◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 買掛処理の費用は、人件費・システム/外部サービス費・ミスや遅延の損失・月次決算期に増える作業に分け、自社の件数と作業時間で数える。
- 公的な1件あたりの処理コストの目安は確認できないため、稟議には自社で測った数字を使う。
- 運用見直し・システム化・委託は、初期費用・月額・従量・社内に残る作業をそろえ、12か月の合計で比べる。
- 差額は工数の削減とミス・手戻りの減少に分け、導入前に処理時間・修正件数・締め日数を測っておく。
- インボイスと電子取引データの保存は、どの選択肢でも満たす前提条件として扱う。
目次

稟議で求められる「明確な費用対効果」は何を示せばよいか
仕入先から届く請求書を毎月受け取り、照合して仕訳を起こし、支払いまで回している。
改善したいものの、今いくらかかっているのかが分からず稟議が書けない。
この状態を抜け出すには、買掛処理の費用を人件費・システム/外部サービス費・ミスや遅延の損失・月次決算期に増える作業の4つに分け、自社の件数と作業時間で数えることから始めます。
稟議の承認では「明確な費用対効果」が最も重視されています(43.7%、1位)1。
運用見直し・システム化・委託を同じ12か月で並べ、導入後に測る指標まで決めておくと、上司に説明できる形になります。
承認する側は「今と比べて何が変わるか」を見ている
株式会社ネオマーケティングが2026年に行った調査では、BtoB商材導入の稟議が承認される際のポイントとして「明確な費用対効果」が1位に挙がりました1。
対象は、直近1年以内にBtoB商材導入の稟議へ承認・提案・情報収集のいずれかで関わった国内BtoB企業の勤務者(n=540)です1。
買掛処理や経理部門に限った結果ではありません。
それでも、決裁する側が数字で比べられる説明を求めるという点は、経理の改善稟議にもそのまま当てはまります。
ここで言う費用対効果は、「月額いくらのサービスを入れると楽になる」という説明とは違います。
改善にかかる費用だけを示しても、承認者には今の処理にいくらかかっているかが見えません。
そのため、改善の費用が高いのか安いのかを判断できないのです。
必要なのは、今の買掛処理に毎月かかっている費用と、改善後にかかる費用を同じ物差しで並べることです。
相場ではなく自社の数字を使う理由
稟議を書く段になると、「1件あたりの処理コストは一般にいくら」という目安を探したくなります。
しかし、公的機関が示した買掛処理1件あたりのコストの目安は、現時点で確認できていません。
出所のはっきりしない数字を稟議に載せると、承認者から根拠を問われたときに説明が止まってしまいます。
仮に目安があったとしても、自社に当てはまるとは限りません。
同じ1件の請求書でも、紙で届いて開封とスキャンが必要な会社と、データで届いて取り込むだけの会社では、照合や入力の手間がまるで違います。
承認者が複数いるか、会計ソフトに手で入力し直しているかでも、1件あたりの時間は変わります。
自社で測った件数と作業時間であれば、承認者が「この数字はどこから来たのか」とたどれるので、説明の土台として崩れにくくなります。
稟議資料に載せる4つの要素
費用対効果を示す稟議資料は、次の4つで組み立てると、承認者が順に追えます。
1つ目は、現在の買掛処理に毎月かかっている費用です。
2つ目は、検討している選択肢ごとの12か月分の費用です。
3つ目は、その差額と、差額がどの作業から生まれるかの内訳です。
4つ目は、導入後に効果を確かめるための指標と、その測り方です。
稟議では2つ目の費用に目が向きがちですが、承認者が判断の拠り所にするのは1つ目と3つ目のつながりです。
4つ目まで書いておくと、「入れてみたものの効果があったのか分からない」という事態を避けやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 現在の買掛処理の費用:毎月かかっている費用を自社の数字で出す
- 選択肢ごとの12か月の費用:初期費用・月額・従量・社内に残る作業を含める
- 差額と内訳:どの作業から差が生まれるかを示す
- 導入後に測る指標:効果を確かめる指標と測り方を決める
買掛処理の費用を4つの内訳に分けて自社の数字で出す
人件費(受領・照合・入力・承認・支払・問い合わせ)
