◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売業の商品改廃案内は、業界標準が定める「マスタ有効日」「販売終了日」「情報公開可能日」という3つの日付を確定し、誰に配るかを決める運用です。
- 案内文に載せる項目・案内先の束ね方・経路の二重化・記録の残し方を、様式に固定して運用する5ステップで整理できます。
- 標準は商品マスタの送付を義務化していないため、各社が案内運用そのものを設計する必要があります。
目次
商品改廃の「案内」とは何を伝える運用か
卸売業の商品改廃案内とは、取り扱い品目の追加・変更・終了を対象品番と発効日とともに得意先へ伝え記録を残す運用で、標準は「マスタ有効日」「販売終了日」「情報公開可能日」の3つの日付で改廃を表現します*1。
伝えるのは品名ではなく「3つの日付」
一般財団法人流通システム開発センターが公表する流通BMS 商品マスタ運用ガイドライン(Ver1.0.1)は、改廃に関わる項目を次のとおり定義しています*1。まず「マスタ有効日」は、該当するマスタデータがいつから有効になるかを示す日付です。次に「販売終了日」は取扱い最終日を表し、標準は削除フラグのような物理削除を告知する項目を使用しません。そして「情報公開可能日(一斉公開日)」は、メーカーが流通向けに公開を許可する年月日を指し、通常は発表のタイミングと一致します*1。この日より前に得意先へ流してはならないという、情報解禁の線を示します。なお標準は、マスタ有効日には情報公開可能日と同じ日をセットすると定めています*1。実務で個別に決めるのは、この解禁日と販売終了日の2点だと考えるとよいでしょう。
改廃案内の設計とは、つまりこの3つの日付を確定し、誰に配るかを決める作業だと言えます。品名や理由の説明に力を入れる前に、まず日付が確定しているかを確認するのが出発点です。
「改廃を決めること」と「改廃を知らせること」は別の工程
改廃の意思決定、つまり何を切るか・在庫をどう処理するかという判断は本記事の範囲外です。改廃の判断基準や在庫・返品処理の考え方は、卸売の定番カットと商品改廃を扱う記事で別途整理します。本記事は「決まった改廃をどう伝え、どう記録するか」という案内の運用に絞って扱います。
追加・変更・終了で案内の型が変わる
流通BMSの更新区分は3種類です。「追加」は未登録の商品コードを新たに加えることを指します。「変更」は「マスタ有効日」で発効日を指定しますが、どの項目が変更になったかはメッセージ上明示されません*1。差分は受け手側では判断できないため、案内文の中で「何が変わるか」を書く必要があるという実務上の帰結が生まれます。そして第3の区分は「削除」ですが、標準は削除フラグを使わず「販売終了日」で取扱い最終日を決める形をとります*1。実務上は「終売の案内」がこの区分に当たります。この3区分を踏まえて案内文のひな形を作ると、抜けが起きにくくなります。
案内が遅れると、どこにコストが出るか
本節の数値は、製配販連携協議会(現・消費財サプライチェーン協議会)に加盟する卸売業・小売業へのアンケートに基づくものです*2。加工食品・日用雑貨が対象で、全業種の平均ではありません。この範囲を踏まえて読んでください。
改廃は加工食品の返品理由で最多を占める
製配販連携協議会の「2024年度返品実態報告」(作成:公益財団法人流通経済研究所)によれば、加工食品の「卸売業→メーカー」返品の発生理由は、定番カットが35.2%で最多です*2。次いで、その他(メーカー起因等)が20.7%、納品期限切れが16.4%、年2回の棚替え・季節品が13.9%と続きます*2。小売業側の調査でも、「小売業→卸売業」の返品理由は定番カット(随時の商品改廃)が28.1%を占めます*2。改廃の情報が動くのが遅いほど、止められなかった発注が返品として戻ってくるという関係が見えます。
業種で「案内の山の形」が変わる
日用雑貨の「卸売業→メーカー」返品理由は、年2回の棚替え・季節品が81.1%を占め、定番カットは12.6%にとどまります*2。加工食品は随時の個別案内が中心になるのに対し、日用雑貨は年2回の一括案内、いわばイベント型の運用が中心になります。自社がどちらの型に近いかによって、後述する運用設計のどこに力を入れるべきかが変わります。
加工食品と日用雑貨の返品率は単純比較できない
