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納品書の導入で過去データはどこまで移す?小規模事業者の移行範囲と進め方

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 移行の重さは導入範囲で決まり、発行だけから始めれば、移すのはマスタと受注済み未出荷の取引が中心になる
  • 過去の納品書履歴は保存の必要と業務での利用を分けて考え、新しい仕組みへ移すのは業務で引く範囲に絞れる
  • 移さない履歴は、旧システムの解約後も日付・取引先・金額で探して提示できる形で残す
  • 並行運用は一部の取引先で行い、月次締めを2回またいで新旧の一致を確かめてから切り替える
  • 電子で授受した納品書は送った分も受け取った分もデータのまま保存し、検索要件が不要になる場合も保存義務は残る

Close-up of professionals reviewing documents during a business meeting in an office setting.
▽ 写真の出典元

納品書が手作業で回らなくなったとき、最初に決める導入の範囲

取引先が増え、納品書の発行や照合が手作業で追いつかなくなることがあります。
それでも「過去の分まで全部移すのか」と考えた途端に、導入の話が止まりがちです。
移行の重さは導入の範囲で決まり、すべてを一度に移す必要はありません。
まず、発行だけで始めるか、受け取った納品書の照合まで広げるかを決めます。
移すのは取引先・商品のマスタと進行中の取引を優先し、過去の履歴は業務で引く範囲に絞ります。
移さない履歴は、旧環境で検索・提示できる形に残します。
一部の取引先で並行運用してから切り替え、電子で授受した納品書は切替後もデータのまま保存します。

発行だけ始める場合に要るデータ

導入範囲を最初に決めるのは、範囲によって、新しい仕組みに入れないと動かないデータが変わるからです。
得意先へ納品書を作って渡す側が、まず発行だけを新しい仕組みに移す場合を考えます。
納品書を1枚作るには、宛先の取引先、品名や品番、数量、単価が要ります。
そのため最低限そろえるのは、取引先と商品・単価のマスタ(取引のたびに参照する基本の台帳)です。
これに加えて、切替日の時点で受注済みなのにまだ出荷していない取引も要ります。
切替後に出荷する分は新しい仕組みで納品書を作るので、その受注を移しておかないと発行できません。

一方、請求書の発行や売掛金の管理をこれまでの販売管理やExcelに残すなら、売掛の残高を移す必要はありません。
発行だけで始める案は、移すデータが少なく、切替の影響を受ける人も発行担当に限られるため、始めやすい選択肢です。
その代わり、新しい仕組みで作った納品書の内容を請求側へ転記する作業がしばらく残ります。
どこまでを今回の範囲にし、どの転記を当面は手で続けるかを決めると、移行の対象は自然に絞れます。

受領側の照合・仕入計上まで広げる場合

仕入先から届く納品書を受け取り、発注内容と照らして検収し、仕入計上へ回す業務まで含めると、必要なデータの種類が変わります。
照合の相手になる発注データと、仕入先・品目のマスタが加わります。
さらに、切替日の時点で納品済みなのにまだ検収していない分も対象になります。
未検収分を旧い方法で処理し切るのか、新しい仕組みへ持ち込むのかを決めないまま切り替えると、問題が起きやすくなります。
同じ納品書を両方で計上したり、どちらでも計上し漏れたりするおそれがあるためです。
仕入計上まで新しい仕組みで行うなら、買掛金の残高をどう持ち込むかも決めておく必要があります。

発行側と受領側では、扱う人も違います。
発行は営業事務や出荷担当、受領側の照合は購買や経理が担うことが多く、導入を決める人と日々操作する人が別になる場面も増えます。
受領側まで一度に広げると、関係する部署と移すデータが同時に増えます。
そのため、どちらか一方から始めて、もう一方を後から加える進め方も十分に成り立ちます。
なお、データでの授受に関する保存の義務は、受け取ったデータだけでなく送ったデータにもかかります1。
どちらの立場から始めても、電子で授受するなら保存の問題は避けられません。

