◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 拠点ごとに電話・FAX・紙で発注していると記録の残り方がそろわず、本部は請求書が届くまで全体を把握できない。受発注DXでまず変わるのは作業の速さより発注状況が見えることである。
- 中小企業共通EDIの実証事業で示された受発注業務時間の平均51.4%削減は、取引先とのデータ連携を前提に測定された値であり、社内だけで拠点の発注を集約する場合とは前提が異なる。
- 個別導入か本部一元管理かは、拠点数・対象業務の広さ・運用負荷の3つで判断する。見落とされやすいのは、導入後も毎月続くマスタ保守と問い合わせ対応の負担である。
- デジタル化・AI導入補助金では、通常枠が業務プロセスの区分で示され「受発注」という名称の区分はない一方、インボイス枠は対象ソフトウェアの機能として「受発注」を明記している。
- 複数者連携デジタル化・AI導入枠は単独の1法人を対象としていないため、複数店舗を持つ1法人は通常枠・インボイス枠を法人単位で検討することになる。1法人あたりの申請件数や複数回申請の可否は事務局への確認が必要である。
目次

多拠点の受発注はどこでつまずき、DX化で何が変わるのか
店舗や営業所が3つ、5つと増えていくと、ある時期から発注の全体像が見えなくなります。
A店は仕入先へ電話、B店はFAX、C店は担当者が個人の判断で紙の伝票を書く。
本部が「今月どこに何を発注したのか」を知るのは、請求書が届いてからになります。
ここを変えるのが受発注のDX化で、発注情報を1か所に集めることで、二重発注や欠品の後追いを減らす方向が見えてきます。
ただし公的に実証されている削減効果は、取引先との電子データ連携を前提とした数値であり、社内で発注情報を集めるだけの効果とは前提が違う点は押さえておく必要があります。
進め方は拠点数・対象業務の広さ・現場の運用負荷で個別導入か本部一元管理かを検討し、費用面ではデジタル化・AI導入補助金の通常枠・インボイス枠が候補になります。
ただし複数店舗を持つ1法人は複数者連携枠の対象外で、法人単位での申請が基本です。
拠点が増えると「誰が何を発注したか」が本部から見えなくなる
拠点が1つか2つのうちは、発注のやり方が店ごとに違っても大きな問題になりません。
店長が仕入先に電話をして、届いた納品書を月末にまとめて本部へ送る。
本部は請求書と突き合わせて支払う。
この流れで回ります。
ところが拠点が増えると、同じやり方の延長線上に見えにくい負荷が積み上がります。
仕入先ごとに発注の手段が違い、さらに拠点ごとにも違う。
仕入先Xへは電話、仕入先Yへは専用サイト、仕入先Zへは手書きFAX、という組み合わせが拠点の数だけ枝分かれしていきます。
典型的なつまずきは、記録の残り方がバラバラなこと
多拠点で起きる困りごとを具体的に辿ると、多くは「発注の記録がどこにどう残るか」がそろっていないことに行き着きます。
電話発注は、発注した本人の手元にしか記録が残りません。
店長が急な欠品を埋めるために追加発注をしても、本部にはその事実が伝わらない。
数日後に別の担当者が同じ商品の不足に気づいて、もう一度発注する。
二重発注はこうして起きます。
FAXも似た構図です。
送信したこと自体は記録に残りますが、その内容が数量として集計できる形にはなっていません。
本部が月中に「今月の仕入額はいくらになりそうか」を知ろうとすると、各拠点にFAXの控えを確認して回ることになります。
紙の発注書を綴じているだけの拠点があれば、そこからの情報はさらに遅れます。
そして拠点間の調整が効きません。
A店で余っている在庫がB店では欠品している、という状況があっても、両店の発注状況が同じ場所に並んでいなければ誰も気づけない。
結果として、片方は廃棄や値下げ、もう片方は追加発注という無駄が同時に発生します。
DX化で最初に変わるのは「速さ」より「そろい方」
受発注をデジタル化すると、まず変わるのは発注データが同じ形式でそろうことです。
どの拠点がいつ、どの仕入先に、どの商品を何個発注したかが同じ画面に並ぶ。
本部は各拠点へ問い合わせなくても、発注の途中経過を見られるようになります。
ここが重要なところで、「発注作業が速くなる」よりも先に「発注状況が見える」ことが効いてきます。
二重発注の防止も、拠点間の在庫融通も、まず見えることが前提だからです。
