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法人向けECの価格階層の決め方:取引先ランク・数量段階の設計と、違法にならない卸値の置き方

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 価格階層は「誰に(取引先ランク)」か「何個から(数量段階)」かの主軸を、購買実態・粗利・対応負荷から一つ選んで作る。
  • 購入実績に応じた卸値の差が問題ないとされた相談事例はあるが条件付きの個別事案であり、販売価格を指示して守らせることは原則違法なので、卸値表と販売価格の扱いを分けて書く。
  • ECでは価格表の割当単位、重なったときの表示、段階数や割当数の上限を確かめ、上限と取引先への説明しやすさの両面から段階数を絞る。
  • 移行は現行価格の棚卸しと差分の確認から始め、例外は繰り返すか・誰にでも出せるかで階層に入れるか見積りで受けるかを決める。

20代前半の日本人男性がホワイトボードでの説明をしている場面

法人向けECの価格階層は、個別に決めている卸値を基準に置き換えること

取引先から「うちの掛け率は?」「数量を増やすので安くならないか」と聞かれるたびに、担当者がその場で卸値を決めていませんか。
そのやり方では、同じ商品でも取引先ごとに理由を説明できない価格差が残ります。
価格階層は、その判断を「誰に(取引先ランク)」か「何個から(数量段階)」かを主軸にした基準に置き換える仕組みです。
購入実績に応じた価格差は、公正取引委員会の相談事例で問題ないとされたことがあります3。
一方で、卸した先の販売価格を指示して守らせる形は原則違法です1。
ECでは取引先別の価格表と数量段階で価格を出し分けられますが、割当数や段階数の上限は製品ごとに違います。

「掛け率は?」「数量を増やすので安く」への対応が揺れる理由

個別見積りでは、価格を決める材料が担当者の頭の中にあります。
前回いくらで出したか、その取引先がどれくらい買ってくれているか、競合からどんな提示を受けていると言われたか、といった材料です。
担当者はこれらを都度思い出して判断します。
そのため同じ商品・同じ数量でも、問い合わせを受けた担当者や時期によって答えが変わります。

困るのは、価格がばらつくこと自体より、ばらつきの理由を後から説明できないことです。
ある取引先が別の取引先より高い卸値で買っていると分かったとき、「付き合いが長いから」「その時の判断で」としか言えなければ、値下げ要求に根拠を持って応じることも断ることも難しくなります。
社内でも、粗利を見ている人と営業担当の間で「なぜこの価格なのか」という確認が毎回発生します。

価格階層は、この判断を前もって決めた基準に置き換えるものです。
取引先から価格を聞かれたとき、担当者は「この取引先はどの段階に当たるか」を確かめれば答えられます。
基準に当てはまらない依頼だけを例外として扱うので、その場で判断する件数が減り、判断した内容も記録しやすくなります。

軸は「誰に」か「何個から」か:選ぶための3つの観点

階層の軸は大きく分けて二つあります。
一つは、取引先ごとにランクを決め、ランクに応じた卸値を出す「誰に」の軸です。
もう一つは、一度に注文する数量が多いほど単価を下げる「何個から」の軸です。
両方を組み合わせることもできますが、最初にどちらを主軸にするかを決めておくと、例外が出たときに立ち返る基準が一つになります。
どちらが優れているという決まった答えはなく、自社の取引の形から選ぶことになります。

選ぶときの観点として、購買実態・粗利・対応負荷の三つを提案します。
<ul><li>購買実態:取引先ごとの年間購入額の差が大きいのか、一回の注文数量の差が大きいのか。
前者ならランク、後者なら数量段階が実態に合いやすくなります。</li>
<li>粗利:値引きの原資がどこから生まれているか。
まとめて出荷できて梱包・配送の手間が減るなら数量段階、継続取引で営業や与信管理の手間が減るならランクで還元する、という理屈が立ちます。</li>
<li>対応負荷:取引先が多く、一社ずつランクを決めて管理するのが重いなら、注文時の数量で自動的に決まる数量段階のほうが運用しやすくなります。</li></ul>

たとえば、少数の取引先がそれぞれ継続して購入している場合は、取引先ごとの関係の違いをランクに反映させるほうが自然です。
反対に、多数の小規模な取引先が注文ごとに数量を変える場合は、数量段階のほうが説明しやすくなります。
誰が注文しても同じ数量なら同じ単価になるので、取引先から「うちだけ高いのでは」という疑問も生まれにくくなります。

