◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- オンライン受発注への移行は、棚卸し・範囲決定・要件定義・併走・切替の5ステップで進めます。
- 電子帳簿保存法上、受発注のオンライン化は「電子取引」に該当し、要件定義の段階で保存方法を決める必要があります。
- 取引先を巻き込むには、一斉切替ではなくFAXとの併走期間を設計し、経路別の移行率で進捗を見ることが有効です。
目次
オンライン受発注への移行とは、紙・FAXの注文をデータでやり取りする状態にすること
オンライン受発注への移行とは、FAX・電話・紙・Excelで行っていた注文の受付と発注のやりとりを置き換えることです。置き換え先は、Web上のシステムを介したデータのやりとりになります。これにより、受注データを在庫・請求などの後続業務へそのまま引き渡せる状態になります*1。
中小企業庁は、受発注のデジタル化によって(1)作業効率の向上、(2)人的ミスの軽減、(3)取引記録の検索性の向上という3つのメリットが得られるとしています*1。これは2021年時点で受注側の48.5%が電子受発注に対応しているという実態*1を踏まえた整理であり、移行を検討する際の効果の見立てとして参照できます。
作業効率の向上とは、FAXや電話で受けた注文を基幹システムへ手作業で転記する工程が減ることを指します。人的ミスの軽減は、転記時の入力誤りや聞き取り違いが構造的に発生しにくくなることを意味します。取引記録の検索性の向上は、過去の取引をデータとして検索・参照できるようになることです。
本記事は、オンライン受発注へ移行する手順と、移行時に確定しておく電子帳簿保存法上の保存要件を扱います。電話・FAX受注そのものを停止する判断や移行方式の比較は、別記事で扱います。
移行を進める前に確認したい優先順5点(順位根拠:着手順序の依存関係)
- 現状の受発注経路と件数を数える。棚卸しをせずに範囲を決めると、対象選定を誤ります。
- 件数の多い取引先から対象範囲を絞る。全取引先を一度に切り替える必要はありません。
- 基幹連携の要件と電子帳簿保存法上の保存要件を同時に定義する。後から要件を足すと手戻りが生じます。
- 取引先への案内と併走期間を設計する。併走期間なしの一斉切替は取引先の離脱を招きます。
- 旧経路を止める基準をあらかじめ決める。基準がないまま併走を続けると移行が長期化します。
自社の現在地:紙・口頭中心の「段階1」から始まる4つの取組段階
中小企業庁の2025年版中小企業白書は、中小企業・小規模事業者のデジタル化の取組状況を4つの段階に区分しています*2。段階1は「紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態」、段階2は「アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態」です。
段階3は「デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態」です。段階4は「デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態」と定義されています*2。オンライン受発注への移行は、主に段階1または段階2の事業者が段階2・段階3へ進む取り組みに位置づけられます。
受発注のオンライン化は「段階2」から「段階3」への分かれ目にある
同白書の第1-1-42図は、取組段階が「段階2」以上の事業者について、DXに向けた取組内容を分析しています*2。それによると「顧客データの一元管理」や「営業活動や受発注管理のオンライン化」の取組では、段階2の事業者と段階3の事業者の間で回答割合の差が大きくなっています。DXに向けて有効な取組である可能性が示唆されています*2。なお同白書は、2023年・2024年の調査がいずれもサンプル調査であると注記しています。調査間で母集団が異なるため、回答割合を一概には比較できない点に留意が必要です*2。
つまり受発注のオンライン化は、単なるツール導入にとどまらず、業務効率化やデータ分析に取り組む段階3へ進むための代表的な一歩として位置づけられます。自社がどの段階にあるかを確認したうえで着手範囲を考えることが、投資判断の土台になります。
自己診断チェックリスト:紙・口頭中心か、ツールがあってもデータがつながっていないか
| 段階 | 定義(中小企業庁の区分) | 受発注の状態の目安 |
|---|---|---|
| 段階1 | 紙や口頭による業務が中心で、デジタル化が図られていない状態*2 | FAX・電話中心で、受注内容を手作業で基幹システムへ転記している。 |
| 段階2 | アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態*2 | 電子メールやExcelは使っているが、受発注データは基幹システムとつながっていない。 |
| 段階3 | デジタル化による業務効率化やデータ分析に取り組んでいる状態*2 | 受発注システムで受けたデータが在庫・売上管理と連携し、業務フローを見直している。 |
| 段階4 | デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化に取り組んでいる状態*2 | 蓄積した受発注データを販路拡大や新商品開発に活用している。 |
自社の受発注が段階1(FAX・電話中心)にあるか、段階2(ツールはあるがデータが連携していない)にあるかを見分けます。この見極めが、次に取り組む範囲を決める出発点になります。
移行の5ステップ:棚卸し・範囲決定・要件定義・併走・切替
オンライン受発注への移行は、現状把握から定着まで5つのステップで進めます。全社一斉の切替を前提にせず、範囲を絞って段階的に進める設計です。
