◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 手戻りは、ずれが見つかった地点と生まれた地点を分けて、受け渡し地点別に件単位で記録すると原因の見当がつく。
- 受領後に見つかるずれは、取適法の対象取引では返品・やり直しに制約があり、責任の判断や支払期日の数え直しが重なる。
- 発注時に給付の内容、受領の期日と場所、検査完了日、代金の額、支払期日、決済の方法を揃えると、後の照合の基準になる。
- 取適法の対象かどうかは取引の内容と資本金・従業員数の基準で決まり、対象外でも同じ項目を発注書に使える。
- 効果は地点別の件数と初回照合の割合で確かめ、1〜2品目から数か月比べて広げる。
目次

仕入先とのやり取りで手戻りが出る受け渡しは、発注から支払までのどこか
発注のたびに仕入先へ確認の連絡を入れ、納品後には数量や仕様の食い違いを直し、請求書が届けば受領の記録と突き合わせて訂正を頼む。
そうしたやり直しが続くのに原因がつかめない状態は、仕入先との受け渡しを分けて記録すると整理できます。
まず、発注・受領と検査・請求・支払のどこで訂正が出たかを件単位で数えます。
そのうえで、発注内容の明示、受領と検査の基準、変更時の費用負担を仕入先と先に合意します。
取引が取適法の対象なら、明示する項目や返品・やり直しに制約があるため、対象かどうかを先に確かめます。
自社と仕入先の情報の往復として流れを並べる
手戻りの原因がつかみにくいのは、訂正が見つかる場所と、ずれが生まれた場所が別々になりやすいからです。
たとえば、請求書の金額が発注時の想定と合わず、仕入先へ問い合わせたとします。
やり取りをたどると、途中で単価の変更を電話で伝えていて、発注書には反映されていなかった、ということがあります。
この場合、訂正の作業は請求の場面で発生していますが、ずれ自体は発注後の変更連絡の段階で生まれています。
請求を照合する担当者には「請求で手戻りが多い」と映り、発注した担当者には問題が見えないままになります。
そこで、仕入業務を自社と仕入先の間で情報が行き来する順に並べてみます。
自社が発注内容(品目・数量・仕様・納期・単価)を仕入先へ渡し、仕入先が納期の回答や納品物を返します。
自社は受け取った物を受領・検査し、不一致があれば仕入先へ伝えます。
その後、仕入先が請求を出し、自社が照合して支払います。
途中で仕様や数量を変える連絡が入れば、それも一つの往復です。
一往復ごとに「誰が何を渡し、相手が何をもって受け取ったとするか」が決まっていないと、その地点で確認や訂正が生まれます。
業務の区切り方には、業界標準の例があります。
流通BMSの基本形は、発注・出荷・受領・返品・請求・支払の6業務を標準化の対象にしています1。
ただし、これは卸売(またはメーカー)と小売の間の取引を対象とし、スーパーや食品分野に多い回転型の取引を想定した仕様です1。
製造業の部品調達のような取引にそのまま当てはまるわけではないため、ここでは手戻りの地点を探すときの区切りの目安として使います。
法令の側から見ても、仕入先との取引は同じ順序で区切られています。
取適法(2026年に下請法から改められた法律)の対象取引では、発注時の明示、受領日から数える支払期日、取引記録の作成・保存という義務が、取引の流れに沿って定められています2。
取引が法の対象かどうかは後で扱いますが、発注・受領・支払の各時点で何を残すかという見方は、対象かどうかに関わらず手戻りの地点を探す枠になります。
訂正・再発注・返品を受け渡し地点別に記録する
手戻りの地点を特定するには、訂正や再確認が起きるたびに、件単位で記録を残すことから始めます。
「納品のときに揉めることが多い」という感覚があっても、数えてみると別の地点に偏っていることがあり、そこで初めて手を付ける順序が決まります。
記録の欄は、次の項目があれば足ります。
- 発生日と対象の発注(発注番号や品目)
- ずれが見つかった地点(発注・受領と検査・請求・支払のどれか)
- ずれの内容(数量、仕様、納期、単価、請求額など)
- ずれが生まれたと考えられる地点
