◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 回付前に部門へ個別に当たるかは、金額・逸脱度・与信・契約や法令への影響で分け、線引きは自社の決裁権限表と合議先で決まる。
- 部門には条件を左右する確認から先に当たり、粗利の試算、現行契約、納期の幅など判断に要る材料を最初の相談で渡す。
- 価格や支払条件に関わる要望は、自社が委託・受託のどちら側かと、取引が取適法の対象かを、取引ごとに法務に確かめる。
- 稟議書は要望の内容、得意先の事情、社内への影響、選択肢、推奨、期限の順に書き、費用対効果を比べられる形にする。
- 差し戻しは規程で決まる部分と起案者が選べる部分に分け、変更点を明示して再提出する。
目次

得意先の稟議で部門調整を先にすべき案件と、意見を添えて回せる案件の見分け方
得意先から単価の据え置きや支払サイトの延長を求められて稟議を起案した。
ところが経理は与信の確認待ちで、法務は契約書の見直しが要ると言い、承認欄が埋まらないまま回答期限が近づいている。
こうした止まり方は、書き方を直す前に、回す順序で変えられます。
金額、標準条件からの逸脱度、与信、契約・法令への影響のどれかが大きい案件は、回す前に該当する部門へ個別に当たります。
どれも小さければ、稟議書に部門の意見を添えて回します。
稟議書には要望、得意先の事情、社内への影響、選択肢と推奨、期限を書き、差し戻されたときの組み替えも先に考えておきます。
稟議が止まる2つの原因:人の多さと根回し
稟議で時間を取られる場所は、文書の出来よりも、関わる人の数と回す前の相談に偏っていることを示す調査があります。
クラウドサイン利用者312名を対象にした2024年の調査では、稟議の課題として最も多かったのが「承認完了までに関わる人が多すぎる」で41.0%でした1。
「稟議書作成前の相談や根回しに時間がかかる」も35.9%が挙げています1。
どちらも複数回答で、得意先との取引に限った調査ではありません。
承認までの日数については、従業員100名以上の会社で過去半年に3回以上起案した109名に聞いた2022年の調査があります。
この調査では、申請から承認までが「1日以上3日未満」と答えた人が37.6%でした3。
3日以上かかると答えた人もいました。
承認者が一人増えるごとに、待ち時間が積み重なっていく構造が読み取れます。
二つの調査は対象も時期も違うため、数字を組み合わせることはできません。
それでも、止まる場所が「人の多さ」と「回す前の相談」にある点は共通しています。
得意先の要望を通す稟議では、この二つが同時に重くなりやすい事情があります。
単価の据え置きなら経理、支払サイト(締め日から支払日までの期間)の延長なら与信管理、契約条項の変更なら法務、納期の前倒しなら製造や物流というように、要望の中身ごとに確認する部門が加わるからです。
関係しそうな部門すべてに事前に当たれば、根回しの時間が膨らみます。
何もせずに回せば、承認欄の途中で「聞いていない」と止まります。
どちらの止まり方を避けるかは、案件ごとに選ぶことになります。
金額・逸脱度・与信・契約影響の4軸で仕分ける
仕分けの目安として、ここでは金額、逸脱度、与信、契約・法令の四つの軸を提案します。
調査で確かめられた慣行ではありません。
稟議がどこで止まるかから逆算した整理です。
金額の軸では、要望に応じた場合の値引きや増える費用が、起案者の上長より上の決裁者を必要とする水準かを見ます。
上位の決裁者は、経理や与信の見解がないと判断できません。
その見解が稟議書に無ければ、差し戻すしかなくなります。
逸脱度は、標準の価格表や支払条件からどれだけ外れるかです。
前例のある特例なら、部門も判断の基準を持っています。
初めての例外では、回付の途中で検討が始まり、そこで長く止まります。
与信は、支払サイトの延長や取引額の増加で売掛金の残高が増え、得意先ごとに決めた与信枠に近づくかどうかです。
契約・法令は、契約書や覚書の変更が要るか、法令上の確認が要るかを指します。
四つのうちどれか一つでも大きいと判断した案件は、稟議を回す前に該当する部門へ個別に当たります。
