◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 数量割引で下げられる幅の上限は、受注・出荷1回ごとの固定的な費用が数量で薄まった分であり、変動費は数量がまとまっても下がらない。
- 区切りは注文1回ごとの数量の分布と出荷単位に合わせて置き、各段の下端の数量で利益が残るかを試算で確かめる。
- 全量適用では区切りのすぐ上が最も利益の薄い位置になり、期間累計は出荷回数が減らなくても割引が効くため、方式に合わせて割引幅を決める。
- 一般指定3項は「不当に」差別的な対価を問題にしている。平成12年度の相談事例は購入実績に応じた1〜3%程度の一律の価格差を問題ないとしたが、条件の異なる取引にそのまま当てはまるわけではない。
- 導入後は取引先別の粗利、1回あたりの注文数量、各段の利用件数を見て、見直しの時期や条件を価格表に書いておく。
目次

卸価格を数量で下げられる幅は、自社の原価の分け方で決まる
取引先から「まとめて買うから安くしてほしい」と言われました。
応じれば利益が薄くなり、断れば取引を失いかねません。
卸価格の階層は、この板挟みに答えるための道具です。
個別に値引き額を決める前に、自社の原価を二つに分けてみてください。
受注・出荷1回ごとにかかる費用と、1個ごとの変動費です。
数量がまとまって薄まるのは前者だけなので、そこから下げられる幅の上限が見えます。
その内側で、実際の発注量に合わせて区切りを置き、適用方式を選べば、取引先に理由を説明できる価格表になります。
取引先ごとの価格差が独占禁止法の差別対価に当たるかについては、公正取引委員会の資料で確かめられる範囲を本文で示します。
受注・出荷1回ごとの費用と1個ごとの変動費を分ける
数量割引を求められたとき、判断の基準は「相手がいくら下げてほしいか」ではありません。
「注文がまとまると、自社のどの費用が減るか」です。
卸価格に含まれる原価は、性質の違う二つに分けると見通しがよくなります。
一つは、受注・出荷1回ごとに発生する費用です。
注文を受けたら、内容を確認して在庫を引き当てます。
続いてピッキングと梱包をし、出荷を手配し、請求書を出します。
この一連の作業は、10個の注文でも100個の注文でも1回は必ず発生し、手間は数量に比例して増えるわけではありません。
ここでは、これを「固定的な費用」と呼びます。
もう一つは、1個ごとにかかる変動費です。
仕入原価や製造原価、1個ずつ使う包材、数量に比例して増える運賃などがこれに当たります。
100個売れば100個分かかるので、注文がまとまっても1個あたりの金額は変わりません。
数量が増えて1個あたりの負担が薄まるのは、固定的な費用だけです。
まとめ買いを理由に下げられる幅は、基本的にこの薄まった分の中にあります。
変動費まで削って値下げすると、売れば売るほど利益を削ることになります。
迷いやすいのは運賃と梱包の扱いです。
運送会社との契約が1個口ごとの料金なら、数量に応じて増えるので変動費に入ります。
1回の出荷ごとに基本料金がかかる契約なら、その部分は固定的な費用です。
分け方に決まった型はありません。
自社が受け取っている請求書や作業の実態に合わせて振り分けてください。
下げ余地の上限を見積もる手順
分け方が決まれば、下げ余地は計算で出せます。
ここからは、ある商品を例に仮の数字で考えます。
実在の商品や業界の平均ではなく、手順を示すための仮定です。
この商品の変動費を1個600円、受注・出荷1回ごとの固定的な費用を6,000円とします。
現在の卸価格は1個1,000円で、取引先の注文はふだん1回20個前後です。
20個の注文なら、固定的な費用は1個あたり300円です。
変動費と合わせた原価は900円になります。
1個あたり100円、1回の注文で2,000円が手元に残る計算です。
同じ取引先が1回50個にまとめて注文するようになると、固定的な費用は1個あたり120円に下がり、原価は720円になります。
100個なら1個あたり60円で、原価は660円です。
