◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- データ移行は、範囲の決定、名寄せなどの整備、取引データの引き継ぎ、新旧の突合を経て切り替える一連の作業で、取込が成功しても正しく移ったとは限らない。
- 新システムに移す範囲と法的な保存の範囲は別の判断で、法人の帳簿書類は確定申告書の提出期限の翌日から原則7年、欠損金が生じた年度などは10年保存が必要。
- 売掛金は切替日時点の残高を開始残高にする方法があり、切替日を締めの直後に置くと残高を確定させやすい。
- 突合は件数・金額・個別データ・業務結果の順に進め、切替基準と切り戻し計画は稼働前に自社で決めておく。
- 変換や取込を外部に任せても、名寄せの判断と突合の確認は社内に残るため、範囲・担当・追加費用・検収条件を契約前に書面で確かめる。
目次

導入するシステムは決まったが、旧データをそのまま流し込んでよいのか
旧システムの取引先一覧や売上明細、Excelの台帳を、新しいシステムの取込画面へそのまま入れてよいのか。
導入担当になると、まずそこで手が止まります。
そのまま取り込むと、重複した取引先や漏れた入金が、本番の請求や月次締めの場面で表に出ます。
データ移行は、移す範囲を決め、移行元を整え、新旧を突き合わせてから切り替える作業です。
全件を移す必要はなく、直近の分だけを移して残りを参照用に保管する選択もあります。
ただし移さないデータでも、法人の帳簿書類なら原則7年、欠損金が生じた年度は10年の保存が必要で、捨ててよいわけではありません1。
データ移行の作業のつながり
ここでは、販売管理システムの入れ替えを任された情報システム担当者を例にします。
旧システムからは取引先・商品・受注・売上・入金のデータを書き出せて、新システムにはCSVファイルの取込画面がある、という状況を仮定します。
書き出したファイルを取込画面に渡せば終わりに見えますが、そうはいきません。
旧システムの中では、同じ取引先が別のコードで二件登録されていたり、税区分が古い設定のまま残っていたりします。
こうしたデータは、取込画面ではエラーになりません。
取込は成功し、稼働後に同じ相手へ請求書が二通出たり、売上の集計が二つに分かれたりして、初めて気づきます。
エラーにならない不整合こそ、取り込む前に見つけておく必要があります。
そのためデータ移行は、ファイルを渡す一回の作業ではなく、いくつかの判断と作業の連なりとして考えます。
販売管理システムのリプレイスを想定した実務者の整理では、移行方針の決定、移行対象の仕分け、マスタの名寄せ、取引データの移行、並行稼働と切替、という順で進めます2。
これは卸売業の販売管理を想定したITコンサルタントの経験に基づく整理で、どの業種・システムにも当てはまる標準として示されたものではありません。
それでも、前の工程で決めたことが後の工程の作業量を決める、という関係は、多くの移行で同じように考えられます。
工程ごとに決まることを見ておくと、どこで誰の判断が要るかが分かります。
方針の段階では、新システムで過去の何を見たいのかが決まります。
仕分けの段階では、移すデータと、移さずに保管するデータの境目が決まります。
名寄せの段階では、取引先や商品を新システムでどのコードで持つかが決まります。
取引データの段階では、受注残や売掛金を切替日にどの状態で引き継ぐかが決まります。
最後の並行稼働で、それまでの決定が正しかったかを新旧の結果で確かめます。
導入全体のどこで何が決まるか
移行の方針は、新システムの設定が終わってから考えるものではありません。
新システムがどの項目を、どの形式で受け付けるかによって、移行元のデータをどこまで整えればよいかが変わるからです。
たとえば新システムの取引先に「請求先」と「納品先」を分けて持つ項目があり、旧システムでは一つの欄にまとめていた場合、取り込む前に分ける作業が生まれます。
選定や設定の打ち合わせの段階で、取込できる項目の一覧と形式を受け取っておくと、この種の作業を早めに見積もれます。
日程は、本番の稼働日から逆にたどると組みやすくなります。
稼働日の前に並行稼働の期間を取るなら、取込のリハーサルはさらにその前に終えておく必要があり、名寄せやコード対応はもっと前に終わっていなければなりません。
