◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- BtoB ECの決済手数料は、カード加盟店手数料と銀行振込手数料で負担者の原則が異なります。
- 2026年1月施行の取適法運用基準により、振込手数料の負担ルールは合意の有無にかかわらず判断されます。
- 負担ルールは契約書・約款とECシステムの設定の両方に落とし込む必要があります。
目次
BtoB ECの決済手数料は誰が負担するのか
振込手数料は買い手(委託事業者)が負担するのが原則であり、カード加盟店手数料は売り手(加盟店)が負担するのが原則です。ただし取適法により、振込手数料は合意があっても受託事業者に負担させることができません*1。
BtoB ECの決済手数料の負担設計とは、決済コストの負担者を取引先区分と決済手段ごとに定める取り決めです。対象となるのはカード加盟店手数料・銀行振込手数料・請求代行手数料の3つです。定めた内容は、契約書・購入約款とECシステムの設定の双方に反映させます。
負担者は当事者の自由な取り決めに委ねられているわけではありません。代金を受託事業者の口座へ振り込む際の手数料を受託事業者に負担させ、代金から差し引くことは、合意の有無にかかわらず代金の減額に該当します*1。これは取適法(中小受託取引適正化法)が禁じる行為です。この点は2026年1月の施行に伴い明確化されたため、既存の契約書・約款を点検する必要があります*2。
本記事では、BtoB ECで発生する3種類の決済手数料(カード加盟店手数料・銀行振込手数料・請求代行手数料)を対象に、誰が負担すべきかという原則を整理します。あわせて、その原則が2026年1月の取適法運用基準でどう変わったかを取り上げます。さらに、売り手が振込手数料を負担した場合の消費税・インボイス処理、負担ルールを設計する5つの手順まで、実務担当者が着手できる粒度で解説します。
決済手段別に見る手数料の内訳と水準
BtoB ECで発生する決済手数料は、性質が異なる3種類に分けて考える必要があります。カード加盟店手数料は取引金額に応じた率課金、銀行振込・口座振替手数料は件数に応じた固定費、請求代行・掛売りサービスの手数料は与信・督促の外部化コストです。それぞれ負担の考え方が異なるため、まとめて「決済手数料」と一括りにすると設計を誤ります。
カード加盟店手数料の平均料率2.63〜2.89%の内訳
クレジットカード加盟店手数料の水準は、公正取引委員会の実態調査(令和3年7月〜令和4年2月・販売店5,462名に書面調査、回収率23.7%)で確認できます*3。同調査によれば、加盟店に適用される平均加盟店手数料率は、カテゴリーⅠで2.63%、カテゴリーⅡで2.89%です*3。カテゴリーⅠ・Ⅱはカード会社(国際ブランド)の区分であり、オンアス取引・オフアス取引という取引形態の区分とは別の軸を指しています*3。この数値は「販売店全般の平均加盟店手数料率」であり、BtoB EC専用の統計ではない点に注意が必要です。単純平均値は2.70%、加重平均値は1.66%と算出方法によって差が出ます*3。加盟店手数料のうち、約7割をインターチェンジフィー(決済会社間でやり取りされる手数料)が占めるとされています。これは同報告書が調査の背景として引用する「成長戦略実行計画」の記述であり、本調査自体の集計結果ではありません*3。
銀行振込手数料と請求代行手数料—固定費と外部化コストの違い
銀行振込手数料・口座振替手数料は、1件あたりの金額は小さいものの、取引件数が多いほど総額に効いてくる固定費型のコストです。請求代行・掛売りサービスの手数料は、与信審査・請求書発行・督促といった業務を外部委託するコストとして捉えるのが実務上分かりやすい整理です。
| 決済手段 | 手数料の性質 | 一般的な負担者 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| クレジットカード決済 | 取引金額に応じた率課金(平均2.63〜2.89%*3) | 売り手(加盟店) | 法人間取引は割賦販売法第3章の適用除外のため転嫁の直接規制はない。 加盟店規約の確認が必要 |
| 銀行振込・口座振替 | 件数に応じた固定費 | 買い手(委託事業者) | 取適法対象の取引では受託側への負担付け替えが代金減額に該当*1 |
| 請求代行・掛売りサービス | 与信・督促業務の外部化コスト | 売り手(利用事業者) | サービス利用料としての性質が強く、負担者は契約で個別に定める |
