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得意先別の価格・条件の差異を解消する方法|合意との食い違いの切り分け・請求の訂正・再発防止

◆監修・編集責任者 小園 将隆 

B2B EC-COLUMN

この記事のポイント

  • 価格の差異は、1品目・1得意先で合意記録とマスタ・受注・請求の単価を一行に並べ、どの段階で値が変わったかで切り分ける。
  • マスタの登録漏れはその後のすべての受注と請求に伝わるため、請求だけでなく条件の登録と影響範囲の請求を直す。
  • 適格請求書発行事業者は、誤りのあった請求について、修正した適格請求書を得意先に交付する。
  • 差額精算の方法は得意先と合意して決め、取適法の対象取引では合意した代金からの一方的な差し引きや単価の引き下げに注意する。
  • 表計算か仕組みかは、受注から請求まで同じ条件を転記なしで参照できるかを中心に、5つの確認項目で判断する。

Industrial warehouse with workers organizing and managing inventory.
▽ 写真の出典元

得意先から価格の違いを指摘されたら、最初の確認で何を突き合わせるか

得意先から「請求額が合意した価格と違う」と言われても、その場では答えられない。
合意の記録と、受注や請求で実際に使った単価を、一か所で並べて見られないことが原因です。
まず1品目・1得意先について両者を突き合わせ、ずれが合意・マスタ登録・受注・請求のどの段階で生まれたかを切り分けます。
請求の誤りは、適格請求書発行事業者であれば、修正した適格請求書を交付して直します。
再発を防ぐには、条件の登録元・適用期間・承認者を決めます。
そのうえで、得意先数と条件の複雑さから、表計算で管理を続けるか、仕組みで持つかを選びます。

合意の記録を探す順序

仮の例で考えます。
得意先A社から「業務用ペーパータオルの単価が、先月の改定で合意した額になっていない」と連絡が来ました。
営業担当は改定に合意したと言います。
一方、請求書は従来の掛け率で計算した単価のまま発行されています。
どちらが正しいかを決めるには、まず何をもって「合意」とするかの根拠を一つに定める必要があります。

根拠を探すときは、自社と得意先の両方が同じ内容を手元に持っている記録から当たります。
取引基本契約の価格条項、価格改定の合意書や通知、得意先から届いた発注書(注文書)、合意を確認したメールなどです。
販売管理のマスタや営業日報は、自社の認識を示す資料にはなります。
しかし得意先はそれを見ていないため、食い違いを解く根拠としては弱くなります。
発注書は得意先が作った記録なので、単価が書かれていれば得意先側の認識も示します。
見積書は自社が提示した記録です。
得意先がそれを受け入れたと分かる発注書やメールと組み合わせて見ます。

該当する記録が複数あるときは、日付の新しいものと、そこに書かれた適用開始日を確かめます。
改定の合意書に「いつの発注から」または「いつの出荷から」の記載がなければ、作業はここで止まります。
その場合は社内で記録を確定させるより先に、A社と適用開始日を確認するほうが早く片付きます。

受注・出荷・請求の単価を並べる

合意の記録が決まったら、同じ得意先・同じ品目について、自社側の各段階の単価を一行に並べます。
受注を入力したときの単価、出荷伝票や納品書の単価、請求書の単価の3つです。
これに、その時点でマスタに登録されていた単価や掛け率を加えます。

1品目・1得意先に絞るのは、全件を一度に照合すると、品目ごとに正しい単価が違うためずれの規則性が見えなくなるからです。
一行で見れば、どの段階で値が変わったかが分かります。
A社の例で、合意記録は新単価なのに、マスタも受注も請求も旧掛け率だったとします。
この場合、ずれはマスタ登録の段階から始まっています。
受注までは新単価で、請求だけが旧単価なら、請求書を作る段階での再計算や転記で起きたと考えられます。

差額の大きさだけで原因を決めつけないことも大切です。
掛け率の差にちょうど見える差額でも、数量によって単価が変わる条件や、期間限定の特価で説明がつく場合があります。
手掛かりはあくまで手掛かりで、明細と条件を一つずつ照合して判断します。
改定前後の出荷が混じる月の請求は、行を分けて並べます。
こうしておくと、どの出荷から単価が変わるべきだったかが見えます。