- 取った対応(再確認、再発注、返品、やり直し、請求の訂正)
このうち、見つかった地点と生まれた地点を別の欄にしておくことが大切です。
先ほどの単価の例なら、見つかった地点は請求、生まれた地点は発注後の変更連絡です。
二つを分けておくと、請求の照合を念入りにするより、変更連絡の残し方を直すほうが訂正の件数に効きそうだ、という見当がつきます。
生まれた地点がその場で分からないときは空欄にし、後で仕入先とのやり取りを見直したときに埋めれば十分です。
記録は表計算ソフトの一枚でも構いません。
大事なのは、担当者ごとにメールや手元のメモに散らばっている訂正の経緯を、同じ欄で並べられる形にすることです。
件数がたまってくると、どの受け渡しで、どの種類のずれが繰り返されているかが見えてきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注(自社→仕入先:品目・数量・仕様・納期・単価)
- 納品(仕入先→自社:納期回答・納品物)
- 受領・検査(自社:数量・仕様を確認し結果を仕入先へ)
- 請求(仕入先→自社:請求書)
- 照合・支払(自社:発注と受領の記録に照らして支払)
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注後の変更連絡:単価の変更を電話で伝える(ずれが生まれた地点)
- 発注書に変更が反映されない
- 請求:金額が発注時の想定と合わない(ずれが見つかった地点)
- 仕入先へ問い合わせて訂正を頼む
手戻りの原因は、受領の前か後かでどう分けて負担を比べるか
受領前に見つかるずれと受領後に見つかるずれ
記録を並べると、次に「どのずれから手を付けるか」を決めたくなります。
ただ、仕入先との手戻りについて、原因別にどれが多いか、どの工程の負担が大きいかを示す公的な統計は確認できませんでした。
そのため、一般的な順位を当てはめるのではなく、ずれが見つかった時点で分けて、やり直しにかかる手間を比べる見方をおすすめします。
時点は大きく三つに分けられます。
一つ目は受領前で、発注内容の確認や納期回答のやり取りの中でずれに気づく場合です。
このときに直すのは発注書と仕入先の理解で、物はまだ動いていません。
二つ目は受領後・支払前で、納品物の数量や仕様が合わない、検査で不適合が見つかる、請求額が受領記録と合わないといった場合です。
ここでは返品や再納品、検査記録の訂正、請求書の再発行が絡みます。
三つ目は支払後で、支払った代金そのものを訂正することになり、経理側の処理も加わります。
時点が後ろになるほど、関わる人と書類が増えます。
受領前なら発注担当者と仕入先の窓口で済む話が、受領後には検査担当者や倉庫へ、支払後には経理まで広がります。
前の節の記録の「見つかった地点」を、この三つの時点に置き換えて数えると、同じ件数でも重さの違いが見えてきます。
なお、この分け方は手戻りを整理するための提案であり、どの時点のずれが多いかを示すものではありません。
受領後の返品・やり直しに制約がある理由
受領後のずれが重くなる理由は、作業量だけではありません。
取適法の対象取引では、受託事業者(発注を受ける仕入先)に責任がないのに受領を拒むこと、受領後に返品すること、不当にやり直しをさせること、不当に給付の内容を変えることが禁止されています4。
反対に、仕入先に責任がある場合は違反になりません4。
つまり受領後にずれが見つかると、物を動かす前に「どちらに責任があるか」を判断する必要が生まれます。
返品できる時期にも区切りがあります。
返品は受領後速やかに行うものとされ、受領時の検査では直ちに発見できない不適合に限って、受領後6か月以内(保証期間が6か月を超える場合は最長1年)であれば返品できます3。
また、支払前に返品ややり直しをした場合は、やり直し後の受領日が支払期日の起算日になります3。
受領後のずれは、物の差し替えに加えて、支払期日の管理まで組み直すことにつながります。
これらの制約は、取引が取適法の対象である場合のものです。
対象外の取引には自動では及ばず、返品ややり直しの扱いは仕入先との契約で決まります。
