◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 単価改定は「通知文をどう書くか」ではなく、決定・通知・協議・合意・EC反映・記録という6ステップの手続として進める必要があります。
- 2026年1月施行の取適法は「協議に応じない一方的な代金決定」を禁止しており、これには代金を据え置く場合も含まれます。
- EC上の価格表を書き換えるだけで契約上の単価が変わるとは限らず、民法の定型約款の変更規定が求める要件を満たす必要があります。
目次
BtoB ECの単価改定・値上げ通知とは、決定から記録までの6ステップの手続
BtoB ECの単価改定・値上げ通知とは、得意先ごとの販売単価を改める意思決定を、適用開始日までに相手方へ伝え、協議と記録を経て新単価をEC・受注・請求へ反映させる一連の手続です。2026年1月施行の取適法は、この決定過程で「協議に応じない一方的な代金決定」を禁止しています*1。
BtoCの価格変更と決定的に違う点があります。BtoCでは価格表の差し替えが完了すれば通常それで足りますが、BtoBでは得意先別単価が個別契約に紐づくため、価格表の書き換えだけでは請求条件が変わりません。契約当事者間の合意や周知の手続を別に踏む必要があります。
本記事で使う用語を先に整理します。単価改定とは、得意先へ提示する販売単価を変更することです。建値・仕切価格は、卸売業で用いられる得意先への提示価格の呼び方です。適用開始日は新単価を適用する日、効力発生時期は民法上の契約変更が効力を持つ日を指し、両者は同一の日に揃えて設計するのが基本です。価格転嫁は、コスト上昇分を販売価格に反映させることをいいます。定型約款は、不特定多数との取引で用いる契約条件のひな型で、EC利用規約もこれに当たり得ます。委託事業者・中小受託事業者は、取適法が定める発注側・受注側の呼称です*1。
本記事は「値上げを通知する側(売り手)」と「値上げを受ける側(買い手=委託事業者)」の両方を扱います。適用される法令が立場によって異なるため、各節でどちらの立場の論点かを明示します。
通知の前に決める4つのこと
通知文を書き始める前に、次の4点を確定しておく必要があります。順位は着手すべき順序に対応します。
通知前に決める4つのこと(順位根拠:着手順序)
- 改定範囲を決めます。全得意先一律か、得意先別か、品目単位かで、後述する取適法上の位置づけが変わります*1。
- 適用開始日を決めます。これは民法第548条の4第2項が定める「効力発生時期」に相当し得るため、締め日・支払サイトとの整合を先に確認します*6。
- 単価の正本をどこに置くか決めます。EC側と基幹システムのどちらで改定作業するかが、この判断で決まります。
- 通知経路を設計します。EC上のお知らせ・メール・書面・営業からの説明を使い分け、協議の申し入れを受け付ける窓口を通知に明記します。
この4点のうち、通知経路の設計がステップ③(協議)を成立させる前提になります。協議の申し入れ先を明記していない通知は、相手方が協議を求める手段を持たない状態を作ってしまうため、後述する法令上の論点に直結します。
単価改定の通知手順(6ステップ)
単価改定を適用しきるまでの手続は、次の6ステップに分解できます。各ステップで「誰が」「何を出力するか」を明確にすることが、後の協議・記録の局面で重要になります。
- 改定の決定:改定範囲・改定率または改定後単価・適用開始日・根拠となるコスト上昇の資料を確定します。
- 通知:記載項目(後述)を満たした通知文を、適用開始日から逆算したリードタイムを確保して送付します。
- 協議:相手方からの申し入れを受け付け、理由の説明と根拠資料を提示します*1。
- 合意または周知:個別合意を取るか、定型約款の変更として周知するかを選びます*6。
- EC・受注への反映:単価マスタとカート表示を新単価へ切り替えます。
- 請求と記録:改定後の単価で請求し、通知と協議の記録を保管します。
通知文に入れる記載項目は、この手続から逆算して次のように確定できます。
| 記載項目 | 内容 |
|---|---|
| 改定対象 | 得意先・品目の範囲を明記します。 |
| 改定後の単価または改定率 | 具体的な新単価、または改定率を示します。 |
| 適用開始日 | 効力発生時期に相当し得る日付を明記します*6。 |
| 改定の理由と根拠の所在 | コスト上昇の根拠資料をどこで確認できるかを示します。 |
| 協議の申し入れ先と受付期限 | 協議を求める窓口と、いつまでに申し入れるかを明記します。 |
| 既発行見積・受注済み分の取り扱い | 旧単価が残る取引の扱いを明示します。 |
| 問い合わせ窓口 | 通知内容全般の問い合わせ先を記載します。 |