取適法の対象かどうかで変わる「正」の根拠

取適法は、下請法を改正した法律です。
製造委託などの取引で、発注する側に義務と禁止行為を課しています。
対象になるかどうかは、取引の類型と資本金などの規模要件で決まります。
規模要件は資本金基準が基本で、資本金基準が当てはまらない場合に従業員基準を使います2。
対象の取引では、委託事業者(発注する側)が発注の際に、書面または電磁的記録を直ちに交付する義務を負います1。
この書面には、名称、発注日、給付の内容、受領の期日と場所、代金の額、支払期日などをすべて記載します1。

自社が売り手で、得意先が委託事業者として製造などを発注している関係を考えます。
この場合は、得意先から受け取ったその書面の代金額が、合意内容を確かめる最初の根拠になります。
A社との取引がこれに当たるなら、改定後の発注で受け取った書面の単価を、受注・請求の単価と並べます。
そもそも書面を受け取っていなければ、そのこと自体を得意先と確認します。

取適法の対象にならない取引には、この書面交付の義務は当てはまりません。
何を合意の記録とみなすかは、当事者間の取り決めに委ねられます。
だからこそ、前に挙げた探す順序を社内で決めておく意味があります。
指摘を受けてから根拠を探し始めると、担当者ごとに違う資料を持ち出し、社内で話がまとまらなくなります。

確認すること 取適法の対象取引 対象外の取引
合意内容の根拠 委託事業者が発注時に交付する書面・電磁的記録 社内で決めた合意記録(契約書・改定合意書・発注書など)
根拠が手元にないとき 書面の交付を受けているかから確認 得意先と単価・適用開始日を確認して記録を作る
比較に使う単価 書面に記載された代金の額 合意記録の単価と適用期間
取適法の対象かどうかで変わる合意内容の根拠(模式図)
対象取引は発注時の書面、対象外は社内で決めた合意記録を根拠にすることを分けて示した図
▼ 図の内容を文字で読む
  • 取適法の対象取引
    • 得意先から受け取った発注時の書面の代金額を根拠にする
    • 書面を受け取っていなければ、そのこと自体を得意先と確認する
  • 対象外の取引
    • 書面交付の義務は当てはまらず、何を合意の記録とするかは当事者間の取り決めによる
    • 取引基本契約・改定の合意書・発注書・メールから探す
  • どちらの場合も
    • 合意記録を探す順序を社内で決めておく
    • 合意記録と受注・請求の単価を並べて比べる

差異は合意・マスタ登録・受注・請求のどこで生まれやすいか

合意内容の認識違い

一行に並べてみたら、合意記録の単価そのものが曖昧だった、という場合があります。
自社と得意先で記録の読み方が違う場合もあります。
A社の例で、改定合意書に新単価は書かれているものの、発注日と出荷日のどちらを基準に適用するかが書かれていなかったとします。
A社は改定日以降に発注した分をすべて新単価と考えていました。
自社は改定日以降に出荷した分から新単価と考えていました。
この場合、改定前に受注して改定後に出荷した注文だけで、両者の認識がずれます。

同じ種類のずれは、ほかの条件でも起こりえます。
数量で単価が下がる条件では、数量を1回の注文で数えるのか、月の合計で数えるのかで食い違います。
単価に送料や梱包費を含むのかどうか、税抜か税込かでも食い違います。
どれも、書面に書いてあるつもりで実は書いていなかった、という形で表に出ます。

この段階のずれは、請求を直す前に、得意先と合意内容を確かめ直す必要があります。
自社だけで「正しい単価」を決めて訂正の請求書を出すと、得意先から再び違うと言われ、訂正をもう一度重ねることになります。

マスタ・条件表の登録更新漏れ

合意記録ははっきりしているのに、マスタ(販売管理システムや表計算の得意先別単価表)に反映されていないことがあります。
原因はいくつか考えられます。
営業担当が持ち帰った改定の合意が、登録担当に伝わっていなかった。
登録はしたが適用開始日を入れず、改定前の注文まで新単価に変わった。
期限付きの特価が延長されたのに、終了日を更新していなかった。
どれも、合意と登録の間の受け渡しで起きています。

掛け率と個別単価が重なっている場合も、この段階でずれます。
A社には品目全体に掛け率が設定されていて、一部の品目だけに個別単価があるとします。
どちらを優先するかがシステムの設定や表の作りで決まっていなければ、個別単価を登録していても掛け率で計算されることがあります。
表計算で管理している場合は、参照する列や計算式の範囲が一行ずれているだけでも同じことが起きます。