価格階層の主軸を選ぶ観点(模式図)
取引先ランクと数量段階のそれぞれが合いやすい取引の形を分けた図取引先ランクと数量段階のそれぞれが合いやすい取引の形を分けた図誰に(取引先ランク)取引先ごとの年間購入額の差が大きい継続取引で営業や与信管理の手間が減る少数の取引先が継続して購入している何個から(数量段階)一回の注文数量の差が大きいまとめて出荷でき梱包・配送の手間が減る取引先が多くランク管理が重い

▼ 図の内容を文字で読む
  • 誰に(取引先ランク)
    • 取引先ごとの年間購入額の差が大きい
    • 継続取引で営業や与信管理の手間が減る
    • 少数の取引先が継続して購入している
  • 何個から(数量段階)
    • 一回の注文数量の差が大きい
    • まとめて出荷でき梱包・配送の手間が減る
    • 取引先が多くランク管理が重い

取引先ごとに卸値を変えるのは違法か:購入実績に応じた価格差の考え方

価格差が直ちに違法ではない理由

取引先ランクで卸値に差をつけると決めたとき、まず気になるのは、取引先によって価格を変えること自体が独占禁止法に触れないかという点でしょう。
公正取引委員会の相談事例に、化学品メーカーが購入実績の多い卸売業者への仕切価格(メーカーが卸売業者に販売する価格)を引き下げてよいかを相談したものがあります3。
この事例では、取引先によって価格に差を設けること自体は直ちに違法ではないとしたうえで、購入実績に応じた引下げは独占禁止法上問題ないと回答されています3。

ただし、この回答は事案の条件とセットで読む必要があります。
平成12年度の相談で、市場には有力な他のメーカーが存在し、引下げは品目ごとに一律1〜3%、対象は購入額で上位10位以内の卸売業者でした3。
購入額の順位という誰にでも同じに当てはまる基準を使い、引下げ幅も限られていたことが判断の前提になっています。
自社の階層がこれらの条件と違えば、同じ結論になるとは限りません。

問題になる場合:競争者を困難にする価格差、納入価格の拘束

同じ事例では、問題となる場合も示されています3。
一つは、競争の結果とはいえない価格差によって、競争者の事業活動を困難にする場合です。
もう一つは、価格差を納入価格の拘束の手段として用いる場合です。
たとえば、卸値を下げる条件として取引先の販売価格を一定以上に保つよう求める使い方は、この考え方に照らして注意が必要です。

階層の設計に置き換えると、ランクの条件は購入実績のような取引上の事実で決め、取引先の販売価格や販売方法を条件に混ぜないことが一つの目安になります。
個別の取引が問題ないかどうかは、市場での自社の立場や価格差の大きさによって変わります。
判断に迷う場合は、公正取引委員会の事前相談や、独占禁止法に詳しい専門家に確認するのが確実です。

購入実績に応じた卸値の差:相談事例での条件と問題となる場合(平成12年度の個別事案・模式図)
相談事例で問題ないとされた条件と、問題となる二つの場合を分けた図相談事例で問題ないとされた条件と、問題となる二つの場合を分けた図問題ないとされた条件購入実績に応じた仕切価格の引下げ購入額で上位10位以内の卸売業者が対象引下げは品目ごとに一律1〜3%市場に有力な他のメーカーが存在問題となる場合競争の結果とはいえない価格差で競争者の事業活動を困難にする価格差を納入価格の拘束の手段として用いる

▼ 図の内容を文字で読む
  • 問題ないとされた条件
    • 購入実績に応じた仕切価格の引下げ
    • 購入額で上位10位以内の卸売業者が対象
    • 引下げは品目ごとに一律1〜3%
    • 市場に有力な他のメーカーが存在
  • 問題となる場合
    • 競争の結果とはいえない価格差で競争者の事業活動を困難にする
    • 価格差を納入価格の拘束の手段として用いる

卸値の水準を置くときに越えてはいけない線:小売価格・再販売価格との関係

再販売価格の指示は原則違法

卸値の差とは別に、もう一つ線を引いておくべき論点があります。
卸した先の取引先が、その商品をいくらで売るかです。
メーカーなどが自社商品の販売価格を小売業者等に指示して守らせる行為は再販売価格維持行為と呼ばれます。
価格という競争の重要な手段を拘束するため、原則として違法とされています1。

