◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 上司の「いくらで、どれだけ効果が出るのか」には、費用と効果をひと月の単位にそろえて答える
- 費用は初期・月額・連携・取引先対応・運用に分け、社内で登録や更新を続ける時間も費用に入れる
- 公的実証の51.4%は企業間データ連携の中小企業平均であり、自社の見込みは現状値と試行の実測で置く
- 取引先に登録や費用が要るかは方式で違うため、取引先リストを連絡手段ごとに棚卸ししてから選ぶ
- 稟議は現状値・費用・効果・回収の見方・試行の範囲を1枚にまとめ、試行後に見込みを実測へ差し替える
目次

稟議で聞かれるのは「費用対効果」。まず何を数字にするかを決める
電話やFAX、Excelで出している発注や、届いた請求書との突き合わせに手間とミスが出ている。
見直しを上司に相談すると、「いくらかかって、どれだけ効果が出るのか」と聞き返された。
受発注DXの費用対効果を稟議で示すには、費用を初期・月額・連携・取引先対応・運用に分けます。
効果は、発注・承認・検収・請求突合の作業時間とミス対応として自社で測り、費用と同じひと月の単位で比べます。
公的な実証の削減率は参考にとどめます。
そのうえで取引先にかかる負担と試行の範囲を決め、1枚の資料にまとめます。
上司の問いを費用と効果に分ける
上司の「いくらで、どれだけ効果が出るのか」には、二つの問いが含まれています。
ひとつは、導入と運用にいくら出ていくのか。
もうひとつは、その支出で社内の何がどれだけ減るのか、です。
二つを分けずに資料を作ると、サービスの料金表と「業務が楽になる」という説明が並ぶだけになります。
読み手には、両者を比べる手がかりがありません。
たとえば「Excelからの転記がなくなる」と書いても、その転記がひと月に何時間かかっているのかが分からなければ、月額料金と比べようがありません。
上司が知りたいのは機能の有無ではなく、払う金額に見合うだけの作業が減るかどうかです。
そのため、費用の数字と効果の数字を、同じ物差しの上に置く準備から始めます。
稟議で何が見られているかについては、BtoB商材の導入稟議に関わった人を対象にした民間調査があります。
承認のポイントとして最も多く挙がったのは「明確な費用対効果」でした3。
一方で、根拠としてROI試算(投資額に対してどれだけの効果が戻るかの試算)を用意した人は多くありませんでした3。
ただし試算を使った人の間では、「非常に影響した」と答えた割合が、根拠・データの項目の中で最も高くなっています3。
この調査は2026年に行われたWEB調査で、対象は受発注システムに限らないBtoB商材全般の稟議です。
受発注DXの稟議が通りやすくなると保証するものではありません。
それでも、費用と効果を同じ物差しで並べることが稟議の準備の中心になる、とは読み取れます。
自社で測れる単位に置く
費用と効果を並べるには、単位をそろえる必要があります。
サービスの料金は月額で示されることが多いものです。
一方、「発注が楽になる」「ミスが減る」という効果は、そのままでは金額にも時間にもなっていません。
そこで効果を、「ひと月あたり何時間の作業が減るか」「ひと月あたり何件のミス対応が減るか」という形に置き直します。
測る対象は、発注側の担当者が実際に手を動かしている作業です。
発注書を作る、上長の承認を得る、取引先へ送る、納期回答や請書(注文を受けた旨の書面)を確かめる、納品物を発注内容と照らす(検収)、届いた請求書を発注・検収の記録と突き合わせる。
このうちどこに時間がかかり、どこで誤りが起きているかは会社ごとに違います。
外部の削減率を借りる前に自社のこれらの作業を数字にしておけば、次に見る費用の項目とも、試行の結果とも比べられます。
発注側の費用は、初期・月額・連携・取引先対応・運用に分けて見積もる
費用項目の表
費用は、料金表の月額だけを見ると抜けが出ます。
発注側で発生しうる費用を性質の違う五つに分けておくと、見積を取ったときに、どこが含まれていないかが分かります。
どこに費用が置かれるかは提供形態で変わるため、まず項目と、見積の段階で確かめる問いを並べます。
| 費用項目 | 中身 | 見積で確かめる問い |
|---|---|---|
| 初期費用 | 契約時・利用開始時に一度だけかかる費用 | 初期設定や導入支援が料金に含まれるか |
| 月額(利用料) | サービスの利用料。 プランや利用人数で変わることがある |
何によってプランが分かれ、上限を超えたらどうなるか |