この段階のずれには、ほかの段階とは違う特徴があります。
一度の登録漏れが、その後のすべての受注と請求に同じずれを運ぶことです。
A社で見つかったのが一品目でも、同じ改定で変わった別の品目や、改定以降の別の月の請求に同じずれが残っていないかまで、確認の範囲を広げます。

受注時・請求時の適用違い

マスタは正しいのに、受注入力の段階でずれることもあります。
担当者が単価を手で上書きした場合がそうです。
前回の受注を複製して入力し、旧単価をそのまま引き継いだ場合もあります。
電話やFAXで受けた注文を、得意先別の単価ではなく標準価格で入力した場合もあります。
この段階のずれは、その受注から作られた納品書と請求書に伝わりますが、別の受注には広がりません。

請求の段階で起きるずれもあります。
請求書を作るときに単価を計算し直す仕組みや、出荷後に別の表から単価を転記する運用では、受注時に正しかった単価が請求で旧条件に置き換わることがあります。
月締めで請求している場合は、改定前後の出荷が混じる月に、締め日時点の単価で全明細を計算してしまう例が考えられます。

段階ごとに、直す対象は変わります。
認識違いなら、まず得意先との合意を確かめます。
マスタの登録漏れなら、条件の登録に加えて、影響を受けたすべての請求を直します。
受注時や請求時の適用違いなら、その請求に加えて、手での上書きや転記という運用を直します。
請求だけを直してマスタを残せば、翌月も同じずれが出ます。

ずれが生まれた段階と、影響の広がり・直す対象(模式図)
合意の認識違い、マスタ登録漏れ、受注時、請求時の4段階ごとに影響の範囲と直す対象を分けて示した図
▼ 図の内容を文字で読む
  • 合意内容の認識違い
    • 影響は、認識がずれた注文(改定前に受注し改定後に出荷した分など)
    • 先に得意先と合意を確かめ直す
  • マスタ・条件表の登録更新漏れ
    • 以後のすべての受注と請求に同じずれが伝わる
    • 条件の登録と、影響を受けたすべての請求を直す
  • 受注時の適用違い
    • その受注から作られた納品書と請求書に伝わる
    • 請求に加え、手での上書きなどの運用を直す
  • 請求時の適用違い
    • 再計算や転記が行われた請求に出る
    • 請求に加え、転記・再計算の運用を直す

誤りが確定した請求は、どう訂正して差額を精算するか

修正した適格請求書の2つの方法

切り分けの結果、誤りが自社側にあると確定したら、請求を直します。
自社が適格請求書発行事業者で、交付した適格請求書の記載事項に誤りがあったときは、売手として得意先(課税事業者)に修正した適格請求書を交付します。
単価の誤りは金額だけでなく消費税額にも及びます。
得意先は受け取った請求書をもとに税額の処理をしているため、修正の書類を受け取る必要があります。

修正の方法は2つあります。
1つは、誤りのあった請求書の記載事項をすべて記載し直したものを交付する方法です。
もう1つは、当初の請求書との関連を明らかにし、修正した事項を明示した書類を交付する方法です。
A社の例なら、請求書全体を作り直すか、「何月分の請求書(請求番号)のうち、この品目の単価・金額・税額を次のとおり訂正する」と示した書類を出すか、の違いです。
訂正する明細が少なければ後者のほうが得意先も差分を追いやすく、品目が多ければ前者のほうが読み違いを避けやすい、という見方ができます。
どちらを選ぶかは、得意先側の受け入れ処理も聞いたうえで決めます。

帳簿上の売上をどう修正するかは、会計方針によって処理が異なります。
請求書の訂正と帳簿の修正を別々の担当が進めると、金額や対象月が食い違うことがあります。
経理担当や顧問の税理士と、方法と対象期間を合わせてから着手します。

月次請求の継続取引での扱い

月締めで請求書を出している得意先では、ずれが複数の月にまたがることがあります。
マスタの登録漏れが原因なら、改定月以降のすべての請求が対象になりえます。
このとき、月ごとに修正した請求書を出すのか、まとめて訂正するのかを決めなければなりません。

