◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- BtoB ECの掛売り対応は、決済手段をひとつ足す話ではなく、与信枠・締め請求・入金消込という3つの機能を業務に組み込むことです。
- 2026年1月施行の取適法により、対象取引での手形払い等と振込手数料の相手方負担が禁止されました。
- 電子交換所における手形・小切手の交換廃止が決定しており、掛売りの出口としての手形は選択肢から外れつつあります。
目次
BtoB ECの掛売り決済とは——与信・締め請求・入金消込の3機能
BtoB ECの掛売り決済とは、企業間取引で商品を先に引き渡し、取引先ごとに定めた締め日と支払期日にまとめて代金を請求・回収する決済方式です。対応の実体は、与信枠・締め請求・入金消込という3つの機能を業務に組み込むことにあります。2024年のBtoB-EC市場規模は514.4兆円に拡大しており*1、この規模の取引を支える決済の型として掛売りが位置づけられます。取引先ごとに与信枠を定め、締め日で区切った期間の取引をまとめて請求し、入金を請求書と突き合わせて消し込む——この債権サイクルを業務として成立させることが、掛売り対応の中身です。
掛売りの流れ:与信→受注→出荷→締め→請求→入金消込の6ステップ
掛売り決済の流れは、与信の設定から入金の消込までの6段階で構成されます。まず取引先ごとに与信枠を設定し、その範囲内で受注を受け付けます。商品を出荷したあとは、あらかじめ定めた締め日で一定期間分の取引をまとめ、請求書を発行する段取りです。取引先からの入金を、発行済みの請求書と突き合わせて消し込むところまでが一連の流れです。
BtoCの都度決済との違いは「注文」ではなく「締め期間」が決済単位になること
BtoCの都度決済は、注文の都度その場で代金を受け取る仕組みです。掛売りでは、決済の単位が個々の注文ではなく、締め日で区切られた一定期間になります。1回の請求に複数の注文がまとめて計上されるため、注文単位の売上と請求単位の入金は一致しません。
「掛売り対応」がシステム要件として意味すること
「掛売りに対応する」とは、決済手段をひとつ追加することではありません。取引先マスタに与信情報を持たせ、締め日・支払サイトごとに請求書を生成し、入金と請求書を突き合わせる一連の業務をシステムに実装することを指します。この業務設計こそが、BtoB ECにおける掛売り対応の中身です。効率化の効果そのものは、Web受発注システム導入のメリットの記事で扱っています。
BtoB ECで使う支払手段——2026年以降に選べるものと選べないもの
支払手段の選択は、2026年1月1日に施行された取適法(正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)の制約を受けます*2 *4。同法の対象取引では手形払い等が禁止されており、支払手段ごとに適合・不適合が分かれます*3。制度の詳しい要件は次章で扱うこととし、本章ではまずBtoB ECで実装しうる支払手段を一覧で整理します。
主要な支払手段の整理:銀行振込・口座振替・掛売り・クレジットカード・電子記録債権
BtoB ECで扱う主な支払手段は、銀行振込・口座振替・掛売り(請求書払い)・クレジットカード・電子記録債権の5つです。取引先の与信レベルや取引金額に応じて、複数の手段を併設する設計が一般的です。掛売りは継続的な取引関係を前提とする手段であり、初回取引や与信が未確定の取引先には向きません。
手形は選択肢から外れる——2027年3月31日の交換廃止と交換枚数の縮小
2027年3月31日をもって、電子交換所における手形・小切手の交換が廃止されます*8。2025年中の交換枚数はすでに1,416万枚(手形670万枚、小切手746万枚)まで縮小しました*7。ただし2025年の削減枚数は551万枚にとどまり、2026年度末までに交換枚数をゼロにするという自主行動計画の目標値984万枚とは開きがあります*7。全国銀行協会は、2027年4月1日以降に手形・小切手が直ちに使用不可になるわけではないと注記しています*8。ただし、電子交換所を介さない相対決済の取扱いは金融機関ごとの判断に委ねられます。BtoB ECの支払手段として手形を新規に組み込む設計は、この時点では避けるのが妥当です。
電子記録債権・ファクタリングを使う条件は「支払期日までに満額現金」
電子記録債権やファクタリングを使う場合も、無条件に認められるわけではありません。支払期日までに代金相当額の満額を現金で得られない場合は、取適法上の支払遅延に該当します*3。割引や手数料負担によって受取額が目減りする設計は、対象取引では選べません。
