◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 差別化は独自の売りを作ることではなく、候補者が比べる項目のうち自社が事実で示せるものを選ぶこと。
- 2025年卒の新卒の就職確定者の決め手は、成長への期待、希望地域で働けること、福利厚生や手当の順で、待遇だけでは決まっていない。
- 軸の候補は示せる・示せない・誤解を生むに仕分け、新卒募集では職場情報の三つの区分を裏付けの枠に使える。
- 求人票は事実を確かめる場所、面接は軸を体感する場所として役割を分け、固定残業代は指針を踏まえて明示する。
- 効果は同じ定義・同じ時期の前後比較で、応募数だけでなく承諾率や定着まで流れの前後をあわせて見る。
目次

求人票が他社と似る原因は、書く内容ではなく選ぶ軸にある
求人票の文面を何度書き直しても、並べてみると他社と同じ言葉が並ぶ。
面接までは進むのに、最後は別の会社に決まってしまう。
このとき変えられるのは文章の巧さより、候補者に「何を比べてもらうか」という軸の選び方です。
差別化は独自の売りを新しく作ることではなく、候補者が比べる項目のうち、自社が事実で示せるものを選ぶことです。
新卒の就職確定者が決め手に挙げた上位は、成長が期待できること、希望する地域で働けること、福利厚生や手当の充実の順で、待遇だけで決まってはいません1。
似てしまう典型パターン
求人票の書き直しが「どう表現すれば魅力的に見えるか」から始まると、出てくる言葉はおおむね決まってきます。
成長できる環境、風通しの良い職場、若手が活躍、やりがいのある仕事。
どれも書いた本人にとっては嘘ではありません。
ところが候補者が複数社の求人を並べて読むと、どの会社にも当てはまる言葉として流れていきます。
似てしまうのは、独自の売りを探そうとするからです。
同じ業界・同じ職種であれば、仕事内容や制度には他社と重なる部分が必ずあります。
それでも「他社にない何か」を言葉で作ろうとすると、事実の裏付けが要らない抽象的な表現に寄っていきます。
抽象的な言葉は書きやすいぶん、どの会社でも書けるので区別がつかなくなります。
もう一つの問題は、候補者がその言葉を確かめられないことです。
面接で「成長できる環境とは、具体的にどういうことですか」と聞かれたとき、面接官の答えが求人票の言葉をなぞるだけなら、候補者の中で評価は上がりません。
求人票の言葉が面接で裏付けられないと、むしろ「書いてあることと実態が違うのではないか」という疑いを残します。
軸を選ぶとはどういうことか
ここでいう軸とは、候補者が会社を比べるときに使う物差しのことです。
成長の機会、働く場所、労働時間や休み、給与や手当といった項目が物差しにあたります。
差別化とは、その物差しの上で自社がどこにいるのかを、事実で示すことだと考えると整理しやすくなります。
この考え方では、独自性は必須ではありません。
たとえば同業他社も新人研修を行っている場合でも、自社の研修で何をどの順で学ぶのかを具体的に示せれば、候補者は比較の材料を手にできます。
反対に、他社にない制度があっても、候補者が重視しない物差しの上の話であれば、比較の場ではあまり意味を持ちません。
作業の順番は、候補者が何を比べているかを知るところから始まり、自社の事実を当てはめ、示せるものだけを残し、それをどこで伝えるかを決める流れになります。
以降の節は、この順に進みます。
この手順を踏めば応募が増える、と保証できるものではありません。
変わるのは、求人票の一文一文が候補者の比べたい点に答えているかどうかを、社内で点検できるようになることです。
書き直しのたびに表現だけが入れ替わる状態から、何を変えたのかを説明できる状態へ移れます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 独自の売りを探す
- 抽象的な表現に寄る
- どの会社でも書ける言葉になる
候補者は何を比べて決めるか:新卒の決め手の調査から読む
決め手の上位3項目
候補者の物差しを知る手掛かりとして、新卒の就職先選びに関する調査があります。
リクルート就職みらい研究所が、2025年卒の大学生・大学院生のうち民間企業への就職が決まった人に、2024年12月時点で最も決め手となった項目を尋ねたところ、上位は「自らの成長が期待できる」「希望する地域で働ける」「福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している」の順でした1。
