◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- FAX受注の費用は通信費ではなく、受信と確認と入力に費やす人の時間が大半を占めます。
- 試算は、受注件数の把握、処理時間の実測、時間あたり人件費への換算、繁忙期の織り込みの四段階で足ります。
- 一日三十件を一件四分、時間単価二千円で処理すれば、年間で九十六万円という並びになります。
- 手段は受信のクラウド化、読み取りの自動化、発注側による入力の三つで、残る費用が手段ごとに違います。
- 電子でやり取りした注文は、取引年月日と取引金額と取引先の三項目で検索できる保存が求められます。
目次

FAX受注の費用とは何を指すのか
FAX受注の費用とは、回線や用紙の直接費と、受注処理に人が使う時間を金額に換算した額の合計を指します。誤りの手直しや、紙の注文書を保存するための費用もここに含まれます。請求書に現れる通信費は総額の一部であり、金額が大きいのは人の時間に対応する部分です。判断の土台になるのは、受注1件を受け取ってから登録し終えるまでの1件あたりの処理コストです。この物差しをそろえておくと、削減手段ごとの効き目を同じ尺度で比べられます。
経理の勘定科目に現れるのは、電話回線の基本料と通信料、用紙とトナー、複合機のリース料と保守料です。受注業務に費やした時間は、担当者の給与としてまとめて人件費に計上されます。どの作業に何分使ったかは、仕訳の上では分かれません。そのため帳簿を眺めるだけでは、FAX受注にかかる総額をつかめないのです。勘定科目の枠を外し、業務の流れに沿って費用を数え直す作業が試算の出発点になります。
1件あたりの処理コストは、期間内の費用の合計を、その期間に処理した受注の件数で割った値です。分子には直接費と人件費のほか、誤りの手直しにかかった時間の費用も入れます。分母は、FAXで受け取った受注のうち基幹システムへ登録し終えた件数です。注文の金額が大きいか小さいかは、分子にほとんど影響しません。少額の注文ほど、売上に対する処理コストの比率が高くなります。
試算に入る前に、数える範囲を先に決めておく必要があります。決めるのは、対象とする期間、対象とする取引先、費目に含めるものと含めないものの3点です。受注の登録までで区切るか、出荷指示や請求までを含めるかで、金額は大きく動きます。範囲がそろっていない試算どうしを比べても、判断の材料にはなりません。稟議に出す資料では、この範囲を先頭に明記しておくと、後からの差し戻しを減らせます。
試算の範囲を決めるときは、削減後も残る作業を先に洗い出しておくと精度が上がります。取引先からの電話、例外的な数量変更、納期の相談は、受注の入り口を変えても残ります。残る作業を差し引いた分が、実際に削減できる金額です。ここを曖昧にしたまま効果を見積もると、導入後に数字が合わなくなるでしょう。
費用の範囲には、注文書を保存し続けるための負担も入ります。取引書類は税法上、原則として7年間の保存が求められます1。欠損金額が生じた事業年度については、保存すべき期間が10年間に延びる扱いが示されています1。紙のまま保管するなら、保管場所の賃料とファイリングの手間が毎年発生し、年数が増えるほど積み上がります。電子でやり取りした注文は、電子帳簿保存法の要件に沿った保存が必要です1。同法は2026年時点で、電子帳簿等保存、スキャナ保存、電子取引データ保存という3つの区分に分けて保存の方法を定めています1。このうち電子取引データを電子のまま保存する扱いは、2024年1月1日以後に行う電子取引から必須とされました*1。保存の方法は、費用だけでなく、後から注文書を探す時間にも効いてきます。
費用の全体像をつかむと、削減の狙いどころが通信費ではないことが見えてきます。国内企業のデジタル化の進み具合をまとめた調査では、業務の進め方そのものの見直しが継続的な論点として扱われています2。この調査は1年ごとに版を改める形で公表されており、2026年公表の版が最新にあたります2。企業の情報通信機器や通信手段の利用状況も、公的な調査で継続して把握されています3。その企業編は、常用雇用者100人以上の企業を対象として毎年1回実施され、令和7年調査の結果が2026年に公表されています3。年度ごとの公表がいつ行われたかは、報道発表資料の一覧から確認でき、令和7年度の調査分もそこに載っています*8。まず自社の総額を出し、次に費目ごとの金額を並べる順序が現実的でしょう。順序を逆にすると、目に付きやすい通信費だけを削って終わってしまいます。