価格階層を作ると、取引先から「この卸値なら、いくらで売ればいいか」と聞かれる場面が出てきます。
ランクの高い取引先が安く売り始めて、他の取引先から苦情が来ることもあるでしょう。
そこで卸値の見直しを「販売価格を守ってもらう条件」にしてしまうと、卸値の話が販売価格の拘束へと変わってしまいます。

2026年の改正と、例外の考え方の見方

公正取引委員会は2026年に流通・取引慣行ガイドラインを改正しました。
再販売価格維持行為が通常違法とならない場合の考え方について、該当する場合と具体例が追加されています1。
原則違法という位置づけは変わっていません。
例外の具体例はガイドライン本文の改正部分に書かれています。
自社の取引が例外に当たるかを考えるときは、報道発表の概要だけで判断せず、改正後の本文と相談窓口で確かめる必要があります。

例外の考え方をつかむ手がかりとして、相談事例集にある別の事例が参考になります2。
医薬品メーカーが販売先のユーザーと直接価格を交渉し、間に入る卸売業者は物流と代金回収の手数料を受け取るだけで在庫リスクを負わない、という取引です。
この取引は実質的にメーカーが販売していると認められるため、問題ないとされました2。
つまり、価格を決めているのが誰の販売なのかという実態が判断を分けています。
卸売業者が自ら仕入れて在庫を持ち、自分の判断で売る通常の卸取引に、この結論をそのまま当てはめることはできません。

卸値表と販売価格の指示を分けて書く

ここまでの二つの論点を並べると、卸値に差をつけることと、卸先の販売価格に関与することは別の問題として整理できます13。
そこで、価格階層の設計書(社内で使う価格の決め方の文書)では、取引先に適用する卸値と、販売価格に関する扱いを別の欄に分けて書くことを提案します。

卸値表には、どの段階の取引先にいくらで卸すか、その段階に入る条件は何かだけを書きます。
販売価格は取引先が自ら決めるものとし、ランクの昇降や卸値改定の条件に販売価格を入れません。
こうしておけば、営業担当が取引先から販売価格の相談を受けたときも、卸値の条件と結び付けて答えてしまう場面を減らせます。

項目 卸値表に書くこと 販売価格について避けること
価格 段階ごとの卸値 取引先の販売価格を指示して守らせること
段階の条件 購入実績・数量・継続性など取引上の事実 販売価格を守るかどうかを条件にすること
見直し 実績に基づくランクの昇降 販売価格を理由にした卸値の引上げ・引下げ

階層の段階数と条件の置き方:取引先ランクと数量段階をどう組み合わせるか

条件に置ける項目:取引実績・数量・継続性

差をつけてよい範囲が見えたら、次は段階をいくつ作り、各段階に入る条件を何にするかを決めます。
条件として使いやすいのは、取引先ごとに事実として確かめられる項目です。
<ul><li>取引実績:一定期間の購入額や購入額の順位。
先の相談事例も購入額の順位を基準にしていました3。</li>
<li>数量:一回の注文での数量。
注文ごとに決まるので、取引先を分類しなくても適用できます。</li>
<li>継続性:取引期間や定期的な発注の有無。
購入額が小さくても、安定して発注がある取引先を評価したい場合に使います。</li></ul>

反対に、「付き合いの深さ」「将来性」のような担当者の見立てを条件にすると、個別見積りと同じ判断が階層の中に戻ってきます。
見立てを反映させたいなら、階層の条件ではなく、後で扱う例外の判断基準の側に置くほうが、階層そのものの説明しやすさを保てます。

段階を増やしすぎない:ECの上限と運用の関係

ランクと数量段階を組み合わせると、価格の数は掛け算で増えます。
ランクごとに数量段階を持たせれば、商品一つにつき「ランクの数×数量段階の数」だけ価格が存在し、商品数が多いほど設定と見直しの手間が膨らみます。
組み合わせる場合は主軸を一つに決め、もう一方は主軸の上に共通の条件として重ねる形にすると、価格の数を抑えられます。
たとえば、ランクで基本の卸値を決め、数量段階は全ランク共通の割引として重ねる形です。
ただし、こうした重ね方をECがそのまま表現できるかは製品によって違います。

