◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 指値発注は、買い手が単価を先に決めて出す申込みで、仕入先が承諾して初めて契約になる。単価や条件を変えた返答は新たな申込みとして扱われる。
- 取引基本契約に承諾のみなし規定があれば、その定めが先に問題になる。ただし、取適法の対象取引では、単価を決めるまでの協議の問題は別に残る。
- 取適法の対象は、取引の種類と当事者の規模の両面で決まる。規格品・標準品の購入は、仕様を指定しない限り原則として製造委託に当たらない。
- 対象取引では、協議のない一方的な指値や一律の引下げ、コスト上昇分の据え置きは買いたたきのおそれがある。引上げ要請を受け入れない場合も、理由と根拠を説明して協議し、経過を残す。
- 社内では、承諾を確認した単価だけを基準単価にし、四半期ごとに未合意の単価や未回答の協議が残っていないかを点検する運用を提案する。
目次

指値で発注する前に、確認しておきたい3つのこと
定価や見積額のままでは原価が合わないため、自社が出せる単価で発注したい。
けれど、仕入先がそれを受けるのか、出した単価にどこまで効力があるのか、法律に触れないかが分からない。
指値発注は、買い手が単価を先に決めて出す申込みです。
仕入先が承諾して初めて契約になります3。
単価を変えて返されたら、それは新たな申込みです3。
製造委託等で取適法の対象になる取引では、協議をせずに単価を一方的に指定すると、買いたたきのおそれがあります1。
見積と協議の記録を残しながら進めることが、指値を通す近道です。
指値発注は「買い手が先に単価を決めて出す申込み」
指値発注とは、仕入先の見積や定価をそのまま受け入れず、買い手が「この単価なら発注する」と単価を指定して発注書を出すやり方です。
企業間取引では、取引先ごとに決めた指定単価で継続的に発注する運用も、同じく指値と呼ばれます。
ここで押さえておきたいのは、単価を指定したからといって、その単価で取引が決まるわけではないという点です。
民法では、契約をするかどうか、どんな内容にするかは、法令の制限の範囲内で当事者が自由に決められます3。
買い手が単価を決めて申し込むことは自由です。
同じように、仕入先にもその単価では受けない自由があります。
指値は契約を成立させる手段ではありません。
申込みの中身を買い手が先に決める出し方だと捉えておくと、後の判断がぶれにくくなります。
一方で、「法令の制限の範囲内で」という部分が、指値では重みを持ちます。
取適法の対象となる取引では、十分な協議をせずに単価を一方的に指定し、その単価が通常支払われる対価より低くなると、買いたたきに該当するおそれがあるとされています1。
指値という出し方が一律に禁じられているわけではありません。
問われるのは、どう指定したか、単価がどの水準か、そこに至るまでにどれだけ協議したか、です。
確認する3点:承諾の要否・取適法の対象か・協議の記録
指定単価で発注する前に、次の3点を確かめておくと、後の対応を決めやすくなります。
・仕入先の承諾を、どの形で得るのか(返事をもらう必要があるのか、取引基本契約に承諾をみなす定めがあるのか)
・その取引が取適法の対象になるか(取引の種類と、当事者の規模)
・単価を決めるまでの見積と協議の経過を、形に残せているか
3つは、それぞれ別の問いに答えるものです。
一つ目は「契約が成立したか」という、民法と自社の契約書の問いです。
二つ目と三つ目は「その決め方が規制上問題にならないか」という、取適法の問いです。
仕入先が承諾したからといって、規制上の問題がないとは言えません。
反対に、取適法の対象外の取引でも、承諾がなければ契約は成立しません。
「契約上通る」と「規制上問題ない」は別々に判断する必要があり、どちらか一方だけを見ていると、もう一方で足をすくわれます。
仮の設定で考えてみます。
ある会社の購買担当者が、同じ仕入先に、自社図面で特注する加工部品と、カタログに載っている市販の規格品の両方を発注しているとします。
どちらも指定単価で発注する点は同じです。
しかし、取適法の対象になりうるのは主に前者で、後者は原則として製造委託に当たりません1。
同じ仕入先、同じ担当者でも、品目によって確かめる中身が変わります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 仕入先の承諾の形