20個のときと比べると、1個あたりの原価は50個で180円、100個で240円軽くなっています。
この差が、1個あたりの利益を減らさずに下げられる幅の上限です。
上限いっぱいまで下げると、まとめ買いで浮いた分をすべて取引先へ渡すことになります。
自社に残る利益は1個あたりでは変わりません。
残る効果は、在庫を早く動かせることや出荷回数が減ることだけです。
実際に提示する割引幅を、上限より手前のどこに置くかは自社が決める部分です。
他社の割引率から逆算するのではなく、この上限から内側へ決めていけば、どこまで応じてよいかを自社の数字で説明できます。
この見積もりが成り立つのは、数量がまとまった分だけ注文回数が減る場合です。
取引先が1回20個の注文を同じ頻度で続け、月の合計だけが増えたとします。
この場合、受注・出荷の回数は減らず、固定的な費用も薄まりません。
この違いは、後で扱う適用方式の選び方に直接かかわります。
また、原価を分けるには、受注や出荷にかかる作業時間や外注費をある程度つかんでいる必要があります。
厳密な配賦計算まではできなくても構いません。
1回の出荷にどれだけの作業と費用がかかるかの見当がつけば、上限の目安は置けます。
価格交渉は受注側にとって珍しくない場面である
取引先から値下げを求められると、関係が悪くなったのではと身構えるかもしれません。
しかし、価格の話し合いそのものは受注側にとって珍しい場面ではありません。
中小企業庁が2025年9月を対象に行った価格交渉促進月間のフォローアップ調査は、30万社の中小企業を対象にしています1。
この調査では、発注側企業から申し入れがあり価格交渉が行われたという回答が34.6%でした1。
コスト全体の価格転嫁率は53.5%でした1。
受注企業側の集計による「価格転嫁してもらいやすい業種」では、卸売が化学、機械製造業に次ぐ3位に入っています1。
ただし、この調査は受注側の中小企業がコストの転嫁や価格交渉について答えたもので、数量割引や階層価格を調べたものではありません。
どの程度の割引が一般的かは、この数字からは読み取れません。
言えるのは、発注側からの申し入れで価格を話し合う場面が一定の割合で起きているということです。
そのたびに場当たりで答えるより、根拠のある価格表を用意しておくほうが、交渉の土台を作りやすくなります。
| 費用の区分 | 主な中身の例 | 1回の注文数量が増えたときの1個あたり負担 |
|---|---|---|
| 受注・出荷1回ごとの固定的な費用 | 受注内容の確認・在庫引当・ピッキングと梱包の段取り・出荷手配・請求 | 数量で割られるので薄まる |
| 1個ごとの変動費 | 仕入原価・製造原価・1個ずつ使う包材・個数に比例する運賃 | 数量が増えても変わらない |
| 契約によって分かれる費用 | 運賃の基本料金と個口料金・梱包資材 | 請求の仕組みに合わせてどちらかへ振り分ける |
| 1回の注文数量 | 固定的な費用の1個あたり負担 | 1個あたり原価 | 20個の注文と比べた下げ余地の上限 |
|---|---|---|---|
| 20個 | 300円 | 900円 | 基準 |
| 50個 | 120円 | 720円 | 180円 |
| 100個 | 60円 | 660円 | 240円 |
階層の区切りは、取引先の実際の発注量の分布に合わせて決める
注文履歴から発注量の分布を見る
下げられる幅が分かったら、次はどの数量で段を切るかです。
机の上で区切りを決めると、50個や100個のような切りのよい数字になりがちです。
しかし、それが自社の取引先の注文と合っているとは限りません。
手がかりになるのは、直近の注文履歴です。
受注データから、取引先ごと・注文ごとの数量を書き出し、数量の帯ごとに件数を数えます。
期間は、季節による増減が見える長さにしておくと偏りが減ります。
取引先の合計数量ではなく、注文1回ごとの数量を数えるのには理由があります。
先ほど見たとおり、原価が下がるのは1回の注文がまとまったときだからです。
