◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- BtoB ECの販促キャンペーン設計は、手法を選ぶ前に目的と法令の枠を確定させる順番で進めます。事業者間取引では独占禁止法・取適法・税務の扱いが一般消費者向けの販促と異なります。
- 設計は目的・対象・手法・原資・測定の5ステップに分解できます。どの段階を飛ばすと後戻りが生じるのかを、公的資料の記述に沿って確認していきます。
- 販促は営業の企画だけで完結しません。取引先別価格や期間条件、値引き内訳の保持といったEC側の設定要件を、要件定義の段階で押さえておく必要があります。
目次
- BtoB ECの販促キャンペーンとは ― 手法より先に目的と法令の枠を決める
- 市場514.4兆円・EC化率43.1%と2026年1月の取適法施行が設計を変える
- 目的・対象・手法・原資・測定 ― 販促キャンペーン設計の5ステップ
- 特価・送料条件・EC限定枠は設計可、売価の指示は原則違法 ― 手法の可否判定
- 再販売価格の拘束・リベート・代金の減額・交際費区分 ― 外せない法務税務の論点
- 取引先別価格・期間条件・値引き内訳の保持 ― BtoB EC側の設定要件
- 一律値引きで建値が戻せない・代金差引きで年率14.6%の遅延利息 ― 失敗と回避策
- まとめ:目的の単一化・可否の根拠・測定窓 ― 販促設計の3つの判断軸
- よくある質問
BtoB ECの販促キャンペーンとは ― 手法より先に目的と法令の枠を決める
BtoB ECの販促キャンペーン設計は、目的を1つに絞り、独占禁止法と取適法と税務の枠を確定させたうえで手法を選ぶ順番で進めます。事業者間取引では、値引きやリベートの与え方が「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(令和8年7月8日最終改正)の判断対象になります*2。
BtoB ECの販促キャンペーンとは、既存および新規の取引先に対し、期間・対象・条件を限定した購買のインセンティブをEC上で提供する施策です。事業者間の取引であるため、手法を選ぶ前に独占禁止法・取適法・税務上の取扱いという枠を確定させる必要があるものを指します。一般消費者向けの販促とは、規制の対象範囲と原資の扱いが異なります。
販促キャンペーンの定義 ― 一般消費者向けの販促と異なる3点
一般消費者向けの販促との違いは、規制の入口が3つに分かれる点にあります。第一に、取引先の売価に関わる条件付けは独占禁止法の判断対象になります*2。第二に、自社が委託事業者として製造委託等をしている相手に対する原資の負担要請は、取適法の禁止事項に触れる場合があります*3。
第三に、物品の提供は税務上の区分が問題になります。国税庁の解説は、交際費等に含まれない例を列挙し、あわせて医師や美容業者、建築業者、農家、鉄工業者などは「一般消費者」に該当しない旨の注記を置いています*5。
設計の順番 ― 目的から測定までを逆にすると手戻りが出る
「使える機能から手法を決める」進め方は手戻りを生みます。手法が決まったあとに法務確認で差し戻され、原資の負担先と価格マスタの設定をやり直すことになるためです。
販促キャンペーン設計で先に確定させる5点(順位根拠:実施順序。前の段が決まらないと次の段の判断ができません)
- 目的を1つに絞ります。新規取引先の開拓、EC移行の促進、死蔵在庫の消化、取引額の底上げのどれを狙うかを先に決めます。
- 対象取引先を定義します。取引先グループ・購買実績・エリアのいずれで切るかを決め、全先一律の適用を避けます。
- 手法を可否の根拠つきで選びます。自社の販売価格の設定は事業活動の基本的な事項とされる一方、流通業者の販売価格を拘束する行為は原則として違法とされています*2。
- 原資と条件を書面で明文化します。代金の額を発注後に減ずる形は、名目を問わず取適法違反とされます*3。
- 効果測定の指標と計測窓を決めます。購買サイクルを跨ぐ期間を先に設定し、実施後に基準を動かさないようにします。
市場514.4兆円・EC化率43.1%と2026年1月の取適法施行が設計を変える
販促設計を見直す理由は、市場の拡大と法制度の刷新が同じ時期に重なった点にあります。
BtoB-EC市場は514.4兆円、EC化率は43.1%まで拡大している