| 支払手段 | 取適法対象取引での適合性 | EC実装の難易度 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 銀行振込(都度) | 適合(現金で満額受領) | 低い | 与信は不要ですが、取引の都度振込手続きが発生します。 |
| 口座振替 | 適合 | 中程度 | 事前の口座登録手続きが必要です。 |
| 掛売り(請求書払い) | 適合(現金決済の場合) | 中〜高 | 与信枠・締め・請求・消込の4機能が必要です。 |
| クレジットカード | 適合 | 低い | 与信審査は決済代行会社に委ねられます。 |
| 電子記録債権 | 支払期日までに満額現金化できる場合のみ適合*3 | 中程度 | でんさいネット等、別システムとの連携が必要です。 |
| 手形 | 2027年3月31日で電子交換所の交換が廃止*8 | 対象外 | 新規導入は推奨されません。 |
2026年1月施行の取適法が掛売りに課す条件——60日・14.6%・3つの禁止行為
下請法から取適法へ——正式名称と、資本金基準に加わった従業員基準
「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」は、2026年1月1日に改正法が施行されました。新法の正式名称は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」、通称「取適法」です*2 *4。適用基準には、従来の資本金基準に加えて従業員基準(300人・100人)が新設され、対象取引に特定運送委託が追加されています*2。
支払期日は受領日から60日以内、遅延利息は年率14.6%
取適法は、委託事業者に支払期日を定める義務を課しています。検査の有無にかかわらず、物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める必要があります*2。支払遅延や代金減額が生じた場合は、遅延した日数に応じて年率14.6%の遅延利息を支払う義務も課されます*2。
新たに禁止された3行為:手形払い等・一方的な代金決定・振込手数料の相手方負担
取適法では、3つの行為が新たに禁止されました。第一に、手形による支払いです。手形払いは支払遅延に該当し、電子記録債権やファクタリングであっても支払期日までに満額の現金を得られない設計は同様に違反となります*3。第二に、協議に応じない一方的な代金決定です*2。第三に、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くことです*3。
自社の取引が対象かどうかを先に確かめる——卸売業の単純な物品売買は対象外
取適法の対象取引は、製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託に限られます*2。卸売業が行う単純な物品の売買は、この対象取引には該当しません。自社のBtoB取引がこの5類型のいずれかに当たるかどうかを、機能要件を検討する前に確認しておきたいところです。該当しない取引であっても、支払遅延は取引先との信頼関係を損なうため、取適法の基準を実務上の目安として用いる考え方はあり得ます。
自社の取引が取適法の対象取引に当たるかどうかを、自社の数字で確かめるには、無料相談で要件を整理するのが近道です。
掛売りに対応するための5つの機能要件——与信・締め請求・請求書・保存・消込
取適法・インボイス制度・電子帳簿保存法という3つの制度から逆算すると、掛売り対応に必要な機能は5つに整理できます。実施順序に沿って優先順を示します。
掛売り対応に必要な機能要件5点/順位根拠:業務の実施順序
- 与信管理:取引先マスタに与信枠・与信残・停止フラグを持ち、受注時に自動判定します。
- 締め請求:取引先ごとの締め日・支払サイト・請求書単位を設定します。
- 請求書の記載要件:適格請求書の6項目をEC側で出力できるようにします*5。
- 電子取引データの保存:注文書・請求書等のデータについて、保存義務と検索要件を満たします*6。
- 入金消込:ZEDIのDI-ZEDIを用いて総合振込にEDI情報を添付し、自動消込につなげます*9 *10。
与信管理:取引先マスタが持つ与信枠・与信残・停止フラグ
