◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- モール出店者を取引先にすると、従来の小売取引先とは発注金額・発注頻度・商品情報の依存度が変わります。
- 取引開始前には、相手が事業者かどうかの確認や取引条件の開示ルールなど、法令に基づく前提の整理が欠かせません。
- 受注・商品情報・在庫の3領域で決めるべき項目を先に固めておくと、取引先が増えても業務量の増え方を抑えられます。
目次
通販モール出店者向けの卸とは何か
通販モール出店者向けの卸とは、楽天市場・Amazon.co.jp・Yahoo!ショッピングなどへ出店する事業者を取引先とする卸売取引であり、取引条件の開示規律を定める取引透明化法(令和2年法律第38号)が出店側の事業環境を規定しています*1。
取引先が実店舗中心の小売業である場合と比べると、前提は3点変わります。第一に、1回あたりの発注金額が小さく、発注の頻度が高くなりやすいことです。第二に、出品に使う商品情報を卸側が供給する必要があり、受注だけでなく情報提供まで設計の対象に入ります。
第三に、モールの販促日程へ需要が同期しやすいという違いもあります。これら3点を踏まえて受注・商品情報・在庫の仕組みを整えることが、本稿の主題です。
なお、仕入先を探しているモール出店者自身が本記事にたどり着くこともあります。本稿は卸として売る側の設計に焦点を当てているため、仕入先の選び方を知りたい方は別記事をご確認ください。
発注金額・頻度・商品情報の依存度で分かれる、小売取引先との違い
実店舗を中心とする従来の小売取引先と、モール出店者を取引先とする場合とでは、発注や情報提供の前提が変わります。次の表は、両者の違いを5つの観点で整理したものです。
| 観点 | 従来の小売取引先 | モール出店者 |
|---|---|---|
| 発注金額 | まとまった数量での発注が中心です。 | 1回あたりの発注金額が小さくなりやすい傾向があります。 |
| 発注頻度 | 定期的かつ計画的な発注が多くなります。 | モール上の受注に合わせて高頻度で発注が入ります。 |
| 商品情報の依存度 | 自社で撮影・編集した売り場情報を用いる場合があります。 | 出品用の画像・説明文・JANコードを卸側から受け取る前提になります。 |
| 需要の変動要因 | 季節や商圏の動向に沿って変動します。 | モールのセール日程や検索順位の変動が需要に影響します。 |
| 取引開始時の確認事項 | 与信や店舗の実在確認が中心です。 | 事業者であることの確認とモール規約の理解が加わります。 |
BtoB-ECの市場規模は514.4兆円・EC化率43.1%(2024年)
経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514.4兆円で、前年の465.2兆円から10.6%増えました*5。EC化率もBtoB-ECで43.1%となり、前年から3.1ポイント上がっています*5。同調査のBtoB-EC化率は、業種分類上「その他」以外とされた業種を算出対象とした値です*5。
同じ2024年のBtoC-EC市場規模は26.1兆円、EC化率は9.8%です*5。企業間取引の電子化が消費者向けより先行している状況は、卸側が受発注をECへ移す判断を後押しする材料になります。なお本調査は1998年度から毎年実施されており、検討する時点の最新版を確認してください*5。
取引開始前に確認すべき4つの前提条件
モール出店者との取引を始める前には、法令が定める開示・確認の仕組みを理解しておく必要があります。ここでは実施順序を意識して4つの前提を整理します。
取引開始前に確認する優先順4点/順位根拠:手順(実施順序)
- 相手が事業者であることを確認します。取引デジタルプラットフォーム消費者保護法は、プラットフォーム提供者に販売業者の特定情報の提供を求める努力義務を課しています*2。
- 取引条件がモールの規約でどう扱われるかを理解します。取引透明化法は、提供拒絶の判断基準や検索順位の主要事項をモール側が開示する仕組みを定めています*1。
- 取引先に免税事業者が混じる可能性を踏まえ、インボイス制度上の扱いを確認します。
- 販売価格の指定に関する独占禁止法上の制約を理解しておきます。
