◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- WEB受発注の費用は、初期費用・月額利用料・取引先ごとの個別対応費・法令対応と運用保守費の4つに分かれます。
- 年間の利用・維持管理コストは業界によって水準が大きく異なり、官公庁の調査で実際の分布が確認できます。
- 補助金の活用や法令対応の無償の選択肢を組み合わせると、自己負担を抑える余地があります。
目次
WEB受発注の費用とは|内訳は「初期・月額・個別対応・法対応」の4つに分かれる
WEB受発注の費用とは、初期構築費・月額利用料・取引先ごとの個別対応費・法令対応と運用保守費を合わせた総額であり、年間の利用・維持管理コストは業界によって水準が大きく異なります*2。
ここで見落とされやすいのが、システムの利用料以外の費目です。取引先ごとの個別対応費と法令対応・運用保守費は、見積書では小さく見えても、導入から運用までの総額を大きく左右します。
国内のBtoB-EC市場規模は2024年時点で514.4兆円、EC化率は43.1%に達しました*1。前年比は10.6%増で、前年の10.7%増をやや下回る水準です*1。
市場の拡大とともに、電話・FAX中心の受発注をWEB化する動きが各業界で広がっています。この流れの中で、費用の内訳を正しく把握する必要性も高まっています。
費用の4区分と、見積書で確認する行
見積書を確認する際は、初期費用・月額利用料・個別対応費・法令対応と運用保守費の4行が独立して計上されているかを見ます。1行にまとめられていると、どの費目が総額を押し上げているかが分かりません。
初期費用にはシステム構築・データ移行・基幹システム連携の設定作業が含まれます。月額利用料には利用料そのものに加え、保守サポート費が含まれる場合もあります。
「相場」を鵜呑みにできない理由|同じ仕組みでも年5万円未満と年100万円超が併存する
中小企業庁が委託した調査では、電気工事業界の61.7%が年間コストを5万円未満と回答しました*2。一方、電材卸業界の42.3%は年間コストが100万円以上と回答しています*2。同じ「WEB受発注」でも、業界によって実際のコスト水準は大きく異なります。
単一の相場を示すだけでは、この分散を説明できません。自社の位置を見当づけるには、業界の分布と、費用を左右する要因の両方を確認する必要があります。
自社の位置を決める3つの質問|取引件数・接続先数・基幹連携の有無
自社のコスト水準を見当づけるには、次の3点を確認します。月間の受発注件数、接続が必要な取引先の数、基幹システムとの連携有無です。
取引先の数が多く、各社が異なる指定システムを使っている場合、個別対応費が総額を押し上げます。次章では、この分布を業界別に見ていきます。
年間の維持コストは業界で桁が違う|中小企業庁委託調査による実分布
鉄鋼業界のボリュームゾーンは年5万〜30万円未満(42.7%)
中小企業庁が委託した「受発注のデジタル化に関する推進方策」報告書(2022年3月31日公表)が、鉄鋼業界(回答企業82社)の年間コスト水準を調べています。最多の回答は5万〜30万円未満で、42.7%を占めます*2。
この報告書は各業界のアンケート結果をもとにまとめられたものです。2026年8月時点で、これを上回る同種の公的コスト調査は確認できていません。本記事では現在の価格そのものではなく、分布の構造を読む材料として扱います。
電気工事は年5万円未満が61.7%、電材卸は年100万円以上が42.3%
電気工事業界(回答企業47社)では、年間コストが5万円未満と回答した企業が61.7%を占めます*2。一方、電材卸業界(回答企業97社)では、年間コストが100万円以上と回答した企業が42.3%にのぼります*2。
同じ調査の中でも、業界によって分布の形は大きく異なります。次に、この差が生じる理由を確認します。
| 業界 | 該当コスト帯 | 割合 | 回答企業数 |
|---|---|---|---|
| 鉄鋼業界 | 年5万〜30万円未満 | 42.7% | 82社 |
| 電気工事業界 | 年5万円未満 | 61.7% | 47社 |
| 電材卸業界 | 年100万円以上 | 42.3% | 97社 |
出典:中小企業庁委託「受発注のデジタル化に関する推進方策」報告書(2022年3月31日公表)*2
分布が割れる理由|取引先の数と、相手指定システムへの対応本数
分布が割れる背景には、接続する取引先の数と、相手先が指定するシステムへの対応本数の違いがあります。取引先ごとに異なる仕組みへ個別に対応する企業ほど、年間コストは高くなる傾向にあります。
次章では、この「取引先ごとの個別対応」が費用をどのように押し上げるのかを、同じ報告書の別の設問から確認します。