段階数は、ECの設定上限にも縛られます。
Shopifyの公式ヘルプでは、1商品に設定できる数量段階の区切りは最大10とされています5。
また、Basic・Grow・Advancedプランでは、全てのB2B市場を合わせて有効なカタログ(取引先に割り当てる価格表)を3件まで割り当てられるとされています4。
ランクごとに一つの価格表を当てる設計なら、ランクの数がこの上限に収まるかを最初に確かめることになります。
これはShopifyの例であり、他の製品では上限の数え方も値も異なります。

段階数は、上限いっぱいまで使うより、取引先に説明できる数に絞ることを勧めます。
段階が細かいほど、境目のすぐ下にいる取引先から「もう少しで次の段階なので」と例外を求められる場面が増えます。
そうなると、階層で減らしたはずの個別判断が戻ってきます。

確かめ方:粗利と対応件数の試算

段階と条件の案ができたら、実際の取引に当てはめて確かめます。
掛け率や段階数の水準に一般的な目安はないので、自社の数字で試算するのが確実です。
<ol><li>直近の一定期間の受注を取引先・商品・数量ごとに並べ、実際に適用した卸値を書き出す。</li>
<li>案の階層を当てはめ、各受注が階層ならいくらになったかを計算する。</li>
<li>現行価格との差を取引先ごとに合計し、粗利がどれだけ増減するかを見る。</li>
<li>階層に当てはまらず例外になる受注が何件あるかを数える。</li></ol>

粗利が大きく下がるなら、段階の条件か卸値の水準を見直します。
例外の件数が多いなら、段階の切り方が取引の実態に合っていない可能性を考えます。
この試算の結果は、既存取引先を階層へ移すときの差分の資料としてもそのまま使えます。

階層案を実際の受注に当てはめて確かめる試算の手順
受注の書き出し、階層の当てはめ、粗利の増減の確認、例外件数の集計の4つの手順を並べた図1受注を書き出す直近の一定期間の受注を取引先・商品・数量ごとに並べ、適用した卸値を書く2案の階層を当てはめる各受注が階層ならいくらになったかを計算する3粗利の増減を見る現行価格との差を取引先ごとに合計する4例外の件数を数える階層に当てはまらず例外になる受注の件数を確かめる

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 受注を書き出す:直近の一定期間の受注を取引先・商品・数量ごとに並べ、適用した卸値を書く
  2. 案の階層を当てはめる:各受注が階層ならいくらになったかを計算する
  3. 粗利の増減を見る:現行価格との差を取引先ごとに合計する
  4. 例外の件数を数える:階層に当てはまらず例外になる受注の件数を確かめる

法人向けECで実現できる範囲:取引先別価格・数量段階価格と、個別対応に残るもの

取引先別の価格表の割当と、重なったときの扱い

設計した階層をECに載せるときは、取引先ごとに価格を出し分ける機能と、数量に応じて単価を変える機能に分けて確かめると整理しやすくなります。
ここでは公式仕様を確認できたShopifyを例に、どんな機能の形があり、どこで設計とずれやすいかを見ていきます。

Shopifyでは、カタログと呼ばれる価格表を会社や拠点に割り当て、取引先ごとに表示する商品と価格を出し分けます4。
ランクごとにカタログを作って該当する取引先に割り当てれば、ランク別の卸値を取引先の画面に反映できる、という形です。
1つの会社拠点に割り当てられるカタログは最大25件です5。
ただし、カタログ数の制限がなく拠点へ直接割り当てられるのは上位プランに限られます4。
Basic・Grow・Advancedプランで取引先ごとに価格を分けたい場合は、どの単位で割り当てるかを先に確かめる必要があります。

注意したいのは、一つの取引先に複数の価格表が重なった場合です。
複数のカタログが同じ商品に異なる価格を設定していると、購入者には最も低い価格が表示されます4。
この仕様のもとでは、ランクを上げた取引先から旧ランクの価格表を外し忘れても、安い新ランクの価格が出るので表面上は困りません。
しかし、ランクを下げた取引先に上位ランクの価格表が残っていると、安いほうが表示され続け、下げたはずの卸値が適用されません。

全体の増減率と商品別固定価格

価格表の中の価格の決め方も二通りあります。
Shopifyでは、カタログ全体に増減率を設定する方法と、商品やバリエーション(色・サイズなどの種類)ごとに固定価格を設定する方法があり、固定価格は全体の増減率より優先されます5。
掛け率で卸値を決めているなら、全体の増減率がそれに相当します。
原価構成が違って掛け率を一律にできない商品だけ固定価格を入れる、という使い分けができます。