受発注・請求との連携まで見据える場合

受注から出荷、納品書、請求までを一つの流れでつなぐ範囲まで広げると、移すデータは販売管理の移行に近くなります。
マスタと受注残に加えて、請求の締め条件、まだ請求していない納品分、入金を待っている売掛の残高が必要になります。
納品書の電子化だけを考えていたのに、請求と入金の管理まで巻き込む規模になるのはこの場面です。

最初からこの範囲で導入するかどうかは、いま一番困っている作業がどこかで判断できます。
納品書の作成と送付に手間がかかっているなら、発行から始めるのが近道です。
受け取った納品書と発注の突き合わせで漏れが出ているなら、受領側から始めれば困り事の解消に直接つながります。
請求への転記が大きな負担になっているなら、連携まで見据えて範囲を決める意味があります。
範囲ごとに必要なデータの違いを並べると、次のようになります。

「小規模」の意味は一つではない

小さく始めたい人の多くは、取引先の数、納品書の枚数、担当者の人数が少ないという意味で「小規模」と言っています。
移行の進め方を決めるうえでは、この一般的な意味で十分です。
件数が少なければ手入力で済むデータが増え、関係者が少なければ並行運用の調整も軽くなります。

一方、法令上の「小規模企業者」には別の定義があります。
中小企業基本法では、おおむね常時使用する従業員が20人以下(商業またはサービス業を主たる事業とする場合は5人以下)の事業者を指します3。
これは基本法上の目安で、共済などの個別の制度は、それぞれ別に対象を定めています。
制度の利用を調べるときだけ、制度ごとに自社が対象に当たるかを確かめる必要があります。
移行範囲の判断そのものは、この定義に左右されません。

導入範囲 必要なマスタ 切替日をまたぐ取引 開始残高 保存で気にするデータ
発行のみ 取引先・商品・単価 受注済み未出荷 請求を旧い方法に残すなら不要 送った納品書
受領側の照合・仕入計上まで 仕入先・品目・発注 納品済み未検収 仕入計上を新側へ移すなら買掛金の残高 受け取った納品書
受発注・請求との連携まで 取引先・商品・単価・締め条件 受注残・未請求 売掛金の残高 送った納品書と受け取った納品書

移すデータは3区分:マスタ・進行中の取引・過去の履歴

取引先・商品・単価マスタは名寄せしてから移す

範囲が決まったら、次は何から移すかです。
移行が重く感じられる大きな原因は、取引先や商品の台帳、いま動いている取引、何年分もの過去の納品書を、ひとまとめに「過去データ」と捉えていることです。
販売管理システムの移行の解説でも、対象をマスタ、仕掛かり中のデータ、過去実績の三つに分けて整理する方法が示されています4。
三つは性質も、移さなかったときの影響も違います。

最初に移すのはマスタです。
取引先・商品・単価がそろわなければ、新しい仕組みで納品書を1枚も作れません。
同じ解説は、マスタを稼働に欠かせないものとして最優先に置いています4。
移す前に、名寄せやクレンジング(重複や表記ゆれ、使われていない登録を整理すること)をするとしています4。
この解説は販売管理システム全般を対象にしたもので、納品書専用の仕組みに限った話ではありません。
ただ、納品書は取引先と商品の情報から組み立てられるので、同じ考え方が当てはまります。

たとえば、同じ得意先が3件に分かれて登録されている場合を考えます。
Excelの台帳では正式社名、別の担当者の控えでは略称、さらに支店名つきでも登録されている、という状態です。
そのまま移すと、新しい仕組みでも宛先の選び間違いが起き、取引先ごとの集計も3つに割れます。
単価も同じで、取引先別に決めた指定単価が台帳とは別の表で管理されていると、移行後に標準の単価で納品書が出てしまいます。
マスタの整理には手間がかかりますが、移す件数そのものは履歴より少なく、ここを整えるほど切替後の手直しが減ります。

未出荷・未請求・未検収の取引と開始残高の扱い

二つ目は、切替日をまたいで動いている取引です。
発行側なら受注済みで未出荷の分、請求まで範囲に含めるなら納品済みで未請求の分が当たります。
受領側なら、納品済みで未検収の分です。
件数は少なくても、扱いを決めないまま切り替えると二重の発行や計上漏れが起きやすい部分です。