理由と根拠に触れず改定後の額だけを提示する文面には注意が必要です。引下げの場面でこの書き方をすると、後述する取適法の類型(エ)に近づきます*1。「値上げ通知は3か月前が望ましい」といったリードタイムの目安は、一次情報で確認できていないため本記事では断定しません。代わりに、協議に応じられる期間を適用開始日の前に確保するという設計原則で考えるのが妥当です。
一斉通知は条件を満たせば違反にならない(取適法第5条第2項第4号)
ここまでの手順のうち、読者が最も不安を感じるのは協議と合意の部分だと考えられます。この節では一次情報だけで、その不安に答えます。
取適法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法です*1 *2。改正法は令和7年法律第41号として令和7年5月16日に成立し、同月23日に公布されました。主な改正内容は特定運送委託の対象取引への追加、従業員基準の追加、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止等で、施行期日は令和8年1月1日となっています*1。
対象取引に該当するかどうかは、取引の内容と資本金基準または従業員基準で決まります。委託事業者の基準は資本金3億円超、または常時使用する従業員300人超などです*1。この基準を満たさない取引には本法が適用されないため、「すべてのBtoB取引で一方的な代金決定が禁止された」とは言えません。
委託事業者の禁止事項は11項目あり、単価改定に直接関わるのは次の2つです*1。
| 禁止事項 | 概要 |
|---|---|
| 協議に応じない一方的な代金決定の禁止(第5条第2項第4号) | コスト上昇等が生じた場合に、価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じず、または必要な説明を行わずに一方的に代金を決定することです。 |
| 買いたたきの禁止(第5条第1項第5号) | 類似品等の価格や市価に比べて著しく低い代金を不当に定めることです。 |
本記事で最も強く伝えたいのは、この「決定」には代金を引き上げ、または引き下げることのほか、据え置くことも含まれるという点です*1。「値上げしないのだから協議は不要」という運用は、対象取引に該当する場合には成立しません。
「協議に応じない一方的な代金決定」に該当する類型として、次の4つが示されています*1。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| (ア) | 引上げの協議を求められたのに、拒否・無視・回答の引き延ばし等により協議に応じないこと。 |
| (イ) | 合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、それを協議に応じる条件とすること。 |
| (ウ) | 合理的な理由を示して引上げを求められたのに、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をせずに、申し入れ額の一部を拒む、または従前の額を提示すること。 |
| (エ) | 引下げを要請する場合に、説明を求められたのに具体的な理由の説明や根拠資料の提供をせずに引下げ後の額を提示すること。 |
一方で、一斉通知そのものが違反になるわけではありません。多数の中小受託事業者に類似の取引を委託する委託事業者が、個別協議を実施せず一律に、コスト上昇分に十分見合う引上げを決定し、申し入れ額を上回る額を定めた場合は、この禁止事項に該当しないとされています*1。BtoB ECの一斉改定が成立する条件は、まさにこの記載にあります。
協議を求められた側の説明にも限界があります。求められた事項が代金の額に関する協議との関連性を欠く場合、営業秘密の開示を求めるものである場合、説明が尽くされているのに同じ質問が反復される場合には、応じなくても「必要な説明若しくは情報の提供をせず」には当たりません*1。
EC上の価格表や利用規約の書き換えで単価改定が完了するかは、民法第548条の4(定型約款の変更)の要件次第です。第1項は、相手方の一般の利益に適合するとき、または契約をした目的に反せず、変更の必要性・変更後の内容の相当性・変更条項の有無および内容その他の事情に照らして合理的なときに変更を認めます。第2項は、効力発生時期を定め、変更する旨・変更後の内容・効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知することを求めます。第3項は、第1項第2号による変更は、効力発生時期の到来までに周知しなければ効力を生じないと定めます*6。値上げは通常「相手方の一般の利益に適合する」とは言えないため、第1項第2号の合理性が問われる場面が多くなります。得意先別単価が定型約款に当たるかどうかは事案ごとに異なるため、EC上のお知らせ掲載だけで足りると決めつけないことが重要です。