経済産業省が2025年8月26日に公表した令和6年度電子商取引に関する市場調査によると、2024年の国内BtoB-EC市場規模は514.4兆円でした*1。前年は465.2兆円、前々年は420.2兆円で、前年比10.6%増と報告されています*1。同じ調査でのBtoC-EC市場規模は26.1兆円(前年比5.1%増)です*1。
EC化率はBtoB-ECで43.1%(前年比3.1ポイント増)、BtoC-ECで9.8%(同0.4ポイント増)と報告されています*1。この調査でのEC化率は、全ての商取引金額に対する電子商取引市場規模の割合です*1。BtoB-ECでは、業種分類上「その他」以外とされた業種を算出対象としています*1。定義を落として一般化しないよう注意してください。
2026年1月1日に取適法が施行され、法律名と禁止事項の枠組みが変わった
公正取引委員会の告知によると、改正法は令和8年1月1日から施行されます*4。従来の「下請代金支払遅延等防止法」(下請法)は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」となります*4。略称は中小受託取引適正化法、通称は取適法です*4。社内の販促規程や稟議様式が旧法の名称のままなら、まず表記の更新から着手することになるでしょう。
流通・取引慣行ガイドラインが令和8年7月8日に改正された
独占禁止法上の判断の考え方を示す「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」は、平成3年7月11日に制定され、令和8年7月8日に最終改正されています*2。第1部が取引先事業者の事業活動に対する制限を扱い、その中に再販売価格維持行為とリベートの供与が置かれています*2。
目的・対象・手法・原資・測定 ― 販促キャンペーン設計の5ステップ
ここからは、前掲の5点を1段ずつ具体化します。前節が「今なぜ見直すか」を扱ったのに対し、本節は「何をどの順で決めるか」を扱います。
STEP1 目的を1つに絞る ― 開拓・EC移行・在庫消化・取引額の底上げから選ぶ
目的を複数掲げると、対象と指標が両立しなくなります。新規取引先の開拓なら初回受注の件数、EC移行の促進なら電話・FAXからEC経由へ振り替わった受注比率が指標になります。死蔵在庫の消化なら対象SKUの在庫回転が見るべき値でしょう。
STEP2 対象取引先を定義する ― 取引先グループ・購買実績・エリアで切る
全取引先へ一律に同じ値引きを出す設計は、建値の水準そのものを動かします。対象を絞る切り口は、取引先グループ、直近の購買実績、担当エリア、取扱商品カテゴリなどです。
差を付けること自体は自社の販売条件の決定にあたります。ただし、取引先がいくらで販売するかによってリベートを差別的に供与する行為には注意が必要です。違法な制限と同様の機能を持つ場合には、不公正な取引方法に該当するとされています*2。切り口の設計と、売価への条件付けは切り離して考えてください。
対象取引先をログイン単位で切り分ける前提づくりは、クローズドEC・会員制サイトの構築 で扱っています。
STEP3 手法を選ぶ ― 可否の根拠を法令に紐づけてから決める
手法は、次節の可否判定表から目的に合うものを選びます。選定時に押さえるのは「誰の価格を決める話なのか」という点です。自社の卸価格を自社が決めるのか、取引先の売価に条件を付けるのかで、判断の枠組みが変わります*2。
STEP4 原資と条件を書面で明文化する ― 代金と切り離して負担先を決める
販促原資は、誰がいくら負担し、どの支払と紐づくのかを書面で残します。取適法のテキストは、委託事業者が中小受託事業者の責めに帰すべき理由なく発注時の代金の額を減ずることを禁じています*3。「歩引き」や「リベート」等の減額の名目・方法・金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても違反となるとされます*3。
違反とされたことのある減額の名目には、「協定販売促進費」「特別価格協力金」「販売奨励金」「販売協力金」「協賛金」「一括値引き」などが挙げられています*3。あらかじめ合意があった場合でも、責めに帰すべき理由なく減ずるなら違反となる旨も明記されています*3。
STEP5 効果測定の指標と計測窓を先に決める ― 購買サイクルを跨いで見る