考え方は二通りあります。
一つは、切替日より前に始まった取引は旧い方法で最後まで処理し、新しい仕組みでは切替日以降の取引だけを扱う方法です。
もう一つは、残っている取引を新しい仕組みへ登録し直し、以降はすべて新側で処理する方法です。
前者は移すデータが減りますが、しばらく新旧の両方を見る期間が続きます。
後者は管理の場所が一つにまとまる代わりに、登録し直す件数と、その内容が正しいかを確かめる手間がかかります。

売掛金を新しい仕組みで管理する場合は、もう一つ決めることがあります。
同じ解説は、売掛金の残高を確定させて開始残高として登録し、入金の消込は稼働日以降に新しい仕組みで始める方法を挙げています4。
過去の請求の明細を1件ずつ移すのではなく、切替日時点の取引先別の残高だけを持ち込む考え方なので、移す量を大きく減らせます。
ただし、移した直後に、旧い仕組みの残高と新しい仕組みの開始残高が一致しているかを取引先ごとに突き合わせておく必要があります。
三つ目の区分である過去の履歴は、扱いの判断がもう一段複雑なので、次の節で取り上げます。

困っている作業と、そこから始める導入範囲の対応(模式図)
発行の手間、受領側の突き合わせ漏れ、請求への転記の負担という三つの困り事と、それぞれから始める導入範囲を結んだ図
▼ 図の内容を文字で読む
  • 納品書の作成と送付に手間がかかっている
    • 発行から始める
  • 受け取った納品書と発注の突き合わせで漏れが出ている
    • 受領側の照合から始める
  • 請求への転記が大きな負担になっている
    • 受発注・請求との連携まで見据えて範囲を決める
移すデータの3区分と、それぞれに含まれるもの(模式図)
マスタ、進行中の取引、過去の履歴の3区分と、各区分に含まれるデータを並べた図
▼ 図の内容を文字で読む
  • マスタ
    • 取引先
    • 商品・単価
    • 名寄せしてから移す
  • 進行中の取引
    • 受注済みで未出荷
    • 納品済みで未請求
    • 納品済みで未検収
  • 過去の履歴
    • 業務で引く範囲を新しい仕組みへ
    • それ以外は旧環境で検索・提示できる形に残す

過去の納品書履歴は全件移すか、旧環境の保管で済ませるか

法人の保存期間7年の考え方

過去の納品書を全件移すべきか迷うとき、二つの目的が混ざっていることがよくあります。
一つは、法令で求められる期間、書類を保存しておくことです。
もう一つは、再発行や取引先からの問い合わせ、前年同月との比較など、日々の業務で過去の内容を引くことです。
この二つを分けると、移す範囲が決めやすくなります。

保存については、国税庁が次のように案内しています。
法人は帳簿と、取引に関して作成または受領した書類を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません2。
災害損失金額が生じた事業年度は10年間です2。
同じ案内で書類の例に挙がっているのは注文書・契約書・領収書で、納品書の名前はありません。
納品書が請求の裏づけや仕入計上の根拠として使われていれば、取引に関して作成・受領した書類として扱うのが自然です。
ただ、個々の取引でどう位置づけられるかは、取引の内容や顧問の税理士の見解で確かめる部分が残ります。

ここで押さえたいのは、保存の義務は「新しいシステムへ移すこと」を求めているわけではない点です。
旧いシステムやファイルの中に、必要な期間、必要なときに取り出して見せられる形で残っていれば、保存は成り立ちます。
7年分を新しい仕組みへ全件移すかどうかは、保存の問題ではなく、業務でどれだけ使うかの問題です。
なお、ここでの期間は法人の扱いです。
個人事業者の保存期間は別に定められているため、所轄の税務署や国税庁の案内で確かめる必要があります。

