◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸価格の仕組み化で減るのは価格を探して当てはめる作業で、掛率や個別単価を決める判断は人に残る
- 要件定義の前に、価格の土台・例外・改定と承認の流れを棚卸しし、条件にできない裁量は価格方針として先にそろえる
- 取引先別単価と掛率が重なるときの優先順位や、数量別・期間指定・単位換算の扱いを要件書に書く
- 改定対応では改定日・適用基準日・見積有効期限・承認者を決め、旧価格と新価格を有効期間付きで持つかを検討する
- 取適法は委託事業者としての場面を規律するもので、卸価格を提示する販売とは分けて考え、適用の有無は個別に確かめる
目次

見積のたびに価格を人が確認・修正している状態で、機械に任せられる作業と人に残る判断は何か
見積を作るたびに、取引先ごとの掛率や特別単価を価格表とメモから探していると、担当者によって出す金額が少しずつ違ってきます。
仕入先から価格改定の連絡が来れば、更新したはずの価格表と営業の手元の表が食い違うこともあります。
建材の卸価格をシステムで管理すると、価格を探して転記する作業は減らせます。
ただし、誰にいくらで売るかを決める判断は人に残ります。
そのため要件定義の出発点は機能選びではなく、いまの卸価格がどう決まっているかの棚卸しです。
そのうえで論点ごとに価格のルールを決め、部署間で合意し、改定時の運用まで要件に含めます。
価格を「決める」作業と「呼び出す」作業を分ける
卸価格の困りごとを分解すると、性質の違う二つの作業が混ざっています。
一つは、どの取引先に、どの商品を、いくらで売るかを決める作業です。
掛率をどの水準にするか、特定の工務店にだけ個別単価を出すか、仕入先が値上げしたときに売価をいつ改めるか、といった判断がこれに当たります。
もう一つは、決まった価格を見積・受注・請求の場面で正しく引き当てる作業です。
見積担当が取引先名から掛率を探して商品の基準価格に掛け、例外がないかメモを見て見積書に転記する、という作業です。
毎日繰り返しているのは、主にこちらです。
仕組みに任せやすいのは、後者の呼び出しです。
取引先と商品と日付が決まれば価格が一つに定まるようにルールを登録しておけば、担当者が表を探して計算し直す手間は減ります。
誰が見積を作っても同じ金額が出やすくなるのも、この効果です。
あわせて、いつ誰がどの価格を変えたかという履歴を残せる点も、表計算ファイルを手で直す運用との違いです。
一方で、掛率の水準や個別単価を出すかどうかは、取引の経緯や競合の状況を踏まえた卸側の判断です。
システムが代わりに決めるものではありません。
顧客別に卸価格を持つ仕組み自体は、法人向けの販売システムで実装されている例があります。
工業用粘着テープなどを扱う卸・販売の導入事例では、顧客別の卸価格設定や販路設定が標準の機能として備わり、取引ごとの卸価格設定にも対応していると説明されています3。
ただしこれは建材卸ではなく、特定の製品の特定の事例です。
機能が存在することは分かりますが、建材卸で同じ運用がそのまま成り立つかは、扱う商品や取引先の構成によって変わります。
呼び出しを任せるには、決め方が書き出せている必要がある
見落としやすいのは、呼び出しを機械に任せるには、決め方がルールとして書き出せていなければならないという点です。
たとえば「この取引先は付き合いが長いので、大口の注文は担当者の裁量で少し下げる」という運用があるとします。
この裁量の部分は、条件として書けない限り登録できません。
登録できない部分が多いまま導入すると、システムが出した価格を担当者が毎回手で直すことになります。
その場合、確認と修正の手間は残ったままです。
つまり、仕組み化で減るのは「決めたことを探して当てはめる」作業です。
その効果は、決め方がどこまで明文化されているかで変わります。
要件定義の前に現行の価格の決まり方を棚卸しする理由は、ここにあります。
| 作業 | 中身 | 仕組み化で変わること |
|---|---|---|
| 価格を決める | 掛率・個別単価・改定後の売価を決める | 判断は人に残る。決めた内容を登録し履歴を残せる |
| 価格を呼び出す | 見積・受注・請求で決まった価格を引き当てる | ルールが明確なら引き当てと計算を任せられる |
| 例外を扱う | 担当者の裁量で価格を変える | 条件として書けない部分は手作業で残る |