国税庁の消費税インボイス制度のQ&Aには、卸売業者が小売業者に月ごとに請求書を交付する継続取引で、修正した適格請求書をどう交付するかを扱う問があります。
まとめて訂正する方法を取るなら、その問に示された要件を国税庁の資料で確かめてから進めます。
どちらの方法でも、どの月の、どの請求書の、どの明細を直したかを、当初の請求書と対応づけて残す点は変わりません。

得意先も月ごとに帳簿を締めています。
締めた後の月を訂正すれば、得意先の経理処理にも手間がかかります。
連絡する前に、訂正の対象期間を確定させておきます。
先に一部の月だけ伝え、後から対象月が増えると、得意先は処理をやり直すことになります。

得意先への連絡と差額精算

得意先には、次の順で伝えると話が進めやすくなります。
原因がどの段階にあったか、対象となる請求書と明細、正しい単価とその根拠となる記録、差額、精算方法の案、修正した請求書を交付する時期です。
原因が分からないまま差額だけを伝えると、「ほかの品目は大丈夫か」と聞かれ、また即答できない状態に戻ります。

差額の精算方法は、ずれの向きで変わります。
自社が多く請求していた場合は、返金するか、次回の請求で差し引くかになります。
少なく請求していた場合は、追加で請求します。
どちらの場合も、得意先と合意してから実行します。
次回の請求で差し引くなら、得意先がどの請求書のどの金額に対する精算かを読み取れるよう、請求書の上で表示を分けます。

少なく請求していたことが分かったときに、得意先が合意単価を自社とは違う額で認識していることもあります。
その場合、話は請求の訂正ではなく、合意内容の認識違いに戻ります。
先に合意を確かめ直してから精算に進みます。

誤りが確定してから再発防止までの流れ
対象期間の確定、得意先への連絡、精算方法の合意、修正した適格請求書の交付、マスタと運用の修正を順に示した図1誤りの段階と訂正の対象期間を確定2得意先へ原因・対象の明細・正しい単価と根拠を連絡3精算方法を得意先と合意4修正した適格請求書を交付5マスタと運用を修正

▼ 図の内容を文字で読む
  1. 誤りの段階と訂正の対象期間を確定
  2. 得意先へ原因・対象の明細・正しい単価と根拠を連絡
  3. 精算方法を得意先と合意
    • 多く請求していた場合は、返金または次回の請求で差し引く
    • 少なく請求していた場合は、追加で請求する
  4. 修正した適格請求書を交付
    • 記載事項をすべて記載し直す
    • 当初の請求書との関連と修正した事項を明示する
  5. マスタと運用を修正

合意価格からの一方的な引き下げは、どんなときに問題になるか

自社が発注側か受注側かの確認

差額の精算は、どちらが何を差し引くかで意味が変わります。
取適法が義務と禁止行為を課しているのは、委託事業者(発注する側)です。
自社が売り手として得意先から製造などを受託している関係なら、義務を負うのは得意先です。
自社が仕入先に製造などを委託している関係では、自社が委託事業者になります。
同じ会社でも、取引ごとに立場が入れ替わります。

取適法の禁止行為などが適用されるのは、令和8年1月1日以降に発注した取引です2。
A社との取引が対象かどうかは、取引の類型、規模要件、発注日の3点を合わせて判断します。

売り手として対応に迷うのは、得意先が自社の請求額とは違う単価で計算し直し、支払額から差額を差し引いて支払ってきた場面です。
まず、ここまでの手順で合意記録と自社の各段階の単価を突き合わせます。
自社の誤りであれば、修正した請求書で整えます。
得意先の計算が合意記録と違うのであれば、記録を示して協議を求めます。
どちらの場合も、記録を並べておけば、話し合いの出発点が感覚ではなく書面になります。

減額・一方的な代金決定の例

公正取引委員会の留意事項は、取適法の施行に関して次の例を示しています。
支払手段を手形払から現金払に変える際、現金を用意する費用として割引料を代金から差し引いて支払うことは、減額として違反になります2。
従来の単価から一方的に引き下げて代金を定めることは、買いたたき、または協議に応じない一方的な代金決定の禁止に当たるおそれがあります2。

2つの例に共通するのは、いったん合意した代金や単価を、相手との協議なしに発注側の都合で下げている点です。
差額精算の場面でも、「誤りの訂正」のつもりで合意記録より低い単価を相手の同意なく当てはめれば、この構図に近づきます。
ただし、ここで示したのは支払手段の変更に関する例です。
減額の一般的な定義や例外の扱いは、公正取引委員会の資料本文で確かめてください。