ステップ1:現状の受発注フローを棚卸しする
まず注文の経路別に件数と所要時間を数えます。対象はFAX・電話・メール・EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)などの経路ごとの件数です。これを把握しないまま次のステップに進むと、対象範囲の優先順位を誤ります。棚卸しの結果を見ることで、電子帳簿保存法の保存要件をどこまで含めるかも判断しやすくなります。
棚卸しには、営業事務・受注センターなど実務担当者への聞き取りが欠かせません。属人化した運用ルールがある場合は、それを明文化した上で次のステップに引き継ぎます。
ステップ2:移行範囲と優先順位を決める
全取引先を対象にするのではなく、注文件数の多い経路や取引先から着手します。範囲を絞れば、初期投資と社内の作業負荷を抑えられる点が利点です。
中小企業庁の2025年版中小企業白書は、DXに向けた取組を進めるうえでの問題点を示しています。回答割合が高いのは「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」の2つです*2。これはいずれの取組段階にも共通する傾向です。この結果は、範囲を絞った段階的な着手が現実的な選択であることを裏づけます。
ステップ3:要件を定義する
要件定義では、基幹システムとの連携方法、取引先別の価格・取引条件、そして電子帳簿保存法の保存要件を同時に確定します。保存要件を後回しにすると、システム選定後に保存方法の見直しが必要になる場合があります。
自社の数字で移行後の負荷を確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。要件定義は項目が多く、社内だけで棚卸しから要件確定まで進めるには工数がかかります。
ステップ4:取引先を巻き込み、併走期間を設計する
取引先への案内は、切替日を一方的に通知するのではなく、併走期間を設けて段階的に移行してもらう設計が現実的です。併走期間中は、経路別の移行率(オンライン経由の注文が全体に占める比率)を継続的に確認します。
移行率が一定水準に達しない取引先には、個別に利用方法を案内する対応が必要になる場合があります。併走期間の長さは、取引先数や注文頻度によって異なるため、一律の期間を断定することはできません。
ステップ5:切替と定着
併走期間で移行率が十分に高まった経路から、旧来のFAX・電話受注を打ち切ります。打ち切り基準をステップ4の段階であらかじめ決めておくことで、運用担当者の判断のばらつきを防げます。
切替後は、オンライン受発注の運用手順を社内で引き継ぎ、担当者が交代しても業務が滞らない体制にしておくことが必要です。
電子帳簿保存法が定める電子取引の保存義務
オンライン受発注への移行を検討する際に関わる制度が、電子帳簿保存法です。正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます*3。同法は現行版が令和7年法律第13号による改正を経て、2025年4月1日に施行されています*3。
受発注のオンライン化は法第2条第5号が定める「電子取引」に該当する
同法第2条第5号は、電子取引を次のように定義しています。「電子取引 取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう。以下同じ。)の授受を電磁的方式により行う取引をいう。」*3
受発注をFAX・電話からWeb上のシステムへ移すと、注文書に相当する取引情報のやりとりを電磁的方式で行うことになるため、この定義に該当します。したがって、移行と同時に同法上の対応が必要になります。
電子取引の取引情報は電磁的記録での保存が義務づけられている(法第7条)
同法第7条は次のように定めています。「所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない。」*3
この保存義務は、オンライン受発注への移行後に検討するものではなく、要件定義の段階で保存方法とあわせて確定すべき事項です。具体的な保存方法や事務処理規程のひな形は、国税庁の特設サイトと参考資料で確認できます*4*5。
要件定義に保存方法を組み込む
国税庁は電子帳簿等保存制度特設サイトで、電子取引データの保存に関する情報を公開しています*4。また、電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程について、法人向け・個人事業者向けのサンプルを参考資料として提供しています*5。オンライン受発注システムの要件定義の段階で、これらのひな形を参照しながら自社の保存ルールを検討することが実務上の進め方になります。
移行が止まる4つの原因と回避策
オンライン受発注への移行が途中で止まる背景には、共通した原因があります。原因ごとに回避策を整理します。
| 止まる原因 | 背景 | 回避策 |
|---|---|---|
| 費用と人材が足りない | DXに向けた取組の問題点として「費用の負担が大きい」「DXを推進する人材が足りない」の回答割合がいずれの取組段階でも高い*2。 | 全取引先を対象にせず、件数の多い経路に範囲を絞って着手する(ステップ2)。 |
| 取引先が使ってくれない | 一斉切替を通知するだけでは、取引先側の運用変更が追いつかない場合がある。 | 併走期間を設計し、経路別の移行率で進捗を確認する(ステップ4)。 |
| 既存システムとつながらない | 受発注システムを個別に導入すると、取引先ごとに専用端末や様式が必要になり得る。 | 中小企業庁が仕様を策定した中小企業共通EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)のような標準仕様を選択肢に含める*1。 |