移す範囲を業務で引く期間に絞る

では、業務で引く範囲とはどのくらいでしょうか。
前の節で触れた販売管理の移行解説は、直近1〜2年分の月次集計を新しい仕組みへ移すことを提案しています4。
それより前は、旧システムからの書き出しや分析ツールで参照する形です4。
移さない分は、法定の保存期間を考慮してPDF化などで保管するよう勧めています4。
これは一事業者の提案で、公的な基準ではありません。
自社で何年分を移すかは、実際に過去の納品書をどんな場面で引いているかで決まります。

たとえば、得意先から「去年納めた分の納品書をもう一度送ってほしい」と頼まれることが年に何度かあるとします。
その範囲は、新しい仕組みですぐに出せる方が助かります。
一方、何年も前の納品書を開くのが税務調査のときぐらいなら、旧環境に残し、探せば出せる状態にしておけば足ります。
判断が分かれるのは、季節商品の前年比較や、長く取引のある得意先との単価の経緯をたどる場合です。
こうした用途は、明細を全件移さなくても、月ごとや取引先ごとの集計を移せば足りることがあります。
保存と業務利用、新しい仕組みと旧環境の関係を整理すると、次のようになります。

旧環境に残すときに気をつけたいのは、旧システムの解約や保守の終了です。
解約後に画面へ入れなくなると、残したつもりの履歴を取り出せなくなります。
解約の前に、日付・取引先・金額で探せる形でファイルに書き出しておきます。
置き場所を、担当が替わっても分かるようにしておくことも、旧環境に残す選択の前提です。

紙で渡した・受け取った納品書の扱い

これまで紙で発行して控えを綴じてきた納品書や、仕入先から紙で受け取った納品書は、電子で授受したデータとは扱いが分かれます。
電子取引データの保存義務は、データでやり取りしたものが対象で、紙での授受は対象外です1。
新しい仕組みを入れたからといって、紙の控えを電子化しなければならないわけではありません。
これまでどおり紙で保存期間を満たす考え方が取れます。

紙の納品書をスキャンして電子で保存し、紙を処分したい場合は事情が変わります。
スキャナ保存という別の制度の要件が求められるとされています。
紙を捨てる前提で電子化するなら、国税庁の電子帳簿保存法の案内で要件を確かめてから進める方が安全です。
移行の作業として過去の紙の控えまでスキャンするかは、保存のためというより、検索して業務で使いたいかどうかで判断できます。

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小規模での試行から切替まで:取込方式の選び方と並行運用

件数と更新頻度で選ぶ取込方式

移す対象が絞れたら、それをどう新しい仕組みへ入れるかを決めます。
方法は大きく三つです。
画面から手で入力する方法、旧い環境から書き出したファイルを取り込む方法、旧い環境と直接つないで受け渡す方法があります。
どれが適しているかは製品ごとの対応形式でも変わるため、一概には言えません。
判断の手がかりは、データの件数、変更される頻度、旧い環境がデータを書き出せるかどうかの三つです。

取引先や商品が少なく、一覧を目で追える程度の件数なら、手入力でも作業は終わります。
入力しながら名寄せや表記の統一を同時に進められるので、前の節で触れたマスタの整理と相性がよい方法です。
件数が多くなると、手入力では打ち間違いを見つけにくくなります。
表計算ソフトで整えたうえでファイルを取り込む方が確実です。
単価の改定が多い、取引先の追加が頻繁にある、といった場合は、切替後も旧い環境側でデータが更新され続けます。
一度移して終わりにならないため、繰り返し取り込める方法や連携が候補に挙がります。

旧い環境がデータを書き出せない場合もあります。
たとえば、長年使ってきたExcelの帳票が、納品書1枚ごとにシートを分けて作られているような場合です。
このときは過去の明細を機械的に移すのが難しいため、移す範囲をマスタと進行中の取引に絞ります。
履歴は前の節で見たように旧環境に残す方向で考えると、無理のない計画になります。

一部の取引先で並行運用する

データを移したら、いきなり全取引先を切り替えず、一部の取引先で新旧を並べて動かします。
選ぶのは、取引の件数がある程度あり、納品書の形式や締め日が自社の標準に近い取引先です。
特殊な単価や独自の様式を求める取引先から始めると、標準的な運用の確認より例外の調整に時間を取られます。