本記事は制度・公表資料の記述にとどめており、法的助言には踏み込みません。対象取引への該当性や個別事案の適法性は、公正取引委員会の資料および専門家への確認をお勧めします。
受注日基準か出荷日基準かを先に決めてEC単価を切り替える
ここからは、競合の解説記事があまり扱っていないEC固有の論点を整理します。手続がどれだけ整っていても、EC側の反映漏れがあれば実務は成立しません。
まず、適用開始日をまたぐ受注の単価をどちらで解決するかを決めます。受注日基準か出荷日基準かのいずれかを先に選び、通知文に明記しておく必要があります。基準を決めずに運用すると、得意先ごとに異なる単価が請求書に混在する事態を招きます。
カート投入済みで未確定の注文の扱いも整理が必要です。画面表示単価と受注確定単価がずれると、得意先からの問い合わせが増える原因になります。既発行の見積書についても、旧単価の有効期限をあらかじめ運用ルールとして定めておくことが望まれます。予約・先付け受注についても、どちらの単価が適用されるかを事前に決めておく必要があります。
階段価格・数量割引を導入している場合は、改定後の単価テーブルとの整合も確認します。最後に、改定対象の得意先×品目の組み合わせのうち、新単価が反映されていない箇所を適用開始日の前に洗い出す作業が欠かせません。反映漏れの検知を後回しにすると、適用開始日を過ぎてから旧単価での受注が発覚する事態につながります。
価格交渉の記録は発注者・受注者の双方が作成して保管する
労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針は、内閣官房と公正取引委員会が令和5年11月29日に策定し、令和8年1月1日に改正されました*3。同指針は発注者・受注者それぞれが採るべき行動を12の行動指針として取りまとめています*3。なお、この改正についての説明資料は令和7年12月26日に公表されており、改正日と公表日は異なる日付である点に注意が必要です*3-A。
同指針は、発注者・受注者共通の取組として、定期的にコミュニケーションをとる機会を設けることと、価格交渉の記録を作成して発注者と受注者の双方が保管することを挙げています*3。発注者に対しては、発注者側の経営層が関与すること、発注者から協議の場を設けること、説明や根拠資料を求める場合には公表資料に基づくものとすること、労務費の転嫁を求められたことを理由に取引を停止するなど不利益な取扱いをしないことなどを求めています*3。
記録の保管は、労務費転嫁指針だけの論点ではありません。電子帳簿保存法は、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引を「電子取引」と定義しています(法2条5号)*7。ここでの「取引情報」とは、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項を指します。国税庁の一問一答は、具体例として「インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引」を挙げています*7。BtoB ECを通じた単価改定の通知・受注のやり取りは、この具体例に当てはまります。
実務上は、改定通知をメールやEC上で授受した場合に、それが電子取引の取引情報に当たるかを確認し、保存範囲に含める運用が必要です。「誰にいつどの単価をどう通知し、どう協議したか」を後から取り出せる状態にしておくことが、対象取引に該当する場合の一方的な代金決定を疑われないための備えにもなります。
値上げが通らない原因は文面ではなく協議の手続にある(転嫁率54.2%)
制度の話だけでなく、実際の交渉状況を公表データで確認します。価格交渉促進月間は2021年9月に始まり、毎年9月と3月に設定されています。2026年3月は10回目の月間でした*4 *5。
中小企業庁が令和8年6月26日に公表した2026年3月フォローアップ調査は、2025年10月から2026年3月末までを対象期間としています*4。調査票の配布先は30万社、回答企業数は69,625社(回答から抽出される発注企業数は延べ91,233社)、回収率は23.2%でした。調査期間は2026年4月20日から6月3日までとされています*4。