取適法が変えた振込手数料の負担ルール
合意の有無にかかわらず違反となる振込手数料の差引き
2026年1月1日、下請代金支払遅延等防止法は改正されます*2。新しい法律名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称・中小受託取引適正化法、通称・取適法)です*2。この改正に合わせて公正取引委員会が整備した運用基準では、代金の減額に該当する行為の一つとして次の記述が明記されました*1。
「中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くこと」*1。この一文が、従来「契約で定めれば問題ない」と理解されがちだった振込手数料の負担ルールを、法令上の判断へ切り替えたポイントです。
運用基準の違反行為事例集にも、同じ論点が「3-13 振込手数料を負担させることによる減額」として収録されています。事例では、プログラム作成等を委託した事業者が、代金の額から振込手数料相当額を差し引いた行為が問題視されました。振込先は中小受託事業者の銀行口座であり、この行為は代金減額として整理されています*1。BtoB ECにおいても、卸売・製造業が受託側(中小事業者)に該当する取引では、この整理がそのまま当てはまります。
資本金・従業員数で判断する「委託事業者」の該当基準
自社が取適法上の「委託事業者」に当たるかどうかは、資本金基準または従業員基準で判断します。対象になる委託は、物品の製造・修理・特定運送委託と、政令で定める情報成果物作成・役務提供委託(プログラム・運送・保管・情報処理)です。この区分では、委託事業者側の資本金が3億円超か、1千万円超3億円以下かによって、対象となる中小受託事業者の範囲が変わります*7。
| 委託内容 | 委託事業者の基準 | 中小受託事業者の基準 |
|---|---|---|
| 物品の製造・修理・特定運送委託等 | 資本金3億円超 | 資本金3億円以下(個人を含む) |
| 同上 | 資本金1千万円超3億円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
| 情報成果物作成・役務提供委託(政令指定分を除く) | 資本金5千万円超 | 資本金5千万円以下(個人を含む) |
| 同上 | 資本金1千万円超5千万円以下 | 資本金1千万円以下(個人を含む) |
従業員数を基準とする区分も併存します。物品の製造・修理・特定運送委託等では、委託事業者側の常時使用従業員が300人超であれば、300人以下の事業者が中小受託事業者に該当します。情報成果物作成・役務提供委託(政令指定分を除く)では、この基準が100人超と100人以下になります*7。なお従業員基準は、資本金基準が適用されない場合に適用されるものです*7。自社の取引がどの基準に当たるかは、個別の取引形態ごとに公取委テキストで確認する手続きが欠かせません*7。
可視化したコストを自社の取引先構成で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
売り手が負担した場合の消費税・インボイス処理
振込手数料を売り手が負担する場面では、消費税の処理方法が実務上の論点になります。処理方法は大きく2つあり、経理部門と事前にすり合わせておく必要があります。
売上値引き処理—税込1万円未満は返還インボイスの交付義務免除
1つ目は売上値引きとして処理する方法です。国税庁の資料によれば、対価の返還等(売上値引き)が税込1万円未満である場合、返還インボイス(適格返還請求書)の交付義務が免除されます*4。振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合はこの適用対象になり、根拠となる規定は新消費税法57条の4第3項・新消費税法施行令70条の9第3項第2号です*4。
課税仕入れ処理—金融機関発行インボイスの保存が必要
2つ目は課税仕入れとして処理する方法です。この場合は金融機関等が発行するインボイス(適格請求書)の保存が必要になります。どちらの処理を選ぶかによって、保存すべき書類と会計処理の流れが変わるため、勘定科目のコード設計であらかじめ判別できるようにしておくと運用が安定します。
| 処理方法 | インボイスの要否 | 実務上の留意点 |
|---|---|---|