この相談は承認を取りに行くものではありません。
稟議書の下書きと論点を見せ、部門がどこを確認したいかを先に聞くためのものです。
反対に、四つとも小さく、前例のある条件の範囲に収まる案件は、稟議書に部門の意見欄を設けて回せば足ります。
関係部門が稟議の回付先として意見を書く仕組みを合議と呼びます。
個別の根回しを省いても、合議の欄で論点を受け止めてもらえます。
迷うのは、一つの軸だけが境目にある案件です。
たとえば、金額は小さいものの、支払条件がこれまでに例のない形になる場合です。
この場合は、その軸を受け持つ部門にだけ先に当たり、残りは合議で回すという分け方ができます。
全部門に一律で根回しするか、一切しないかの二択にしなければ、根回しの時間と回付後の差し戻しのどちらにも偏らずに済みます。
自社規程で確認する4点(金額基準・合議先・期限・例外承認)
「大きい」の線をどこに引くかは、記事の側では決められません。
線は自社の規程と決裁権限表、つまり案件の種類と金額ごとに誰が決裁するかを定めた表の中にあります。
起案前に確かめたいのは次の四点です。
- 金額基準:値引きや与信枠の増額が、どの金額区分に入り、誰の決裁になるか
- 合議先:その種類の案件で、規程上必ず意見を求める部門はどこか
- 期限:承認者や合議先に回答期限の定めがあるか、無い場合に滞留した稟議をどう扱うか
- 例外承認:標準の取引条件から外れる特例を、誰が承認できると定めているか
この四点は、先ほどの軸の線引きに対応します。
金額基準は金額の軸の線に、例外承認は逸脱度の軸に当たります。
合議先は、与信や契約の確認をどの部門が受け持つかを示します。
期限は、個別に当たる時間をどれだけ取れるかを左右します。
規程に書かれていない項目があれば、規程を管理している部門に聞いておくと、回付後に「この案件は合議が要る」と戻される事態を避けやすくなります。
合議先が規程で決まっている場合、その部門は根回しをしてもしなくても稟議の中を通ります。
根回しで省けるのは合議そのものではありません。
合議先が回付されて初めて論点を知り、資料を求めて差し戻す往復のほうです。
| 項目 | 割合(%) |
|---|---|
| 承認完了までに関わる人が多すぎる | 41.0 |
| 稟議書作成前の相談や根回しに時間がかかる | 35.9 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 先に個別に当たる
- どれか一つの軸が大きい
- 金額が上位の決裁者を必要とする区分
- 前例のない特例
- 与信枠に近づく、契約や法令の確認が要る
経理・法務・製造・物流・与信管理は何を確認するか、起案者は何を渡せばよいか
経理・与信管理に渡すもの
前の節で先に当たると決めた部門に、何を持っていけば話が早いかを整理します。
部門名や担当範囲は会社ごとに違います。
以下は要望の種類から逆算した確認事項の提案なので、自社の合議先に読み替えて使ってください。
経理が見るのは、要望に応じたときの利益への影響と、請求や入金の処理がどう変わるかです。
単価の据え置きや値引きであれば、現行の条件と変更後の条件、対象の品目、適用する期間、見込み数量を並べ、粗利がどれだけ動くかの試算を添えます。
値引きを請求書のどこにどう反映するかも経理が後で迷う点なので、得意先が求めている形があれば書いておきます。
与信管理が見るのは、売掛金の残高が増えて得意先の与信枠を超えないかです。
支払サイトを延長すると、取引額が同じでも入金までの期間が延びる分だけ残高が押し上げられます。
取引額の増加を伴う要望なら、影響はさらに大きくなります。
変更後に想定される月ごとの売上と支払条件、営業が把握している入金の遅れの有無を渡せば、与信の担当者は枠に収まるかを自分で計算できます。
こうした数字を起案者が先に渡すのには理由があります。
部門が自分で集め始めると、営業へ問い合わせが戻ってきて往復が生まれるからです。
起案者の手元にある数字は、最初の相談でまとめて渡すほうが進みが速くなります。
法務に渡すもの
法務に渡すのは、変える対象の文書と、変える中身です。
