◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 卸売の取り込み詐欺となりすまし発注は別の手口ですが、どちらも掛け取引の信用を悪用する点で共通しています。
- 受注前・受注時・出荷前という3つの関門に統制を置くことで、担当者の注意力に頼らない防止体制を作れます。
- 公的機関が提供する確認手段は費用と所要時間が明確なため、受注業務にそのまま組み込めます。
目次
卸売の取り込み詐欺・なりすまし発注とは
卸売の取り込み詐欺・なりすまし発注を防ぐには、3段階の統制が有効です。受注前に法人番号や登記情報で取引先の実在性を確認し、受注時はBtoB ECの与信設定と承認フローで例外的な操作を止め、出荷前に債権保全の手段を用意します。詐欺の認知件数は令和7年に7万2,532件と前年比26.5%増加しています*1。
卸売の取り込み詐欺とは、買主を装って商品を掛け(信用)取引で仕入れ、代金を支払わないまま商品を転売・処分して姿を消す詐欺です。少額の取引を重ねて信用を積み上げたうえで、大口注文の直後に連絡が取れなくなる展開が典型です。
なりすまし発注とは、実在する企業やその経営者・担当者になりすまして注文や振込先変更等を行わせる手口です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、偽の電子メールで従業員をだまし攻撃者の用意した口座へ送金させる手口をビジネスメール詐欺(BEC)と呼んでいます*3。IPAは、取引先との請求書を偽装するタイプと経営者等になりすますタイプの2パターンを示しています*4。両者は狙う対象が異なりますが、掛け取引という信用の仕組みを踏み台にする点は共通しています。
掛け取引とは、商品を先に引き渡し、代金を後日まとめて受け取る信用取引です。非対面のBtoB ECで受注を増やすほど、相手の実在性と支払能力を確かめる前に商品が動く場面が増えます。この構図が、取り込み詐欺・なりすまし発注のどちらにも共通する入り口になります。
防止の全体像を3つの関門で押さえる
防止策は、受注前・受注時・出荷前という業務の流れに沿った3つの関門で考えると整理しやすくなります。関門ごとに置く統制が異なるため、以下に着手順序に沿って示します。
受注前・受注時・出荷前 ― 防止の3ゲート(順位根拠:業務の実施順序)
- 受注前ゲート:申込を受け付けた段階で、法人番号や登記情報を使って取引先の実在性を確かめます。
- 受注時ゲート:BtoB ECのアカウント審査と与信設定で、送付先変更や初回大口注文などの例外操作を承認待ちにします。
- 出荷前ゲート:初回×大口や新規送付先が重なる注文を出荷保留の対象にし、必要に応じて債権保全の手段を講じます。
卸売でリスクが高まっている一次データ
警察庁の「令和7年の犯罪情勢」によると、詐欺の認知件数は令和7年に7万2,532件となり、前年比で26.5%増加しました*1。検挙件数も1万7,448件と前年比7.9%増加しています*1。ただしこの数値は特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺を含む詐欺全体の総数であり、卸売取引を狙う取り込み詐欺だけを集計したものではありません。同資料では令和7年の特殊詐欺・SNS型投資・ロマンス詐欺に関する数値は暫定値と注記されている点にも留意が必要です*1。
ビジネスメール詐欺(BEC)は、IPAが2026年1月29日に公表した「情報セキュリティ10大脅威2026」の組織編で10位にランクインしました。選出は9年連続9回目です*2。同じ組織編では1位にランサム攻撃、2位にサプライチェーンや委託先を狙う攻撃が並んでおり、BECは取引先を装う手口として継続的に警戒対象になっています*2。
掛け取引を前提とする卸売と、非対面のBtoB受注という組み合わせでは、相手を確認する機会が対面取引より少なくなります。件数の増加傾向という事実と、受注業務の非対面化という自社の状況を重ね合わせると、確認の仕組みを持たない受注フローほど狙われやすいと言えます。
手口の型を知る4類型