事業者確認は特定商取引法に基づく表示とモールの出店者情報で行う
モール出店者には、法人だけでなく個人事業主も含まれます。取引デジタルプラットフォーム消費者保護法第3条1項は、モール運営者に対し、必要に応じて所在情報など販売業者の特定に資する情報の提供を求める努力義務を課しています*2。この規律の存在自体が、モール運営者側でも身元確認を課題として扱っていることを示しています。
卸側の実務としては、出店者が公開している特定商取引法に基づく表示や、モール上の出店者情報を確認する手順を先に決めておくことが出発点です。
取引条件はモールの規約に左右される
取引透明化法第5条2項1号は、モール運営者が商品等提供利用者に開示すべき事項として、イからトまでの7項目を挙げています*1。提供を拒絶する場合の判断基準、抱き合わせ要請の内容と理由、検索順位を決定する主要な事項に加え、商品等提供データの取得・使用の条件、苦情の申出や協議の申入れの方法などが対象です*1。出店者側の取引条件は、これらの開示事項を通じて、モールの規約によってあらかじめ枠組みが与えられています。
卸側がこの前提を理解しておくと、出店者から提示される条件のどこまでが交渉可能かを見極めやすくなります。
取引先に免税事業者が混じり得る
個人事業主を中心とするモール出店者の中には、消費税の免税事業者に該当する取引先が含まれる場合があります。インボイス制度上の記載事項や経過措置の詳細な扱いは別記事で解説していますので、そちらをご確認ください。
販売価格の指定はできない
卸売事業者が取引先の販売価格を指定・拘束する行為は、独占禁止法上の再販売価格の拘束に該当し得ると整理されています。モールでの安売り対応や価格統制の可否を検討する場合は、独占禁止法の考え方を扱う別記事を参照してください。
受注の設計―少額・小ロット・高頻度をどう捌くか
モール出店者からの発注は、1件あたりの金額が小さく件数が多いという特徴があります。この特徴に合わせて、最低ロット・与信・需要スパイクへの備えを設計します。
最低ロット・最低受注金額・送料負担は処理原価から決める
最低ロットや最低受注金額を検討する際は、具体的な金額の相場をあてはめるのではなく、1件の受注を処理するのにかかる手間(確認・出荷指示・請求)を洗い出す手順から始めます。処理原価さえ把握できれば、どの水準を下回ると採算が合わなくなるかは自社の条件で判断が可能です。
与信枠と支払方法―前払と掛売の線引き
取引先ごとに前払と掛売のどちらを適用するかは、与信枠の設計に直結します。与信審査の具体的な実務は別記事に譲り、本稿では「与信枠をECのどこで持つか」という設計上の論点にとどめます。
セール商戦の需要スパイクは受注上限と締め時間の設定で受け止める
モールの大型セールに合わせて需要が急増すると、在庫の引当(受注に対して在庫を確保しておく処理)が追いつかなくなることがあります。受注上限の設定や締め時間の明確化など、需要スパイクを前提にした運用ルールをあらかじめ決めておくことが欠かせません。
取引先が増えるほど、電話・FAX・メールでの受注確認にかかる時間は積み上がります。こうした業務量を自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
商品情報の設計―出店者が「出品できる」形で情報を渡す
モール出店者は、卸から受け取った商品情報をそのままモールへ出品します。JANコード・画像・説明文が揃っていない商品は、そもそも出品してもらえない可能性があります。
JANコードは標準タイプ13桁・短縮タイプ8桁で商品マスタに持つ
JANコードは、GTIN(国際標準の商品識別コード)の日本での呼び方です。標準タイプは13桁(GS1事業者コード・商品アイテムコード・チェックデジットで構成)、短縮タイプは8桁で構成されます*3。GS1事業者コードは「45」または「49」から始まるため、自社商品にコードが付与されているかをまず確認してください。
JANコードが未整備の商品は、モール出店者が出品する際の入力項目を満たせず、取引の起点でつまずく原因になります。
出品用素材(画像・説明文・スペック)の提供範囲を先に決める