現行の基本契約書、個別契約や覚書、発注書の該当条項を示し、得意先が文面で要望してきた場合はその文面も添えます。
法務が知りたいのは、契約の変更が必要か、覚書で足りるか、得意先の文面をそのまま受けてよいかです。
要望の背景が分かれば、判断は早くなります。
もう一つ渡したいのが、この取引で自社と得意先のどちらが発注する側かという関係です。
価格の据え置きや減額、支払条件に関わる要望では、取引の内容と両社の規模によって取適法の観点が加わります。
何を確認するかは次の節で扱います。
製造・物流に渡すもの
納期の前倒し、仕様の変更、配送の小口化といった要望は、製造と物流の段取りに影響します。
渡すのは、数量、時期、頻度、納品先、そして一時的な対応か継続する条件かの区別です。
製造と物流は、その要望が他の受注の生産や出荷とぶつからないかを見ます。
仕様の変更が取引条件の変更を伴う場合は、契約の扱いについて法務にも同じ情報を渡します。
このとき、得意先の希望納期だけでなく、最低限守りたい納期の幅も示しておくと、返ってくる回答の形が変わります。
希望日だけを示すと、答えは「できる」か「できない」の二択になりやすく、できない場合は稟議がそこで止まります。
幅があれば、「この日なら追加の段取りなしで可能」「この日なら残業や配車の手配が要る」と条件付きで返してもらえる余地が生まれます。
その条件は、稟議書の選択肢にそのまま使えます。
部門への相談には、同時に出してよいものと、順番があるものがあります。
経理と製造の確認は互いの結果に左右されにくいので、並行して進められます。
一方、与信の結果次第で支払条件や取引額を組み替える可能性がある案件は、与信の確認を先に済ませます。
そうしないと、経理や法務に見せた条件が後で変わり、相談をやり直すことになります。
条件を左右する部門から先に当たる、というのが順番を決める目安です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 単価の据え置き・値引き
- 経理:粗利への影響と請求の処理
- 法務:取適法の観点(取引が対象の場合)
- 支払サイトの延長・取引額の増加
- 経理:入金の処理
得意先の要望が取適法に関わるとき、法務へ何を確認するか
自社はどちら側の事業者か
取適法は2026年に施行された法律です。
委託する側の事業者(委託事業者)に義務を課し、委託を受ける中小の事業者(中小受託事業者)を守ります4。
適用されるかどうかは、取引の種類と、資本金の基準または従業員の基準で決まります4。
従業員の基準は製造委託などで300人、役務提供委託などで100人とされ、特定運送委託も新たに対象に加わりました4。
得意先の要望を法務に相談するとき、最初に整理したいのは、この取引で自社がどちらの側にいるかです。
得意先が発注する側で、自社が製造や役務を受ける側であれば、法で守られる立場にあるのは自社です。
この場合の確認は、得意先の要望が委託事業者の禁止行為に当たりうるかという観点になります。
逆に、自社が得意先に製造や役務を委託している取引であれば、義務を負うのは自社です。
確かめるのは、自社の対応が義務に沿っているかです。
営業の感覚では、得意先は「買ってくれる側」です。
しかし、取引の中身によって関係は一様ではありません。
同じ得意先との間で、製品を納める取引と、得意先から加工を請け負う取引が並んでいることもあり得ます。
そのため、稟議書の法務向けの記載では、どの取引についての要望かを特定しておきます。
価格協議・据え置き・減額の扱い
取適法は、委託事業者が一方的に代金を決めることを禁じています。
中小受託事業者から価格の協議を求められたのに応じない、あるいは必要な説明をしない、といった場合がこれに当たります4。
手形での支払いや、振込手数料を中小受託事業者に負担させることも禁止されています4。
禁止行為は全部で11項目あり、その中に減額と買いたたきが含まれます5。
減額は、発注時に決めた代金を、中小受託事業者に責任がないのに発注後に減らすことです。
買いたたきは、同種の給付に通常支払われる対価より著しく低い額を不当に定めることです5。