- 契約が成立したか(民法・取引基本契約)
- 取適法の対象か
- 指値が買いたたきのおそれを問われるか
- 見積と協議の記録
- 十分な協議をしたと説明できるか
- 承諾の時点と単価を後から示せるか
発注書は、仕入先が承諾して初めて契約になる
申込みと承諾で契約が成立する(民法522条)
民法522条では、契約は申込みに対して相手方が承諾をしたときに成立するとされています。
また、法令に特別の定めがなければ、書面などの方式は必要ありません3。
指定単価を書いた発注書は申込みにあたり、仕入先が注文請書やメールの返信、受注確認などで承諾を示したときに、その内容で契約が成立します。
方式が不要だということは、電話口で「その単価で受けます」と言われただけでも、契約が成立しうるということです。
ただ、その場合は、いつ、どの単価に対して承諾したのかを後から示しにくくなります。
単価で食い違いが起きたときに頼れるのは、承諾の時点と内容が分かる記録です。
実務で注意したいのは、発注書を出した時点では、指定単価はまだ買い手の希望にすぎないという点です。
承諾を確かめる前に、その単価を社内の基準単価として扱い始めると、帳簿上の単価と仕入先が受けた単価がずれる余地が生まれます。
発注した単価と承諾された単価を分けて扱う考え方は、最後の節の運用の話にもつながります。
単価を変えた承諾は新たな申込みになる(民法528条)
指値発注で多いのは、仕入先から「この単価では難しいが、こちらの単価なら受ける」と返ってくる場面です。
民法528条では、申込みに条件を付けるなど変更を加えて承諾した場合、その承諾は申込みの拒絶とともに、新たな申込みをしたものとみなされます3。
つまり、別の単価で返ってきた時点で、買い手が指定した単価での契約は成立していません。
今度は買い手が、仕入先からの新しい申込みを受けるかどうかを決める立場になります。
この往復は、何度でも起こりえます。
買い手が再び単価を示せば、それがまた新たな申込みです。
やり取りのたびに、どちらが申込み側でどちらが承諾する側なのかが入れ替わります。
「どの時点の、どちらの提示に対する承諾だったのか」を記録しておかないと、後で請求書の単価と発注書の単価が合わないときに、どちらが正しいのかを確かめられなくなります。
なお、条件を付けた返答がどこまで「変更」にあたるのかは、条文に明示されていません3。
単価はそのままでも、数量の下限や納期の条件を付けて返ってくることがあります。
こうした場合は、その条件で受けるかどうかを買い手側から改めて明示しておくほうが、後で解釈が分かれにくくなります。
取引基本契約に承諾のみなし規定があるときの見方
ここまでは民法の一般原則です。
継続取引では、取引基本契約に「個別の発注書を受け取ってから一定期間内に拒否の連絡がなければ承諾したものとみなす」といった定めを置いていることがあります。
こうした定めがあれば、民法の原則より先に、その契約の定めが問題になります。
自社の基本契約書で、個別契約がいつ、どの方法で成立するとされているか、単価をどう決めるとしているかを読み合わせておくと、発注後に返事がないときの扱いがはっきりします。
ただし、みなし規定によって個別契約が成立したとしても、取適法の対象取引であれば、その単価が十分な協議を経て決まったかという問題は別に残ると考えられます。
契約の成立と、単価の決め方が規制上問題ないかは、先ほど見たとおり別々の判断だからです。
返事がなくても成立する仕組みに頼るほど、単価についてのやり取りの記録は薄くなりがちです。
みなし規定がある取引ほど、単価を見直すときの協議は意識して形に残しておくのが安全です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 買い手が指定単価で申込み
- 仕入先が別単価で返答(新たな申込み)
- 買い手が受けるか再提示するかを判断
- 買い手が単価を再提示(新たな申込み)
承諾されやすい発注の条件と、されにくい発注の条件
見積を取ったうえでの指定か、一方的な指定か
承諾が必要だと分かると、次に気になるのは、どうすれば受けてもらいやすいかです。
それぞれの条件が承諾にどれだけ効くかを示す統計はありません。