たとえば、注文の多くが10〜30個に集まり、50個前後の注文がときどきあり、100個を超える注文は一部の取引先だけという分布だったとします。
このとき区切りを20個に置くと、すでに多くの注文がその段に入ってしまいます。
取引先の注文の仕方は何も変わらないまま割引だけが広がり、下げた分がそのまま利益の減少になります。
反対に、誰も届かない数量に区切りを置けば、価格表はあっても使われません。
区切りは、注文が集まっている山の少し上に置くと働きやすくなります。
ふだん20個前後の取引先にとって、少しまとめれば届く位置に次の段があれば、注文をまとめる理由が生まれます。
すでに大口で注文している取引先には、その実績に見合う段を用意します。
区切りの位置によって、その段がまとめ買いを促す役割を持つのか、既存の大口に報いる役割を持つのかが変わります。
それぞれの段に何を期待するかを先に決め、そのうえで数字を当てはめます。
最小ロット・出荷単位を区切りの候補にする
分布から見えた区切りの候補は、出荷の単位とも突き合わせます。
たとえば商品が1ケース10個入りなら、区切りは48個より50個にしたほうが扱いやすくなります。
取引先は5ケースと数えやすく、自社もケースのまま出荷できるので端数の詰め替えが要りません。
ケースからパレットへ、宅配から路線便やチャーター便へと出荷の形が変わる数量は、原価の構造が変わる点でもあります。
大きな単位で出荷できるようになれば、1個あたりの梱包や運賃が下がる場合があり、そうした数量は区切りの有力な候補です。
逆に、ある数量を超えると車両の手配が別になって費用が上がるなら、その手前で段を止めておく判断もあります。
最小ロットを設けている場合は、それが最下段の入口になります。
最小ロットは「これより少ない注文は受けない、または別料金にする」という下限です。
階層の区切りは「ここから単価が変わる」という境目です。
役割が違うので、価格表には両方を並べて書いておくと、取引先が読み違えにくくなります。
段ごとの割引幅を試算で確かめる
区切りが決まったら、各段の単価を先ほどの上限の内側に置きます。
前の仮例を使い、1〜49個は1,000円、50〜99個は900円、100個以上は850円とした場合を確かめてみます。
50個の注文では、原価720円に対して単価900円なので、1個あたり180円が残ります。
100個の注文では、原価660円に対して850円で、1個あたり190円です。
どちらも20個の注文で残っていた100円を上回っています。
割引幅は、50個の段が100円で上限180円の手前、100個の段が150円で上限240円の手前に収まっています。
試算で特に見ておきたいのは、各段の下端の数量です。
50〜99個の段では、1個あたり原価が最も高いのは50個ちょうどの注文です。
段の中で最も条件の厳しい数量で利益が残っていれば、その段のほかの数量でも残ります。
最上位の段には上限の数量がありません。
区切りの数量で確かめたうえで、出荷の形が変わる数量で原価が上がらないかも見ておきます。
ここで挙げた区切りの数や割引の幅は、手順を示すための仮の数字です。
段の数や割引率は自社の原価と注文の分布から決めるもので、他社の割引率をそのまま当てはめても、自社の利益が残るとは限りません。
段を増やすほど取引先ごとの事情に合わせやすくなる一方、価格表は読みにくくなり、請求の確認にも手間がかかります。
少ない段で始め、使われ方を見てから足すほうが、後で直す手間は小さく済みます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 原価を二つに分ける
- 固定的な費用を注文数量で割る
- 20個の注文の原価と比べる
- 差が下げ余地の上限になる
- 割引幅を上限の内側に置く
適用方式で同じ数量でも請求額が変わる:1回ごとか累計か、全量か超過分か
同じ数量で並べる仮例の試算
区切りと単価が決まっても、価格表の適用の仕方によって請求額は変わります。