要件定義の前に、現行の卸価格の決まり方をどう棚卸しするか
仕入価格と掛率の持ち方
要件定義の進め方については、IPA(情報処理推進機構)が業務側の利用者向けの手引きを出しています。
このガイドは、ITベンダーやシステム部門が主導する形から、業務側のユーザが要件定義に主体的に関わる形への転換を扱い、業務要件とシステム要件を章立てで分けています1。
業務要件は「業務として何をどう決めて動かすか」、システム要件は「それを仕組みでどう実現するか」と考えると分かりやすいでしょう。
なお、紹介頁で確認できるのは目次と概要で、価格管理に関する個別の記述は含まれていません。
以下の棚卸しの項目はガイドが示したものではなく、業務要件を先に書き出すという順序に沿って本記事が整理した案です。
最初に書き出すのは、価格の土台になる基準価格や仕入価格と、そこから売価を決める考え方です。
建材の卸価格の決め方としては、メーカーの定価のような基準価格に掛率を掛けて売価を出す形と、仕入価格に利益を上乗せして売価を出す形が考えられます。
自社ではどちらが使われているか、商品群によって混在していないかを、商品群の単位で書き出します。
基準価格は誰がどこから取り込んでいるか、掛率は取引先ごとに持つのか取引先の区分ごとに持つのか、も併せて記録します。
考え方が二通り以上あると分かれば、システムにも複数の計算方法を持たせる必要があるという要件が見えてきます。
取引先別単価と例外の洗い出し
次に、掛率の計算では出てこない価格を拾います。
特定の取引先と個別に取り決めた単価、現場や物件の単位で出した特別価格、一定量以上の注文に適用する値引きなどです。
これらが価格表の別シートや担当者のメール、見積書の控えに散らばっている場合、書き出して初めて件数の多さに気づくこともあります。
一件ごとに、誰が決めたか、どの条件で適用するか、いつまで有効か、の三点を添えておくと、後の論点整理でそのまま使えます。
例外を洗い出すときは、条件として書けるものと、担当者の判断でしか説明できないものを分けておきます。
後者が多いなら、システムで表現する前に、価格の決め方そのものを社内でそろえる話し合いが必要です。
これを要件定義の場に持ち込むと、機能の議論と価格方針の議論が混ざり、どちらも決まらないまま時間が過ぎてしまいます。
改定ルールと承認の現状
最後に、価格が変わるときの流れを書き出します。
仕入先からの改定通知を誰が受け取り、どの表をいつ直し、営業にどう知らせているか。
売価を改めるかどうかは誰が判断し、取引先への通知は誰が出しているか。
承認の手順が決まっていない場合は、そのこと自体を現状として記録します。
改定の流れは、次の論点整理と、その後の改定対応の要件の両方の材料になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 決める作業(人に残る)
- 掛率の水準を決める
- 個別単価を出すか決める
- 売価を改める時期を決める
- 呼び出す作業(任せやすい)
- 見積・受注・請求で価格を引き当てる
- 変更の履歴を残す
- 例外の裁量
- 条件として書ければ登録できる
- 書けない部分は手作業で残る
▼ 図の内容を文字で読む
- 仕入価格と掛率の持ち方:基準価格・仕入価格と売価の決め方を商品群ごとに書く
- 取引先別単価と例外の洗い出し:誰が決め、どの条件で、いつまで有効かを添える
- 改定ルールと承認の現状:通知の受け手、表の更新、売価改定の判断者を記録する
取引先別単価・掛率・数量別・期間・単位換算:価格要件が分かれる論点
取引先別単価と掛率の優先順位
棚卸しで書き出した価格のルールは、見積の一行ごとに「どの価格を採るか」の順番が決まっていないと、システムに載せても結果が揺れます。
典型的なのが、取引先別単価と掛率の併用です。
ある工務店に掛率が設定されていて、同時に一部の商品だけ個別単価も取り決めているとします。
その商品の見積では、個別単価を採るのか、掛率で計算した価格と比べて安い方を採るのか。
人が判断していたときは担当者ごとの暗黙の了解で済んでいた部分も、システムでは一つのルールとして決めておかなければ動きません。
優先順位は会社の価格方針で決まるもので、どちらが正しいという答えはありません。
考え方の一例として、物件ごとの特別価格、取引先別の個別単価、取引先の掛率、標準の売価の順に探し、最初に見つかった価格を採るという並べ方があります。