担当者が最初に押さえたいのは、稼働日そのものより、その日に新システムで何ができていなければならないかです。
受注を受けられればよいのか、請求書を出せなければならないのかで、稼働日までに移すデータの範囲が変わります。
もう一つ、移行の判断の多くは、導入担当者だけでは下せません。
二件の取引先が同じ会社かどうかは営業担当者が知っており、売掛金の残高が正しいかどうかは経理担当者が知っています。
導入担当者の役割は、自分で全部を判断することではなく、どの判断を誰に求めるかを整理し、期限までに答えを集めることだと考えると、作業の段取りが立てやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 移行方針の決定
- 移行対象の仕分け
- マスタの名寄せ
- 取引データの移行
- 並行稼働と切替
どこまで移すか:全件・現行分・参照用保管の選び方
マスタと取引データで扱いを分ける
最初の判断は、移行の範囲です。
選択肢は大きく、過去の全件を移す、現在動いている分だけを移す、移さずに参照用として保管する、の三つです。
このとき、データの種類ごとに選び方を変えるのが実務的です。
先の実務者の整理でも、マスタは優先して移行し、取引データは費用対効果で判断する、としています2。
マスタとは、取引先・商品・単価のように、日々の取引で繰り返し参照する基本の台帳です。
マスタが入っていなければ、新システムで受注を一件入力することもできません。
一方、過去の受注や売上の明細は、新システムで見られれば便利ですが、移す量が増えるほど、名寄せやコード対応の対象も増えます。
十年前の明細に出てくる廃番商品まで新しいコードに対応づけるのは、手間に見合わないことがあります。
取引データの範囲の目安として、同じ記事では、取引先別・商品別の売上実績を直近1〜2年分の月次集計で移す考え方が示されています2。
ここで移すのは一件ずつの明細ではなく、月ごとに集計した数字です。
前年同月と比べる、得意先ごとの推移を見る、といった使い方なら、集計で足ります。
ただし1〜2年分は筆者の経験に基づく目安で、規則ではありません。
営業担当者が過去何年分を見て商談しているか、季節による変動を何年分比べたいかで、適切な年数は変わります。
範囲に迷ったときは、新システムでその過去データを使って何をするのかを問うと判断しやすくなります。
見るだけなら、移さずに参照用に保管しても困りません。
新システムの上で続きの処理をする場合、たとえば過去の売上に対する返品を受け付ける、未入金の請求に入金を消し込む、といった場合は、その取引を新システムへ移しておく必要があります。
移さないデータの保管方法
移さないと決めたデータについて、同じ実務者の記事は、帳票単位でPDF化して保管する方法を挙げています2。
帳票単位とは、請求書・納品書・売上帳のように、後で探すときに開く単位のことです。
旧システムを止めた後は、旧システムの検索画面が使えなくなります。
取引先名と期間でファイルを探せるよう、ファイル名やフォルダの付け方をあらかじめ決めておくと、問い合わせがあったときに探す手間が減ります。
見落としやすいのは、旧システムの保守契約や利用契約が終わった後に、そのデータを開けるかどうかです。
旧システムの独自形式のままでは、契約終了後に開けなくなるおそれがあります。
移さないデータを取り出す作業は、旧システムが動いている間にしかできません。
そのため、取り出しの日程は切替の計画と一緒に組んでおくほうが安全です。
なお、帳簿書類を電子データのまま保存する場合は、電子帳簿保存法の規定に従うことになります1。
PDF化の方法や検索の要件が自社の保存に合っているかは、この記事の範囲を超えるため、顧問税理士などに確認しておくと安心です。
法人の帳簿書類の保存期間(7年・10年)
移さないことと、捨ててよいことは別です。
国税庁によれば、法人は帳簿書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければならず、青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度などは10年間となります1。