一方で、固定価格が優先される仕組みは、後から全体の掛け率を変えたときに固定価格の商品だけ取り残される原因にもなります。
どの商品に固定価格を入れたかを一覧にしておかないと、ランクの卸値を一律に改定したつもりでも、一部の商品が旧価格のまま残ります。

数量段階と最小注文数・刻み

数量段階価格は、一定数量以上を注文すると単価が下がる設定です。
Shopifyでは数量段階価格に加えて、最小注文数や注文数量の刻みを決める数量ルールも設定できます4。
数量の区切りは1商品につき最大10までで、区切りごとに対応する価格を設定します5。

数量段階を設計するときは、価格の区切りと数量ルールを一緒に考えると、取引先が迷いにくくなります。
たとえば箱単位でしか出荷しない商品に、箱の入数と合わない数量で段階を置くと、取引先は次の段階まで何個足せばよいかを毎回計算することになります。
刻みを箱の入数にそろえ、段階の境目も箱数で置けば、注文画面で見える数字と出荷の単位が一致します。

比較の観点表:取引先別価格/数量段階/表示制御/更新方法/上限

他のECやBtoB向けの受注システムを検討する場合も、同じ観点で並べて確かめると、機能名の違いに惑わされずに比べられます。
下の表は、Shopifyで確認できた仕様を例として示したもので、他の製品の仕様を表したものではありません。

表の中で判断が分かれやすいのは上限の行です。
ランクを価格表で表す設計では、価格表の上限がそのままランクの数の上限になります。
取引先ごとの個別価格まで価格表で持とうとすると、取引先の数だけ価格表が必要になり、上限に当たりやすくなります。
階層を少数の段階にまとめる理由は、運用のしやすさだけでなく、ここにもあります。

階層に載らない例外は見積りで受ける

階層を作っても、全ての依頼が階層に収まるわけではありません。
大型案件で一度だけ大量に注文したい、特定の商品だけ競合と比べて価格を相談したい、といった依頼を段階の追加で吸収しようとすると、段階が膨らみます。
こうした依頼は、ECの価格表ではなく見積りで個別に受ける窓口を残しておくほうが、階層の形を崩さずに済みます。

見積りを併用する場合も、見積りで出した価格を誰が承認し、どこに記録するかを決めておくと、個別対応が担当者ごとの判断へ戻るのを防ぎやすくなります。
見積りで出す頻度の高い条件が見えてきたら、それは階層に加える候補です。

観点 確かめること Shopifyの公式仕様での例
取引先別価格 価格表を取引先・拠点の単位で割り当てられるか。重なったときにどの価格が出るか カタログを会社・拠点に割当。重なると最低価格を表示
数量段階 区切りの上限。最小注文数・刻みを設定できるか 区切りは1商品最大10。最小注文数・刻みを設定可
表示制御 割り当てていない取引先から商品・価格が見えないか カタログ単位で表示商品と価格を出し分け
更新方法 一律の掛け率と商品別価格の優先順位 全体の増減率と商品別固定価格。固定価格が優先
上限 価格表の数・1取引先あたりの割当数・プラン差 Basic・Grow・Advancedは有効カタログ合計3件。1拠点25件まで。上位プランは無制限で拠点へ直接割当
あるEC製品の公式仕様で見る、価格機能ごとの設計とずれやすい点(仕様の一例・模式図)
価格表の割当、価格の決め方、数量段階の三つについて仕様とずれやすい点を分けた図価格表の割当、価格の決め方、数量段階の三つについて仕様とずれやすい点を分けた図取引先別の価格表カタログを会社や拠点に割り当てて価格を出し分ける複数のカタログが重なると最も低い価格が表示されるランクを下げても上位ランクのカタログが残ると卸値が下がらない価格の決め方カタログ全体の増減率で掛け率に相当する卸値を決める商品別の固定価格は全体の増減率より優先される固定価格の商品を一覧にしないと一律改定で取り残される数量段階数量の区切りは1商品につき最大10最小注文数や注文数量の刻みも設定できる刻みと段階の境目を箱の入数にそろえる