ここでは、仕入先の側に立ったときに受けるかどうか迷う理由と、公的資料が示す考え方を手掛かりに、条件の比べ方を整理します。
公正取引委員会は、代金は受託側から見積書を提出してもらったうえで十分に話し合い、双方の納得のいく額とすることが肝要だとしています1。
見積を踏まえて単価を指定すれば、仕入先には、自社の原価計算のどこを買い手が削ろうとしているのかが見えます。
見積を取らずに単価だけが届くと、仕入先はその根拠を推測するしかありません。
そうなると、受けるか断るかの二択に追い込まれやすくなります。
見積と指定単価に差があるときは、その差がどこから来るのかを説明できるかが分かれ目になります。
材料費、加工、梱包、配送のうち、どこを見直してほしいのかを添えて単価を示せば、仕入先は一部だけ応じたり、根拠のある別単価を返したりできます。
前の節で見たとおり、別単価での返答は新たな申込みです。
ただ、根拠つきで返ってきた申込みであれば、買い手も次の判断を付けやすくなります。
取引基本契約と単価の事前合意の有無
取引基本契約で、単価の決め方や改定の時期、改定を申し入れる手順がすでに合意されているなら、個別の発注で示す指定単価は、その枠組みの中での運用になります。
仕入先にとっても、どの前提で出された単価なのかが分かるので、受けるかどうかを判断しやすくなります。
反対に、こうした合意がないまま品目ごとに単価を指定していると、発注のたびに単価の交渉をやり直すことになります。
どの単価がいつ合意されたのかも散らばりがちです。
承諾されにくいというより、承諾されたかどうかがあいまいなまま取引が進んでしまう点が、この状態の困りどころです。
数量・納期・仕様が変わったときの再見積り
見積を出した後に作業内容が大きく増えた場合は、最終的な作業内容を反映した見積りを取り直し、単価を見直す必要があるとされています1。
仕様を追加したのに当初の単価のまま指定すると、仕入先にとっては受けにくい発注になります。
取適法の対象取引であれば、規制上のリスクも重なります。
仕様だけでなく、数量が当初の想定より減った場合や、納期が短くなった場合も、仕入先が見積の前提にした条件は変わっています。
指定単価を据え置くなら、前提が変わっても据え置ける理由を説明できるかを考えておく必要があります。
説明できないなら、再見積りを依頼するほうが話は早く進みます。
全品一律の引下げ指定は通りにくく、リスクも高い
原価を下げたいときに取りやすい方法が、全品目の単価を一定の比率で引き下げて指定することです。
しかし、個別の発注内容の違いを考慮せず、全発注を一定比率で引き下げた単価で発注することは、買いたたきのおそれがあるとされています。
合理的な理由なく、特定の販売先向けの部品だけを低い単価にすることも同様です1。
品目ごとに原価の構成は違うため、一律の指定は、品目によっては仕入先の原価を割り込みます。
その結果、仕入先が受けにくくなるのも自然なことです。
コストが上がっている局面での据え置きにも注意が要ります。
最低賃金の引上げや原油高などによるコスト上昇分を価格に反映しないことは、買いたたきに該当するおそれがあるとされています1。
以前と同じ単価を指定しているだけのつもりでも、仕入先のコストが上がっていれば、実質的には単価を引き下げているのと同じ扱いになりえます。
こうして並べると、仕入先が受けやすい条件と、規制上問題になりにくい条件は、多くの部分で重なっています。
見積を取る、差の理由を示す、条件が変わったら見直す、品目ごとに考える、という進め方です。
取適法の対象外の取引でも、この進め方は仕入先との関係を保つうえで役に立つと考えられます。
ただし、対象外の取引では、法律上の義務として求められるものではありません。

自社の取引は取適法の対象か。対象なら指値はどう扱われるか
取引の種類と当事者の規模で決まる
ここで、発注する側が負う法的な制約を整理します。
取適法(旧下請法)は令和8年1月に施行された法律です。
適用されるかどうかは、取引の種類と、当事者の資本金または従業員数の基準の両面で決まります2。
取引の種類には、物品の製造委託や修理委託、特定運送委託、政令で定める情報成果物作成委託や役務提供委託などがあります2。
資本金と従業員数の具体的な基準は、公正取引委員会や中小企業庁の資料で、自社と仕入先の規模に当てはめて確かめてください。