対象の帳簿には総勘定元帳・仕訳帳・現金出納帳・売掛金元帳・買掛金元帳・売上帳・仕入帳などが、書類には棚卸表・決算書類・注文書・契約書・領収書などが例示されています1。
販売管理システムで扱う売上や売掛金の記録も、これらに当たる帳簿や書類と関わります。
ここから言えるのは、新システムに移す範囲と、法律で保存しなければならない範囲は、別々に決める判断だということです。
新システムに直近の分だけを移したとしても、それより前の年度の帳簿書類は、保存期間が終わるまで別の形で保っておく必要があります。
先の実務者の記事でも、移行しないデータの参照期間は法定保存期間を考慮するよう述べています2。
数え始めの日にも注意が要ります。
保存期間は事業年度の終わりからではなく、確定申告書の提出期限の翌日から数えます1。
そのため、旧システムを止める日と、旧データの保存が不要になる日は一致しません。
また、ここで述べた期間は法人の帳簿書類についてのもので、個人事業者の場合や、会社法など他の法令による保存の要否は扱っていません。
自社に欠損金が生じた年度があるかどうかは、顧問税理士に確認したうえで保管期間を決めるのが確実です。
| データの種類 | 新システムへの移し方 | 移さない場合の扱い |
|---|---|---|
| 取引先・商品などのマスタ | 優先して移す | 該当なし |
| 受注残・未入金の売掛金 | 切替日時点の状態を移す | 該当なし |
| 取引先別・商品別の売上実績 | 直近1〜2年分の月次集計を移す例 | 帳票単位でPDF化して保管 |
| それ以前の取引明細 | 費用対効果で判断 | 帳票単位でPDF化して保管 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 続きの処理をする取引
- 過去の売上に対する返品を受け付ける
- 未入金の請求に入金を消し込む
- 新システムへ移しておく
- 見るだけのデータ
- 移さずに参照用に保管する
- 帳票単位でPDF化して保管する
- 売上実績の比較
- 前年同月や得意先ごとの推移を見る
- 直近1〜2年分の月次集計で足りる(筆者の目安)
▼ 図の内容を文字で読む
- 確定申告書の提出期限の翌日から数える
- 原則は7年間保存
- 欠損金が生じた事業年度などは10年間保存
移行前に整えておくこと:名寄せ・コード対応・開始残高の決め方
取引先・商品マスタの整理
範囲が決まったら、移す対象の中身を整えます。
中心になるのが名寄せです。
名寄せとは、同じ相手や同じ物を指しているのに別々に登録されたデータを、一つにまとめる作業をいいます。
実務者の整理では、取引先の重複統合、商品コードの新旧対応表の作成、単価・税区分の整合確認が、移行前の作業として挙げられています2。
取引先の重複は、たとえば「株式会社」と「(株)」の表記違いや、支店ごとに別の取引先として登録した結果として生まれます。
まとめると、過去の売上をどちらのコードで引き継ぐか、支店を一つの取引先の下に置くのか別のままにするのかを決めることになります。
この判断は請求や与信の管理に直結するため、営業担当者と経理担当者に確かめながら進めます。
商品コードは、新システムで採番の規則が変わるなら、旧コードと新コードの対応表を作ります。
一つの旧コードが一つの新コードに対応するとは限らず、複数の旧商品を一つにまとめる場合や、廃番で移さない場合もあります。
対応表は取り込みのためだけでなく、後で新旧の売上を突き合わせるときにも使います。
どの旧コードがどの新コードになったかが残っていないと、商品別の数字が合わないときに原因をたどれません。
単価や税区分は、取込でエラーにならない種類の誤りが残りやすい項目です。
取引先ごとの特別単価が古いまま残っている、税区分が現在の設定と合っていない、といった状態は、取り込んだ後の請求書の金額で初めて表に出ます。
取り込む前に、主な取引先と商品について旧システムの請求書と照らし合わせておくと、稼働後の訂正が減ります。
受注残と売掛金の持ち越し方
マスタが整ったら、切替日をまたいで続く取引をどう引き継ぐかを決めます。
受注残は、切替日の時点でまだ出荷や請求が終わっていない受注です。
実務者の整理では、受注残は新旧のステータスの対応を事前に決めておくとしています2。