取引先ごとの個別対応が費用を押し上げる|電子受発注に対応しない理由から見る要因
電子受発注に対応しない理由に「個別対応のコスト」が挙がる
同報告書は、電子受発注に対応する予定が無い企業に理由を尋ねています(複数回答・3つまで)。「取引先ごとに全てへ対応するにはコストがかかる」を挙げた企業は、電材卸業界で28.2%(未対応企業31社中)でした*2。同じ項目を挙げた企業は、鉄鋼業界で19.4%(同36社中)、電気工事業界で16.3%(同49社中)です*2。
これらは未対応企業のみを母数とした複数回答であるため、単純な合算はできません*2。ただし、いずれの業界でも個別対応のコストが導入の妨げとして挙がっている点は共通しています。
Web-EDIの多画面問題|鉄鋼業界で弊害を感じる企業が6割超
取引先ごとに異なるWeb-EDI(取引先が指定する専用画面での受発注システム)へ個別対応すると、担当者は取引先の数だけ異なる画面を操作することになります。鉄鋼業界(回答企業86社)では、62.8%がこの弊害を「感じている」と回答しました*2。
画面が増えるほど、入力作業と確認作業の両方に時間がかかります。次に、この個別対応を減らす打ち手を確認します。
個別対応を減らす打ち手|業界標準EDI・中小企業共通EDI・流通BMSに寄せる
個別対応の負荷を抑える方法の一つが、業界で共通利用が進むEDI規格に寄せることです。EDI(Electronic Data Interchange)とは、企業間の受発注データを電子的にやり取りする仕組みを指します。中小企業共通EDIや流通BMSといった標準規格への準拠は、取引先ごとの個別開発を減らす選択肢になります。
ただし、取引先が独自システムを指定している場合、標準規格だけでは対応しきれません。見積の際は、この点を具体的に確認します。
可視化したコストを自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
見積時に「取引先n社への接続」を1行で書かせない
見積を依頼する際は、「取引先n社への接続対応」を1行の金額でまとめさせず、接続方式ごとの内訳を出してもらいます。標準規格で対応できる取引先と、個別開発が必要な取引先を分けることで、総額の妥当性を判断しやすくなります。
非機能要件が見積の差を左右する|IPA非機能要求グレードで前提を揃える
IPA非機能要求グレードの6大項目
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は「非機能要求グレード」を公開しています*3。これはシステムに求める非機能要件(機能そのものではなく、性能や品質面の要件)を整理したものです*3。項目は可用性・性能/拡張性・運用/保守性・移行性・セキュリティ・システム環境/エコロジーの6つです*3。
複数社から見積を取ると金額に差が出ることがありますが、この6項目のどこにどの水準を求めるかが揃っていない場合、差の理由を切り分けにくくなります。
グレードを1段上げると増える費用
可用性の水準を上げ、冗長構成(システムを二重化し、片方が停止しても稼働を続ける構成)を組む場合、構築・運用の両方でコストが増えます。24時間監視やバックアップの頻度を高める場合も同様です。稼働時間帯を延ばすほど、保守体制にかかる費用も連動します。
非機能要件を内製で整理するには、システム構成と運用の双方に関する知識が必要です。要件を洗い出す工数を確保できない場合は、専門パートナーへの相談も選択肢になります。
相見積もりの前提を揃える手順|同じグレード表を全社に配る
複数の会社から見積を取る際は、非機能要求グレードの表を使って希望水準を先に決め、同じ表を全社へ提示します。前提が揃わないまま見積を比較すると、金額差の理由が要件差なのか、会社ごとの価格設定の違いなのかを切り分けられません。
要求仕様への落とし込み方はRFP(提案依頼書)作成の具体的な手順で扱い、見積を揃えたあとの選定軸はシステムの比較・選び方の記事で整理しています。
法令対応の費用|高額なシステムが必須とは限らない
電子帳簿保存法の電子取引データ保存|必要なのは真実性と検索機能の確保
電子帳簿保存法は、電子的にやり取りした取引情報(電子取引データ)を電子データのまま保存することを求めています。保存にあたって満たす必要があるのは、データの真実性の確保と検索機能の確保です*4。
検索機能の確保の要件が不要になる場合|基準期間の売上高5,000万円以下
判定期間に係る基準期間の売上高が5,000万円以下の場合、検索機能の確保の要件は不要になります*4。ここで不要になるのは検索機能の要件のみであり、真実性の確保など他の保存要件までが免除されるわけではありません。
無償で満たす方法|索引簿と事務処理規程、猶予措置は事前申請不要
