◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売の提案型への転換とは、受発注データの使い道を「記録」から「次の注文を作る材料」へ切り替える取り組みです。
- 卸売のEC化率が上がっても、卸売業の総売上高そのものは増えていません。電子化と売上増加は別の話です。
- データを提案の型に変える5つのステップと、営業の役割・評価をどう変えるかを整理します。
目次
卸売業の「提案型への転換」とは何か
卸売業の提案型への転換とは、受注業務を売り手主導の提案型営業へ切り替える取り組みです*1。具体的には、得意先から届いた注文を処理するだけでなく、ECに蓄積された受発注データをもとに「次に何をいくつ仕入れるとよいか」を先に示します。
転換の実体は、受発注データの用途を「効率化のための記録」から「次の注文を作る材料」へ変えることです。経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」によると、卸売のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円、EC化率は40.3%まで進みました*1。
一方で卸売業の総売上高は2024年に319兆8,539億円となり、2023年の323兆5,702億円から減少しています*1。電子化は売上を増やす取り組みではないためです。中小企業白書ではデジタル化の「段階2」に約6割の事業者が滞留しており*2、提案型への転換は段階3・段階4へ進む取り組みにあたります*3。
受注型と提案型を5つの軸で見分ける
「受注型(御用聞き営業)」と「提案型」の違いは、どちらが最初に動くかにあります。受注型は得意先の注文を待って処理する営業であり、提案型は自社から次の注文候補を示す営業です。次の表で5つの軸に分けて整理します。
| 軸 | 受注型 | 提案型 |
|---|---|---|
| 起点 | 得意先の注文 | 自社からの提示 |
| データの向き | 注文を記録する | 記録から次を予測する |
| 接点の頻度 | 注文があったとき | 決めた周期で定期的に |
| 主な成果指標 | 受注処理の件数・工数 | 取扱品目数・提案採用率・取引先あたり売上 |
| 必要な人 | 事務処理ができる人 | 得意先の商売を説明できる人 |
欠品や終売への代替品提案は、事故が起点になる受け身の提案です。本記事が扱う提案型は、事故が無くても定期的に出す先回りの提案であり、起点が逆になります。欠品時の代替品提案は運用の設計が別物になるため、本記事では扱いません。
受発注データを見えるようにする工程、つまりそろえる項目・粒度・可視化の手順は、商流の可視化を扱う別記事の範囲です。本記事が扱うのは、見えたデータを提案の型に変える工程であり、可視化しただけでは提案は出てきません。この切り分けを押さえたうえで、次章から数値の中身を見ていきます。
EC化率40.3%でも卸売業の売上が増えない理由
本節の市場規模・EC化率は経済産業省「令和6年度 電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表・第27回)によります*1。総売上高は同報告書が用いる法人企業統計データの値です*1。
卸売のEC化はすでに4割を超えている
2024年の卸売のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円、前年比6.3%増でした*1。EC化率は40.3%に達しています*1。国内のBtoB-EC全体では514.4兆円、前年比10.6%増、EC化率は43.1%、前年比3.1ポイント増です*1。ここでいうEC化率とは、財務省「法人企業統計」の業種別売上高を分母、BtoB-EC市場規模を分子として算出した割合であり、43.1%は「その他」を除いた値です*1。
卸売の40.3%とBtoB-EC全体の43.1%は同じ調査の値ですが、前者は卸売業単独、後者は推計対象20業種の合計であり、集計範囲が異なります*1。電子化していること自体は、もはや競争上の差にはならない水準まで進んだと言えます。
それでも卸売業の売上は減っている
同報告書は「卸売業」の総売上高を、2022年323兆6,540億円、2023年323兆5,702億円、2024年319兆8,539億円と記しています*1。報告書は「売上高が減少する中」EC化率が増加したと明記しており*1、受発注の電子化はコストの話であり、売上の話ではないことがうかがえます。
伸びたのは「定型注文の効率化」の部分である
同報告書は卸売業について、大手GMS・大手SMを中心に流通BMSに代表されるEDI標準化が進められていると記しています*1。その導入がEC化率増加の要因と推察されるとしています*1。流通BMS(GS1 Japanの流通BMS協議会が策定する消費財流通業界のEDI標準仕様)は、基本形Ver2.0が2018年11月に公開されました*4。
つまり伸びたのは、決まった相手と決まった商品を効率よく流す仕組みが普及した部分です。そこに提案の余地はありません。EDI標準化の移行手順そのものは、本記事の範囲外です。
大多数は「ツールを使っている」段階で止まっている
2026年版中小企業白書 第1-1-31図は、デジタル化の取組段階について「段階2」と回答した事業者の割合が約6割を占めると示しています*2。段階の定義は次のとおりです*3。
| 段階 | 定義 |
|---|---|
