◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 全取引先を一度に切り替えず、注文が多く、頼みやすく、内容が単純な取引先から1社ずつ試す
- 方式は取引先に新しい操作を求めるかどうかで分け、取引先ごとに①発注者側のみ導入・②取引先もアプリを使う・③取引先の受注システムに合わせる、を当てはめる
- 依頼では取引先の負担から伝え、取引条件が変わらないこと、今の手段を残せること、断ってもよいことを明示する
- 断られた先は今の手段で送り、入力担当と注文一覧への記録の一元化で、重複と漏れを後から追えるようにする
- 試行前と同じ項目を数えて広げる基準を事前に決め、補助制度は公募要領で申請の可否を確かめたうえで費用を抑える手段として扱う
目次

最初の取引先は「頼みやすさ」と「注文の多さ」で選ぶ
電話で頼んだ数量の聞き間違い、FAXの書き漏れ、控えを台帳へ写す手間。
発注アプリで減らしたいと思っても、取引先に頼んで断られ、電話とアプリの二重運用になるのは避けたいところです。
受発注の電子化は1社だけが導入しても効果を得にくく、取引先の状況を見て導入の要否を判断する必要があるとされています1。
そのため、全取引先を一度に切り替えなくてかまいません。
まず、頼みやすく注文の多い取引先に、相手の負担が小さい方式で頼みます。
断られた先は今の手段を残します。
試行の範囲と広げる基準を先に決めておけば、最初の1社と頼み方が決まります。
全取引先を一度に切り替えない理由
発注アプリを入れると、自社では注文を画面で作り、履歴を一か所に残せます。
ただ、注文は取引先が受け取って処理するまで終わりません。
取引先が届いた注文を今まで通り紙で確認し、電話で聞き返しているなら、聞き間違いや確認の手間は自社と取引先の間に残ります。
企業間で注文などのデータを電子的にやり取りする仕組みをEDIと呼びます。
中小企業庁の解説によると、EDIは1社だけが導入しても効果を得られず、取引先の状況や環境を考えて導入の要否を判断する必要があります1。
発注アプリも、相手の受け取り方で効果が左右される点は同じです。
取引先の事情もさまざまです。
同じ解説が紹介する2018年の調査では、中小商業・サービス業で「電子文書での商取引や受発注情報管理」を行っている割合は18.5%で、2割を下回りました1。
今の普及率を示す数字ではありません。
それでも、電話やFAXを中心に受注している取引先が残ると最初から想定しておけば、計画を立てやすくなります。
全取引先に一斉に切り替えを頼むと、応じる先と応じない先が同時に出てきます。
すると、どの注文がアプリで、どの注文が電話なのかを社内で把握しきれない時期が、全取引先にわたって生まれます。
1社ずつ始めれば、問題が起きてもその1社との注文だけで済み、そこで決めた手順を次の取引先に使えます。
段階的に進める方法は、取引先ごとに今の手段を残す余地を確保するための編集部の提案です。
最初の1社を決める3つの目安
最初の取引先は、効果が見えやすいことと、頼んで話が進みやすいことの両方で選びます。
目安は次の3つです。
1つ目は注文の量と頻度です。
たとえば、週に何度もFAXで発注している仕入先と、月に1回電話で頼む仕入先があるとします。
前者のほうが聞き間違いや転記の機会が多いため、アプリで減る手間を短い試行期間でも数えやすくなります。
2つ目は頼みやすさです。
すでにメールで見積もりや納期のやり取りをしている取引先は、画面で注文を受け取ることへの抵抗が比較的小さいと考えられます。
担当者と普段から直接話せる関係なら、試行中のつまずきもすぐに聞き取れます。
3つ目は注文内容の単純さです。
品目が限られ、単価や納品条件が決まっている取引なら、うまくいかなかったときに原因が操作なのか取引条件なのかを切り分けやすくなります。
特殊な条件の多い取引先には、手順が固まってから頼むほうが混乱を抑えられます。
頼みやすさと注文の多さの2つの軸で並べると、残りの取引先の扱いも決めやすくなります。
両方が高い先が最初の試行先です。