与信管理の要は、取引先マスタに与信枠・与信残高・取引停止フラグを持たせ、受注時に自動判定できるようにすることです。与信枠を超える注文が入った場合は、受注を保留するか承認フローに回す設計が必要になります。
締め請求:取引先ごとの締め日・支払サイト・請求書単位の設定
締め請求機能では、取引先ごとに異なる締め日(月末・20日など)と支払サイトを個別に設定できる必要があります。請求書の単位も、納品先別か請求先別かを取引先ごとに選べる設計が求められます。
請求書の記載要件:EC側で出力すべき適格請求書の6項目
インボイス制度における適格請求書には、6項目の記載が必要です*5。発行者の氏名または名称および登録番号、取引年月日、取引内容(軽減税率の対象品目である旨)、税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率、税率ごとに区分した消費税額等、交付を受ける事業者の氏名または名称の6つです。BtoB ECが発行する請求書がこれらをすべて満たすかどうかは、導入前に確認すべき点です。
電子取引データの保存:改ざん防止措置と「日付・金額・取引先」検索要件
注文書・契約書・請求書などをデータでやり取りした場合、そのデータを保存する義務が生じます*6。保存にあたっては、改ざん防止のための措置が必要です。タイムスタンプの付与や、訂正・削除履歴が残るシステムの利用に加え、「日付・金額・取引先」で検索できる状態も整えます*6。基幹システムとの連携範囲を含めて設計する必要があり、この点は基幹システム連携の記事でも扱っています。
入金消込:ZEDIのDI-ZEDIで総合振込に添付するEDI情報
入金消込を自動化する鍵は、全銀EDIシステム(ZEDI。企業間の請求・決済データを電子的に連携する仕組みです*9)の活用にあります。DI-ZEDIは8項目で構成されます*9。請求書タイプコード・請求書番号・請求書発行日・請求金額(税込)・売手企業と買手企業の登録番号・振込手数料負担・備考です。総合振込にこれらの情報を添付できれば、受取側は入金と請求書を自動で突き合わせられます*10。
自社実装と代行サービスの切り分け——商習慣に関わる機能の残し方
自社で持つべき機能:取引先別の与信枠・締め条件という商習慣
取引先ごとに異なる締め日・支払サイト・与信枠という商習慣は、各社固有の取引条件そのものです。この部分を標準機能だけに委ねると、既存の取引条件を再現できず、取引先との間で摩擦が生じる可能性があります。したがって、締め条件と与信枠は自社で保持すべき中心機能と位置づけられるでしょう。導入や乗り換えの費用感を把握したい場合は、費用相場の記事もあわせて参考になります。
外部に委ねやすい機能:与信審査・請求書発送・未回収保証
一方、与信審査の実施、請求書の発送、未回収時の保証といった業務は、専門の代行事業者が標準サービスとして提供している領域です。自社の与信情報を管理する体制が薄い場合、これらを外部に委ねるのも一つの方法です。
判断基準:取引先数・与信の可変性・既存の販売管理システムとの重複
自社実装と代行の判断は、取引先数・与信条件の変わりやすさ・既存の販売管理システムとの重複度合いから検討します。取引先数が多く与信条件が個社ごとに細かく異なるほど、標準化された代行サービスとの適合度は下がりやすくなります。既存の基幹システムに与信・請求機能がすでにある場合は、重複投資を避ける観点も必要です。なお、具体的な代行サービス名の比較は本記事の範囲外とし、機能カテゴリの観点に絞って述べています。
導入の進め方——スモールスタートの線引き
掛売り対応の機能をすべて一度に実装するのではなく、段階を分けて進める設計が現実的です。導入全体の流れは、BtoB EC導入の進め方の記事も参考になるでしょう。
第1段階:既存の与信済み取引先に限定した締め条件の移行
最初の段階では、既存の与信済み取引先に対象を限定し、現行の締め日・支払サイトをそのままECに移す設計が現実的です。新規の与信ルールを同時に設計すると、検討範囲が広がりすぎるおそれがあります。
第2段階:請求書の電子交付と保存要件への適合
次の段階では、請求書の電子交付と、電子取引データの保存要件への適合に取り組みます。改ざん防止のための措置と検索要件*6への対応が、この段階での必須事項です。
第3段階:入金消込の自動化と新規取引先の与信フロー
第3段階では、ZEDIを用いた入金消込の自動化と、新規取引先向けの与信審査フローを整えます。ここまで進めると、既存取引先の効率化と新規取引先の受け入れの両方に対応できる状態になります。
移行前に確認する5項目——対象取引・締め条件・請求書・保存方式・ZEDI対応