たとえば旧システムに「一部出荷済み」という状態があり、新システムにはそれに当たる状態がない場合、残りの数量だけを新しい受注として登録するのか、元の受注のまま持ち込むのかを決めておかないと、出荷担当者が切替日の朝に迷います。
売掛金については、切替日時点の残高を開始残高として新システムに設定する方法が一般的だと、同じ記事は述べています2。
開始残高とは、新システムで記録を始める時点での残高のことです。
過去の請求と入金の明細をすべて移す代わりに、切替日時点で取引先ごとにいくら残っているかだけを持ち越す、という考え方になります。
移す明細が減る分、名寄せやコード対応の負担も軽くなります。
ただし、残高だけを持ち越すと、どの請求に対する未入金なのかという内訳は新システムに入りません。
切替後に入ってきた入金を請求ごとに消し込む運用をするなら、未入金の請求だけは一件ずつ移す、という組み合わせも考えられます。
どちらにするかは、経理担当者が入金をどの単位で照合しているかに合わせて決めます。
切替日の置き方も、開始残高の正しさを左右します。
月次の締めを終えた直後に切り替えれば、締めで確定した残高をそのまま開始残高として使えます。
締めと切替日の間に入金や請求があると、それをどちらのシステムで処理するのかを一件ずつ決める必要が出てきます。
切替日の候補を出すときは、締めの日程と並べて見ておくと判断しやすくなります。
| 項目 | 旧データで起きがちな状態 | 移行前に決めること |
|---|---|---|
| 取引先 | 同じ相手が別コードで登録されている | 重複を統合し引き継ぐコードを決める |
| 商品コード | 新システムで採番規則が変わる | 旧コードと新コードの対応表を作る |
| 単価・税区分 | 古い設定が残っている | 現在の取引条件と整合を確認する |
| 受注残 | 新旧でステータスの種類が違う | ステータスの対応を事前に決める |
| 売掛金 | 過去の請求と入金の明細が大量にある | 切替日時点の残高を開始残高にする |
▼ 図の内容を文字で読む
- 開始残高だけを持ち越す
- 切替日時点の取引先ごとの残高を設定する
- 移す明細が減り、名寄せの負担も軽くなる
- どの請求の未入金かという内訳は入らない
- 未入金の請求を一件ずつ移す
- 切替後の入金を請求ごとに消し込む運用の場合
- 経理担当者の照合の単位に合わせて決める
- 切替日の置き方
- 月次の締めの直後なら、確定した残高を開始残高にできる
- 締めと切替日の間の入金や請求は一件ずつ扱いを決める
正しく移れたかの確かめ方と切替の判断
新旧の突合を何で行うか
取り込みが終わったら、旧システムと新システムの結果を突き合わせます。
この突き合わせを突合(とつごう)といいます。
実務者の整理では、新旧の結果を突き合わせ、切替基準と切り戻し計画を事前に定めるとしています2。
切り戻しとは、新システムで問題が起きたときに旧システムの運用へ戻すことです。
突合は、粗いところから細かいところへ進めると、ずれの原因を絞り込みやすくなります。
以下は、本記事が提案する進め方です。
まず件数を比べて、漏れや重複がないかを見ます。
次に金額の合計を比べて、値が崩れていないかを見ます。
そのうえで、いくつかの取引先や受注を選んで新旧の画面を並べ、項目が正しい欄に入っているかを見ます。
最後に、請求書の発行や月次の締めといった業務の結果を新旧で比べます。
合計が一致しても、それだけで安心はできません。
ある取引先の残高が多すぎ、別の取引先の残高が同じだけ少なすぎれば、合計は一致してしまいます。
だから取引先ごとの残高まで下りて確かめます。
反対に差額が出たときも、差額が小さいから端数の問題だろう、と決めつけないほうが安全です。
売掛金の残高がずれた場合、入金の明細が取り出しの条件から漏れた可能性もあれば、名寄せで別の取引先に寄せてしまった可能性もあります。
どちらなのかは、差額の大きさではなく、該当する取引先の明細を新旧で照らし合わせて判断します。
並行稼働の期間と切替基準・切り戻し
並行稼働とは、一定の期間、新旧の両方のシステムで同じ業務を処理し、結果を比べることです。
販売管理システムの移行では、6〜8週間の並行稼働期間を設けることが多い、と先の実務者は述べています2。