▼ 図の内容を文字で読む
  • 取引先別の価格表
    • カタログを会社や拠点に割り当てて価格を出し分ける
    • 複数のカタログが重なると最も低い価格が表示される
    • ランクを下げても上位ランクのカタログが残ると卸値が下がらない
  • 価格の決め方
    • カタログ全体の増減率で掛け率に相当する卸値を決める
    • 商品別の固定価格は全体の増減率より優先される
    • 固定価格の商品を一覧にしないと一律改定で取り残される
  • 数量段階
    • 数量の区切りは1商品につき最大10
    • 最小注文数や注文数量の刻みも設定できる
    • 刻みと段階の境目を箱の入数にそろえる

卸値の階層を見せるか見せないか、既存取引先をどう移行するか

ログイン後に取引先別表示にする場合

価格の見せ方には、ログインした取引先にだけその取引先の価格を表示する方法と、価格表を営業担当から個別に渡す方法があります。
取引先別に表示する方法では、価格表を割り当てた取引先にだけ、その商品と価格が見える設計になります4。
他社の卸値が画面上で見えないことは、ランクで価格差をつけるときの前提になります。

一方で、階層の仕組みそのもの、つまり「どんな条件でどの段階になるか」をどこまで取引先に伝えるかは別の判断です。
条件を伝えれば、取引先は購入を増やせば次の段階に上がれると分かり、値下げ交渉が「条件を満たしたかどうか」の確認に変わります。
条件を伝えなければ、段階が変わったときにその理由を個別に説明する必要が残ります。
どちらが受け入れられやすいかは取引先との関係によって変わるため、一律の正解はありません。

どちらを選んでも、数量段階の価格は注文画面で見えるほうが自然です。
数量段階は誰が注文しても同じ数量なら同じ単価になるため、他社と比べられても説明がつきやすく、取引先が自分で注文数量を調整できるようになります。

現行価格の棚卸しと差分の確認

既存の取引先がいる場合、階層への移行は、今の価格を一度全て書き出すところから始めることを提案します。
個別見積りを続けてきた取引先ほど、商品ごとに異なる価格が付いていたり、口頭で約束した値引きが記録に残っていなかったりします。
<ol><li>取引先ごとに、現在適用している卸値と、その根拠(見積書・契約・口頭の約束)を書き出す。</li>
<li>各取引先を階層の段階に当てはめ、階層の卸値と現行価格の差を商品ごとに出す。</li>
<li>差が出た取引先を、階層のほうが安くなる取引先と高くなる取引先に分ける。</li>
<li>高くなる取引先には、移行の時期や据え置き期間を含めて個別に説明する。</li></ol>

階層のほうが安くなる取引先は、移行で取引先に不利益がないため、説明は比較的簡単です。
難しいのは高くなる取引先です。
過去の経緯で特に安くしていた取引先の価格を一度に階層へそろえると、実質的な値上げとして受け取られます。
移行時期を遅らせる、一定期間は旧価格を例外として残す、といった選択肢を、前に試算した粗利の差と見比べて決めます。
旧価格を残す場合は、いつまで残すかを決めて記録しておかないと、例外がそのまま固定されます。

取適法が当たる場合・当たらない場合

価格の変更を伝える場面で、取適法を気にする人もいるかもしれません。
2026年に施行された取適法(下請法を改正した法律)は、製造委託などで自社が仕事を委託する側になる取引を対象にした法律です。
自社が商品を販売し、その卸値を決める立場の取引には通常重なりません。
ただし、取引の内容によっては適用が問題になることもあるため、該当しそうな取引がある場合は取引内容ごとに確かめる必要があります。

既存取引先を価格階層へ移行する手順
現行価格の書き出し、階層との差の確認、取引先の分類、個別説明の4つの手順を並べた図1現行価格を書き出す取引先ごとの卸値と、その根拠(見積書・契約・口頭の約束)を並べる2階層との差を出す各取引先を段階に当てはめ、階層の卸値と現行価格の差を商品ごとに出す3取引先を分ける階層のほうが安くなる取引先と高くなる取引先に分ける4高くなる取引先に説明する移行の時期や据え置き期間を含めて個別に説明する

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 現行価格を書き出す:取引先ごとの卸値と、その根拠(見積書・契約・口頭の約束)を並べる
  2. 階層との差を出す:各取引先を段階に当てはめ、階層の卸値と現行価格の差を商品ごとに出す
  3. 取引先を分ける:階層のほうが安くなる取引先と高くなる取引先に分ける
  4. 高くなる取引先に説明する:移行の時期や据え置き期間を含めて個別に説明する