| 連携 | 販売管理・会計などの既存システムとデータをやり取りするための費用 | 既存システムをそのまま使えるか、取り込みや出力に別の作業や費用がかかるか |
| 取引先対応 | 取引先に新しい受け取り方を案内する手間や、取引先側にかかる費用 | 取引先に登録や費用が要るか、要るなら誰が負担するか |
| 運用 | 社内で取引先・商品・単価などの登録を整え、更新し、問い合わせに答える時間 | 導入後に誰が何を更新し続けるか |
表の中で金額が読みにくいのは、連携と運用です。
連携は既存システムの作りに左右され、運用は社内の人の時間なので見積書には現れません。
運用を費用に入れておかないと、効果側では「担当者の時間が減る」と数えたのに、費用側では新しく生じる作業の時間を数えていない、という片寄った試算になります。
金額を左右する条件(取引先数・件数・担当者数・連携)
同じ受発注DXでも、どの条件で金額が変わるかは提供形態ごとに違います。
発注書を作って取引先へ送るタイプのサービスでは、利用する担当者の数、発注先として登録できる取引先の数、FAXで送る発注書の回数などでプランが分かれることがあります。
一方、企業間で注文などのデータを電子的にやり取りするEDIを使う場合について、中小企業庁の解説では、発注側は規格に対応したプロバイダー(データの受け渡しを仲介する事業者)と契約すれば、自社で作ったシステムを引き続き使えるとされています1。
この場合の見積では、システムを入れ替えるかどうかより、プロバイダーとの契約内容と、既存システムとのつなぎ方を確かめることになります。
取引先数・発注件数・担当者数・連携の四つのうち、どれが料金に効くかは方式で決まります。
連携の作業が利用開始時に集中すれば初期費用に、継続的なデータの取り込みや確認が要れば運用の時間に表れます。
見積を比べるときは総額だけでなく、取引先や件数が増えたときにどの項目が動くかを並べておくと、翌年以降の費用を読み違えにくくなります。
料金プランの例:初期0円・月額制のサービス
発注書を作って送るタイプの例として、ラクーンコマースのCOREC(発注側向け)の料金を見ます。
初期費用は0円で2、無料プランは月額0円です2。
無料プランでは利用者が1名、商品登録できる発注先が1社に限られ、FAX発注書の無料送信は月5回までです2。
ビジネスプランは月額1,480円(税別)で、担当者を何名でも追加でき、発注先も何社でも登録でき、FAX発注書の無料送信は月200回までになります2。
この例から読み取れるのは相場ではなく、料金がどの条件で切り替わるかです。
このサービスでは、取引先を増やす、担当者を増やす、FAXの無料送信が月5回では足りない、のいずれかで無料プランの範囲を出ることになります。
料金は2026年時点のこのサービス・このプランのものであり、他のサービスの料金や受発注システム一般の目安にはなりません。
また、社内で取引先や商品を登録し、運用する時間は料金とは別に生じるため、前の表の運用の欄は別に見積もります。
見積依頼で確認する点
見積を依頼するときは、自社の条件を先に伝えたほうが、答えが比べやすくなります。
伝える条件と聞く内容を、対にしておきます。
- 取引先の数と、そのうち発注書を送る相手の数を伝え、何社まで同じ料金で使えるかを聞く
- ひと月の発注件数と、FAX・メールで送る件数を伝え、件数や送信回数の上限と、超えた場合の扱いを聞く
- 発注・承認に関わる担当者の人数を伝え、利用者の追加で料金が変わるかを聞く
- 使っている販売管理・会計などのシステムを伝え、データの取り込み・出力の方法と、その作業に別の費用がかかるかを聞く
- 取引先に登録や費用が要るか、要る場合の案内を誰が行うかを聞く
ここで集めた答えが、そのまま稟議資料の費用欄になります。
答えが「別途見積」のまま残った項目は、金額が決まっていない項目として資料に残しておきます。
そうしておけば、後から費用が増えたときにも、当初から未確定だった項目として説明できます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 取引先数
- 月額(プランの区分)
- 取引先対応
- 発注件数
- 月額(件数・送信回数の上限)
- 担当者数
- 月額(利用人数)
- 既存システムとの連携
- 連携
- 初期費用
- 運用
効果は発注・承認・検収・請求突合の作業時間とミス対応で測り、費用と同じ期間で比べる
公的実証の51.4%をどう読むか
効果の数字を探すと、中小企業庁の解説に載っている実証結果が目に入ります。
