通知する」と書かれていれば、その日数が正式通知から適用日までの最低ラインになります。
一方、「双方協議のうえ合意により改定する」とあれば、通知を出しただけでは価格は変わりません。
この場合は、承諾を得るまでの期間を日程に含めて考える必要があります。
同じ「通知」という言葉でも、知らせれば効力が生じる書き方なのか、合意の申し入れにすぎない書き方なのかで、逆算に必要な期間は大きく違ってきます。
見落としやすいのが、異議申立てとみなし承諾の定め、そして個別契約との関係です。
「通知後◯日以内に異議がなければ承諾したものとみなす」という定めがあるなら、適用日はその期間が過ぎた後に置くことになります。
また、通知の時点で受けている注文や、すでに見積もりを出した案件を、旧価格と新価格のどちらで扱うかが契約に書かれていないこともあります。
その場合は通知文で境目を明記し、取引先と認識をそろえておきます。
そうしておけば、適用日の前後で請求の食い違いが起きにくくなります。
価格改定条項そのものがない契約もあります。
その場合は改定の手続きを契約に頼れないため、取引先の同意を得て価格を変えることを前提に日程を組みます。
手順は条項がある場合と同じです。
ただし、同意を得るまでの交渉期間を長めに見込み、合意した内容を書面やメールで残すところまでを一連の段取りとして扱います。
約款か個別契約かの見分け方
小口の取引先が多く、同じ取引条件を一律に示して取引している場合、その条件書が民法の「定型約款」に当たるかどうかが問題になることがあります。
民法548条の4は、定型約款の変更について定めています。
変更するときは効力発生時期を定め、変更する旨、変更後の内容、効力発生時期を適切な方法で周知しなければならないとしています3。
条文上、「相当な期間前」といった日数の要件は置かれていません3。
注意したいのは、この規定が使えるのは定型約款に当たる契約に限られる点です。
取引先と条項を個別に交渉して結んだ取引基本契約が定型約款に当たるかどうかは、契約の性質によって判断が分かれます。
この条文をそのまま当てはめられるとは限りません。
社内で整理するときは、取引先ごとに経緯を書き出しておくと、専門家に相談する際の材料になります。
書き出す点は、条項を個別に修正したことがあるか、署名した個別の契約書か、自社が一律に示した規約への同意で始まった取引か、などです。
また、仮に定型約款に当たるとしても、条文は日数を決めていません。
何日前に周知するかは、結局のところ、取引先が新価格に対応するために必要な期間から考えることになります。
そして契約の性質がどちらであっても、合意や理解を得るには、改定の理由を説明できなければなりません。
| 確認する項目 | 契約書で見る記載 | 日程への影響 |
|---|---|---|
| 価格改定条項 | 改定の手続きや協議の定めがあるか | 条項がなければ個別の合意を得る前提で組む |
| 通知期間 | 「◯日前までに通知」などの期間 | 書かれた日数が正式通知から適用日までの最低ライン |
| 通知の方法 | 書面・電子メールなどの指定 | 指定された方法で正式通知を送る |
| 合意の要否 | 通知で足りるか、承諾が要るか | 承諾を得るまでの期間を日程に含める |
| 異議申立て・みなし承諾 | 異議の期間や承諾とみなす定め | 期間が過ぎた後に適用日を置く |
| 個別契約との関係 | 発注済み・見積済みの分の価格の扱い | 旧価格と新価格の境目を通知文で明記する |
| 契約の性質 | 一律に示した規約か、個別に交渉した契約か | 定型約款の規定が使えるかは別に判断する |
▼ 図の内容を文字で読む
- 通知期間の定めがある
- 書かれた日数が正式通知から適用日までの最低ライン
- 合意により改定する
- 通知だけでは価格は変わらない
- 承諾を得るまでの期間を日程に含める
- みなし承諾の定めがある
- 異議の期間が過ぎた後に適用日を置く
- 価格改定条項がない
- 取引先の同意を得る前提で日程を組む
- 交渉期間を長めに見込む
改定の根拠を、取引先に説明できる形に整える
原価の変動を取引先が読める形にする
契約が合意を前提にしているなら、通知文の日付を決める前に、取引先が社内で値上げを通せるだけの説明を用意しておく必要があります。
通知を受け取る購買担当者も、上長や経営層に「なぜ上がるのか」「なぜこの幅なのか」を説明しなければならないからです。
