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電話受注の属人化とは|原因・リスクと解消の進め方

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 電話受注の属人化は担当者の姿勢ではなく業務の設計に原因があり、商習慣の差異・記録の欠落・教育時間の不足という3点が重なって生じます。
  • 解消は注文内容の記録、商品マスタの整備、取引先別条件の整備、Web受発注への切り替えという順に進め、社内の下準備を終えてから取引先へ案内します。
  • 固定電話網の切り替えでディジタル通信モードは2028年12月31日に提供が終了し、電話回線に依存した受注手段の見直しに期限が生じています。
  • 中小受託取引適正化法は2026年1月1日に施行され、取引条件を口頭だけで確定させる運用は見直しの対象になります。

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電話受注の属人化とは何か

電話受注の属人化とは、電話で受けた注文を処理する手順や判断の根拠が特定の担当者の記憶と経験だけに置かれ、他の人が同じ品質で代われない状態を指します。注文書の様式や商品コードが介在しないまま「いつもの」で取引が成立するため、受注内容の正しさを後から確かめる手掛かりが社内に残りません。2005年に公表された暗黙知と形式知の研究では、経験を通じて身につけた知識は言葉にしにくく、そのままでは組織へ移しにくいと整理されています*11。担当者の能力ではなく、業務の設計側に原因があると見るところから改善が始まります。

標準化された受注業務では、受け付け、内容の確定、記録、出荷指示の順に進みます。受け付けでは電話で注文を受け付け、内容の確定では商品と数量を確定し、記録では受注データとして記録し、出荷指示では出荷の指示を出します。どの段階で何を確かめるかが手順書に落ちている点が、属人化した状態との違いです。
標準化された受注業務における受け付けから出荷指示までの順序

電話受注では、取引先が商品名を正式名称で伝えるとは限りません。「いつもの銘柄をいつもの本数で」という依頼でも、担当者が過去の履歴と在庫の状況を思い出して注文に変換できてしまいます。この即応性は電話の利点であり、現場が電話を手放せない理由でもあるでしょう。ただし、変換の過程が担当者の頭の中で完結する点に難しさが残ります。

変換の根拠が残らないと、同じ依頼を別の人が受けたときに再現できません。過去の出荷履歴を検索しても、どの条件でその価格や納期が適用されたのかまでは追えないためです。結果として、受注の可否や条件の判断が特定の席にひも付きます。電話そのものではなく、判断の根拠が記録されない点が属人化の起点になります。

標準化された受注業務との違いは、判断が明文化されているかどうかにあります。標準化された状態では、受け付け・内容の確定・記録・出荷指示という順序が定義され、どの段階で何を確かめるかが手順書に落ちています。取引先別の価格や最低受注量も、担当者の記憶ではなくマスタ側に置かれます。担当が代わっても出力される受注データが変わらないのであれば、その業務は標準化されていると言えます。

属人化が起きやすい業務には共通点があります。取引先ごとに単位や納品の慣行が異なること、例外処理の割合が高いこと、やり取りが音声だけで完結すること、担当の割り当てが長期間固定されていることの4点です。建材や食品のように、規格・荷姿・季節変動が絡む商材ほど、この条件がそろいやすくなります。逆に言えば、4点のどれかを崩せば改善の余地が生まれます。

デジタル化の課題として人材の不足が最も多く挙げられている状況も、属人化の背景にあります*2。人が足りない現場では、目の前の注文を最短で処理できる人に業務が集まりがちです。属人化は担当者が抱え込んだ結果ではなく、限られた人員で日々の受注を回すための適応でもあります。改善の議論を個人の姿勢へ向けないことが、協力を得るうえでの前提になります。

属人化の程度は、担当者の不在時に何が止まるかで測れます。受注の受け付けは代われても、価格の確定や納期の回答だけが止まるという部分的な属人化もあります。全体を一度に置き換えようとせず、止まる工程を切り出して順に手当てする方が現実的ではないでしょうか。