並行運用の間は、同じ納品について、旧い方法と新しい仕組みの両方で納品書を作ります。
得意先へ実際に渡すのはどちらか一方に決め、もう一方は社内の照合用に使います。
担当者の作業は一時的に二重になります。
その代わり、この期間に新旧の出力を突き合わせることで、マスタの登録漏れや単価の設定違いが得意先の目に触れる前に見つかります。
受領側の照合から始めた場合も同じです。
届いた納品書を旧い方法で検収しつつ新しい仕組みでも照合し、結果が一致するかを見ます。

月次締めを2回またぐ確認と切替の判断

並行運用をいつまで続けるかは、期間の長さより、締めを何回経験したかで考えると判断しやすくなります。
販売管理の移行解説は、月次の締めを2回またぐことを並行稼働の安全ラインとしています4。
1回目で差異を洗い出して修正し、2回目で一致を確認するという考え方です。
これも一事業者の提案ですが、納品書の場合にも理由がたどれます。

納品書は日々発行されますが、その内容が請求額や仕入額として集計され、ずれが表に出るのは締めのときです。
1回目の締めでは、新旧の合計が合わない取引先が見つかります。
原因をたどると、たとえば値引きの扱い、端数処理の設定、取引先別の単価の登録漏れといった違いに行き着きます。
それを直したうえで2回目の締めを迎え、今度は一致するかを見ます。
修正が本当に効いたかは、もう一度締めを通さないと分からないため、1回だけでは切替の判断材料として足りません。

月末締めが月に1回なら、2回の締めにはおよそ2か月かかります。
月に複数回締める取引先なら、もっと短く済みます。
2回目でも差異が残る場合は、もう1回締めを重ねる方が負担は小さくなります。
切り替えた後で、得意先との間の金額の食い違いを解消するより手間がかからないためです。
一致が確認できた取引先から順に旧い方法をやめ、対象を広げていきます。

過去の納品書:移す範囲・旧環境に残す範囲・保存の条件の比較(模式図。月次集計の例は一事業者の提案)
新しい仕組みへ移す範囲、旧環境に残す範囲、法人の保存の条件の三つを比べ、保存は旧環境でも成り立つことを示した図
▼ 図の内容を文字で読む
  • 新しい仕組みへ移す範囲
    • 再発行や問い合わせで引く期間の明細
    • 直近1〜2年分の月次集計(一事業者の提案)
  • 旧環境に残す範囲
    • それより前は書き出しやPDF化で保管
    • 解約前に日付・取引先・金額で探せる形に書き出す
  • 法人の保存の条件
    • 確定申告書の提出期限の翌日から7年間
    • 旧環境でも、必要なときに取り出して見せられる形なら成り立つ

切替後に守る条件:電子で授受した納品書の保存

メール・Webで授受した納品書は電子取引にあたる

切替が進むと、取引先とのやり取りも変わってきます。
紙で郵送していた納品書をPDFにしてメールで送る、取引先のWebサイトやシステムで納品書を受け取る、といった授受が増えるほど、保存の扱いが変わります。
財務省は、請求書などをデータでやり取りした場合、プリントアウトしたものだけを保存することは認められないと説明しています1。
電子取引データそのものを、一定の要件で保存する必要があります1。
納品書についての個別の記載はありませんが、データで授受した取引の情報として同じ枠組みで考えるのが基本です。

この点は、移行の計画で見落としやすい部分です。
たとえば、これまで紙で受け取っていた仕入先が、新しい仕組みに合わせてPDFのメール送付へ切り替えたとします。
受け取った側が印刷して従来どおり綴じるだけでは、保存として足りません。
受け取ったPDFを、日付や取引先が分かる形でデータのまま残す運用が必要です。
電子取引データの保存は、申告所得税または法人税の帳簿書類の保存義務がある人すべてが対応するものとされています1。
法人か個人事業者かを問わず、小規模な事業者も対象です。

送ったデータも保存対象

発行側から導入を始めた場合に意識しておきたいのは、送った側の保存です。
電子取引データの保存は、受け取ったデータだけでなく、送ったデータも対象になります1。
新しい仕組みで作った納品書をPDFでメール送付するなら、送ったファイルそのものを残しておく必要があります。