注文は多いが頼みにくい先は、効果が大きい代わりに断られたときの影響も大きいので、条件を整えてから頼む先とし、1社目で手順を固めてから声をかけます。
頼みやすいが注文の少ない先は、効果は見えにくいものの、次の候補として練習に向いています。
どちらも低い先は、当面は現行手段で残す先です。
| 取引先の型 | 頼みやすさ | 注文の多さ |
|---|---|---|
| 最初の試行先 | 3 | 3 |
| 次の候補 | 3 | 1 |
| 条件を整えてから頼む先 | 1 | 3 |
| 当面は現行手段で残す先 | 1 | 1 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 最初の試行先
- 頼みやすく、注文が多い
- 相手の負担が小さい方式で頼む
- 次の候補
- 頼みやすいが、注文は少ない
- 効果は見えにくいが練習に向く
- 条件を整えてから頼む先
- 注文は多いが、頼みにくい
- 1社目で手順を固めてから声をかける
- 当面は現行手段で残す先
- 頼みやすさも注文も少ない
- 今の手段のまま残す
取引先の負担で比べる3つの方式の選び方
方式① 発注者側のみ導入
最初の取引先が決まったら、その取引先とどの形でアプリを使うかを決めます。
同じ発注アプリでも、取引先に何を求めるかによって3つの方式に分けられます。
分かれ目は、取引先の受け取り方が変わるかどうかです。
方式①は、発注する自社だけがアプリを使う形です。
自社の担当者はアプリの画面で注文を作り、履歴もアプリに残します。
取引先には、これまで通りFAXやメールで注文が届きます。
取引先の操作は変わらないので、伝えることは「届く注文書の書式が変わるかもしれない」という点くらいで済みます。
この方式で減るのは、自社内の転記と、記録があちこちに散らばる手間です。
手書きの発注書を作り、控えを台帳へ写していた作業が、画面での1回の入力にまとまります。
一方で、取引先が受け取った後の作業は変わりません。
注文内容の聞き返しや受領の連絡は、今の手段のまま続きます。
アプリから注文書をどの形で出力・送信できるかは製品ごとに違うので、導入前に提供元へ確かめておく必要があります。
方式② 取引先もアプリを使う
方式②は、取引先にもアカウントを持ってもらい、アプリの画面で注文を受け取ってもらう形です。
取引先が受付や納期の回答を画面で返せる製品なら、自社への確認の電話や受領の連絡もアプリの中に移せます。
聞き間違いが起きる場面そのものを減らせるのは、この方式です。
その代わり、取引先にはログインして注文を確認する習慣と、操作を覚える手間が生まれます。
取引先が複数の発注者と取引していれば、発注者ごとに違う画面を見ることになります。
頼む側は、この負担を相手の立場で見積もる必要があります。
費用については手掛かりがあります。
2026年度のデジタル化・AI導入補助金インボイス枠(電子取引類型)は、対象ソフトの要件として、受注側の事業者にアカウントを無償で発行して利用させられる機能を持つクラウド型であることを挙げています2。
取引先に費用を求めずに使ってもらう形のソフトがあることは、公的な資料でも確かめられます。
ただし、これは補助対象ツールの要件で、すべての発注アプリがそうなっているわけではありません。
検討中の製品で取引先側に利用料がかかるかどうかは、契約条件で確かめます。
方式③ 取引先の受注システムに合わせる
方式③は、取引先がすでに使っている受注システムやEDIに、自社の発注を合わせる形です。
取引先の担当者は普段の画面のまま注文を受け取れるので、新しい操作を覚える負担はかかりにくくなります。
取引先側に受注の仕組みが整っている場合に検討する方式です。
中小企業庁の解説では、受注側が共通EDI標準に対応したプロバイダーや業務アプリを使うなら大きな費用はかからないとされています1。
発注側も、対応プロバイダーと契約すれば独自のシステムを使い続けられます1。
共通の決まりに双方が乗れば、どちらも使い慣れた仕組みを手放さずに済む、という考え方です。
具体的な金額は示されていないので、費用感の目安として受け取るのが適切です。
方式③が実現できるかどうかは、取引先の仕組みで決まります。