自社が発注側の取引では、立場が逆になります。
仕入先からの請求単価が自社の認識と違っても、自社で計算し直した額だけを支払う、という対応は避けます。
合意記録を示して仕入先と協議し、誤りが仕入先側にあれば、修正した請求書を受け取ってから支払います。

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▽ 写真の出典元

条件の登録・更新・承認と記録を、どう決めておけば再発しないか

登録元・適用期間・承認者の決め方

まず、得意先別の単価や掛け率について、どの表またはどのマスタを正とするかを一つに決めます。
営業の手元の表、受注担当の表、請求担当の表が別々にあると、改定のたびに複数の場所を更新しなければなりません。
その結果、登録漏れと転記違いが繰り返されます。
登録元を一つにすれば、更新する場所が一つになり、ほかの表への転記と、転記結果の照合が減ります。

登録元には、単価そのものだけでなく、適用の判断に必要な情報も一緒に持たせます。

  • 得意先と品目
  • 個別単価または掛け率
  • 適用開始日と終了日
  • 適用の基準(発注日か出荷日か)
  • 個別単価と掛け率が重なったときの優先順位
  • 根拠となる合意記録(合意書の番号や日付)
  • 登録者と承認者

承認は、登録した人とは別の人が、合意記録と登録内容を照合してから適用する形にします。
A社の例なら、承認者は改定合意書の単価と適用開始日を見て、マスタの登録と一致しているかを確かめます。
これで、入力の違いや開始日の入れ忘れを、受注に使われる前に見つける機会が生まれます。
ただし、合意内容の認識違いは承認では見つかりません。
こちらは合意書に適用の基準まで書くことで防ぎます。
そのうえで、月次の請求を出す前に、改定のあった得意先だけでも、請求単価と合意記録を突き合わせておきます。
こうすると、すり抜けたずれが得意先に届く前に見つけやすくなります。

発注内容の記録と2年保存

取適法の対象取引では、委託事業者は取引に関する書類や電磁的記録を作成し、2年間保存する義務があります1。
自社が委託事業者になる取引では、これが記録の残し方の最低ラインになります。

自社が受託する側でも、得意先から受け取った発注の書面を、どの受注に対応するか分かる形で残しておく意味があります。
次に価格の違いを指摘されたとき、合意記録を探す手間が減るからです。
単価改定の合意書とマスタの変更履歴を、合意書の番号などで結び付けておけば、「この単価はいつ、どの合意で変わったか」を一行で示せます。

取適法の対象にならない取引でも、社内で合意記録と決めた範囲を、そのまま保存する範囲にしておくと運用が揃います。
保存の期間は、社内規程や、帳簿書類の保存に関わるほかの決まりとの関係で決めます。

支払期日の上限の確認

得意先ごとの条件には、価格だけでなく支払条件も含まれます。
取適法の対象取引では、支払期日は物品などを受領した日から起算して60日以内で、できる限り短い期間内に定める義務があります1。
自社が委託事業者になる取引で条件表に支払条件も載せるなら、締め日と支払日の組み合わせがこの範囲に収まっているかを、登録時の確認項目に入れておきます。

支払が遅れた場合、委託事業者には年率14.6%の遅延利息を支払う義務があります1。
差額をめぐる協議が長引いているからといって、合意した代金の支払そのものを止めれば、この義務に関わってきます。

支払条件も得意先ごとに異なる以上、価格と同じ登録元と承認の流れで扱うのが自然です。
支払条件の食い違いも、合意・マスタ登録・受注・請求の4段階で同じように切り分けられます。

得意先別条件の管理は、表計算で足りるか、仕組みで持つべきか

判断に使う5つの確認項目

表計算で続けるか、仕組みで持つかは、前の節で挙げた管理項目を、いまの道具で無理なく維持できるかで考えます。
次の5つの項目で、自社の状況を書き出してみます。

  • 得意先数:得意先別の条件を持つ得意先がどれだけあり、増えているか
  • 条件の種類:個別単価・掛け率・数量による条件・期間による条件のうち、いくつを組み合わせているか
  • 改定頻度:単価の改定や特価の開始・終了が、どれくらいの間隔で起きるか
  • 承認の証跡:誰がいつ承認したかを、後から示す必要があるか
  • 条件の参照:受注から請求まで同じ登録元の条件を自動で参照しているか、どこかで転記しているか