検索機能の確保は、専用システムの導入だけで満たすものではありません。表計算ソフトで作成した索引簿と、訂正・削除の防止に関する事務処理規程(電子帳簿保存法施行規則第4条第1項第4号)を備える方法でも要件を満たせます*4。
やむを得ない事情でデータ保存の要件を満たせない場合の猶予措置も設けられており、この猶予措置の適用にあたって事前の申請は不要です*4。法令対応そのものが高額なシステムを必須にしているわけではありません。
取適法(2026年1月1日施行)|対象は製造委託等で、単純売買は対象外
製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)は、2026年1月1日に施行されました*5。第4条第1項は、発注内容の明示を書面又は電磁的方法のいずれでも構わないと定めています*5。
取適法の対象は製造委託等であり、店舗の商品仕入れのような単純売買は対象外です*5。自社の取引がどちらに該当するかを、契約の実態にもとづいて確認します。
補助金で自己負担を下げる|デジタル化・AI導入補助金2026
通常枠の補助率と補助額
独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営するデジタル化・AI導入補助金2026の通常枠は、補助率が1/2以内です*6。補助額は、1プロセス以上を導入する場合が5万円以上150万円未満、4プロセス以上を導入する場合が150万円以上450万円以下です*6。
補助対象になる経費|ソフトウェア購入費・クラウド利用料・導入設定・保守サポート等
| 経費区分 | 対象範囲の考え方 |
|---|---|
| ソフトウェア購入費 | 登録済みのITツールに対応する購入費用が対象です。 |
| クラウド利用料 | 対象となるのは上限2年分です*6。 |
| 導入設定・導入コンサルティング費 | 登録済みツールの導入に付随する設定・支援費用が対象です。 |
| 保守サポート費 | 登録済みツールに付随する保守サポート費用が対象です。 |
| ハードウェア購入費 | 公募要領で定める対象要件を満たす場合に限られます。詳細は公式サイトで確認してください。 |
※本表は公募要領(5次締切分)の記載範囲にもとづく整理であり、可否の断定を目的としたものではありません。出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構*6
申請前に確認すること|登録済みのITツールと締切
申請にあたっては、導入するITツールが制度に登録済みであることを確認します。5次締切分の申請期限は2026年9月29日17時です*6。
制度は公募回次ごとに要件が変わります。本記事の内容は執筆時点(2026年8月29日)の公募回次にもとづくものであり、申請前に公式サイトで最新の公募要領を確認してください*6。
費用対効果の見立て方|先に「減る工数」を数える
電子受発注で実際に減ったもの
同報告書は、電子受発注に対応した企業(鉄鋼業界86社)に効果を尋ねています(複数回答)。誤作業の削減を挙げた企業は54.7%、対人対応時間の削減は47.7%、自社システムへの入力作業の削減は46.5%でした*2。これらは複数回答のため、合算した値としては読めません*2。
手入力の削減余地を「データの再利用率」で見積る
別の実証調査事業報告書は、受発注データの再利用率(一度入力すれば後続で再入力が不要となる項目の割合)を机上で集計しています*7。鉄鋼業界は743項目中480項目で64.6%です*7。電気工事・電材卸業界は共通EDI辞書項目399項目中313項目で78.4%、流通業界は35項目中16項目で45.7%でした*7。
この数値はコスト削減率ではなく、手入力を減らせる余地を示す指標として読みます*7。
3年総額(TCO)で比べる
費用対効果を検討する際は、3年総額(TCO、Total Cost of Ownership)で比較します。初期費用に加え、月額費用の36ヶ月分・個別対応費・運用にかかる工数を合算した金額です。単年度の初期費用だけを比べると、月額や個別対応にかかる継続費用を見落とします。
見積依頼の前に埋めるチェックリスト
見積依頼前に確認する7項目/順位根拠:着手順序
- 月間の受発注件数と、うち電話・FAX・メールの件数を数えます。
- 接続が必要な取引先を、指定システムの有無で仕分けます。
- 基幹システムとの連携要否と方式を決めます。
- 非機能要件のグレードを1枚の表にまとめます*3。
- 電子取引データの保存方法(システム対応か、索引簿と事務処理規程か)を決めます*4。
- 補助金の対象要件と申請締切を確認します*6。
- 3年総額(TCO)の様式を作り、全社に同じ様式で見積の回答を依頼します。
まとめ:WEB受発注の費用を判断する4つの軸
