◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 請求書の電子交付そのものに、取引先の同意を必須とする法律上の規定があるかを一次資料で確認します。
- 同意が必要だと誤解されやすい書面と請求書の違いを、2026年1月施行の取適法改正も含めて整理します。
- 電子交付に切り替えた後の保存要件と、BtoB ECサイトでの実装設計の要点を解説します。
目次
請求書の電子交付に同意は必須か-消費税法の規定
BtoB ECにおける請求書の電子交付そのものに、取引先の同意を交付の要件とする規定はありません。適格請求書は、交付に代えて記載事項に係る電磁的記録を相手方に提供できると消費税法に定められています*1*2。
BtoB ECにおける請求書の電子交付とは、紙の請求書を郵送・手渡しする代わりに、請求書の記載事項をPDF・EDI・デジタルインボイス等のデータとして相手方に提供する交付方法です。適格請求書発行事業者は、適格請求書の交付に代えて、記載事項に係る電磁的記録(電子的方式・磁気的方式その他人の知覚では認識できない方式で作られ、電子計算機による情報処理に用いられる記録)を相手方に提供できると消費税法第57条の4第5項に定められています*2。この条文には相手方の承諾を要件とする文言がありません*2。国税庁のQ&Aも同様に、適格請求書の交付に代えて電磁的記録を提供できると明記しています*1。
実務で合意を交わす理由は法令要件と別にある
法令上の要件でなくても、実務では取引先との合意を交わすケースが見られます。理由は主に3つです。第一に、取引先がデータを受け取れる環境かどうかの確認が必要になります。第二に、送付先のメールアドレスや担当者の特定が前提です。第三に、社内規程や監査対応として、切替の合意事実を記録に残しておく意義があります。
「同意が必要」という説明はどこから来るのか
「電子交付には同意が必要」という説明を見かける場合、その多くは請求書とは別の書面を指しています。発注書面や建設工事の請負契約書面には、電子的手段での提供に相手方の承諾を要件とする規定が残っているためです*6。請求書の交付要件と、発注書面・請負契約書面の交付要件を混同すると、実務判断を誤ります。次章以降で、書面ごとの根拠条文を切り分けて整理します。
2026年1月施行の取適法-発注書面の承諾不要化と応諾義務
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改正した取適法(中小受託取引適正化法)が施行されます*3。中小企業庁の改正ポイント説明会資料は、施行期日を「令和8年1月1日」と明記しています*3。
承諾の有無にかかわらず電磁的方法で提供できる
取適法の施行後は、発注時に交付すべき書面(必要的記載事項を定めた第4条書面)について、中小受託事業者の承諾の有無にかかわらず、電磁的方法により提供できるようになります*3。これは発注書面についての規定であり、請求書の交付要件を定めたものではありません。両者を同じ規定として説明する記事も見られるため、混同しないよう注意が必要です*3。
新設:書面交付を求められたら遅滞なく交付する義務
同じ資料は、書面の交付を求められたときは遅滞なく当該書面を交付しなければならないとする義務も新設されると説明しています*3。電子交付を基本にしつつ、取引先から書面を求められた場合の応諾義務が課される点は、発注元が運用上押さえておくべき事項です。
明示事項と取引記録の2年間保存
取適法第4条は発注時の明示事項を定め、第7条は取引記録の作成と2年間の保存を求めています*3。この2年間という期間は取適法の取引記録に関するものであり、後述する消費税法上の7年間の保存期間とは対象も期間も異なります。制度の内容と実務対応の範囲に絞って整理し、政策の評価には立ち入りません。
同意が要る書面と不要な書面の切り分け
ここまでの内容を、書面の種類ごとに一つの表へ整理します。自社が取引先とやり取りしている書面を洗い出す際の基準として使えます。
| 書面の種類 | 根拠条文 | 相手方の同意・承諾 | 書面交付請求への対応 | 保存義務 |
|---|---|---|---|---|
| 適格請求書等(請求書) | 消費税法第57条の4第5項*1*2 | 不要。承諾は交付の要件ではありません*2 | 個別の応諾義務規定はありません | 交付側は写しを7年間保存します*1 |
| 発注書面(取適法第4条書面) | 取適法(2026年1月1日施行)*3 | 不要。承諾の有無にかかわらず提供できます*3 | 求められたら遅滞なく交付する義務があります*3 | 取引記録を2年間保存します*3 |
| 建設工事の請負契約書面 | 建設業法第19条第3項*6 | 必要。相手方の承諾を得ることが要件です*6 | 個別法の規定に従って対応します | 個別法の規定に従って対応します |
インボイス制度における適格請求書の記載事項は、BtoB ECのインボイス制度対応を扱った別稿で詳しく解説しています。本記事は交付方法と同意の要否に範囲を絞って解説します。
自社の取引書面を棚卸しする
自社が取引先と交わしている書面を棚卸しする際は、以下の順に確認すると整理しやすくなります。
取引書面の棚卸しで確認する優先順4点/順位根拠:手順(実施順序)
- 書面の名称と現在の交付方法(紙・PDF・EDI等)を洗い出します。
- 根拠となる法令(消費税法・取適法・建設業法等)を書面ごとに特定します。
- その法令が相手方の同意・承諾を交付の要件としているかを確認します。
