◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- インターネット受発注が年配の担当者が多い現場で回るかどうかは、公的統計を見る限り年齢だけでは判断できません。
- 定着の分岐点は入力経路の複線化・段階移行・研修と問い合わせ導線という3つの設計にあります。
- 電子帳簿保存法上の電子取引に該当するため、切り替え後の保存運用も合わせて確認する必要があります。
目次
インターネット受発注の定義と、定着を左右する3つの設計
インターネット受発注とは、注文書や発注データの授受をWebブラウザなどの電磁的方式で行う取引の仕組みであり*1、年配の担当者が多い現場でも導入の可否を決めるのは年齢ではなく設計です。
この仕組みは、電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律・平成10年法律第25号)第2条第5号にいう「電子取引」に該当します*1。同号は電子取引を「取引情報の授受を電磁的方式により行う取引」と定義しています*1。
BtoBの電子商取引市場は2024年に514.4兆円となり、前年の465.2兆円から10.6%拡大しました(経済産業省 令和6年度電子商取引に関する市場調査*2)。BtoB-ECのEC化率も43.1%まで伸びており、受発注のデジタル化は業種を問わず進む流れにあります*2。
この流れの中で「担当者の年齢を理由に導入が進まない」という悩みがよく語られます。しかし結論を先に言うと、定着を左右するのは年齢そのものではなく入力経路の複線化・段階移行・研修と問い合わせ導線という3つの設計です。以降の章では、この3点を一次情報の数値で裏づけながら整理します。
本稿が扱う範囲は、受発注のインターネット化における前提の確認・定着のための設計・電子帳簿保存法の対応です。個別のベンダー製品の機能比較や、業種別の詳細な操作手順は扱いません。
卸売業の65歳以上就業者133万人と、60代の9割が使うインターネット
卸売業・小売業は65歳以上の就業者が133万人で産業別最多
令和6年における65歳以上の就業者を産業別に見ると、「卸売業,小売業」が133万人と最も多くなっています(内閣府 令和7年版高齢社会白書*4)。65歳以上の就業者数は21年連続で前年を上回っており*4、受発注の現場に年配の担当者が多いこと自体は、業界特有の一時的な現象ではなく構成として定着していると言えます。
この事実を踏まえると、「年配の担当者が多いからインターネット受発注は難しい」という前提を、まず利用実態の統計で確認する必要があります。
60〜64歳93.0%、65〜69歳87.9%、70〜79歳69.8%がインターネットを利用
総務省の令和6年通信利用動向調査報告書(世帯編)によると、60〜64歳のインターネット利用率は93.0%、65〜69歳は87.9%、70〜79歳は69.8%です(n=35,852)*3。全年齢層の利用率は85.6%であり、60代は全体平均を上回っています*3。
利用者の87.0%がスマートフォン、パソコンは54.7%
同調査でインターネット利用者の利用機器を見ると、スマートフォンが87.0%と最も高く、パソコンは54.7%にとどまります(n=30,286)*3。この差は、パソコン操作を前提にした画面設計こそが定着の障壁になりうることを示しています。
年配の担当者が多い現場に限らず、受発注の入力手段をパソコンだけに絞ると、利用実態と設計がずれる可能性があります。次章では、この前提を踏まえたうえで、定着しない原因が導入設計のどこにあるのかを見ていきます。
停滞の原因ではなく設計の差——研修有無がつくる91.4%対80.9%
中小企業の57.3%が「アナログからデジタルツールへ移行している段階」
2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要は、中小企業のデジタル化の取組段階を4段階で示しています(n=12,215)*5。最多は段階2(アナログな状況からデジタルツールを利用した業務環境に移行している状態)の57.3%です*5。段階1(紙や口頭による業務が中心)は15.4%、段階3は24.5%、段階4は2.8%です*5。
この分布から分かるのは、半数を超える中小企業がすでに移行途中にあるという事実です。デジタル化が全く進んでいない企業は少数派であり、課題は「移行するかどうか」ではなく「移行の進め方」に移っています。
研修・勉強会に取り組んだ企業はITツール活用の効果が91.4%、未実施は80.9%
