◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 商法526条が請求の可否を結び付けているのは受領印ではなく受領後の検査と通知で、商人間の売買では不適合を見つけたら直ちに売主へ通知する。
- 民法566条の「知った時から1年」より商法の期限のほうが短いため、会社同士の取引では商法の期限を基準に動く。
- 納品書の誤記と実物の不適合は分けて考え、注文の控え・納品書・現物の3つを照合して、通知か書面の訂正かを決める。
- 取適法の対象取引では、返品は受領後速やかに、費用負担なしのやり直しは受領後1年まで、支払期日は受領日から60日以内で、検査や請求書の遅れでは起点が動かない。
- 仕入税額控除には帳簿と請求書等の両方の保存が必要で、納品書があるだけで書類がそろったとは言えない。
目次

受領印を押した後に数量不足や不具合に気づいたら、まず何を確かめるか
取引先から届いた部品に受領印を押し、翌日に開けてみたら数が足りず、傷のある品もあった。
印を押した後でもまだ言えるのか、と迷う場面です。
商人間の売買を定めた商法526条が請求の可否と結び付けているのは、受領印ではなく、受け取った後の検査と通知です5。
受け取ったら遅滞なく検査し、契約と合わない点を見つけたら直ちに売主へ伝える。
この期限を守れているかどうかが分かれ目になります。
下請取引に当たる場合は、取適法が発注側の返品・やり直し・支払いにも期限を設けています1。
サイン後でも言えるのか
たとえば、自社の仕様で作ってもらった部品500個が取引先から届き、受け取り窓口の担当者が納品書に受領印を押したとします。
翌日、倉庫で開梱して数えると480個しかなく、数個には目立つ傷もありました。
納品書の数量欄には500個と書かれています。
「印を押してしまった以上、500個を受け取ったと認めたことになるのでは」と迷うのは自然なことです。
ここで手がかりになるのが、商人間の売買について買主の検査と通知を定めた商法526条です。
条文は、買主が目的物を受け取ったら遅滞なく検査し、契約の内容に適合しないことを見つけたら直ちに売主へ通知することを求めています5。
通知をしなかった場合、買主は追完(不足分の納入や交換・修理)の請求、代金の減額、損害賠償、契約の解除ができなくなります5。
つまり、この条文が請求できるかどうかを結び付けているのは、受領印の有無ではなく、受け取った後の検査と通知です。
受領印を押した後でも、検査と通知を期限内に済ませていれば、条文の上では請求の道が残っています。
反対に、受領印を押さずに保留していても、検査と通知が遅れれば権利を失うおそれがあります。
ただし、納品書や受領印そのものがどんな効力を持つかを正面から定めた規定は、この条文にはありません。
受領印は、誰がいつ受け取ったかを社内外で確かめる手がかりになります。
だからこそ、受け取った日と、その後いつ何を確かめ、いつ取引先へ伝えたかを、後から示せる形で残しておくことに意味があります。
最初の4つの分かれ目
同じ「500個のうち20個足りない」でも、どの決まりが働くかによって、通知の期限も、発注側に許される対応も変わります。
最初に見ておきたい分かれ目は次の4つです。
・その取引は物の売買か、それとも製作や作業の委託(請負・役務)か
・自社と取引先の双方が商人か
・契約書や取引基本契約に検収条項(検査の期間や方法、合否の扱い)があるか
・その取引が取適法の対象か
1つ目を見るのは、商法526条や民法566条がそもそも売買についての決まりだからです。
同じ部品でも、図面を渡して作ってもらう形の契約は請負などとして別の考え方が要る場合があり、ここで紹介する通知期限をそのまま当てはめられるとは限りません。
2つ目は、商法526条が双方とも商人である売買にだけ働く決まりだからです5。
会社同士の継続的な仕入れはこの場面の典型ですが、どちらかが商人でない場合は民法側の期限を見ることになります。
3つ目の検収条項は、法律の期限より先に、日々の運用を決めているものです。
契約で「受領後何日以内に検査し、不合格は書面で通知する」と決めていれば、まずはその手順どおりに動けているかが問われます。