卸売を狙う手口は、大きく4つの型に整理できます。犯行の実行手順は本記事では扱わず、防止側が気づけるサインと有効な統制に絞って解説します。
型1|少額取引で信用を作り大口で持ち逃げする
小口の注文を複数回にわたって正常に決済し、取引実績を積み上げたうえで大口注文に切り替え、代金を支払わないまま姿を消す型です。取引実績があるという事実そのものが油断の材料になりやすく、与信限度額を据え置いたままにしていると被害が拡大します。
型2|取引先になりすます(BECタイプ1)
IPAが示す請求書偽装のパターンで、攻撃者が既存の取引先を装い、振込先を差し替えた偽の請求書を送りつけて入金させる型です*4。卸売側が発注者ではなく受取側になる場面でも、送付先や連絡先の変更依頼という形で同種の手口が使われます。
型3|経営者・幹部になりすます(BECタイプ2)
攻撃者が経営者や役員になりすまし、従業員に緊急の振込や発注変更を指示する型です*4。財務・経理部門だけでなく、受注センターが「至急対応」の指示を受ける形で巻き込まれることもあります。
型4|法人名義そのものを用意する
休眠法人や名義を借りた法人を使い、書類上は実在する企業として取引を申し込む型です。法人番号や商号自体は実在するため、名称の一致だけを確認する運用では見抜きにくくなります。
| 手口 | 侵入する工程 | 見抜けるサイン | 有効な統制 |
|---|---|---|---|
| 型1|少額実績からの持ち逃げ | 受注前〜与信の据え置き | 急な大口注文への切り替え。 | 与信限度額の自動しきい値管理。 |
| 型2|取引先になりすます | 受注時の連絡・請求 | 振込先・送付先の急な変更依頼。 | 口座・送付先変更の承認フロー。 |
| 型3|経営者・幹部になりすます | 受注時の指示経路 | 通常と異なる経路からの至急指示。 | 社内規程の整備と情報共有。 |
| 型4|法人名義そのものを用意 | 受注前の実在確認 | 名称は一致するが所在地・代表者に不整合。 | 登記情報の全部情報の確認。 |
受注前に取引先の実在性を公的情報で確かめる
受注前ゲートでは、費用と所要時間が明確な公的な確認手段を組み合わせます。以下は基本的な確認の流れです。
- 申込を受け付け、商号・所在地・法人番号を登録します。
- 国税庁法人番号公表サイトで基本3情報(商号又は名称、本店又は主たる事務所の所在地、法人番号)を突合します。無料で利用でき、法人番号システムWeb-APIを使えば自社システムとの自動突合も可能です*6。
- 登記情報提供サービスで全部情報を取得します。商業・法人の全部情報は330円で、令和8年4月1日適用の料金です*7。所在地・目的・代表者に不自然な変更履歴がないかを確認します。
- 商業登記電子証明書で商号・本店・代表者の資格、氏名等を電子的に確認します。手数料は証明期間に応じて1か月500円から27か月8,300円までで、令和7年4月の引下げ後の額です*8。
- 確認結果をもとに、初回の与信枠を設定します。
法人番号の一致だけでは、代表者や事業実態までは確認できません。基本3情報の突合はあくまで入り口の確認であり、登記の全部情報と電子証明書を組み合わせて初めて、名義だけの法人(型4)を見抜く手がかりが揃います。
受注時はBtoB ECの設定でなりすましを止める
受注前の人手による確認だけでは、なりすまし発注の全パターンを止めきれません。BECタイプ2のように、担当者が正しい取引先だと信じたまま指示に従ってしまう場面では、システム側の設定による歯止めが必要になります。
アカウント発行を審査制にする
BtoB ECのアカウント発行時に、申込法人の実在確認と担当者のメールドメイン確認を審査項目に組み込みます。フリーメールやなりすましやすいドメインからの申込は、人の目による追加確認に回します。
与信限度額と自動与信のしきい値を持たせる
取引先ごとに与信限度額を設定し、限度額を超える注文は自動で承認待ちに切り替える設定が有効です。型1のように少額取引で信用を積み上げてから大口へ切り替える手口は、限度額を据え置いたままでは防げません。
例外操作を止める承認フローを置く