同白書は、2019年以降の省力化投資のうちITツール活用に取り組んだ事業者を対象に、従業員のITツール活用促進に向けた研修や勉強会の実施状況別のITツール活用の評価を示しています。実施した企業(n=2,276)では「想定を超える効果」6.5%と「想定した効果」84.9%を合わせて91.4%が効果を得ており、「想定した効果が得られなかった」は8.7%です*5。未実施の企業(n=1,685)では効果を得た割合が80.9%に下がり、「想定した効果が得られなかった」は19.1%に上がります*5。
研修の実施と効果には相関が見られますが、これは白書が示す関連性であり、研修を行えば効果が保証されるという意味ではありません。個々の現場の条件によって結果は変わります。
部門間連携なしでは「想定した効果が得られなかった」が34.8%
部門間連携の実施状況別でも同様の傾向があります。連携できている企業(n=3,045)は効果を得た割合が92.4%、連携できていない企業(n=739)は65.2%で、「想定した効果が得られなかった」は34.8%に達します*5。受発注部門と情報システム部門の連携がないまま導入を進めると、同様の停滞が起こりやすいと考えられます。
属人化した運用のまま担当者だけに導入を委ねると、この部門間連携の不足と同じ構図になりかねません。受発注が特定の担当者に依存する状態からの脱却については、BtoB ECの受発注が属人化する原因と解消の進め方で個別に整理しています。
電話・FAX・メール・Web受発注——手戻りと電子帳簿保存法適合の比較
現行の受発注手段とWeb受発注を、担当者の負担に関わる観点で比較します。
| 手段 | 入力の手戻り | 記録の残り方 | 繁忙期の耐性 | 電子帳簿保存法への適合 | 担当者の習熟コスト |
|---|---|---|---|---|---|
| 電話 | 聞き取りを担当者が手入力するため、聞き違いによる再確認が発生しやすい | 音声のみで記録は残らず、担当者の記憶とメモに依存する | 同時に対応できる件数が担当者の人数に限られる | 電磁的方式による取引情報の授受に当たらないため対象外 | 既存の業務のため追加の習熟は不要 |
| FAX | 手書き文字の判読違いによる再確認が発生しやすい | 紙面として残るが検索・集計には手作業が必要 | 紙の処理量に依存し、受信の集中に弱い | 紙面での受領が中心のため、通常は対象外 | 既存の業務のため追加の習熟は不要 |
| メール | 添付ファイルの形式が発注元ごとに異なり、転記の手間が生じやすい | 電子データとして残るが、検索性はメールソフトの機能に依存する | 受信件数が増えると見落としのリスクが上がる | 電子取引に該当し、電磁的記録の保存義務の対象となる*1 | メール操作の経験があれば追加の習熟は小さい |
| Web受発注 | 入力項目が画面で定まるため、聞き違い・判読違いは生じにくい | 発注データとして自動的に電子記録が残る | 同時アクセスに対応できる設計であれば件数増に強い | 電子取引に該当し、電磁的記録の保存義務の対象となる*1 | 画面操作の習熟が必要で、研修の有無が効果を左右する*5 |
この比較で見落とされがちなのが、自社の受注担当者と取引先の発注担当者では負担のかかり方が逆になる点です。自社側は入力の手戻りが減って負担が軽くなりますが、取引先側は新しい画面操作を覚える負担が新たに生じます。受発注は相手がいて初めて成立するため、取引先側の負担を軽くする設計が定着の分かれ目になります。
この負担の差を自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
取引先側の負担を軽くする工夫の一つが、パソコンを必須にしない設計です。前章で確認したとおり、インターネット利用者の87.0%がスマートフォンを利用しています*3。パソコン操作の経験が少ない担当者でも、スマートフォンからの発注であれば入力経路を確保しやすくなります。取引先ごとに複数の入力経路を用意する考え方は、LINE受発注の仕組みと導入の考え方でも扱っています。
文字サイズと入力補助——JIS X 8341-3をベンダー選定の観点に使う
デジタル庁のガイドブックとJIS X 8341-3:2016を選定の観点にする
デジタル庁は、ウェブアクセシビリティに初めて取り組む行政官や事業者向けに「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」を公開しています*6。同ガイドブックは2025年10月16日にデジタル社会推進標準ガイドラインへInformative文書として編入されました*6。行政機関・事業者向けの参考資料であり、参照規格はJIS X 8341-3:2016(ウェブアクセシビリティの日本産業規格)です*6。