それでも、受領後にずれが見つかれば、契約に照らして責任の所在を確かめる手間が生じます。
受領後に見つかるずれほど負担が重いという見方は、こうした制度上の区切りから導いた整理です。
そこで次は、その手前にある発注の段階で、食い違いを生まない書き方と残し方を見ていきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受領前:発注内容の確認と訂正で対応
- 受領後速やか:受領時の検査で見つかった不良品の返品
- 受領後6か月以内:直ちに発見できない不適合の返品
- 最長1年:保証期間が6か月を超える場合
発注内容・仕様・納期・変更の認識違いは、記載項目と連絡の残し方でどう防ぐか
発注時に明示する項目
受領後のずれを減らすいちばん手前の手段は、発注の時点で何を渡したかを、仕入先と同じ内容で持っておくことです。
取適法の対象取引では、委託事業者(発注する側)は、発注時に次のような事項を記載した書面または電磁的記録を、直ちに仕入先へ交付する義務があります2。
- 当事者の名称
- 委託した日
- 給付の内容
- 受領の期日と場所
- 検査完了日
- 代金の額
- 支払期日
- 決済の方法
給付の内容は、仕入先が内容を理解し、指示に即して作れる程度の情報が必要とされています3。
品名と数量だけでは、仕様の版や梱包の条件が人によって違って伝わるおそれがあります。
仕入先が読み替えずに作業できるかどうかが、書き方の目安になります。
これらの項目を最初の節で並べた受け渡しに重ねると、それぞれが後の地点で照合の基準になることが分かります。
受領の期日と場所は受領の基準、検査完了日は検査の締め切り、代金の額は請求照合の基準、支払期日と決済方法は支払の基準です。
発注書にこれらが揃っていれば、受領や請求の場面で「そもそも何を約束したか」を探し直す確認が減ります。
ただし、項目を揃えて減るのは約束の中身を探し直す確認であり、仕入先側の作業ミスまで防げるわけではありません。
取引が取適法の対象外であっても、同じ項目を発注書の型として使うことはできます。
法的な義務ではありませんが、後の照合で基準になる情報を最初に置いておくという意味では、対象かどうかに関係なく役に立ちます。
EDI(企業間で発注や請求のデータをやり取りする仕組み)で発注する場合は、項目を記号(パターンコード)で示すことも、記号の意味を事前に書面または電磁的方法で示していれば認められています3。
未定事項と数量増加の扱い
発注の時点で、すべてが決まっているとは限りません。
仕様の一部が設計待ちで決まらない、納品場所が確定していない、といった場面です。
取適法の対象取引では、こうした未定事項について、決まっていない理由と、決める予定の期日を明示することが求められます3。
未定のまま発注して後から口頭で伝えると、伝えた内容が発注書に残らず、受領や請求の段階で照合する基準がなくなります。
予定期日に内容が決まったら、その内容も記録が残る形で仕入先へ伝えておくと、未定だった項目の扱いを後から追えます。
数量を増やす場合にも注意が要ります。
対象取引では、数量の増加は新たな発注として扱われ、改めて明示が必要です3。
たとえば同じ品目の追加を電話で頼み、元の発注書の数量だけを手で書き換えたとします。
すると、仕入先の出荷記録と自社の受領記録で数量の根拠が食い違い、どちらの分が不足しているのかを双方で探すことになります。
追加分を別の発注として起こしておけば、受領と請求でも別々に照合でき、この探し直しが減ります。
電話発注を記録に変える
電話は速く、急ぎの手配では手放しにくい手段です。
ただ、取適法の対象取引では、電話だけで発注することは違反とされています3。
また、見積の依頼や内容の確認も、記録が残る方法で行うことが望ましいとされています3。
こちらは義務ではなく望ましい対応という位置付けですが、手戻りの原因をたどるうえでも、やり取りが残っているかどうかで特定のしやすさが変わります。
電話を使うこと自体をやめる必要はありません。
電話で話した内容を、その日のうちに発注書やメールで同じ内容として送り、仕入先からの回答も同じ経路で受け取る運用にすれば、話した内容が記録に変わります。