どの形式の注文データを受け付けているか、新しい発注者の登録に手続きや費用がかかるか、自社のアプリから送れる形と合うか。
こうした点は取引先に聞かないと分からないので、方式③は取引先の受注システムの仕様を先に聞くところから始まります。
方式②で触れた補助制度の要件と、この共通EDIの記述は、別の制度・目的について書かれたものです。
両方を合わせて「どのアプリでも取引先は無料」と読むことはできません。
比較表:取引先の負担・自社の負担・並行運用
3つの方式を、取引先と自社それぞれの負担、今の手段を並行して残す必要があるかで並べると、次のようになります。
表で判断が分かれるのは、取引先に新しい操作を求めるかどうかです。
方式②は、確認の電話や受領の連絡まで画面に移せる可能性がある一方で、取引先に最も多くを頼みます。
方式①は取引先に何も求めない代わりに、取引先とのやり取りは今のまま残ります。
方式③は取引先の負担が小さい一方で、実現できるかどうかが相手の仕組みで決まります。
方式を会社として1つに決める必要はありません。
たとえば、最初の試行先には方式②を頼み、FAXでの受注が中心の先には方式①を使い、受注システムを持つ先には仕様を聞いたうえで方式③を検討する、というように取引先ごとに当てはめられます。
前の節で当面は現行手段で残すとした取引先も、方式①なら取引先に頼まずに自社の記録だけを整えられます。
| 観点 | 方式① 発注者側のみ導入 | 方式② 取引先もアプリを使う | 方式③ 取引先の受注システムに合わせる |
|---|---|---|---|
| 取引先の操作・アカウント | 変わらない(FAXやメールで受け取る) | アカウントを持ち画面で注文を確認する | 取引先の普段の受注画面のまま |
| 取引先の費用 | 受け取り方が変わらないため新たな契約を求めない | 受注側へ無償でアカウントを発行できる製品もある(契約条件で確認) | 取引先の仕組みと登録条件を事前に聞いて確認 |
| 自社の導入費用と運用負荷 | アプリの契約と社内での入力運用 | アプリの契約に加え取引先ごとのアカウント発行と問い合わせ対応 | 取引先の仕様に合わせる設定や契約(取引先ごとに確認) |
| 並行運用の要否 | 送信手段は今のまま記録だけを一元化 | 取引先が操作に慣れるまで今の手段と並行 | 接続を確かめられるまで今の手段と並行 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 方式① 発注者側のみ導入
- 取引先にはFAXやメールで届き、操作は変わらない
- 減るのは自社内の転記
- 方式② 取引先もアプリを使う
- 取引先がアカウントで画面から注文を受け取る
- 確認の電話や受領の連絡も画面に移せる製品がある
- 取引先の利用料は契約条件で確かめる
- 方式③ 取引先の受注システムに合わせる
- 取引先は普段の受注画面のまま受け取る
- 実現できるかは取引先の仕様で決まる
取引先への依頼で、何をどの順に伝えるか
伝える5項目と順序
方式が決まれば、依頼で伝える内容も決まります。
依頼を受け取った取引先が最初に考えるのは、自分たちの手間と費用がどう変わるかです。
そこが分からないまま開始日や操作の説明を受け取れば、判断材料がないので「検討します」と保留にされても不思議ではありません。
そこで、次の順で伝えることを提案します。
1. 取引先の負担:費用がかかるか、アカウント登録や操作が必要か
2. 変わる点と変わらない点:注文の届き方と、単価・締め時間・納品条件などの取引条件
3. 開始時期と試行期間:いつから、どの注文で、いつまで試すか
4. 困ったときの窓口:操作や注文内容について誰に連絡すればよいか
5. 今の手段を残せること:受け取りが難しい場合や急ぎの注文は、これまで通りの方法で送ること
負担を最初に伝えるのは、取引先が引き受けるかどうかを決める材料になるからです。
2番目で取引条件が変わらないとはっきり書けば、発注方法の変更が値下げや条件変更の前触れではないか、という警戒を招きにくくなります。