公表されている削減効果は、取引先との連携が前提
受発注DXの効果としてよく引かれる公的な数値に、中小企業共通EDIの実証事業があります。
中小企業庁の解説によれば、12件のプロジェクトを選定して導入効果を測定した結果、受発注業務時間は平均して51.4%削減されました4。
ただし、この数値をそのまま自社に当てはめる前に、測定された対象を確認しておく必要があります。
EDI(電子データ交換)とは、企業間で受発注などの商取引データを、人が読む書類ではなくシステムが処理できるデータとして直接やり取りする仕組みです。
つまり51.4%という値は、取引先との間でデータ連携を実施した場合に測られたものであり、社内システムだけで拠点の発注情報を集約する場合とは前提が異なります4。
また、同資料ではこの削減が具体的にどの作業(転記なのか、紙の管理なのか)を対象としたものかまでは明記されていません4。
この違いは実務上も無視できません。
自社の各拠点が同じ発注画面を使うようになっても、そこから仕入先へ送る手段が結局FAXの自動送信であれば、仕入先側の受注入力の手間はそのまま残ります。
逆に、仕入先がデータ受信に対応していれば、発注データがそのまま先方の受注データになり、双方の転記が減ります。
どこまでの効果を見込めるかは、取引先の対応状況によって変わる。
ここは導入前に取引額の大きい仕入先から順に確認しておきたい点です。
もう一つ、同じ資料には中小商業・サービス業における「電子文書での商取引や受発注情報管理」の導入率が18.5%という数値も示されています4。
この値は2018年時点の日本公庫総研レポートに基づくもので、当時としては2割を下回る水準でした4。
取引先の対応状況を前提条件として確認すべき理由が、ここにも表れています。
受発注DXは拠点ごとに個別導入すべきか、本部一元管理にすべきか
判断が分かれるのは、拠点の裁量をどこまで残すか
本部の可視性を上げたいなら一元管理が良さそうに見えますが、実際の判断はそう単純ではありません。
拠点ごとに扱う商品も仕入先も違う場合、本部で発注をすべて握ると、かえって現場の対応が遅くなることがあるからです。
つまり選択の本質は「発注の権限と手順を、どこまで統一するか」にあります。
拠点ごとの個別導入が向く場合
拠点ごとに導入するとは、各拠点が自分たちの発注業務に合ったやり方でデジタル化を進め、本部は集計結果を受け取る形です。
これが向くのは、拠点の商材や仕入先の重なりが小さい場合です。
生鮮を扱う店と加工品中心の店では、発注の締め時間も、数量の決め方も違います。
共通の手順に押し込むと、どちらかの現場が回らなくなります。
もう一つ、拠点の数がまだ少なく、各拠点に発注を判断できる人がいる場合も個別導入が現実的です。
本部が全拠点の発注を見て判断するには、本部側に商品知識と時間が必要になります。
その体制がないまま集約すると、本部が承認待ちの詰まりどころになります。
ただし個別導入には限界もあります。
拠点ごとに別の仕組みを入れると、本部で見るときに集計の手間が戻ってきます。
導入時に「本部が何を、どの粒度で見たいか」を決めて、その項目だけはそろえておかないと、可視性の課題が形を変えて残ります。
本部一元管理が向く場合
本部一元管理は、発注の仕組みと手順を本部が定め、全拠点が同じ画面で発注する形です。
承認を本部が持つ場合もあれば、発注自体は拠点が行い、仕組みと商品マスタだけを本部が統一する場合もあります。
向くのは、同じ商品を複数拠点が同じ仕入先から仕入れている場合です。
発注が1か所に集まれば、拠点をまたいだ数量がまとまり、仕入先との交渉材料にもなります。
拠点間の在庫融通も、同じ画面で在庫が並んでいれば判断できます。
拠点数が多い場合も一元管理に傾きます。
10拠点それぞれのやり方を本部が理解し続けるのは負担が大きく、拠点の増設や人の入れ替わりのたびに引き継ぎが発生します。
手順が1つなら、新しい拠点は既存の手順に乗せるだけで済みます。
反面、統一には移行の負荷がかかります。
これまで各拠点が自分の判断でやっていたことを、共通の手順に合わせてもらうことになるため、現場の慣れた手順が変わります。
商品マスタの整備も本部の仕事として発生します。
この負荷を誰がいつ負うのかを決めないまま一元管理を宣言すると、現場は従来のやり方を併用し、仕組みだけが空回りします。
