第三回:「運用の効率を挙げて流通量を大幅アップ!」
川手 正己(株式会社イーシー・ライダー/代表取締役/ヘッド・コンサルタント)
前回の記事では、B2B向けクレジットカード決済機能を持つECサイトの導入により受注処理と与信管理にかかるコストを大幅に削減し、売上アップに繋げられた事例をご紹介しました。
今回ご紹介するのも、やはりB2B向けECサイトの導入により業務処理の効率を上げて、大幅な売上アップを達成された企業様の事例ですが、この企業様ではいわゆる卸サイトやWeb受発注システムとは異なる、少しユニークなモデルでECサイトを展開されています。一般的な製造業向けECとは少し毛色が異なるものの、今後は製造業界においてもこうした動きが活発してくることが予想されますので、このコラムにてご紹介させて頂くことにします。
二箇所のボトルネック
今回ご紹介するのは、PC関連アクセサリーの販売を手がける大手企業様(以下、B社)です。B社では、数社の大手サプライヤーから仕入れた商品を販売先である小売店に販売するモデルのビジネスを営んでおられましたが、ビジネスの立ち上げ以来、サプライヤーとの取引・小売店との取引とも電話・FAX・メールベースで行っていたため、受発注処理の効率の悪さが課題の一つとなっていました。
ビジネスは順調に成長し、取引先のサプライヤーや小売店を増やせば必ず売上げアップに繋げられる、という強い確信をお持ちでしたが、こうした受発注処理の負荷がボトルネックとなって、思うように取引の拡大に踏み切れない状況が続いてたといいます。「業務処理にかかる手間がボトルネックとなる」という点においては前回ご紹介したA社の例と同じですね。
ただし、今回のB社のケースでは、それが受注だけではなく発注業務においても発生しており、二重の課題となっていました。商品を売りたいサプライヤー、仕入れたい小売店はいくらでも見つかるのに、それをさばくための手が足りない。結果として、せっかくのビジネスチャンスを逃しているという歯がゆい状況にあったわけです。
そこで、この部分の処理を効率化して流通量の増加を立てるため、ECサイトを導入して受発注処理を一元化する計画が立案されました。
一対多モデルと多対多モデル
計画段階においてまず課題となったのは、ECサイト構築のベースとして用いるツールの選定をどうするかということでした。
前述のとおり、B社のこのビジネスのモデルは、複数のサプライヤーから仕入れて複数の取引先に販売する、というものです。このビジネスモデル自体は特に珍しいものではありませんが、平均的なECサイト構築ツールでこうしたECサイトをそのまま実現できる機能を持つものは、実は公には市場に出回っていません(2014年12月現在調べ)。
一般にECサイトというと、自社の取り扱う商品を複数の取引先に販売する、いわゆる一対多のモデルで成り立っているものが多いといえます。これはBtoCでもBtoBでも同様で、このため、ECサイト構築システムもこのモデルに基づいて作られているものが大半なのです。
今回のB社のケースでは、複数の販売者(サプライヤー)が提供する商品を複数の購入者(小売店など)に販売する形となり、売り手と買い手が多対多で繋がります。サプライヤーの販売する商品を一旦B社が仕入れ、それを小売店に卸すような体制にすれば一般的な一対多のモデルになりますが、これでは、先にお話した課題の一方しか解決することができません。
仕入れから販売までを完全に自動化して業務処理の効率化を図るためには、
① サプライヤーが直接管理サイトにログインして商品登録を行い
② 登録された商品を購入者が注文し
③ 注文受領後の受注・出荷の処理も販売元であるサプライヤーが行う
・・・というような、多対多モデルのECサイトを構築する必要があります。
仕入れから販売までをWebサイト上で一元化
こうして、B社における念入りな調査の末に、弊社にお声がかかりました。
弊社にて提供しているEC-Rider B2BはB2B向けECサイト構築用のASPサービスで、最大の特徴は、複数の販売者と複数の購入者を多対多でつなぐマーケットプレイス型のECサイトを構築できる点にあります。
B社ではこのEC-Rider B2B をベースとして選定し、更に、システムを自社の業務要件に合わせるために必要なカスタマイズを施して、マーケットプレイス型のWEB受発注システムの構築に踏み切られました。
B社が構築したECサイトの構造を、下記の図に添って説明します。
まず、ECサイト自体の運営・管理はB社が行います。
商品販売者であるサプライヤーは、管理サイトにログインして商品登録や受注・出荷処理を行います。
購入者である小売店は、フロントサイトにログインして必要な商品を発注します。
サプライヤーには管理サイトのアカウントが与えられ、サイトにログインして商品登録や受注処理などを行えるようになっています。商品の登録に際しては、取引先ごとに卸価格や商品の表示・非表示を柔軟に設定することが可能で、「取引先毎に異なる卸価格を提示したい」「特定の取引先にのみ商品を販売したい」というBtoB取引ならではの要件にも対応可能です。
商品の発注はネットショップのようなショッピングカート方式で行いますが、楽天市場のようにサプライヤーごとにカートが別々になるのはBtoBでは利便性が悪いため、一つのカートで複数のサプライヤーにまとめて発注することができる、Amazon型のカートシステムを実現。これにより、購入者である小売店はサプライヤーの違いを特に意識することもなく、スムーズな操作で必要な商品を発注できるようになりました。
このようなマーケットプレイス方のECサイトの導入により、B社は受注処理業務の大幅な効率化に成功されました。何より、サプライヤーが直接商品管理・注文管理を行えるようになったのが大きなメリットで、それまでB社にかかっていた負荷が一気に減った事により、サプライヤーや小売店の数も飛躍的に増加して、流通量はうなぎのぼりに増えていきました。
サイトオープン後半年で、サプライヤー数は約8倍、取引総額は10倍近く増加したと伺っています。
番外編:流通量増加によるシステムパフォーマンス低下との戦い
このように、ECサイトの活用によりビジネスの急成長を見る例は枚挙にいとまがありません。
しかし、世の中良いことばかりは続かないもので、こうした際にしばしば発生するのがシステムパフォーマンス低下の問題です。
一般にサイトの利用者が増えて注文の件数が増加してゆくと、システムにかかる負荷もそれに比例する形で上がっていきます。自宅の一階で水を使っていると二階の水の出が悪くなる、といった経験をお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが、ECサイトも同じようなものです。
同時利用者の数が増えれば増えるほどシステムにかかる負荷が増大し、サイトの表示が遅くなる、処理がなかなか終わらない、といった問題が出てきます。
基盤となるサーバやネットワークを自社で所有する形でシステムを構築していると、このような場合にシステムの増強に多大なコストがかかります。B社ではシステムの基盤としてクラウドベースのASP(EC-Rider)を採用されていたため、低コストにてシステムの増強を行い、この問題を乗り越えられました。
このように、急成長を遂げやすいECベースのビジネスでは、急激な取引量の増加によりシステム性能に関する問題が発生することがことがしばしばあり、注意が必要です。
新規事業としてECの導入をご検討中の担当者様は、こういった点にも留意して、システム基盤の選定に当たられることをおすすめします。