4つ目の取適法は、従来「下請取引」と呼ばれてきた取引に適用される法律で、発注側の権利を守るというより、発注側が受領拒否や返品、やり直しをどこまでできるかに枠をはめています2。
4つを順に見ると、自社がどの期限を基準に動くべきかが見えてきます。
会社同士の仕入れで最初に効いてくるのは商人間の売買での通知期限なので、次はそこから詳しく見ていきます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 売買か、請負・役務の委託か
- 商法526条や民法566条は売買の決まり
- 図面を渡して作る契約は請負などの別の考え方が要る場合あり
- 双方が商人か
- 商法526条は双方が商人の売買にだけ働く
- どちらかが商人でなければ民法側の期限を見る
- 契約に検収条項があるか
- 検査の期間や方法、合否の扱いを決めている
- まず契約の手順どおりに動けているかが問われる
- 取適法の対象取引か
- 発注側の受領拒否・返品・やり直しに枠をはめる
商人間の売買で、発注側がいつまでに何を通知すれば権利を失わないのか
商法526条の検査と通知
商法526条が求めていることは、時間の順に並べると分かりやすくなります。
まず、受け取ったら遅滞なく検査する。
次に、検査で契約と合わない点を見つけたら、直ちに売主へ通知する5。
「遅滞なく」も「直ちに」も日数で区切られてはいませんが、受け取った部品を何週間も箱のまま置いておく、見つけた傷を月末の打ち合わせまで伝えない、といった動き方はこの文言から遠いと考えるべきです。
傷のように開けてみればすぐ分かる不具合は、この原則どおり、見つけた時点で直ちに通知する対象です。
一方、組み付けて動かしてみて初めて分かる内部の不良のように、検査をしても直ちには発見できない種類・品質の不適合については、受け取ってから6か月以内に発見した場合に限り、そのときに直ちに通知すれば足りるとされています5。
6か月を過ぎてから見つかった場合は、この例外の対象から外れます。
冒頭の例の20個不足はどうでしょうか。
数量は箱を開けて数えれば分かることなので、6か月の例外を当てにする場面ではありません。
数量不足をこの条文の上でどう扱うかは細かな解釈に踏み込むことになりますが、発注側の実務としては、種類や品質の不具合と同じく受け取った直後の検査で確かめ、見つけたその日のうちに取引先へ伝える前提で動いておくのが安全です。
民法566条の1年との違い
通知の期限としてよく耳にする「1年」は、民法566条の話です。
同条は、種類または品質が契約に適合しない場合、買主が不適合を知った時から1年以内に売主へ通知しなければ、追完・減額・損害賠償・解除を請求できないとしています6。
同条の解説によれば、数量の不適合はこの条文の対象に含まれず、一般の消滅時効の決まりで扱われます6。
商法526条と並べると、違いは起点と長さにあります。
民法は「知った時から1年」で、気づいた時点から時計が動きます。
商法は受け取った時点から検査を求め、見つけたら直ちに通知するという、ずっと短い枠です。
商人間の売買では商法の要件を満たさなければ請求できなくなるので、「民法の1年があるからまだ大丈夫」と考えると、短いほうの期限をすでに過ぎていることがあり得ます。
会社同士の取引では、商法の期限を基準にして動くのが判断を誤りにくい方法です。
売主が不適合を知っていた場合
どちらの条文にも例外があります。
商法526条は、売主が不適合を知っていた場合には、ここまで見た通知の制限が働かないとしています5。
民法566条も、売主が引渡しの時に不適合を知っていたか、重大な過失で知らなかった場合には、1年の制限がかからないとされています6。
ただ、発注側からすると、取引先が出荷時に不足や傷を知っていたかどうかは外から見えません。
後で争いになれば、そのことを示す材料が必要になります。
例外は通知が間に合わなかったときに残る可能性の一つにとどめ、ふだんは期限内の通知で権利を守ると考えておくほうが確実です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 商法526条(商人間の売買)
- 受領後、遅滞なく検査
- 不適合を見つけたら直ちに通知
- 直ちに発見できない種類・品質の不適合は受領後6か月以内の発見に限る
