◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- BtoB ECで納期の問い合わせが生まれる場面を、発注前・受注後・出荷後・例外の4類型に分けて整理します。
- 表示・通知・自己照会・自動応答・人的対応という5層で、打ち手の役割分担を解説します。
- 削減率を断定せず、自社のログで効果を測る具体的な指標と手順を示します。
目次
BtoB ECの納期問い合わせ削減とは ― 聞かれる前に答えを置く設計
BtoB ECの納期問い合わせ削減とは、取引先が納期を人に聞かずに把握できる状態を、表示・通知・自己照会の設計でつくることです。BtoB-EC市場規模は514.4兆円に達しており*1、取引量の増加とともに納期確認の負荷も広がりやすくなっています。
問い合わせを減らす取り組みは、対応を速くすることではありません。発生する場面を発注前・受注後・出荷後・例外の4類型に分け、類型ごとに答えを先に置くことが出発点になります。
効果が出やすい順序には目安があります。まず情報を表示し、次に通知で知らせ、自分で調べられる照会の仕組みを整え、よくある質問には自動応答で対応し、最後に人が個別に判断する、という並びです。どこまで削減し、どこを人に残すかを先に決めておくことも欠かせません。
設計を進める優先順5点(順位根拠:実施順序)
- 発注前・受注後・出荷後・例外の4類型に、自社の問い合わせを分けます。
- 表示・通知・自己照会・自動応答・人的対応の5層に、打ち手を対応づけます。
- 表示する情報の粒度・導線・訂正時の扱いを先に決めます。
- 問い合わせ件数・対応時間・自己解決率を、着手前後で比較できる形に整えます。
- 与信や特別価格など、自動化しない範囲を明文化して残します。
設計①:発注前・受注後・出荷後・例外 ― 納期問い合わせの4類型
設計①は、納期の問い合わせが生まれる場面を分解することです。場面ごとに疑問の中身が違うため、同じ打ち手をすべてに当てても対応が追いつきません。
類型A:発注前「いつ入るか」が見えない
発注前の問い合わせは、在庫と入荷予定日が見えないことから生まれます。カタログやカートの画面だけでは、今すぐ発注できるかどうかを取引先が判断できません。発注のタイミングを逃したくない担当者ほど、営業担当者や受注窓口へ先回りで確認する行動につながります。
類型B:受注後・出荷前「注文はどうなったか」
受注した後の問い合わせは、受注状況と出荷可能日(在庫と生産状況から算出した、出荷が可能になる見込み日)が見えないことから生まれます。発注した側は、受理されたのか、いつ出荷されるのかを確認したくなります。
類型C:出荷後「いつ着くか」
出荷後の問い合わせは、出荷案内や伝票番号が届いていないことから生まれます。荷物が動き出した後の情報が手元にないため、到着日を電話やメールで確認する流れになりがちです。
類型D:例外「間に合わせてほしい」
例外の問い合わせは、交渉や特別対応を求めるものです。この類型は削減の対象ではなく、人が個別に判断して答える窓口として残します。
設計②:表示・通知・照会 ― 5層と4類型の対応づけ
設計②は、5層の打ち手を4類型に対応づけることです。表示・通知・自己照会という順に、答えを先に置く場所を整理します。
表示で答える:在庫区分・出荷可能日・入荷予定日
表示で答える対象は、主に類型Aと類型Bです。在庫区分・出荷可能日・入荷予定日を商品詳細やカートの画面に置くと、発注前の疑問の多くを表示だけで解消できます。在庫区分や出荷可能日を正しく出すには、基幹システムの在庫データと連携しておく必要があります。
通知で答える:受注確認・出荷案内・遅延の一次連絡
通知で答える対象は、主に類型Bと類型Cです。受注確認や出荷案内を自動で送ると、注文がどう進んでいるかを取引先が自分で把握できます。遅延が生じた場合の一次連絡も、この層で扱います。
自分で調べられるようにする:発注履歴・注文状況照会・自動応答
自己照会と自動応答の層は、主に類型Bと類型Cを支えます。発注履歴や注文状況をマイページで確認できるようにし、よくある質問には自動応答で対応します。個別の回答ロジックの設計は、この記事では扱いません。
| 類型 | 打ち手 | 効果の出やすさ | 実装の重さ | 前提データ |
|---|---|---|---|---|
| 類型A:発注前 | 在庫区分・入荷予定日の表示 | 高い | 中程度 | 基幹在庫・入荷予定データ |
| 類型B:受注後・出荷前 | 受注確認通知・出荷可能日表示・注文状況照会 | 高い | 中〜大 | 受注ステータス・出荷予定日 |