平成28年度補正の事業で行われた企業間の受発注データ連携の実証12件では、大企業より中小企業のほうが業務時間の削減率が高く、中小企業の平均で51.4%の削減効果が得られたとされています1。
削減率が高かった理由としては、中小企業のほうが限られた期間でも既存の業務フローを変えやすかったことが挙げられています1。
この数字を自社の削減見込みとして稟議に書くのは避けたほうが安全です。
実証は企業間でデータを連携させる取り組みを対象にしたもので、発注側の作業だけを切り出した削減率ではありません。
12件の中小企業の平均なので、自社の業種や発注件数、いまの作業の進め方に近いとは限りません。
請求書の処理や社内の転記にかかる時間の削減率としても使えません。
稟議では、業務の流れを変えれば時間が減る余地がありうることを示す背景にとどめ、自社の数字は次の手順で測ったものを置きます。
現状の作業時間とミス対応を測る手順
現状値は、普段どおりの発注を対象に、次の順で記録します。
- 対象の作業を決める:発注書の作成、承認、送付、納期回答・請書の確認、検収、請求書の突合
- 1件あたりの時間を記録する:作業ごとに、始めと終わりを記録する
- ひと月の件数を数える:発注件数と、届いた請求書の枚数
- ミス対応を数える:数量・単価・品番の誤り、二重発注、請求額の不一致で、問い合わせや訂正にかかった回数と時間
- 月の合計にする:作業ごとに「1件あたりの時間×件数」を足し、ミス対応の時間を加える
記録の期間は、月末に請求書が集中するなど月の中で作業量に波がある会社では、ひと月を通して取るほうが偏りが出にくくなります。
記録する人の負担を減らすなら、全件ではなく代表的な取引先の発注に絞る方法もあります。
その場合は月の合計へ掛け戻すときに、絞った取引先が全体の発注のどのくらいを占めるかを添えておきます。
数字にしにくい効果もあります。
中小企業庁の解説では、受発注のデータ化の一般的なメリットとして、手入力によるミスが減ることや、過去・現在の取引データを検索しやすくなることが挙げられています1。
いずれも数値は示されていません。
稟議では、「単価違いの問い合わせがひと月に何件あったか」「過去の発注内容を探すのにどれだけ時間がかかったか」を自社で数えます。
そのうえで、時間に換算できるものは効果に入れ、換算しにくいものは定性的な効果として別の欄に書き分けます。
月単位で費用と比べる
測った時間を費用と比べる単位は、月額料金に合わせてひと月にします。
比べ方は、次の二つの式で表せます。
- 月の削減額=ひと月に減る作業時間×担当者の時間あたり人件費+減るミス対応の時間×同じ人件費
- 月の差引=月の削減額−月の費用(利用料と、運用に新たにかかる時間の人件費)
導入前の段階では、減る時間はまだ見込みです。
見込みの根拠には実証値ではなく、自社の作業ごとに「デジタル化でなくなる手順」と「残る手順」を分けた結果を使います。
たとえば発注書をシステムで作って送る方式に変えると、発注書の手書きや送信の手順は変わります。
しかし取引先から届く請書や請求書が紙やPDFのままなら、検収や請求突合の作業は残ります。
どの作業が減り、どの作業が残るかを作業単位で書いておくと、上司から「本当にそれだけ減るのか」と聞かれたときに、前提を示して答えられます。
| 項目 | 削減率(%) |
|---|---|
| 中小企業の平均業務時間削減率 | 51.4 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 月の削減額
- ひと月に減る作業時間×担当者の時間あたり人件費
- 減るミス対応の時間×同じ人件費
- 月の費用
- 利用料
- 運用に新たにかかる時間の人件費
- 月の差引
- 月の削減額−月の費用
取引先の負担は仕組みで違う。受注側に新たな登録が要るかを先に確認する
取引先の登録が要らない方式
発注側の作業時間がどれだけ減るかは、取引先がどう受け取るかにも左右されます。
取引先に新しいシステムへの登録や費用の負担を求める方式では、応じてもらえない取引先が残ることがあり、その取引先とは電話やFAXのやり取りが続きます。
発注側では新しい方式と従来の方式が並んで動き、どの取引先にどちらで発注したかを確かめる手間が加わります。
そのため方式を選ぶ前に、取引先側に何が必要になるかを見ておきます。
発注書を発注側で作り、取引先へFAXやメールで届ける方式では、取引先はこれまでどおりFAXやメールで受け取ります。
先ほどのCOREC(発注側向け)の例では、発注先にはFAXやメールで発注書が届き、発注先の会員登録は不要で、発注先に費用もかかりません2。