- 民法566条
- 種類・品質の不適合を知った時から1年以内に通知
- 数量の不適合は対象に含まれない
納品書の記載が発注内容と違うとき、発注側が負うリスクと求められる範囲
書面の誤記と給付の不適合の違い
通知の期限が分かったところで、次に迷うのは「何について」通知するのかです。
冒頭の例では、納品書には500個と書かれ、実物は480個でした。
ここで問題になっているのは納品書の数字そのものより、届いた部品が注文した数に足りていないことです。
商法526条が検査と通知の対象にしているのも、受け取った目的物が契約の内容に適合しているかどうかであり、書面の記載ではありません5。
この見方に立つと、納品書と実物の食い違いは二つに分けて考えられます。
一つは、実物が契約と合っていないのに、納品書が合っているように書かれている場合です。
納品書は「足りている」と言っているだけで不足が解消したわけではないので、実物の不適合として通知の対象になります。
もう一つは、実物は注文どおりなのに、納品書の品番や数量だけが誤っている場合です。
こちらは受け取った物に問題がなく、書面を正しく直してもらえば足りる話です。
納品書の誤記だけで直ちに損害賠償の問題になるかは、ここで見た条文に直接の定めがなく、一律には言えません。
実務の整理としては、賠償や減額の話になるのは受け取った物が契約と違うとき、書面の誤りは訂正の問題、と分けて考えると判断がしやすくなります。
賠償が問題になった場合でも、どこまで求められるかは、契約に賠償の上限や免責の定めがあるかによって変わります。
発注側にとって本当に怖いのは、誤記そのものより、納品書の数字を信じて現物を数えないまま検収と支払いへ回してしまうことです。
不足に気づくのが月末の締めや棚卸しの時点になれば、受け取ってから時間がたち、前の節で見た「直ちに」の通知から遠ざかります。
発注内容の控えと突き合わせる
そこで、受け取ったときに照らし合わせる対象を3つに分けておきます。
自社が出した注文書や発注データ(品番・数量・仕様・単価)、取引先の納品書、そして現物です。
納品書と現物だけを見比べると、取引先が注文を読み違えて「納品書と現物は一致しているが、注文とは違う」場合を見落とします。
3つのうちどれとどれが食い違っているかで、取るべき動きは変わります。
注文と納品書は一致していて現物だけが少ないなら、出荷時の不足として通知します。
納品書と現物は一致していて注文と違うなら、取引先が注文内容を取り違えた可能性があり、受け取った物が契約と合っていない以上、これも通知の対象です。
注文と現物が一致して納品書だけが違うなら、通知というより書面の訂正を依頼する話になります。
金額の差は手がかりになりますが、それだけで原因は決まりません。
たとえば請求額が注文より少し低いとき、単価の誤記なのか、数量の不足なのか、別の品番が入っているのかは、明細と現物を突き合わせて初めて分かります。
差額の大小で判断せず、どの行がどう違うかを確かめてから通知の内容を決めると、取引先とのやり取りも一度で済みやすくなります。
| 食い違いの形 | 考えられること | 発注側の動き |
|---|---|---|
| 注文と納品書は一致し現物だけ違う | 出荷時の不足や不良 | 実物の不適合として直ちに通知 |
| 納品書と現物は一致し注文と違う | 注文内容の取り違え | 契約と違う給付として通知 |
| 注文と現物は一致し納品書だけ違う | 書面の誤記 | 納品書の訂正を依頼 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 注文と納品書は一致し現物だけ違う
- 出荷時の不足や不良
- 実物の不適合として直ちに通知
- 納品書と現物は一致し注文と違う
- 注文内容の取り違え
- 契約と違う給付として通知
- 注文と現物は一致し納品書だけ違う
- 書面の誤記
- 納品書の訂正を依頼
下請取引なら発注側が負う義務:受領拒否・返品・やり直し・60日支払
対象になる取引の確かめ方
ここまでは、発注側が自分の権利を守るための期限でした。
取引が取適法の対象に当たると、見え方が変わります。