説明の材料が手元にそろっていないと、取引先から追加資料を求められるたびに交渉期間が延びます。
その結果、逆算した日程が崩れていきます。
根拠の示し方を考えるうえで参考になるのが、公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」です。
指針は発注者と受注者それぞれがとるべき行動を定めています。
受注者に対しては、転嫁を要請すること、コスト上昇の具体的な根拠を示すこと、誠実に交渉へ参加することを挙げています2。
指針の主題は労務費で、労務費の比率が高い業種を重点対象にしているため、卸の原価全般にそのまま当てはまるとは限りません。
それでも、卸が受注する側として取引先に値上げを申し入れる構図は同じです。
「根拠を具体的に示して話し合う」という姿勢は、卸価格の改定でも説明の組み立てに使えます。
具体的には、改定する品目群ごとに原価を要素に分けます。
そのうえで、前回の改定時からどれだけ変わったか、そのうちどれだけを卸価格に反映するのかを対応させます。
仕入原価なら仕入先からの価格改定の通知、物流費なら運送会社からの料金改定の連絡というように、外部の書類で変動を示せる要素があります。
一方、人件費のように自社の算定でしか示せない要素もあります。
こうした要素は、総額の変化と、品目への割り振りの考え方を説明できるようにしておきます。
仕入先との取引条件を丸ごと開示するところまではせず、変動の幅と理由が取引先に読み取れる程度に整理する方法もあります。
改定幅が原価の上昇分を上回る場合は、その差の理由を先に用意しておきます。
過去の原価上昇を据え置いてきた分を今回まとめて反映するなら、いつからの上昇分なのかを示せるようにしておきます。
そうすれば、取引先が「上げすぎではないか」と受け取る余地を減らせます。
国の価格転嫁調査から読めること・読めないこと
値上げがどの程度受け入れられているのかは、国の調査である程度つかめます。
中小企業庁が2025年9月の価格交渉促進月間について行ったフォローアップ調査は、受注側の中小企業約30万社を対象にしています。
その結果、全体の価格転嫁率は約1ポイント増の53.5%でした5。
コストの要素別では、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%となっています5。
平均で見れば、コストの上昇分のうち価格へ反映できているのは半分前後にとどまるということです。
ここから卸の担当者が受け取れるのは、改定の申し入れがそのまま全額通る前提で日程や収支を組まないほうがよい、という見通しです。
要素ごとの数字に差があることは、根拠を準備する際に、どの要素の説明を厚くするかを考えるきっかけにはなります。
ただし、差が生じている理由までは調査結果から読み取れません。
また、53.5%は調査全体の数値で、卸売業だけの転嫁率ではありません5。
同じ時期の調査を掲載したJ-Net21の記事では、回答6万9988社、発注側のべ8万6538社の集計が紹介されています。
そこでは「価格転嫁してもらいやすい業種」の上位が、化学、機械製造業、卸売の順とされています4。
卸売が3位というと心強く見えますが、これは受注企業の回答をもとにした順位で、転嫁率の順位とは別の集計です4。
発注側の企業について集計したものと読む限り、卸売業の企業が仕入先からの転嫁に比較的応じていると、受注企業から見られていることを示すものです。
卸が売る側として取引先へ改定を通しやすいことを裏付けるものではありません。
二つの資料は対象も集計の仕方も異なるため、数値を掛け合わせて自社の見込みを出すことはできません。
自社の改定がどこまで通るかを考えるうえで頼りになるのは、取引先ごとの過去の交渉の経緯です。
前回の改定でどんな資料を求められ、どの程度の期間で合意に至ったかが分かれば、次の逆算の精度を上げられます。
| 原価の要素 | 変動を示す材料 | 改定幅への反映 | 取引先への示し方 |
|---|---|---|---|
| 仕入原価 | 仕入先からの価格改定の通知・請求書 | 上昇分のうち卸価格に乗せる分 | 品目群ごとの変動幅 |
| 物流費 | 運送会社からの料金改定の連絡 | 1件・1ケースあたりの増加分 | 配送条件ごとの増加分 |
| 人件費 | 自社の賃金改定の内容 | 品目への割り振りの考え方 | 総額の変化と割り振りの考え方 |