判断を大きく分けるのは、5つ目の条件の参照です。
どこかに転記が残っている限り、受注時や請求時の適用違いが起きる余地は消えません。
得意先数や条件の種類は、その転記の量と、転記を確かめる手間の大きさを決めます。
何社を超えたら仕組みにする、という一律の線はありません。
転記と照合にかかっている手間と、そこで起きたずれの影響を並べて判断します。

運用で防ぐ場合の限界

表計算で管理する場合は、登録元を一つの表にします。
そこに適用開始日・終了日・承認者の列を加え、変更履歴を別のシートに残します。
得意先や条件が少なく、改定もまれであれば、前の節で挙げた管理項目はこの形で維持できます。

限界が出るのは、受注と請求を別の画面やシステムで行い、表を見ながら単価を入力している場合です。
この形では、転記したものが正しいかを確かめる作業が人に残ります。
掛け率と個別単価の優先順位も、表の計算式では表せますが、受注入力の担当者が別の画面で単価を打ち込む場面で守られるかは別の問題です。
承認の証跡は、ファイルの更新履歴で「いつ変わったか」は追えても、「誰が何を承認したか」は手で書き残すことになります。

期間による条件が増えると、同じ得意先・同じ品目の行がいくつも並び、どの行がいま有効かを人が判断することになります。
A社の例のように改定前後の出荷が混じる月の請求も、手で計算を分けなければなりません。
ここで起きる誤りは注意不足というより、判断を人に委ねる箇所の数から生まれます。

システム化を検討する場面

受注から請求まで同じ条件を自動で参照させると、減る作業があります。
表から受注画面への転記、請求時の再計算、それらの結果の照合です。
一方で、残る確認もあります。
合意内容を正しく登録したかの承認と、合意書に適用の基準まで書くことです。
仕組みを入れても、合意内容の認識違いは減りません。

製品を比べるときは、機能の多さより、ここまでに挙げたずれの段階をふさげるかを質問の形で確かめます。

  • 得意先別に個別単価と掛け率を両方持ち、優先順位を設定できるか
  • 適用開始日・終了日を持ち、発注日と出荷日のどちらを基準に適用するかを決められるか
  • 条件の登録・改定に承認を挟み、その履歴が残るか
  • 受注時の単価が請求まで引き継がれ、手で上書きしたときに記録が残るか
  • 適格請求書の記載事項を満たす請求書の発行や、修正した請求書の交付に対応できるか

5つの確認項目で転記が残る箇所が見つかり、その箇所でずれが繰り返し起きているなら、仕組みで持つことを検討する場面です。
反対に、転記がなく、改定もまれで、承認の記録を表に残せているなら、運用の見直しで足りることもあります。

表計算と仕組みで、人に残る作業はどう違うか(模式図)
表計算で人に残る作業、仕組みで減る作業、仕組みを入れても残る確認を分けて示した図
▼ 図の内容を文字で読む
  • 表計算で人に残る作業
    • 表を見ながら単価を入力し、転記したものが正しいかを確かめる
    • 今有効な行を人が判断し、改定前後の請求は手で計算を分ける
    • 誰が何を承認したかを手で書き残す
  • 仕組みで減る作業
    • 表から受注画面への転記
    • 請求時の再計算
    • それらの結果の照合
  • 仕組みを入れても残る確認
    • 合意内容を正しく登録したかの承認
    • 合意書に適用の基準まで書くこと

請求の訂正は社内で進められても、得意先別の条件がどの表や画面に分かれていて、どこで転記しているかは、日々の業務の中からは見えにくいものです。

受注から請求までの条件の流れを一緒にたどり、登録元をどこに置けば転記と照合の手間が減るかを確かめられます。無料相談で要件を整理する

要点の整理

軸 基準
合意の根拠 双方が見ている記録を優先する。取適法の対象取引なら発注時に交付された書面
切り分け 1品目・1得意先で、合意記録・マスタ・受注・請求の単価を一行に並べる
請求の訂正 適格請求書発行事業者は修正した適格請求書を交付する(すべて記載し直すか、関連と修正事項を明示する)
差額精算 方法は得意先と合意して決める。一方的に差し引かない
再発防止 登録元を1つにし、適用期間と基準、承認者、変更履歴を持たせる
道具の選択 受注から請求まで同じ条件を転記なしで参照できるかを中心に、5項目で判断する
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▽ 写真の出典元

