◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 見本市・展示会の受注は「その場で売る取引」ではなく、会期後に引き渡す先付けの予約受注であるという前提を整理します。
- 会場で受けた注文データを電子取引として保存する際の要件を、国税庁の公表資料に沿って解説します。
- 紙の注文書運用・会場端末からのEC受注・会期後のまとめ入力を比較し、卸売業がEC化を検討する材料を示します。
目次
卸売の見本市・展示会受注のEC化とは、会場の注文を受注データとして受け止める仕組み
見本市・展示会での受注は会期中に商品を引き渡す即売とは異なり、会期後に出荷する先付けの予約受注です*2。卸売業は、この前提に立って受注日と出荷予定日を分けた受注データを設計します。
卸売の見本市・展示会受注のEC化とは、会場で受けた注文を紙の注文書ではなく受注データとして受け取ることです。会期後の出荷・請求まで同じデータで通せるように、受注の型と在庫の引き当て時点、データの保存方法を設計することを指します。会場でタブレットやパソコンから発注できるようにするだけでは、この設計を済ませたことになりません。
【定義】見本市・展示会・商談会の受注は何が違うのか
見本市・展示会は、出展者が商品を展示し来場者と商談する催事であり、本記事では企業間取引を目的とするもの(BtoB展示会)を指します。日本展示会協会の調査では、2019年に国内で開催された603件の展示会のうち、BtoB展示会が565件・約93.7%を占めています*1。この調査は2019年の実績を対象としたもので、新型コロナウイルス流行前の数値である点をあらかじめ押さえておきます*1。
展示会受注は「その場で売る取引」ではなく「会期後に引き渡す予約の受注」
ジェトロの資料は、会期中に出品物の引き渡しを伴う売買を「即売」と呼び、会期中に商談が決まっても会期後に商品を引き渡す場合は即売にはならないと整理しています*2。見本市・展示会での受注の多くはこの後者にあたり、受注の時点より後の日付を出荷予定日として受ける「先付け受注」として扱う必要があります。この前提を曖昧にしたまま在庫を引き当てると、同じ在庫を複数の受注に重ねて割り当ててしまう二重引当や、欠品の連絡遅れにつながります。
先に決めるべき3つのこと
展示会受注をEC化する前に、受注の型・在庫の引き当て時点・受けたデータの保存方法という3つを決めます。受注の型は先付けの予約受注として位置づけ、在庫の引き当て時点は受注の都度か会期終了後の一括かを選びます。保存方法は、次章で扱う電子取引の要件に沿って設計するのが基本です。
紙の注文書運用のままでは、会期後の転記と保存で詰まる
紙の注文書運用のままEC化を先送りすると、会期中は在庫や価格をその場で確認できず、会期後は転記作業に数日を要し、フォローの初動が遅れます。
会期中:在庫と価格をその場で確認できない
複写伝票での受注は、会場で在庫数や価格条件をシステム上で確認する手段を持ちません。担当者の記憶や紙の価格表に頼るため、会期限定の価格や数量条件が正確に伝わらないことがあります。
会期直後:注文書の束を転記する数日が、フォローの初動を奪う
ジェトロは海外見本市の出展を前提に、商談した企業への礼状や追加資料の送付を帰国後1週間以内、商談した企業へのフォローを帰国後すぐ〜1ヵ月以内として示しています*2。国内の展示会でも、会期後の初動を測る目安として同様に考えられます。紙の注文書を基幹システムへ手作業で転記している間に、このフォローの初動が遅れてしまう構図が生まれます。
会期後:どの注文がどの展示会由来か追えない
紙の注文書に展示会名や来場者の情報を残していないと、受注が成立した経緯を後から追跡できません。次回の出展判断に使う材料が残らず、同じ課題を毎回繰り返すことになります。
開催が秋冬に集中するため、詰まりが毎年同じ時期に重なる
日本展示会協会の調査では、開催月別で11月が74件と最も多く、次いで2月・1月・10月の順に続きます*1。展示会が集中する時期に紙の運用のまま臨むと、転記作業と通常業務が同じタイミングで重なり、負荷が偏ります。
会場の注文データは電子取引にあたり、保存要件を満たす必要がある
会場のタブレットやサイトを通じて注文情報をやり取りすれば電子取引にあたります*4。改ざん防止・ディスプレイ等の備付け・3項目での検索という保存要件を満たす必要があります*3。
サイトを通じて取引情報を授受する取引は電子取引にあたる