買掛処理にかかっている費用は、人件費、システム・外部サービス費、ミスや遅延による損失、月次決算期に増える作業の4つに分けると数えやすくなります。
なかでも金額が見えにくいのが人件費です。
給与は払っていても、そのうち何時間が買掛処理に使われているかは、どの帳票にも出てこないからです。
人件費は、請求書が届いてから支払いが終わるまでを工程に分けて積み上げます。
受領は、郵送物の開封、メール添付のダウンロード、現場部門から回ってくる請求書の受け取りです。
照合は、発注内容や納品・検収の記録と請求額を突き合わせ、合わない場合に仕入先や現場へ確認する作業です。
入力は会計ソフトへの仕訳登録や支払予定表への転記、承認は上長の確認と差戻しへの対応、支払は振込データの作成と消込です。
これに、仕入先からの「入金はいつか」という問い合わせや、社内からの支払状況の確認への対応が加わります。
各工程の費用は、次の式で出します。
工程ごとの月間時間=月間件数×1件あたりの作業分数÷60
工程ごとの人件費=月間時間×時間単価
時間単価は、給与だけでなく社会保険料などの会社負担分を含めて計算しておくと、承認者が見る人件費に近づきます。
この式は自社の数字を当てはめるための考え方として示すもので、外部調査の数値ではありません。
1件あたりの作業分数は、記憶で見積もるより、実際に測るほうが確かです。
通常月の中から数日を選び、工程ごとに開始と終了の時刻を記録して、件数で割ります。
照合で仕入先に問い合わせた件や差戻しになった件のように、時間のかかった請求書も例外として外さずに含めます。
例外を外すと、改善で減らしたい手間そのものが試算から消えてしまうためです。
見落としやすいのが、経理担当者以外の時間です。
承認者が請求書を確認する時間や、現場部門の担当者が請求書を経理へ回すまでの時間も、買掛処理の人件費に含まれます。
承認者の時間単価は経理担当者と異なるので、別の単価で計算します。
承認の待ちや差戻しが多い会社では、この部分が思った以上の金額になることがあります。
システム・外部サービス費
今すでに払っている費用も、改善前の費用として洗い出します。
会計ソフトや表計算ソフトの利用料のうち買掛処理に使っている分、請求書の郵送や印刷にかかる費用、紙の請求書を保管するファイルや保管場所の費用、振込のための費用などです。
会計ソフトのように買掛以外にも使っているものは、改善後もなくならない費用です。
比較のときに差額へ入れないよう、「改善でなくなる費用」と「改善後も残る費用」に印を付けておくと、後の試算で数字が膨らむのを防げます。
費用の性質も分けておきます。
件数に関係なく毎月同じだけかかる固定の費用と、請求書の件数や振込の回数に応じて増える費用です。
この区別は、選択肢を比べるときに月額と従量の費用をどう見るかにそのままつながります。
ミス・遅延による損失
ミスや遅延の損失は、金額にしにくいため稟議から抜けがちです。
ただ、起きたことの後始末にかかった時間であれば数えられます。
二重払いに気づいて仕入先へ返金を依頼する、金額の誤りで修正仕訳を起こす、支払漏れの連絡を受けて臨時の振込をする、といった対応です。
過去数か月の修正仕訳の件数、差戻しの件数、臨時の振込の回数を記録から拾い、1件あたりの対応時間を掛ければ、手戻りの人件費として試算に入れられます。
一方で、支払遅れが仕入先との関係に与える影響のように、金額に換算できないものもあります。
無理に金額にせず、「直近で支払遅れの連絡を受けた回数」のように事実として稟議に添えるほうが、承認者にとって判断しやすい材料になります。
インボイスの保存漏れのように税額に関わるものは手戻りとは性質が違うため、選択肢を比べる前提条件として別に扱います。
月次決算期に増える作業
買掛処理の手間は、毎月均等に発生するわけではありません。
締め日の前後には、届いていない請求書の催促、計上漏れの確認、請求書と帳簿の金額差の調査が重なります。
インボイス制度が始まってからは、受け取った請求書が適格請求書の要件を満たしているかを確かめる作業も加わりました。
Sansan株式会社が2023年に行った調査(報道記事で確認)では、受け取った請求書が要件を満たすかの確認方法として「経理担当者による目視確認」が最も多く、制度開始後、経理担当者1人あたりの月次決算業務は月平均で11.9時間ほど増えていました2。