- 保存義務者(交付側・受領側)と保存期間を書面ごとに整理します。
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電子交付後の保存要件-7年間・2年間・出力書面の落とし穴
電子交付に切り替えた後は、交付側・受領側それぞれに保存義務が発生します。保存要件を誤ると、税務上の要件を満たせなくなるおそれがあります。
交付側は電磁的記録の写しを7年間保存する
提供した電磁的記録の写しは、提供した日の属する課税期間の末日の翌日から2月を経過した日から7年間、保存する必要があります*1。この7年間は消費税法に基づく交付側の保存期間であり、先述した取適法の取引記録2年間とは主語も根拠も異なります*1*3。混同すると保存期間を誤って設定してしまうため、書面ごとに保存の主語を分けて管理することが欠かせません。
受領側は電子取引データの保存義務を負う
受領側には、電子帳簿保存法に基づく電子取引データの保存義務があります*5。所得税・法人税の保存義務者は、電子取引した場合に取引情報の電磁的記録を保存しなければならないと同法第7条に定められています*5。税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じられるようにしており、かつ判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下である場合は、検索機能の確保の要件が全て不要になります*4。この売上高は電帳法施行規則が定める「売上高」であり、非課税売上額を含む一方で営業外収益を含まないため、消費税法上の課税売上高とは範囲が異なります*4。電帳法の保存要件の詳細は、BtoB ECの電子帳簿保存法対応を扱った別稿で解説しています。
出力書面のみの保存で完了したと誤解する落とし穴
受領した電磁的記録を整然とした形式かつ明瞭な状態で出力した書面として保存すれば、消費税法上の請求書等保存要件(消規15の5②)は満たせます*9。しかし法人税・所得税においては、電子帳簿保存法により電子データそのものの保存が必要です*4。出力書面のみの保存で対応を終えると、法人税・所得税の申告場面で保存要件を満たせず、追加対応が必要になるおそれがあります*4。宥恕措置は令和5年12月31日をもって終了しており、現行の猶予措置も電子データを保存し、かつ提示等ができることが前提とされています*4。「出力書面だけで足りる」という理解のまま社内規程を整備すると、電帳法の要件を満たせない状態になりかねません。
BtoB ECサイトでの請求書電子交付の実装設計
BtoB ECサイトで請求書を電子交付する場合、交付方法の選び方によって証跡の残り方が変わります。
交付方法の選択肢と証跡
交付方法には、サイトからのダウンロード、メール添付、EDI・API連携の3つが挙げられます。取引先への到達確認や保存の証跡の残し方は方法ごとに異なるため、自社の取引規模と締め請求の運用に合わせた選定が必要です。EDIとECの使い分けは、両者の違いを整理した別稿で扱っています。
サイトに掲載するだけで要件を満たすか
サイトに請求書PDFを掲載して閲覧させるだけの実装は、相手方が手元にデータとして保存できる設計になっているかを確認する必要があります。取適法の考え方でも、相手方が電磁的記録として受け取れる方法での提供が前提とされています*3。ダウンロード機能を備え、取引先が任意のタイミングで自社の環境に保存できる設計にすることが実務上の要点です*1。
デジタルインボイスを見据えたデータ項目設計
単発の電子化にとどめず、将来のデータ連携を見据える場合はデジタルインボイスの標準仕様も参照します。デジタル庁は、日本におけるPeppol(国際的な電子文書交換の標準規格)の管理主体であるJapan Peppol Authorityとして、標準仕様JP PINT(Peppol BIS Standard Invoice JP PINT)のVer.1.1.3を2026年6月8日に更新しています*8。請求書の記載項目を設計する段階から、この標準仕様のデータ項目を意識しておくと、将来の連携範囲を広げやすくなります。
電子交付へ切り替える実務5ステップ
電子交付への切替は、以下の5ステップで進めると実務上の抜け漏れを防げます。
ステップ1・2:棚卸しと受領環境の確認
まず対象となる書面を棚卸しし、次に取引先ごとの受領環境を確認します。取引先がメールを日常的に確認しているか、EDIでの連携に対応できるかによって、選ぶべき交付方法が変わります。
ステップ3:契約・規約への電子交付条項の反映
取引基本契約やサイトの利用規約に、電子交付する旨の条項を反映します。電子的な意思表示や約款への同意に関する解釈は、経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和7年2月12日改訂)が示しています*7。契約・規約の条項を見直す際は、この準則の考え方を確認しておくと整理しやすくなります*7。
ステップ4・5:締めサイクルに合わせた切替と例外運用
締め請求のサイクルに合わせて段階的に切り替え、紙の請求書を希望する取引先には例外運用を用意します。締めサイクルと請求書交付のタイミングは、締め請求・支払サイトのBtoB EC対応を扱った別稿で整理しています。
これらの5ステップを自社で設計するには、消費税法・取適法・電帳法それぞれの保存要件の理解に加えて、請求書発行システムとECサイトのデータ連携仕様を把握する必要があります。書面の棚卸しから契約条項の反映まで、法務・情報システム・経理の各担当が関わる工程であり、担当を分けたまま進めると条項の反映漏れが生じやすくなります。