| 売上値引きとして処理 | 税込1万円未満なら返還インボイスの交付義務が免除*4 | 対価の返還等として帳簿に記載する。 免除範囲を超える場合は返還インボイスの交付が必要 |
| 課税仕入れとして処理 | 金融機関等のインボイス保存が必要*4 | 支払手数料の勘定科目を対価の返還等と区別して運用する |
決済手数料の負担を設計する5ステップ
決済手数料の負担ルールは、思いつきで契約書に条項を書き足すだけでは運用が回りません。次の5ステップで、取引先の棚卸しからシステム実装、経理処理との整合まで一気通貫で設計する必要があります。
決済手数料の負担設計・5ステップ(順位根拠:実施順序)
- 取引先区分と決済手段を棚卸しします。取適法上の中小受託事業者に該当する取引先を先に切り分けることが起点になります*7。
- 決済手段別に手数料の実額と年間総額を算定します。カード加盟店手数料は取引金額に率を乗じ、振込手数料は件数に応じて試算します。
- 負担ルールを取引基本契約・購入約款に明文化します。振込手数料を受託側に負担させる条項は、合意があっても取適法違反になるため使えません*1。
- ECシステム側に実装します。決済手段の出し分け、決済手段別の下限金額設定、手数料の表示方法をシステムの設定値に反映させます。
- 締め請求・入金消込のルールと整合させます。決済手数料の扱いが経理側の消込ロジックと食い違うと、突合作業の手戻りが発生します。
内製で完結させる場合に必要な法務・経理・EC運用の3知識
この5ステップを内製だけで完結させるには、法務・経理・EC運用の3領域の知識が必要になります。取適法の適用範囲の確認には法務的な判断が欠かせません。手数料実額の算定には決済手段別のデータ収集が要ります。システムへの実装には、決済設定と価格表示の両方を扱える知識が求められます。3領域を1人で兼務する体制では、契約明文化とシステム実装の間に整合性のズレが生じやすくなります。負担ルールを条項化したのに、ECの設定が追随していないという事態が起こります。
カード加盟店手数料を取引先に転嫁できるか
法人間のカード取引は割賦販売法第3章の適用除外
カード加盟店手数料をそのまま取引先(買い手)に転嫁できるかという論点は、振込手数料とは別の法令が関わります。割賦販売法は消費者向けの包括信用購入あつせんを規律する法律ですが、法人間取引には第3章の規定が適用されません*6。
具体的には、契約の申込みをした者が営業のために、または営業として締結する契約に係る包括信用購入あつせんは、割賦販売法第3章の適用除外とされています*6。BtoB ECでの法人間カード取引は、この適用除外に該当するケースが多くなります。ただし、これは割賦販売法上の規律が及ばないという意味であり、カード会社との加盟店契約が別途手数料の上乗せを制約している可能性は残ります。加盟店契約の内容もあわせて確認しておきましょう。
下限金額設定・決済手段の出し分け・価格織り込みの3代替策
転嫁が難しい、あるいは加盟店契約上望ましくないと判断した場合の現実的な代替策は3つあります。第一に決済手段別の下限金額設定です。カード決済には少額注文向けの下限額を設け、大口注文は振込や掛売りへ誘導します。第二に決済手段の出し分けです。取引先区分ごとに選べる決済手段を制御し、手数料負担が重い決済手段を限定的に提示します。第三に価格への織り込みです。個別の手数料表示ではなく、想定される手数料コストを商品単価の設計段階で吸収する方法です。
2027年度の手形・小切手交換廃止と決済手段の再設計
電子交換所の手形・小切手交換は2027年度初に廃止
決済手段の再設計には、もう一つの締め切りがあります。全国銀行協会は2025年3月26日、電子交換所における手形・小切手の交換を2027年度初から廃止することを公表しました*5。手形決済を利用している取引先がある場合、この期限までに移行先を決める必要があります。
でんさい・口座振替・掛売りサービスへの移行先比較
移行先として想定される手段は、でんさい(電子記録債権)、口座振替、掛売りサービスの3つです。でんさいは手形と同様に期日一括の支払いに近い運用ができますが、電子的な記録・管理が前提になります。口座振替は振込手数料の負担ルールが取適法の対象になるため、本記事の第3章・第4章で扱った論点がそのまま適用されます*1。掛売りサービスは与信・督促を外部化するコストが発生する一方、手形の期日管理から解放されるという違いがあります。
いずれの移行先を選ぶ場合も、決済手数料の性質(率課金か固定費か外部化コストか)が変わります。第2章で示した3分類に沿って年間コストを再計算しておくことが、移行判断の土台になります。