これは制度開始直後の時点で、請求書関連業務に携わる人を対象にした結果です2。
また、11.9時間は月次決算業務についての数値で、請求書業務全体の増加でも、改善で減らせる時間でもありません。
自社の削減効果を見込む数字としては使えませんが、締め期の確認作業が人の目に頼っていて、通常月とは別に時間を取っていることは示しています。
自社の試算でも、締め期の作業は通常の工程とは別の行に分けて測ります。
通常月の平均に混ぜると、締め期に担当者が残業している実態が見えにくくなるからです。
締め日の何日前から作業が始まり、何日後に買掛の残高が確定するかを記録しておくと、導入後に効果を確かめる「締め日数」の指標にもそのまま使えます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 人件費
- 受領・照合・入力
- 承認・支払・問い合わせ
- システム・外部サービス費
- 利用料・郵送・印刷
- 紙の保管の費用
- ミス・遅延による損失
- 修正仕訳・差戻し
- 臨時の振込
- 月次決算期に増える作業
- 届いていない請求書の催促
- 計上漏れの確認
運用見直し・システム化・委託の3つで費用の種類と残る作業はどう違うか
選択肢ごとに、費用の形と社内に残る作業が変わる
現状の費用が出たら、改善の選択肢を並べます。
ここでは、社内の運用を見直す、請求書の受領や承認を扱うシステムを導入する、受領や入力などを外部に委託する、の3つを比べます。
3つの違いは安いか高いかより、費用がどの形でかかり、どの作業が社内に残るかにあります。
運用見直しは、請求書の受領窓口を一つにまとめる、承認ルートを短くする、支払日をそろえるといった変更です。
外部への支払いはほとんど発生しない一方で、ルールを作り、仕入先や現場部門に伝える社内の時間がかかります。
照合や入力の作業そのものは社内に残るため、削れるのは受け渡しや待ちの時間が中心になります。
システム化では、初期設定の費用、毎月の利用料、件数に応じた従量の費用など、料金の形が提供者ごとに異なります。
受領や入力の一部を仕組みに任せられる場合でも、読み取った内容の確認、例外的な請求書の処理、承認の判断は社内に残ります。
導入時には、設定や旧データの移行、担当者が使い方を覚えるための時間も社内でかかります。
委託では、受領や入力を外部の担当者が行い、社内には支払いの最終判断や承認、委託先への資料の引き渡し、委託先からの確認への回答が残ります。
料金の形は契約によって異なり、任せる範囲で金額も変わるため、どこまでを任せるかを決めてから見積もりを取ります。
このほかに、請求書を紙やPDFではなくデータのまま受け取る方法もあります。
日本の電子インボイスの標準仕様であるJP PINTは、電子インボイスの国際標準Peppol(ペポル)をもとにしており、デジタル庁がJapan Peppol Authorityとして管理しています4。
ただし、データで受け取れるのは仕入先が電子インボイスで送れる場合に限られます。
受け取る側でどれだけ作業が減るかについてデジタル庁の資料に記載はないため、効果は自社の仕入先の対応状況と、残る紙・PDFの件数を見て試算します。
同じ軸で並べる比較表
表の金額欄は、見積もりを取って埋める前提で空けています。
料金は提供者や契約範囲ごとに異なり、一般的な金額を置くと自社の条件とずれるためです。
判断が分かれやすいのは、従量の費用と社内に残る作業の2つの行です。
従量の費用は、請求書の件数が多い月に膨らみます。
決算月や繁忙期に件数が増える会社では、平均的な月だけで計算すると12か月の合計が実際より小さくなります。
月ごとの件数の記録を使い、件数の多い月と少ない月の両方で計算しておくと、見込み違いを減らせます。
社内に残る作業は、金額ではなく時間の形をしているので見落とされやすい行です。
人件費を積み上げた工程のうち、どの工程が選択肢ごとに残るのかを一つずつ判定し、残る工程の時間に時間単価を掛けて金額にします。
こうすると、月額の安い選択肢でも社内の作業が多く残れば、12か月合計では差が縮まることが表の上で見えるようになります。
見積もりを取るときにそろえる前提
見積もりの前提がばらばらだと、表を作っても比べられません。
依頼するときは、月ごとの請求書の件数、紙・PDF・データの内訳、承認の段数、使っている会計ソフト、対象にする工程の範囲を同じ内容で伝えます。
