◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 百貨店の外商が抱える電話・FAX・紙の受発注を、Web上の仕組みへ置き換える取り組みを、経済産業省などの一次情報から整理します。
- 顧客別価格や掛売、締め請求といった外商特有の商習慣が、EC化の要件としてどう扱えるかを解説します。
- 電子帳簿保存法やインボイス制度への対応を踏まえた、受発注方式の選び方と進め方の手順を紹介します。
目次
百貨店の外商取引のEC化とは、紙の受発注を電磁的方式へ置き換える取り組み
百貨店の外商取引のEC化とは、外商部門が電話・FAX・紙の伝票で行ってきた法人顧客との受発注や請求のやり取りを、Web上の受発注システムへ置き換えることです。取引情報を電磁的方式で授受・保存できる状態にすることを指します*1。
外商取引のEC化の定義と「電子取引」への該当
外商とは、百貨店が法人顧客や上得意客に対し、担当者を通じて個別に対応する販売形態です。外商部門は、電話・FAX・紙の伝票で受発注を受け、代金の一部を掛売(商品の引き渡し後に一定期間分をまとめて請求する取引形態)で処理してきました。
この受発注や請求のやり取りをWeb上の仕組みへ置き換え、取引情報を電磁的方式で授受・保存できる状態にすることが、外商取引のEC化です。電子帳簿保存法は、注文書や見積書、領収書などに通常記載される取引情報の授受を電磁的方式で行う取引を「電子取引」と定義しています*2。外商取引をEC化すると、この電子取引に該当する場面が増えます。
BtoCの百貨店ECと外商(BtoB)取引のEC化はどこが違うか
BtoCの百貨店オンラインストアは、不特定多数の消費者に対して単一の価格・在庫を提示する仕組みです。外商のBtoB取引は、顧客ごとに価格や取引条件が異なり、担当者が個別に調整してきた領域です。BtoCサイトの延長でシステムを考えたときに行き詰まりやすいのは、この個別条件の扱いです。
EC化の対象になる取引:法人ギフト・大口注文・掛売・締め請求・カタログ販売
EC化の対象になりやすいのは、法人向けギフトの一括発注、大口注文、掛売・締め請求による支払、カタログ経由の定期発注などです。これらは金額や件数がまとまりやすく、電話・FAXでの授受が業務負荷として残りやすい取引でもあります。
企業間取引のEC化率43.1%が示す外商EC化の論点
企業間取引のEC化率は43.1%まで上昇した(経済産業省・令和6年度調査)
経済産業省の「令和6年度電子商取引に関する市場調査」によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514兆4,069億円(前年比10.6%増)でした*1。業種分類上「その他」を除いたEC化率は43.1%で、前年から3.1ポイント上昇しています*1。
このEC化率は、財務省の法人企業統計調査による業種別売上高を分母、BtoB-EC市場規模を分子として算出された数値です。医療・教育・電力・ガス・資源産業等は調査対象業種に含まれません*1。企業間取引全体で電子化が進む中、外商の法人取引だけが電話・FAX・紙のままである状態は、相対的に取引コストの重い部類に入りつつあります。
卸売業のEC化率は40.3%、流通BMSによるEDI標準化が要因
同調査では、卸売業のBtoB-EC市場規模は128兆8,684億円(前年比6.3%増)、EC化率は40.3%とされています*1。報告書は、大手GMSや大手SM(スーパーマーケット)を中心に、流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準。GS1 Japanが策定する消費財流通業界のEDI標準仕様*3)に代表されるEDI標準化が進められていることを、EC化率が増加する要因として挙げています*1。
百貨店市場の現在地と縮小傾向にある法人向けギフト需要
日本百貨店協会によると、2025年(1〜12月)の全国百貨店売上高は合計5兆6,754億円(前年比1.5%減)でした*5。うち国内売上は5兆1,087億円(同0.1%減)です*5。
同協会の2026年6月概況は「中元商戦では、法人向けギフト需要は縮小傾向にある一方、自家需要は引き続き増加」と記載しています*4。法人向けの需要そのものが伸びにくい局面だからこそ、1件あたりの受注コストを抑える手段としてEC化を検討する余地があります。
外商のEC化を阻む3つの商習慣:顧客別価格・掛売・代理発注
顧客別価格・外商割引・都度見積の再現
外商取引では、顧客ごとに価格や割引率が異なることが珍しくありません。標準的なECの型は全顧客に同一価格を提示する設計を前提にしていることが多く、この顧客別価格をどう再現するかが最初の論点です。
掛売・与信と締め請求・支払サイト
掛売による取引では、与信の枠内で商品を引き渡し、締め日に応じてまとめて請求する運用が必要です。この与信管理と締め請求の仕組みは単純なカート型のECでは扱いにくく、要件として個別に設計する対象になります。