一件あたりの処理時間への影響が大きい順に見直す五点(順位根拠:一件あたりの処理時間への影響の大きさ)
- 注文書の様式差異の解消です。品番と数量と納期の位置が取引先ごとに違う状態を直すと、判読と入力の時間がまとまって縮みます。
- 基幹システムへの入力の自動化です。三工程のうち時間の比重が大きい部分であり、印字の注文書が中心なら効果が数字に出やすくなります。
- 電話での照会の削減です。判読できない文字や欠けた項目をなくす取り決めを発注側と結べば、一件あたり数分の照会が減ります。
- 紙の出力と保管の廃止です。受信を電子化すると、用紙とトナー、複合機の保守に加え、書庫の場所代も同時に下がります。
- 保存要件への対応の前倒しです。取引年月日と取引金額と取引先の三項目で検索できる状態を先に作れば、後からの改修費を避けられます。
FAX受注にかかる費用の内訳
FAX受注の費用は、3つの層に分けて数えると全体が整理できます。第1の層は直接費で、回線費用、用紙とトナー、複合機の保守やリース料が含まれます。第2の層は人件費で、受信と仕分け、内容の確認、基幹システムへの入力の3工程が対象です。第3の層は手直しと保管で、誤りの訂正、電話での照会、書類の保存にかかる分を数えます。金額が大きくなりやすいのは第2の層であり、削減の余地も人が手を動かす工程に集まります。
直接費は請求書で金額を確認できるため、試算のなかでは扱いやすい部分です。回線費用は基本料と送信時の通話料の2つに分かれ、受信側の負担は基本料が中心になります。用紙とトナーは受信枚数に比例し、注文書が複数枚にわたる取引先ほど増えます。複合機の保守は、リース料と保守契約料を月額で押さえれば足りるでしょう。これらは金額が固定されており、受注件数が増えても大きくは動きません。
人件費は、受信と仕分け、内容の確認、基幹システムへの入力という3工程に分けて測ります。受信と仕分けでは、届いた注文書を取引先別に分け、担当者へ配る作業が発生します。内容の確認では、品番や数量、納期、単価という4項目を注文履歴や在庫と突き合わせます。基幹システムへの入力は、手書きの注文書ほど時間がかかり、読み取りにくい文字の確認も挟まるでしょう。3工程の合計時間に、時間あたりの人件費を掛けた額が、この層の金額になります。
3つ目の層は、受注が正しく通らなかったときに発生します。誤りの訂正は、入力後に判明した品番違いや数量違いを直す作業です。出荷や請求まで進んでいれば、訂正の影響は他部署にも及びます。電話での照会は、判読できない文字や欠けた項目を取引先へ確かめるやり取りにほかなりません。1件あたりは数分で終わっても、件数が積み上がると担当者の時間をまとまった単位で奪います。
書類の保存は、費用として見落とされやすい費目です。紙で保管する場合は、ファイリングの作業時間と、書庫の場所代が毎月かかります。電子で保存する場合は、取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索できる状態が求められます1。紙で受け取った注文書を読み取って保存する方式では、2026年時点で解像度200dpi以上という要件が置かれ、カラー画像の場合は赤・緑・青それぞれ256階調以上が求められます1。要件を満たす仕組みを持たないまま電子データを受け取ると、後から対応の費用が生じるでしょう。保存の方法は、税務調査や社内監査で注文書を探すときの時間にも直結します。
3つの層の金額が出たら、総額に対する比率を並べてください。どの層が何割を占めるかを示すと、社内での議論が具体的になります。比率は業種や取引先の数で変わりますので、他社の数値を借りずに自社の実測から出します。年に1回計算し直せば、業務の変化も数字で追えるでしょう。導入の前後で同じ形に並べれば、効果の説明もそのまま作れます。