3つの条件で自社の位置を見る
結局のところ、拠点数・対象業務の広さ・運用負荷の3つを並べて考えると、自社がどちらに寄るかが見えてきます。
拠点数は、本部が個別のやり方を把握し続けられるかの目安です。
対象業務の広さは、発注だけを扱うのか、在庫や請求まで含めるのかで変わります。
範囲が広いほど、拠点ごとにバラバラだと後工程で突き合わせが増えるため、統一の利点が大きくなります。
運用負荷は、商品マスタを誰が保守するか、拠点からの問い合わせに誰が答えるかという、導入後に続く仕事のことです。
この3つのうち、見落とされやすいのは運用負荷です。
導入費用は補助金の検討対象になりますが、マスタ保守を担う人の時間は導入後も毎月かかり続けます。
なお、ここで整理したのは特定のシステムや提供事業者を前提にした比較ではなく、自社の状況を測るための一般的な条件です。
実際の製品選定は、この軸で方向を決めてから、必要な機能の範囲を絞って進めることになります。

受発注DXの導入費用に使える補助金にはどんなものがあるか
デジタル化・AI導入補助金 通常枠の補助額と対象プロセス
進め方の方向が見えたら、費用面の選択肢を確認します。
受発注のシステム導入で候補になるのが、デジタル化・AI導入補助金です。
通常枠の補助額は、対象とする業務プロセスの数で区分されています。
1プロセス以上なら5万円以上150万円未満、4プロセス以上なら150万円以上450万円以下です1。
補助率は原則1/2以内で、令和6年10月から令和7年9月までの間で3か月以上、令和7年度改定の地域別最低賃金未満で雇用している従業員が全従業員の30%以上であることを示した場合は2/3以内になります1。
ここで確認しておきたいのが、対象となる業務プロセスの区分です。
通常枠では「顧客対応・販売支援」「決済・債権債務・資金回収管理」「供給・在庫・物流」「会計・財務・経営」「総務・人事・給与・教育訓練・法務・情シス・統合業務」といったカテゴリで示されており、「受発注」という名称のプロセス区分は明記されていません1。
また、汎用的なプロセスのみでは対象になりません1。
つまり受発注のシステムを通常枠で申請する場合は、その機能が「供給・在庫・物流」などどのプロセスに当たるのかを、導入する内容に即して整理する必要があります。
対象経費の範囲も見ておきます。
通常枠では、必須となるソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)に加えて、オプションとして導入コンサルティング費、導入設定、マニュアル設定、導入研修、保守サポートが含まれます1。
多拠点で導入する場合、現場への説明や手順書の整備に手間がかかります。
それらが対象経費に含まれ得ることは、予算を組むうえで押さえておく価値があります。
ただし、費用が補助対象になることと、研修を実施すれば運用が定着することは別の話です。
誰がマスタを保守し、誰が拠点の質問に答えるかは、補助金とは別に決める必要があります。
デジタル化・AI導入補助金 インボイス枠(インボイス対応類型)の機能要件と補助率
同じ補助金のなかで、受発注により直接的に触れているのがインボイス枠(インボイス対応類型)です。
この枠は対象ソフトウェアの機能として「会計」「受発注」「決済」を明記しています2。
通常枠が業務プロセスの区分で示しているのに対し、こちらは機能名で「受発注」が挙がっている点が違います。
必要な機能数は補助額によって変わります。
補助額50万円以下の部分は、この3機能のうち1機能以上、50万円超〜350万円以下の部分は2機能以上が必要です2。
補助率は50万円以下の部分で中小企業が3/4以内、小規模事業者が4/5以内、50万円を超える部分は2/3以内です2。
通常枠の原則1/2以内と比べると、小さめの導入では自己負担が軽くなる設計になっています。
もう一つの違いが対象経費です。
インボイス枠では、導入コンサルティングや導入設定、マニュアル設定、導入研修、保守サポートといった役務に加えて、PC・タブレット・POSレジ等のハードウェアも対象に含まれます2。
ハードウェアの補助率は1/2以内です2。
各拠点に発注用の端末を配る必要がある場合、この差は検討材料になります。
なお、これらの金額・補助率はいずれも2026年度の公募時点の内容です12。