迷いやすいのは、新しい仕組みの中に納品書のデータが残っていれば足りるのか、という点です。
画面で過去の納品書を表示できても、それが実際に送ったファイルと同じ内容なのか、後から修正された内容なのかが区別できなければ、送った記録として扱いにくくなります。
保存の仕組みは製品ごとに異なります。
導入する仕組みが送付したファイルをどう記録するのか、旧システムを解約したときにどう取り出せるのかは、選定の段階で提供元に確かめておく事柄です。
取引先ごとに授受の方法が混在する場合の扱いを並べると、次のようになります。

売上5,000万円以下で不要になる検索要件と、残る条件

小さな事業者の負担を軽くする措置もあります。
基準期間(2課税年度前)の売上高が5,000万円以下の保存義務者は、税務調査などでデータのダウンロードの求めに応じられる場合、検索要件を満たす必要がなくなります1。
検索要件とは、保存したデータを条件を指定して探し出せるようにしておく要件のことです。

ただし、この措置で不要になるのは検索の要件だけです。
電子取引データを保存する義務自体は残り、真実性の要件など、その他の保存要件も引き続きかかります。
また、ダウンロードの求めに応じられることが条件です。
求められたときにデータを取り出して提示できなければ、この措置には頼れません。

保存要件にどうしても対応できない場合の猶予措置もあります。
ただし、所轄税務署長が、資金繰りや人手不足などの相当な理由があると認める場合に限られます1。
理由がないのにあえて要件に従わない場合は、適用を受けられません1。
移行の途中で保存の仕組みが整っていないからといって、印刷だけで済ませてよいことにはならない、と理解しておくのが安全です。

細かな要件や最新の取り扱いは、国税庁が電子帳簿保存法の一問一答で詳しく案内しています2。
ここで紹介した内容は、令和6年1月から施行された制度に基づいています。
運用を固める段階で、最新の案内に当たっておくと安心です。
移行計画では、どの取引先とどの方法で授受するかを決める時点で、保存の置き場所と取り出し方まで一緒に決めておきます。
そうしておけば、切替後に慌てずに済みます。

授受の方法 保存の扱い 切替で気をつけること
紙で渡す・受け取る 紙のまま保存できる(電子取引データ保存の対象外) スキャンして紙を処分するなら別の要件
PDFをメールで送る・受け取る データのまま保存(印刷のみは不可) 送ったファイルも残す
取引先のWebサイトやシステムで授受 データのまま保存(印刷のみは不可) 旧システムの解約後も取り出せるか
締めごとに差異を直して一致を確かめる並行運用の繰り返し(締め2回は一事業者の提案)
新旧の両方で納品書を作り、締めで突き合わせ、差異の原因をたどり、設定を直して次の締めへ戻る四つの段が一巡する図
▼ 図の内容を文字で読む
  1. 新旧の両方で納品書を作る
  2. 締めで新旧の合計を突き合わせる
  3. 差異の原因をたどる
  4. マスタや設定を直して次の締めを迎える

移す範囲は、取引先ごとの授受の方法や締め条件、旧い環境が書き出せるデータの形で変わります。そのため、社内の情報だけでは線を引きにくいことがあります。

企業間の受発注と納品書の運用を前提に、自社の範囲ならどのデータを先に移し、どれを旧環境に残せそうかを整理する観点を確かめられます。無料相談で要件を整理する

要点の整理

軸 基準
導入範囲 いま一番困っている作業(発行・照合・請求への転記)から決める
最初に移すデータ 取引先・商品・単価のマスタを、名寄せしてから移す
進行中の取引 旧い方法で処理し切るか、新側へ登録し直すかを先に決める
過去の履歴 保存は旧環境でも成り立つ。新しい仕組みへ移すのは業務で引く範囲
並行運用 一部の取引先で、締めを2回またいで新旧の一致を確かめる
電子で授受した納品書 送った分も受け取った分もデータのまま保存。売上5,000万円以下でも保存義務は残る
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並行運用で見つかる差異や、授受の方法が混在する取引先の保存の扱いは、切替の直前になって判断を迫られることが少なくありません。 切替の前に、試行する取引先の選び方や、締めを通した突き合わせの進め方を、自社の取引の流れに当てはめて確かめられます。