BtoBの購買は定期発注や年間契約と結びつくため、実施期間だけを切り取ると評価を誤ります。実施前の同期間、実施期間、実施後の同期間という3つの窓を先に定義しておくと、前倒し発注の影響を分離できます。
指標は目的に対応させ、実施後に変更しない運用にします。キャンペーン価格と通常建値を分けて履歴に残しておけば、値引き分を除いた粗利の推移も後から追えるようになります。
指標の選び方と計測設計の全体像は、BtoB ECの効果測定・指標とKPI設計 で詳しく整理しました。
特価・送料条件・EC限定枠は設計可、売価の指示は原則違法 ― 手法の可否判定
手法ごとに、狙いとBtoBでの可否、根拠と条件を整理します。可否は個別事案の結論ではなく、指針や法令テキストの記述に照らした検討の出発点として読んでください。
| 手法 | BtoBでの可否 | 根拠・条件 |
|---|---|---|
| 期間を限定した特価・数量割引 | 自社の販売条件として設計できます | 事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することは、事業活動において基本的な事項とされています*2。 期間終了後に通常建値へ戻す運用を先に決めておきます。 |
| 送料条件・まとめ発注のインセンティブ | 自社の販売条件として設計できます | 価格そのものを動かさず、建値を維持したまま発注行動へ働きかける手法です。 |
| EC限定の先行受注・EC限定商品 | 自社の販売条件として設計できます | チャネルごとに提供条件を変える設計です。 取引先の売価に条件を付けない形にします。 |
| リベート・販売奨励金 | 供与基準の設計次第で問題となる場合があります | リベートの供与自体が直ちに独占禁止法上問題となるものではないとされています*2。 供与の基準が不明確なリベートを裁量的に提供する場合は、基準を明確にして相手方に示すことが望ましいとされています*2。 |
| 占有率リベート・著しく累進的なリベート | 競争品の取扱制限としての機能を持つ場合があります | 市場における有力な事業者がこれらを供与し、市場閉鎖効果が生じる場合は不公正な取引方法に該当し違法となるとされています(シェア20%超が一応の目安)*2。 |
| 販売店の売価の指示・「◯円で売ること」の条件付け | 原則として違法とされる領域です | 事業者が流通業者の販売価格を拘束する場合は、原則として不公正な取引方法として違法となるとされています*2。 示した価格で販売する場合にリベート等を供与する行為も、実効性を確保する人為的手段として挙げられています*2。 |
| 得意先へのノベルティ・景品の提供 | 税務区分と告示の対象範囲を確認したうえで検討します | カレンダー、手帳、手ぬぐいなどを贈与するために通常要する費用は交際費等に含まれないとされています*5。 景品規制の告示は「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」という名称です*6。 総付景品の限度額は、取引の価額1,000円未満で200円、1,000円以上で取引の価額の10分の2です*6。 |
期間を限定した特価・数量割引 ― 自社の販売価格の設定として組み立てる
特価と数量割引は、自社が自社の売値を決める行為です。指針は、事業者が市場の状況に応じて自己の販売価格を自主的に決定することを事業活動の基本的な事項と位置づけています*2。設計上の論点は、法令よりも「戻し方」に集まります。
期間終了時に通常建値へ戻す手順と、戻す際の連絡経路を先に決めておいてください。階段価格の刻み方や適用単位の設計は、システム側の設定と密接に関わります。
階段価格の刻み方と適用単位の設定は、BtoB ECの数量割引・階段価格の設定方法 を参照してください。
チャネルごとに提供条件を分ける設計は、代理店・特約店向けECサイトの構築 が近い論点です。
再販売価格の拘束・リベート・代金の減額・交際費区分 ― 外せない法務税務の論点
前節が手法ごとの可否を扱ったのに対し、本節は判断の根拠となる論点を4つに整理します。個別事案の当てはめは所管機関や専門家への確認が前提となる領域です。
論点1 再販売価格の拘束 ― 実効性の確保が認められると該当し得る