取適法(正式名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)は、発注側を委託事業者、受注側を中小受託事業者と呼び、委託事業者の側に禁止行為を定めているからです2。
対象になるかは、取引の種類と事業者の規模の2つで決まります。
取引の種類は、製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託の5つです3。
規模は、資本金の基準と従業員数の基準で判断します3。
具体的な線引きは公正取引委員会の資料で自社と取引先それぞれの数字に当てはめて確かめる必要があり、「取引先が小さい会社だから対象だろう」と見た目で決めないことが大切です。
冒頭の例のように自社の仕様で作ってもらった部品の取引は、5つのうち製造委託に当たるかを見ることになります。
一方、カタログに載っている品をそのまま買う取引は、5つの類型のどれかに当たるかから検討が必要です。
対象に当たる取引では、商法や民法の通知期限と並んで、次に見る取適法の期限が同時に働きます。
受領拒否と返品の制限
取適法の対象取引で、受注側に責任がないのに注文した物の受領を拒むことは、受領拒否として禁止されています2。
「急に要らなくなった」「置き場所がない」といった発注側の都合で受け取らない、という対応はとれません。
では不良品はどうか。
受注側に原因がある不良品を返すこと自体は認められますが、その返品は受領後速やかに行う必要があります1。
検査をしても直ちに発見できない不適合については、受領後6か月以内であれば返品でき、保証期間を6か月より長く定めている場合は最長1年までとされています1。
ただし返品の考え方は事案によって異なるとされているので、期限の内側なら必ず返せると読まないほうが安全です1。
冒頭の例で傷のある数個を見つけたなら、商法の上でも直ちに通知が必要で、取適法の上でも返品は受領後速やかに、という方向で一致します。
受け取った部品を倉庫に置いたまま、数か月後の棚卸しでまとめて返そうとすると、どちらの物差しでも動きにくくなります。
やり直しは受領後1年まで
やり直しも同じ構造です。
受注側に責任がないのに、費用を負担せずに注文内容を変えさせたり、受け取った後にやり直しをさせたりすることは、不当なやり直しとして禁止されています2。
受注側に原因がある不具合であっても、発注側が費用を負担せずにやり直しを求められるのは受領後1年までです1。
ここで注意したいのは、取適法の期限と商法・民法の通知期限を足したり引いたりしないことです。
商法526条は買主が権利を失わないための通知の期限、取適法の6か月や1年は委託事業者が返品ややり直しを求めてよい範囲の枠で、目的も期限の定め方も違います。
対象取引では、両方の期限をそれぞれ満たすように動く、と考えておくのが混乱しにくい整理です。
検査が長引いても60日は動かない
支払いの期限も、検査の進み具合とは切り離されています。
支払期日は給付を受け取った日から60日以内で、できる限り短い期間で定める必要があり、期日を定めていなければ受領日が支払期日になります3。
公正取引委員会のQ&Aでは、情報成果物の例として、検査するかどうかにかかわらず受領後60日以内の支払期日までに代金を支払う必要があると説明されています1。
受領日は、原則として納品された時点です1。
社内で「検収が終わってから受領扱いにする」という運用をしていると、この起点とずれます。
検品担当の手が回らず検査が数週間遅れても、支払期日の起点は納品の時点のままです。
支払前に返品ややり直しをさせた場合は、やり直した物を受け取り直した日が支払期日の起算日になります1。
受け取ったら早く検査するという点で、商法の要請と取適法の期限は同じ方向を向いています。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受領日(原則として納品の時点)
- 不良品の返品は受領後速やかに
- 支払期日は受領日から60日以内
- 直ちに発見できない不適合の返品は受領後6か月以内(保証期間が6か月超なら最長1年)
- 費用を負担しないやり直しの要求は受領後1年まで
出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」「委託事業者の禁止行為」「取適法の運用基準」。取適法の対象取引に限る。返品の考え方は事案により異なる。検査の有無と60日の関係はQ&Aでは情報成果物の例として説明