公募の回によって条件が変わることがあるため、申請時点の公募要領で確認してください。
小規模事業者持続化補助金という選択肢
もう一つ、名前が挙がりやすいのが小規模事業者持続化補助金です。
補助上限は最大250万円、補助率は2/3です5。
ただしこれは受発注のデジタル化に限定した制度ではなく、小規模事業者の販路開拓等を広く対象とする補助金です。
受発注のシステム導入が対象経費に含まれ得る一般的な選択肢として見ておく位置づけになります。
また、対象が小規模事業者であるため、複数店舗を運営する規模の企業では要件を満たさない場合があります。
自社が対象に当たるかどうかを先に確認したうえで、デジタル化・AI導入補助金と比べることになります。

複数店舗・拠点を持つ会社が補助金を申請する場合、単位はどう考えるか
複数者連携デジタル化・AI導入枠は単独の1法人には使えない
補助金の枠を調べていくと、「複数者連携デジタル化・AI導入枠」という名称が目に入ります。
複数店舗を持つ会社にとって、この名前は自社向けに見えます。
しかし対象者の要件を見ると、そうではありません。
この枠の対象は、商店街振興組合や商工会議所等の商工団体、まちづくり会社やDMO等の団体、または複数の中小企業・小規模事業者等により形成されるコンソーシアムであり、単独の1法人・1事業者は対象になりません3。
制度の趣旨も、サプライチェーンや商業集積地の複数の中小企業・小規模事業者等が連携してITツールを導入し、面的なデジタル化・DXの実現や生産性向上を図ることにあります3。
つまり想定されているのは、資本関係のない複数の事業者が手を組む取り組みであって、1つの法人が自社の店舗を横断して導入するケースではありません。
補助上限は基盤導入経費で3,000万円(消費動向分析経費との合計)、1構成員あたりのソフトウェア経費の上限は50〜350万円と設定されています3。
金額の規模からも、複数の事業者が参加することが前提になっている枠だと読み取れます。
なお、コンソーシアムを組む際に最低何者必要かという構成員数の下限については、この枠の解説ページには明記されていません3。
連携枠を検討する場合は、公募要領と事務局への確認が必要になります。
通常枠・インボイス枠は法人単位で検討する
では1法人が複数店舗を運営している場合はどうなるか。
通常枠のページには、拠点単位での個別申請や、1法人あたりの申請件数の上限に関する規定は記載されていません1。
インボイス枠のページにも、交付申請の単位についての記載はありません2。
この2つの事実と、連携枠が単独1法人を対象外としていること3を合わせると、1法人が複数店舗を運営するケースは連携枠の想定ではなく、通常枠・インボイス枠を法人単位で検討する制度設計になっていると考えられます。
ここは分析であって、公募要領の条文で確認した結論ではありません。
「1法人につき何件まで申請できるのか」「A店で申請したあとにB店で別に申請できるのか」といった点は、今回参照した事務局の解説ページでは確認できませんでした12。
申請を具体化する段階では、その回の公募要領を読み、判断に迷う点は事務局へ確認してください。
実務としては、この前提が申請内容の組み立てに影響します。
法人単位で1つの申請にまとめるなら、申請時点で「どの拠点に、どの範囲で導入するか」を決めておく必要があります。
全拠点への展開を見込むなら、その計画を含めた申請内容にすることになります。
逆に、まず1拠点で試してから広げたい場合は、後から追加で申請できるかどうかが読めない以上、初回の申請範囲をどう設定するかが判断の分かれ目になります。
ここは事務局への確認事項として、検討の早い段階に置いておきたいところです。
進め方と補助金活用をどう組み合わせて経営判断するか
補助金の枠から決めると、導入範囲が歪む
ここまでで、進め方の軸(拠点数・対象業務の広さ・運用負荷)、補助金の対象要件、申請単位の考え方がそろいました。
最後に、これらをどの順で決めていくかを整理します。
先に確認しておきたいのは、補助金の枠から逆算して導入範囲を決めると、必要以上に広い導入になりやすいことです。
通常枠は4プロセス以上で補助額が150万円以上450万円以下の区分になります1。
この区分を見ると、対象プロセスを増やしたほうが得に見えます。
しかし、いま困っているのが拠点間の発注状況の見えなさであれば、そこに効く範囲から入るほうが、現場の負荷も移行の失敗リスクも小さくなります。