まとめ:決済手数料の負担設計を決める3つの判断軸
本稿では、BtoB ECの決済手数料について、誰が負担するかという原則から、取適法・インボイス・手数料転嫁の論点までを整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。
第一に、振込手数料は買い手負担、カード加盟店手数料は売り手負担が原則です。2026年1月施行の取適法運用基準により、振込手数料の負担は合意があっても受託側に付け替えられません*1。
第二に、売り手が振込手数料を負担する場合の消費税処理は、売上値引きか課税仕入れかで保存書類が変わり、税込1万円未満の返還インボイスは交付義務が免除されます*4。
第三に、これらのルールは契約書・約款への明文化だけでは完結せず、ECシステムの設定と締め請求・消込の運用まで一体で設計する必要があります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
振込手数料を売り手負担とする契約書の条項があれば有効ですか。
取適法の対象取引では、合意があっても振込手数料を中小受託事業者に負担させることは代金の減額に該当し、契約書の条項があっても有効になりません*1。対象取引に当たるかどうかは資本金基準・従業員基準で個別に確認する必要があります*7。
取引先ごとに決済手数料の負担ルールを変えてもよいですか。
取適法の対象に当たらない取引であれば、取引先区分ごとに異なる負担ルールを設定できます。ただし取適法の対象取引では振込手数料の受託側負担が認められないため、対象取引かどうかの区分を先に確定させる必要があります*1。
決済手数料を商品単価に上乗せするのは問題ありませんか。
法人間のカード取引は割賦販売法第3章の適用除外に当たるため、同法上の直接的な規律はありません*6。一方でカード会社との加盟店契約が手数料の上乗せを制約している場合があるため、加盟店契約の内容を確認する必要があります。
手形取引の相手先がいる場合、いつまでに決済手段を見直す必要がありますか。
電子交換所における手形・小切手の交換は2027年度初に廃止されるため、それまでにでんさい・口座振替・掛売りサービスのいずれかへ移行する必要があります*5。移行先の手数料構造は決済手段ごとに異なるため、早めの年間コスト試算が欠かせません。
カード加盟店手数料の「3〜5%程度」という情報は正しいですか。
出典が確認できない相場観であり、そのまま使うべきではありません。公正取引委員会の実態調査では、販売店全般の平均加盟店手数料率としてカテゴリーⅠ2.63%、カテゴリーⅡ2.89%が示されています*3。この数値もBtoB EC専用の統計ではないため、自社の実際の契約条件を別途確認する必要があります。
- *1 出典:公正取引委員会「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」(令和7年10月整備・令和8年1月1日施行)PDF
- *2 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法」ページjftc.go.jp/toriteki/
- *3 出典:公正取引委員会「クレジットカードの取引に関する実態調査報告書(概要)」(令和4年4月)PDF
- *4 出典:国税庁「少額な返還インボイスの交付義務免除の概要」(令和5年度税制改正関係)nta.go.jp
- *5 出典:一般社団法人全国銀行協会「手形・小切手の電子化に関する中間的な評価を踏まえた抜本的な取組み等について」(2025年3月26日)zenginkyo.or.jp
- *6 出典:e-Gov法令検索「割賦販売法」第35条の3の60laws.e-gov.go.jp
- *7 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)PDF
画像の出典元
- 決済のイメージ/Photo by salomo Jefry on Unsplash
- 取適法のイメージ/Photo by 2H Media on Unsplash
- 手順のイメージ/Photo by Kelly Sikkema on Unsplash
- 水のイメージ/Photo by Skye Whisler on Unsplash
- 取引先のイメージ/Photo by Sean Pollock on Unsplash