納品書が来ない・不備のまま処理したとき、経理・税務で何が起きるか
仕入税額控除の保存要件
納品書が届かない、あるいは誤ったまま回ってきたとき、発注側の経理に直接関わってくるのは消費税の仕入税額控除です。
仕入税額控除を受けるには、帳簿と請求書等の両方を保存する必要があります4。
ここでいう請求書等には、適格請求書、適格簡易請求書、仕入明細書等と、それらの電磁的記録が含まれます4。
国税庁の説明はこれらの書類を挙げていますが、納品書がこの請求書等に当たるかには触れていません。
そのため、「納品書があるから控除の書類はそろっている」とは言えず、控除の根拠として何を保存しているかは請求書等の側で確かめる必要があります。
納品書を当てにしていたせいで、請求書等が欠けていることに気づくのが遅れる、という形のほうが経理にとっては厄介です。
納品書が来ないことで現場から失われるのは、むしろ受領日と数量の記録です。
前の節までで見たとおり、商法の検査・通知も取適法の返品や支払期日も、受け取った日を起点に動きます。
納品書がない取引でも、自社の側で受け取った日、品番、数量、受け取った人を記録しておけば、照合と期限管理の起点を自分で持てます。
そのうえで取引先に納品書の発行や再発行を依頼する、という順にすると、書面を待つ間に期限だけが進む事態を避けやすくなります。
保存期間
仕入税額控除のための保存期間は7年間です。
帳簿は閉鎖の日、請求書等は受け取った日の属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から数え、6年目と7年目はどちらか一方の保存でよいとされています4。
請求書等の交付を受けるのが難しい取引には例外があり、税込3万円未満の公共交通機関による運送などは帳簿の保存だけで足ります4。
また、一定の小規模な事業者については、令和5年10月から令和11年9月までの間、税込1万円未満の課税仕入れも帳簿のみでよいとされています4。
部品の継続的な仕入れのような取引は、これらの例外に挙げられた形とは異なります。
保存の決まりが求めているのは帳簿と請求書等ですが、不足や不具合の通知メール、検品の記録、写真も同じ取引の書類として一緒に保管しておくと、後で減額や返品の経緯を説明するときに探す手間が減ります。
これは税務上の要件ではなく、取引先とのやり取りを後から追えるようにするための整理です。
請求書の遅れと支払期日
取適法の対象取引では、もう一つ別の物差しがあります。
請求書の提出が遅れても、定めた支払期日までに支払う必要があり、期日は変わりません1。
「請求書が来ないから支払いを待つ」という扱いは、この取引では通りません。
税務の保存要件と取適法の支払期日は、目的も起点も違う別々の決まりです。
前者は控除を受けるために何を残すか、後者はいつまでに支払うかを決めています。
請求書が遅れている取引先には、支払いは期日どおりに進めつつ、控除のための請求書等の交付を別に求める、というように二つを分けて動くと整理しやすくなります。
| 比べる点 | 仕入税額控除の保存 | 取適法の支払期日 |
|---|---|---|
| 決めていること | 帳簿と請求書等の両方を残すこと | 受領日から60日以内に支払うこと |
| 起点 | 請求書等の受領日の属する課税期間をもとに数える | 給付の受領日(原則は納品の時点) |
| 書類が遅れたとき | 請求書等がそろうまで保存の要件を満たせない | 請求書が遅れても期日は変わらない |
| 納品書の扱い | 請求書等に当たるかは国税庁の説明に記載なし | 起点は書類ではなく受領日 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 仕入税額控除の保存
- 帳簿と請求書等の両方を保存
- 保存期間は7年間
- 納品書が請求書等に当たるかは国税庁の説明に記載なし
- 取適法の支払期日(対象取引)
- 受領日から60日以内に支払う
- 請求書が遅れても期日は変わらない
- 自社で持つ受領の記録
- 受け取った日、品番、数量、受け取った人