測り方は簡単で構いません。担当者が1週間不在になる場面を想定し、受け付け、内容の確定、価格の適用、納期の回答、出荷指示の5工程について、代われる人数をそれぞれ数えます。代われる人が1人しかいない工程が、最初に手当てする対象です。工程ごとの人数を並べておけば、改善の効果も同じ物差しで確かめられます。

属人化の解消で先に着手する5点(順位の根拠:作業の依存関係)

  1. 電話で受けた注文を同じ様式へ残す記録の仕組みを整えます。記録が無ければ、移行の対象となる業務を定義できません。
  2. 社内の通称と旧品番を別名として登録し、正式な商品コードへたどり着ける状態にします。検索できないままでは電子化しても電話へ戻ります。
  3. 取引先別の価格、最低受注量、締め時間、荷姿、納品先を一覧化します。取引件数の多い取引先から着手すると作業が止まりにくくなります。
  4. 例外処理を頻度と対応できる担当者の人数で分類します。対応できる人が1名しかいない例外から手順書へ落とします。
  5. 件数が多く定型的な取引先からWeb受発注への切り替えを案内し、電話と並行して受け付ける期間を設けます。一斉の告知は問い合わせの電話を増やします。

電話受注が属人化する原因

電話受注が属人化する原因は3つに整理できます。取引先ごとに異なる商習慣では、単位や価格、締め時間の扱いが取引先ごとに違います。口頭のやり取りが記録に残らないことでは、確定した内容が文字にならないまま次の工程へ渡ります。教育の時間を確保しにくい人員の状況では、人員に余裕がなく、教える側の時間を確保できません。3つは独立しておらず、循環して担当が固定されます。
電話受注の属人化を招く商習慣・記録・教育の3つの原因

電話受注が属人化する原因は、担当者の性格や姿勢ではありません。取引先ごとに異なる商習慣、口頭のやり取りが記録に残らないこと、教育の時間を確保しにくい人員の状況という3点に整理できます。企業間のデータ連携を扱った公的な解説資料でも、受発注の様式が取引先ごとにばらつくことが業務コストの要因として挙げられています*1。原因を分けて捉えると、手を付ける順序も決めやすくなります。

取引先ごとに異なる商習慣は、受注業務の例外を生みます。単位が箱とケースで混在する、同じ商品でも取引先別に価格が異なる、締め時間を過ぎた注文を翌日扱いにするかどうかが相手ごとに違う、といった差異です。これらは契約書に明記されていないことがあり、担当者の運用として引き継がれてきました。差異そのものは取引の実態に合わせた結果であり、なくすべきものとは限りません。

問題になるのは、差異の一覧が社内のどこにも無い場合です。一覧が無ければ、代わりの担当者は相手に聞き直すほかありません。聞き直しは取引先の手間を増やし、結果として「あの人に電話した方が早い」という評価につながります。属人化が自己強化されていく流れがここにあります。

口頭のやり取りが記録として残らないことも原因の一つです。電話は相手の反応を見ながら条件を詰められる反面、確定した内容が文字にならないまま次の工程へ渡ります。伝票に転記された時点で情報は要約され、なぜその納期になったのかという経緯は消えます。経験から得た判断は言葉にしにくく、そのままでは組織に移せないという指摘は、製造現場を対象とした2005年の研究でも示されました*11

教育の時間を確保しにくい状況も無視できません。人手不足に関する企業の動向調査は、2026年7月の調査で有効回答が10,518社に上り、結果は2026年8月17日に公表されています*10。人員に余裕がなければ、新しい担当者に電話の横で数か月かけて覚えてもらう方法は取りにくくなります。教える側の時間を確保できないまま、受注の実務だけが先に回り続けます。

システム面の事情も重なります。企業のIT投資の動向を継続的に追った業界調査では、2025年度分の結果が2026年に公表されました*6。基幹システムの更新が優先され、受注の入り口である電話対応は改善の順番が後回しになりがちです。入り口が手つかずのままだと、後工程の効率化だけでは全体の負荷が下がりません。