福利厚生や手当も上位に入っているので、待遇が無視されているわけではありません。
ただ、それより先に成長への期待と勤務地が来ています。
待遇は比べる項目の一つであって、唯一の物差しではないということです。
上位の二つは、性質が異なります。
成長への期待は、会社が仕事の任せ方や育て方を事実で示すことで、候補者の受け取り方が変わる項目です。
一方、勤務地は会社が示し方を工夫しても動かせない事実です。
希望する地域に合う人には強い理由になり、合わない人は最初から比較の外に出ます。
勤務地を軸にするなら、魅力として飾るより、働く場所や転勤の有無を正確に書いて、合う人に確実に届けることが役割になります。
この調査から言えること・言えないこと
この結果から言えるのは、新卒の就職確定者にとって決め手は待遇だけではなく、成長への期待と勤務地が上位にあるということです。
そこから、給与や手当で他社に及ばない会社でも、成長の機会や勤務地で比較に加わる余地がある、という見方ができます。
これは調査結果を踏まえた分析で、調査自体が述べていることではありません。
言えないことも押さえておく必要があります。
公開ページで確認できるのは順位で、項目ごとにどれだけの差があるのかまでは読み取れません。
また、成長の機会を打ち出せば内定承諾が増える、という因果関係を示した調査でもありません。
回答者が何をもって「成長が期待できる」と感じたのかも、この順位からは分かりません。
対象が新卒であることも大切な条件です。
中途採用の候補者は、すでに働いた経験をもとに、前職との比較で判断します。
同じ順位がそのまま当てはまるとは限らないため、中途採用では、この結果を考える出発点にとどめ、自社の応募者や辞退者の声で確かめることになります。
その確かめ方は、待遇で劣る場合の組み立てとあわせて後で説明します。
| 順 | 決め手の項目 |
|---|---|
| 上位1 | 自らの成長が期待できる |
| 上位2 | 希望する地域で働ける |
| 上位3 | 福利厚生(住宅手当等)や手当が充実している |
▼ 図の内容を文字で読む
- 言えること
- 決め手は待遇だけではない
- 成長への期待と勤務地が上位
- 言えないこと
- 項目ごとの差の大きさ
- 成長を打ち出せば承諾が増えるという因果
- 中途採用での確かめ方
- 調査は考える出発点にとどめる
- 自社の応募者や辞退者の声で確かめる
自社の軸を見つける:事実で示せる項目だけを残す
職場情報の項目を棚卸しの材料にする
候補者が成長への期待を重視するとしても、求人票に「成長できます」と書くだけでは、前の節で見た汎用的な言葉に戻ってしまいます。
必要なのは、成長を感じさせる根拠になる事実を、自社の中から拾い出すことです。
ただ、何を拾えばよいかは、白紙から考えると迷います。
そこで手掛かりになるのが、新卒者等を募集する企業に求められている職場情報の提供の仕組みです。
職場情報は、募集・採用に関する状況、労働時間などに関する状況、職業能力の開発・向上に関する状況の三つに分けて整理されています2。
それぞれに含まれる具体的な項目は、厚生労働省の労働局のページから参照できるリーフレットに示されています。
この区分は、候補者が入社前に知りたい情報を公的に整理したものとして、自社の棚卸しの枠に使えます。
成長を軸にしたいなら、職業能力の開発・向上にあたる事実、たとえば研修をどのように行っているかを書き出します。
働きやすさを軸にしたいなら、労働時間などに関する状況にあたる事実を、採用後に人が定着しているかを示したいなら、募集・採用に関する状況にあたる事実を書き出します。
求人票で使う言葉を、公的な枠で裏付けられる形に置き換えていく作業です。
この仕組み自体は新卒者等の募集に関するもので、中途採用だけを行う会社に直接かかるものではありません。
それでも、棚卸しの枠として借りることはできます。
また、この組み合わせから言えるのは、成長を軸にするなら研修などの事実で裏付けられるということまでで、成長を前面に出すことで候補者の決め手になる、という効果までは言えません。
示せる・示せない・誤解を生む、の仕分け
書き出した候補は、そのまま求人票に載せる前に、三つに分けます。
一つ目は、事実があり、記録や具体例で説明できる「示せる」もの。
二つ目は、実態はあるかもしれないが、説明できる材料が手元にない「示せない」もの。
三つ目は、一部は事実でも、書き方次第で実際より良く見えてしまう「誤解を生む」ものです。
判断が分かれやすいのは、三つ目の「誤解を生む」です。