出店者が自由に加工・転用してよい範囲を先に取り決めておくと、後から二次利用の可否をめぐる問い合わせが減ります。画像・説明文・スペック表をどこまで一括提供するかは、取引条件の一部として明文化しておくとよいでしょう。
終売・改廃は通知の手段と時期を取引条件に書いておく
商品の終売や仕様変更をどのタイミングでどの手段で出店者へ知らせるかは、在庫の欠品防止に直結します。モール出店者は出品ページを個別に作り込んでいるため、終売の連絡が遅れると販売終了品の注文を受け続けることになります。最低限、終売の何日前までに通知するか、通知の手段をメールとするか管理画面の掲示とするか、仕様変更でJANコードが変わる場合に別商品として扱うかの3点を取引条件に明記しておきます。運用ルールの詳細な設計は別記事で扱っています。
在庫と出荷の設計―欠品を即座に伝える仕組み
出店者はモール上で注文を受けてから卸へ発注することがあります。卸側の欠品がそのまま出店者のキャンセルや評価の毀損につながるため、在庫の見せ方を先に決めておく必要があります。
在庫をどこまで見せるか―実数・記号・しきい値の3方式
在庫の見せ方は、主に次の3方式です。
- 実数方式:在庫数そのものを開示する方式です。精度は高い一方、更新の手間がかかります。
- 記号方式:「在庫あり/残りわずか/在庫なし」のように段階で示す方式です。更新負荷を抑えられます。
- しきい値方式:一定数を下回った時点でのみ表示を切り替える方式です。実数方式と記号方式の中間に位置づけられます。
取扱品目数や更新体制に応じて、どの方式を選ぶかを決めておくことが起点になります。
直送(ドロップシップ)を受けるかどうかの判断軸
ドロップシップとは、卸がメーカーや倉庫から出店者を経由せず、モール上の注文者へ直接商品を発送する仕組みです。在庫を持たずに済む一方、出荷の主体が変わるため、受けるかどうかは業務範囲の判断軸として扱います。具体的なオペレーション設計は別記事に譲ります。
返品・不良品の取り決めを先に文書化する
返品や不良品が発生した場合の負担区分をあらかじめ文書化しておくと、個別対応のたびに条件を決め直す手間を避けられます。モール出店者との取引では、出店者が消費者から受けた返品を卸へそのまま戻せるかどうかが論点になります。返品を受け付ける期限、送料と再検品にかかる費用の負担、返品の可否を判断する主体の3点を先に決めておくと、判断が個別対応に流れません。条件設計の詳細は別記事をご確認ください。
BtoB ECで実装するときに決める3つの要件
受注・商品情報・在庫の設計が固まったら、それをシステムにどう落とし込むかを検討します。
取引先別価格は「取引先×商品×数量」の何層で持つかを先に決める
取引先ごとに異なる価格を適用する場合、価格を何階層で管理するかを先に決める必要があります。層の取り方は、取引先ランクごとに掛率を1つ持つ方式、取引先と商品カテゴリの組み合わせで持つ方式、取引先と単品の組み合わせまで持つ方式の3段階に分かれます。層を増やすほど個別対応はしやすくなる一方、マスタの登録と改定の手間が増えるため、取引先数と価格改定の頻度から選びます。掛率や仕切価格の水準そのものは別記事で扱っています。
受注データの連携はCSVかAPIか
受注データの連携方法には、CSVファイルの受け渡しとAPI連携があります。CSVは既存の基幹システムに手を入れずに始められる反面、取り込みが1日1回などの締めに縛られます。APIは在庫と受注をほぼ即時に同期できる一方、開発と保守の負担が増えます。モールのセール時に在庫のずれをどこまで許容できるかが、両者を分ける実務上の判断軸です。詳細は別記事をご確認ください。
段階的に立ち上げるなら受注・商品情報・在庫の順で広げる
すべての機能を一度に揃えるのではなく、優先度の高い機能から段階的に立ち上げる進め方もあります。モール出店者向けであれば、まず商品情報の提供と受注の受け皿を用意し、次に在庫の見せ方、最後に取引先別価格と基幹連携という並びが取り組みやすくなります。商品情報が揃わないと出品自体が始まらないため、価格や連携の作り込みを先行させても取引は動きません。スモールスタートの具体的な進め方は別記事で解説しています。
内製でこれらの要件を検討するには、法令知識・システム設計・データ連携の3領域にまたがる理解が必要です。取引先が10社から100社に増えたときに、確認や電話対応にかかる時間がどれだけ増えるかを見積もっておくと、投資判断の材料が得られるはずです。