前提として、独占禁止法第19条は「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない」と定めています*7。そのうえで指針は、再販売価格の拘束の有無を人為的手段による実効性の確保の有無で判断するとしています*2。具体的には、流通業者が示した価格で販売することの実効性が確保されていると認められるかどうかで判断されます*2。文書か口頭かを問わない合意、同意書の提出、取引条件としての提示などが例示されています*2。
販売価格の報告徴収や店頭でのパトロール、派遣店員による価格監視といった行為も、示した価格で販売するようにさせている場合として挙げられています*2。販促の効果測定と称した売価の報告収集は、目的と運用を切り分けて設計する必要があります。
他方、希望小売価格や建値は、流通業者に対し単なる参考として示されている限り、それ自体は問題となるものではないとされています*2。通知の際に「参考価格」等の非拘束的な用語を用いることが望ましいとされている点も、告知文の作成時に押さえておきたい記述です*2。
論点2 リベートの供与 ― 累進度・遡及性・水準の総合判断になる
占有率リベートや著しく累進的なリベートについて、指針はリベートの水準、供与する基準、累進度、遡及性等を総合的に考慮して判断するとしています*2。市場における有力な事業者がこれを供与し、市場閉鎖効果が生じる場合には不公正な取引方法に該当するとされます*2。
論点3 取適法の代金の減額 ― 名目を問わず、年率14.6%の遅延利息が生じ得る
取適法のテキストは、代金の減額の禁止(第5条第1項第3号)について、名目・方法・金額の多少を問わず、発注後いつの時点で減じても本法違反となると説明しています*3。違反とされたことのある名目に、協賛金や販売奨励金、販売協力金、協定販売促進費が並びます*3。条文自体も、中小受託事業者の責めに帰すべき理由がないのに製造委託等代金の額を減ずることを禁止行為として掲げています*8。
責めに帰すべき理由なく代金の額を減じた場合、委託事業者は、起算日から実際に減じた額の支払をする日までの期間について、その日数に応じ、減じた額に年率14.6%を乗じて得た額を遅延利息として支払う義務があるとされています*3。この場合の起算日は、減額を行った日または中小受託事業者の給付を受領した日から60日を経過した日のいずれか遅い日です*3。販促原資を仕入代金からの差引きで回収する設計は、この記述に照らして見直す対象になります。
論点4 販促協力の要請と交際費区分 ― 提供の求め方と費用の扱いを分けて考える
取適法は、不当な経済上の利益の提供要請の禁止(第5条第2項第2号)として、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることを挙げています*3。テキストは、この「経済上の利益」に協賛金や従業員の派遣等の名目を問わず、代金の支払とは独立して行われる金銭の提供や労務の提供が含まれるとしています*3。
税務面では、国税庁が交際費等と広告宣伝費の区分を示しています。根拠は措法61の4、措令37の5、措通61の4(1)-1および61の4(1)-9です*5。得意先などに対して見本品や試用品を提供するために通常要する費用は、交際費等に含まれないと整理されています*5。同解説には、医師や美容業者、建築業者、農家、鉄工業者などは「一般消費者」に該当しない旨の注記があります*5。
景品規制の側では、告示の正式名称が「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第五号)です*6。運用基準は、事業者名を広告するために提供する物品で適当な限度のものについて、社名入りのカレンダーやメモ帳を例示しています*6。事業者間取引への適用範囲は、告示本文と運用基準で確認してから判断してください。
取引先別価格・期間条件・値引き内訳の保持 ― BtoB EC側の設定要件
ここまでの設計は、EC側で設定できなければ実行に移せません。要件定義で決めていない設定は、稼働後に追加開発の対象になります。
取引先別・取引先グループ別に価格と適用条件を分ける
対象を絞った販促を出すには、取引先や取引先グループの単位で価格と適用条件を持てる必要があります。キャンペーンごとに切り口が変わるため、グループの定義を運用側で組み替えられるかどうかも確認点になります。
価格と適用条件を取引先単位で持つ実現方式は、取引先別価格をECで実現する方法 に詳しくまとめました。