減るのは、後になって「その単価で合意したか」「納期はいつと言ったか」を双方で探し直す確認です。
対象外の取引でも、この運用は契約上の義務とは別に取り入れられます。
| 発注時の明示項目 | 後の受け渡しでの使い道 |
|---|---|
| 給付の内容 | 受領・検査で数量と仕様を照合する基準 |
| 受領の期日と場所 | 受領日を決める基準 |
| 検査完了日 | 検査をいつまでに終えるかの基準 |
| 代金の額 | 請求書の金額を照合する基準 |
| 支払期日と決済方法 | 支払の時期と方法の基準 |
受領・検査・請求照合のずれは、基準と返品・やり直しの扱いでどう減らすか
受領日と検査完了日の決め方
発注の項目を揃えても、納品後のずれがなくなるわけではありません。
数量が足りない、仕様が違う、請求額が受領記録と合わないといったずれを減らすには、受領と検査の基準を、発注時に明示した受領の期日・場所と検査完了日に結び付けておく必要があります。
取適法の対象取引では、原則として納品された時点が受領日です3。
事前に仕入先と合意していれば、一定の水準を満たしていることを確認した時点を受領とすることもできます3。
どちらを受領とするかで、返品できる時期の起点も支払期日の起点も変わります。
取引ごとにあいまいにしておくと、検査担当者と経理の間で日付の認識がずれ、それ自体が確認のやり直しを生みます。
支払期日は、受領日から60日以内で、できる限り短い期間内に定めます2。
この期間は検査の有無に関わらず受領日から数えるため、検査に時間がかかる品目でも、支払期日は受領後60日以内に定める必要があります3。
支払期日までに支払わない場合の遅延利息は年率14.6%です2。
検査に時間がかかる品目ほど、検査完了日を発注時に明示し、受領から支払までの日程の中に検査を収める段取りが要ります。
請求照合では、発注書の代金額、受領記録の数量、検査結果の三つと、請求書の明細を並べて見ます。
三つのうちどれかが欠けていると照合の基準がなくなり、請求の段階で仕入先へ問い合わせることになります。
そこで、受領と検査について「いつまでに、誰が、何を確認し、結果をどこに記録して仕入先へ伝えるか」を発注時に合意しておく形をおすすめします。
これは実務上の提案で、請求照合の手順そのものを定めた公的な資料に基づくものではありません。
また、ここで扱う受領日は取適法上の扱いであり、会計上の仕入の計上時期は経理の基準に沿って別に確かめる必要があります。
返品できる期間と例外
返品は受領後速やかに行うのが原則で、直ちに発見できない不適合に限って受領後6か月以内(保証期間によっては最長1年)まで認められることは、前に見たとおりです3。
実務で効くのは、この区切りを検査の手順に落とし込むことです。
受領時の検査で何を見たかを記録しておくと、後から不適合が見つかったとき、それが受領時に見つけられたはずのものか、直ちには発見できなかったものかを判断する材料になります。
検査の項目が決まっていなければ、この区別がつきません。
その結果、返品できるかどうかの判断が、そのたびに仕入先との話し合いになります。
また、仕入先に責任がある場合には、返品は違反になりません3。
責任の所在を判断するときに頼りになるのは、発注時に明示した給付の内容と、受領時の検査結果です。
発注書に仕様が書かれていなければ、納品物が「発注と違う」と示す根拠がなく、責任の判断そのものが難しくなります。
発注の項目を揃えておくことが、ここで返品の判断を支える形になります。
変更・やり直しの費用負担
受領の前に、自社の都合で仕様を変えたり発注を取り消したりする場面もあります。
取適法の対象取引では、仕入先に責任がないのに受領前の仕様変更や取消しを行い、仕入先の利益を不当に害すれば違反になります3。
一方で、変更によって仕入先に生じる費用を委託事業者が全て負担すれば、不当な変更には当たらないとされています3。
このため、変更を頼む連絡では、仕様の中身と一緒に、仕入先ですでに進んでいる作業や手配済みの材料があるか、その費用をどう扱うかを確かめて記録に残すことが要になります。