国税庁の一問一答は、電子取引を「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定義しています*4。対象は注文書・契約書・送り状・領収書・見積書などに通常記載される事項の授受です*4。
具体例として、EDI取引やインターネットによる取引に加え、「インターネット上にサイトを設け、当該サイトを通じて取引情報を授受する取引」が挙げられています*4。会場に置いたタブレットから受注サイトへ発注する運用は、この定義に当てはまる取引として扱う必要があります。
満たすべき3つの要件——改ざん防止・備付け・3項目での検索
電子取引データの保存には3つのルールがあります*3。
- 改ざん防止のための措置をとること
- 保存データを確認するためのディスプレイやプリンタ等を備え付けること
- 「日付・金額・取引先」の3つの要素で検索できること
改ざん防止の措置には4つの選択肢が用意されています*3。
- タイムスタンプを付与したデータの授受
- 受領したデータへのタイムスタンプ付与
- 訂正・削除の履歴が残るシステムの利用
- 事務処理規程を定めて運用・備え付ける方法
展示会受注データを設計する段階で、どの選択肢を採るかをあらかじめ決めておく必要があります。
検索要件が不要になる場合と、猶予措置の考え方
基準期間(2年(期)前)の売上高が5,000万円以下の事業者は、電子取引データのダウンロードの求めに応じられるようにしていれば、③の検索要件を満たす必要はありません*3。基準を超える場合でも、表計算ソフト等で索引簿を作成する方法や、「日付・金額・取引先」の順で規則性を持たせたファイル名のデータを特定のフォルダに集約する方法で、検索要件に対応できます*3。
また、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの電子取引を対象とした宥恕措置は同日で終了しました*4が、原則的な保存ルールへの対応が間に合わない場合には、現在も猶予措置が設けられています*3。猶予措置は、原則的な保存ルールに従って保存できなかったことについて所轄税務署長が相当の理由があると認め、かつ税務調査の際に電子取引データのダウンロードの求めと、プリントアウトした書面の提示・提出の求めの双方に応じられるようにしている場合に適用され、事前の届出は不要とされています*3。「人手不足」「システム整備の資金不足」「システム整備が間に合わない」なども相当の理由として認められます*3。ただし猶予措置を前提に設計するのではなく、展示会受注をEC化する段階で原則的なルールに合わせておくほうが、後戻りは少なくて済みます。自社が検索要件や猶予措置の対象になるかどうかは、所轄の税務署や顧問税理士に確認することをおすすめします。
会場で複写伝票の控えも渡す場合、どちらを保存するのか
国税庁の一問一答は、電子データと書面の内容が同一で、書面を正本として取り扱うと自社内で取り決めている場合は、書面の保存のみで足りるとしています*4。書面で受領した情報を補完するデータが電子データ側に含まれ、内容が同一でない場合は、書面と電子データの両方を保存する必要があります*4。
会場で複写伝票の控えを渡しつつ受注サイトにも記録が残る運用では、どちらを正本とするかをあらかじめ社内で取り決めておくことが判断の起点になります。この整理はあくまで一般的な取り扱いの紹介であり、個別の適用可否は専門家への確認が前提になります。
展示会受注に対応するEC・受発注システムの設計
展示会受注に対応するには、受注日と出荷予定日を分けて持つ設計が起点になります。在庫の引当時点・会期限定条件・新規取引先の扱い・通信断時の運用までを、一体で決めます。
出荷日を持たせる——受注日と出荷予定日を分けて持つ
先付け受注に対応するEC・受発注システムでは、受注データに受注日と出荷予定日という2つの日付を持たせる設計が前提になります。出荷予定日を持たないシステムでは、会期後にまとめて出荷指示を出す運用が組みにくくなります。
在庫をいつ引き当てるか
在庫の引き当ては、受注の都度その場で確保する方式と、会期終了後にまとめて引き当てる方式の2通りが考えられます。前者は会場での在庫回答が正確になる一方、複数の展示会・商談会で同じ在庫を扱う場合は引当のタイミングを統一しておく必要があります。
会期限定の価格・数量条件をどう分けるか
会期限定の価格や数量条件は、通常の取引先別価格とは別の項目として持たせる設計が必要です。会期終了後も会期限定価格が受注データに残ってしまうと、通常発注時の請求金額を誤る原因になります。
会場で初めて出会う新規取引先をどう受けるか