- 対象取引が取適法の5類型(製造委託・修理委託・特定運送委託・情報成果物作成委託・役務提供委託)に該当するかを確認します*2。
- 既存の取引先ごとの締め日・支払サイトを一覧化します。
- 請求書の記載事項が、適格請求書の6項目を満たせるかを確認します*5。
- 電子取引データの保存方法(索引簿方式かファイル名方式か)を決めます*6。
- 入金消込を自動化する場合、取引銀行がZEDIに対応しているかを確認します*9。
まとめ:制度に適合した債権サイクル設計の3つの要点
本稿では、BtoB ECの掛売り対応を、与信・締め請求・入金消込という3つの機能の実装として整理しました。要点を3つに集約すると次のとおりです。第一に、2026年1月施行の取適法により、対象取引では手形払い等と振込手数料の相手方負担が禁止されました*2 *3。第二に、2027年3月31日の手形・小切手交換廃止により、手形は掛売りの出口として使いにくくなります*8。第三に、適格請求書と電子取引データの保存要件が、EC側の請求書機能に具体的な仕様を課しています*5 *6。自社の取引が取適法の対象かどうかを見極めたうえで、既存の与信済み取引先から段階的に対応範囲を広げる進め方が現実的です。
ご不明な点はお問い合わせフォームからもご連絡いただけます。
よくある質問
BtoB ECでも掛売りの締め日は取引先ごとに変えられますか。
変えられます。取引先ごとに異なる締め日・支払サイトを個別に設定できることが、掛売り対応の機能要件の一つです。締め日を一律に固定する設計では、既存の商習慣を再現できません。
支払サイトは何日以内にすべきですか。
取適法の対象取引であれば、受領日から起算して60日以内のできる限り短い期間で支払期日を定める義務があります*2。対象外の取引でも、支払遅延は取引先との信頼関係を損なうため、60日を実務上の目安とする考え方があります。
手形での支払いは今後も使えますか。
2027年3月31日をもって、電子交換所における手形・小切手の交換が廃止されます*8。同日から手形・小切手が即座に使用不可になるわけではありませんが*8、電子交換所を介さない取扱いは金融機関ごとの判断に委ねられます。掛売りの支払手段として新たに手形を組み込む設計は避けるべきです。
振込手数料を取引先に負担してもらうことはできますか。
取適法の対象取引では、振込手数料を中小受託事業者に負担させ、代金から差し引くことは禁止されています*3。まず自社の取引が対象取引に該当するかどうかを確認する必要があります。
ECで発行する請求書はインボイスの要件を満たす必要がありますか。
満たす必要があります。適格請求書には、発行者の氏名または名称および登録番号・取引年月日・取引内容(軽減税率の対象品目である旨)・税率ごとに区分して合計した対価の額および適用税率・税率ごとに区分した消費税額等・交付を受ける事業者の氏名または名称の6項目の記載が求められます*5。BtoB EC側の請求書出力機能がこれらに対応しているかを確認してください。
- *1 出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査の結果」(2025年8月26日公表)
- *2 出典:公正取引委員会「取適法リーフレットNo.01「2026年1月から『下請法』は『取適法』へ!」」(令和7年8月)
- *3 出典:公正取引委員会「トリテキ法の確認ポイント——代金編」(令和7年10月)
- *4 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」
- *5 出典:国税庁「タックスアンサー No.6625 適格請求書等の記載事項」
- *6 出典:国税庁「電子取引データの保存方法をご確認ください【令和6年1月以降用】」(令和5年7月)
- *7 出典:一般社団法人全国銀行協会(手形・小切手機能の「全面的な電子化」に関する検討会)「手形・小切手機能の電子化状況に関する調査報告書(2025年度)」(2026年3月27日)
- *8 出典:一般社団法人全国銀行協会「電子交換所の交換廃止時期の決定および手形・小切手交換廃止時期の明確化について」(2026年6月18日)
- *9 出典:全国銀行資金決済ネットワーク「全銀EDIシステム(ZEDI)とは」
- *10 出典:一般社団法人全国銀行協会「ZEDI(全銀EDIシステム)」(最終更新:2025年11月12日)
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