取引先へのお願いがほとんど要らないため、取引先が多い会社でも始めやすい方式です。
一方で、この方式で変わるのは主に発注側の作業です。
発注書の作成、承認、送付、発注した内容の記録は発注側でまとまります。
しかし取引先からの納期回答や請求書が従来の手段で届くなら、その確認や突合は残ります。
効果を見込むときは、発注までの作業と、その後の検収・請求突合の作業を分けて数えると、見込みが過大になりにくくなります。
標準規格に対応する方式
企業間で決めた共通の規格でデータをやり取りする方式もあります。
中小企業庁の解説では、中小企業共通EDIの規格について、受注側は規格に対応したプロバイダーと業務アプリを利用すればよく、大きな費用はかからないと説明されています1。
ただし具体的な金額は示されておらず、2020年に掲載された説明です。
取引先に新しいアプリやプロバイダーの利用を始めてもらう点では、前の方式より取引先側の手間は増えます。
その代わり、注文などがデータとして双方の間を行き来するので、発注側で受け取った内容を打ち直す作業が減る余地があります。
取引先リストの棚卸し
どちらの方式が合うかは、取引先の顔ぶれで変わります。
手元の取引先リストに次の欄を足して埋めると、判断の材料になります。
- いまの発注の連絡手段(電話・FAX・メール・取引先のWeb画面など)
- ひと月の発注件数
- 請書・納期回答・請求書が何で届くか
- すでにEDIや受注システムを使っているか
件数の多い取引先がFAXやメールでの受け取りに慣れているなら、取引先の登録が要らない方式で、発注側の作業から変える余地が大きくなります。
件数の多い取引先がすでにデータでのやり取りに対応しているなら、規格に対応する方式で、受け取った内容の打ち直しまで含めて減らせるかを検討できます。
連絡手段がばらばらな場合は、どの取引先から始めるかを選ぶ材料になります。
| 観点 | 発注書をFAX・メールで届ける方式 | 共通の規格でデータをやり取りする方式 |
|---|---|---|
| 取引先の受け取り方 | これまでどおりFAX・メールで受け取る | 規格に対応したプロバイダーと業務アプリを使う |
| 取引先の登録・費用 | 例に挙げたサービスでは登録不要・費用なし | 大きな費用はかからないとされる(金額の記載なし) |
| 発注側で変わること | 発注書の作成・承認・送付の記録がまとまる | 対応プロバイダーと契約すれば既存システムを継続して使える |
| 発注側に残りやすい作業 | 従来の手段で届く回答・請求書の確認と突合 | 対応していない取引先との従来のやり取り |
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注書をFAX・メールで届ける方式
- 取引先はこれまでどおりFAX・メールで受け取る(例に挙げたサービスでは登録不要・費用なし)
- 従来の手段で届く回答・請求書の確認と突合は残る
- 共通の規格でデータをやり取りする方式
- 取引先は対応プロバイダーと業務アプリを使う(大きな費用はかからないとされる)
- 対応していない取引先との従来のやり取りが残る
- 取引先リストの棚卸し
- 発注の連絡手段
- 請書・納期回答・請求書が何で届くか
- すでにEDIや受注システムを使っているか
一部の取引先・業務から始めるか、全社で始めるか。条件で選ぶ
選ぶための3条件
一部の取引先や業務から始めるか、全社で一斉に始めるかは、どちらが正しいというより、自社の条件で選ぶものです。
取引先の連絡手段、月間の発注件数、担当者数の三つの条件で考えると、判断が分かれる理由が見えてきます。
| 条件 | 一部から始めやすい状況 | 全社で始める検討が向く状況 |
|---|---|---|
| 取引先の連絡手段 | 取引先ごとに連絡手段や対応状況がばらばらで、受け入れやすい取引先から始めたい | 取引先側の受け取り方を変えずに届けられる方式を使え、取引先の違いが妨げになりにくい |
| 月間の発注件数 | 発注が一部の部署や取引先に集中しており、そこだけで現状値と比べられる | 発注が多くの取引先に分散し、一部だけでは減る時間が小さく比べにくい |
| 担当者数 | 担当者が少なく、運用のルールを試しながら決められる | 複数の部署や担当者が同じ取引先へ発注し、方式が混在すると記録が二重になる |
表で判断が分かれやすいのは、発注件数の欄です。
件数が一部に集中していれば、そこだけで効果の大半を確かめられます。
逆に件数が分散していると、一部の取引先だけでは減る時間が小さく、従来の方式との並行で増える手間のほうが目立つことがあります。