3つの原因は独立していません。商習慣の差異が記録の手間を増やし、記録が無いことが教育を難しくし、教育が進まないことで担当が固定されます。どこか1か所だけを直しても元に戻りやすいのは、この循環があるためです。次節では、この循環を放置した場合に何が起きるかを整理します。

自社の商流に合わせた要件整理を進めたい場合は、無料相談で要件を整理するのが近道です。

属人化した電話受注が生むリスク

属人化の状態は3段階で把握します。受注チャネルの棚卸しでは、受注件数の集計として電話やファクスなど経路別に月単位で数え、受付時間帯の把握として締め時間の前後にどれだけ集中しているかを見ます。例外処理の洗い出しでは、価格の例外として取引先別の単価や数量に応じた値引きを書き出し、納期の例外として締め後の受付や分割納品の可否を書き出します。処理時間の比較では、担当者別の内訳として受付から出荷指示までの時間を記録し、引き継ぎ可否の判定として手順書と記録があれば代われるかで業務を見ます。
属人化の状態を把握する3段階と各段階の作業

属人化した電話受注を放置したときのリスクは、誤出荷による直接の損失、担当者の不在で受注が止まること、取引条件を後から確かめられないことの3つに現れます。前節が原因の整理であるのに対し、本節では原因を放置したときに表面化する結果を扱います。いずれも起きてから対処するとコストが膨らみ、事前の備えとの差が開きやすい領域です。順に見ていきます。

聞き間違いと転記ミスは、電話受注に固有のリスクです。品番の下一桁、数量の単位、納品先の枝番といった箇所は、音声だけでは区別しにくくなります。誤出荷が起きると、返品の引き取り、再出荷の運賃、在庫の差異調整、取引先への説明という作業が同時に発生します。売上の損失そのものより、復旧に投じる時間と信用の回復にかかる負荷が長く残ります。

ミスの発見が遅れる点も見落とせません。注文の記録が音声と手書きのメモしかなければ、出荷後に指摘を受けても、どちらの認識が正しかったのかを確かめる材料がありません。結果として、事実の確認より先に謝罪と再出荷の判断を迫られます。再発を防ぐ手当ても「注意して聞く」以上の内容にしにくくなります。

担当者の不在や退職で受注が止まるリスクは、事業の継続に直結します。受注が1日止まれば、その日の出荷が止まり、取引先の生産や店頭の在庫にも影響が及びます。休暇の取得をためらう空気が生まれ、担当者本人の負担も増えるでしょう。属人化は担当者を守る仕組みではなく、担当者を拘束する結果を招きます。

退職の場合はさらに深刻になります。引き継ぎ期間に伝えられるのは、頻度の高い取引先の標準的な対応に限られます。発生頻度の低い例外処理は引き継ぎの網から漏れ、発生した時点で対応できる人がいない状態になります。この漏れは、退職から時間が経ってから初めて表面化します。

取引条件を後から確かめられない状態も、リスクとして扱う必要があります。価格や納期の合意が音声にしか残っていなければ、認識の食い違いが生じたときに社内で経緯を再現できません。請求段階での差異は、取引先との関係だけでなく、月次の締め作業にも影響します。記録の欠落は、社内の説明責任を果たす手段を失うことでもあります。

条件を残せていないことは、制度の面でも不利に働きます。中小受託取引適正化法は2026年1月1日に施行され、委託の内容や支払いに関する事項を書面または電磁的方法で示すことが求められます*8。口頭だけで条件を確定させる運用は、社内に説明の材料が残らないという点で見直しの対象になります。リスクを事故の話に限定せず、記録の有無として捉え直す必要があります。

これらのリスクは同時に起きます。経験者の不在時に例外的な注文が入り、確かめられないまま出荷して誤出荷になる、という連鎖は珍しくありません。単発の事故として処理せず、記録が残っていないという共通の原因へ戻して考える必要があります。