- 照合と期限管理の起点を自分で持てる
契約書・検収条項で何を決めておくと、発注側の損害を防げるか
受領時の確認手順
ここまでの期限は、どれも受け取った時点から動き始めます。
冒頭の例で迷いが生じたのは、受け取り窓口で受領印を押す人と、倉庫で中身を数える人が別で、その間に一日空いていたからでした。
この空白を短くし、何をいつ確かめたかが残るようにすることが、受け取る側で整えられる部分です。
手順の一例を挙げます。
1. 受け取ったら、その日の日付、受け取った人、個口数を記録する
2. 同じ日か翌営業日までに、注文の控え・納品書・現物の3つを照らし合わせ、数量と外観を確かめる
3. 食い違いや傷を見つけたら、その日のうちに取引先へメールなどで知らせる
4. 取適法の対象取引なら、返品・やり直し・支払期日の期限を受領日から計算して控えておく
5. 納品書、検品の記録、通知の控え、請求書等を同じ取引の書類としてまとめる
これは編集部としての手順の提案で、この通りにすれば法律上の「遅滞なく」を必ず満たすという意味ではありません。
減らせるのは、受け取った日が分からない、誰が数えたか分からない、いつ伝えたか分からない、という後からの確認の手間と、気づくのが遅れることそのものです。
品目や量によって当日に全数を数えられない場合は、少なくとも外観と個口数をその場で見て、全数を確かめる日を決めておくとよいでしょう。
通知の記録の残し方
通知は、期限内に伝えたことを後から示せる形で残すことが大切です。
電話で先に伝えるのは早く動くうえで有効ですが、その後にメールなど文字の残る手段で同じ内容を送っておくと、いつ何を伝えたかが記録として残ります。
通知に入れておきたいのは、注文番号と品番、受け取った日、見つけた不適合の内容(何個足りないか、どの品にどんな傷があるか)、写真、そして求める対応です。
求める対応は、不足分の納入なのか、交換なのか、代金の減額なのかを書いておくと、取引先が社内で手配するときに迷いません。
冒頭の例なら「○月○日受領の部品500個のうち20個不足、別に数個に傷。写真添付。不足分の追加納入と傷のある品の交換を希望」といった内容になります。
取適法の対象取引で返品する場合は、この通知と返品の連絡を同時に出しておくと、受領後速やかに返品したという流れも一緒に残ります。
契約で決めておく項目
手順を現場に任せるだけでなく、取引基本契約や個別契約の検収条項で前提をそろえておくと、受け取る側と出す側の認識のずれを減らせます。
見直すときの観点として、次のような項目があります。
・検査を行う期間と、合否を伝える方法(書面かメールか)
・受領印を押すことと検収の合格を別のものとして扱うか
・不足や不具合があったときの対応(追加納入・交換・減額)の順序
・損害賠償の範囲と上限、免責の定め
・直ちに発見できない不具合を見つけたときの連絡期限
これらの定めがどこまで効くかは、契約の文言と取引の内容によって変わります。
また、取適法の対象取引では、契約で検収期間を長く定めても、受領日から60日以内という支払期日の枠3や、受領後速やかにという返品の考え方1と食い違わないかを見ておく必要があります。
条項の書き方や有効性を個別に判断したい場合は、契約書を見ながら弁護士に確認するのが確実です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 受領日・受け取った人・個口数を記録
- 注文の控え・納品書・現物を照合
- 不足や傷はその日のうちに通知
- 取適法の対象なら期限を控える
- 書類と記録をまとめて保管
自社の取引が売買か委託か、取適法の対象に当たるかは、契約書と日々の受け取りの実態を並べて見ないと決めにくいところです。
受け取りから検収・通知までの今の流れを伺い、受領日や通知の記録がどこで途切れているか、どの期限を基準に管理すべきかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 請求できるかの分かれ目 | 受領印ではなく、受領後の検査と通知が期限内か |
| 商人間の売買 | 受領後遅滞なく検査し、不適合は直ちに通知。隠れた種類・品質の不適合は受領後6か月以内の発見に限る |
| 民法566条 | 種類・品質の不適合を知った時から1年以内に通知 |