料金の切り替わりも、範囲の決め方に関わります。
先に見たCOREC(発注側向け)の例では、無料プランは利用者1名・発注先1社までで、ビジネスプランに切り替えると担当者も発注先も何社でも登録できます2。
このサービスであれば、担当者1名・取引先1社で試す範囲は無料プランに収まり、取引先や担当者を広げる段階で月額費用が生じます。
FAXの無料送信にも月の上限があるため、試す取引先への発注件数がその上限に収まるかも見ておきます。
これは一つのサービスのプランの違いに基づく例で、他の方式では範囲の広げ方と費用の関係が異なります。
中小企業庁の解説では、実証で中小企業の削減率が高かった理由として、既存の業務フローを変えやすかったことが挙げられていました1。
これは段階導入を勧める根拠ではありません。
ただ、範囲を絞るかどうかにかかわらず、新しい方式に合わせて社内の手順をどこまで変えられるかが効果の大きさに関わりうることは、範囲を決める前に意識しておきたい点です。
一部から始める場合の試行と確かめ方
一部から始める場合は、試行そのものを効果の測定に使えます。
先に記録した現状値と、試行中の同じ作業の時間を比べれば、削減の見込みを実測に置き換えられます。
範囲を広げるたびに同じ測り方を繰り返せば、どこまで広げると月の差引がプラスになるかも見えてきます。
試行で確かめておきたいのは、時間の差だけではありません。
- 新しい方式で減った作業と、従来の方式との並行で増えた作業
- 取引先からの問い合わせや、受け取り方の変更に伴う連絡
- 取引先・商品・単価の登録と更新にかかった時間
- ミス対応の件数が変わったか
並行運用で増えた作業は、範囲を広げれば解消するものと、広げても残るものに分けて記録します。
試行範囲で月の差引がマイナスでも、その原因が従来の方式との二重の作業であれば、範囲を広げた後の見込みは変わります。
逆に、方式そのものに残る確認作業が原因なら、範囲を広げても差引は改善しにくいと判断できます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 現状の作業時間とミス対応を測る
- 一部の取引先・業務で試す
- 同じ作業の時間を測り直す
- 月の差引で広げるかを決める
- 対象を広げて再び測る
稟議には、現状値・費用・回収の見方・試行の範囲を1枚で示す
稟議資料の構成
ここまでの数字は、1枚にまとめると読み手が追いやすくなります。
上司が確かめたいのは、何に困っていて、いくら払い、何が減り、うまくいかなかったらどうするかです。
それに沿って、次の順で並べます。
- 現状と困り事:対象の作業と、ひと月の作業時間・件数・ミス対応の現状値
- 方式と取引先への影響:選ぶ方式、取引先に登録や費用が要るか、棚卸しで分かった連絡手段の内訳
- 費用:初期・月額・連携・取引先対応・運用の項目別。
金額が決まっていない項目はその旨 - 効果:作業ごとに減る時間と残る時間、ミス対応の見込み、数値にしにくい効果
- 回収の見方:月の差引と、初期費用を取り戻すまでの月数
- 試行の範囲と判断基準:対象の取引先・業務・期間、測る項目、広げる・見直す条件
試算を添える意味については、先に触れた民間調査で、ROI試算を根拠に使った人の間で「非常に影響した」と答えた割合が、根拠・データの項目で最も高かったことが一つの手がかりになります3。
ただし調査はBtoB商材全般の稟議を対象にしたもので、受発注DXの承認を約束するものではありません。
試算の価値は承認されやすさよりも、上司が数字の置き方に疑問を持ったときに、どの前提を変えればよいかが見える点にあります。
回収の見方
回収の見通しは、月の差引から計算します。
月の差引がプラスなら、初期費用をその額で割った月数が、初期費用を取り戻すまでの目安になります。
初期費用が0円の方式なら、月の差引がプラスかどうかが判断の中心になります。
ただし初期費用が0円でも、取引先や商品の登録など社内で設定する時間はかかるので、その時間を人件費に換算して初期の費用に入れておくと実態に近づきます。
月の差引がマイナスなら、範囲を広げたときに減る時間が増えるのか、運用の時間が減るのかを試行で確かめるまで、全社への展開は判断を保留するのが筋です。
回収期間を他社や業界の平均で示そうとすると、業種や発注件数、取引先の対応状況の違いを説明できず、上司から前提を問われたときに答えが続きません。
自社で測った現状値と見積額から計算した数字であれば、どの前提をどう置いたかを一つずつ示せます。