これは筆者の経験に基づく目安で、データ量や締めの周期、システムの規模によって適切な長さは変わります。
期間を決めるときは、その中に月次の締めが入るようにしておくと、請求書や売掛金残高を締めの結果として比べられます。
一方で、並行稼働の間は、受注や入金を新旧の両方に入力することになります。
期間を長く取るほど安心というわけではなく、入力する現場の負担と引き換えになります。
何を確かめ終えたら並行稼働を終えてよいのかを、期間と一緒に決めておくことが大切です。
その終わりの条件が、切替基準です。
たとえば、件数が新旧で一致していること、金額の差がないか差の理由がすべて説明できていること、締めの結果が一致していること、といった形で、数字や確認の項目として書いておきます。
どの水準で合格とするかに公的な基準はなく、自社で決めることになります。
事前に決めておくのは、稼働日が近づくほど、少しのずれは後で直せばよい、という判断に流れやすいからです。
切り戻し計画には、どんな状態になったら旧システムへ戻すか、誰がそれを決めるか、旧システムをいつまで動かせる状態で残しておくか、を書きます。
旧システムの利用契約を切替日に合わせて終えてしまうと、戻る先がなくなります。
切り戻しの期限と、旧システムの契約の終わりを合わせて決めておくと、判断の余地を残せます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 件数を比べる
- 金額の合計を比べる
- 個別のデータを新旧の画面で確かめる
- 請求書や月次締めの結果を比べる
自社で行うか、ツールを使うか、ベンダーに任せるか
判断の軸(移行元・データ量・取込機能・社内の知識)
ここまでの作業は、範囲の決定、名寄せやコード対応などの整備、項目の対応づけ、取込、突合に分かれます。
自社で行うか、変換ツールを使うか、ベンダーに任せるかは、全体をまとめて一つ選ぶより、作業ごとに担い手を考えるほうが決めやすくなります。
以下の軸は、業界の標準ではなく、本記事が判断の手がかりとして提案するものです。
<ul><li>移行元の種類:旧システムからの出力か、Excelの台帳か、紙か</li><li>データ量:手作業で一件ずつ確かめられる量か</li><li>新システム側の取込機能:決まった形式のファイルで取り込めるか</li><li>社内の知識:データの意味を説明できる人が社内にいるか</li></ul>
移行元が旧システムの出力なら、項目の並びはそろっていますが、旧システム独自のコードや区分が残ります。
Excelや紙が移行元なら、担当者ごとに書き方が違い、同じ欄に別の意味の値が入っていることもあるため、整備の作業が重くなります。
データ量が多いと、手作業で取り込み直すことが現実的でなくなり、変換を繰り返せる仕組みの価値が高まります。
新システムにファイル取込の機能があれば、変換したファイルを自社で何度も取り込み直してリハーサルを重ねやすくなります。
最後の軸は、外部に任せきれない部分を示しています。
二件の取引先が同じ会社かどうか、ある受注残をどの状態で引き継ぐか、といった判断は、業務を知っている社内の人にしかできません。
変換や取込をベンダーやツールに任せる場合でも、名寄せの判断と突合の結果の確認は社内に残る、と考えて計画するほうが、後で認識の違いが生まれにくくなります。
契約前に書面で確認しておくこと
ベンダーに移行を頼む場合、見積書に「データ移行一式」とあっても、その中身は依頼する側と受ける側で思い描くものが違うことがあります。
受ける側は、渡されたファイルを取り込むことまでを想定し、頼む側は、データの整備まで含まれていると考えている、といった食い違いです。
この食い違いを防ぐために、契約の前に次の点を書面で確かめておくことを提案します。
どのデータを何年分移すのかという範囲、名寄せや不備の修正を誰が担うのか、想定していなかった不備が見つかったときの追加費用の扱い、そして何が一致したら移行が完了したとみなすのかという検収の条件です。
検収の条件は、先に決めた切替基準とそろえておくと、作業の終わりと支払いの区切りがずれません。
契約の枠組みについては、IPA(情報処理推進機構)が情報システム・モデル取引・契約書を公開しています。