自社が受託する側にいる場合、得意先の要望がこれらに近い形をとることがあります。
原材料の値上がりを受けて自社が単価の見直しを申し入れたのに、得意先から据え置きを求められている。
すでに受けた発注について、後から今回分の値引きを求められている。
支払いを手形にしたい、振込手数料を差し引きたいと言われている。
どれも、それだけで違反と決まるわけではありません。
取引が対象に当たるか、協議の経緯や理由がどうだったかで判断が変わります。
そのため、法務には要望の内容だけでなく、経緯も渡します。
いつ、誰が、どのような理由で価格の協議を申し入れ、得意先からどんな回答や説明があったかを、記録に沿って時系列で並べます。
法務はそれをもとに、受け入れる、条件を付けて受け入れる、協議を求め直すといった方針を検討できます。
稟議書の社内への影響の欄に法務の確認結果を一行で残しておけば、決裁者が法的な論点を見落とさずに済みます。
自社が得意先に製造や役務を委託している取引では、向きが逆になります。
得意先から代金の見直しを求められたなら、自社が協議に応じ、必要な説明をしたかが問われる立場です4。
この場合の稟議書には、要望を受けるか断るかの結論だけでなく、協議の場を設けた経緯も残します。
それが法務の確認の前提になります。
適用対象かどうかは取引ごとに判定する
ここまでの論点は、取引が取適法の対象に当たる場合の話です。
対象かどうかは取引の種類と両社の資本金や従業員数で決まるため、得意先単位ではなく取引ごとに判定します4。
同じ得意先でも、取引の種類によって答えが分かれることがあります。
判定に必要な材料は、取引の内容(何を作るのか、何を運ぶのか、どんな役務か)、両社の資本金と従業員数、発注の書面です。
営業が把握している範囲でこれらを揃えて渡せば、法務はすぐ判定に取りかかれます。
判定は法務、必要に応じて外部の専門家が行うものです。
起案者が稟議書の中で「対象外」と書き切るものではありません。
また、得意先の要望を違反だと稟議書に書くことも避けます。
事実と経緯を書いて判断を法務に委ねるほうが、得意先との関係を保ったまま社内の判断を進められます。
| 観点 | 得意先が委託事業者で自社が中小受託事業者の取引 | 自社が委託事業者の取引 |
|---|---|---|
| 法で守られる側 | 自社 | 中小受託事業者に当たる得意先 |
| 法務に確認する論点 | 得意先の要望が禁止行為に当たりうるか | 自社の対応が義務に沿っているか |
| 稟議書に残すもの | 価格協議を申し入れた経緯と得意先の回答 | 協議に応じた経緯と説明の内容 |
| 先に確かめること | 取引ごとに取適法の対象か | 取引ごとに取適法の対象か |
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社が受託する側の取引
- 法で守られる側:自社
- 法務に確認:得意先の要望が禁止行為に当たりうるか
- 稟議書に残す:価格協議を申し入れた経緯と得意先の回答
- 自社が委託する側の取引
決裁者が判断できる稟議書の構成:得意先の事情・社内への影響・選択肢と推奨・期限
費用対効果を先に示す
ここまでに各部門から集めた確認結果は、最後に一枚の稟議書にまとまります。
決裁者がそこで何を見るかについては、BtoB商材の導入稟議に関わった540名を対象にした2026年の調査が手掛かりになります。
承認される際のポイントとして最も多く挙がったのは「明確な費用対効果」で、43.7%でした2。
同じ調査では、過去1年に稟議が却下されて導入を断念した経験がある人が57.8%に上っています2。
この調査の対象は商材を導入する稟議で、得意先の要望を通す稟議とは中身が違います。
それでも、決裁者が費用と効果の釣り合いを見たがるという点は、得意先案件にも置き換えて考えられます。
得意先案件の費用対効果とは、要望に応じたときに減る利益や増える負担と、応じなかったときに失いかねないものとの比較です。
たとえば単価の据え置きを求められた案件なら、据え置いた場合の粗利の減少を経理の試算で示し、断った場合に得意先との取引がどうなりうるかを並べます。