最後に今の手段を残せると伝えるのは、買い手からの依頼を断りにくい取引先に、無理をして形だけ承諾してもらう事態を避けるためです。
形だけの承諾では、アプリを入れても注文は電話で続き、記録が二重に増えるだけになります。
依頼の前に、取引先の担当者の人数、注文を受ける機器(事務所に共有のパソコンがあるか、スマートフォンで見るのか)、締め時間などの取引条件を聞いておけば、1番目の負担を具体的に書けます。
中小企業庁の解説も、取引先と共通認識を持ち、相談窓口の支援を受けながら進める流れを示しています1。
ただし、依頼の文面や交渉の手順まで示したものではありません。
この5項目と順序も、受け入れてもらえる割合を確かめたものではありません。
依頼文面の骨子
文面は、上の5項目をそれぞれ段落にすれば骨子になります。
方式②で最初の取引先に頼む場合の例です。
件名:発注方法の試行についてのご相談
いつもお世話になっております。
弊社では、発注の聞き間違いや書き漏れを減らすため、発注アプリの利用を検討しております。
貴社にはアプリのアカウントをお使いいただく形になりますが、利用料のご負担はありません(費用の有無は、検討中の製品の契約条件に合わせて記載)。
単価、締め時間、納品条件などの取引条件は変わりません。
まずは〇月から〇か月間、定期の注文に限って試させていただけないでしょうか。
操作や注文内容でお困りの際は、担当の〇〇(電話番号)までご連絡ください。
アプリでのお受け取りが難しい場合や急ぎの注文は、これまで通りFAX・お電話でお送りします。
ご都合が合わなければ、お断りいただいて差し支えありません。
文書を送って終わりにせず、普段やり取りしている担当者に一度口頭で趣旨を伝えておくと、文面だけでは伝わりにくい「断ってもよい」という部分も受け取ってもらいやすくなります。
試行の最初の数回は、アプリで送った直後に、届いたかどうかを電話で確かめると決めておく方法もあります。
取引先がアプリに慣れるまでの間に注文を見落とし、納品漏れになるのを防ぐためです。
確認の電話が要らなくなったら、その時点でやめれば済みます。

断られたときの並行運用の範囲と二重入力の防ぎ方
現行手段のまま残す範囲
依頼しても、応じられないという取引先は出てきます。
たとえば、担当者が一人で受注から出荷まで回している、事務所にパソコンを置いていない、すでに別の発注者の仕組みで手一杯、といった事情は、頼む側からは変えられません。
そうした取引先は無理に切り替えず、今の手段のまま残します。
そのとき決めるのは、その取引先への注文を自社のアプリにも記録するかどうかです。
アプリに記録すれば、方式①と同じように、送るのはFAXや電話のままで、自社の注文履歴だけを一か所にまとめられます。
入荷の確認や請求書との照合で、取引先によって台帳とアプリの両方を探す必要がなくなります。
反対に、注文が月に数回しかない取引先まで記録を広げると、入力の手間のほうが大きくなることもあります。
件数の多い先は記録し、少ない先は今の台帳のまま、と取引先ごとに分けてかまいません。
範囲は取引先単位だけでなく、注文の種類でも決めておきます。
アプリに応じてくれた取引先でも、当日の追加や数量の変更を急ぐときは、電話のほうが確実な場面があります。
「定期の注文はアプリ、急ぎの追加と変更は電話」と分けておけば、電話を禁止して現場が困ることも、なし崩しに電話へ戻ることも避けやすくなります。
取りこぼしを防ぐ運用ルール案
並行運用で起きやすいのは、同じ注文が2回記録されることと、どこにも記録されないことです。
たとえば、電話で追加を頼んだ担当者と、後でそれを知った別の担当者の両方がアプリに入力すれば、注文は重複します。
互いに相手が入れたと思えば、記録は残りません。
次のルールは、こうした転記の行き違いを減らすための例です。
効果を確かめた資料があるものではないので、自社の体制に合わせて調整してください。
入力担当を決める:今の手段で送った注文をアプリに記録するのは、その注文を送った人と決めます。
入力する人が一人に決まれば、重複や漏れがあったときに確かめる相手がはっきりします。
記録を一か所にまとめる:アプリで送った注文も、FAXや電話で送った注文も同じ注文一覧に載せ、送った手段を書き添えます。