加工食品の2024年度の返品率は「卸売業→メーカー」で0.29%と、前年度よりやや増加しました*2。加工食品について推計された業界全体の返品額(卸売業→メーカー)は494億円です*2。日用雑貨の「卸売業→メーカー」返品率は1.86%で、前年度より低下しています*2。ここで注意が必要です。卸売業調査には協議会に非加盟の多数の小売業との取引が含まれ、加盟小売業のみを対象とする小売業調査の数値とは一致しません*2。また年度によって集計対象企業が異なるため、加工食品と日用雑貨の数値を単純に比較・合算することはできません*2。
自社の数字が業界のどのあたりに位置するかを具体的に確かめたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。改廃案内の遅れがどこで返品や誤発注につながっているかを、自社の商習慣に沿って洗い出せます。
改廃案内が属人化する理由
小売ごとの専用フォーマットに個別入力している
一般社団法人日本加工食品卸協会が農林水産省の官民合同タスクフォースに提出した資料によれば、メーカー・卸は小売ごとの専用フォーマットで見積書や商品情報を提案しています。その結果、同じ情報を異なるフォーマットで作成する重複作業が発生しています*4。改廃情報も、この同じ流路に乗ってしまっているのが実態です。
10年変わっていない課題として報告されている
日本加工食品卸協会は、この商品情報連携の課題を「積年の課題:10年前の資料」「10年後の今も同じ課題」として提示しています。提示先は2025年11月12日開催の第7回 農林水産品・食品の物流に関する官民合同タスクフォースです*4。属人化は個社の努力不足によるものではなく、業界で長く残ってきた課題であるとわかります。
標準はあるが「送る義務」は定めていない
流通BMS 商品マスタ運用ガイドラインは、「商品マスタの作成、送付の実施未実施は取引上の必須条件ではない。実施にあたっては、その実現方式、運用を含め、当事者間(小売・卸・メーカー)の事前合意が必要」と明記しています*1。項目という器は標準化されていても、実際に配るかどうかは相対の合意事項です。だからこそ、各社が自社の案内運用を設計する必要があります。
改廃案内の運用設計・5ステップ
「何をどの順で整えれば案内が漏れなく回るか」を、流通BMSの商品マスタ設計*1に沿って手順化すると、次の5ステップになります。
ステップ1:改廃決定を「様式」で受ける
対象品番(GTIN・自社コード)、区分(追加・変更・終了)、3つの日付、変更の場合は変更点、後継品の有無、在庫方針を1つの様式にまとめます。口頭や個別メールで流さず、様式に載せることが起点です。変更ではどの項目が変わったかがデータ上明示されないため*1、変更点は様式側で言語化しておく必要があります。
ステップ2:案内先を特定する(一律にしない)
流通BMSの商品マスタは、受発注情報を取引先単位で繰り返し持てる構造になっており、取引先コードごとに販売開始日・販売終了日を保持できます*1。つまり得意先によって終売日が異なる状態は、標準の想定内です。全得意先一律で案内するのではなく、取引条件・契約数量・納品ルートで束ねて出す設計が理にかなっています。
ステップ3:案内文に載せる7項目を固定する
案内文の項目は7つに固定します。対象品番と商品名、区分(終了・後継品への切替・規格変更)、マスタ有効日、最終受注日(販売終了日から自社のリードタイムを引いた日)、販売終了日、後継品の品番と差分(規格・入数・価格の別項)、問い合わせ先です。なお、リードタイムの日数について一次情報に一律の基準は確認できませんでした。何日前に出すべきかは取引先ごとの相対で取り決める項目として扱ってください。
ステップ4:経路を二重化する
案内の経路には、EDI(商品マスタメッセージ)、BtoB EC上の表示、メール、営業訪問があります。データ経路(機械が読む経路)と告知経路(人が読む経路)は別物であり、どちらか一方だけでは抜けが生じます。情報公開可能日*1より前に告知しないことも、経路を問わず共通の前提です。
ステップ5:受領と回答を記録する
誰にいつ何を案内したか、後継品への切替可否の回答、最終受注の締め日を記録します。記録がないと、販売終了日を過ぎたあとの受注をどう扱うかで社内・取引先双方に確認の手間が生じます。
| 項目 | 記載内容の目安 |
|---|---|