費用の話を後回しにすると、請求の段階で想定していなかった金額が載り、照合と訂正のやり取りが改めて発生します。
変更の連絡と費用負担の合意を同じ記録に残しておけば、請求照合の基準が一つ増えることになります。
支払前にやり直しをした場合は、やり直し後の受領日から支払期日を数え直すことになります3。
この日付も変更の記録に含めておくと、経理が元の受領日で支払期日を管理し続けるずれを防げます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注時:受領の期日・場所と検査完了日を明示
- 受領日:原則は納品時点(事前合意があれば一定水準を確認した時点)
- 検査:検査完了日までに結果を記録し仕入先へ伝える
- 支払期日:受領日から60日以内でできる限り短い期間内
- 支払前のやり直し:やり直し後の受領日から数え直す
自社の取引は取適法の対象か。条件別にどの対策から着手するか
対象判定の見方
ここまでの制約の多くは、取引が取適法の対象である場合のものでした。
どこまでを前提に運用を組むかは、自社の取引が対象かどうかで変わります。
取適法は、2026年に下請法から改められた法律です5。
対象かどうかは、大きく二つの点で決まります。
一つは取引の内容で、製造委託などに当たるかどうかです。
もう一つは発注する側と受ける側の規模で、資本金の基準か従業員数の基準のどちらかを満たすかどうかです。
改正により、資本金の基準に該当しなくても、従業員数の基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)に該当すれば対象になります5。
迷いやすいのは一つ目の点です。
自社が仕様を決めて作ってもらう品の調達と、仕入先が一般に販売している品をそのまま買う仕入とでは、取引の性格が違います。
どちらが製造委託等に当たるかは取引の内容によって判断が分かれるため、ここでは断定しません。
資本金の基準の金額を含め、最終的な判断は公正取引委員会・中小企業庁の資料や条文で確かめてください。
対象の場合と対象外の場合の違い
対象の取引であれば、運用の前提として次の点が決まります。
- 発注時に、書面または電磁的記録で明示する2
- 支払期日を受領日から60日以内で定める2
- 取引の記録を作成し、2年間保存する2
- 手形払い等や、協議に応じない一方的な価格決定が禁止される5
- 仕入先に責任がない受領後の返品や不当なやり直しが禁止される4
対象外の取引では、これらは自動では及ばず、仕入先との契約や発注書で何を定めるかによります。
ただ、対象外だから項目を省いてよいということにはなりません。
受領の基準や変更時の費用負担を決めていない状態では、受領後のずれをそのつど話し合いで解くことになります。
対象外の取引では、法の項目を参考に、自社に必要な範囲を選んで発注書と契約に定める扱いになります。
取引の型別の着手順
着手の順序は、最初の節で付けた記録の偏りから決めます。
どの対策がどれだけ効くかを比べた実測は確認できていないため、次の表は記録の傾向と、先に揃えるものを結び付ける目安として示します。
対象の取引で電話だけの発注が残っている場合は、手戻りの傾向とは別に、発注の記録化を先に済ませる必要があります。
電話だけの発注は違反とされているためです3。
対象外の取引では、記録の偏りがいちばん大きい地点を一つ選んで始めれば十分です。
一度に全部を揃えようとするより、仕入先にとっても変更点が分かりやすくなります。
| 記録に多く出るずれ | 先に揃えるもの | 減る確認 |
|---|---|---|
| 電話や口頭で伝えた内容の食い違い | 発注と変更連絡を記録が残る形にする | 合意した単価や納期の探し直し |
| 受領後の数量・仕様の不一致とやり直し | 給付の内容の書き方と受領・検査の基準の事前合意 | 責任の所在をめぐる都度の確認 |
| 請求額と受領記録の不突合 | 代金の額と変更時の費用負担を記録に残す | 請求明細についての問い合わせ |