対象となる取引では、発注する買い手は「委託事業者」、仕入先は「中小受託事業者」にあたります。
法律ではこの呼び方が使われますが、この記事では引き続き買い手・仕入先と呼びます。
買い手には法律の第3条・第4条・第6条・第7条で義務が定められ、禁止事項は第5条第1項・第2項に定められています2。
なお、建設工事の下請負(再委託)には、この法律は適用されません1。
製造委託等では協議のない指値が買いたたきのおそれ
対象取引での指値について、公正取引委員会が示している考え方には、いくつかの要素が重なっています。
十分な協議をしていないこと、単価を一方的に指定すること、その単価が通常支払われる対価より低いこと、の三つです1。
買い手が単価を提示すること自体が問題とされているのではありません。
協議を経ずに低い単価を押し付ける形になったときに、買いたたきのおそれが生じます。
前の節で見た一律の引下げや、コスト上昇分を反映しない据え置きは、この考え方を具体的な場面に当てはめたものと読めます。
見積を取り、差の理由を説明し、仕入先の言い分を聞いたうえで単価を決めていれば、少なくとも「十分な協議をせず」「一方的に」という状態からは離れられます。
もっとも、個別の取引が違反にあたるかどうかは、取引の実態によって判断されます。
この記事で適否を断定することはできません。
規格品・標準品の購入は原則として製造委託に当たらない
仕入れの多くを市販品が占める会社にとって、大事な区別があります。
規格品・標準品の購入は、買い手が仕様などを指定しない限り、原則として製造委託に該当しないとされています1。
冒頭の仮の設定でいえば、カタログに載っている規格品を指定単価で仕入れる取引は、原則として製造委託には当たりません。
一方、自社図面で特注する加工部品は、製造委託として対象になりうる、ということになります。
注意したいのは、同じ品目でも、買い手が仕様を指定して作らせると扱いが変わりうる点です。
規格品をもとに、寸法や材質、刻印などを自社向けに指定している場合は、「市販品だから対象外」と片づけずに、仕様を指定しているかどうかで仕分ける必要があります。
また、取適法の対象外だとしても、承諾があって初めて契約が成立するという民法の原則は変わりません。
協議に応じない一方的な代金決定の禁止
指値で特に気をつけたいのが、仕入先から価格の協議を求められたときの対応です。
仕入先からの引上げ要請を受け入れない場合でも協議は必要で、理由や根拠を十分に説明することが求められます。
説明や情報提供をせずに一方的に代金を決めると、協議に応じない一方的な代金決定として違反になるとされています1。
仕入先が単価の見直しを申し入れてきたのに、従来の指定単価を改めて通知するだけで終えると、この禁止に触れるおそれがあります。
個別の協議がなくても、通常は「一方的に」決めたことにならない場合もあります。
入札やせり上げのように、代金以外の主要な条件が確定していて、複数の候補が価格を提示でき、判断に必要な情報を認識できる場合です1。
ただし、取引量を減らすことをほのめかすなどして、実質的に買い手の提示額で決めさせるような場合は問題となりえます1。
民法と取適法を合わせて読むと、次のように整理できます。
民法上は、仕入先の承諾を得るまで指定単価は確定しません。
取適法の対象取引では、その承諾に至るまでの協議の質と記録が、買い手側に求められます。
承諾を取り付けることと、その過程が説明できることは、両方そろって初めて安心できる状態です。
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社図面で特注する加工部品
- 製造委託として対象になりうる
- 協議なしの低い単価の指定は買いたたきのおそれ
- カタログに載っている規格品
- 仕様を指定しない限り原則として製造委託に当たらない
- 規格品に寸法や材質を指定
- 市販品だから対象外と片づけない
- 仕様を指定しているかどうかで仕分ける
仕入先が受けない、または別の単価を返してきたときの進め方
状況別の対応表:条件付き承諾・別単価・不承諾・無回答
指定単価で発注した後に起こりうるのは、条件付きの承諾、別の単価での返答、はっきりした不承諾、無回答の4つの状況です。