入荷や請求書と突き合わせる場所が一つになり、手段ごとに別の控えを探す作業がなくなります。
締め時間後の扱いを決める:取引先の締め時間を過ぎてからアプリで送った注文を、翌営業日の受付とみなすのか、電話で一報を入れるのかを、取引先ごとに決めて伝えておきます。
画面では送信済みなのに、取引先は翌朝まで見ていない、という食い違いを減らせます。
月ごとに数える:今の手段で送った注文の件数と、重複や漏れが見つかった件数を月ごとに数えます。
この件数は、試行を広げるかどうかを判断する材料になります。
これらのルールは、担当者が決まっていて、今の手段で送った注文の件数を月ごとに数えられることが前提です。
ルールを置いても重複や漏れがなくなるとは限りません。
それでも、起きたときに、どの手段の転記で起きたのかを後から追えるようになります。
▼ 図の内容を文字で読む
- アプリで送る注文
- 送信した注文がそのまま注文一覧に残る
- 締め時間後の扱いは取引先ごとに決める
- FAX・メールで送る注文
- 送った人が注文一覧に記録する
- 送った手段を書き添える
- 電話で頼む急ぎの追加と変更
- 頼んだ人が注文一覧に記録する
- 元の注文と重なっていないか照らす
- 自社の注文一覧
- 入荷の確認と請求書の照合を一か所で行う
- 重複と漏れの件数を月ごとに数える
費用を抑える:小規模の定義と補助制度の見方
小規模企業者の人数基準
費用の話に入る前に、自社がどの区分に当たるかを押さえておくと、制度の資料を読み違えにくくなります。
中小企業基盤整備機構の定義では、小規模企業者は次の通りです3。
商業(卸売業・小売業)と、宿泊業・娯楽業を除くサービス業では、常時使用する従業員が5人以下です。
工業・鉱業・運送業、宿泊業・娯楽業に限るサービス業、その他では20人以下です。
同じ人数でも、業種によって区分が変わる点に注意が必要です。
たとえば常時使用する従業員が8人の事業者は、卸売業なら5人を超えるので小規模企業者の基準に当たりませんが、運送業なら20人以下に入ります。
数えるのは常時使用する従業員で、企業組合などには別の基準があります3。
補助制度では、制度ごとに対象の区分や数え方が定められています。
申請を考える場合は、その制度の公募要領に書かれた定義で判断します。
補助の電子取引類型で確認すること
発注アプリの費用に関わる制度として、2026年度のデジタル化・AI導入補助金インボイス枠(電子取引類型)があります。
対象は、インボイス制度に対応した受発注機能を持つITツールを、取引関係における発注側の事業者として導入する者です2。
受注側には、中小企業・小規模事業者等と受発注取引を行う事業者が想定され、大企業も含まれます2。
取引先へ注文を出す側が導入する、という向きの制度です。
補助率は、中小企業・小規模事業者等で2/3以内、その他の事業者で1/2以内です2。
補助額は下限なし〜350万円以下とされています2。
方式②で触れたとおり、対象ソフトには、受注側へアカウントを無償で発行できるクラウド型であるという要件があります2。
取引先に費用を求めない形が要件に組み込まれているので、方式②を考える場合と相性がよいといえます。
ただし、この要件はソフトの機能を定めたもので、すべての取引先に使ってもらうことまで求めた記載ではありません。
どの経費が補助の対象になるか、申請の期限や手続きの条件などは、その年度の公募要領で確かめる必要があります。
補助が使えるかどうか分かる前に導入の形を決めてしまうと、試行の計画が制度の時期に振り回されることがあります。
まず方式と最初の取引先を決め、そのうえで補助が使えれば費用を抑える、という順で考えます。
そうすれば、補助が使えなかった場合にも計画を立て直さずに済みます。
試行から本格展開へ進める判断基準
試行で記録する項目
試行は、試行先と期間を決めて行い、始める前に何を数えるかも決めておきます。
終わったあとに「なんとなく楽になった」「取引先が面倒そうだった」という印象しか残らないと、次の取引先へ広げるかどうかを判断できません。