本稿ではWEB受発注の費用を、内訳・分布・変動要因・軽減策の4つの軸で整理しました。第一に、費用は初期・月額・個別対応・法対応の4区分に分かれます。第二に、年間コストの水準は業界によって大きく異なり、官公庁調査でも分布が確認できます*2。第三に、費用を押し上げるのは機能数ではなく取引先ごとの個別対応です*2。第四に、補助金と法令対応の無償の選択肢を組み合わせれば、自己負担を抑える余地があります*4*6。自社の取引先数と非機能要件を整理したうえで、見積の比較に進むことをおすすめします。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
WEB受発注の費用は最低いくらから始められますか。
業界や接続先の数によって水準は大きく異なります。中小企業庁委託調査では、電気工事業界の61.7%が年間コスト5万円未満と回答しています*2。金額そのものより、自社の取引先数と連携要否を先に整理することが見当をつける近道です。
初期費用が0円のサービスは本当に安いですか。どこで費用が発生しますか。
初期費用が0円でも安いとは限りません。月額利用料や取引先ごとの個別対応費、データ移行にかかる費用が別建てで発生する場合があるため、見積書で4区分すべてが明記されているかを確認する必要があります。
取引先が使っているシステムに合わせる費用は誰が負担しますか。
負担者は契約と交渉によって変わり、一律の決まりはありません。中小企業庁委託調査では、取引先ごとの個別対応コストが電子受発注に対応しない理由として挙がっています*2。負担の所在を事前に取り決めておくことが実務上の対応になります。
電子帳簿保存法に対応するために有料システムは必須ですか。
必須ではありません。表計算ソフトの索引簿と事務処理規程を備える方法でも、電子取引データの保存要件を満たせます*4。基準期間の売上高が5,000万円以下であれば、検索機能の確保の要件も不要になります*4。
補助金は申請すれば受けられますか。
申請だけで採択が確定するものではありません。デジタル化・AI導入補助金2026は登録済みのITツールであることなどの申請要件があります*6。公募回次ごとに条件が変わるため、公式サイトで最新の公募要領を確認する必要があります。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表)https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html
- *2 出典:中小企業庁(委託先:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「受発注のデジタル化に関する推進方策 報告書」(2022年3月31日公表)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/digitalization/download/report_r3.pdf
- *3 出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「非機能要求グレード」https://www.ipa.go.jp/archive/digital/iot-en-ci/jyouryuu/hikinou/ent03-b.html
- *4 出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月)https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/03-6.pdf
- *5 出典:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(昭和31年法律第120号)https://laws.e-gov.go.jp/law/331AC0000000120
- *6 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠」https://it-shien.smrj.go.jp/applicant/subsidy/normal/
- *7 出典:中小企業庁(委託先:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社)「電子受発注システム普及促進に向けた実証調査事業 報告書」(2023年3月31日公表)https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/digitalization/download/system_r3.pdf
画像の出典元
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