受発注システムのベンダーを選ぶ際、このガイドブックが示す観点を確認事項として使うことができます。操作でつまずかせない画面かどうかを、担当者の年齢を基準にせず、規格に基づいて判断できるためです。
文字サイズ・コントラスト・エラーメッセージ・入力補助
画面設計で確認したい観点は、文字サイズが十分に大きいか、背景と文字のコントラストが確保されているか、入力エラー時のメッセージが分かりやすいかです。これらはJIS X 8341-3:2016が扱う達成基準に含まれます*6。
加えて、前回発注の内容をコピーできる機能や、定番品目をあらかじめ登録できる機能があれば、パソコン操作の経験が少ない担当者でも入力の手間を減らせます。こうした入力補助の有無は、ベンダーへの確認事項として具体的に聞いておく必要があります。
スマートフォン対応は2024年3月29日版で追加された観点
同ガイドブックは2024年3月29日版で「4.3 スマートフォンのアクセシビリティ」を追加しました*6。スマートフォンでの操作性は、後から追加された比較的新しい観点であり、ベンダー選定時に見落とされやすい項目です。選定時にはパソコン画面だけでなく、スマートフォン表示での確認も欠かせません。
移行の4フェーズ——並行運用を挟んでからモニタリングで絞る
年配の担当者が多い現場でこの仕組みを定着させるには、一度に切り替えるのではなく、段階を踏んだ移行が現実的です。
- フェーズ1:現行の発注経路を取引先・担当者単位で棚卸しする。誰が電話・FAX・メールのどれを使っているかを一覧化します。
- フェーズ2:入力経路を複線化したまま並行運用する。電話・FAXを即時に止めず、Web受発注と併存させます。
- フェーズ3:研修・勉強会と問い合わせ導線を切替の前に用意する。研修の実施有無がITツール活用の効果を左右するためです*5。
- フェーズ4:切替率をモニタリングし、経路を段階的に絞る。並行運用を続けたまま一律に打ち切らず、実際の利用状況を見ながら判断します。
この4フェーズのうち、フェーズ2の並行運用を省略して一律に切り替えると、取引先側の発注が止まってしまうおそれがあります。段階を急がず、フェーズ3の研修・問い合わせ導線を切替前に整えておくことが、前章で見た効果の差*5を踏まえた実務上の対応です。移行手順の全体像はオンライン受発注への移行を進める考え方でも解説しています。
電子帳簿保存法への対応——電子取引に当たる受発注の保存義務
インターネット受発注は電子帳簿保存法上の「電子取引」に当たる
インターネット受発注は、電子帳簿保存法第2条第5号にいう「電子取引」に該当します*1。同号は電子取引を「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいう)の授受を電磁的方式により行う取引」と定義しています*1。
電磁的記録の保存義務(法第7条)
同法第7条は、所得税及び法人税に係る保存義務者について「電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存しなければならない」と定めています*1。Web受発注を導入すると、発注データの保存は選択事項ではなく法律上の義務になります。
担当者が迷わないための保存・検索の運用ルール化
この保存義務を担当者の判断に委ねると、対応が担当者ごとに分かれてしまいます。保存先・保存期間・検索方法をあらかじめ運用ルールとして明文化し、誰が対応しても同じ手順になる状態を整えておく必要があります。
なお、個別の税務判断は本稿では扱いません。自社の運用が要件を満たしているかどうかは、所轄税務署または税理士に確認してください。
導入前チェックリスト——棚卸しシートとベンダー確認事項
取引先の発注経路 棚卸しシートの項目
導入前には、取引先ごとの発注経路を棚卸しするシートを用意すると、フェーズ1の作業が具体的になります。
ベンダーへの確認事項
この作業を内製で完結させる場合、画面設計の評価にはアクセシビリティの知識が必要です。法対応の確認には電子帳簿保存法の知識も要り、担当部門だけでは判断が難しい場面が出てきます。ベンダーを選定する段階では、次の観点を重要度の順に確認しておくと判断がしやすくなります。
ベンダー選定で確認する優先順4点/順位根拠:重要度
- 電子帳簿保存法への適合:電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存できる仕組みかどうかを確認します*1。
- 並行運用の可否:電話・FAXを即時に止めずに併存できる設計かどうかを確認します。