会場で初めて商談する取引先の注文は、まず仮登録として受け、口座開設や与信の審査は別工程に置く設計が現実的です。仮登録のまま出荷まで進めてよいかどうかは、社内の与信ルールに沿って個別に判断します。
会場の通信が不安定な場合に何を決めておくか
会場では通信が不安定になる場合があるため、入力内容を端末側に一時的に退避し、通信復旧後にまとめて登録する運用をあらかじめ決めておくと当日の混乱を避けられます。退避したデータの登録漏れを防ぐため、未送信件数を担当者が確認できる仕組みも合わせて検討します。
会場のEC受注を設計する際に先に決めておく優先順4点/順位根拠:手順(実施順序)
- 受注の型を先付けの予約受注として位置づけ、即売とは異なる扱いであることを社内で共有します*2。
- 在庫の引当時点を、受注時か会期後一括かのいずれかで決めます。
- 会期限定の価格・数量条件を、通常の取引先別価格と別の項目として持たせます。
- 会場で受けた注文データの保存方式を、電子取引の3つの要件に沿って決めます*3*4。
| 比較軸 | 紙の注文書運用 | 会場端末からのEC受注 | 会期後のまとめ入力 |
|---|---|---|---|
| 在庫回答の可否 | その場では在庫や価格を確認できません。 | 画面上で在庫・価格を確認しながら回答できます。 | 入力の時点まで確認できません。 |
| 転記作業 | 注文書の束を基幹システムへ手作業で転記します。 | 入力した時点で受注データになるため、転記が不要です。 | 担当者がまとめて入力するため、転記に近い作業が残ります。 |
| データの保存 | 複写伝票の控えを書面として保存します。 | 電子取引の要件(改ざん防止・検索3要素など)を満たして保存します*3。 | 入力元が紙なら書面保存、電子データなら電子取引の要件を確認します*4。 |
| 初動の速さ | 転記が終わるまでフォローに着手できません。 | 会期後すぐにフォローへ着手できます*2。 | まとめ入力が終わるまでフォローが遅れます。 |
| 向くケース | 出展規模が小さく、件数が少ない場合に向きます。 | 複数会場での継続出展など、件数が多い場合に向きます。 | 会場の通信環境が不安定な場合の代替として向きます。 |
大口・一括見積を伴う商談は、見積から受注までの流れが会場でも発生します。また特売企画を会期限定条件として運用する場合は、会期限定条件の持ち方を本章の設計に合わせて検討します。
会期前・会期中・会期後の運用設計
展示会受注のEC化は、会期前の準備・会期中の記録・会期後のフォローという3つの局面で運用を設計します。
会期前:出展商品と会期限定条件の登録・テスト
会期の前に、出展する商品と会期限定の価格・数量条件を受注サイトへ登録し、現場の担当者が実際の端末で操作を確認しておきます。日本展示会協会の調査では開催が11月・2月・1月・10月に集中しており*1、この時期から逆算して準備期間を確保する必要があります。
会期中:商談結果を受注データと同じ場所に残す
ジェトロの資料は会期中の主な業務として、顧客との商談・接客に加え、商談結果についての記録・報告書の作成を挙げています*2。商談結果を受注データと切り離した場所に記録すると、後から突き合わせる手間が発生するため、同じ受注データにひも付けて記録する設計が望ましいと言えます。
会期後:フォローの時計を持つ
ジェトロは、商談した企業への礼状や追加資料の送付を帰国後1週間以内に、商談企業へのフォローを帰国後すぐから1ヵ月以内に行うよう示しています*2。この記述は海外見本市を前提としたものですが、国内展示会でも会期後の初動を同様に設計する目安として参考にできます。受注データに会期後のフォロー期限を持たせておけば、この時計を業務として運用しやすくなります。
次回に残す記録
受注データに展示会名や開催回といった識別コードを持たせておくと、どの展示会からどれだけの受注が生まれたかを後から追跡できます。次回の出展を判断する材料として蓄積するには、会期の締め時間の設計も合わせて確認しておくとよいでしょう。
展示会受注をEC化する5つの実装ステップ
展示会受注をEC化する実装は、現状の棚卸から始め、受注の型の決定・条件と在庫の設計・運用と保存の確定を経て、直近の展示会で試すという5つのステップで進めます。
ステップ1〜5の進め方
- ステップ1:現在使っている注文書の様式と、受注から出荷・請求までの流れを棚卸します。
- ステップ2:受注を先付けの予約受注として扱うことを社内で確認し、在庫の引当時点の方針を決めます。
- ステップ3:会期限定の価格・数量条件の持ち方と在庫の設計を詰めます。