| 類型C:出荷後 | 出荷案内通知・配送状況照会 | 中〜高い | 中程度 | 出荷実績・伝票番号 |
| 類型D:例外 | 自動化せず、人が個別に確認・交渉 | 対象外(削減しない) | 低い(運用ルールの明文化) | 判断基準の明文化 |
設計③:粒度・導線・訂正 ― 表示を機能させる3条件
設計③は、表示を機能させる条件を整えることです。表示したのに問い合わせが減らない状態には、次の3条件のいずれかが欠けています。
条件1:確定日と目安日を書き分ける
1つ目の条件は、粒度を決めることです。確定した出荷可能日なのか目安の日付なのかを画面上で書き分けないと、取引先は表示された日付をそのまま約束として受け取ります。
条件2:たどり着ける導線にする
2つ目の条件は、導線です。商品詳細・カート・マイページのどこに出荷可能日を置くかを設計しないと、情報を用意しても取引先が見つけられません。
条件3:外れたときの扱いを先に決める
3つ目の条件は、表示が外れたときの扱いです。訂正の連絡経路と記録の残し方を先に決めておくと、遅延が発生した場合にも対応が遅れにくくなります。
設計④:棚卸し・分類・適用・再計測 ― 削減効果の測り方
設計④は、削減の効果を測る仕組みを持つことです。「問い合わせが◯%減った」という一般的な統計は一次情報として確認できないため、自社のログで測る方法を示します。効果を数値で語る前に、まず何を分子・分母として比較するのかを決めておく必要があります。進め方は、棚卸し・分類・打ち手の適用・再計測の4ステップです。
3つの指標の定義と母数の置き方
測る指標は、納期問い合わせ件数・1件当たりの対応時間・自己解決率の3つです。件数だけでなく、母数となる注文件数や問い合わせチャネルの範囲をそろえないと、期間をまたいだ比較ができません。
チャネル別のログをそろえる
EC内の照会ログ、問い合わせフォーム、メール、電話の記録は、それぞれ別の場所に残りがちです。分類の軸をそろえたうえで、月次などの単位で集計できる状態に整えます。
着手前の棚卸しで足りる範囲
着手前の1〜2週間で、問い合わせの内容を4類型に分類し、内訳を棚卸しします。全件を記録できない場合は、サンプリングで内訳の比率をつかむ範囲でも出発点になります。
設計⑤:自動化しない範囲を決める ― 人が答える問い合わせの線引き
設計⑤は、自動化しない範囲を決めることです。件数を減らす取り組みであって、窓口そのものをなくす取り組みではありません。
自動回答しないものを決める
与信に関わる回答、特別価格の提示、欠品時の代替提案、納期の交渉は、自動応答の対象から外します。個別の条件によって答えが変わる問い合わせだからです。
受け口は残す
削減するのは件数であり、受け口をなくすことではありません。電話やメールの窓口を残したうえで、夜間や休日の受付体制を含めて運用を整理します。表示・通知・自己照会で答えられない相談ほど、人による対応の価値が相対的に高まります。
回答の記録を残す
誰が何を約束したかを追える記録を残すことも欠かせません。個別対応の内容が記録として残っていれば、後から確認や引き継ぎがしやすくなります。
物流・法令の要請と納期表示をつなげる ― 社内説明の材料
納期情報の提供は、社内の利便性にとどまらず、物流・法令の要請にも重なります。ここでは社内説明に使える一次情報を整理します。
3省ガイドラインの「納品リードタイムの確保」と「出荷情報等の事前提供」
経済産業省・農林水産省・国土交通省が2023年6月に策定したガイドラインは、着荷主事業者の実施が必要な事項として納品リードタイムの確保を挙げます*2。発荷主事業者の推奨事項に位置づけられたのが、出荷情報等の事前提供です*2。対象となるのは、荷待ち時間(トラックが荷降ろし・荷積みの順番を待つ時間)と荷役等時間(荷物の積み下ろしにかかる時間)の合計です*2。この合計を計2時間以内とするルールが定められました*2。2時間以内を達成した荷主事業者は、目標時間を1時間以内と設定して更なる短縮に努めることとされています*2。
物効法の努力義務と特定事業者の中長期計画
物資の流通の効率化に関する法律(物効法)は、旧称を流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律とする法律です。荷待ち時間等を定義規定に置き、荷主の取り組みの根拠となっています*3。国土交通省の資料では、段階的な施行が示されています*4。2025年4月に荷主・物流事業者等の努力義務と判断基準が施行され、2026年4月に特定事業者の指定と中長期計画の提出・定期報告が続きます*4。自社が特定事業者に該当するかどうかは、指定要件と自社の規模に照らして個別に確認する必要があります。