後者を書くときは、得意先が実際に言ったことと、営業の見立てを分けておきます。
「据え置きが無理なら他社への切り替えを検討すると担当者から伝えられた」と、「切り替えられるおそれがあると営業は見ている」とでは、決裁者にとっての重みが違います。
両者が混ざった稟議書は、決裁者が事実を確かめるために差し戻すしかなくなります。
稟議書は次の順で書くと、決裁者が上から読み進めるだけで判断に至れます。
この並びは編集上の提案です。
自社に稟議書の書式がある場合は、その欄に振り分けて使えます。
- 要望の内容:何を、いつから、どの範囲で
- 得意先の事情:得意先が示した理由と、営業の見立てを分けて
- 社内への影響:経理・与信管理・法務・製造・物流の確認結果を集約
- 選択肢:応じる、条件を付けて応じる、応じない
- 推奨:どれを選ぶかと、その理由と残るリスク
- 期限:いつまでに決まる必要があるか
選択肢と推奨を並べる
決裁者に一つの案だけを見せると、決裁者にできるのは承認か差し戻しかの二つになります。
案に気になる点が一つでもあれば、差し戻して起案者に考え直させるしかありません。
選択肢を並べておけば、決裁者は「この条件ならよい」と選ぶ形で判断できます。
得意先の要望に対する選択肢は、応じる、条件を付けて応じる、応じないの三つを基本に組み立てられます。
条件を付けて応じる案には、期間を区切る、数量や取引額の条件を付ける、段階的に適用するといった形があります。
前の節で製造・物流や与信管理から返ってきた条件付きの回答は、ここに入ります。
それぞれの案について、利益への影響、部門の確認結果、得意先の反応の見込みを同じ項目で並べると、比べやすくなります。
推奨には、選んだ理由とあわせて、その案で残るリスクも書きます。
リスクを書かずに推奨だけを強く押すと、決裁者は起案者の見落としを確かめるために、かえって質問を重ねます。
残るリスクと、それを誰がどう見ていくかが書かれていれば、決裁者は引き受けるかどうかを判断できます。
要望に応じない案を推奨する場合でも、稟議にかける必要が生じることがあります。
価格の据え置きを断るなら、断る理由(原価の動き、他の得意先との条件の釣り合いなど)と、代わりに示せる条件があるかを書き、得意先にどう伝えるかまで決めておきます。
自社が受託する側で、取引が取適法の対象に当たる場合は、協議を申し入れた経緯も法務の確認結果とあわせて残します。
期限を決裁者の都合で書く
期限の欄に「至急」とだけ書いても、決裁者にはなぜ急ぐのかが伝わらず、ほかの案件と同じ順番で処理されます。
書くべきは、いつまでに決まらないと何が起きるかです。
得意先への回答期限、得意先の価格改定や次の発注の時期など、外から決まっている日付を起点にします。
その日付から逆算して、決裁が必要な日と、合議を締める日を置きます。
どこまでなら待てるかが稟議書から読み取れれば、回付の途中にいる承認者は、自分の番で急ぐ理由が分かります。
得意先への回答を延ばせる余地があるなら、それも書いておきます。
そうすれば決裁者は、急いで判断するか、確認を待って判断するかを選べます。

部門の意見が割れた、差し戻されたときの整理と再提出
差し戻しを前提に進める
前の節で触れた540名への調査では、稟議の承認までに差し戻しを経験した人が57.2%でした2。
起案経験者への2022年の調査でも、稟議の流れに悩みがある86名のうち60.5%が「承認までに時間がかかる」を挙げています3。
どちらも得意先案件に限った調査ではありません。
それでも、差し戻しを例外として扱うより、起こりうるものとして段取りに入れておくほうが実態に合っています。
差し戻しを前提にするとは、最初の稟議書の段階で、どの条件なら組み替えられるかを起案者が把握しておくことです。
得意先との交渉で動かせる幅、部門から条件付きで返ってきた回答、期限の余裕を手元にまとめておけば、差し戻されたときに一から調整し直さずに済みます。
部門の意見が割れた場合も、同じ考え方で扱えます。
たとえば、営業は単価の据え置きに応じたいが、経理は粗利の減少を理由に反対している、という場面です。