たとえば、入社して間もない社員が一人、早い段階でチームのまとめ役を任された例があるとします。
これを「若手が活躍する職場」と書くと、読む側には会社全体の傾向に見えます。
「入社後、早い段階でまとめ役を任された例がある」と書けば、事実の範囲に収まります。
同じ事実でも、一例を全体の性質に広げた瞬間に、誤解を生む側へ移るということです。
二つ目の「示せない」ものは、捨てる必要はありません。
たとえば、研修は実際に行っているものの、内容を書面にまとめていない場合、まとめれば示せる側に移せます。
今回の求人には載せず、次の募集までに記録を整える、という扱いが現実的です。
勤務地のように動かせない事実は、仕分けに迷うことはあまりありません。
迷うのは、どこまで詳しく書くかです。
働く場所、通勤の様子、転勤があるかどうかなど、候補者が自分の生活と照らし合わせられる程度まで具体的に書くと、希望地域に合う人にとって判断しやすくなります。
| 仕分け | 状態 | 求人票での扱い |
|---|---|---|
| 示せる | 事実があり記録や具体例で説明できる | 軸として前に出す |
| 示せない | 実態はあっても説明できる材料がない | 今は載せず記録を整える |
| 誤解を生む | 一部は事実だが実際より良く見える | 表現を事実の範囲に直すか外す |
▼ 図の内容を文字で読む
- 示せる
- 事実があり記録や具体例で説明できる
- 軸として前に出す
- 示せない
- 実態はあっても説明できる材料がない
- 今回は載せず次の募集までに記録を整える
- 誤解を生む
- 一例を全体の性質に広げて書いている
- 事実の範囲に直すか外す
待遇で勝てないときの組み立て方
待遇以外で比較に入れる軸の候補
給与や手当で他社に及ばないとき、どの軸を前に出すかは、ここまでの仕分けの結果から選びます。
新卒の決め手の調査では、福利厚生や手当より先に、成長への期待と希望する地域で働けることが挙がっていました1。
新卒採用であれば、これらの軸で示せる事実があるとき、待遇の差を補う候補として検討する価値があります。
ただし、待遇の差をこれらで埋められるかどうかまでは、この調査からは言えません。
前に出す候補として考えやすいのは、次のような軸です。
<ul><li>成長の機会:仕事をどの段階から任せるか、研修で何を学ぶか、といった具体的な事実</li><li>勤務地:働く場所、転勤の有無など、生活と照らし合わせられる事実</li><li>働き方:労働時間や休暇について、実績として示せる事実</li></ul>
いずれも、前の節の仕分けで「示せる」に入ったものに限ります。
待遇で劣る分を取り返そうとして、「示せない」や「誤解を生む」に入れたものを持ち出すと、候補者が条件を確かめた段階で評価が逆転します。
言わないほうがよいのは、待遇の弱さを別の言葉で覆う表現です。
やりがいや雰囲気の良さを強調して給与の話題から目をそらすような書き方をしても、候補者は最終的に条件を比べます。
そのとき、条件が想定より低いと分かれば、それまでの訴求も含めて信用を失います。
待遇は正確にそのまま書き、そのうえで示せる軸を足すほうが、比べる側にとって判断しやすい求人票になります。
自社の候補者の反応で確かめる方法
待遇以外の要素が、辞退や内定承諾にどう影響するかを一般的に示す資料は、ここでは示せません。
新卒の決め手の順位も、自社の候補者がその通りに考えているかどうかまでは教えてくれません。
そのため、どの軸が効いているかは、自社の候補者の反応で確かめることになります。
手軽なのは、面接後の短いアンケートです。
説明のどの点に関心を持ったか、入社を考えるうえで何が不安か、を尋ねます。
選んだ軸が候補者に届いているなら、関心を持った点としてその軸が挙がるはずです。
挙がらないなら、軸の選び方か伝え方のどちらかがずれています。
辞退した人への聞き取りも、軸を見直す材料になります。
何が決め手で他社を選んだのか、比べた相手の何が良かったのかを聞くことで、候補者が実際に使った物差しが見えてきます。
ただし、辞退の理由は本音を言いにくいものです。
選択肢を用意して答えやすくし、自由に書ける欄を添え、答えなくても不利益はないと伝えておくと、聞き取りが形だけになりにくくなります。
集めた反応は、仕分けの表に戻して使います。
候補者が関心を示した軸と、自社が事実で示せる軸が重なるところが、前に出す軸です。
候補者は関心を持っているのに自社が示せていない軸があれば、それは「示せない」から「示せる」へ移す作業の優先順位を決める材料になります。