3つの層を並べると、どこに費用が寄っているかが数字で見えてきます。直接費は件数が増えても大きく変わらず、人件費は件数にほぼ比例して増えます。手直しと保管は、注文書の様式や取引先の事情によって振れ幅が大きくなるでしょう。削減の検討は、この3つのうちどれを狙うのかを決めてから始めるほうが早道です。層ごとの金額が分かれば、投資に見合う手段も自然に絞られてきます。
| 層 | 含まれる費目 | 件数との関係 |
|---|---|---|
| 直接費 | 回線費用、用紙とトナー、複合機の保守やリース料 | 件数が増えても大きく変わらない |
| 人件費 | 受信と仕分け、内容の確認、基幹システムへの入力 | 件数にほぼ比例して増える |
| 手直しと保管 | 誤りの訂正、電話での照会、書類の保存 | 注文書の様式や取引先の事情で振れ幅が大きい |
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自社のFAX受注コストを試算する手順
試算は、受注件数の把握、処理時間の実測、時間あたり人件費への換算、繁忙期と例外処理の織り込みという4つの段取りで進めます。必要なのは特別な調査ではなく、直近3か月の受信記録と、担当者数名の実測値です。この4段階をたどると、年間の金額と1件あたりの処理コストが同時に出せます。数字が自社の実測から出ているため、稟議の場で根拠を問われても答えられるでしょう。外部の平均値を借りるより、説得力のある資料になります。
受注件数の把握は、複合機の受信履歴と、基幹システムの受注登録件数という2つの記録から数えます。受信枚数と受注件数は一致せず、1件の注文が複数枚にわたる取引先もあります。まず直近3か月の月別件数を出し、平均と最大月を押さえましょう。同時に、取引先別の件数を上位から並べておくと、後の絞り込みに使えます。上位数社に件数が偏っていれば、その取引先から手を打つ判断ができます。
処理時間の実測では、受信から登録完了までを工程ごとにストップウォッチで測ります。測る工程は、仕分け、内容の確認、入力、確認後の修正の4つに分けます。1人あたり20件を目安に測れば、工程ごとの中央値が見えてくるでしょう。記憶や感覚で答えた時間は実測値と食い違いますので、計測した値を使ってください。例外処理の多い取引先と、定型の取引先を分けて測ると、後の織り込みが楽になります。
実測の記録は、担当者名ではなく工程名で残してください。個人の速さを評価する場と受け取られると、正確な数字が集まりません。測る目的は業務の費用を知ることであり、担当者の能力を測ることではないと先に伝えます。協力が得られれば、例外処理の実情まで教えてもらえるでしょう。ここで集めた情報は、後の手段選びでそのまま使えます。
時間あたり人件費への換算では、給与だけでなく法定福利費と賞与を含めた総額を使います。年間の人件費総額を、年間の実働時間で割ると時間単価が出ます。自社の数字が取り出しにくい場合は、賃金の公的統計にある所定内給与額を手掛かりにできます4。2026年に公表された令和7年の同調査は、常用労働者10人以上の民営事業所を対象に、毎年6月分の賃金を調べたものです4。その統計は職種や企業規模、雇用形態で数値が分かれますので、自社に近い区分を選んでください4。企業規模は1,000人以上、100〜999人、10〜99人という3区分で集計され、雇用形態も一般労働者と短時間労働者の2区分に分かれます4。他社の平均値をそのまま当てはめると、試算が自社の実態から離れていきます。
4つの段取りをつなぐと、計算は1本の式にまとまります。仮に1日の受注が30件、1件あたりの処理時間が4分、時間単価が2,000円だとします。1日の処理時間は120分で、金額に直すと4,000円になります。月の営業日を20日とすれば月に8万円、年間では96万円という並びです。この30件と4分と2,000円を自社の実測値に入れ替えれば、そのまま稟議の数字になります。
繁忙期と例外処理の織り込みは、平常月の数字だけで終わらせないための工程です。月末や季節の山では件数が増え、残業単価で処理する時間も生まれます。例外処理の多い注文は、定型の注文より処理時間が長くなるでしょう。平常月の金額に、繁忙月の増分と例外処理の増分を別立てで足してください。2つを分けておくと、どちらの削減が効くかを後から検討できます。
費用が膨らみやすい業務の型