リスク 現れ方 後に残る負荷
誤出荷による直接の損失 品番や数量の聞き間違いと転記ミス 返品の引き取りと再出荷の運賃
担当者の不在で受注が止まること その日の出荷が止まる 取引先の生産や店頭の在庫への影響
取引条件を後から確かめられないこと 価格や納期の合意が音声にしか残らない 月次の締め作業への影響

属人化の状態を把握する進め方

属人化の程度を把握する進め方は、受注チャネルの棚卸し、例外処理の洗い出し、処理時間の比較という3段階で進めます。いきなりシステムの検討に入ると、自社のどの部分が代替できないのか分からないまま要件を決めることになります。数値で現状を押さえておけば、社内の合意形成にも使えますし、外部へ相談する際の前提資料にもなるでしょう。まず現状の分布を数えるところから始めます。

電話受注の属人化を解消する手順は4段です。注文内容の記録では受注メモの様式を1つに決めます。商品マスタの整備では通称と正式なコードを対応させます。取引先別条件の整備では価格や締め時間を一覧化します。Web受発注への切り替えでは定型的な取引先から案内します。先に社内側の下準備を終えることが、取引先に負担をかけない移行につながります。
注文内容の記録から切り替えまでの属人化を解消する手順

受注チャネルの棚卸しでは、注文がどの経路で入っているかを月単位で数えます。電話、ファクス、電子メール、取引先の発注サイト、EDI(企業間で受発注データを電子的にやり取りする仕組み)という区分で、受注件数の集計を進めます。あわせて受付時間帯の把握も進め、締め時間の前後にどれだけ集中しているかを見ます。件数と時間帯が分かると、電話を残す範囲の議論が具体的になります。

集計の期間は、繁忙期と閑散期の両方を含む3か月以上を目安にします。1か月分だけでは、季節変動の大きい商材で例外の頻度を見誤ります。件数は取引先別、商品分類別、チャネル別の3軸で持っておくと、後の切り替え対象を選ぶ材料にそのまま使えます。集計の定義は最初に文書化し、担当が代わっても同じ数え方を続けられるようにします。

例外処理の洗い出しでは、標準の手順から外れた対応を1件ずつ書き出します。価格の例外としては、取引先別の単価や数量に応じた値引きが挙げられます。納期の例外としては、締め後の受付や分割納品の可否があります。書き出した例外は、頻度と、対応できる担当者の人数で分類しておきます。

処理時間の比較では、同じ種類の注文について、受付から出荷指示までの時間を担当者別の内訳として記録します。速い担当者と遅い担当者の差が大きい業務ほど、経験に依存している度合いが高いと読み取れます。差が小さい業務は、手順が共有できている業務です。ここで得た担当者別の内訳が、引き継ぎ可否の判定にそのまま使えます。

引き継ぎ可否の判定は、担当者を評価するためのものではありません。判定の対象は業務であり、手順書と記録があれば代われるか、という一点で見ます。この点を事前に社内へ説明しておかないと、計測そのものが監視と受け取られかねません。改善の目的は業務の設計を変えることだと、繰り返し伝える必要があります。

棚卸しの結果は、数値のまま残しておきます。電話の割合が高いこと自体は問題ではなく、電話で受けた内容が記録へ変換されているかどうかが論点です。同じ電話でも、通話後に受注データへ入力されていれば代替できる余地は残ります。区別せずに「電話は非効率」と決めつけると、取引先との関係まで損ないかねません。

把握には社内の複数部門が関わります。受注の実務、在庫と出荷、請求の各担当が持つ情報を突き合わせないと、例外の全体像は見えません。自社だけで進める場合は、業務の可視化、マスタ設計、システム要件の整理という3種類の知見が要ります。ここまでの整理を内製で完結させるのが難しいと感じた段階で、外部の支援を検討する選択肢もあります。

電話受注の属人化を解消する手順

解消した状態を保つには3つを運用として定着させます。手順書の整備では、受注の各段階で確かめる内容と記録先を1つの文書にまとめます。残す電話注文の線引きでは、緊急の変更や初回の取引は電話で受け、定型の反復注文は電子的な経路へ寄せます。指標の確認と見直しでは、記録が残った受注の割合や誤出荷の発生件数を決めた周期で比べます。維持する担当と周期を先に決めることが、再発を防ぐ手当てになります。
解消した状態を保つために定着させる3つの運用