| その他(資材・エネルギーなど) | 請求書・料金表 | 対象品目と増加分 | 対象となる品目の範囲 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 外部の書類で示せる要素
- 仕入先からの価格改定の通知
- 運送会社からの料金改定の連絡
- 自社の算定で示す要素
- 人件費など
- 総額の変化と品目への割り振りの考え方
- 改定幅が原価の上昇分を上回る場合
- その差の理由を先に用意する
- まとめて反映するなら、いつからの上昇分かを示す
▼ 図の内容を文字で読む
- 調査の数値(参考値)
- 全体の価格転嫁率53.5%
- 原材料費55.0%・労務費50.0%・エネルギーコスト48.9%
- 読めること
- 申し入れが全額通る前提で日程や収支を組まない
- どの要素の説明を厚くするかを考えるきっかけになる
- 読めないこと
- 卸売業だけの転嫁率
- 要素ごとの差が生じている理由
- 卸が売る側として改定を通しやすいこと
通知の時期・方法・記載事項を決めて逆算する
逆算の手順
守るべき日数があるとすればそれは契約書にあり、取引先の納得は根拠の示し方にかかっています。
ここまで分かれば、日程を組む材料はそろいます。
通知の日数や方法には公的な一律の基準が見当たらないため、ここからは考え方の提案です。
適用日を先に置き、そこから後ろ向きに段取りを区切っていきます。
段取りは次の五つに分けて考えると整理しやすくなります。
(1)根拠の確定:改定幅と根拠資料を社内で確定させる。
(2)事前の打診:正式な通知の前に、取引先の購買担当者へ改定の予定と理由を伝え、先方の都合を聞く。
(3)正式な通知:契約で指定された方法で、記載事項をそろえた通知を送る。
(4)交渉期間:質問や修正の申し入れに応じ、承諾を得る。
(5)適用日:新価格で受注・請求を始める。
日数を置くときの基準は、まず契約です。
通知期間の定めがあれば、(3)から(5)までをその日数より短くしません。
合意が要る契約なら(4)に承諾を得るまでの期間を含め、みなし承諾の定めがあれば異議の期間が明けてから(5)を置きます。
この順で、日程の下限が決まります。
契約に定めがない取引先では、下限の代わりに取引先側の都合が基準になります。
取引先が小売店であれば、店頭価格の変更、販促物の差し替え、取引先側のシステムへの価格の登録など、新価格に対応するための作業があります。
その作業の締め切りより前に正式な通知が届いていなければ、適用日に間に合いません。
(2)の事前の打診は、この締め切りを聞き出す場としても役立ちます。
取引先が多い場合は、取引先ごとに逆算した日程を並べてみます。
たとえば、契約に通知期間の定めがあるA社と、定めはないものの価格の見直しを決まった時期にまとめて行うB社がある場合を考えます。
全社の適用日をそろえるなら、最も早く動き出す必要がある取引先に合わせて、正式な通知の日を決めることになります。
(1)の根拠の確定は全社に共通する作業ですが、(2)の打診は取引先ごとに並行して進められます。
通知期間の長い取引先から先に打診を始めると、全体の日程が詰まりにくくなります。
最後に、交渉期間には余白を持たせておきます。
取引先から改定幅や時期の修正を求められたとき、余白がなければ適用日を動かすしかありません。
そうなると、すでに通知を済ませた他の取引先との日程にも影響が出ます。
余白をどれだけ取るかに決まった答えはありません。
過去に同じ取引先と交渉したときの所要期間が分かれば、それが最も現実的な目安になります。
通知文の記載事項
正式な通知は、後から内容と日付を示せる形で残すことが大切です。
契約で通知の方法が指定されていればそれに従い、指定がなければ書面やメールなど記録の残る方法を選びます。
取引先がFAXや電子受発注など決まった方法で発注している場合は、その窓口にも通知が届くようにしておきます。
そうすれば、取引先の受注担当者が旧価格のまま処理する行き違いを減らせます。
通知文に入れる事項は次の表のとおりです。
どれも当たり前に見えますが、抜けがあると取引先から問い合わせが入り、その回答を待つ間に交渉期間が削られていきます。
判断が分かれやすいのは適用日の書き方です。
「◯月◯日から」とだけ書くと、その日に受けた注文からなのか、その日に出荷・納品した分からなのかが曖昧になります。