送付先変更、振込口座変更、初回の大口注文という3つの例外操作には、承認フローを通す設定が要になります。IPAはBEC対策として、電信送金に関する社内規程の整備、組織内外での情報共有、電子署名の付与を挙げています*5。これらの対策は、受注システム側の承認フローと組み合わせて初めて実効性を持ちます。
こうした与信枠の保持や承認フローは、担当者の判断力だけでは再現性を持たせにくく、システムの設定として仕組み化する必要があります。無料相談で要件を整理すると、自社の受注フローのどこに承認フローを追加すべきかが具体的に見えてきます。
BtoB EC・受注システムの構築における与信連携の対応範囲は、既存の販売管理システムや与信サービスとの接続方式によって案件ごとに異なる点に留意が必要です。
出荷前の最後の関門と債権保全
受注前・受注時の統制をすり抜けた注文があっても、出荷前ゲートで止められる余地は残っています。初回取引かつ大口、新規の送付先、短納期の同時指定が重なる注文は、出荷保留の判定対象にします。
前払い・担保・所有権留保の使い分け
初回大口の注文には前払いを求める、または担保や所有権留保付きの契約条件を設定することで、代金回収前に商品の所有権が完全に移転する事態を避けられます。取引条件は個別の契約内容によって変わるため、契約書の設計は弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
未回収時に使える法的な手段
商品を引き渡した後に代金が未回収となった場合でも、法的な手段が残っています。民法第321条は、動産の売買の先取特権について「動産の代価及びその利息に関し、その動産について存在する」と定めています*10。引き渡した動産そのものに対して、優先弁済権を主張できる仕組みです。
詐欺による意思表示は、民法第96条により取り消すことができます*10。ただし同条第3項は「善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない」と定めています*10。商品がすでに第三者へ転売されている場合、取消しの効果が及ばないことがあります。個別の事案でどの手段が使えるかは状況によって異なるため、早い段階で弁護士に相談することが望まれます。
被害が疑われたときの初動
取り込み詐欺やなりすまし発注が疑われた場合は、まず出荷停止の判断とあわせて証跡を保全します。やり取りしたメール、受注データ、送付先情報は削除せず保存します。
刑法第246条は「人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する」と定める詐欺罪の規定です*9。電子計算機を用いた財産上の不正な利益取得は、同法第246条の2の電子計算機使用詐欺として同様に十年以下の拘禁刑の対象となります*9。被害が疑われる場合は、警察への相談とあわせて、BECの手口が疑われるならIPAへの情報提供も選択肢になります*3。
初動対応が済んだら、どの関門を通過されたのかを工程単位で振り返ります。受注前の実在確認が甘かったのか、受注時の承認フローに漏れがあったのか、出荷前の保留判定が機能しなかったのかを特定できれば、次の再発防止につながります。
チェックリスト:受注前・受注時・出荷前
3つのゲートごとに、確認しておきたい項目をまとめます。自社の受注フローと照らし合わせてご確認ください。
受注前ゲート
- 国税庁法人番号公表サイトで基本3情報を突合しているか。
- 登記情報提供サービスで全部情報を取得し、代表者・所在地の変更履歴を確認しているか。
- 商業登記電子証明書で代表者の資格・氏名を電子的に確認する運用があるか。
- 確認結果に基づいて初回の与信枠を設定しているか。
受注時ゲート
- BtoB ECのアカウント発行を審査制にしているか。
- 与信限度額を超える注文が自動で承認待ちになる設定があるか。
- 送付先変更・振込口座変更・初回大口注文に承認フローが設定されているか。
- 電信送金に関する社内規程を整備しているか*5。
出荷前ゲート
- 初回×大口×新規送付先が重なる注文を出荷保留の対象にしているか。
- 前払い・担保・所有権留保のいずれかを使い分ける基準があるか。
- 未回収時に先取特権や意思表示の取消しといった法的手段を検討できる体制があるか。