費用が膨らむのは、注文書の様式が取引先ごとに異なる場合、電話での確認や訂正が積み重なる場合、保存と検索の要件を満たせていない場合の3つです。いずれも件数そのものではなく、1件あたりの処理時間を押し上げます。同じ受注件数でも、この3つに当てはまる企業の費用は目に見えて大きくなるでしょう。自社がどの型に近いかを見極めると、手を打つ順番が決まります。型を外したまま仕組みだけ導入しても、削減幅は限られます。
注文書の様式が取引先ごとに違うと、担当者は毎回どこに何が書かれているかを探すところから始めます。品番の位置、数量の単位、納期の書き方という3か所が一致していないためです。取引先が増えるほど、様式の組み合わせも増えていきます。新任の担当者が独り立ちするまでの期間も長くなり、教育の費用が上乗せされるでしょう。特定の担当者しか読めない注文書が残ると、休暇や退職のたびに業務が止まります。
電話での確認や訂正は、費用として集計されにくい割に時間を奪います。手書きの数量が判読できない、単価が空欄になっている、納期の記載がないといった理由で発生します。1件の照会に5分かかり、それが1日10件あれば、50分が確認に消える計算です。相手先の担当者を捕まえられなければ、その日のうちに登録が終わりません。出荷の締め時刻に間に合わず、翌日出荷へずれると、輸送の手配もやり直しになります。
保存と検索の要件を満たせていない場合も、後から費用が発生します。電子でやり取りした注文データは、取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索できる状態が求められます1。紙に印刷して綴じるだけでは、この要件を満たしません1。紙で受け取った注文書を読み取って保存する方式では、2026年時点で、速やかに入力する場合はおおむね7営業日以内、業務処理サイクルに合わせる場合でも最長2か月とおおむね7営業日以内という入力期間の定めが置かれています*1。要件に沿った運用へ切り替える時点で、過去分の整理という追加の作業が生まれます。日々の受注業務とは別に人手が必要になり、その分が費用として跳ね返るでしょう。
3つの型は単独では現れず、重なって現れることがほとんどです。様式が取引先ごとに違えば判読の照会が増え、照会が増えれば記録の残し方もそろわなくなります。1つの型に手を打つと、隣の型の負担も同時に軽くなる関わり合いがあります。逆に、1つを放置したままでは、別の対策の効果も削られていくでしょう。順番を決めるときは、この関わり合いを踏まえてください。
これら3つの型が重なると、失敗したときの影響も大きくなります。数量の桁を1つ読み違えれば、過剰な在庫か、欠品による出荷遅延のどちらかが起こります。返品や再出荷の輸送費に加え、取引先との信用の回復にも時間がかかるでしょう。注文書が見つからなければ、原則7年間の保存が求められる取引書類の裏付けを税務調査の場で示せません*1。削減の検討では、こうした失敗の費用も同じ表に並べておいてください。
型を見極める作業自体は、特別な道具を必要としません。直近1か月の注文書を並べ、様式の種類と、照会が発生した件数を数えるだけです。照会の理由を3つほどに分類しておくと、どの手段が効くかを見分けやすくなります。様式の種類が取引先の数に近いなら、読み取りの自動化より発注側での入力に寄せる判断もあり得るでしょう。数え方が決まれば、次の選択肢の比較にそのまま持ち込めます。

FAX受注の費用を下げる選択肢の比較
FAX受注の費用を下げる手段は、受信のクラウド化、読み取りの自動化、発注側による入力の3つに大別できます。受信のクラウド化は紙とトナーを減らし、読み取りの自動化は入力の時間を減らします。発注側による入力は、そもそも受注側の入力作業をなくす方向の手段です。下がる費用と残る費用が手段ごとに違いますので、自社の内訳と突き合わせて選びます。3つは排他ではなく、取引先を分けて併用する進め方も取れるでしょう。
受信のクラウド化は、FAXを紙に出さず、データとして受け取る仕組みです。用紙とトナー、複合機の保守にかかる費用が下がり、書類の保存も電子で完結します。内容の確認と基幹システムへの入力は、人の作業として残るでしょう。費用の内訳で人件費の比率が高い企業では、削減幅が想定より小さくとどまります。既存のFAX番号を引き継げるかどうかは、見積もりの前に確認しておく項目です。