受注日、出荷日、納品日のどれを基準にするかを明記し、発注済み・見積済みの分の扱いも添えておきます。
そうすれば、適用日をまたぐ注文の請求で揉めにくくなります。
同じように、品目数が多いときは新旧価格を別紙の一覧にまとめ、入数や単位が変わる品目はその点も明記しておきます。
承諾の確認方法も、日程に直結する記載事項です。
返信の書式と期限を示しておけば、どの取引先から承諾が届いていないかを適用日の前に把握できます。
契約にみなし承諾の定めがない場合、返信がないまま適用日を迎えると、新価格での請求に取引先が応じないことも考えられます。
そのため、期限の前に担当者へ確認の連絡を入れる段取りまで日程に組み込んでおきます。
| 記載事項 | 書き方の要点 |
|---|---|
| 対象品目 | 品目コードと品名を取引先の発注単位でそろえる |
| 新旧価格 | 品目が多い場合は別紙の一覧にまとめ、入数や単位の変更も明記する |
| 適用日 | 受注日・出荷日・納品日のどれを基準にするかと、発注済み・見積済みの分の扱いを書く |
| 改定理由 | 原価の要素別の変動と改定幅の対応を示す |
| 問い合わせ先 | 担当部署と担当者の連絡先を書く |
| 承諾の確認方法 | 返信の書式と期限を示す |
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引先ごとに逆算した日程を並べる
- 最も早く動き出す取引先に合わせて正式な通知の日を決める
- 通知期間の長い取引先から先に打診を始める
- 交渉期間には余白を持たせる
取引先が応じない・交渉を求めてきたときの進め方
通常の売買の場合
正式な通知を出すと、取引先から「幅を抑えられないか」「時期を遅らせられないか」と返ってくることがあります。
卸は売る側であり、価格の改定は取引先の合意を前提に進みます。
交渉の申し入れは改定の過程の一部と捉えておいたほうが、日程も組み立てやすくなります。
受注者に誠実な交渉への参加を求める指針の考え方からも、根拠を示したうえで話し合いに応じる姿勢が前提になります2。
応じ方の選択肢は、主に三つあります。
一つ目は根拠の追加説明で、原価の要素別の内訳や変動を示す書類を補い、改定幅の理由をもう一段具体的にします。
二つ目は改定幅の段階化で、一度に上げる代わりに二回に分けて適用します。
三つ目は適用日の調整で、取引先の価格見直しの時期に合わせて後ろへずらします。
どれを選ぶかは、自社が何を負担できるかで変わります。
段階化すれば取引先は受け入れやすくなる一方、二回目の通知と確認の手間が増えます。
取引先ごとに異なる価格の段階を管理する必要も出てきます。
適用日を遅らせれば、その間の原価上昇は自社がかぶることになります。
根拠の追加説明は自社の負担が最も小さく見えますが、資料の準備に時間がかかれば交渉期間を使い切ってしまいます。
根拠を前もって整理して手元に置いておく意味は、ここで効いてきます。
自社の立場が取引先より強い場合にも配慮が要ります。
取引先にとって他から仕入れにくい商品を扱っているときでも、質問に答える場や改定幅を話し合う機会を設けておくことが大切です。
そうすれば、一方的な押し付けと受け取られることを避けやすくなります。
立場の強さが法的にどう評価されるかは取引ごとの事情によるため、懸念がある場合は弁護士に相談してください。
話し合っても合意に至らない品目を旧価格のまま続けるのか、取扱いを見直すのかは経営の判断です。
この判断には、契約の解約に関する条項など別の論点も関わってきます。
仕様指定の取引の場合
取引先の仕様で製造した品を納めている場合は、交渉の構図が変わります。
その取引が製造委託に当たり、取適法の対象となるなら、取引先は委託事業者の立場になります。
卸からの価格交渉の求めに対し、取引先は必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めることはできません1。
最終的に要求額を受け入れない場合でも、その理由や考え方を十分に説明する必要があるとされています1。
この場面で卸がしておきたいのは、価格交渉を申し入れたことと、その根拠を記録に残る形で伝えておくことです。
指針が受注者に求める具体的な根拠の提示は、この申し入れの中身にそのまま当たります2。
申し入れに対して、説明のないまま据え置きを告げられることもあり得ます。