期間指定・数量条件・クーポン適用条件を運用側で設定できるようにする
開始日と終了日、対象商品、下限数量、併用の可否といった条件を、開発を伴わずに設定できる状態が望ましい形です。終了日の自動適用がないと、期間後も特価が残る事故が起こりかねません。
クーポンを用いる場合は、適用条件の記述方法まで確認しておいてください。消費者庁の運用基準は、告示第二項第三号の「割引券その他割引を約する証票」の考え方を示しています*6。この「証票」には、金額を示して取引の対価の支払いに充当される金額証が含まれるとされています*6。
キャンペーン価格と通常建値を分離して履歴に残す
値引き後の価格だけを保存する設計では、あとから効果を検証できません。通常建値、キャンペーン価格、差額の3つを受注明細に残しておけば、粗利の推移と値引き総額を分けて追えます。監査や社内説明の場面でも同じデータが使えるでしょう。実施前・実施中・実施後の3つの窓で比較する運用も、この履歴があって初めて成り立ちます。
基幹システムへの受注連携で値引きの内訳を落とさない
EC側で持っている値引き内訳が、基幹システムへの連携時に合計金額へ丸められる例があります。請求書や納品書の表示、売上計上の科目にも影響するため、連携仕様の段階で内訳の項目を確保しておく必要があります。
販促の設定要件を自社の受注・請求の流れに当てはめて確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
一律値引きで建値が戻せない・代金差引きで年率14.6%の遅延利息 ― 失敗と回避策
前節が「何を設定できるようにするか」を扱ったのに対し、本節は「設定できていないと何が起こるか」を扱います。
失敗1:全先一律の値引きで建値が実質的に下がり、元に戻せない
対象を絞らずに値引きを出すと、期間終了後の価格が値上げとして受け取られます。戻す交渉に人手がかかり、結果として値引き後の水準が新しい建値になってしまいます。回避策は、対象と期間を最初から限定し、終了条件を告知文に明記することです。
失敗2:販促原資を代金からの差引きで回収し、取適法の禁止事項に触れる
協賛金や販売協力金という名目で仕入代金から差し引く運用は、取適法テキストが違反とされた名目として列挙している形に重なります*3。責めに帰すべき理由なく減じた場合には、起算日から支払をする日までの日数に応じ、減じた額に年率14.6%を乗じて得た額の遅延利息を支払う義務が生じるとされています*3。
回避策は、原資の負担を代金の支払と切り離し、別の取引として書面で合意することです。自社が委託事業者に当たるかどうかを含め、適用の有無は原典で確認してください*3。
失敗3:販促の設定が要件定義に入らず、内製での対応に必要な知識が広い
販促条件をあとから入れる場合、価格マスタ、受注明細、帳票、基幹連携の4か所に手が入ります。内製で組み切るには、独占禁止法と取適法の該当箇所の読み解き、交際費等の区分の確認、取引先別価格の設計、受注連携仕様の3領域の知識が同時に必要です。
関与する部門も、営業・販売企画、法務、経理、情報システムの4つにまたがります。外部パートナーと進める場合の違いは、これらの設定項目を要件定義の段階で洗い出し、稼働後の追加開発と法務の差し戻しを減らせる点にあります。判断そのものを外に出すのではなく、確認すべき項目を漏らさない体制を先に作る進め方です。
設定した販促を現場が使い続ける状態にする進め方は、BtoB ECの定着と現場の巻き込み で扱っています。
まとめ:目的の単一化・可否の根拠・測定窓 ― 販促設計の3つの判断軸
本稿では、BtoB ECの販促キャンペーン設計を5ステップに分け、法務・税務の論点とEC側の設定要件を公的資料に沿って整理しました。要点は3つです。第一に、目的を1つに絞り、対象・手法・原資・測定をその目的から逆算して決めます。第二に、手法の可否は法令の記述に紐づけて判断し、取引先の売価を拘束する形と、代金から原資を差し引く形を避けます*2*3。第三に、購買サイクルを跨ぐ測定窓と、建値と分離した価格履歴を実施前に用意します。市場規模514.4兆円・EC化率43.1%という水準*1と、2026年1月1日の取適法施行*4が重なりました。販促は営業の企画物ではなく、要件定義とセットの設計対象として扱う段階に入っています。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