電話受注の属人化を解消する手順は、注文内容の記録、商品マスタの整備、取引先別条件の整備、Web受発注への切り替えという順で進めます。この順序には理由があります。記録が無いままシステムを入れると移行の対象を定義できず、マスタが整っていなければ画面に出す商品も価格も決まらないためです。先に社内側の下準備を終えることが、取引先に負担をかけない移行につながります。

注文内容の記録は、電話を残したままでも始められます。通話中に入力する受注メモの様式を1つに決め、商品コード、数量、単位、納期、価格の根拠を必ず埋める項目にします。埋まらない項目があれば、その場で取引先に確かめるか、確認待ちとして記録に残します。様式が同じであれば後から検索でき、引き継ぎの材料にもなります。

記録を定着させるには、入力の負担を下げる工夫が要ります。通話しながら自由記述で書かせると、書式は元に戻ります。選択式の項目を増やし、頻出の取引先と商品を候補として先に出す作りにしておくと定着しやすくなるでしょう。記録は担当者を縛るためではなく、担当者が休めるようにするための道具です。

商品マスタの整備では、社内の呼称と正式な商品コードを対応させます。「いつもの」で通っていた商材ほど、社内の通称が複数存在します。通称、旧品番、取引先側の品番を別名として登録し、検索で正しいコードにたどり着ける状態にします。ここを飛ばすと、電子化した後で「探せない」という理由から電話へ戻ります。

取引先別条件の整備では、価格、最低受注量、締め時間、荷姿、納品先を取引先ごとに一覧化します。前節で洗い出した例外は、正式な条件として登録するか、例外のまま運用に残すかをここで決めます。すべてを登録しようとすると作業が止まるため、取引件数の多い取引先から着手する方が進みます。登録の判断は営業と受注の双方で確かめておくと、後の食い違いを避けられます。

進み具合は、工程ごとに区切って確かめます。記録の様式が使われている割合、別名を登録できた商品の割合、条件を登録できた取引先の割合の3つを見れば、どこで作業が滞っているか分かります。すべてが100%になるまで次へ進まない運用にすると、切り替えがいつまでも始まりません。取引件数の多い上位の取引先から順に終える形で進めます。

Web受発注への切り替えは段階的に進めます。まず件数が多く注文内容が定型的な取引先から案内し、電話と並行して受け付ける期間を設けます。切り替えを一斉に告知すると、取引先側の運用変更が追い付かず、かえって問い合わせの電話が増えます。企業間のデータ連携で受発注の業務コストを下げる考え方は公的な解説資料にも示されており*1、社内説明の材料として使えます。

移行の可否は取引先の事情にも左右されます。相手側に入力できる担当がいない、注文の内容が毎回異なるといった場合は、電話を残す判断が合理的です。全件の電子化を目標に置くより、記録が残る受注の割合を上げることを目標にする方が、現実的な進め方と言えます。

受発注のデジタル化を後押しする環境の変化

受発注のデジタル化を後押しする環境の変化は、企業間取引の電子化の広がり、通信インフラの移行、取引条件の明示に関するルールの見直しという3点です。いずれも自社の都合とは別に進む変化であり、社内で優先順位を上げる根拠として使えます。通信インフラと制度の面には期限が示されているため、着手時期の議論を具体的にできます。前節までの社内論点に、外部環境の期限を重ねて考えます。

企業のデジタル化の動向を継続的に調べた調査では、2026年の公表分の有効回答が1,799社でした。調査期間は2026年4月17日から6月12日です4。同じ調査の報告書は2026年7月30日に公表されました5。受注業務の電子化は、こうした全社的な取り組みの一部として位置づけられます。