大切なのは並べ方そのものより、例外が重なったときに誰が見ても同じ結果になるよう、要件書に順番を書いておくことです。
価格の算出方法そのものが要件になるという点は、先の事例からも読み取れます。
この事例では、販売加盟店ごとに価格を登録でき、卸価格に対して製品ごとに利益率を決めて自動計算する仕組みを構築したと紹介されています3。
建材卸にそのまま当てはまる例ではありません。
それでも、自動で計算させるには、どの値を起点に何を掛け、どの単位で決めるかを先に定義しておく必要がある、という構造は共通しています。
数量別・期間指定
数量によって単価が変わる取引がある場合は、区切りの数量をどこに置くかに加えて、区切りを超えたら注文全体の単価が変わるのか、超えた分だけが変わるのかを決める必要があります。
一つの注文の中で同じ商品を複数の現場向けに分けて出荷する場合、数量を注文全体で数えるのか、出荷ごとに数えるのかでも結果が変わります。
この論点は、見積担当にとっては日々の計算方法の問題です。
同時に、価格マスタを保守する購買にとっては、登録する行数が変わる問題でもあります。
期間指定は、特別価格に有効期限を持たせるかどうかの論点です。
物件向けの特別価格を期限なしで登録すると、物件が終わった後も同じ取引先の別の注文に適用され続けるおそれがあります。
期限を持たせるなら、期限切れが近いものを誰が確認し、延長か終了かを誰が決めるかまで、運用の要件として書いておきます。
これは次の節で扱う改定対応ともつながる部分です。
単位換算
建材では、仕入れと販売で単位が違う商品を扱うことがあります。
たとえば仕入先からはケース単位で買い、取引先には枚や本の単位で売る場合、どちらの単位の価格を正として持ち、もう一方を換算で出すのかを決めなければなりません。
換算で出すなら、端数をどう丸めるか、丸めによる誤差を請求でどう扱うかも要件になります。
単位換算は見積の画面では目立ちませんが、請求の段階で差額として表に出やすい論点です。
ここで挙げた論点は、建材卸の業界資料で網羅性を確かめたものではありません。
棚卸しの結果、ここにない独自の決め方が見つかることもあるでしょう。
その場合も同じように、見積の作業が変わるのか、価格マスタの保守が変わるのかで分けて要件に加えます。
仕入先の価格改定が続くとき、改定対応を要件にどう入れるか
改定日と見積の有効期限がずれると何が起きるか
仕入先の価格改定が続くと、困りごとは更新作業の多さだけではなくなります。
より厄介なのは、改定の基準日と、すでに取引先へ出している見積の有効期限が食い違うことです。
仕入先の告知が「ある日以降の受注分から新価格」という受注日基準になっている場合を考えます。
卸側が改定前に旧価格で見積を出し、その有効期限が改定日をまたいでいるとします。
取引先が期限内に発注しても、卸から仕入先への発注が改定日以降になれば、仕入は新価格、売価は旧価格のままという状態が起こり得ます。
このずれは、担当者が気づけば個別に交渉や判断ができます。
しかし気づかなければ、受注処理の後に利益の差として現れます。
手作業の運用では、改定の情報は購買の手元にあり、見積の有効期限は営業の手元にあるため、両方を突き合わせる人がいないことが原因になりがちです。
仕組みに入れる意味は、この二つの日付を同じ場所に持たせ、重なりを機械的に見つけられるようにすることにあります。
要件に含める四つの項目
改定対応を要件に入れるときは、少なくとも次の点を決めておきます。
<ul><li>改定日:仕入先の新価格がいつから有効になるか</li><li>適用基準日:新価格を受注日・出荷日・見積日のどれで判定するか</li><li>見積有効期限:改定日をまたぐ見積をどう扱うか</li><li>承認者:新しい仕入価格と売価を誰が確認して有効にするか</li></ul>
適用基準日は、仕入先との条件と取引先との条件でそろわないことがあります。
仕入先は受注日基準、取引先との約束は見積日基準というように、片方の基準だけを登録すると、もう片方の約束とずれます。
どちらの基準で価格を判定し、ずれが出たときに誰が判断するかを営業と購買で先に話し合っておくことが、システムの設定より前に必要です。
あわせて、改定前の価格を上書きせず、有効期間付きで持つかどうかも決めます。
新価格を登録した瞬間に旧価格が消える運用だと、改定前に出した見積の根拠を後から確かめられません。
旧価格と新価格を有効期間付きで並べて持てば、見積日や受注日に応じた価格を後からでも引けますし、改定日をまたぐ見積を一覧で拾うこともできます。