まとめ:モール出店者向け卸で先に決める3つの判断軸
本稿では、通販モール出店者を取引先とする卸において、受注・商品情報・在庫の3領域で先に決めるべき項目を整理しました。要点は3つです。第一に、受注は処理原価から最低ロットと与信の線引きを決めること。第二に、商品情報はJANコードと出品用素材の提供範囲を先に取り決め、出店者が出品できる状態を用意すること。第三に、在庫は実数・記号・しきい値のどの方式で見せるかを選び、欠品を即座に伝えられる仕組みにすることです。取引先が増えるほど、これらの判断を後回しにしたときのコストは大きくなります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
モール出店者との取引で、最低受注金額は設けるべきですか。
処理原価を踏まえて設ける方が採算を保ちやすくなります。まず1件あたりの確認・出荷指示・請求にかかる手間を洗い出し、その原価を下回らない水準を検討してください。金額そのものは各社の業務体制によって異なるため、一律の相場を当てはめず、自社の処理原価から逆算する進め方が適しています。
出店者が複数モールへ同じ商品を出す場合、卸側で価格を指定できますか。
卸売事業者が取引先の販売価格を指定・拘束する行為は、独占禁止法上の再販売価格の拘束に該当し得ると整理されています。価格統制の可否を詳しく検討したい場合は、独占禁止法の考え方を扱う別記事をご確認ください。
JANコードが付いていない自社商品は、モールで売ってもらえますか。
JANコードが未整備のままだと、出店者側の出品作業で入力項目を満たせず、取引の起点でつまずく可能性があります。JANコード(GTIN)は標準タイプ13桁・短縮タイプ8桁で構成されており*3、GS1事業者コードの取得状況をまず確認することをおすすめします。
相手が個人事業主でも取引してよいですか。何を確認すればよいですか。
個人事業主であること自体は取引を妨げる理由にはなりません。取引デジタルプラットフォーム消費者保護法は、モール運営者に販売業者の特定情報の提供を求める努力義務を課しており*2、卸側でも出店者が公開する特定商取引法に基づく表示などで実在を確認する手順を持っておくとよいでしょう。
受注が増えたとき、電話・FAX・メールのままだと何が起きますか。
取引先が増えるほど、1件あたりの確認作業にかかる時間が積み上がり、粗利が人件費に食われやすくなります。受注手段を見直すタイミングの目安として、取引先が増える前に業務量の変化を見積もっておくことが対策になります。
- *1 出典:デジタル庁「e-Gov法令検索 特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(令和2年法律第38号)第5条」(条文)(公布2020年)
- *2 出典:デジタル庁「e-Gov法令検索 取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和3年法律第32号)第3条」(条文)(公布2021年)
- *3 出典:一般財団法人流通システム開発センター(GS1 Japan)「JANコードについて」
- *4 出典:公正取引委員会「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書(オンラインモール・アプリストアにおける事業者間取引)(概要)」(令和元年10月31日公表。情報提供窓口に寄せられた情報は2019年9月30日時点で合計914件〈うちオンラインモール795件、アプリストア20件、その他99件〉、聴取調査は同時点で合計93名。アンケート調査はこれとは別に2019年2〜3月に実施。いずれも出店者全体を代表する標本ではない)
- *5 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(公表資料・2025年8月26日)。市場規模は2024年の推計値。EC化率の算出対象はBtoC-ECが物販系分野、BtoB-ECが業種分類上「その他」以外の業種
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