その場合は、取適法の相談窓口や公正取引委員会の資料で扱いを確かめる道があります。
ただし、その取引が実際に取適法の対象になるかは、仕様の指定の有無など個別の事情で決まります。
相談の際は、仕様書や発注書など取引の中身が分かる資料をそろえておくと話が進みやすくなります。
通常の売買でも仕様指定の取引でも、次の一手を考える前提になるのは、交渉の経緯を後から確かめられることです。
▼ 図の内容を文字で読む
- 根拠の追加説明
- 原価の要素別の内訳や変動を示す書類を補う
- 資料の準備に時間がかかると交渉期間を使い切る
- 改定幅の段階化
- 一度に上げず二回に分けて適用する
- 二回目の通知と確認の手間、価格の段階の管理が増える
- 適用日の調整
- 取引先の価格見直しの時期に合わせて後ろへずらす
- その間の原価上昇は自社がかぶる
改定後に残す記録と次回への備え
取引先別の台帳
改定が一段落すると、取引先ごとに通知日、承諾日、適用日、新旧価格が少しずつ異なる状態が残ります。
段階化を選んだ取引先や適用日をずらした取引先があれば、なおさらです。
受注担当者が古い単価で入力したり、請求書に旧価格と新価格が混在したりする原因になります。
取引先から「いつから、いくらになったのか」と問い合わせを受けるたびに、メールや書面を探し直すことにもなりかねません。
こうした行き違いを減らすために、取引先別の台帳を一つ作り、通知から合意までの記録をまとめておくことを提案します。
請求や受注の前に照合する先が一か所になるため、担当者ごとの記憶や個別のメールに頼る確認が減ります。
台帳があれば行き違いがなくなるわけではありません。
ただ、食い違いに気づいたとき、どこまでさかのぼればよいかがすぐに分かります。
保存の期間や形式は、社内の文書管理の規程に合わせて決めます。
通知文と返答の原本は、台帳と同じ場所から参照できるようにしておきます。
そうすれば、問い合わせや次回の交渉で同じ資料を探す手間が省けます。
社内共有
台帳の中身は、次の改定で日程を逆算するための材料にもなります。
社内で共有しておきたいのは、打診から承諾までにかかった期間、追加資料を求めてきた取引先、段階化や適用日の調整を求めてきた取引先です。
これらが分かっていれば、次回はどの取引先から早めに動き出すべきかを判断できます。
共有する相手は、営業だけでなく、受注、請求、経理の担当者も含めます。
新価格を受発注や請求の仕組みに登録するタイミングがずれると、合意した適用日と実際の請求が食い違います。
適用日と登録の締め切りを、関係する部署が同じ表から確認できるようにしておきます。
あわせて、原価の要素別の変動を日頃から記録しておけば、次に根拠を整理するときの出発点になります。
今回、価格改定条項や通知期間の定めがなかった取引先もあるでしょう。
そうした取引先とは、次の契約更新の機会に、通知期間や改定の手続きを取り決めておくという選択肢もあります。
あらかじめ手続きが決まっていれば、次の改定では逆算の起点を契約書から読み取れるようになります。
| 台帳の項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 取引先と契約条件 | 取引先名、契約上の通知期間、合意の要否、みなし承諾の定め |
| 通知 | 事前の打診日、正式な通知日、通知の方法、通知文 |
| 返答と承諾 | 返答の内容、承諾日、承諾を示す書面やメール |
| 合意した価格 | 品目ごとの新旧価格、段階化した場合は各段の価格 |
| 適用日 | 適用日と基準(受注日・出荷日・納品日)、発注済み分の扱い |
| 交渉の経緯 | 求められた追加資料、修正の内容、合意までにかかった期間 |
取引先ごとに契約の通知期間や合意の要否、発注の段取りが異なります。適用日をそろえるか分けるかを自社だけで判断しようとすると、整理に時間がかかりやすくなります。
取引先の一覧と契約条件をもとに、改定日から逆算した日程案の組み方と、どの取引先から打診を始めるかの考え方を確かめられます。製造委託に当たるかどうかなど法的な判断が必要な点は、所管窓口や弁護士への確認事項として切り分けられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 通知の日数 | 法令の一律の基準は確認できた範囲で見当たらず、契約の定めが最低ライン |
| 取適法との関係 | 通常の卸売は原則対象外、取引先の仕様で製造した品は製造委託に当たり得る |