| 段階1 | 紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態 |
| 段階2 | アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態 |
| 段階3 | デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態 |
| 段階4 | デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態。 例:システム上で蓄積したデータを活用して販路拡大、新商品開発を実践している |
この段階分布は業種横断の中小企業を母数とした値であり、卸売業に限定した数値ではありません*2。提案型への転換とは、段階2から段階3・4へ移ることだと公的な定義に接続できます。遅れているというより、共通の踊り場にいると捉えるほうが実態に近いでしょう。
現状のデータの持ち方でどこまで提案に使えるかを確かめたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。
ECのどのデータが、どの提案になるのか
提案の材料になる4つのデータ
ECに貯まるデータのうち、提案の材料になるのは主に4種類です。受注明細(誰が・いつ・何を・いくつ)、発注の周期、見積・問い合わせの履歴、カート放棄・検索語が該当します。得意先の属性側(業態・規模・担当者)は得意先台帳の欄で管理する範囲であり、本記事では台帳と受注明細を突き合わせる接続点だけを扱います。
データから作れる提案の4つの型
提案の型4点(順位根拠:着手のしやすさ)
- 定期補充の提案:発注の周期・受注明細から、前回から一定期間空いた品目の補充案を出します。
- 取扱品目の拡張提案:同業態の得意先の受注明細から、似た得意先が扱っていて自社の得意先が扱っていない品目を出します。
- 発注単位の見直し提案:受注明細の数量分布から、小口多頻度をまとめた場合の条件を出します。
- 停止の兆候への提案:発注の周期の途切れから、前年同期比で発注が止まった品目を確認します。
停止の兆候への提案は、商流の可視化で扱う「販売機会の発見」と接する論点です。本記事では、見つけた兆候をどう提案の形にするかに絞ります。
データだけでは決まらないもの(卸売固有の制約)
帳合・建値・リベート・特売といった卸売固有の商習慣は、提案してよい相手・価格・時期を縛ります。データ上は提案できても、商習慣上は出せないケースがあるため、ステップ3に進む前に確認しておく必要があるでしょう。帳合・建値・リベート・特売それぞれの制度設計は本記事の範囲外とし、ここでは提案を出す前の確認事項としてのみ扱います。この確認を挟むかどうかが、本記事とEC一般論の記事を分ける点です。
提案型へ転換する5ステップ
上位記事の多くは「データ分析で提案を最適化する」と結論だけを置き、そこへ至る手順を示していません。ここでは順序と、各段階でやめるべきことを合わせて示します。
- 対象を1つに絞る。全得意先・全品目を一度に扱わず、1つの業態×1つの商品カテゴリー×10〜20社に絞ります。中小企業白書は、DXに向けた取組の問題点として「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」と回答する事業者の割合が、どの取組段階でも高いことを示しています*3。リソース不足は前提条件であり、絞ることが成立条件になるでしょう。
- 受注明細を「提案が作れる粒度」に整える。提案には品目単位・得意先単位・月単位の3つの軸が必要です。合計金額しか残っていない状態では提案は作れません。ここで足りない項目が出た場合は可視化の工程まで戻って整備し、得意先の属性は台帳と突き合わせます。
- 提案の型を1つ決めて、文面まで固定する。前章の4つの型から1つだけ選び、誰に・何を・いつ・どの価格根拠で出すかを文面の雛形まで作ります。価格根拠は仕切価格・掛率の設計に従います。属人的な提案を否定せず、成績のよい担当者のやり方を雛形にする進め方が現実的です。
- 出す頻度と担当を決める。月次・四半期など周期を決め、担当を割り当てます。提案型が続かない大きな理由は、気づいた人が気づいたときに出す運用にしてしまうことです。周期・担当・記録の3点がそろって初めて業務になります。
- 採用されたかどうかを記録し、型を直す。提案の採否をECの受注データと突き合わせて記録します。採用率が低い型は文面か対象を変える必要があるでしょう。中小企業白書は、デジタル化の取組段階が進展している事業者ほど、売上面・コスト面・人材面のいずれでも効果を感じている割合が高いとしています*3。型を直しながら段階を上げていく作業そのものが、効果に結びつく可能性があります。
人と組織をどう変えるか
受注処理から浮いた時間を、何に振り替えるか
EC化で減るのは電話・FAXの受注処理です。減った分をそのまま人員削減に充てると、提案を作る人がいなくなります。浮いた時間の振り替え先を先に決めておくことが大切です。商品改廃・終売の案内のような定型連絡も、提案の接点として使い直せるでしょう。
提案を「届ける」場をどこに置くか
提案を届ける場は、ECの画面上(マイページのレコメンド・定期注文の提示)と、対面の商談の両方があります。商談1回分の準備の型は本記事の範囲外とし、どちらに何を載せるかの切り分けだけを扱います。
評価指標を受注件数から変える