BtoB ECの販促キャンペーンは、BtoCと同じ手法で進めてよいですか
同じ前提では進められません。得意先が事業者である場合、値引きやリベートの与え方が「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」の判断対象になります*2。物品の提供についても、国税庁の解説が医師や美容業者、建築業者などは「一般消費者」に該当しない旨を注記しています*5。手法の可否と原資の扱いを先に確認してください。
取引先ごとに違う価格や違うキャンペーンを出してよいですか
自社の販売条件を取引先ごとに設計すること自体は、自己の販売価格の自主的な決定にあたります*2。ただし、取引先がいくらで販売するかによってリベートを差別的に供与する行為は、違法な制限と同様の機能を持つ場合に不公正な取引方法に該当するとされています*2。差の付け方が売価への条件付けになっていないかを確認する必要があります。
販売店に希望小売価格を伝えることは問題になりますか
単なる参考として示す限り、それ自体は問題となるものではないとされています*2。参考として通知するだけにとどまらず価格を守らせる場合は、原則として違法となります*2。指針は「参考価格」「メーカー希望小売価格」といった非拘束的な用語を用いることが望ましいとしています*2。販売価格は各流通業者が自主的に決めるべきものである旨の明示も挙げられています*2。
販促の協賛金を仕入代金から差し引く運用は認められますか
取適法のテキストは、責めに帰すべき理由がないのに発注時に定めた代金の額を減ずることを禁じ、名目・方法・金額の多少を問わないとしています*3。違反とされたことのある名目には協賛金や販売奨励金、販売協力金が挙げられています*3。減じた場合には、起算日から支払をする日までの日数に応じ、減じた額に年率14.6%を乗じて得た額の遅延利息を支払う義務があるとされ、あらかじめ合意があっても違反となる旨が記されています*3。
キャンペーンの効果はどの指標で測るとよいですか
目的に対応する指標を1つ主指標に据え、実施前・実施中・実施後の3つの窓で比較する形が扱いやすい方法です。EC移行の促進が目的ならEC経由の受注比率、在庫消化なら対象商品の在庫回転が対応します。キャンペーン価格と通常建値を分離して履歴に残しておくと、値引き総額と粗利の推移を分けて確認できます。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」(2025年8月26日公表)
- *2 出典:公正取引委員会「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月11日制定・令和8年7月8日最終改正)
- *3 出典:公正取引委員会・中小企業庁「中小受託取引適正化法テキスト」(令和7年11月)
- *4 出典:公正取引委員会「2026年1月施行!~下請法は取適法へ~改正ポイント説明会の実施について」(改正法は令和8年1月1日施行)
- *5 出典:国税庁「タックスアンサー No.5260 交際費等と広告宣伝費との区分」(2026年8月20日確認)
- *6 出典:消費者庁「総付景品について」および「「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」の運用基準について」(昭和52年4月1日事務局長通達第6号・改正平成8年2月16日)
- *7 出典:e-Gov法令検索「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」第19条(昭和22年法律第54号/2026年8月20日確認)
- *8 出典:e-Gov法令検索「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」第5条第1項第3号(昭和31年法律第120号/2026年8月20日確認)
画像の出典元
- 法令のイメージ/Photo by Sasun Bughdaryan on Unsplash
- 取適法のイメージ/Photo by 2H Media on Unsplash
- 取引先のイメージ/Photo by Ambre Estève on Unsplash
- 根のイメージ/Photo by Corinne Kutz on Unsplash