| 記録が散らばり傾向が分からない | 受け渡し地点別の記録 | どこから直すかの見当違い |
▼ 図の内容を文字で読む
- 対象かどうかの判定
- 取引の内容(製造委託などに当たるか)
- 資本金の基準か従業員数の基準(製造委託等は300人)のどちらかを満たすか
- 対象の取引
- 発注時に書面または電磁的記録で明示する
- 支払期日を受領日から60日以内で定める
- 取引の記録を作成し2年間保存する
- 仕入先に責任がない受領後の返品や不当なやり直しが禁止される
- 対象外の取引
- 仕入先との契約や発注書で何を定めるかによる
- 法の項目を参考に、自社に必要な範囲を選んで定める
手戻りが減ったかをどの記録で確かめ、段階的にどう進めるか
数える指標の例
対策を始めたら、手戻りが減ったかどうかを確かめる指標が必要です。
再発注率や検収差異率といった言葉が使われることはありますが、日本語で標準的に定まった定義は見当たらないため、自社で定義して使います。
例としては、次のようなものが考えられます。
- 受け渡し地点別の訂正・再発注・返品の件数(月ごと)
- 請求照合が初回で合った件数の割合
- 変更連絡のうち、費用負担を記録で合意できた件数
件数は発注の量で増減するため、月ごとの発注件数で割って見ると、忙しい月の増加と手戻りの増加を取り違えにくくなります。
また、記録で「見つかった地点」と「生まれた地点」を分けていれば、発注の項目を揃えた後に、発注で生まれたずれが請求で見つかる件数が減ったかを追えます。
数える材料は、新しく作らなくても手元にある場合があります。
取適法の対象取引では、給付の内容、受領日、検査結果、変更・やり直しの内容と理由、代金の額やその変更、支払の方法などを記録として作成し、2年間保存することが求められています2。
この記録を受け渡し地点別に数えれば、法への対応と手戻りの把握を同じ記録で進められます。
ただし、記録があることと、集計しやすい形で残っていることは別です。
紙やメールに散らばっていれば、まず同じ欄に集め直す作業が要ります。
1〜2品目から始める
すべての仕入先・品目で一度に運用を変えると、記録の付け方が人によって揺れ、比べる基準が定まりません。
手戻りの記録が多い仕入先のうち、1〜2品目を選んで始めるほうが、変える前と後を比べやすくなります。
揃える項目は、仕入先と合意して初めて意味を持ちます。
自社の発注書の書式を変えるだけでなく、受領の基準や検査完了日、変更時の費用の扱いを仕入先の窓口と確かめ、双方が同じ書類を見て照合できる状態にします。
比べる期間は数か月を目安にします。
見るべきは件数の増減だけでなく、どの確認が減り、どの確認が残ったかです。
たとえば発注での食い違いは減ったものの、検査での不一致が残っているなら、次に揃えるのは検査の基準だと分かります。
この進め方で手戻りが必ず減るとは言えませんが、減らなかった場合も、どの受け渡しに課題が残っているかを記録から読み取れます。
そのうえで次の品目や仕入先へ広げれば、対象を広げるたびに一から原因を探し直さずに済みます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 記録を始める
- 受け渡し地点別に訂正・再発注・返品を記録する
- 項目と基準を揃える
- 発注の明示項目、受領・検査の基準、変更時の費用負担を仕入先と合意する
- 数か月比べる
- 地点別の件数と、請求照合が初回で合った件数の割合を比べる
- 広げる
- 減った確認と残った確認を見て、他の品目や仕入先へ広げる
どの受け渡しから揃えるか、取引が法の対象かを前提にどこまで運用を組むかは、いまの発注書や受領・請求の記録を実際に並べてみないと判断しにくいためです。
現在の発注書の項目と受領・検査・請求の記録を並べ、手戻りが見つかっている地点と、先に揃える項目の候補を整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 手戻りの地点 | 見つかった地点と生まれた地点を分け、件単位で記録する |
| 負担の比べ方 | 受領前、受領後・支払前、支払後の時点で分けて手間を比べる |