決めることは二つあります。
一つは、数量を1回の注文ごとに数えるのか、月などの期間で累計するのかです。
もう一つは、区切りを超えたときに注文全体の単価を下げる「全量適用」にするのか、区切りを超えた分だけを安くする「超過分のみ」の適用にするのかです。
前の価格表(1〜49個は1,000円、50〜99個は900円、100個以上は850円)と、変動費600円・1回ごとの費用6,000円という仮定をそのまま使い、組み合わせごとの請求額を並べたのが次の表です。
「残る額」は、請求額から変動費と受注・出荷1回ごとの費用を引いた仮の計算で、実際の取引の数字ではありません。
表で判断が分かれるのは、累計方式の行です。
20個ずつ5回の注文は、月の合計が100個でも、受注・出荷は5回発生しています。
原価の合計は100個を1回で出荷する場合より2万4,000円多くなります。
全量適用の累計方式では、階層を作る前に残っていた1万円が、マイナス5,000円まで落ちます。
まとめ買いで浮くはずの費用が浮いていないのに、割引だけは最も大きい段が適用されるためです。
累計方式そのものが誤りというわけではありません。
継続して取引してくれる相手に報いたい、取引量全体を自社に寄せてもらいたい、という狙いには合っています。
ただし、その割引の原資は出荷回数の削減ではないので、先ほどの上限とは別の考え方で幅を決める必要があります。
1回ごとの方式を前提に作った価格表を累計方式に流用すると、割引が上限を超えやすくなります。
全量適用と超過分のみの違い
1回ごとの方式の中でも、全量適用と超過分のみでは、区切りの前後で請求額の動き方が違います。
全量適用では、99個の注文は900円の段なので89,100円です。
100個の注文では850円が全量にかかり、85,000円になります。
1個多く注文したほうが、請求額が4,100円安くなるわけです。
この段差があると、99個前後で注文を考えていた取引先には、100個にそろえる理由がはっきり生まれます。
まとめ買いを促したい受注側から見れば、狙いどおりの動きとも言えます。
一方、自社に残る額は、99個の注文で23,700円、100個の注文で19,000円です。
1個多く出荷して、残る額が減っています。
全量適用では、区切りのすぐ上の数量が、最も利益の薄い位置になります。
超過分のみの適用では、1〜49個の49個分を1,000円、50〜99個の50個分を900円、100個目以降を850円で計算します。
99個なら94,000円、100個なら94,850円で、1個増えても850円増えるだけです。
境目で請求額が逆転しないので、区切りの手前で数量を調整する動機は弱くなります。
自社の利益も、段の境目で急に減ることはありません。
その代わり、取引先から見た割引は小さくなります。
100個を注文したときの平均単価は、全量適用なら850円ですが、超過分のみなら948.5円です。
「100個以上は850円」と書かれた価格表を見て、全量に適用されると受け取る取引先もいるはずです。
その場合、請求書を見て初めて食い違いに気づくことになります。
どちらの方式を採る場合も、価格表に計算例を一つ添えておくと、読み違いを防ぎやすくなります。
ここで示した方式ごとの性質は、計算から導いたものです。
どの方式が卸取引で広く使われているか、どちらが成果を上げやすいかまでは示していません。
表から言えるのは次の範囲です。
取引先の注文が単発のまとめ買い中心なら、1回ごとの方式が原価の動きと合います。
決まった相手から毎月継続して注文が入るなら、累計方式も検討の対象になります。
累計方式で決めておく期間と締め日
累計方式を採るなら、取引条件に書いておくことが増えます。
まず、いつからいつまでの数量を合計するのか、締め日はいつかを決めます。
次に、割引を請求時に反映するのか、期間が終わった後に差額を戻すのかを決めます。
これらが決まっていないと、締め日間際に入った注文や、返品・キャンセル分をどう数えるかで、取引先との認識がずれます。