受注件数・受注処理工数のままでは、提案型は根づきません。取扱品目数・提案採用率・取引先あたり売上を指標に加える必要があります。既存の指標を捨てるのではなく、足していく形が現場の理解を得やすいでしょう。
AIをどこまで使うか
2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要は、株式会社帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」をもとに、「成長に向けたAI活用」の有無で企業を分けた付加価値額の増加率を示しています*5。ここでいう「成長に向けたAI活用」とは、売上高を増加させるために、従前は自社だけではできなかった業務にAIを使うことを指します*5。2024年と2019年を比較した増加率(中央値)は、取り組んだ企業が23.0%(n=2,618)、取り組んでいない企業が17.9%(n=9,089)でした*5。
この数値はAI活用の取組有無で分けた付加価値額増加率であり、提案型への転換そのものの効果を測ったものではありません。データを売上増加のために使う取り組みには、こうした差が観測されているという参考情報として捉えるにとどめておきます。
つまずきやすい4つの箇所
- 可視化で満足して止まる。ダッシュボードを作った時点を完了にしてしまうケースです。提案の型・周期・担当まで決めて初めて業務になります。
- 提案の対象を広げすぎる。全得意先へ一斉に出すと、精度が低い提案が混ざり信用を落とします。対象は絞り込みます。
- 商習慣の制約を後から知る。帳合や建値の制約で出せない提案を作ってしまうケースです。ステップ3の前に確認しておきます。
- 記録が残らない。提案の採否が記録されないと改善できません。受注データと突き合わせて記録します。
まとめ:提案型への転換を判断する3つの軸
本稿では、卸売業が提案型へ転換する考え方と手順を整理しました。要点を3つに集約すると次の通りです。第一に、卸売のEC化率は40.3%まで進んだものの、卸売業の総売上高は減少しており、電子化はコストの話であって売上の話ではありません*1。第二に、提案型への転換とは受発注データの用途を記録から次の注文を作る材料へ変える取り組みであり、段階2から段階3・4へ進む工程として位置づけられます*2 *3。第三に、対象を絞り、粒度を整え、型と頻度と担当を決め、記録して直すという5ステップを踏むことで、業務として続けられる形になります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
提案型への転換とは、具体的に何を変えることですか。
受発注データの用途を、記録から次の注文を作る材料へ変えることです。中小企業白書のデジタル化の段階論に当てはめると、段階2から段階3・4へ移る取り組みにあたります*2 *3。
ECを導入すれば売上は増えますか。
電子化は工数の話であり、売上を直接増やすものではありません。卸売のEC化率は40.3%まで進みましたが、卸売業の総売上高は2024年に319兆8,539億円へ減少しています*1。
EDIを入れていれば提案型に近づきますか。
近づきません。EDI標準化はEC化率上昇の要因として挙げられていますが、定型注文の効率化であり、提案とは別の線です*1 *4。
何社くらいから始めるべきですか。
1つの業態×1つのカテゴリー×10〜20社に絞って始めるのが現実的です。費用と人材の不足は、どの取組段階でも上位に挙がる問題点です*3。
商流の可視化とは何が違うのですか。
可視化は受発注データを見えるようにするまでの工程です。本記事が扱うのは、見えたデータを提案の型・周期・担当に変える、その次の工程になります。
- *1 出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「令和6年度 電子商取引に関する市場調査 報告書」(2025年8月26日公表・第27回)
- *2 出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書 第1部第1章第5節 デジタル化・DX」(2026年4月24日閣議決定)
- *3 出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第1部第1章第5節 デジタル化・DX」(2025年5月公表・段階1〜4の定義および取組の問題点・効果の記述)
- *4 出典:GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)「流通BMS」(基本形Ver2.0は2018年11月公開)
- *5 出典:中小企業庁 調査室「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年4月・出所は株式会社帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」)
画像の出典元
- 卸売 提案型 転換 EC 活用のイメージ/Photo by CHUTTERSNAP on Unsplash
- 卸売 提案型 転換 EC 活用のイメージ/Photo by Alberto Rodríguez on Unsplash
- 卸売 提案型 転換 EC 活用のイメージ/Photo by Jacques Dillies on Unsplash
- 卸売 提案型 転換 EC 活用のイメージ/Photo by Aga Adamek on Unsplash