受け取った見積もりに、初期費用に含まれない設定作業や、件数の上限を超えたときの料金が別に書かれていないかも見ておきます。
| 項目 | 運用見直し | システム化 | 委託 |
|---|---|---|---|
| 初期費用 | ルール作りの社内時間 | 設定・移行の費用(見積もりで記入) | 引き継ぎの費用(見積もりで記入) |
| 月額 | 外部への支払いはほぼなし | 利用料(見積もりで記入) | 委託料(見積もりで記入) |
| 従量 | なし | 契約による(見積もりで記入) | 契約による(見積もりで記入) |
| 社内に残る作業 | 照合・入力・承認・支払 | 読み取り内容の確認・例外処理・承認 | 承認・支払の判断・委託先への回答 |
| 12か月合計 | 社内工数を金額にして記入 | 見積もりと社内工数を合計して記入 | 見積もりと社内工数を合計して記入 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 運用見直し
- 費用:外部への支払いはほとんどなく、ルール作りの社内時間がかかる
- 残る作業:照合・入力・承認・支払
- システム化
- 費用:初期設定・毎月の利用料・件数に応じた従量
- 残る作業:読み取り内容の確認・例外処理・承認
- 委託
- 費用:契約と任せる範囲で変わる
- 残る作業:承認・支払の判断・委託先への回答
買掛処理の費用対効果を試算する手順と回収の判断
12か月の総額で比べる手順
試算は次の順で進めます。
①現状の買掛処理費用を12か月分出します。
人件費・システム費・手戻り・締め期の作業を月ごとに合計し、件数の多い月も含めて足し上げます。
②選択肢ごとの12か月の費用を出します。
初期費用、月額×12、従量の見込み、社内に残る作業の人件費に加え、切り替え期間に新旧の運用を並行させる手間も入れます。
③現状との差額を、工数の削減と、ミス・手戻りの減少に分けて書きます。
④月ごとの差額の積み上げが初期費用を上回るまでに何か月かかるかを計算し、12か月の中で回収できるかを見ます。
12か月で区切るのは、初期費用のかかる選択肢と月額だけの選択肢を同じ期間で比べるためです。
月額だけを並べると初期費用のある選択肢の負担が見えず、初期費用だけを見ると月額の積み上がりが見えません。
12か月で回収できない場合でも、翌年以降に差額が積み上がる見込みがあれば、その期間を分けて示すことで承認者が判断できます。
削れる工数と減らせる手戻りを分けて書く
差額を一つの金額にまとめず、2つに分けて書くのには理由があります。
工数の削減は、工程ごとに「この作業はなくなる」「この作業は一部残る」と判定でき、根拠をたどれます。
一方、ミスや手戻りが減るかどうかは、導入してみないと分かりません。
見込みを工数削減と同じ扱いで足し込むと、根拠の弱い部分が全体の数字を押し上げ、承認者に試算全体を疑われる原因になります。
手戻りの減少は、過去の修正件数をもとに「現状のまま」「一部減る」と幅を持たせた仮置きの値で示し、仮置きであることを明記します。
回収の判断はまず工数の削減だけで行い、手戻りの減少は上乗せとして示すと、試算が慎重であることも伝わります。
回収できたかを測る指標を先に決める
稟議で費用対効果が重視される以上1、導入後に「実際どうだったか」を問われる場面も出てきます。
そのときに比べる数字がないと、効果があったかどうかを説明できません。
そこで、導入前の時点で次の3つの指標を測っておきます。
・処理時間:工程ごとの1件あたり作業分数と、月間の合計時間
・修正件数:修正仕訳、差戻し、支払の訂正の件数
・締め日数:締め日から買掛の残高が確定するまでの日数
導入後は同じ測り方で記録を取り、試算で置いた値と比べます。
測り方を変えると前後の数字が比べられなくなるため、記録の様式も導入前に決めておきます。
移行直後は慣れない作業で時間が増えることもあるので、運用が落ち着いた時点と12か月の時点で比べると、一時的な増減に振り回されずに済みます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 現状の費用を12か月分出す
- 選択肢ごとの12か月の費用を出す
- 差額を工数の削減と手戻りの減少に分ける
- 差額の積み上げが初期費用を上回る月数を見る
▼ 図の内容を文字で読む
- 導入前:処理時間・修正件数・締め日数を測り、現状の費用を出す