求人票・面接・選考の流れのどこで伝えるか
求人票の役割
選んだ軸は、求人票だけで伝えきるものではありません。
候補者は、求人票を読み、面接を受け、選考の連絡をやり取りする中で、少しずつ会社を判断していきます。
それぞれの場所で効果にどれだけ差があるかを示す資料はないため、ここでは順位を付けず、役割の違いとして整理します。
求人票は、候補者が他社と並べて読み、事実を確かめる場所です。
ここで伝えるのは、仕分けで「示せる」に残った事実そのものです。
研修の内容、働く場所、労働時間や休暇の実績など、比べられる形で書きます。
「成長できる」「働きやすい」といった言葉を使う場合も、事実を先に置き、言葉はその事実のまとめとして後ろに添える順番にすると、汎用的な表現に埋もれにくくなります。
面接の役割
面接は、求人票に書いた軸を、候補者が実際に感じられる場所です。
求人票で研修の内容を示したなら、面接では、その研修を受けた社員が何を学び、配属後どんな仕事を任されたのかを話せると、文字で読んだ事実が具体的な姿になります。
候補者が現場の社員と話す機会を設けるのも、軸を体感してもらう方法の一つです。
注意したいのは、求人票と面接の話が食い違うことです。
求人票では残業が少ないと書いているのに、面接官が「忙しい時期はかなり遅くまで働く」と話せば、候補者はどちらを信じればよいか分からなくなります。
面接官には、求人票で打ち出した軸と、その裏付けになる事実を事前に共有しておく必要があります。
選考の連絡や手続きも、軸を見せる場所になります。
働きやすさを軸にしているのに、面接の日程連絡が遅れたり、約束した期日に結果が届かなかったりすれば、候補者は言葉と行動のずれを感じます。
選考の進め方そのものが、求人票で伝えたことが守られる会社かどうかを示す材料になると考えておくと、担当者の間で何を優先すべきかがそろいます。
新卒の職場情報の出し方
新卒者等を募集する場合、求人票や面接で伝える軸を支える土台として、職場情報の扱いがあります。
幅広い職場情報を提供することは努力義務とされ、応募者等やハローワーク等から求めがあった場合には、三つの区分それぞれについて一つ以上の情報を提供することが義務とされています2。
情報を求めたことを理由に、応募者を不利益に扱うことは禁止されています2。
実務の上では、求められてから慌てて用意するより、三つの区分ごとに出せる情報をあらかじめ整理しておくほうが、軸の裏付けとしても使いやすくなります。
前の節の棚卸しで書き出した事実が、そのまま職場情報の準備にもなります。
職場情報を公開しておけば、求人票で打ち出した軸を、候補者が公的な枠組みの情報と並べて確かめられるようになります。
なお、ここで参照した制度の案内は、2016年に労働局のページに掲載されたものです。
その後の運用や提供方法に変更がないかは、所管の労働局やハローワークで確認しておくと確実です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 求人票
- 事実の項目を確かめる場所
- 他社と並べて読まれる
- 面接
- 軸を実際に感じられる場所
- 求人票と話が食い違わない
- 選考の連絡と手続き
- 約束が守られるかを見せる場所
- 言葉と行動がそろう
訴求で守る表示の条件とミスマッチの避け方
固定残業代など誤解を生みやすい表示
軸を打ち出すとき、表示そのものが誤解を生むと、差別化どころか信用を損ないます。
とくに注意が要るのが、賃金の表示です。
固定残業代とは、名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働・休日労働・深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです3。
若者雇用促進法に基づく指針が適切な表示を求めており、事業主は求人・募集の段階で、指針を踏まえた明示を行うこととされています3。
具体的に何を表示するかは、労働局のリーフレットに示されているので、それに沿って記載します。
差別化の観点からも、これは避けて通れない点です。
待遇で劣る会社が月給の額を目立たせて訴求したとしても、その額に固定残業代が含まれているかどうかで、候補者が比べる前提は変わります。
候補者が他社の求人と並べて比べたときに、含まれているものが分からなければ、条件を確かめた段階で「実際は違った」と受け取られます。
表示を正確にすることは、比べてもらうための前提条件です。