| 契約で見る点 | 改定条項・通知期間・方法・合意の要否・みなし承諾・発注済み分の扱い |
| 根拠の整理 | 原価を要素別に分け、変動と改定幅への反映を対応させる |
| 逆算の段取り | 根拠の確定→事前の打診→正式な通知→交渉期間→適用日 |
| 記録 | 取引先別の台帳に通知日・承諾日・適用日・新旧価格を残す |
改定後は、取引先ごとに適用日と新旧価格が異なる期間が生じます。受注・請求への反映や記録の残し方が担当者任せのままだと、次の改定でも同じ確認作業を繰り返すことになります。 取引先別の台帳に何を残し、受注・請求の担当者とどの表で適用日を共有するかを、自社の運用に合わせて確かめられます。
よくある質問
取引基本契約に価格改定条項がない場合、通知はどうすればよいですか。
確認できた範囲では、通知の日数を一律に定めた法令は見当たりません。
そのため、取引先の同意を得て価格を変える前提で進めます。
事前の打診で、取引先の価格見直しの時期や、新価格への対応にかかる作業を聞きます。
その作業の締め切りより前に正式な通知が届くよう、逆算して日程を組みます。
合意した内容は書面やメールで残し、次の契約更新の機会に改定の手続きを取り決めておくことも検討できます。
取引先の仕様で作らせた商品を卸す場合、取適法は関係しますか。
取引先の仕様で製造した品を納める取引は、取適法の製造委託に当たる可能性があります1。
その場合、取引先は委託事業者として、卸からの価格交渉の求めに対し、必要な説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めることはできません1。
これは卸が従う義務ではなく、交渉の場を確保する根拠になる規定ですが、通知の日数を決めるものではありません。
個別の取引が対象に当たるかは、所管の相談窓口や弁護士に確認してください。
改定の通知は口頭やメールだけでも足りますか。
契約で通知の方法が指定されていれば、その方法に従います。
指定がない場合、口頭は事前の打診には向いていますが、正式な通知としては後から日付と内容を示しにくくなります。
メールなら記録は残せます。
そのうえで、対象品目、新旧価格、適用日、承諾の確認方法などがそろっているか、相手の担当者に確実に届いているかを確かめておくことが大切です。
価格交渉に応じない取引先に、取引を続けながら改定を進めるにはどうすればよいですか。
根拠の追加説明、改定幅の段階化、適用日の調整といった選択肢を、自社が負担できる範囲で組み合わせます。
話し合いの機会を設け、申し入れと回答の経緯を記録しておくと、一方的な押し付けと受け取られることを避けやすくなり、次の交渉の材料にもなります。
取引先の仕様で製造した品については、取適法上の説明義務が取引先側にかかる場合があるため、扱いを分けて考えます1。
複数の取引先の改定時期をずらしたいとき、順番はどう決めますか。
決まった順番はなく、取引先ごとの条件で考えます。
手掛かりになるのは、契約上の通知期間の長さ、取引先が価格を見直す時期、原価の上昇が大きい品目を多く扱う取引先かどうか、といった点です。
時期をずらすと、取引先ごとに価格と適用日が異なる期間が生じます。
台帳で通知日・承諾日・適用日を管理し、請求の行き違いを減らす段取りもあわせて用意しておきます。
- 1 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年確認)
- 2 出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(2024年確認)
- 3 出典:デジタル庁(e-Gov法令検索)「民法 第548条の4(定型約款の変更)」(2026年確認)
- 4 出典:中小企業庁(J-Net21掲載)「価格交渉促進月間 フォローアップ調査」(2025年)
- 5 出典:中小企業庁(経済産業省)/全国商工会連合会掲載「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年)
画像の出典元
- Close-up of a businessman reviewing important documents at a desk in an office setting./Photo by Kampus Production on Pexels