数える項目は、最初に困っていたことに合わせて選びます。
・聞き間違い・書き漏れ・転記の誤りの件数:数量違いや品目違いに入荷後に気づいたもの
・受発注にかかる時間:注文を作ってから、取引先の受領を確かめるまで
・取引先からの問い合わせ件数:操作の質問と注文内容の確認を分けて数える
・今の手段に戻った注文の件数:アプリで送るはずの注文が電話やFAXになったもの
・重複と漏れの件数:並行運用のルールで月ごとに数えるもの
同じ項目を、試行前の同じ長さの期間についても数えておくと、比べる基準ができます。
試行前の数字がなければ、試行中の件数が多いのか少ないのかを判断できないからです。
受発注にかかる時間を測る考え方は、公的な実証でも使われています。
中小企業庁の解説によると、共通EDI標準を使った12の実証プロジェクトで、中小企業の受発注業務時間が平均51.4%削減されました1。
これは共通EDI標準の実証事業の結果で、特定のアプリやアプリ導入一般の効果ではありません。
自社の目標値にするのではなく、受発注の時間を工程ごとに測っておけば変化を比べられる、という手掛かりとして読むのが適切です。
広げる・止める基準
広げるかどうかの基準は、試行を始める前に、取引先にも説明できる形で決めておきます。
たとえば2か月の試行なら、終わった時点で次の点を確かめます。
具体的な件数の線引きは、試行前に数えた件数をもとに自社で決めます。
・取引先からの操作の質問が、試行の後半には落ち着いている
・聞き間違いや転記の誤りが、試行前より増えていない
・今の手段に戻った注文が、定期の注文の中で例外にとどまっている
・取引先の担当者が、続けてよいと言っている
これらがそろえば、次の取引先へ広げる段階です。
最初の節で次の候補とした頼みやすい先や、手順が固まってから頼む予定だった注文の多い先へ進み、方式もその取引先に合わせて選び直します。
1社目で作った依頼文面と運用ルールは、そのまま次の依頼の土台になります。
反対に、取引先からの問い合わせが減らない、今の手段に戻る注文が多い、といった場合は、広げる前に原因を確かめます。
操作が分かりにくいなら説明の仕方を、締め時間の扱いで食い違っているなら運用ルールを見直します。
取引先の体制にそもそも合わないなら、方式①への切り替えを検討します。
一部の取引先が今の手段のまま残っても、注文の記録が自社の一覧にまとまっていれば、自社内の転記を減らすという目的の一部は果たせます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 試行先と期間を決める
- 試行前の件数を数える
- 試行中に件数を記録する
- 基準に照らして判断する
- 広げる
- 説明や運用ルールを見直す
- 方式①に切り替える
- 次の取引先と方式を選ぶ
取引先ごとにどの方式を当てるかは、取引先の受注の仕組みや注文の件数で答えが変わるため、自社の中だけでは決めきれないことがあります。
取引先の一覧と注文の件数をもとに、最初の試行先の選び方、方式の当てはめ方、依頼で伝える負担の書き方を整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 最初の取引先 | 注文の量・頻度が多く、頼みやすく、注文内容が単純な先 |
| 方式の選び方 | 取引先に新しい操作を求めるかどうかで、①②③を取引先ごとに当てはめる |
| 取引先の費用 | 製品の契約条件と、取引先の受注システムの仕様で確かめる |
| 依頼の順序 | 負担→変わる点と変わらない点→開始時期と試行期間→窓口→今の手段を残せること |
| 断られた先 | 今の手段で送り、件数の多い先は自社の注文一覧にも記録する |
| 補助制度 | 電子取引類型は発注側の導入が対象。申請の可否と対象経費は公募要領で確認 |
| 広げる判断 | 試行前と同じ項目を数え、問い合わせ・誤り・今の手段に戻った注文の件数で判断 |

試行の範囲、広げる基準、並行運用のルールは、自社の体制と取引先の事情に合わせて決める必要があります。 試行で数える項目と、広げる・見直す基準の置き方を、自社の注文の流れに沿って確かめられます。
よくある質問