民法上の位置づけと、買い手が次にすることを状況ごとに並べると、次のようになります。
表のうち、判断が最も分かれやすいのは無回答です。
取引基本契約にみなし規定があれば、その期間を過ぎた時点で個別契約が成立したと扱われる可能性があります。
定めがなければ、承諾を確認できていない状態のまま納品や請求が進むことになります。
どちらの場合でも、指定単価を変えて初めて発注した品目や、仕入先がコスト上昇を訴えていた品目では、黙っていたことを承諾と受け取らずに、意思を確かめておくほうが安全です。
条件付き承諾と別単価は、民法上はどちらも新たな申込みです。
違いは、買い手が何を判断するかにあります。
別単価なら単価そのものを受けるかどうかを、条件付き承諾なら、単価は通っていても付いた条件を受けるかどうかを判断します。
どちらも受けるならその旨を伝え、受けないなら再提示する、と自社側の意思を明示しておけば、やり取りがどこで止まっているかが分かります。
受け入れない場合も理由と根拠を説明する
仮の設定として、特注の加工部品を委託している仕入先から、原材料の値上がりを理由に、指定単価を引き上げてほしいという申入れがあったとします。
買い手が最初に考えるのは、その値上がりが自社の見立てでも妥当かどうかです。
自社で妥当と考えるコスト上昇分を反映しても、なお仕入先の申入れ額を下回るなら、協議のうえで単価を決めることになります1。
上昇分をまったく反映しないまま据え置くと、前に見たとおり買いたたきのおそれがあります1。
申入れの一部しか受け入れない場合や、受け入れない場合でも、協議は必要です。
理由や根拠を十分に説明することが求められます1。
説明の中身としては、たとえば、どの費目の上昇をどの程度と見積もったのか、申入れのどの部分が根拠を確かめられなかったのか、数量や納期など単価以外の条件で調整できる余地があるか、といった点が考えられます。
何を根拠にどこまで受け入れたのかが仕入先に伝われば、仕入先も追加の資料を出すか、別の条件で応じるかを選べます。
協議の経過を残す
協議の求めや経過は、書面や電子メールなど、形に残る方法で記録・保存することが望ましいとされています1。
残す内容としては、協議を求められた日付、相手の要請内容と根拠資料、自社の回答とその理由、合意した単価と適用の開始時点が挙げられます。
電話や対面で話がまとまった場合は、要旨をメールで送っておくと、記録を残しながら合意内容の食い違いも早めに見つけられます。
この記録は、規制への備えになるだけではありません。
前の節で見た「どの時点の、どちらの提示に対する承諾か」を後から確かめる材料にもなります。
| 仕入先の返答 | 契約上の位置づけ | 買い手の次の対応 | 取適法の対象取引で加わる点 |
|---|---|---|---|
| 条件付き承諾 | 申込みの拒絶と新たな申込み(民法528条) | 付いた条件で受けるか再提示するかを明示する | 条件の理由を聞き、協議の経過を残す |
| 別単価での返答 | 申込みの拒絶と新たな申込み(民法528条) | 受けるか、根拠を添えて再提示する | 受け入れない場合も理由と根拠を説明する |
| 不承諾 | 契約は成立していない | 理由を聞き、見積や条件の見直しを検討する | 協議に応じず一方的に決めない |
| 無回答 | 承諾を確認できていない(みなし規定があればその定めによる) | 基本契約の定めを確かめ、承諾の意思を確認する | みなし規定で成立しても協議の有無は別に問われうる |
▼ 図の内容を文字で読む
- 条件付き承諾
- 新たな申込みになる
- 付いた条件で受けるか再提示するかを明示する
- 別単価での返答
- 新たな申込みになる
- 受けるか、根拠を添えて再提示する
- 不承諾
- 契約は成立していない
- 理由を聞き、見積や条件の見直しを検討する
- 無回答
- 承諾を確認できていない(みなし規定があればその定めによる)
- 基本契約の定めを確かめ、承諾の意思を確認する
取引先別の単価を社内で決め、承認し、マスタと発注書に反映する流れ
単価の根拠を発注前に残す
ここからは、ここまでの内容を社内の運用に落とすための、編集部としての提案です。
公的資料が示しているのは、見積を取って十分に話し合うことと、協議の経過を記録することまでです1。
