◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- BtoB ECの送料設定は、配送の原価・確定タイミング・請求方法をルール化する設計作業です。
- 2026年に施行・指定が進む制度が、送料表の作り方そのものに関わってきます。
- 例外を増やしすぎない設計原則が、運用を破綻させないための分かれ目になります。
BtoB ECの送料設定とは
BtoB ECの送料設定とは、配送にかかる原価と請求方法を、取引先ごとの商習慣に合わせて注文画面上のルールへ落とし込む設計です。全国一律の送料表を1枚作れば済む話ではなく、確定タイミングと例外の持ち方まで含めて設計する必要があります。
対象となる取引の規模は小さくありません。経済産業省の令和6年度調査によれば、2024年の日本国内のBtoB-EC市場規模は514兆4,069億円、「その他」を除いたEC化率は43.1%に達しています*6。伝票と電話で積み上げてきた送料の約束を画面上のルールへ移す作業は、この規模の取引を支える基盤の一部にあたります。
送料設定で決める3つのこと
送料の設計で最初に決めるべき論点は3つです。第一に配送費用がいくらかかるか、第二にその金額をいつ確定させるか、第三に費用を自社と取引先のどちらが負担するかです。
この3つが曖昧なまま画面の項目だけを作ると、受注後に金額の食い違いが発生します。伝票で調整してきた運用をECへ載せ替える段では、まずこの3点を言語化することが出発点になります。
BtoC通販との決定的な違い
特定商取引法第11条第1号は、通信販売の広告に「商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)」の表示を求めています*1。BtoCの通販サイトで送料の表記が目立つのは、この規定に基づいています。
一方で同法第26条第1項第1号は、申込者または購入者が「営業のために若しくは営業として締結するもの」に係る販売について、この表示義務を含む前三節の規定を適用しないと定めています*1。BtoB取引はこの適用除外に該当し得るため、特商法上の送料表示義務は原則として課されません。ただし該当性は取引の実態から総合的に判断される点に注意が必要です*2。
義務がなくても送料を明示する理由
特商法上の義務が無いとしても、送料を明示しない設計を勧める理由はありません。受注後に送料が変わると、発注側の承認・照合の手戻りが発生するためです。
取引先の経理・購買部門は、見積と請求の金額が一致することを前提に処理を進めます。金額変更は差し戻しの原因になりやすく、受注ミスの削減という観点でも明示は有効です。
送料の型を選ぶ
4つの型を比較する
BtoB ECの送料設定は、大きく4つの型に整理できます。全国一律型・地域別型・重量容積別型・個数ケース別型で、それぞれ設定の手間と見積精度、取引先への説明しやすさ、改定の重さが異なります。
| 型 | 設定の手間 | 見積精度 | 説明しやすさ | 改定の重さ |
|---|---|---|---|---|
| 全国一律型 | 低い。テーブル1本で運用できる。 | 粗い。遠方・重量物で原価割れしやすい。 | 高い。取引先への説明が1文で済む。 | 軽い。金額を1か所変えれば反映される。 |
| 地域別型 | 中程度。都道府県または配送エリア単位で設定する。 | 中程度。地域間の実費差はある程度反映できる。 | 中程度。エリア表の提示で説明できる。 | 中程度。エリア区分ごとの見直しが要る。 |
| 重量容積別型 | 高い。重量・容積の刻み幅を決める必要がある。 | 高い。実運賃との差が小さい。 | 低い。取引先ごとに個別説明が要る場面が出る。 | 重い。運賃改定のたびに刻み幅を洗い直す。 |
| 個数・ケース別型 | 中程度。梱包単位が定まっている商材に向く。 | 中程度。梱包が不揃いだと精度が落ちる。 | 高い。数量と金額の対応が直感的である。 | 軽い〜中程度。単価の見直しで対応できる。 |
注文時に確定させる型と、出荷後に確定させる型
重量や容積が積んでみないと分からない商材では、注文時点で送料を確定できません。この場合は出荷後に確定し、後日請求する運用になります。
後日請求は運用の自由度が高い一方、確定額と見積額の照合コストが発生します。取引先の検収・支払フローに合わせて、どこまで先に確定させるかを決めておくことが実務上の分かれ目です。
送料無料ラインと数量割引の適用順序
送料無料ラインと数量割引を両方置く場合、閾値の前後で総額が逆転しないかを検算する必要があります。数量割引で単価が下がった結果、送料無料ラインに届かなくなるケースが典型例です。
設計時には、単価の階段と送料の閾値を同じ表で突き合わせ、逆転が起きる金額帯が無いかを確認します。この突き合わせを自社の商品構成と取引条件で行うには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
取引先別の特別送料をどこまで持つか
取引先ごとに異なる送料の約束は、BtoB特有の商習慣です。ここで陥りやすいのは、地域・重量・取引先という複数の軸を同時に掛け合わせ、例外を増やし続けてしまうことです。
実務では、例外を持つ軸を1つに絞るという原則が有効です。取引先別に一定額以上を無料にする、あるいは地域別に一律を敷くといった単一の軸に統一すると、後任者でも保守できる状態を保てます。
配送設定が関わる制度
取適法「特定運送委託」の対象追加