プロセスを増やせば、それだけ移行する業務が増え、マスタ整備も現場への説明も広がります。
補助額は上がっても、自己負担額そのものは増えます。
着手の順序
現実的な順序としては、まず自社の困りごとがどこにあるかを具体化することから始まります。
二重発注が起きているのか、在庫の偏りなのか、本部の集計の遅れなのか。
困りごとが違えば、必要な機能の範囲も変わります。
次に、拠点ごとの個別導入か本部一元管理かの方向を決めます。
ここで拠点数・対象業務の広さ・運用負荷を見ることは前述のとおりですが、方向が決まらないうちに製品を見始めると、機能の多さで判断してしまいがちです。
そのうえで、取引額の大きい仕入先から、データ連携に対応できるかを確認します。
EDIの実証で示された削減効果は取引先との連携を前提としたものでした4。
自社の効果見込みを立てるには、何社が連携に対応でき、何社はFAXや電話のままになるのかを把握しておく必要があります。
対応しない仕入先が多いなら、まず社内の可視化に絞って効果を見積もることになります。
ここまで固まってから、補助金の枠を選びます。
受発注機能が要件に明記されているインボイス枠か2、対象プロセスを整理して通常枠か1。
端末を配る必要があればインボイス枠のハードウェア対象2も検討材料になります。
申請単位については法人単位での検討を軸に置き、複数回の申請可否は事務局へ確認する。
この確認は、導入範囲の決定に影響するため、後回しにしないほうが安全です。
補助金が使えなかった場合まで含めて考える
補助金は申請すれば必ず採択されるものではありません。
そのため、採択されなかった場合に導入自体をやめるのか、範囲を縮めて自己資金で進めるのかを、申請前に決めておくと判断がぶれません。
拠点間の発注状況が見えないことによる二重発注や在庫の偏りは、補助金の採否とは関係なく続きます。
補助金は導入時の負担を軽くする手段であって、導入するかどうかの理由そのものではない、という置き方が現実的です。
拠点ごとの個別導入か本部一元管理かは、拠点数や商材の違い、導入後に誰がマスタを保守するかといった自社固有の条件で結論が変わります。制度の要件は公開情報で確認できても、自社の発注の流れを整理して方向を決める作業は、社内だけだと現場の慣れた手順に引きずられがちです。
現在の拠点ごとの発注手段と、取引額の大きい仕入先の対応状況を持ち込んでいただければ、どの範囲から集約すると本部の可視性が上がるのか、どこを拠点の裁量として残すべきかを一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 判断する軸 | 見るところ |
|---|---|
| 個別導入か一元管理か | 拠点数、対象業務の広さ、導入後のマスタ保守・問い合わせ対応の負担 |
| 効果の見込み方 | 取引額の大きい仕入先がデータ連携に対応できるか。対応しないなら社内の可視化に絞って見積もる |
| 補助金の枠選び | 受発注機能が明記されたインボイス枠か、対象プロセスを整理する通常枠か。端末が必要ならハードウェア対象の有無 |
| 申請単位 | 法人単位での検討が軸。1法人あたりの申請件数や複数回申請の可否は事務局へ確認 |
| 決める順序 | 困りごとの具体化 → 進め方の方向 → 仕入先の対応状況 → 補助金の枠 |

補助金の枠選びと導入範囲の決定は本来セットで、枠に合わせて範囲を広げると自己負担も移行の負荷も増えます。一方で申請単位のように公開ページだけでは読み切れない点もあり、事務局への確認事項と自社で決めるべきことの切り分けが必要になります。 困りごとの具体化から進め方の方向づけまでを一緒に整理したうえで、どの枠を軸に検討するのが自社の導入範囲と噛み合うのか、事務局に何を確認しておくべきかを明確にできます。
よくある質問
デジタル化・AI導入補助金とIT導入補助金は同じ制度か
本記事で参照しているのは、中小企業基盤整備機構(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局)が公開している2026年の「デジタル化・AI導入補助金2026」の各枠のページです123。
年度によって名称や枠の構成、補助額・補助率の条件が変わることがあるため、申請時には必ずその年度・その回の公募要領で対象要件と金額を確認してください。