実態調査が示す拘束時間と取適法の明示義務
国土交通省の実態調査では、1運行当たりの平均拘束時間が11時間46分でした*4。内訳は荷待ち時間が1時間28分、荷役時間が1時間34分です(2024年度調査、有効回答2,544運行)*4。荷待ちと荷役の合計は前回調査とほぼ横ばいで、目標値には届いていません*4。判断基準では、適切なリードタイムの確保が積載効率向上の柱の一つに挙げられています*4。
中小受託取引適正化法(取適法。旧・下請代金支払遅延等防止法で、2026年1月1日に施行)は、委託事業者に給付の内容や支払期日等を書面又は電磁的方法で明示する義務を課しています*5。支払期日は受領日から起算して60日の期間内と定められています*5。施行に向けた周知は公正取引委員会も行っています*6。
まとめ:納期問い合わせ削減を決める3つの判断軸
本稿では、BtoB ECの納期問い合わせを減らす5つの設計を整理しました。要点は3つに集約できます。第一に、問い合わせが生まれる場面を4類型に分けます。第二に、表示・通知・自己照会・自動応答・人的対応の5層で役割を分担させます。第三に、削減率を断定せず、自社のログで効果を測る仕組みを持つことです。まずは1〜2週間の棚卸しから着手するのが現実的な一歩になります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
納期の問い合わせは、どれくらいで減り始めますか。
効果が出るまでの期間は、削減対象に選ぶ類型や社内のデータ連携の状況によって変わるため、一律の期間は示せません。まず1〜2週間の棚卸しで問い合わせの内訳を分類し、発生源の多い類型から表示・通知の設計に着手する進め方が現実的です。効果測定の指標と手順は、本文の計測の章で示した4ステップに沿って確認します。
在庫数をそのまま公開しても問題ありませんか。
数量そのものではなく、在庫区分や出荷可能日として粒度を決めて表示する設計が実務的です。取引先ランクや与信によって出し分けが必要になる場合もあるため、公開範囲は自社の商習慣に合わせて設計します。
出荷可能日を表示すると、それは納期の約束になりますか。
表示する情報が確定日なのか目安日なのかを、表示側で書き分ける設計が前提になります。外れた場合の訂正連絡の経路をあらかじめ決めておくことも欠かせません。
電話の受け口はなくしてよいですか。
削減の対象は問い合わせの件数であり、窓口そのものをなくすことではありません。与信や特別価格、欠品時の代替提案など、人が判断すべき例外は残す設計が前提です。
問い合わせ削減の効果は、どの数値で社内に報告すればよいですか。
納期問い合わせ件数、1件当たりの対応時間、自己解決率の3指標を、着手前後で比較する形が基本になります。母数の置き方をそろえたうえで、EC内の照会ログとメール・電話の記録を継続的に確認します。
- *1 出典:経済産業省 商務情報政策局 情報経済課「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(令和7年8月26日公表)(PDF)
- *2 出典:経済産業省・農林水産省・国土交通省「物流の適正化・生産性向上に向けた荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(2023年6月)(PDF)
- *3 出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)「物資の流通の効率化に関する法律」(現行)(法令本文)
- *4 出典:国土交通省 物流・自動車局「第17回 トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会 資料1」(令和6年12月25日)(PDF)
- *5 出典:e-Gov法令検索(デジタル庁)「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(現行)(法令本文)
- *6 出典:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」(告知ページ)
画像の出典元
- 配送納期を示す数字/Photo by Zhuo Cheng you on Unsplash
- 受注のイメージ/Photo by Lucas on Unsplash
- 出荷のイメージ/Photo by Guilherme Mendes on Unsplash
- 物流のイメージ/Photo by Jacques Dillies on Unsplash