- ステップ4:会場での運用手順と、電子取引の保存要件を満たす保存方式を確定します*3*4。
- ステップ5:直近の展示会で実際に運用し、想定外の点を洗い出します。
この一連の設計を内製で進めるには、複数分野の知識が必要になります。受注データとマスタの構造を理解する情報システムの知識、在庫引当のロジックを設計する業務知識、電子帳簿保存法の保存要件を読み解く経理の知識の3つです。
情報システム部門と経理部門を横断した体制で臨む規模の作業になります。要件整理を外部のパートナーと進める場合は、現行の受注テーブルとマスタの構造を提示することで、設計の論点を早い段階で絞り込みやすくなります。
開催期からの逆算
展示会の開催は11月が最多で、2月・1月・10月が続きます*1。この時期に受注データとして受け止められる状態にしておくには、開催の数ヵ月前からステップ1の棚卸に着手しておく必要があります。
よくある失敗
展示会受注のEC化でよく起きる失敗は3点です。
- 受注時点と会期後一括の引当方式が現場で混在し、在庫を二重に引き当ててしまうこと
- 会期限定価格が通常価格のマスタに残り続けること
- 会場で受けたデータと基幹システムの受注が突合できないこと
いずれもステップ1の棚卸とステップ2の型の決定を丁寧に行えば防げる失敗であり、着手前の整理に時間をかける価値があります。
まとめ:展示会受注のEC化で決める3つの判断軸
本稿では、卸売業の見本市・展示会受注をEC化するための考え方を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、展示会受注は会期中に引き渡す即売ではなく、会期後に出荷する先付けの予約受注であるという前提を持つことです*2。第二に、会場でデータとして受けた注文は電子取引にあたり、改ざん防止・備付け・3項目での検索という保存要件を満たす必要があることです*3*4。第三に、紙の注文書運用・会場端末からのEC受注・会期後のまとめ入力という3つの受け方を比較し、自社の出展規模や通信環境に合った方式を選ぶことです。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
展示会での受注は、その場での販売(即売)と同じ扱いになりますか
会期中に商品を引き渡す場合は即売にあたりますが、会期中に商談が決まり会期後に商品を引き渡す場合は即売にはなりません*2。展示会受注の多くは後者にあたり、先付けの予約受注として扱う必要があります。
会場のタブレットから受けた注文データは、電子帳簿保存法の保存対象になりますか
サイトを通じて取引情報を授受する取引は電子取引にあたるため、保存対象になります*4。改ざん防止の措置、ディスプレイ等の備付け、「日付・金額・取引先」での検索という3つの要件を満たして保存します*3。
会場で複写伝票の控えを渡した場合、紙とデータのどちらを保存すればよいですか
電子データと書面の内容が同一で、書面を正本と取り決めている場合は書面の保存のみで足ります*4。書面を補完するデータが電子データに含まれ内容が同一でない場合は、両方の保存が必要です*4。個別の判断は所轄の税務署や顧問税理士への確認をおすすめします。
会期限定の価格は、通常の取引先別価格とどう分けて持つべきですか
会期限定の価格・数量条件は、通常の取引先別価格とは別の項目として受注データに持たせる設計が必要です。同じ項目で扱うと、会期終了後も限定価格が残り、通常発注時の請求金額を誤る原因になります。
会場で初めて商談した新規取引先の注文を、その場で受けてよいですか
まず仮登録として注文を受け、口座開設や与信の審査は別工程に置く設計が現実的です。仮登録のまま出荷まで進めてよいかどうかは、社内の与信ルールに沿って個別に判断する必要があります。
- *1 出典:一般社団法人日本展示会協会「2019年にわが国で開催された展示会実績調査」(2021年1月12日公表)
- *2 出典:独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)海外展開支援部「初めての海外見本市のために ~出展のポイント~」(2024年9月)
- *3 出典:国税庁「電子取引データを適切に保存できていますか?/電子取引データ保存要件チェックシート」(令和6年11月)
- *4 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和8年7月)
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