2026年1月1日、中小受託取引適正化法(下請法の後継として物品の運送委託などを対象に加えた法律)が施行されます*3。この改正で、特定運送委託が対象取引に追加されました。
特定運送委託の類型1は「事業者が業として行う販売の目的物たる物品の、当該販売における取引の相手方に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」と定義され、該当例として「家具小売業者が、販売した家具を顧客に引き渡す場合に、その家具の運送を運送事業者に委託すること」が挙げられています*3。BtoB ECで受注した商品を運送事業者に運ばせる行為は、この定義に近い形と言えます。
適用は委託事業者・中小受託事業者それぞれの資本金(3億円超等)と従業員数(300人超等)の基準を満たすかどうかで決まります*3。自社が該当するかは個別の取引条件によって変わるため、当てはめは資料原文と照らして確認する必要があります。該当する場合、発注内容等の明示義務や買いたたきの禁止などが及びます*3。
物流効率化法の努力義務と特定事業者指定
物流効率化法は、すべての荷主・物流事業者に対する努力義務を2025年度から先行して課しています*4。取組内容は「積載効率の向上等」「荷待ち時間の短縮」「荷役等時間の短縮」の3項目です*4。
2026年度からは、一定規模の荷主に対する特定事業者の指定が始まります*4。指定基準は特定荷主・特定連鎖化事業者で取扱貨物の重量9万トン以上、特定貨物自動車運送事業者等で保有車両台数150台以上、特定倉庫業者で貨物の保管量70万トン以上とされています*4。EC側の受注締め時間・出荷ロット・納品日指定・まとめ出荷といった設定は、この努力義務を実現するための具体的な手段になります(締め時間そのものの設計は別稿で扱います)。
標準的な運賃の改定と原価の読み方
標準的な運賃(国が示す目安運賃)は令和6年3月22日に告示され、運賃水準が8%引き上げられました*5。あわせて、荷役の対価にあたる「積込料・取卸料」の新設や、運賃の10%を別に収受する「下請け手数料」の設定などが盛り込まれています*5。
待機や荷役にかかる時間の対価は、二段の単価で設定されています。国土交通省のQ&A集によれば、待機時間料は最初の2時間までと、積込料・取卸料の適用時間と合わせて2時間を超えた分とで単価が分かれ、小型車(2tクラス)では30分ごとに1,680円と2,010円が示されています*8。荷降ろし先で待たされる現場ほど、運送事業者側の請求根拠が明確になったと読めます。
送料表を作るときは、運賃が据え置きではなく段階的に上がっていく前提で設計することが、原価割れを避ける近道になります。
送料の請求と会計の整合
送料を売上に立てるか、実費で請求するか
送料をどう請求書に載せるかは、税務上の整理にも関わる論点です。消費税法基本通達10-1-1は、課税資産の譲渡等の対価の額について、当事者間で授受することとした対価の額をいうと定めています*7。この通達は送料の扱いを直接定めたものではなく、対価の考え方の一般的な根拠にとどまります*7。
売上に含めるか実費請求とするかで会計処理は変わり得るため、個別の判断は税理士など専門家への確認が欠かせません。本稿では制度の要件を原文どおりに示すにとどめ、当てはめの断定は避けます。
締め請求・支払サイトとの整合
送料の確定タイミングは、締め請求のサイクルとも関係します。出荷後に確定する型を選ぶ場合、締め日までに金額が確定していないと請求書の作成が遅れる原因になります。
支払サイトが短い取引先ほど、送料の確定を早める設計が求められます。締め請求の仕組み自体は別稿で扱うため、ここでは送料側の確定タイミングを合わせる必要がある点を押さえておきます。
請求書に送料を明細で出すか、合算するか
送料を商品代金と別行で明示するか、合算して1行にするかは、取引先の照合作業のしやすさに直結します。明細を分けると金額の内訳が追いやすくなる一方、請求書の行数が増えます。
取引先の経理担当が何を基準に照合しているかを確認したうえで、明細の粒度を決めることが手戻りを減らします。
送料設定の手順
送料設定は、以下の5ステップで進めると抜け漏れを防ぎやすくなります。順位の根拠は着手順序の依存関係です。前段が終わらないと次の判断ができない構成になっています。
送料設定を進める5つの手順/順位根拠:着手順序の依存関係
- 現行の送料の約束を棚卸しする。取引先別に交わしている例外条件をすべて洗い出します。
- 原価(実運賃)と請求額(取引先に請求する送料)を分けて把握する。両者の差が利益率に直結します。
- 型を選ぶ。全国一律・地域別・重量容積別・個数ケース別の4方式から、商材特性に合う型を決めます。
- 例外を登録する。持たせる軸を1つに絞り、件数の上限をあらかじめ決めておきます。
- 改定の運用を決める。見直しの時期・通知の方法・適用開始日をルール化しておきます*5。
よくある失敗と回避策
軸を掛け合わせて例外が増え、保守できなくなる
地域・重量・取引先という複数の軸を同時に掛け合わせると、例外の組み合わせは指数的に増えます。担当者の異動後に誰も条件の意味を説明できなくなり、値上げ改定のたびに手作業での洗い直しが発生します。
この作業を内製で完結させるには、料金設計の知識に加えて、既存の受発注データを突き合わせる工数が要ります。取引先数が多いほど、棚卸しだけで相応の時間を要する点は見込んでおく必要があります。