起案者が一方の意見に寄せて稟議書を書くと、もう一方の部門が合議の欄で反対を書き、決裁者の前で初めて対立が表に出ます。
割れた意見は、それぞれの理由とともに稟議書に並べます。
そのうえで、期間を区切る、数量の条件を付けるといった条件付きの案で両方の懸念が収まるかを、回す前に両部門へ確かめます。
収まらない場合は、対立を残したまま決裁者に判断を求めることになります。
それでも論点が整理されていれば、決裁者はどちらのリスクを取るかを選べます。
規程で決まる部分と起案者が選べる部分
差し戻されたときは、理由を二つに分けて考えます。
一つは規程で決まる部分で、決裁権限、合議先、期限がこれに当たります。
金額区分を読み違えて決裁者が違っていた、規程上必要な合議先を飛ばしていた、といった理由です。
これは稟議書の中身をいくら直しても解決しません。
回付の経路を正すことで直ります。
もう一つは起案者が選べる部分で、条件の組み替え、段階的な導入、期限の再設定がこれに当たります。
「この条件では粗利が足りない」「与信枠を超える」といった指摘には、選択肢の中身を変えることで応えられます。
差し戻しの理由がどちらに当たるかで、次に話す相手が変わります。
規程の側なら規程を管理する部門、条件の側なら指摘した部門です。
再提出前に確認すること
再提出の前に、次の順で確かめておくと、同じ理由での二度目の差し戻しを避けやすくなります。
この手順は、差し戻しの理由を二つに分ける考え方から組み立てた提案です。
- 差し戻しの理由を一文で書き出し、誰からの指摘かを記録する
- 理由が規程で決まる部分か、起案者が選べる部分かを分ける
- 規程の部分なら、決裁者と合議先を決裁権限表で確かめ直す
- 条件の部分なら、修正案を指摘した部門に先に見せて了解を得る
- 稟議書の冒頭に、前回からの変更点を明示する
- 得意先への回答期限を確かめ、必要なら回答時期を得意先に伝え直す
変更点を明示するのは、決裁者や合議先が前回の稟議書の中身を覚えているとは限らないからです。
どこを直したかが冒頭で分かれば、前回と同じところを読み直さずに、変わった箇所だけを確認して進められます。
得意先への連絡も、再提出の一部として考えます。
社内の判断が遅れていることを伝えないまま期限を過ぎると、稟議が通っても、得意先との関係で別の調整が必要になります。
回答の時期を改めて伝えておけば、再提出に必要な時間を確保したうえで、社内の判断を進められます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 回付して差し戻しを受ける
- 理由を一文で書き出し、指摘者を記録する
- 理由を仕分ける
- 規程で決まる部分:決裁権限・合議先・期限
- 起案者が選べる部分:条件の組み替え・段階的な導入・期限の再設定
得意先ごとの取引条件や特例が社内でどう扱われ、どの部門の確認を経ているかは、起案者の手元だけでは見えにくく、案件のたびに同じ問い合わせが繰り返されがちです。
現在の取引条件の管理方法と稟議の流れをお聞かせいただければ、どの確認が重なり、どこで止まりやすいかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
回付前に部門へ個別に当たるかを決める4つの軸
得意先の要望を、稟議を回す前に部門へ個別に当たる必要があるかという条件で分けた軸です。
- 金額:要望に応じた場合の値引きや費用が、決裁権限表で上位の決裁者を必要とする区分に入るか
- 逸脱度:標準の価格表や支払条件から外れ、前例のない特例になるか
- 与信:支払サイトの延長や取引額の増加で、得意先の与信枠に近づくか
- 契約・法令:契約書や覚書の変更、取適法などの法令上の確認が要るか
どれか一つでも自社規程の基準を超えれば回付前の個別相談に、すべて基準内なら部門の意見欄を設けた合議に切り替えます。
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 回付前に個別に当たる案件 | 金額・逸脱度・与信・契約や法令への影響のどれかが大きい |
| 意見を添えて回す案件 | 四つとも小さく、前例のある条件の範囲に収まる |