反映の仕方によって、請求の作業も変わります。
期間中は通常の単価で請求し、締め後に累計数量を確定させて差額を精算する方法なら、各回の請求額は安定します。
ただし、精算の手間が一度増えます。
締め前に数量を見込んで単価を下げる方法では、見込みが外れたときに調整が必要です。
どちらにするかは、自社の請求の締め方と、取引先の支払い処理の仕方に合わせて決めます。
全量適用の累計方式では、締め日の直前にも段差が効いてきます。
月の合計が95個の取引先にとっては、あと5個注文すれば、月全体の単価が900円から850円に下がります。
95個のままなら85,500円、100個にすれば85,000円で、5個追加したほうが支払いは少なくなります。
締め日の直前に小口の追加注文が増えやすいのはこの仕組みのためです。
そして、その追加注文は受注・出荷の回数をさらに増やす方向に働きます。
| 適用方式 | 注文の仕方(仮例) | 請求額 | 原価の合計 | 残る額 | 区切りの手前で起きやすい動き |
|---|---|---|---|---|---|
| 1回ごと・全量適用 | 100個を1回 | 8万5000円 | 6万6000円 | 1万9000円 | 99個前後の注文が100個へ寄る |
| 1回ごと・超過分のみ | 100個を1回 | 9万4850円 | 6万6000円 | 2万8850円 | 境目で請求額が段差なく増える |
| 期間累計・全量適用 | 20個を月5回(計100個) | 8万5000円 | 9万円 | −5000円 | 締め前の追加発注が起きやすい |
| 期間累計・超過分のみ | 20個を月5回(計100個) | 9万4850円 | 9万円 | 4850円 | 追加発注の誘因は小さい |
| 階層なし(参考) | 20個を月5回 | 10万円 | 9万円 | 1万円 | なし |
▼ 図の内容を文字で読む
- 山の中に置く
- 多くの注文がすでにその段に入る
- 注文の仕方は変わらず割引だけが広がり、利益が減る
- 山の少し上に置く
- 少しまとめれば届く位置に次の段がある
- 注文をまとめる理由が生まれる
- 大口の実績に合わせる
- すでに大口で注文している取引先に見合う段を用意する
- 既存の大口に報いる役割を持つ
- 誰も届かない数量に置く
- 価格表はあっても使われない
共通価格表と個別交渉:独占禁止法上の「差別対価」で確認できたこと
共通価格表と個別交渉を選ぶ条件
価格表を全取引先に共通で示すか、取引先ごとに交渉して決めるかは、取引先の数と注文のばらつきで向き不向きが分かれます。
取引先が多く、一社ごとの注文の規模が似ているなら、共通の価格表が向いています。
見積もりや請求の確認が一つの表で済み、担当者によって単価が違うということも起きにくくなります。
反対に、取引先が少なく、一社ごとに注文の量や頻度、納品の条件が大きく違う場合は、共通の表では誰にも合わないことがあります。
ある取引先には指定の納品形態があり、別の取引先は毎回パレット単位で引き取りに来る、という場合です。
このように受注・出荷にかかる費用そのものが相手によって違うなら、個別に条件を決める理由があります。
実務では、共通の価格表を基本にし、例外を設ける場合はその理由を数量や費用で書き残しておく形が、説明しやすいと考えます。
他の取引先から「うちはなぜその単価にならないのか」と聞かれることがあります。
そのとき、価格表の条件を示して答えられるかどうかが分かれ目になります。
これは法律の要件ではなく、取引先との関係を保つための整理です。
一般指定3項の「不当に」とは
取引先ごとに単価が違うことが、法律上どう扱われるかも気になるところです。
独占禁止法は、不公正な取引方法の一つとして差別対価を定めています。
差別対価とは、相手や地域によって異なる対価で取引することを指します。
公正取引委員会の一般指定の第3項は、「不当に、地域又は相手方により差別的な対価をもつて、商品若しくは役務を供給し、又はこれらの供給を受けること」を不公正な取引方法としています2。