送料無料ラインと数量割引の閾値がぶつかる
2つの閾値を別々のチームが設計すると、境界付近で総額が逆転する組み合わせが生まれやすくなります。発覚するのは大抵、取引先からの問い合わせがきっかけです。
回避策は、単価表と送料表を同一のシートで管理し、境界の金額帯を定期的に検算することです。
実運賃の上昇が送料表に反映されず、出荷するほど原価割れする
標準的な運賃は令和6年3月22日の告示で運賃水準が8%引き上げられており、原価は据え置きで動かないものではありません*5。送料表を一度作って放置すると、運賃改定のたびに実費との差が広がります。
専門パートナーに料金設計を依頼した場合と内製する場合の違いは、この改定運用を仕組みとして組み込めるかどうかに表れます。内製では改定の検知自体が漏れやすく、外部に依頼する場合は運賃動向の確認を含めた運用設計を前提にできます。
運送委託の契約条件を見直さないまま、制度の要件から外れる
取適法の対象取引には特定運送委託が加わり、資本金・従業員数の基準を満たす場合は発注内容等の明示義務などが及びます*3。運送事業者との契約条件を旧来のまま据え置くと、明示義務など新しい要件を満たせない状態が続くおそれがあります。
自社が該当するかどうかは資本金・従業員数の基準と取引実態から個別に判断する必要があり、断定はできません。判断に迷う場合は、公取委・中小企業庁が公表するテキストの原文を確認したうえで、専門家に照会することが望まれます*3。
まとめ:送料設定の3つの判断軸
冒頭で挙げた3つの論点、すなわち配送費用がいくらかかるか、金額をいつ確定させるか、誰が負担するかは、型の選び方・制度の理解・改定運用という設計判断に落ちます。要点を3つに集約すると次のとおりです。
第一に、全国一律・地域別・重量容積別・個数ケース別の4方式から、設定の手間と見積精度のバランスで型を選びます。第二に、2026年に施行・指定が進む取適法と物流効率化法が、自社の出荷設定と無関係ではないことを押さえます*3*4。第三に、標準的な運賃の改定を前提に、送料表を作って終わりにせず改定運用まで設計に含めます*5。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
BtoB ECでも「特定商取引法に基づく表記」は必要ですか。
特商法第26条第1項第1号により、営業のために締結する取引は同法の表示義務を含む規定の適用除外とされます*1。ただし該当性は取引の実態から総合的に判断されるため*2、義務が無いことと実務上の表示要否は分けて検討することをおすすめします。
注文時に送料が確定しない商材でもECにできますか。
できます。重量・容積が積んでみないと分からない商材は、出荷後に金額を確定させ、後日請求する運用が現実的です。確定額と見積額の照合コストが発生する点は事前に見込んでおく必要があります。
送料無料ラインは設けるべきですか。
設けるかどうかは商材の利益率次第ですが、置く場合は数量割引の閾値との組み合わせで総額が逆転しないかを検算することが欠かせません。単価表と送料表を同一のシートで管理すると検算しやすくなります。
取引先ごとの送料は何件くらいまで持てますか。
件数の一般的な上限を示した公的な資料は確認できていません。実務上は、例外を持つ軸を1つに絞り、あらかじめ件数の上限を決めておくことが保守性を保つ判断基準になります。
自社のEC出荷は取適法の対象になりますか。
2026年1月1日施行の中小受託取引適正化法で、特定運送委託が対象取引に加わりました*3。該当は委託事業者・中小受託事業者の資本金・従業員数の基準を満たすかで決まるため、一律に「対象になる」とは言えず、資料原文と自社の取引条件を照らして確認する必要があります。
- *1 出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「特定商取引に関する法律」第11条第1号・第26条第1項第1号(法令本文)
- *2 出典:消費者庁「特定商取引法ガイド 訪問販売等の適用除外に関するQ&A」(適用除外に関するQ&A)
- *3 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月・PDF資料)
- *4 出典:国土交通省・経済産業省・農林水産省「物流効率化法」理解促進ポータルサイト(物流効率化法ポータル)
- *5 出典:国土交通省 報道発表「新たなトラックの標準的運賃を告示しました」(令和6年3月22日・報道発表資料)
- *6 出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表・調査結果概要)
- *7 出典:国税庁「消費税法基本通達 第10章第1節(10-1-1 譲渡等の対価の額)」(通達本文)
- *8 出典:国土交通省「標準的運賃の『全般』に関するQ&A(『標準的運賃』Q&A集)」Ⅴ 待機時間料 Q29・Ⅵ 積込料・取卸料(PDF資料)
画像の出典元
- BtoB EC 配送 送料 設定のイメージ/Photo by Rowan Freeman on Unsplash
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- BtoB EC 配送 送料 設定のイメージ/Photo by Lukas Blazek on Unsplash
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