表計算で続けるか仕組みで持つかは、得意先数や条件の種類だけでなく、いまの受注・請求の画面がどうつながっているかで判断が変わります。 5つの確認項目に沿って自社の現状を整理し、運用で防げる範囲と仕組みが必要な範囲を確かめられます。

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よくある質問

得意先との合意が口頭だけで、書面がないときは、どの記録を根拠にすればよいですか

まず、口頭の合意の後に残った記録を探します。
合意を確認したメール、合意後に送った見積書、その単価で届いた得意先の発注書などです。
それでも根拠が定まらなければ、得意先と単価と適用開始日を確認し直し、その内容を書面やメールで残してから請求の訂正に進みます。
取適法の対象取引で得意先が委託事業者であれば、得意先には発注時に代金の額などを記載した書面または電磁的記録を交付する義務があるため、その交付を受けているかも確認します。

自社が適格請求書発行事業者でない場合、請求の訂正はどう変わりますか

修正した適格請求書を交付する義務は、適格請求書発行事業者が交付した適格請求書に誤りがあった場合のものです。
登録していない場合の請求書の訂正は、得意先との取り決めに沿って行います。
対象の請求書と明細、正しい単価、差額の精算方法を得意先と合意して書面に残す点は、登録の有無にかかわらず同じです。
税務上の扱いは、顧問の税理士に確認してください。

取適法の対象かどうかは、何を見て判断すればよいですか

取引の類型と、発注する側・受注する側それぞれの規模要件を見ます。
規模要件は資本金基準が基本で、資本金基準が当てはまらない場合に従業員基準を使います。
あわせて、禁止行為などが適用されるのは令和8年1月1日以降に発注した取引である点も確認します。
同じ得意先でも取引の内容によって判断が変わることがあるため、取引ごとに公正取引委員会の資料で要件を確かめます。

差額を次回請求で相殺してよいかを決めるとき、得意先と何を確認しておくべきですか

どの請求書のどの明細に対する差額か、差額の金額とその計算の根拠、どの月の請求で差し引くか、請求書の上でどう表示するか、の4点です。
あわせて、修正した適格請求書を別途交付するのか、相殺する請求書の中でどう扱うのかも決めておきます。
得意先の同意を得ずに自社の判断だけで差し引くと、得意先側の入金照合や経理処理が合わなくなります。
合意した内容はメールなどで残しておきます。

得意先ごとの掛け率と個別単価が重なるときは、どちらを優先する決まりにしておくべきですか

法律で決まっているものではなく、得意先との合意と社内の決め方の問題です。
個別単価は特定の品目について個別に合意した額なので、個別単価を優先する決め方にすると、得意先にも説明しやすくなります。
どちらを選ぶにしても、優先順位を取引条件の書面と登録元の両方に書き、受注と請求で同じ順位が使われるようにしておくことが大切です。

◆監修・編集責任者

小園 将隆

株式会社フライトソリューションズ ECサービス部 マネージャー

BtoB通販のパッケージシステム「EC-Rider B2B Ⅱ」の導入支援をはじめ、製造業、卸売業をはじめとした法人向け通販サイト構築を多数手掛ける。卸売領域の専門知識をもとに、日本の商習慣に固有の課題をパッケージシステムの機能追加によって解決。BtoB流通の販路拡大を支援する。

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  1. 1 出典:公正取引委員会「委託事業者の義務(取適法)」(2026年)
  2. 2 出典:公正取引委員会「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」(2026年)

画像の出典元

  1. Industrial warehouse with workers organizing and managing inventory./Photo by Przemysław Chaber on Pexels
  2. Office workspace with data charts, book, and laptop on a white desk./Photo by Gustavo Fring on Pexels
  3. Modern office desk with a laptop, smartphone calculator app, and financial charts./Photo by Jakub Zerdzicki on Pexels

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◆この記事について

独自調査以外の一次情報は、省庁・公的機関を中心とした信頼性の高い情報源から引用し、出典を明記しています。
年次更新される統計については、引用元の最新版を確認したうえで掲載しています。

※この記事は上記の監修・編集責任者がAIの協力を得て制作しています。

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