| 社内の運用が属人化している | 特定の担当者しか受発注フローの詳細を把握していない状態。 | ステップ1の棚卸しに立ち戻り、フローを明文化する。 |
中小企業共通EDIとは、受発注業務のIT化を実現できる仕組みです。ITの利用に不慣れな中小企業でも、簡単・低コストで導入できる点が特徴です。中小企業庁がその仕様を策定しました*1。実証事業により業務効率向上が確認されているため、既存システムとの連携に不安がある場合の選択肢になります*1。
これらの作業を内製で進めるには、受発注フローの業務知識に加えて、基幹システムとの連携仕様や電子帳簿保存法の保存要件を理解した人材が必要になります。要件定義から取引先対応まで一貫して担当できる人員を確保できない場合、対応が長期化する要因になります。
移行後に見る3つの定着指標
移行が計画どおりに進んでいるかは、次の3つの指標で確認します。
オンライン経由の受注比率
全受注件数のうち、オンライン受発注システムを経由した件数の比率です。経路別に集計することで、併走期間中のどの取引先が移行できていないかを把握できます。
転記・確認にかかっていた時間の変化
FAX・電話で受けた注文を基幹システムへ転記する作業時間が、移行前後でどう変化したかを確認します。中小企業庁は受発注デジタル化のメリットとして作業効率向上を挙げており*1、この指標はその効果を自社の状況で確認する手がかりになります。
取引記録の検索性(過去取引の照会にかかる時間)
過去の取引を照会する際にかかる時間も、デジタル化の効果を測る指標の一つです*1。紙の伝票を探す時間がどの程度短縮されたかを、定性的にでも確認しておくと、次の投資判断の材料になります。
まとめ:着手の判断軸
オンライン受発注への移行は、棚卸し・範囲決定・要件定義・併走・切替の5ステップで進めます。全社一斉の切替は前提にせず、件数の多い経路から範囲を絞るのが現実的です。電子帳簿保存法の保存要件は、要件定義の段階で組み込み、移行後への先送りを避けます*3。取引先の巻き込みでは、併走期間の長さと経路別の移行率が進捗の指標になります。着手の第一歩は、自社の受発注フローを経路別に棚卸しすることです。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
FAXをすぐ止める必要はありますか。
すぐに止める必要はありません。併走期間を設けて経路別の移行率を確認しながら、移行が十分に進んだ経路から順に打ち切る進め方が現実的です(ステップ4・5)。一斉切替は取引先の離脱を招く要因になり得ます。
取引先が少数でも移行する意味はありますか。
意味はあります。中小企業庁は受発注デジタル化のメリットとして作業効率向上・人的ミスの軽減・取引記録の検索性向上を挙げています*1。これらは取引先数にかかわらず自社の内部業務に生じる効果です。範囲を絞った着手でも効果は見込めます。
電子帳簿保存法の対応は移行の前と後、どちらで行いますか。
要件定義の段階、つまり移行の前に組み込むべきです。同法第7条は電子取引の取引情報を電磁的記録で保存することを義務づけており*3、保存方法をシステム選定後に見直すと手戻りが生じる場合があります。
中小企業共通EDIとは何ですか。
中小企業共通EDI(Electronic Data Interchange、電子データ交換)とは、受発注業務のIT化を実現できる仕組みです。ITの利用に不慣れな中小企業でも、簡単・低コストで導入できる点が特徴です。中小企業庁が仕様を策定しました*1。標準化された仕様のため、取引先ごとに専用端末や様式を用意する必要がなくなります。
移行にはどのくらいの期間が必要ですか。
取引先数、注文経路の数、基幹システムとの連携の有無によって必要な期間は変わるため、一律の期間を断定することはできません。まず棚卸し(ステップ1)で自社の経路数と件数を把握し、そこから範囲と要件を定めることで、必要な期間の見通しが立てられます。
- *1 出典:中小企業庁「中小企業の受発注デジタル化」(引用元:令和3年度取引条件改善状況調査、2021年)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/digitalization/index.html
- *2 出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書」第1部第1章第5節 デジタル化・DX(第1-1-41〜45図)(2025年)https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/chusho/b1_1_5.html
- *3 出典:e-Gov法令検索「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(電子帳簿保存法)」第2条第5号・第7条(令和7年法律第13号による改正・2025年4月1日施行)https://laws.e-gov.go.jp/law/410AC0000000025
- *4 出典:国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- *5 出典:国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
画像の出典元
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- 移行のイメージ/Photo by Hal Gatewood on Unsplash
- 要件定義のイメージ/Photo by Beatriz Cattel on Unsplash
- 電子帳簿のイメージ/Photo by Jakub Żerdzicki on Unsplash