- 切り替え期間:新旧の運用を並行させる手間も費用に入れる
- 運用が落ち着いた時点:同じ測り方で記録し、試算で置いた値と比べる
- 12か月の時点:差額の積み上げと初期費用を比べ、回収を判断する
件数・書式・承認段数・会計連携で効果が変わる条件
請求書の件数と形式
同じ選択肢でも、費用対効果の出方は会社の条件によって変わります。
最初に見るのは、請求書の件数と届く形式です。
システムや委託には件数にかかわらず発生する費用があり、件数で割ると1件あたりの負担が変わります。
件数が少ない会社では固定の費用を割る件数も少ないため、削れる工数より費用が上回る場合があります。
ただし、件数が多いほど効果が大きくなると言い切れる根拠はなく、件数の多い会社でも残る作業が多ければ差額は小さくなります。
形式の違いは、どの工程が残るかに直結します。
紙の請求書は、開封、スキャン、原本の保管という工程が受領の段階で増えます。
PDFで届く場合は開封の手間はない一方、内容を読み取って入力する工程が残ります。
データで受け取れる場合は、取り込む仕組みがあれば転記の工程を減らせますが、仕入先がデータで送れることが前提です。
自社の請求書を形式別に数え、仕入先ごとに紙・PDF・データのどれで届いているかを一覧にしておくと、どの選択肢でどの工程が減るのかを具体的に判定できます。
承認段数と会計ソフト連携
承認の段数が多い会社では、処理時間の多くが作業ではなく待ちに使われています。
承認者が出張中で請求書が止まる、差戻しのたびに最初の担当者まで戻る、といった場面です。
システムで承認を画面上に移しても、段数や金額ごとの承認ルールをそのまま持ち込めば、待ちの時間は残ります。
この場合、外部への支払いがほとんどかからない運用見直しで段数を整理するほうが、先に効果を確かめられます。
会計ソフトとの連携は、入力工程が残るかどうかを左右します。
受け取った請求書の内容を会計ソフトへ取り込めない仕組みでは、担当者がもう一度仕訳を入力する作業が残ります。
見積もりの段階で、自社の会計ソフトに取り込めるか、取り込む場合にどの項目が渡るのかを確かめ、手で補う作業があればその時間を社内に残る作業に入れます。
インボイスの保存要件
どの選択肢を選んでも守る必要があるのが、インボイスの保存です。
インボイス制度は2023年に始まり、仕入税額控除(仕入にかかった消費税を、納める税額から差し引くこと)を受けるには、原則としてインボイスの保存が必要で、インボイスのない仕入は控除できません3。
2031年9月末までは、インボイスがなくても一定割合を控除できる経過措置があります3。
割合などの詳細は国税庁の案内で確かめます。
簡易課税制度や2割・3割特例を適用している事業者は、納付税額の計算上はインボイスの受領・保存が不要とされていますが、所得税などの関係で書類の保存は必要です3。
つまり、改善によって保存そのものが不要になることはありません。
運用見直し・システム化・委託のいずれでも、受け取った請求書がどこにどの形で保存されるのか、委託先に渡した場合は誰が保管するのかを決めておく必要があります。
保存は費用削減の対象ではなく、選択肢を比べる前提条件として扱います。
電子取引データの保存
メールに添付されたPDFや、ウェブ上でダウンロードした請求書のように電子で受け取った請求書は、紙に印刷して保存するのではなく、電子データのまま保存することが求められています。
紙を前提にした運用のままPDFを印刷して綴じている場合は、保存の方法そのものを見直す必要があります。
検索の要件などの細目には事業者の条件による違いもあるため、国税庁の電子帳簿保存法の案内で自社に当てはまる内容を確認します。
保存の観点から見ると、紙・PDF・データのどれで受け取るかで、保存の手間も変わります。
紙は原本の保管場所、PDFは電子データとして保存する仕組み、データで受け取る電子インボイスはそのデータを保存できる仕組みが必要です。
受け取り方を変える選択肢を検討するときは、処理の工程だけでなく、保存の工程がどう変わるかも残る作業として数えます。
自社の状況別、買掛処理の改善はどの選択肢から検討するか
状況ごとの出発点
ここまでの試算で出した数字を、自社の状況に当てはめます。
次の表は、状況ごとにどこから検討を始めるかを整理した編集部の提案です。
効果の大きさを示す外部のデータに基づくものではないため、状況の間に順位は付けていません。