求人票全体にかかる表示のルールや、違反した場合の扱いについては、ここでは断定しません。
表現に迷う場合は、所管の労働局やハローワークに確認するのが確実です。
良い面と負荷を併記する
表示の条件を守ったうえで、もう一つ考えたいのが、入社後のずれを減らす書き方です。
軸には、多くの場合、裏側に負荷があります。
早い段階で仕事を任されることは成長の機会である一方、未経験のうちから責任を負うという負荷でもあります。
勤務地が限られることは、その地域で働きたい人には魅力でも、異動の選択肢が少ないことを意味します。
良い面だけを書くと、合わない人まで応募し、入社後に「聞いていた話と違う」と感じる原因になります。
負荷も併記すると、それを受け入れられない人は自分から応募を控えます。
応募の数は減るかもしれませんが、残った候補者は、その負荷を知ったうえで関心を持っている人です。
これは提案であり、ずれが必ずなくなるという保証ではありません。
ただ、面接で負荷について改めて説明する手間や、入社後に期待とのずれを埋める話し合いが減ることは見込めます。
この点検は、求人票を書いた人とは別の人が行うと、書き手が見落とした表現に気付きやすくなります。
面接官や現場の社員が読んで、「この書き方だと実際より良く見える」と感じる箇所があれば、そこが直すべき表現です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 軸が「示せる」側に入っているか
- 一例を全体の傾向として書いていないか
- 固定残業代など賃金の表示が指針に沿っているか
- 軸の裏側にある負荷も書いたか
効果を確かめる:自社で決める指標と見る期間
見る指標
軸を選び直し、求人票や面接を変えたら、それが効いたかどうかを確かめます。
業界全体の標準となる指標や目安の値を示すことはできないため、ここで比べる相手は、自社の過去の数字です。
見る指標は、選考の流れに沿って置くと、どこで変化が起きたかが分かります。
<ul><li>応募数:求人票の軸が、候補者の目に留まったか</li><li>面接に進んだ数:書類の段階で、合う人が来ているか</li><li>内定承諾率:面接や選考の連絡で、軸が裏付けられたか</li><li>入社後の定着:伝えた軸と実態にずれがなかったか</li></ul>
大切なのは、それぞれの数え方を決めておくことです。
たとえば応募数に、途中で取り下げた人を含めるのかどうか。
内定承諾率を、内定を出した人数に対する割合とするのか、内定通知後に連絡が取れた人に対する割合とするのか。
定義が変われば数字も変わるので、変更前と変更後で同じ定義を使わなければ、比べる意味がなくなります。
前の節で、負荷を併記すると応募の数は減るかもしれないと書きました。
そのため、応募数だけを見て効果を判断すると、狙い通りの変化を失敗と読み違えることがあります。
応募数が減っても、面接に進む割合や承諾率が上がっていれば、合う人に届くようになったと読めます。
指標は一つだけでなく、流れの前後をあわせて見ます。
前後比較のやり方
比べ方の基本は、変える前の数字を同じ定義で取っておき、変えた後の数字と並べることです。
このとき、一度に変える点はできるだけ絞ります。
求人票の軸、面接の進め方、掲載先を同時に変えると、数字が動いても何が効いたのか分かりません。
見る期間についても、標準となる長さは示せません。
判断の手掛かりになるのは、採用には時期による波があることです。
新卒採用であれば、年度ごとに同じ時期を比べるのが自然です。
中途採用であれば、応募が集まる時期や、求人を出している期間をそろえて比べます。
時期の条件が違うと、軸の効果ではなく季節の違いを見てしまいます。
入社後の定着は、ほかの指標より結果が出るまでに時間がかかります。
応募数や承諾率で早めに方向を確かめつつ、定着は入社した人の様子を後から追う、というように、短い期間で見る指標と長い期間で見る指標を分けておくと、途中で判断を急がずに済みます。
数字の変化に加え、面接後のアンケートや辞退者の声で、候補者がどの軸に反応したかをあわせて見ると、数字が動いた理由を説明しやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 変える前の数字を同じ定義で取る
- 軸と伝え方を変える
- 変えた後の数字を同じ時期で並べる
自社の事実のうち、どれが候補者の比較で意味を持ち、どれが書き方次第で誤解を生むかは、社内の目だけでは判断が偏りやすいところです。