これは改定の回数を減らすものではなく、改定のたびに起きる突き合わせの手間と見落としを減らすための要件です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 物件ごとの特別価格
- 取引先別の個別単価
- 取引先の掛率
- 標準の売価
既存の基幹設定・パッケージ・個別開発をどう選ぶか
選ぶ前にそろえる条件
棚卸しと論点整理が済んで、ようやく実現の手段を選ぶ段階に入ります。
選択肢は大きく分けて、いま使っている基幹システムや販売管理の設定で対応する、価格管理の機能を持つパッケージを導入する、個別に開発する、の三つです。
どれが優れているかは一般には決まらず、棚卸しで見えた価格の複雑さとの相性で決まります。
比べるときの軸として、本記事では次の四つを提案します。
例外の数、価格改定の頻度、承認の要否、担当者の保守負担です。
例外が少なく、掛率と標準価格でほぼ説明できるなら、既存の設定で足りる可能性があります。
取引先別単価や物件価格、有効期間付きの価格が多いなら、それらを標準で持てるかどうかが選択の分かれ目になります。
標準の機能で表せない独自の計算が業務の中心にあるなら、個別開発や追加開発を検討することになります。
保守負担は見落とされやすい軸です。
価格マスタは導入時に一度入れれば終わりではなく、改定のたびに誰かが更新します。
更新が一件ずつの画面入力しかできないのか、一括で取り込めるのか、取り込み前に新旧の差を確認できるのかで、購買の担当者の作業は変わります。
機能の多さよりも、自社の改定の頻度でこの作業が回るかどうかを考える方が、導入後の困りごとに直結します。
条件を提供者に確認する観点
各選択肢の費用や導入期間は、扱う商品数や取引先数、既存システムとの接続などの条件で変わります。
一般的な目安を当てにして比べることはできません。
代わりに、棚卸しの結果から具体的な条件を書き出して各提供者に示し、どう実現するかを聞く方が比べやすくなります。
たとえば「掛率のある取引先に、一部の商品だけ個別単価があり、さらに物件ごとの特別価格が期限付きで存在する」という自社の典型的な組み合わせを一つ書き出します。
そのうえで、その見積がどう計算されるかを、実際の画面か設定で示してもらいます。
標準の設定でできるのか、追加開発が要るのか、運用で補うのか、という答え方の違いがそのまま選択肢の違いになります。
改定についても、旧価格と新価格を期間付きで持てるか、改定日をまたぐ見積を拾えるかを、同じように具体例で確かめます。
| 確認の軸 | 既存の基幹設定 | パッケージ | 個別開発 |
|---|---|---|---|
| 例外の数 | 個別単価や物件価格を現行の設定項目で持てるか | 標準で持てる価格の種類と優先順位の設定 | 例外の計算をどこまで作り込むか |
| 改定の頻度 | 一括更新と期間付き価格の可否 | 一括取り込みと新旧比較の有無 | 更新画面や取り込みを誰が作り保守するか |
| 承認の要否 | 価格変更に承認を挟めるか | 承認の流れを設定で組めるか | 承認の流れを仕様として定義できるか |
| 保守負担 | 設定変更を社内で行えるか | 設定変更と版の更新を誰が担うか | 改修のたびに誰に依頼するか |
▼ 図の内容を文字で読む
- 旧価格で見積を提出:改定前の価格で見積を出す
- 仕入先の改定日:この日以降の受注分から新価格
- 取引先が期限内に発注:売価は旧価格のまま
- 卸が仕入先へ発注:改定日以降のため仕入は新価格
- 見積の有効期限:期限が改定日をまたいでいる
▼ 図の内容を文字で読む
- 既存の基幹設定
- 例外が少ない
- 掛率と標準価格でほぼ説明できる
- パッケージ
- 取引先別単価や物件価格が多い
- 有効期間付きの価格を標準で持てるか
- 個別開発
- 標準の機能で表せない独自の計算が中心
- 追加開発を検討する
要件定義書に何を書き、営業・購買・経理・情報担当で何を合意するか
要件書に書く価格の項目
IPAのガイドには、要件定義のドキュメントを扱う章と、機能要件の合意形成を扱う付録が設けられています1。
紹介頁から章の中身までは読み取れませんが、要件を文書にして関係者で合意する段階が、要件定義の一部として位置づけられていることは分かります。
価格の要件でいえば、ここまでの棚卸しと論点整理で決めてきたことを、部署ごとに確認できる形にまとめる段階です。