この項が対象とするのは、独占禁止法第2条第9項第2号に当たる行為以外の差別対価です2。
条文の中心は「不当に」という語です。
価格に差があること自体がそのまま禁じられているのではなく、その差が不当かどうかが問われます。
何が不当に当たるかは条文だけでは決まらず、個別の取引の事情で判断されます。
その判断の手がかりの一つが、公正取引委員会が公表している相談事例です。
相談事例(平成12年事例1)が示すこと・示さないこと
平成12年度(2000年度)の相談事例1は、化学品メーカーが卸売業者への仕切価格に差を設ける計画についての相談です3。
仕切価格とは、メーカーが卸売業者に販売する価格のことです。
このメーカーは、購入実績が上位10位以内の卸売業者に対して、仕切価格を品目ごとに1〜3%程度下げる計画を立てていました3。
公正取引委員会は、この計画は独占禁止法上問題ないと回答しました3。
理由として挙げられたのは、他に有力なメーカーがあること、下げ幅が一律であること、基準が購入額の順位だけであることの三つです3。
ただし、卸売業者の販売価格を拘束する手段として使う場合は問題になりうる、という前提が付いています3。
この事例から言えるのは、購入実績に応じた価格差は、それだけで直ちに問題になるわけではないということです。
同時に、問題ないとされた背景には、いくつかの条件がそろっていました。
競合の多い市場であること、下げ幅が小さく一律であること、基準が客観的で一つであることです。
割引幅がより大きい場合や業種が違う場合、自社が市場で強い立場にある場合に同じ結論になるかは、この事例からは分かりません。
もう一点、この事例は購入実績の順位を基準にした価格差について答えたものです。
受注・出荷の費用の差を理由にした価格差を分析したものではありません。
これまで説明してきた原価の分け方は、取引先に価格差の理由を説明する際には役立ちます。
しかし、「費用の差があれば法律上問題ない」と言える根拠にはなりません。
また、取引先の転売価格を価格表の条件に結び付けることは、この事例でも問題になりうるとされた点です。
階層の条件には含めないでおくべきです。
ここでの説明は一般的な整理です。
割引の幅が大きい、特定の取引先だけを大きく優遇する、自社の市場での立場が強い、といった事情がある場合もあるでしょう。
その場合は、導入前に弁護士や公正取引委員会の相談窓口で個別に確認してください。
| 論点 | 相談事例から読み取れること | 事例からは分からないこと |
|---|---|---|
| 価格差の基準 | 購入実績が上位10位以内という順位だけを基準にした | 受注・出荷の費用差を基準にした場合の扱い |
| 下げ幅 | 品目ごとに1〜3%程度で一律 | より大きな割引幅の場合の扱い |
| 市場の状況 | 他に有力なメーカーがある | 自社の立場が強い市場での扱い |
| 対象の取引 | 化学品メーカーと卸売業者 | 他の業種の取引での扱い |
| 使い方の前提 | 卸売業者の販売価格の拘束に使えば問題になりうる | ー |
▼ 図の内容を文字で読む
- 全量適用
- 99個の請求額は89,100円、残る額は23,700円
- 100個の請求額は85,000円、残る額は19,000円
- 区切りのすぐ上が最も利益の薄い位置になる
- 100個の平均単価は850円
- 超過分のみ
- 99個の請求額は94,000円
- 100個の請求額は94,850円で、1個増えても850円増えるだけ
- 区切りの手前で数量を調整する動機は弱い
- 100個の平均単価は948.5円
導入後に見直す:何を見て、いつ価格表を直すか
見る指標を三つに絞る
階層価格を導入したら、狙いどおりに注文がまとまり、利益が残っているかを確かめます。
見るものを増やしすぎると続かないので、次の三つに絞ると運用しやすくなります。
一つめは、取引先別の粗利です。
階層を入れる前と後で、取引先ごとに残る額がどう変わったかを見ます。