取引先がFAXしか使えない場合、アプリ導入は諦めるべきですか
諦める必要はありません。
取引先にはこれまで通りFAXで注文を送り、自社では注文をアプリで作って記録する方式①なら、取引先に新しい操作を求めずに始められます。
自社内の転記や記録の散らばりは減らせますが、取引先との確認のやり取りは今のまま残ります。
アプリからどの形の注文書をFAXやメールで出せるかは製品によって違うので、導入前に提供元へ確かめておきます。
発注アプリを入れたことを、取引先にいつ・どのように知らせればよいですか
方式②や方式③のように取引先の受け取り方が変わる場合は、開始前に普段の担当者へ口頭で趣旨を伝え、そのうえで文書で依頼します。
取引先が社内で担当や機器を準備する時間も必要なので、開始日の直前ではなく余裕をもって伝えるのが無難です。
伝える内容は、取引先の負担、変わる点と変わらない点、開始時期と試行期間、困ったときの窓口、今の手段を残せることの5つです。
方式①で受け取り方が変わらない場合も、届く注文書の書式が変わるなら一言伝えておきます。
見慣れない書式による確認の電話を減らせます。
取引先が複数の発注先アプリを求めてきた場合はどうしますか
取引先が複数の発注者からそれぞれ別のアプリを使うよう求められて負担になっているなら、その事情は断る理由として受け止めるのが基本です。
取引先がすでに使っている受注の仕組みがあるなら、仕様を聞いたうえで、自社の発注をそちらに合わせられないか検討する余地があります(方式③)。
中小企業庁の解説では、受注側が共通EDI標準に対応したプロバイダーや業務アプリを使えば、大きな費用はかからないとされています1。
合わせられない場合は、方式①で今の手段を残します。
補助金を使う場合、取引先に先に頼んでおくべきですか
申請の手続きで取引先の承諾が必要かどうかは、公募要領で確かめる必要があります。
そのうえで実務上は、申請の前に最初の取引先へ相談しておくほうが計画を立てやすくなります。
電子取引類型の対象ソフトは、受注側へ無償でアカウントを発行できるクラウド型であることが要件です2。
しかし、取引先が使ってくれなければ、取引先とのやり取りは画面に移せません。
取引先の意向を確かめてから製品と申請を考えれば、補助で入れたアプリが自社内の記録にしか使われない事態を避けやすくなります。
試行で取引先から問い合わせが増えたとき、どう対応しますか
操作に慣れるまでの間は、取引先からの問い合わせが増えることもあります。
窓口を一人に決め、問い合わせを「操作の質問」と「注文内容の確認」に分けて記録すると、どちらが減らないのかが見えてきます。
操作の質問が続くなら手順の説明を補い、注文内容の確認が続くなら、品目名や単位の書き方など注文の作り方を見直します。
試行期間の後半になっても減らない場合は、広げる前に方式や運用ルールを見直す判断材料になります。
アプリで送った注文と電話の注文が重なったときの確認方法は
まず注文一覧で、同じ取引先・同じ品目・近い納品日の注文が2件ないかを確かめます。
電話の注文が追加なのか、同じ注文の言い直しなのかは、記録だけでは分からないことがあります。
判断がつかなければ取引先に電話で確かめ、どちらを正とするか決めて、もう片方を取り消します。
重なりを減らすには、電話で頼んだ人が通話後に注文一覧へ記録し、その際に元の注文がないか確かめる手順を決めておきます。
見つかった重複は月ごとの件数に含めておくと、運用ルールを見直す材料になります。
- 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
- 2 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(デジタル化・AI導入補助金事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 インボイス枠(電子取引類型)」(2026年度)
- 3 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業・小規模企業者の定義」(2026年)