- アクセシビリティへの対応:JIS X 8341-3:2016の観点に沿った文字サイズ・コントラスト・入力補助があるかを確認します*6。
- スマートフォン対応:パソコンを必須にせず、スマートフォンからの発注に対応しているかを確認します*6。
これらを内製の担当者だけで一つずつ検証すると、確認に相応の時間がかかります。アクセシビリティと電子帳簿保存法の双方に判断が必要なため、社内に知見がない場合は外部の知見を併用する方法もあります。自社での判断に迷う場合は、要件整理の段階から相談する選択肢もあります。
まとめ:定着を左右する3つの判断軸
本稿では、インターネット受発注が年配の担当者が多い現場で定着するかどうかを一次情報から整理しました。要点を3つに集約すると次のとおりです。第一に、60代のインターネット利用率は9割前後であり、年齢を理由に導入を諦める根拠は統計上見当たりません*3。第二に、定着の分岐点は入力経路の複線化・段階移行・研修と問い合わせ導線という3つの設計にあります*5。第三に、電子帳簿保存法上の電子取引に該当するため、切り替え後の保存運用まで含めて準備する必要があります*1。
まずは取引先の発注経路を棚卸しすることが、次の一歩になります。自社だけで判断が難しい場合は、早めに要件を整理しておくと後工程がスムーズになります。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
関連記事として、比較検討の段階では受発注システムの比較・選び方、導入効果を具体的に知りたい場合はWeb受発注システム導入のメリットも参考になります。
よくある質問
年配の担当者が多い取引先でも導入できますか。
統計上、年齢だけを理由に導入を見送る根拠はありません。総務省の調査では60〜64歳の93.0%、65〜69歳の87.9%がインターネットを利用しています*3。導入の成否を分けるのは、入力経路の複線化や研修といった設計です*5。
FAXや電話をすぐに止める必要がありますか。
すぐに止める必要はありません。移行の4フェーズでは、入力経路を複線化したまま並行運用し、切替率を見ながら段階的に経路を絞る進め方を想定しています。一律の即時切替は取引先側の発注が止まるおそれがあります。
スマートフォンだけで発注できますか。
機器の対応状況によります。総務省の調査ではインターネット利用者の87.0%がスマートフォンを利用しており*3、パソコンを必須にしない画面設計であればスマートフォンからの発注は選択肢になります。ベンダー選定時に対応状況を確認してください。
電子帳簿保存法への対応は必要ですか。
必要です。インターネット受発注は電子帳簿保存法第2条第5号の「電子取引」に該当し、第7条により電磁的記録の保存義務が生じます*1。個別の税務判断は所轄税務署または税理士に確認してください。
研修はどの程度必要ですか。
具体的な時間数を一律には示せませんが、実施の有無が効果を左右することは白書のデータで確認できます。研修・勉強会に取り組んだ企業はITツール活用の効果が91.4%、未実施は80.9%です*5。切替前に問い合わせ導線とあわせて用意しておくことが実務上の対応です。
- *1 出典:「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(電子帳簿保存法・平成10年法律第25号)第2条第5号・第7条(e-Gov法令検索)
- *2 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)
- *3 出典:総務省「令和6年通信利用動向調査報告書(世帯編)」(2025年5月30日公表)
- *4 出典:内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)」第1章第2節1 就業・所得(2025年)
- *5 出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書の概要」(2026年4月、資料:(株)帝国データバンク「令和7年度中小企業の経営課題と事業活動に関する調査」)
- *6 出典:デジタル庁「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」(2025年10月16日策定)
画像の出典元
- 受発注のイメージ/Photo by Mattia Panz on Unsplash
- 発注のイメージ/Photo by Dcps Chloé on Unsplash
- 定着のイメージ/Photo by Vitaly Gariev on Unsplash