通信や情報化の状況は、公的な白書のデータ集としても整理されています3。デジタル化の課題では人材の不足が最も多く挙げられており2、人を増やして対処する前提は置きにくくなりました。受注の入り口を電子化することは、人員を増やさずに処理量を保つための選択肢です。なお、出典の異なる調査どうしは対象や母集団が違うため、数値を並べて比べることはできません。

通信インフラの移行は、電話回線を使った受発注に直接影響します。固定電話網のデジタル化に伴い、ディジタル通信モードの新規申し込み受付は2024年8月31日に終了しました。同じ方式の提供そのものも2028年12月31日に終了すると公表されています*7。EDIの一部やファクスの送信をこの方式に依存している場合、期限までに別の手段へ移す必要があります。

取引条件の明示に関するルールも見直されました。中小受託取引適正化法は2025年5月23日に公布され、2026年1月1日に施行されています*8。委託の内容や支払いに関する事項を書面または電磁的方法で示す義務が定められており、口頭だけで条件を確定させる運用は見直しの対象になります。法解釈に踏み込む前に、自社の受注記録が合意した条件を再現できる状態かを確かめておくとよいでしょう。

投資の負担を下げる制度もあります。省力化投資を対象とした補助金の一般型では、従業員の規模別に補助上限額が設定されています*9。公募の回次や要件は改定されるため、2026年9月の時点で公表されている公募要領を確かめたうえで判断してください。制度を前提に計画を立てる場合は、申請の時期と導入の時期を合わせて逆算する必要があります。

3つの変化は期限の性質が異なります。制度は2026年1月1日から既に適用され、通信インフラには2028年12月31日という期限があり、電子化の広がりは競争上の圧力として続きます。自社の設備更新や人員の入れ替えの時期と重ねて、着手の順番を決めるとよいのではないでしょうか。

環境の変化 内容 期限の性質
企業間取引の電子化の広がり 受注業務の電子化は全社的な取り組みの一部 競争上の圧力として続く
通信インフラの移行 ディジタル通信モードの提供が終了 2028年12月31日
取引条件の明示に関するルールの見直し 委託の内容や支払いに関する事項を書面または電磁的方法で示す義務 2026年1月1日から既に適用

解消した状態を保つための運用と体制

解消した状態を保つには、手順書の整備、残す電話注文の線引き、指標の確認と見直しという3つを運用として定着させます。導入の直後は新しい手順が守られていても、繁忙期や担当者の交代をきっかけに元の運用へ戻ることがあります。仕組みを維持する担当と周期を先に決めておくことが、再発を防ぐ手当てになります。前節の外部環境に対して、本節は社内で続ける仕掛けを扱います。

手順書の整備では、受注の各段階で何を確かめ、どこに記録するかを1つの文書にまとめます。例外処理は別紙に切り出し、発生時の判断者と連絡の経路を明記しておきます。手順書は作成した時点から古くなり始めるため、更新の担当者と更新の時期を先に決めます。更新されない手順書は、現場から参照されなくなります。

教育は、手順書の読み合わせだけでは定着しません。新任の担当者が実際の注文を処理し、その記録を経験者が確かめる形にすると、判断の根拠が言葉として共有されます。経験を通じて身につけた知識は言葉にしにくいという2005年の研究の指摘を踏まえれば、記録を介した確認の場を設ける意味があります*11。教える時間は業務時間として計上し、繁忙期を避けて配置します。

残す電話注文の線引きは、明文化しておきます。緊急の変更、初回の取引、仕様の相談は電話で受け、定型の反復注文は電子的な経路へ寄せる、という形です。線引きが曖昧だと、忙しい時期に電話へ戻り、記録が途切れます。電話を残すこと自体は問題ではなく、受けた内容を記録へ変換する手順が定義されていれば代替できる余地は保てます。

指標の確認と見直しでは、記録が残った受注の割合、受注1件あたりの処理時間、誤出荷の発生件数、担当者別の処理件数の偏りを見ます。数値が悪化した時期には、必ず運用上の理由があります。指標は少なく保ち、決めた周期で同じ定義のまま比べられるようにしておきます。定義を変えると、経年の比較ができなくなります。