| 発注の明示 | 給付の内容、受領の期日と場所、検査完了日、代金の額、支払期日、決済の方法を揃える |
| 受領と支払 | 対象取引では原則として納品時点が受領日、支払期日は受領日から60日以内 |
| 返品 | 対象取引では受領後速やか、直ちに発見できない不適合は6か月以内(最長1年) |
| 変更 | 仕入先で生じる費用の扱いを確かめて記録に残す |
| 対象判定 | 取引の内容と、資本金または従業員数の基準。最終判断は所管機関の資料で |
| 効果の確認 | 地点別の件数と初回照合の割合を、1〜2品目で数か月比べる |
数える指標の定義や試す品目の選び方は、取引の量や仕入先の数によって変わり、一般的な基準をそのまま当てはめにくいためです。 1〜2品目で始めるときの記録の欄と比べる指標を、自社の取引に合わせて組み立てられます。
よくある質問
自社の仕入が取適法の対象か分からないとき、まず何を確認するか
二つの点を確かめます。
一つは取引の内容が製造委託などに当たるか、もう一つは資本金の基準か従業員数の基準(製造委託等は300人、役務提供委託等は100人)を満たすかです5。
仕入先が一般に販売している品をそのまま買う取引が製造委託等に当たるかは内容によって判断が分かれるため、資本金の基準額を含め、公正取引委員会・中小企業庁の資料や条文で最終的に確かめてください。
発注を電話やメールで済ませている場合、何を記録に残すべきか
取適法の対象取引では、電話だけの発注は違反とされています3。
電話で話した内容は、その日のうちに発注書やメールで同じ内容として送り、仕入先の回答も同じ経路で受け取ります。
残す内容は、給付の内容、受領の期日と場所、検査完了日、代金の額、支払期日、決済の方法といった発注時の明示事項に沿えば、後の受領や請求で照合の基準になります2。
検収基準を仕入先と事前に合意していない場合、受領後の返品はどこまでできるか
取適法の対象取引では、仕入先に責任がない受領後の返品は禁止されています4。
仕入先に責任がある場合でも、返品は受領後速やかに行うのが原則で、直ちに発見できない不適合に限り受領後6か月以内(保証期間によっては最長1年)とされています3。
検査の基準がないと、責任の所在や「直ちに発見できたか」の判断材料が乏しくなります。
対象外の取引では契約の定めによるため、次の発注から受領と検査の基準を合意しておくことが現実的です。
仕様変更を仕入先に頼むとき、費用はどう扱うか
取適法の対象取引では、仕入先に責任がないのに受領前に仕様を変え、利益を不当に害すれば違反になります。
変更で仕入先に生じる費用を発注側が全て負担すれば、不当な変更には当たらないとされています3。
変更の連絡では、すでに進んでいる作業や手配済みの材料と、その費用の扱いを確かめて記録に残すと、請求の段階での照合と訂正が減ります。
対象外の取引でも、4条明示の項目を発注書に使ってよいか
使えます。
法的な義務ではありませんが、受領の期日と場所、検査完了日、代金の額、支払期日といった項目は、後の受領・検査・請求照合・支払で照合の基準になります。
仕入先との既存の契約の定めと食い違わないよう、契約の内容と合わせて項目を選んでください。
手戻りの件数を数え始めるとき、最初に何を記録するか
発生日と対象の発注、ずれが見つかった地点(発注・受領と検査・請求・支払のどれか)、ずれの内容、ずれが生まれたと考えられる地点、取った対応の五つがあれば足ります。
見つかった地点と生まれた地点を分けておくと、どの受け渡しを直せば訂正が減りそうかの見当がつきます。
- 1 出典:流通BMS協議会(GS1 Japan)「流通BMS標準仕様 基本形」(2025年閲覧)
- 2 出典:公正取引委員会・中小企業庁「委託事業者の義務(取適法)」(2026年)
- 3 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 4 出典:公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(2026年)
- 5 出典:公正取引委員会「取適法・振興法」(2026年)