価格階層を運用し続けるための例外処理と見直しの回し方

見直し周期とランク基準の公開範囲

購入実績でランクを決める場合、実績は時間とともに変わるので、ランクも定期的に見直す必要があります。
見直しの周期に一般的な決まりはありません。
周期が短すぎると取引先のランクが頻繁に入れ替わって価格が安定せず、長すぎると購入を増やした取引先が評価されないまま時間が過ぎます。
決算期や契約更新の時期など、自社がすでに実績を集計しているタイミングに合わせると、見直しのための集計作業を別に増やさずに済みます。

見直しの基準は、先の相談事例のように購入額の順位など、誰に対しても同じに当てはまる基準で運用することが大切です3。
見直しのたびに基準を変えたり、特定の取引先だけ基準を緩めたりすると、階層が個別判断の言い換えになってしまいます。
ランクの判定に取引先の販売価格を持ち込まないことも、見直しのたびに確かめたい点です3。

ECに載せている場合、見直しはランクの判定だけでは終わらず、取引先に割り当てた価格表の付け替えまでが一続きの作業になります。
価格表が重なると低い価格が表示される仕様では4、付け替えた後にその取引先の画面で表示価格を確かめる工程を手順に入れておくと、外し忘れに気付けます。

ランク基準をどこまで取引先に公開するかは、先に見た見せ方の判断とつながります。
基準を公開するなら、見直しの時期と判定に使う期間も合わせて伝えておくと、取引先からの問い合わせが「いつ・何を基準に」に集まり、答えやすくなります。

例外を階層に入れる/見積りにする判断基準

運用を続けると、階層に当てはまらない依頼が出てきます。
そのたびに担当者が判断していては個別見積りの状態へ戻ってしまうので、例外の扱い方の基準を先に決めておきます。
判断の軸として、次の二つを提案します。
<ul><li>繰り返すかどうか:同じ条件の依頼が複数の取引先から繰り返し来るなら、階層の段階や条件を見直す候補にする。
一度きりの案件なら見積りで受ける。</li>
<li>誰にでも同じ条件を出せるかどうか:他の取引先にも同じように適用できる条件なら階層に入れられる。
特定の取引先にしか出せない条件なら、見積りで理由を記録して個別に判断する。</li></ul>

見積りで受けた例外は、承認した人・理由・有効期限を記録しておきます。
見直しの時期にこの記録を見返すと、どの条件の例外が多いかが分かり、階層の段階や条件を直す材料になります。
階層と例外の記録をこうして循環させれば、担当者がその場で判断する場面を、記録を見ながら基準を直す場面へと置き換えていけます。

価格階層の見直しと例外処理を繰り返す流れ
実績の集計、ランクの判定、価格表の付け替えと表示確認、例外の記録、基準の見直しを経て実績の集計へ戻る流れ1実績の集計決算期や契約更新など、すでに集計している時期に合わせる2ランクの判定購入額の順位など誰にでも同じに当てはまる基準で判定し、販売価格は持ち込まない3価格表の付け替えと表示確認付け替えた後、取引先の画面で表示価格を確かめる4例外の記録見積りで受けた例外の承認者・理由・有効期限を残す5基準の見直し繰り返す例外や誰にでも出せる条件を階層に反映し、次の集計へ戻る

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 実績の集計:決算期や契約更新など、すでに集計している時期に合わせる
  2. ランクの判定:購入額の順位など誰にでも同じに当てはまる基準で判定し、販売価格は持ち込まない
  3. 価格表の付け替えと表示確認:付け替えた後、取引先の画面で表示価格を確かめる
  4. 例外の記録:見積りで受けた例外の承認者・理由・有効期限を残す
  5. 基準の見直し:繰り返す例外や誰にでも出せる条件を階層に反映し、次の集計へ戻る

階層の主軸や段階数は、自社の受注の形と、ECで価格表をいくつ・どの単位で割り当てられるかを突き合わせないと決めにくいものです。

相談では、現在の取引先別の価格と受注の傾向をもとに、どちらの軸を主にした階層ならECの価格表で無理なく表現できるか、見積りに残すべき例外は何かを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する