この運用を内製で維持するには、複数の知見が要ります。受注業務の実務、商品マスタと取引先条件の設計、システムの要件定義と保守、取引先への案内という4領域です。専門の支援を受ける場合との違いは、要件の抜け漏れを事前に指摘してもらえるか、移行時の想定外に対処した経験があるかという点に現れます。内製にこだわって移行が止まるより、下準備は自社で進め、設計と移行の段取りだけ外部と組む進め方もあります。

体制は小さく始めて構いません。受注、営業、情報システムから1名ずつ集めた検討の場を設け、決めた周期で指標を確かめるだけでも運用は保てます。関与する人を増やすより、決める人と更新する人を明確にする方が続きます。

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よくある質問

電話受注はすべて廃止すべきですか。

廃止までは要りません。緊急の変更や初回の取引、仕様の相談は電話の方が早く、取引先の負担も軽く済みます。論点は電話の有無ではなく、受けた内容が同じ様式の記録へ変換されているかどうかです。記録が残る受注の割合を上げることを目標に置くと、現実的な線引きができます。

取引先が電子的な発注に応じてくれない場合はどう進めますか。

一斉の切り替えを避け、件数が多く注文が定型的な取引先から案内する進め方があります。相手側に入力できる担当がいない場合は電話を残し、社内で受注データへ入力する形でも記録は残せます。固定電話網のディジタル通信モードは2028年12月31日に提供が終了するため、期限を共有した相談も材料になります。

システムを導入する前に自社で準備しておくことは何ですか。

商品マスタと取引先別条件の整備です。社内の通称、旧品番、取引先側の品番を別名として登録し、価格・最低受注量・締め時間を取引先ごとに一覧化しておきます。ここが未整備のまま導入すると、画面で商品を探せず電話へ戻ります。あわせて例外処理の一覧を作り、登録するか運用に残すかを決めておきます。

経験の長い担当者の協力を得るにはどう伝えればよいですか。

評価ではなく業務の設計を変える取り組みだと明示することです。判定の対象は人ではなく業務であり、手順書と記録があれば代われるかという一点で見ると伝えます。記録は担当者を縛るためではなく、休暇を取れるようにし、不在時に受注が止まらないようにするための道具だと位置づけると理解を得やすくなります。

費用の目安や使える制度はありますか。

費用は取引先数や既存システムとの連携範囲で変わるため、一律の目安は示せません。省力化投資を対象とした補助金の一般型では、従業員の規模別に補助上限額が設定されています。公募の回次や要件は改定されるため、2026年9月の時点で公表されている公募要領を確かめ、申請と導入の時期を逆算して計画してください。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「FSOL B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

  1. *1 出典:経済産業省 中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!(中小企業共通EDI)」(2020年、2026年3月更新) 経路
  2. *2 出典:総務省「令和7年版 情報通信白書『各国企業のデジタル化の状況』」(2025) 経路
  3. *3 出典:総務省「令和8年版 情報通信白書 データ集」(2026) 経路
  4. *4 出典:独立行政法人情報処理推進機構「プレス発表 国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表(DX動向2026調査、有効回答1,799社、調査期間2026年4月17日〜6月12日)」(2026) 経路
  5. *5 出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2026 - 広がるAI導入、DXは変われるか」(2026) 経路
  6. *6 出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査2026(2025年度調査)」(2026) 経路
  7. *7 出典:東日本電信電話株式会社「INSネットの新規申込受付・提供終了について」(2024) 経路
  8. *8 出典:公正取引委員会「取適法(中小受託取引適正化法)特設ページ」(2026) 経路
  9. *9 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業省力化投資補助金(一般型)」(2026) 経路
  10. *10 出典:株式会社帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」(2026) 経路
  11. *11 出典:日本経営学会「浅井紀子『製造現場における暗黙知と形式知に関する一考察』經營學論集 第75巻 pp.174-175」(2005) 経路

画像の出典元

  1. white and black labeled box/Photo by NATasha Nguyen on Unsplash

◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

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