| 納品書の誤記 | 実物が注文どおりなら書面の訂正、実物が違えば不適合として通知 |
| 取適法の対象取引 | 返品は受領後速やかに、費用負担なしのやり直しは受領後1年まで、支払は受領日から60日以内 |
| 税務の保存 | 帳簿と請求書等の両方を7年間。納品書が請求書等に当たるかは国税庁の説明に記載なし |
受領日の記録、照合、通知、書類の保管は、担当が分かれるほど抜けやすい作業です。 現在の受発注と検品の手順を確認し、注文の控え・納品書・現物を照らし合わせる場面でどの確認や転記が残っているかを洗い出せます。契約条項の法的な判断は、弁護士への確認と併せて進めることをおすすめします。
よくある質問
受領印を押す前に、数量や品質のどこまで確認すべきですか。
受け取りの場で中身を全部確かめるのが難しい場合でも、個口数、外装の傷や濡れ、宛先と品名は確かめておくとよいでしょう。
中身の数量や品質は、受け取った後に遅滞なく検査することが商法526条で求められているので5、受領印を押した後の検査をいつ誰が行うかをあらかじめ決めておくことが大切です。
納品書がないまま納品物を受け取っても問題ありませんか。
受け取ること自体より、受領日と数量を照合する手がかりがなくなることが問題になります。
商法の検査・通知も取適法の支払期日も受領日から動くため5、自社で受け取った日・品番・数量を記録し、注文の控えと現物を照らし合わせたうえで、取引先に納品書の発行を依頼してください。
仕入税額控除に必要なのは帳簿と請求書等で4、納品書がそれに当たるかは国税庁の説明では触れられていません。
検収期間を契約で長く定めた場合、商法526条の通知期限はどうなりますか。
契約で検査や通知の期間を別に定めているとき、それと商法526条の期限がどう関係するかは、契約の文言と取引の内容によって変わるため一律には言えません。
個別の判断が必要な場合は、契約書をもとに弁護士へ確認するのが確実です。
なお、取適法の対象取引では、検収期間をどう定めても支払期日は受領日から60日以内という枠の中で決める必要があります3。
取適法の対象かどうかは、どの基準で判断しますか。
取引の種類と事業者の規模の2つで判断します。
取引の種類は製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託・特定運送委託の5つで、規模は資本金の基準と従業員数の基準で決まります3。
具体的な線引きは公正取引委員会の資料で、自社と取引先それぞれの数字に当てはめて確かめてください。
不具合の通知は口頭でも構いませんか。記録は何を残せばよいですか。
商法526条は受領後の検査と通知に期限を結び付けているので5、後で期限内に伝えたことを示せる形が重要です。
電話で伝えた場合も、その後にメールなどで同じ内容を送り、注文番号、受領日、不適合の内容、写真、求める対応を残しておくと、いつ何を伝えたかが後から確かめられます。
不良品を返品するとき、発注側が気をつける期限は何ですか。
取適法の対象取引では、不良品の返品は受領後速やかに行う必要があり、直ちに発見できない不適合は受領後6か月以内、保証期間を6か月より長く定めていれば最長1年まで返品できます1。
返品の考え方は事案により異なるとされています1。
商人間の売買であれば、これとは別に商法526条の通知期限も働くので、両方を満たすように動く必要があります5。
- 1 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 2 出典:公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(2026年)
- 3 出典:公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(2026年)
- 4 出典:国税庁「No.6496 帳簿及び請求書等の保存」(2026年)
- 5 出典:law-lib.jp「商法第526条(買主による目的物の検査及び通知)」(現行法)
- 6 出典:クリエア「民法第566条(種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)」(現行法)