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よくある質問

紙で受け取った納品書をスキャンして保管する場合、電子取引データ保存の対象になりますか。

対象になりません。
電子取引データの保存はデータで授受したものが対象で、紙で受け取った納品書は含まれません1。
紙の原本は紙のまま保存できます。
スキャンしたうえで紙を処分したい場合は、スキャナ保存という別の制度の要件が求められるとされています。
要件の詳細は、国税庁の電子帳簿保存法の案内で確かめてから進めるのが安全です。

旧システムを解約した後、移さなかった納品書履歴はどう保管すればよいですか。

解約の前に、日付・取引先・金額で探せる形でファイルに書き出し、保存期間が終わるまで置き場所を決めて残します。
法人の場合、帳簿と取引に関して作成・受領した書類の保存期間は、確定申告書の提出期限の翌日から原則7年です2。
税務調査や取引先からの再発行の求めがあったときに取り出して提示できれば、新しい仕組みへ全件移していなくても保存は成り立ちます。
電子で授受した納品書は、書き出した後もデータのまま保存します1。

取引先ごとに納品書の授受方法(紙・PDF・システム経由)が混在するとき、保存方法はどう分ければよいですか。

授受の方法ごとに分けて考えます。
紙で授受した分は紙のまま保存できます。
PDFのメール送付や取引先のシステム経由で授受した分は、印刷だけでは足りず、データのまま保存する必要があります1。
取引先マスタに授受の方法を記録しておくと、どの納品書をどこに保存するかを担当者が迷いにくくなります。
同じ取引先でも途中で方法が変わることがあるので、切り替えた時期も残しておくと後から追えます。

発行側から始めた場合、受領側の検収・仕入計上との整合は後から整えられますか。

後から整えることはできます。
発行と受領では関係する部署も移すデータも違うため、一方から始めて、もう一方を後から加える進め方は成り立ちます。
受領側を加える時点では、仕入先・品目のマスタ、照合に使う発注データ、その時点で未検収の納品分の扱いを、改めて決める必要があります。
仕入計上まで新しい仕組みで行うなら、買掛金の残高の持ち込み方も決めておきます。

売上高5,000万円以下で検索要件が不要でも、取引先別・日付別のフォルダ整理は必要ですか。

検索要件が不要になるのは、ダウンロードの求めに応じられる場合です1。
フォルダ整理を義務とは言えませんが、求められたときに該当のデータを速やかに取り出せる状態にしておくことは、この措置を使う前提になります。
取引先別・日付別にフォルダを分けておくのは、その準備として実務上役に立つ工夫です。
保存の義務自体と、真実性などその他の保存要件は残ります。

個人事業者の場合、保存期間や電子保存の扱いは法人と同じですか。

電子取引データの保存は、申告所得税または法人税の帳簿書類の保存義務がある人すべてが対象なので、個人事業者も対象です1。
一方、この記事で紹介した7年の保存期間は法人の扱いです2。
個人事業者の保存期間は別に定められているため、所轄の税務署や国税庁の案内で確かめてください。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

> プロフィールの詳細を見る

  1. 1 出典:財務省「令和6年1月スタート 令和5年度の税制改正により見直された電子帳簿等保存制度の内容と中小企業の対応策」(2024年)
  2. 2 出典:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間(法人税)」(2026年)
  3. 3 出典:e-Gov法令検索「中小企業基本法 第2条」(2026年)
  4. 4 出典:株式会社ripla「販売管理システムのデータ移行を成功させる5ステップ」(2026年)

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  1. Close-up of professionals reviewing documents during a business meeting in an office setting./Photo by Mikhail Nilov on Pexels
  2. Colleagues discussing data and strategy in an office meeting./Photo by fauxels on Pexels
  3. A group engaged in a business meeting analyzing charts on laptops and papers./Photo by Kindel Media on Pexels

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◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

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