要点の整理

軸 基準
階層の主軸 購買実態・粗利・対応負荷から「誰に」か「何個から」かを選ぶ
価格差の条件 購入実績など誰にでも同じに当てはまる事実で決める
販売価格 卸値の条件に入れない。指示して守らせるのは原則違法
ECの確認 取引先別価格・数量段階・表示制御・更新方法・上限を同じ観点で見る
段階数 ECの上限と、取引先に説明できる数の両方で絞る
移行 現行価格を棚卸しし、高くなる取引先に個別に説明する
例外 繰り返すか・誰にでも出せるかで、階層か見積りかを決める

既存取引先の価格の棚卸しや、見直しのたびに発生する価格表の付け替えは、移行の後も続く作業で、設計の段階で手順を決めておくほど負担が変わります。 相談では、移行時に高くなる取引先・安くなる取引先の洗い出し方や、ランク見直しと例外記録をECの運用にどう組み込むかを確かめられます。

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よくある質問

数量割引と取引先ランク割引は両方つけてもよいですか。併用すると何が複雑になりますか。

併用はできますが、価格の数がランクの数と数量段階の数の掛け算で増え、設定と見直しの手間が膨らみます。
主軸を一つに決め、もう一方は全ランク共通の条件として重ねる形にすると、価格の数を抑えられます。
ECでは、価格表が重なったときに最も低い価格が表示される仕様のものもあるため4、想定どおりの価格が出るかを取引先の画面で確かめておく必要があります。

取引先に希望小売価格を伝えるのは再販売価格維持にあたりますか。

原則違法とされているのは、自社商品の販売価格を指示して守らせる行為です1。
どう伝えるか、守らせるための手段を伴っているかによって判断が変わるため、伝えた事実だけで一律には決まりません。
2026年の改正で例外の考え方と具体例が追加されているので1、自社の伝え方に不安がある場合は、改正後のガイドライン本文と公正取引委員会の相談窓口で確かめてください。
少なくとも、卸値の改定やランクの条件に販売価格を結び付けないことは、設計の段階で避けられます。

取引先の購入額でランクを決める場合、見直しはどの周期で行えばよいですか。

一般的に決まった周期はありません。
短すぎると価格が安定せず、長すぎると購入を増やした取引先が評価されません。
決算期や契約更新など、自社がすでに実績を集計している時期に合わせると、見直しのための作業を増やさずに済みます。
周期よりも、毎回同じ基準で判定することのほうが重要です3。

他社の卸値が見えないようにするには、ECでどう設定を確認すればよいですか。

価格表を取引先単位で割り当てられるか、割り当てていない取引先からその価格が見えないかを、まず仕様で確かめます。
Shopifyではカタログを会社・拠点に割り当てて価格を出し分けますが4、拠点への直接割当は上位プランに限られます4。
設定後は、取引先と同じ条件で見られる確認用のアカウントで画面を開き、表示価格が想定どおりかを確かめると確実です。

階層に当てはまらない特別価格の依頼が来たとき、どう断り、どう受ければよいですか。

その条件が繰り返し来るものか、他の取引先にも同じように出せるものかで判断します。
断る場合は、どの条件を満たせば次の段階になるかを伝えると、話が値下げの可否から条件の確認に変わります。
受ける場合は見積りで個別に対応し、承認者・理由・有効期限を記録しておくと、後の見直しで階層に反映するかを判断できます。

既存取引先の価格が階層より高い・低い場合、移行時にどう伝えればよいですか。

まず現行価格を棚卸しし、階層を当てはめた差を取引先ごとに出します。
階層のほうが安くなる取引先は不利益がないため、説明は比較的簡単です。
高くなる取引先には、移行時期や旧価格の据え置き期間を含めて個別に説明し、据え置く場合は期限を決めて記録します。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

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  1. 1 出典:公正取引委員会「流通・取引慣行ガイドライン改正の公表」(2026年)
  2. 2 出典:公正取引委員会「相談事例集 流通・取引慣行(再販売価格の拘束)」(2026年閲覧)
  3. 3 出典:公正取引委員会「相談事例集 平成12年度事例1 化学品メーカーの卸売業者に対する仕切価格の差の設定」(2000年度)
  4. 4 出典:Shopify「Catalogs and pricing in B2B」(2026年閲覧)
  5. 5 出典:Shopify「Creating and managing B2B catalogs」(2026年閲覧)

◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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