ユーザ企業とITベンダの情報システム開発の取引を対象とし、主に受託開発と保守運用を扱い、パッケージやSaaS/ASPを活用する場合の追補版も含まれています3。
契約で何を取り決めるかを考える手がかりとして参照できますが、データ移行の責任分担をどう定めるかまで、この紹介ページで示されているわけではありません。
移行の範囲や担当は、個別の契約の中で具体的に書き分ける必要があります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 移行元の種類
- 旧システムの出力は項目がそろうが独自のコードが残る
- Excelや紙は整備の作業が重くなる
- データ量
- 多いと手作業での取り込み直しは現実的でなくなる
- 変換を繰り返せる仕組みの価値が高まる
- 新システム側の取込機能
- ファイル取込があれば自社で取り込み直してリハーサルしやすい
- 社内の知識
- 名寄せの判断と突合の結果の確認は社内に残る
- 変換や取込は任せる場合でも計画に入れておく
移行で起こりやすい失敗と、防げる段階
決算・請求に響く失敗
これまでの工程を、失敗の側から見直します。
ここで挙げるのは起こり得る場面の例で、どれくらいの頻度で起きるかを示すものではありません。
たとえば、売掛金の開始残高を作るときに、切替日の直前に入った入金の伝票が、取り出しの条件から外れてしまった場合を考えます。
新システムの開始残高は、実際より多くなります。
稼働後、入金済みの取引先へ督促が届き、月次の締めで売掛金元帳の残高が合わず、原因を探すうちに決算の作業が遅れる、という流れが起こり得ます。
この失敗は、切替日を締めの直後に置き、締めと切替日の間の入金の扱いを決めておく段階で防ぎやすくなり、突合で取引先ごとの残高を比べる段階でも見つけられます。
受注残のステータスの対応が決まっていない場合も、影響は稼働直後に出ます。
一部だけ出荷済みの受注が、新システムでは未出荷として入っていれば、二重に出荷する指示が出るおそれがあります。
逆に出荷済みとして入っていれば、残りの出荷が漏れます。
これは、移行前にステータスの対応を決める段階と、個別のデータを新旧の画面で確かめる段階で防げます。
名寄せと範囲の見落とし
名寄せの漏れは、取込の時点では何も起きないため、気づくのが遅れがちです。
同じ取引先が二件のまま新システムに入ると、請求が二つに分かれ、その取引先との取引額の全体が見えにくくなります。
これは整備の段階で防ぐのが基本ですが、突合で取引先の件数を旧システムの実態と比べることでも気づけます。
範囲の見落としは、移さないと決めたデータで起きます。
移さないデータの取り出しを後回しにしたまま旧システムの契約が終わると、保存しておくべき帳簿書類を開けなくなるおそれがあります。
保存期間は確定申告書の提出期限の翌日から数えるため1、旧システムを止める日に保存も終えてよいわけではありません。
範囲を決める段階で保管の方法と期間を一緒に決め、旧システムが動いているうちに取り出しを終えておけば、この失敗は防げます。
並べてみると、ここで挙げた例は、いずれも取込の作業そのものより前の決定、つまり範囲、整備、切替日の置き方にさかのぼります。
取込が成功したことと、正しく移ったことは別です。
その差を埋めるのが、事前の決定と、新旧の突合です。
| 失敗の例 | 表に出る場面 | 防げる段階 |
|---|---|---|
| 開始残高から入金伝票が漏れる | 督促・月次締め・決算 | 切替日の設定と取引先ごとの残高の突合 |
| 受注残のステータスが対応していない | 稼働直後の出荷 | ステータス対応の事前決定と個別データの確認 |
| 取引先の名寄せが漏れる | 請求・取引額の把握 | 移行前の整備と件数の突合 |
| 移さないデータの保管を見落とす | 旧システムの契約終了後 | 範囲決定と同時に保管方法と期間を決める |
移す範囲と保存の期間、切替日と締めの関係は、システムの機能だけでなく自社の業務と経理の事情が絡むため、担当者一人では決めきれないことが多いからです。