累計方式の仮例のように、割引だけが進んで出荷回数が減っていない取引先があれば、ここで数字に表れます。
二つめは、1回あたりの注文数量です。
まとめ買いを促すのが狙いなら、注文1回の数量が増え、注文回数が減っているはずです。
数量の合計は増えたのに1回あたりの数量が変わらないなら、受注・出荷の費用は減っていません。
三つめは、各段の利用件数です。
ほとんどの注文が最上位の段に入っているなら区切りが低すぎ、どの取引先も届かない段があるなら高すぎる可能性があります。
区切りのすぐ上に注文が集まっているなら、全量適用の段差が数量を動かしているしるしです。
その場合は、区切りのすぐ上の注文で利益が残っているかを、段ごとの試算と同じやり方で確かめ直します。
見直しの時期を価格表に書いておく
見直しのきっかけの一つは、原価の変動です。
仕入価格や運賃、梱包資材の価格が変われば、変動費も受注・出荷1回ごとの費用も変わり、各段の下げ余地の上限が動きます。
変動費が上がると、すべての段で1個あたりに残る額が同じだけ削られます。
1回ごとの費用が上がると、小口の注文ほど影響が大きくなります。
価格表を据え置いたままにすると、どの段で利益がなくなるかは、上がった費用の種類によって変わります。
もう一つのきっかけは、取引先からの再交渉です。
前に触れた中小企業庁の調査では、発注側からの申し入れで価格交渉が行われた割合が、前回の3月調査から3.1ポイント増えていました1。
取引先から価格の話し合いを持ちかけられる場面に、あらかじめ備えておく意味はあります。
そこで勧めたいのが、価格表に見直しの時期や条件を書いておくことです。
たとえば「年に一度の改定時期を決めておく」「原価が一定以上動いたら改定を申し入れる」といった書き方があります。
見直しの時期が決まっていれば、取引先から値下げを求められたときも、次の改定で注文実績を見て検討すると答えられます。
その場で個別に単価を下げずに済み、他の取引先との釣り合いも保ちやすくなります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 月の合計が95個
- あと5個で月全体の単価が900円から850円に下がる
- 支払いは85,500円から85,000円に減る
- 締め日の直前に小口の追加注文が増える
- 受注・出荷の回数がさらに増える
区切りや適用方式は、自社の注文履歴と原価の分け方しだいで答えが変わります。
記事の仮例をそのまま当てはめることはできません。
相談では、手元の注文履歴の並べ方や原価の分け方を確かめながら、区切りと適用方式の候補をどこから検討するかを整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 下げ余地 | 受注・出荷1回ごとの費用が数量で薄まった分が上限 |
|---|---|
| 区切り | 注文1回ごとの数量の分布と出荷単位に合わせる |
| 段の試算 | 各段の下端の数量で利益が残るかを確かめる |
| 適用方式 | 全量適用は区切りのすぐ上が最も薄利、累計方式は出荷回数が減らなくても割引が効く |
| 差別対価 | 価格差だけで直ちに問題ではないが「不当に」の判断が要る |
| 見直し | 取引先別の粗利・1回あたりの注文数量・各段の利用件数を見る |
▼ 図の内容を文字で読む
- 問題ないとされた背景
- 他に有力なメーカーがある
- 下げ幅が品目ごとに1〜3%程度で一律
- 基準が購入額の順位だけ
- 事例からは分からないこと
- 受注・出荷の費用の差を理由にした価格差の扱い
- より大きな割引幅の場合の扱い
- 自社が市場で強い立場にある場合の扱い
- 他の業種の取引での扱い
- 前提として注意すること
- 卸売業者の販売価格を拘束する手段にすれば問題になりうる
- 取引先の転売価格は階層の条件に含めない
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引先別の粗利