| 規程で見る点 | 金額基準・合議先・期限・例外承認 |
| 部門への相談の順番 | 条件を左右する与信などの確認を先にし、互いに独立した確認は並行する |
| 取適法の確認 | 取引ごとに、自社が委託・受託のどちら側か、対象取引かを法務が判定する |
| 稟議書の順 | 要望の内容→得意先の事情→社内への影響→選択肢→推奨→期限 |
| 差し戻し後 | 規程で決まる部分と起案者が選べる部分に分け、変更点を明示して再提出する |

四つの軸の線引きや部門への相談の順番は、自社の規程と取引の実態に当てはめて初めて決まり、記事の一般論だけでは決めきれない部分が残ります。 止まっている稟議の状況をもとに、先に当たる部門、稟議書に並べる選択肢、規程の確認先を整理する手掛かりを確かめられます。
よくある質問
稟議の前に部門へ相談するのは、どの金額や条件からですか。
一律の金額はなく、自社の決裁権限表の金額区分と合議先で決まります。
目安としては、金額、標準条件からの逸脱度、与信、契約や法令への影響のどれか一つでも大きい案件は、回付前に該当部門へ個別に当たります。
すべて小さく前例の範囲に収まる案件は、稟議書に部門の意見欄を設けて合議で回せます。
経理・法務・製造への相談は、同時に進めてよいですか。
互いの結果に左右されない確認は、並行して進められます。
ただし、与信の結果次第で支払条件や取引額を組み替える可能性がある案件は、与信の確認を先に済ませます。
先に経理や法務に見せた条件が後で変わると、相談をやり直すことになるからです。
得意先の要望が取適法の対象かどうかは、誰がどう判断するのですか。
判定は法務、必要に応じて外部の専門家が行います。
取引の種類と、資本金の基準または従業員の基準で決まるため、得意先単位ではなく取引ごとに判定します。
起案者は、取引の内容、両社の資本金と従業員数、発注の書面、価格協議の経緯を揃えて渡します。
価格を据え置く要望を断る場合、稟議書に何を書けばよいですか。
断る理由(原価の動き、他の得意先との条件の釣り合いなど)と、代わりに示せる条件があるか、得意先にどう伝えるかを書きます。
据え置いた場合の粗利への影響を経理の試算で示し、断った場合に得意先との取引がどうなりうるかは、得意先が実際に言ったことと営業の見立てを分けて並べます。
自社が受託する側で取適法の対象取引に当たる場合は、協議を申し入れた経緯も残します。
差し戻された稟議は、何を直せば再提出できますか。
まず、理由が規程で決まる部分か、起案者が選べる部分かを分けます。
決裁権限や合議先の誤りなら、中身ではなく回付の経路を正します。
粗利や与信枠などの指摘なら、条件を組み替えた修正案を指摘した部門に先に見せ、稟議書の冒頭に前回からの変更点を明示して再提出します。
自社の決裁権限表で最初に見る項目は何ですか。
最初に、その要望が値引き、与信、契約変更などのどの種類の案件に当たり、どの金額区分に入るかを見ます。
決裁者が分かったら、続けて規程上の合議先と、標準外の条件を承認できる人(例外承認)を確かめます。
- 1 出典:弁護士ドットコム株式会社(プロフェッショナルテック総研)「社内稟議の実態調査」(2024年)
- 2 出典:株式会社ネオマーケティング「BtoB企業の社内稟議・承認プロセス実態調査2026」(2026年)
- 3 出典:株式会社エイトレッド(ワークフロー総研)「「稟議書」に関する実態調査」(2022年)
- 4 出典:公正取引委員会「取適法・振興法」(2026年)
- 5 出典:公正取引委員会「委託事業者の禁止行為」(2026年)
画像の出典元
- Businesswoman reviewing documents at a round table in a bright office space./Photo by Winston Lim on Pexels
- An individual writes notes on green sticky notes placed on a laptop in a work setting./Photo by https://kaboompics.com/ on Pexels