まとめ:防止設計を貫く3つの判断軸
本稿では、卸売の取り込み詐欺・なりすまし発注を防ぐための考え方を整理しました。要点を3つに集約します。第一に、取り込み詐欺となりすまし発注は手口が異なっても、掛け取引の信用を悪用する点で共通しており、両方を1つの防止設計でカバーする必要があります。第二に、受注前・受注時・出荷前という3つの関門ごとに、担当者の注意力ではなくシステムの設定で止める仕組みを持たせることが有効です。第三に、公的な確認手段は費用と所要時間が明確なため、法人番号・登記情報・電子証明書を組み合わせて実務に組み込めます。自社の受注フローのどこに関門があるかを、上のチェックリストで確認することから始められます。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
取り込み詐欺と通常の売掛金未回収はどう違いますか。
取り込み詐欺は、最初から代金を支払う意思がないまま商品を取得する点で、支払能力の悪化による通常の売掛金未回収とは異なります。刑法第246条の詐欺罪は「人を欺いて財物を交付させた」ことを要件としており*9、支払意思の有無が法的な評価の分かれ目になります。
法人番号が確認できれば取引して問題ありませんか。
法人番号の一致だけでは十分ではありません。国税庁法人番号公表サイトで確認できる基本3情報は商号・所在地・法人番号にとどまり*6、代表者や事業実態までは分かりません。登記情報提供サービスの全部情報と商業登記電子証明書を組み合わせて確認することをおすすめします。
商業登記電子証明書は何を証明していますか。費用はいくらですか。
商業登記電子証明書は、商号、本店、代表者の資格、氏名等を電子的に証明するものです*8。手数料は証明期間に応じて1か月500円から27か月8,300円までで、令和7年4月の引下げ後の額です*8。
商品を引き渡した後でも取り戻す手段はありますか。
未回収の代金については、民法第321条の動産売買の先取特権や、詐欺による意思表示の取消し(民法第96条)といった法的手段が考えられます*10。ただし転売先が善意でかつ過失がない第三者にあたる場合は取消しの効果が及ばないため*10、個別の状況を弁護士に相談することをおすすめします。
- *1 出典:警察庁「令和7年の犯罪情勢」(令和8年2月)
- *2 出典:独立行政法人情報処理推進機構「情報セキュリティ10大脅威2026」(2026年1月29日公表)
- *3 出典:独立行政法人情報処理推進機構「ビジネスメール詐欺(BEC)対策特設ページ」(2026年3月30日更新)
- *4 出典:独立行政法人情報処理推進機構「ビジネスメール詐欺のパターン」(2022年9月28日更新)
- *5 出典:独立行政法人情報処理推進機構「ビジネスメール詐欺 FAQ」(2023年2月9日更新)
- *6 出典:国税庁「国税庁法人番号公表サイト」
- *7 出典:法務省「登記情報提供サービスの利用料金等一覧」(令和8年4月1日適用)
- *8 出典:法務省「ファイル形式(従来型)の商業登記電子証明書の取得方法」
- *9 出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「刑法」第246条・第246条の2
- *10 出典:デジタル庁 e-Gov法令検索「民法」第96条・第321条
画像の出典元
- 卸売 取り込み詐欺 なりすまし 防止のイメージ/Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash
- 卸売 取り込み詐欺 なりすまし 防止のイメージ/Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash
- 卸売 取り込み詐欺 なりすまし 防止のイメージ/Photo by FlyD on Unsplash
- 卸売 取り込み詐欺 なりすまし 防止のイメージ/Photo by Zulfugar Karimov on Unsplash
- 卸売 取り込み詐欺 なりすまし 防止のイメージ/Photo by Jacques Dillies on Unsplash