- 階層を入れる前と後で、残る額がどう変わったかを見る
- 割引だけが進み出荷回数が減っていない取引先が分かる
- 1回あたりの注文数量
- 注文1回の数量が増え、注文回数が減っているかを見る
- 合計だけ増えて1回の数量が同じなら、受注・出荷の費用は減っていない
- 各段の利用件数
- ほとんどが最上位の段なら区切りが低すぎる可能性
- どの取引先も届かない段があれば高すぎる可能性
- 区切りのすぐ上に集まるなら、全量適用の段差が数量を動かしている
価格表を作った後も、受注や請求の流れに階層の計算や締め日の扱いをどう組み込むかによって、運用の手間や読み違いの起きやすさが変わります。 価格表の条件を受注・請求の運用にどう落とし込むかを、取引先への示し方も含めて相談の場で確認できます。
よくある質問
最小ロットや出荷単位は、価格階層の区切りとどう組み合わせればよいですか。
最小ロットは注文を受ける下限なので、最下段の入口として扱います。
区切りは、ケースやパレットなど出荷単位の切れ目に合わせると、取引先は数えやすく、自社も端数の詰め替えが要らなくなります。
出荷の形が変わって原価が下がる数量は区切りの候補になり、逆に費用が上がる数量があればその手前で段を止める判断もあります。
価格表には、最小ロットと区切りを別の項目として並べて書いておくと読み違いを防げます。
累計方式を採るとき、期間や締め日は取引条件にどう書けばよいですか。
合計する期間の始まりと終わり、締め日、割引を反映する方法を書きます。
反映方法は、請求時に単価を下げるのか、締め後に累計数量を確定させて差額を精算するのかのどちらかです。
あわせて、返品やキャンセル、締め日をまたぐ注文を数量にどう含めるかも決めておくと、取引先との認識のずれを防げます。
全量適用と組み合わせる場合は、締め日直前の追加注文が増えやすい点も見込んでおきます。
取引先ごとに割引幅が違うと、他の取引先から問われたときにどう説明すればよいですか。
共通の価格表を基本にし、例外を設ける場合は、注文数量や納品形態など受注・出荷の費用にかかわる理由を書き残しておくと、条件で説明できます。
説明の軸は「どの条件を満たせばその単価になるか」で、相手の名前ではありません。
なお、費用の差があることが、そのまま独占禁止法上問題ないことの根拠になるわけではありません。
割引幅が大きい場合や特定の取引先だけを大きく優遇する場合は、弁護士や公正取引委員会の相談窓口で確認してください。
階層価格を導入した後に、取引先から再度の値下げを求められたらどうすればよいですか。
まず、その取引先の1回あたりの注文数量と、取引先別の粗利を見ます。
注文がまとまって受注・出荷の回数が減っているなら、下げ余地の上限の内側で、上の段に入る条件を示す形で応じる余地があります。
注文の仕方が変わっていないなら、単価だけを下げると利益が削られるので、数量をまとめてもらうことと引き換えにするのが筋です。
価格表に改定時期を書いておけば、その時期に実績を見て検討すると答えることもできます。
区切りのすぐ手前の数量の注文が増えたとき、価格表をどう直せばよいですか。
区切りのわずかに手前で注文が止まっているなら、その段が取引先にとって少し遠い位置にある可能性があります。
区切りを下げる場合は、新しい区切りの数量で1個あたり原価を計算し直し、割引後も利益が残るかを試算で確かめます。
手前の注文をまとめれば次の段に届く取引先が多いなら、区切りは据え置いて、出荷単位での発注を提案する方法もあります。
どちらにするかは、各段の利用件数と、その数量で残る額を見比べて決めます。
- 1 出典:中小企業庁(J-Net21掲載)「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査」(2025年)
- 2 出典:公正取引委員会「不公正な取引方法(一般指定)」(現行)
- 3 出典:公正取引委員会「相談事例集 平成12年度 事例1 化学品メーカーの卸売業者に対する仕切価格の差の設定」(2000年度)