手元の求人票と社内で書き出した事実を照らし合わせ、示せる軸・まだ示せない軸・表現を直すべき箇所の仕分けを一緒に確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 差別化の出発点 | 独自性ではなく、候補者が比べる項目のうち自社が事実で示せるもの |
|---|---|
| 新卒の決め手の手掛かり | 成長への期待、希望地域で働けること、福利厚生や手当の順(2025年卒の就職確定者) |
| 載せる軸の選び方 | 示せる・示せない・誤解を生むに分け、示せるものだけを残す |
| 待遇で劣る場合 | 待遇は正確に書き、示せる他の軸を足す |
| 伝える場所 | 求人票は事実、面接は体感、選考の連絡は約束の実行 |
| 新卒の職場情報 | 求めがあれば三つの区分それぞれに一つ以上を提供 |
| 固定残業代 | 指針を踏まえて求人・募集段階で明示する |
| 効果の見方 | 同じ定義・同じ時期で変更前後を比べ、流れの前後の指標をあわせて見る |
軸を変えた後は、何を指標にし、どの定義と時期で比べるかを決めておかないと、数字が動いても理由を説明できません。 自社の選考の流れに合わせて、変更前後で比べる指標の定義と比べる時期のそろえ方を整理できます。
よくある質問
中途採用でも新卒と同じ軸で差別化できますか。
考え方は同じで、候補者が比べる項目のうち、自社が事実で示せるものを選びます。
ただし、成長への期待や勤務地が上位という順位は2025年卒の新卒の就職確定者を対象にした結果で、中途採用の候補者に同じ順位が当てはまるとは限りません。
中途採用では、面接後のアンケートや辞退者への聞き取りで、自社の候補者が何を比べているかを確かめてから軸を選ぶのが確実です。
職場情報を公開していない場合、求められたら何を出せばよいですか。
新卒者等の募集では、応募者等やハローワーク等から求めがあった場合、募集・採用に関する状況、労働時間などに関する状況、職業能力の開発・向上に関する状況の三つの区分それぞれについて、一つ以上の情報を提供することが義務とされています。
求めたことを理由に不利益に扱うことは禁止されています。
具体的な項目は労働局のリーフレットに示されているので、事前に区分ごとに出せる情報を整理しておくと対応が早くなります。
案内は2016年掲載のものなので、最新の運用は所管の労働局やハローワークで確認してください。
固定残業代がある求人で、アピールしたい点とどう両立しますか。
固定残業代の表示は、アピールより先に満たす前提条件として扱います。
若者雇用促進法に基づく指針が適切な表示を求めており、求人・募集の段階で指針を踏まえた明示が求められます。
表示を正確にしたうえで、成長の機会や勤務地など、事実で示せる軸を別に打ち出すと、候補者は条件を誤解せずに比べられます。
月給の額だけを目立たせる訴求は、含まれている内容が分からないと比較の前提がずれるため避けたほうが安全です。
小規模企業で研修制度がない場合、成長機会はどう示しますか。
制度としての研修がなくても、入社後に何をどの順で覚え、いつ頃からどんな仕事を任せているかという実際の流れは、事実として示せます。
先輩社員が仕事を教えている実態があれば、その内容を書面にまとめると「示せる」側に移せます。
ただし、一人の例を全体の傾向として書くと誤解を生むため、「〜した例がある」のように事実の範囲で書くことが大切です。
効果を確かめるのに、最低どれくらいの期間を見るべきですか。
一律の標準となる期間はありません。
採用には時期による波があるため、新卒なら年度ごとの同じ時期、中途なら求人を出している期間や時期をそろえて、変更前と変更後を比べます。
入社後の定着は結果が出るまで時間がかかるので、応募数や承諾率など早く見られる指標と分けて追うと、判断を急がずに済みます。
- 1 出典:リクルート就職みらい研究所「就職プロセス調査(2025年卒)2024年12月1日時点 内定状況」(2024年)
- 2 出典:厚生労働省 静岡労働局「事業主による職場情報提供の義務化について」(2016年)
- 3 出典:厚生労働省 静岡労働局「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」(2016年)
画像の出典元
- Colleagues discussing documents in a modern office meeting room./Photo by Pavel Danilyuk on Pexels