承認の手順や単価マスタの設計まで定めているわけではありません。
承認権限者や更新の条件は、各社の組織や既存の仕組みに合わせて読み替えてください。
最初に提案したいのは、指定単価を決める段階で、その根拠を残しておくことです。
根拠になるのは、仕入先の見積、過去の取引実績、材料費や人件費などのコスト変動の見立てです。
発注した後に根拠を思い出して書こうとすると、どうしてもあいまいになります。
単価を決める時点で、見積書と一緒に「なぜこの単価にしたか」を一言添えて保存しておく。
それだけで、仕入先から説明を求められたときに慌てずに済みます。
承認者と、仕入先回答後の単価マスタ更新条件
取引先ごとの指定単価について、誰が承認するのかを決めておきます。
見積から大きく下げる場合や、コスト上昇の申入れを受け入れない場合のように、協議の質が問われやすい場面で、担当者の判断だけで単価が決まらないようにするためです。
もう一つの要点は、単価マスタを更新する条件を、仕入先の回答と結びつけることです。
仕入先が承諾を示した単価だけを基準単価としてマスタに反映します。
申込み中の単価や、別単価が返ってきて協議中の単価は、状態を分けて持たせます。
こうしておくと、発注書に載る単価が、仕入先の受けた単価なのか、まだ申込みの段階の単価なのかを見分けられます。
請求書の単価と食い違ったときに、どこまで遡れば原因が分かるかもはっきりします。
単価マスタに持たせる項目としては、取引先、品目、指定単価、根拠(見積番号などの参照先)、承認者、仕入先の回答の状態、承諾を確認した日と方法、適用の開始時点、協議記録の保管先が考えられます。
すべてを一つの表に詰め込む必要はありません。
単価から根拠と協議記録へたどれる参照先を持たせておくことが大切です。
四半期点検で、未合意の単価が基準に残っていないか確かめる
運用を決めても、日々の発注の中では、承諾を確認しないまま指定単価が基準単価として使われ続けることがあります。
そこで、確かめ方として、四半期ごとに単価マスタを見直すことを提案します。
見るのは、回答の状態が承諾になっていない単価が基準に入っていないか、仕入先から協議を求められたまま回答していない案件がないか、コスト上昇の申入れから時間が経っても見直していない品目がないか、の三つです。
この点検で減るのは、請求書と発注書の単価が合わないときに、メールや注文請書を一件ずつ探して承諾の有無を確かめる手間です。
協議の求めに漏れなく応じたかを、あとからまとめて確かめる手間も減ります。
点検をしたからといって食い違いがなくなるわけではありません。
それでも、未合意の単価が長く残り続ける状態は避けやすくなります。
指定単価の承諾がどこで確認され、どの記録に残っているかは、発注書、仕入先の回答、単価マスタ、請求書と、複数の書類や画面に分かれています。そのため、担当者だけでは途切れている箇所を見つけにくいものです。
自社の受発注の流れを一緒にたどり、承諾の確認と協議の記録がどの段階で抜けやすいか、単価マスタにどんな状態を持たせると見分けやすくなるかを整理できます。個別の取引が取適法上問題ないかの判断は、弁護士などの専門家にご確認ください。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 指値発注の位置づけ | 買い手が単価を先に決めて出す申込み。仕入先には受けない自由もある |
|---|---|
| 契約の成立 | 仕入先が承諾したとき。単価や条件を変えた返答は新たな申込み |
| みなし規定 | 基本契約に定めがあればその定めが先に問題になる。協議の有無の問題は別に残る |
| 取適法の対象判定 | 取引の種類と、資本金または従業員数の基準の両面。規格品の購入は仕様を指定しない限り原則対象外 |
| 対象取引での指値 | 協議なしで通常より低い単価を一方的に指定すると買いたたきのおそれ |
| 引上げ要請への対応 | 受け入れない場合も理由と根拠を説明して協議し、経過を形に残す |
| 社内運用(提案) | 承諾を確認した単価だけを基準単価にし、四半期ごとに未合意の単価を点検する |

取引先ごとの指定単価を、根拠、承認、仕入先の回答、マスタ反映まで結びつける運用は、既存の購買の仕組みや組織によって組み方が変わります。 いまの発注と単価管理のやり方をうかがい、承諾を確認していない単価が基準単価に残りやすい箇所と、四半期点検で何を見ればよいかを具体的に確かめられます。