外商担当者による代理発注・御用聞きの扱い
外商担当者が顧客に代わって発注する代理発注や、定期的に御用聞きをして注文を取る運用は、外商特有の営業スタイルです。EC化にあたっては、この代理発注の機能をシステム側に残すか、顧客自身の発注へ徐々に移すかを整理する必要があります。
外商のEC化要件を整理する優先順4点(順位根拠:着手順序)
- 顧客ごとの価格・割引条件を一覧化する。
- 与信枠と締め請求のサイクルを確認する。
- 代理発注が発生している顧客を洗い出す。
- 紙・FAXのまま残す取引の範囲を決める。
顧客別価格や掛売の要件を自社の取引条件に照らして確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
制度対応の要件:電子帳簿保存法とインボイス制度
電子取引データの保存義務(電子帳簿保存法)
電子帳簿保存法の正式名称は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律です。1998年3月31日に公布され、現行の改正版は2025年4月1日に施行されています*2。同法第2条第5号は「電子取引」を、注文書・契約書・送り状・領収書・見積書などに通常記載される取引情報の授受を電磁的方式により行う取引と定義しています*2。
同法第2条第4号は、保存義務者を「国税に関する法律の規定により国税関係帳簿書類の保存をしなければならないこととされている者」と定義しています*2。外商取引をEC化し、注文書や見積書のやり取りを電子で行うようになると、この電子取引データの保存義務の対象が広がります。
国税庁は、制度を「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3区分に整理して案内しています*6。保存要件を後回しにすると、稼働後に保存方法の見直しが発生しかねません。
インボイス(適格請求書)の発行・保存とシステム対応の現況
経済産業省の同報告書が引用する2024年9月の調査によると、請求書・領収書受領におけるインボイス制度への対応率は78.2%でした*1。このうち「システムで対応している」割合は49.6%、「システムを利用せずに対応している」割合は28.6%です*1。
外商の請求実務を電子化する場合、適格請求書の発行・保存もあわせてシステムの要件に組み込む必要があります。この対応率は2024年9月時点の調査結果であり*1、現在の状況をそのまま示すものではない点に注意してください。
受発注基盤の選択肢:BtoB EC・Web-EDI・流通BMS(百貨店版)
外商取引の電子化を進める際の基盤は、大きく3つに分かれます。GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)は流通BMSの策定主体です*3。同団体は流通BMSについて、消費財流通業界の標準を一本化することを目標に策定していると説明しています*3。メッセージ(電子取引文書)と通信プロトコル/セキュリティに関するEDI標準仕様です*3。
百貨店業界の取引に必要な標準メッセージ26種は2010年10月に公開され、1メッセージを追加した「百貨店版Ver2.1」が存在します*3。
流通BMSは、卸売またはメーカーと小売の間、つまり百貨店が仕入先と行う取引の標準です*3。外商が顧客と行う販売側の取引そのものを対象とするものではありません。仕入側と販売側で基盤を切り分けて考えることが、要件整理の前提です。
| 基盤 | 適する取引 | 接続先 | 標準化の度合い | 初期負荷の傾向 |
|---|---|---|---|---|
| BtoB EC | 外商が法人顧客へ直接販売する取引(販売側) | 法人顧客・個人事業主 | 自社仕様で個別設計 | 顧客別価格・掛売機能の要件定義が中心になる |
| Web-EDI | 取引先ごとの個別受発注 | 特定の取引先 | 取引先ごとに仕様が異なりやすい | 取引先数が増えるほど個別対応が積み上がる |
| 流通BMS(百貨店版Ver2.1) | 百貨店が仕入先と行う取引(仕入側)*3 | 卸売・メーカー等の仕入先 | 業界標準メッセージに準拠*3 | 標準への対応が中心で、個社仕様の作り込みは小さい |
外商取引をEC化する進め方の5ステップ
外商取引のEC化は、次に示す5ステップで進めます。
- STEP1 現行の受発注業務を棚卸しする:チャネル別(電話・FAX・紙・メール)の件数と所要時間を洗い出します。
- STEP2 顧客区分と価格・与信の要件を整理する:顧客ごとの価格条件、掛売の与信枠、締め請求のサイクルを一覧化します。
- STEP3 受発注方式を選定する:BtoB EC・Web-EDI・流通BMSの適合を踏まえ、販売側(外商)と仕入側の要件を分けて選びます。