| ①対象品番と商品名 | GTIN・自社コードと正式商品名を併記します。 |
| ②区分 | 終了/後継品への切替/規格変更のいずれかを明記します。 |
| ③マスタ有効日 | 当該マスタデータがいつから有効になるかを記載します*1。 |
| ④最終受注日 | 販売終了日から自社のリードタイムを引いた日を記載します。日数は取引先ごとの相対で取り決めます。 |
| ⑤販売終了日 | 取扱いの最終日を記載します*1。 |
| ⑥後継品の品番と差分 | 規格・入数・価格の違いを別項で示します。 |
| ⑦問い合わせ先 | 回答・在庫確認の窓口を明記します。 |
改廃案内で優先して整える3点(順位根拠:着手順序の依存関係)
- 様式の固定:対象品番・区分・3つの日付を1枚の様式に載せることが、以降のすべての工程の前提になります*1。
- 案内先の束ね方の定義:取引先単位で終売日を保持できる標準の構造に合わせ、取引条件で得意先を束ねます*1。
- 記録の運用:誰にいつ何を案内し、どう回答されたかを残す仕組みがないと、様式と案内先を整えても抜けが再発します。
BtoB ECでの実装:得意先の発注導線を壊さない
「消す」のではなく「止める」
流通BMSの標準は、物理削除を告知する項目を使わず、販売終了日を基準に取扱い最終日を決めます。物理削除自体は、販売終了日を基に取引相対間で取り決める運用(例:販売終了日後1年で自動的に削除)です*1。BtoB EC側もこの原則を写し、表示は残しつつ発注だけを止める中間状態を設けるのが実装の指針になります。
後継品への誘導は旧コードとの紐付けで行う
グロサリ商材の商品マスタには「以前のGTIN」という項目があります*1。旧品番から後継品へ辿れる紐付けを持たせておけば、EC上で「この商品は終了しました/後継品はこちら」という案内を機械的に出せます。
定番リスト・お気に入り・過去注文からの再注文
得意先の発注導線には、旧品番が残りやすい箇所がいくつもあります。定番発注リスト、お気に入り、カタログ、過去注文のリピート注文などです。これらを洗い出して付け替えないと、案内を出しても旧品番での誤発注が続いてしまいます。
内製でこの導線を洗い出すには、EDIとBtoB ECの双方に関わる知識と、取引先ごとの発注パターンの把握が必要です。導線が多いほど確認漏れのリスクが上がるため、専門パートナーに現状の導線を棚卸ししてもらうという選択肢もあります。
| 案内区分 | EC上の表示・発注可否 |
|---|---|
| 追加 | 情報公開可能日*1以降に表示・発注可とし、定番リストへの追加候補として案内します。 |
| 規格変更 | 旧規格は表示を残しつつ発注を停止し、新規格へリンクします。 定番リストは新規格へ差し替えます。 |
| 終了(後継品あり) | 販売終了日以降は表示のみ残し発注は停止します。 「以前のGTIN」*1で後継品へ誘導します。 |
| 終了(後継品なし) | 販売終了日以降は発注を停止し、定番リスト・お気に入りから除外する案内を添えます。 |
標準化の流れに合わせて、何から整えるか
業界は「商品情報の一括登録・共同利用」に向かっている
2026年5月27日、製配販三層計43社(メーカー20社・卸売業9社・小売業14社)の参加で消費財サプライチェーン協議会が設立されました*3。重点6テーマには、商品情報の一括登録・共同利用、商流・物流の標準EDIの普及、商慣習の合理化・適正化が含まれます*3。改廃案内の情報連携そのものが、業界横断で標準化の対象になっている段階です。
自社の様式を標準項目名に寄せる
自社の改廃案内の項目名を、マスタ有効日・販売終了日・情報公開可能日・以前のGTINといった標準の呼称に寄せておきます*1。そうすれば、今後の共同利用の枠組みに乗せる際の手戻りを小さくできます。社内でも取引先とも、同じ語で話せる状態を先に作っておく価値があります。
様式の固定から始め、システム連携は最後に回す
第1段階は、様式を1枚に固定することです。3つの日付と7項目を盛り込んだひな形を用意します。第2段階は、案内先の束ね方を取引条件で定義し、案内と回答の記録を残す運用にすることです。第3段階は、EDIやBtoB ECのデータ経路へ実際の案内フローを寄せていくことです。この順で進めると、様式が定まらないうちにシステム連携から着手して手戻りが生じる事態を避けられます。