よくある質問
指値発注の発注書を出した後、仕入先から何の返事もない場合、契約は成立していますか。
民法の原則では、契約は申込みに対して相手方が承諾したときに成立します3。
返事がない状態は、承諾を確認できていない状態です。
ただし、取引基本契約に「一定期間内に拒否がなければ承諾したものとみなす」といった定めがあれば、その定めによって成立したと扱われる可能性があります。
まず自社の基本契約書で個別契約の成立条件を確かめ、指定単価を初めて変えた品目などは、仕入先の意思を確認しておくと安全です。
取引基本契約に「個別の発注は承諾したものとみなす」とあるとき、指定単価の扱いはどうなりますか。
みなし規定の条件を満たせば、個別契約はその定めに従って成立したと扱われる可能性があります。
ただし、取適法の対象取引では、その単価が十分な協議を経て決まったかという問題は別に残ると考えられます。
十分な協議をせず、通常より低い単価を一方的に指定すると、買いたたきのおそれがあるためです1。
みなし規定がある取引ほど、単価を見直すときの協議を形に残しておくことをおすすめします。
市販の規格品を指定単価で仕入れる場合も、取適法の対象になりますか。
規格品・標準品の購入は、買い手が仕様などを指定しない限り、原則として製造委託に該当しないとされています1。
ただし、寸法や材質などを自社向けに指定して作らせている場合は、扱いが変わりえます。
対象かどうかは、取引の種類と当事者の資本金または従業員数の基準の両面で決まります2。
対象外であっても、仕入先の承諾があって初めて契約が成立するという点は変わりません。
仕入先の単価引上げの求めを断るとき、どんな説明と記録を残せばよいですか。
取適法の対象取引では、要請を受け入れない場合でも協議が必要で、理由や根拠を十分に説明することが求められます。
説明をせずに一方的に決めると、協議に応じない一方的な代金決定として違反になります1。
説明としては、どの費目の上昇をどう見積もったか、根拠を確かめられなかった部分はどこか、単価以外の条件で調整できる余地があるか、などが考えられます。
協議の求めと経過は、書面やメールなど形に残る方法で保存することが望ましいとされています1。
指定単価を発注書に書いたのに、請求書の単価が違っていた場合、何から確かめればよいですか。
差額の大小だけで原因は決められません。
順に照らし合わせて確かめます。
まず、発注書に書いた指定単価と、仕入先の回答(注文請書やメール)を見比べ、別単価や条件付きで返されていなかったかを確かめます。
別単価で返されていた場合、それは新たな申込みにあたり3、買い手がそれを受けたかどうかが問題になります。
次に、協議の記録で、いつどの単価で合意したか、適用の開始時点はいつかを確かめます。
そのうえで、数量や仕様の変更による再見積りがなかったかを確かめます。
取引先ごとの指定単価を、見積や協議の経過と結びつけて管理するには、単価マスタに何を持たせればよいですか。
編集部の提案として、取引先、品目、指定単価、根拠(見積番号などの参照先)、承認者、仕入先の回答の状態、承諾を確認した日と方法、適用の開始時点、協議記録の保管先を挙げます。
大切なのは、承諾を確認した単価と、申込み中や協議中の単価を区別できることです。
そのうえで、単価から根拠と協議記録へたどれるようにしておきます。
公的資料が定めているのは見積と協議記録の考え方までで1、マスタの設計は各社の仕組みに合わせて決めてください。
- 1 出典:公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」(2026年)
- 2 出典:公正取引委員会「取適法の概要」(2026年)
- 3 出典:法務省(e-Gov法令検索)「民法(明治29年法律第89号)」(現行法)
画像の出典元
- A group of businessmen engaged in a meeting, analyzing reports and using a laptop for their discussion./Photo by Pavel Danilyuk on Pexels