過去の情報をまとめた解説記事と現行の公募要領で条件が食い違う場合は、公募要領が優先されます。
複数拠点のうち一部の店舗だけで受発注DXを先行させることはできるか
業務の進め方としては可能です。
1拠点で運用を確かめてから広げるやり方は、現場の負荷を抑えるうえで理にかなっています。
ただし補助金と組み合わせる場合は注意が必要です。
今回参照した通常枠・インボイス枠のページには、拠点単位での個別申請や1法人あたりの申請件数の上限に関する記載がなく12、先行導入の後に残りの拠点で別途申請できるかどうかは確認できませんでした。
先行導入を前提に補助金を使うなら、初回の申請範囲をどう設定するか、追加申請が可能かを事務局へ確認したうえで計画を立ててください。
受発注DXの補助金は小規模事業者持続化補助金など他の補助金と併用できるか
併用の可否について、今回参照した各制度のページでは確認できませんでした。
一般に、同一の経費に対して複数の補助金を重ねて受けることは認められないことが多いため、どの経費をどの制度で申請するかの切り分けが論点になります。
小規模事業者持続化補助金は補助上限250万円・補助率2/3で5、受発注のデジタル化に限定した制度ではなく、対象も小規模事業者です。
自社がその要件に当たるかを先に確認し、併用や使い分けの可否は各制度の公募要領と事務局への確認で判断してください。
資本関係のあるグループ会社が複数拠点を運営している場合、申請単位はどう扱われるか
この点は、今回参照した範囲では確認できませんでした。
確認できたのは、複数者連携デジタル化・AI導入枠の対象が商工団体等やコンソーシアムであり、単独の1法人・1事業者は対象外であること3、そして通常枠・インボイス枠のページには申請単位に関する記載がないこと12です。
グループ内の各社が別法人であれば、形式的には各社が申請者になり得ますが、資本関係のある法人をどう扱うかについての規定は原典で確認できていません。
グループでの申請を検討する場合は、資本関係の状況を整理したうえで事務局へ確認することをおすすめします。
受発注システムを入れれば、公表されている51.4%の業務時間削減は自社でも見込めるか
そのまま当てはめることはできません。
中小企業共通EDIの実証事業で12件を対象に測定された平均51.4%という値は4、取引先との間で受発注データ連携を行った場合の効果であり、社内システムのみで拠点の発注情報を集約する場合とは前提が異なります4。
また、この削減がどの作業を対象としたものかは明記されていません4。
自社の効果を見積もるなら、取引額の大きい仕入先がデータ連携に対応できるかを確認し、対応できる取引とそうでない取引を分けて考えるのが現実的です。
補助金は導入時の研修やマニュアル作成の費用にも使えるか
通常枠では、必須のソフトウェア購入費・クラウド利用料(最大2年分)に加えて、オプションとして導入コンサルティング費、導入設定、マニュアル設定、導入研修、保守サポートが対象経費に含まれます1。
インボイス枠でも、これらの役務に加えてPC・タブレット・POSレジ等のハードウェアが対象に含まれます2。
多拠点では現場への説明や手順書の整備に手間がかかるため、予算を組む際に考慮できる範囲です。
ただし対象経費の細目は公募要領で定められるため、個別の費用が該当するかは申請時に確認してください。
- 1 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 通常枠」(2026年)
- 2 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 インボイス枠(インボイス対応類型)」(2026年)
- 3 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小企業デジタル化・AI導入支援事業事務局)「デジタル化・AI導入補助金2026 複数者連携デジタル化・AI導入枠」(2026年)
- 4 出典:中小企業庁「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!(ミラサポplus)」(2018年)
- 5 出典:中小企業庁「小規模事業者持続化補助金 制度ページ(ミラサポplus)」(2026年)