よくある失敗と回避策
失敗1:同意書を回収しないと始められないと足を止める
「同意書を回収してからでないと電子交付を始められない」と足を止めてしまう例が見られます。これは請求書の交付要件と、発注書面・請負契約書面の交付要件の切り分けができていないために起こります。請求書について同意書の回収を交付の前提条件にする必要はありません*1*2。
失敗2:出力書面の保存で完了したつもりになる
前章で触れたとおり、出力書面の保存のみでは法人税・所得税における電帳法の保存要件を満たせません*4*9。仕入税額控除の要件は満たせても、別の税目で要件不足になるという食い違いを見落とさないようにする必要があります。
失敗3:改正前の解説を根拠に社内規程を作る
取適法は2026年1月1日に施行されるため、それ以前の解説記事や資料を根拠に社内規程を作ると、施行後の規定と食い違う内容になるおそれがあります*3。社内規程を整備する際は、施行日以後の一次資料を確認したうえで反映することが欠かせません。
まとめ-同意ではなく書面の切り分けと保存で判断する
本稿では、BtoB ECにおける請求書の電子交付と同意の要否を、一次情報に基づいて整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、請求書の電子交付そのものに、取引先の同意を交付の要件とする規定はありません*1*2。第二に、同意が必要になるのは発注書面や請負契約書面など請求書とは別の書面であり、2026年1月施行の取適法では発注書面がむしろ承諾不要へ改正されます*3*6。第三に、切替後の判断を左右するのは同意の有無ではなく、交付側・受領側それぞれの保存要件です*1*4*5。自社の取引書面を棚卸しし、書面ごとに根拠条文と保存要件を整理することが、電子交付を進めるための現実的な次の一歩になります。受発注システム全体の見直しを検討する場合は、比較・選び方を整理した別稿も参考になります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
請求書を電子交付するのに、取引先から同意書をもらう必要はありますか。
法律上の要件としては必要ありません。適格請求書は交付に代えて電磁的記録を提供できると定められており、相手方の承諾は要件とされていません*1*2。ただし受領環境の確認や社内の記録として、合意事実を残しておく実務上の意味はあります。
取引先が「紙で送ってほしい」と言った場合、応じる義務はありますか。
請求書と発注書面では扱いが異なります。請求書について紙での交付を義務づける規定は、消費税法第57条の4にも同法の国税庁Q&Aにも置かれていません*1*2。一方、取適法上の発注書面については、書面の交付を求められたときに遅滞なく交付する義務が新設されます*3。書面の種類を分けて対応方針を決めることが大切です。
メール添付とサイトからのダウンロードで、法令上の扱いに差はありますか。
いずれも電磁的記録の提供という位置づけになります*1*2。法令上の交付要件に差はありませんが、取引先が任意のタイミングで自社の環境に保存できる設計になっているかどうかが実務上の要点です。
受け取った請求書データを印刷して保存するだけでは足りませんか。
消費税法上の請求書等保存要件は、整然とした形式で出力した書面の保存でも満たせます*9。しかし法人税・所得税では電子帳簿保存法により電子データそのものの保存が必要になるため、出力書面のみでは要件を満たせません*4。両方の税目の要件を踏まえて保存方法を決める必要があります。
2026年1月の取適法施行で、既存の取引基本契約は巻き直しが必要ですか。
取適法では発注書面の承諾不要化や書面交付請求への応諾義務が新設されるため、既存の契約・規程の記載が現行の運用と整合しているかを確認する意義があります*3。ただし自社の契約内容に応じた判断が必要になるため、個別の契約実務への適用は所轄部門や専門家への確認をおすすめします。
- *1 出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂・問81・p.124) PDF
- *2 出典:e-Gov法令検索「消費税法第57条の4第5項」(令和8年4月1日施行版) 法令本文
- *3 出典:中小企業庁「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~ 改正ポイント説明会」(2025年10月14日公表) PDF
- *4 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月・問29・問48・問51・問79・問83) PDF
- *5 出典:e-Gov法令検索「電子帳簿保存法第7条」(令和7年4月1日施行版) 法令本文
- *6 出典:e-Gov法令検索「建設業法第19条第3項」 法令本文
- *7 出典:経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(令和7年2月12日改訂) PDF
- *8 出典:デジタル庁「デジタルインボイスの標準仕様 JP PINT」(Ver.1.1.3・2026年6月8日更新) デジタル庁公式サイト
- *9 出典:国税庁「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(令和8年5月改訂・問85・p.131) PDF
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