試行の後は、同じ1枚の資料の見込みの欄を実測に差し替えます。
最初の稟議で試行の範囲と判断基準を決めておけば、全社への展開を諮るときに、見込みと実測の差を示しながら説明できます。
費用の項目分けや取引先の棚卸しは、自社の取引先リストと発注の流れを並べて見ないと、抜けている項目に気づきにくいためです。
相談では、見積で確かめておくべき項目と、現状値をどの作業で測るかを、自社の発注の流れに沿って確かめられます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 費用 | 初期・月額・連携・取引先対応・運用に分け、金額が決まっていない項目も残す |
| 効果 | 発注書の作成から請求突合までの作業時間とミス対応を、ひと月単位で測る |
| 公的実証の51.4% | 企業間データ連携の実証での中小企業平均。自社の削減見込みには使わない |
| 取引先の負担 | 登録や費用が要るかを方式ごとに確かめ、取引先リストを連絡手段別に棚卸しする |
| 始める範囲 | 連絡手段・発注件数・担当者数で選び、試行で測り直す |
| 回収 | 月の差引がプラスか、初期費用を何か月で取り戻すかを自社の数字で示す |

試行の範囲と判断基準は、取引先の連絡手段や発注件数の偏りによって切り方が変わり、一人で決めると前提が片寄りやすいためです。 相談では、稟議資料の構成に自社の数字を当てはめ、どの前提がまだ決まっていないかを整理できます。
よくある質問
発注側の電子受発注の費用は、取引先が増えると上がるのか
方式によって違います。
例として挙げたCOREC(発注側向け)では、無料プランの発注先は1社までで、月額1,480円(税別)のビジネスプランでは発注先を何社でも登録できます2。
このサービスでは取引先数よりもプランの切り替えで費用が変わりますが、FAX発注書の無料送信は月200回までという上限があります2。
他のサービスや方式の料金の決まり方は異なるため、見積の段階で、取引先が増えたときにどの項目が動くかを聞いておきます。
取引先がFAXしか使えない場合、デジタル化の効果は出ないのか
発注書を発注側で作ってFAXで届ける方式なら、取引先はこれまでどおりFAXで受け取れます2。
発注書の作成・承認・送付・記録といった発注側の作業は変えられるので、効果がまったく出ないわけではありません。
ただし取引先からの回答や請求書がFAXや紙で届くなら、検収や請求突合の作業は残ります。
効果を見込むときは、発注までの作業とその後の作業を分けて数えます。
効果を測る前に、どの作業の時間を記録しておけばよいか
発注書の作成、承認、送付、納期回答・請書の確認、検収、請求書の突合の各作業について、1件あたりの時間とひと月の件数を記録します。
あわせて、数量・単価の誤りや二重発注、請求額の不一致などで、問い合わせや訂正に使った回数と時間も数えます。
これがそろうと、月額の費用と同じひと月の単位で比べられます。
無料プランから始めて、有料化する判断はどう決めるか
まず、試したい範囲が無料プランの制限に収まるかを見ます。
COREC(発注側向け)の例では、無料プランは利用者1名・発注先1社・FAX発注書の無料送信が月5回までです2。
試行で測り直した減った時間を人件費に換算し、ビジネスプランの月額1,480円(税別)2と社内の運用時間を差し引いてもプラスになるか、担当者や取引先を広げる必要があるかで判断します。
このサービス以外では、制限も料金も異なります。
公的実証の51.4%削減を、自社の稟議の削減見込みに使ってよいか
削減見込みとしては使わないほうが安全です。
51.4%は、平成28年度補正の企業間データ連携の実証12件における、中小企業の平均の業務時間削減率です1。
発注側だけの削減率でも、請求書処理の削減率でもありません。
稟議では、データ化で業務時間が減った公的な実証があるという背景の説明にとどめ、削減見込みは自社で測った現状値と試行の結果から置きます。
- 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2020年)
- 2 出典:ラクーンコマース「COREC 発注側(バイヤー)向け料金ページ」(2026年)
- 3 出典:株式会社ネオマーケティング「BtoB企業の社内稟議・承認プロセス実態調査2026」(2026年)
画像の出典元
- Courier hands over a package for delivery with signing of receipt documents./Photo by Kampus Production on Pexels