価格に関して要件書に残す項目は、ここまでの節で扱った内容がそのまま骨組みになります。
価格の算出方法と、例外が重なったときの優先順位。
数量別・期間指定・単位換算の扱い。
改定日・適用基準日・見積有効期限・承認者。
そして、誰が価格を決め、誰が登録し、誰が承認するかという役割です。
機能の名前ではなく業務として何を決めたかを書いておけば、選択肢を比べるときにも同じ文書を各提供者に渡せます。
部署ごとに確認してもらう点
要件書は情報担当がまとめるとしても、価格の中身を確かめられるのは業務の部署です。
営業には、見積で出る価格が取引先との約束どおりになるか、特別価格や期限の扱いが現場の実態に合うかを見てもらいます。
購買には、仕入先の改定を誰がいつ登録するか、適用基準日の考え方が仕入先との条件と合っているかを確認してもらいます。
経理には、請求金額の端数処理や単位換算による誤差の扱いに加えて、仕入価格の持ち方が在庫の評価や原価の計算とどう関わるかを見てもらいます。
評価の方法は会社の会計方針で決まっているので、価格管理の要件がその方針と食い違っていないかを確かめる位置づけです。
情報担当は、各部署の確認結果に矛盾がないか、既存システムとの接続で価格が二重に管理されないかを見ます。
価格を決める権限を誰が持つかについて部署間で認識が違う場合、それは要件書ではなく業務ルールの問題です。
システムの議論とは切り離して決めておきます。
導入後に価格のずれを防ぐ運用と、取適法で気をつける範囲
改定手順と権限
導入後に価格がずれる場面として考えやすいのは、価格を変える手順の中です。
登録した人がそのまま有効にできる運用だと、入力の誤りに気づく機会がありません。
そこで、価格の変更を起票する人と、承認して有効にする人を分けることを提案します。
起票は購買や営業の担当者、承認は価格を決める権限を持つ人というように、棚卸しで整理した役割に合わせます。
あわせて、変更の履歴を残し、定期的に価格マスタと取引先との取り決めを照合します。
照合の頻度は改定の多さに合わせて決めればよく、決まった正解はありません。
履歴があれば、照合で食い違いを見つけたときに、いつ誰が変えたかから原因をたどれます。
これらの手順で誤りがなくなるとは言えません。
それでも、手作業の運用で生じていた「誰が直したか分からない」「どの版が最新か分からない」という確認の手間は減らせます。
取適法の対象となる場面と対象外の場面
価格の管理を見直すと、価格の決め方に関する法令も気になるところです。
取適法(下請法を改正した法律)は、委託事業者が中小受託事業者との取引で守るべき事項を定めています。
公正取引委員会の解説では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったのに協議に応じず、必要な説明も行わずに代金を一方的に決めること(第5条第2項第4号)が禁止行為として示されています2。
同種・類似の給付に通常支払われる対価に比べて著しく低い額を不当に定める買いたたき(第5条第1項第5号)も、禁止行為の一つです2。
ここで区別したいのは、卸が価格を決める場面が二つあることです。
一つは、取引先の工務店や販売店に卸価格を提示して売る場面です。
これは卸が売り手として価格を示す取引で、上の禁止行為が規律する委託事業者の立場とは向きが違います。
もう一つは、卸が発注する側として、加工や製造、運送などを外部に委託する場面です。
取適法が問題にするのは主にこちらで、卸が委託事業者に当たる場合は、委託先との代金の決め方に注意が必要です。
ただし、取適法が適用されるかどうかは、取引の類型と、資本金や従業員数の基準の両方で決まります。
先の解説頁は基準の詳細までは示しておらず、卸が仕入商品を買う通常の売買が対象になるかどうかも、ここでは断定できません。
自社の取引が当てはまるかは、所管機関の資料や窓口で個別に確かめる必要があります。
また、価格を管理する仕組みを整えても、それだけで法令に対応したことにはなりません。
委託先との単価もシステムで管理するなら、協議の求めを受けた日や説明の内容を記録できるようにしておくと、社内で経緯を確かめやすくなります。
位置づけとしては、その程度に留めるのが妥当です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 営業
- 見積価格が取引先との約束どおりか
- 特別価格と期限の扱い
- 購買