最終的な判断は、自社の試算で確かめます。
当てはまる状況が複数あるとき
表の状況が一つだけ当てはまるとは限りません。
たとえば、紙とPDFが混在していて承認の差戻しも多い会社であれば、受領方法の統一と承認ルールの見直しという、外部への支払いが小さい運用の変更から先に手を付けられます。
その変更で残った工程を測り直してからシステムや委託を見積もると、見積もりに渡す件数や工程がはっきりし、比較表の数字も現実に近づきます。
反対に、担当者の退職や休職で処理が止まる心配が大きい場合は、工数の削減より、処理を続けられる体制をどう確保するかが判断の中心になります。
その場合は委託やシステム化の費用を、削減額だけでなく「処理が止まった場合に起きること」と並べて説明すると、承認者が判断の理由を理解しやすくなります。
ただし、止まった場合の損失は金額に置き換えにくいため、支払漏れの起きた回数や締めが遅れた日数など、記録にある事実で示します。
| 自社の状況 | 最初に検討すること | その理由 |
|---|---|---|
| 請求書の件数が少なく少人数で回っている | 受領窓口や承認ルールの見直し | 固定の費用を割る件数が少ない |
| 紙・PDF・データが混在し書式がばらばら | 受領方法の統一 | 形式ごとに受領と入力の工程が分かれる |
| 承認の待ちや差戻しが多い | 承認段数と金額ルールの整理 | 仕組みを入れても段数が残れば待ちも残る |
| 会計ソフトへの再入力に時間がかかる | 会計ソフトと連携できる仕組みの見積もり | 入力工程が残るかを左右する |
| 担当者の不在で処理が止まる心配がある | 委託やシステム化の見積もり | 処理を続けられる体制が判断の中心になる |
| 主要な仕入先が電子インボイスで送れる | データで受け取る方法の検討 | 仕入先の対応が前提になる |
導入後に想定外の費用・効果不足を避けるための事前確認
見積もりで確かめる費用
見積もりの本体価格だけを比べると、契約後に別の費用が加わることがあります。
契約前に、次の項目が見積もりに含まれているか、別料金かを確かめます。
・初期設定:承認ルートや勘定科目、仕入先情報の登録
・データ移行:仕入先一覧や未払いの請求書の移し替え
・運用変更:社内マニュアルの作り直しや担当者の研修にかかる社内の時間
・保守・サポート:問い合わせ対応や仕様変更への対応の範囲
・件数の超過:想定件数を超えた場合の従量料金
・契約期間と解約:最低利用期間と、解約時のデータの引き取り方法
このうち運用変更の時間は、外部への支払いがないため見積もりには出てきません。
それでも、比較表の社内に残る作業と同じく時間単価で金額にしておくと、導入初年度の費用を実態に近く見積もれます。
仕入先と社内に頼むこと
請求書の受け取り方を変える場合、仕入先に協力を頼む場面が出てきます。
送付先の住所やメールアドレスの変更、PDFやデータでの送付への切り替えといった依頼です。
仕入先がすぐに対応できるとは限らないため、切り替えが済むまでは紙やPDFの経路も残る前提で、試算の件数を置いておきます。
社内でも、現場部門が請求書を受け取ったときの回し方、承認ルールの変更、例外的な請求書を誰が判断するかを決め直す必要があります。
ここが決まらないまま導入すると、仕組みは入ったのに請求書が以前の経路で届き、担当者が新旧の両方を処理する状態が続きます。
二重の運用は比較表に現れにくい費用なので、切り替えの期限と旧経路を閉じる時期も事前に決めておきます。
保存要件と効果測定の準備
最後に、選んだ方法でインボイスの保存要件3と電子取引データの保存のルールを満たせるかを確かめます。
保存先、保存の形式、探したい請求書をどう探すか、委託先や提供者との契約が終わったときにデータをどう扱うかが確認点です。
あわせて、導入前の処理時間・修正件数・締め日数を測り終えているかも見ておきます。
導入後に比べる数字があれば、効果が思うように出なかった場合にも、どの工程が残っているのかを特定して次の手を考えられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 見積もりで確かめる費用
- 初期設定・データ移行
- 保守・サポート・件数の超過
- 仕入先に頼むこと
- 送付先の変更
- PDFやデータでの送付への切り替え