手元の旧データの種類と稼働予定日をもとに、どのデータを移し、どれを保管に回すか、整備と突合の段取りをどう組むかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 移す範囲 | マスタは優先して移し、取引データは新システムで続きの処理をするかどうかで決める |
|---|---|
| 移さないデータ | 帳票単位で取り出して保管し、法人の帳簿書類は申告期限の翌日から原則7年、欠損金の年度は10年保つ |
| 移行前の整備 | 取引先の名寄せ、商品コードの対応表、単価・税区分の確認を取込の前に終える |
| 引き継ぎ | 受注残はステータス対応を決め、売掛金は切替日時点の残高を開始残高にする |
| 切替の判断 | 件数・金額・個別データ・業務結果の順に突合し、切替基準と切り戻し計画を事前に決める |
| 外部への依頼 | 範囲・整備の担当・追加費用・検収条件を契約前に書面で確かめる |
外部に頼む範囲を決める前に、社内に残る判断と任せられる作業を切り分けておくと、見積りや契約の前提がずれにくくなるからです。 名寄せや突合の担い手、切替基準と切り戻しの条件など、契約前に書面にしておきたい項目を自社の状況に当てはめて確かめられます。
よくある質問
移行しない過去データは、どの形式で保管すればよいですか。
販売管理の移行では、請求書や売上帳など帳票の単位でPDF化して保管する方法が実務者から挙げられています。
旧システムの独自形式のままだと、契約終了後に開けなくなるおそれがあるため、旧システムが動いているうちに取り出しておくのが安全です。
電子データのまま帳簿書類として保存する場合は電子帳簿保存法の規定に従うため、要件は顧問税理士などに確認してください。
旧システムを残したまま並行稼働すると、どんな負担が増えますか。
並行稼働の間は、受注や入金などを新旧の両方に入力することになり、その分の入力と確認が現場に加わります。
どれだけ増えるかは扱う件数や業務によって変わるため、一律には言えません。
期間を長くするほど安心というわけではないので、何を確かめ終えたら終えてよいかという切替基準を、期間と一緒に決めておくことが大切です。
Excelや紙が移行元の場合、システムからの出力と何が違いますか。
システムからの出力は項目の並びがそろっていますが、Excelや紙は担当者ごとに書き方が違い、同じ欄に別の意味の値が入っていることがあります。
そのため、取り込む前に項目の意味をそろえ、取引先や商品の表記を統一する整備の作業が重くなります。
先に、新システムの取込形式に合わせて欄の定義を決め、それに沿って台帳を整える順にすると、作業の手戻りが減ります。
受注残や売掛金は、切替日をいつに設定すると混乱が少ないですか。
月次の締めを終えた直後に切り替えると、締めで確定した売掛金残高をそのまま開始残高として使えるため、扱いを決めやすくなります。
締めと切替日の間に入金や請求があると、それをどちらのシステムで処理するかを一件ずつ決める必要が出ます。
受注残は切替日の時点の状態で引き継ぐため、新旧のステータスの対応を先に決めておきます。
ベンダーに依頼するとき、見積り前に決めておくべきことは何ですか。
どのデータを何年分移すかという範囲、名寄せや不備の修正を社内とベンダーのどちらが担うか、想定外の不備が見つかったときの追加費用の扱い、何が一致したら完了とするかという検収条件です。
範囲と担当が決まっていないと、見積りの前提が双方で食い違いやすくなります。
切替後に不整合が見つかったとき、旧システムへ戻す判断はいつまでにすればよいですか。
決まった期限があるわけではなく、切り戻し計画として事前に自社で決めておくものです。
どんな状態なら戻すか、誰が決めるか、旧システムをいつまで動かせる状態で残すかを書いておきます。
旧システムの利用契約が終われば戻る先がなくなるため、切り戻しの期限は契約の終わりと合わせて決めておくと判断の余地を残せます。
- 1 出典:国税庁「タックスアンサー No.5930 帳簿書類等の保存期間」(2026年)
- 2 出典:株式会社ripla「販売管理システムのデータ移行を成功させる5ステップ」(2026年)
- 3 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報システム・モデル取引・契約書(第二版)」(2020年)