- 仕入先の改定を誰がいつ登録するか
- 適用基準日が仕入先との条件と合うか
- 経理
- 端数処理と単位換算の誤差
- 仕入価格と在庫評価・原価の関わり
- 情報担当
- 各部署の確認結果に矛盾がないか
- 価格が二重に管理されないか
棚卸しで書き出した価格のルールのうち、どこまでが標準の設定で表せ、どこからが追加の作り込みになるかは、社内の検討だけでは判断しにくい部分です。
顧客別の卸価格設定を標準で備えるB2B向けの仕組みを例に、自社の取引先別単価や掛率の組み合わせがどう計算されるかを、具体例を示して確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 出発点 | 機能選びより先に、現行の価格の決まり方を棚卸しする |
| 仕組みに任せる範囲 | 価格を呼び出す作業と変更履歴。掛率や個別単価を決める判断は人に残る |
| 優先順位 | 例外が重なったときに価格を探す順番を要件書に書く |
| 改定対応 | 改定日・適用基準日・見積有効期限・承認者を決め、旧価格を期間付きで残すか検討する |
| 選択肢の比較 | 例外の数・改定頻度・承認の要否・保守負担を軸に、自社の具体例で提供者に確かめる |
| 取適法 | 販売の場面と委託の場面を分け、適用の有無は個別に確認する |
改定日をまたぐ見積の扱いや承認の流れは、価格方針と仕組みの両方にかかわるため、要件書の段階で整理しておくと導入後の手戻りを抑えやすくなります。 作成中の要件書の価格項目をもとに、標準機能で対応できる範囲と、運用や追加開発で補う範囲の切り分けを相談できます。
よくある質問
掛率と取引先別単価が両方ある場合、どちらを優先すると決めればよいですか。
どちらが正しいという答えはなく、会社の価格方針で決めます。
考え方の一例は、取引先と個別に取り決めた単価を掛率より先に探し、見つかればそれを採る並べ方です。
掛率で計算した価格と比べて安い方を採る運用もあり得ますが、その場合はそのことを要件書に書いておきます。
大切なのは、例外が重なったときに誰が見積を作っても同じ結果になるよう、順番を文書にしておくことです。
仕入先の価格改定日と、すでに出した見積の有効期限が重なる場合はどう扱えばよいですか。
まず、新価格を受注日・出荷日・見積日のどれで判定するかを、営業と購買で決めます。
そのうえで旧価格と新価格を有効期間付きで持てば、改定日をまたぐ見積を一覧で拾えます。
拾った見積を旧価格のまま受けるか、取引先と相談するかは個別の判断になるため、その判断を誰がするかも要件に含めておきます。
Excelの価格表をそのまま移す前に、何を整理すべきですか。
計算方法の種類(掛率か、仕入価格への上乗せか)、例外の条件と有効期限、条件として書けない担当者の裁量を分けておきます。
裁量の部分はそのままではシステムに登録できないため、価格方針として先にそろえる必要があります。
あわせて、複数の版や重複した行がないかも確認しておくと、移した後に古い価格が残るのを防ぎやすくなります。
取適法は、卸価格を取引先に提示する場面にも関係しますか。
取適法の禁止行為は、委託事業者が中小受託事業者との取引で守るべきことを定めたものです。
卸が取引先に卸価格を提示して売る場面は、卸が売り手として価格を示す取引で、委託事業者の立場とは向きが違います。
一方、卸が加工や運送などを外部に委託する場面では関係し得ます。
適用は取引の類型と資本金・従業員数の基準で決まるため、自社の取引が当てはまるかは所管機関の資料や窓口で確かめてください。
要件定義書の価格に関する項目は、どの部署が確認すべきですか。
営業は、見積価格が取引先との約束どおりか、特別価格や期限の扱いを確認します。
購買は、改定の登録者と時期、適用基準日が仕入先の条件と合っているかを確認します。
経理は、端数処理や単位換算の誤差、仕入価格と在庫評価の関係を確認します。
情報担当は、部署間の確認結果の矛盾や、価格の二重管理がないかを見ます。
- 1 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「ユーザのための要件定義ガイド 第2版 要件定義を成功に導く128の勘どころ」(2019年)
- 2 出典:公正取引委員会「取適法(下請法の改正)禁止行為の解説」(2026年)
- 3 出典:株式会社フライトソリューションズ(EC-Rider B2B)「導入事例 日東電工CSシステム株式会社様」(事例掲載時点)