明日から確認できるチェックリスト10項目(順位根拠:着手順序の依存関係)
- 改廃案内の様式は1枚に統一されているか
- 様式にマスタ有効日・販売終了日・情報公開可能日の3項目があるか
- 変更区分の案内で「何が変わったか」を書く欄があるか
- 最終受注日が案内文に明記されているか
- 案内先を取引条件で束ねる基準があるか
- 情報公開可能日より前に案内していないか
- EDIと告知(メール・EC表示等)の両方で案内しているか
- 誰にいつ何を案内したかの記録が残っているか
- 後継品への切替可否の回答を記録しているか
- EC上の定番リスト・お気に入り・過去注文の旧品番を洗い出しているか
まとめ:改廃案内を運用として整える3つの判断軸
本稿では、卸売業の商品改廃案内を「3つの日付を確定して配る作業」として整理しました。要点を3つに集約すると、第一に、案内の中身はマスタ有効日・販売終了日・情報公開可能日という標準の日付項目に集約されます*1。第二に、案内先は一律ではなく取引条件で束ね、様式と記録で運用する必要があります。第三に、EC側は「消す」のではなく「表示は残し発注は止める」実装に寄せ、後継品への誘導導線を整えます。標準は器を定義していますが、送るかどうかは各社の合意事項です。まずは様式を1枚に固定し、3つの日付と7項目を埋められる状態を作ることが、設計の出発点になります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
改廃案内は何日前までに出すべきですか。
一次情報の範囲では、案内のリードタイムに関する一律の基準は確認できませんでした。販売終了日と最終受注日は、取引先ごとの相対で取り決める項目として扱う必要があります*1。自社の標準日数を定める場合は、取引条件ごとに個別合意した上で様式に反映してください。
販売終了日を過ぎた商品のデータは削除すべきですか。
流通BMSの標準では、物理削除を告知する専用の項目は用意されていません。物理削除は販売終了日を基に、取引相対間で取り決める運用とされています(例:販売終了日後1年で自動的に削除)*1。自社とEC側の運用でも、この考え方に合わせて削除時期を決めるのが妥当です。
得意先ごとに終売日が違っていてもよいのですか。
標準の受発注情報は取引先単位で繰り返し保持できる構造で、取引先コードごとに販売開始日・販売終了日を持てます*1。得意先によって終売日が異なる状態は、標準の想定の範囲内です。
案内はEDIとメールのどちらで出すべきですか。
EDI(商品マスタメッセージ)はデータ経路、メールやEC表示は告知経路であり、役割が異なります。データ経路だけでは人が気づかず、告知経路だけではシステム側のマスタが更新されないため、両方を組み合わせる二重化が基本になります。
後継品が無い場合、案内には何を書くべきですか。
区分(終了)、最終受注日、販売終了日、在庫の扱い、問い合わせ先を明記します。後継品が無い旨は明確に書き、代替品があるかのような断定的な表現は避けてください。
- *1 出典:一般財団法人流通システム開発センター「流通ビジネスメッセージ標準 運用ガイドライン(商品マスタ編)第1.0.1版」(2012年)PDF/最新版の確認:流通BMS標準仕様一覧
- *2 出典:製配販連携協議会「2024年度返品実態報告」(2025年7月4日、作成:公益財団法人流通経済研究所)PDF
- *3 出典:消費財サプライチェーン協議会「『消費財サプライチェーン協議会』設立のお知らせ」(2026年)PDF
- *4 出典:一般社団法人日本加工食品卸協会「加工食品サプライチェーンにおける商品情報連携について」農林水産省 第7回 農林水産品・食品の物流に関する官民合同タスクフォース配布資料(2025年)PDF/一覧ページ
画像の出典元
- 商品流通と運用管理のイメージ/Photo by EMANUELE Ricciardi on Unsplash
- 運用のイメージ/Photo by 1981 Digital on Unsplash
- 得意先のイメージ/Photo by Petr Macháček on Unsplash
- 発注のイメージ/Photo by Giorgio Trovato on Unsplash
- よくある質問のイメージ/Photo by Stephen Harlan on Unsplash