- 社内で決めること
- 現場部門の回し方・承認ルールの変更
- 旧経路を閉じる時期
- 保存と効果測定の準備
- インボイスと電子取引データの保存要件
- 導入前の処理時間・修正件数・締め日数
工程ごとの時間の測り方や、どの作業を費用に含めるかは、会社ごとの業務の流れによって判断が分かれ、担当者だけでは線引きに迷いやすい部分です。
相談では、自社の工程と件数をもとに、現状費用の内訳の分け方と測る範囲が稟議の説明に足りているかを確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 現状費用 | 人件費・システム/外部サービス費・ミスや遅延の損失・月次決算期の作業に分け、件数×分数×時間単価で数える |
| 比べる期間 | 初期費用・月額・従量・社内に残る作業を含め、12か月の合計で比べる |
| 差額の書き方 | 工数の削減と、ミス・手戻りの減少(仮置き)を分ける |
| 効果の確認 | 導入前に処理時間・修正件数・締め日数を測っておく |
| 前提条件 | インボイスと電子取引データの保存は、どの選択肢でも満たす |
選択肢ごとの見積もりを同じ前提にそろえ、12か月で比べる作業は、前提のずれに社内だけでは気づきにくいものです。 相談では、作成した比較表と稟議資料の前提が、自社の件数・形式・承認の段数と合っているかを確かめられます。
よくある質問
1件あたりの買掛処理コストの相場はあるのか
公的機関が示した1件あたりの買掛処理コストの目安は、現時点で確認できていません。
同じ1件でも、紙かデータか、承認者が何人か、会計ソフトに再入力しているかで時間が変わるため、他社の数字は自社の判断にそのまま使えません。
工程ごとに「月間件数×1件あたりの作業分数÷60×時間単価」で出した自社の数字を使うほうが、稟議で根拠を説明できます。
紙の請求書が多い場合、何から見直すべきか
まず、紙で届いている請求書を仕入先ごとに数え、受領から保管までにかかっている時間を測ります。
紙の請求書は開封・スキャン・原本の保管という工程が加わるため、件数の多い仕入先から送付方法の変更を相談できるかを見ると、どの工程がどれだけ減るかを試算しやすくなります。
切り替えには時間がかかるため、しばらくは紙の経路も残る前提で考えます。
電子で受け取った請求書は、どのように保存すればよいのか
メール添付のPDFなど電子で受け取った請求書は、紙に印刷するのではなく電子データのまま保存することが求められます。
検索の要件などの細目には事業者の条件による違いもあるため、国税庁の電子帳簿保存法の案内で自社に当てはまる内容を確認してください。
インボイスがない請求書は、仕入税額控除でどう扱われるのか
原則として、インボイスのない仕入は仕入税額控除を受けられません3。
ただし2031年9月末までは、インボイスがなくても一定割合を控除できる経過措置があります3。
割合などの詳細は国税庁の案内で確かめてください。
電子インボイスに対応していない取引先がいる場合はどうするか
データで受け取れるのは、仕入先が電子インボイスで送れる場合に限られます。
対応していない仕入先からは紙やPDFで受け取る経路が残るため、データで受け取る件数とそれ以外の件数を分けて試算します。
データで受け取る分だけで効果を計算すると、残る紙・PDFの処理時間が試算から抜けてしまいます。
導入後に効果を確かめる指標は何を使うか
処理時間(工程ごとの1件あたり作業分数と月間合計)、修正件数(修正仕訳・差戻し・支払の訂正)、締め日数(締め日から買掛の残高が確定するまでの日数)が使いやすい指標です。
導入前に同じ測り方で記録しておき、運用が落ち着いた時点と12か月の時点で比べます。
- 1 出典:株式会社ネオマーケティング「BtoB企業の社内稟議・承認プロセス実態調査2026」(2026年)
- 2 出典:Sansan株式会社「インボイス制度開始後の請求書業務に関する調査」(2023年)
- 3 出典:国税庁「インボイス制度の概要」(2026年)
- 4 出典:デジタル庁「電子インボイス(Peppol)」(2026年)
画像の出典元
- Black and white office scene featuring accounting documents, calculator, and laptops./Photo by Artem Podrez on Pexels