- STEP4 基幹・顧客管理・会計との連携を設計する:受注データを基幹システムや会計システムへどう連携させるかを設計します。
- STEP5 外商担当者の運用を設計し、段階移行する:代理発注の扱いを含め運用を設計し、顧客・取引ごとに段階的に移行します。
EC化後の外商担当者の役割:定型対応から提案業務へ
定型発注の自動化で提案・接客に時間を振り向けられる
定型的な発注や請求の処理をシステムに任せられれば、外商担当者は顧客との商談や提案に時間を振り向けやすくなります。件数の多い定型注文ほど、電話・FAXでのやり取りに時間を取られやすい業務でもあります。
購買履歴のデータ化が提案の材料になる
受発注をEC化すると、顧客の購買履歴がデータとして蓄積されます。このデータは次回提案の材料として活用できる可能性がありますが、活用の設計自体は別途必要な取り組みです。
移行時に外してはいけない配慮:既存顧客の受注チャネルを急に閉じない
長年電話やFAXで発注してきた顧客に対し、受注チャネルを一方的に閉じると、取引そのものを失うリスクがあります。既存の受注手段を残しながら、EC経由の比率を段階的に高める移行設計が必要です。
ここまでの運用設計と移行設計を、誰が担うかという論点も残ります。自社でEC化を内製で進めるには、外商の商習慣を理解した業務設計に加え、受発注システムの要件定義が必要です。電子帳簿保存法やインボイス制度への理解という複数領域の知識も求められます。これらを兼ね備えた担当者の確保が難しい場合、要件整理の段階から外部パートナーに相談する選択肢もあります。
専門パートナーに依頼すると、商習慣の要件整理と法制度対応を並行して進めやすくなります。内製の場合は、自社の商慣行への理解の深さを強みにできます。両者の違いを踏まえて進め方を選ぶことが大切です。
まとめ:外商取引EC化を判断する3つの軸
本稿では、百貨店の外商取引をEC化する背景と進め方を整理しました。要点を3つに集約すると、次の通りです。第一に、企業間取引のEC化率は43.1%まで上昇しており*1、外商の法人取引も電子化の検討対象に入ってきました。第二に、顧客別価格・掛売・代理発注という外商特有の商習慣は、要件整理の作業として一つずつ切り分けられます。第三の軸は、電子帳簿保存法とインボイス制度への対応を、EC化のプロジェクトへ最初から組み込むことでした。まず着手すべきは、現行の受発注業務の棚卸しです。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
外商取引のEC化は、既存の百貨店オンラインストアを流用できますか。
基本的には流用が難しいというのが結論です。百貨店オンラインストアは不特定多数の消費者へ同一価格を提示する設計が前提であり、顧客ごとに価格や取引条件が異なる外商取引とは要件が異なります。外商の商習慣に合わせた要件を、別途整理する必要があるでしょう。
外商割引や顧客別価格はECで再現できますか。
顧客区分や取引条件をシステム側の要件として設計すれば、再現できる可能性があります。標準的なカート型のECでは対応しにくいため、顧客ごとの価格・割引条件を管理できる受発注システムの選定が前提になります。
電子帳簿保存法への対応はEC化と同時に必要ですか。
同時に検討する必要があります。電子帳簿保存法は、注文書や見積書などの授受を電磁的方式で行う取引を「電子取引」と定義しており*2、外商取引をEC化すると該当する取引が増えるためです。EC化の要件定義の段階から、保存要件を組み込むことが望まれます。
紙・FAXの受注を残したまま部分的にEC化できますか。
部分的なEC化は可能です。長年紙・FAXで発注してきた顧客の受注チャネルを一方的に閉じると、取引を失うリスクがあります。既存の受注手段を残しながら、EC経由の比率を段階的に高める進め方が現実的です。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」報告書(2025年8月26日公表)
- *2 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」
- *3 出典:GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)「流通BMS」
- *4 出典:日本百貨店協会「2026年6月 全国百貨店売上高概況」(2026年7月24日公表)
- *5 出典:日本百貨店協会「2025年12月 全国百貨店売上高概況」(2026年1月23日公表)
- *6 出典:国税庁「電子帳簿保存法関係」
画像の出典元
- 受発注のイメージ/Photo by Efe Kurnaz on Unsplash
- 発注のイメージ/Photo by Giorgio Trovato on Unsplash
- 商習慣のイメージ/Photo by Ambre Estève on Unsplash
- 掛売のイメージ/Photo by Carlos Muza on Unsplash