この調査における価格転嫁率は「実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合」の回答の平均値で、「価格転嫁不要」の回答を除いた分布(n=72,037)から算出されています*4。コスト全般の転嫁率は54.2%で、前回の53.5%から上昇しました。コスト要素別では、原材料費55.7%、労務費50.0%、エネルギー費48.9%となっています。同調査は、労務費を原材料費と比較して約5ポイント低いと記述しています*4。原材料費・労務費・エネルギー費の3つは別々の調査ではなく、同一調査におけるコスト要素別の内訳です。
「価格交渉が行われた」割合は90.7%で、前回の89.4%からわずかに上昇しました(n=65,311)*4。交渉自体は浸透しつつあるものの、受注企業の意に反して交渉が行われなかった者が約1割残っています*4。この数字が示すのは、通知が「通らない」原因が文面の巧拙ではなく、協議の場を設け、根拠資料を提示できるかという手続の側にあるという点です。
まとめ:単価改定通知の3つの判断軸
本稿では、BtoB ECの単価改定・値上げ通知を、文面ではなく6ステップの手続として整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、通知文は手続の一部分にすぎず、決定・協議・合意・EC反映・記録まで一体で設計する必要があります。第二に、2026年1月施行の取適法は据置も含めた「協議に応じない一方的な代金決定」を禁止しており、対象取引に該当する場合はこの制約を踏まえる必要があります*1。第三に、EC上の価格表や規約の書き換えだけで契約上の単価が変わるとは限らず、民法第548条の4が求める合理性と周知の要件を満たす必要があります*6。
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よくある質問
全得意先へ一斉に単価改定を通知するだけで問題はないですか。
一斉通知そのものが違反になるわけではありません。多数の中小受託事業者に類似の取引を委託する委託事業者が、個別協議を実施せず一律に、コスト上昇分に十分見合う引上げを決定し、申し入れ額を上回る額を定めた場合は、取適法の禁止事項に該当しないとされています*1。ただし対象取引に該当し、協議の求めがあったのに応じない場合は問題になり得ます。
単価を据え置く場合も協議は必要ですか。
対象取引に該当する場合、必要になる場面があります。取適法上の「決定」には、代金を引き上げ、または引き下げることのほか、据え置くことも含まれます*1。「値上げしないのだから協議は不要」という前提は、この規定のもとでは成立しません。
EC上のお知らせに掲載すれば契約上の単価は変わりますか。
掲載だけでは変わらない場合があります。民法第548条の4は、変更の必要性・内容の相当性等に照らした合理性(第1項第2号)と、効力発生時期を定めた周知(第2項・第3項)を求めています*6。得意先別単価が定型約款に当たるかは事案ごとに異なるため、掲載のみで完了すると決めつけないことが大切です。
適用開始日をまたいだ注文はどちらの単価になりますか。
受注日基準と出荷日基準のどちらを採用するかを、事前に決めて通知文に明記する必要があります。基準を決めずに運用すると、画面表示単価と受注確定単価がずれ、得意先からの問い合わせが増える原因になります。
単価改定の通知メールは保存する必要がありますか。
保存が必要になる場合があります。電子帳簿保存法は、取引情報の授受を電磁的方式により行う取引を電子取引と定義し、注文書・見積書等に通常記載される事項を取引情報としています*7。メールやEC上での改定通知がこれに当たるかを確認し、保存範囲に含める運用が求められます。
- *1 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)
- *2 出典:公正取引委員会「取適法」(法令ポータルページ)
- *3 出典:内閣官房・公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日策定・改正令和8年1月1日)
- *3-A 出典:公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(掲載ページ)
- *4 出典:中小企業庁「価格交渉促進月間(2026年3月)フォローアップ調査結果」(令和8年6月26日)
- *5 出典:中小企業庁「価格交渉促進月間の実施とフォローアップ調査結果」(一覧ページ)
- *6 出典:e-Gov法令検索「民法(明治二十九年法律第八十九号)第548条の4」
- *7 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】問2」(令和8年7月)
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