読み取りの自動化は、注文書の画像から品番や数量を文字として取り出す仕組みです。様式が固定された印字の注文書では、入力の時間を大きく縮められます。手書きの文字、かすれた印字、罫線のずれた注文書という3種類では、読み取りの結果を人が確かめる工程が残るでしょう。読み取りの精度がどれだけ高くても、確認の担当者を置かない運用は避けてください。向く注文書と向かない注文書を先に仕分け、対象を限って導入するほうが費用対効果は読みやすくなります。
発注側による入力は、取引先に受発注の画面へ直接入力してもらう方式です。受注側の入力作業と読み取りの確認がまとめて消えますので、削減幅は大きくなります。その代わり、取引先への案内と操作の説明という費用が新たに生まれるでしょう。業界では、企業間の受発注データを共通の形式でやり取りする仕様の策定と普及が進められています5。この流通ビジネスメッセージ標準はVer.1.0が2007年に公開され、2026年時点も発注、出荷、受領、請求といった業務のメッセージをXML形式で定義しています5。標準の通信手順としてはJX手順とebXML MSの2種類が用意されており、取引先の環境に合わせて選べます5。共通仕様に沿った接続なら、取引先ごとに個別の取り決めを重ねる手間を抑えられます5。
3つの手段を比べるときは、下がる費用だけでなく残る費用も並べてください。どの手段でも、内容の確認と例外への対応は完全にはなくなりません。取引先の事情でFAXを続ける相手が残れば、2重の運用を抱えることになります。件数の多い取引先から順に切り替え、残りはFAXの受信を電子化して受け止める組み合わせが現実的でしょう。切り替えの順番を決める段階で、取引先別の件数が効いてきます。
仕組みの選定と接続を自社だけで進める場合、必要な知識は1つの部署に収まりません。基幹システムの受注テーブルの仕様、文字コードや品番の対応付け、保存要件の解釈、取引先との調整という4つが同時に発生します。担当者が本来の受注業務と兼任すれば、繁忙期に手が止まるでしょう。外部の支援を使う判断は、作業を任せきるためではなく、想定漏れによる手戻りを減らすためのものです。見積もりの段階で、どこまでを自社が担うのかを線引きしておいてください。
| 手段 | 下がる費用 | 残る費用 |
|---|---|---|
| 受信のクラウド化 | 用紙とトナー、複合機の保守 | 内容の確認と基幹システムへの入力 |
| 読み取りの自動化 | 注文書の入力の時間 | 読み取りの結果を人が確かめる工程 |
| 発注側による入力 | 受注側の入力作業と読み取りの確認 | 取引先への案内と操作の説明 |
導入費用を抑える制度と社内の準備
導入の費用を抑えるには、対象経費の確認、保存要件への対応、取引先への案内、併用の段取りの4つを順に進めます。国の補助制度には、業務のデジタル化に使うソフトウェアやクラウドの利用料を対象にする枠があります6。2026年度に実施されている中小企業デジタル化・AI導入支援事業では、通常枠を含む複数の申請枠が設けられ、枠ごとに対象と条件が分かれています6。補助率や上限額、クラウド利用料を何年分まで見るかは、年度と公募回ごとに定められます*6。金額を稟議に書く前に、その時点の公募要領で条件を確かめてください。制度の活用と社内の準備は同時に走らせるほうが、着手までの期間を短くできます。
対象経費の確認では、何が補助の対象で何が対象外かを先に切り分けます。2026年度の通常枠では、ソフトウェアの購入費や利用料、導入時の設定や研修にかかる費用が対象として挙げられています*6。複合機の買い替えのような汎用の機器は、対象になりにくい費目でしょう。対象外の費目を見積もりに混ぜたまま申請すると、採択後の精算で差し戻されます。見積書は、対象と対象外の2つを分けた形で出してもらうと後の作業が楽になります。
補助制度には公募の回ごとに採択の枠があり、申請がそのまま採択につながるわけではありません6。2026年度の公募でも、交付決定の前に発注した費用は対象外となる扱いが示されていますので、導入の時期を工程表に落とすときは注意が要ります6。補助が得られなかった場合でも進めるのか、その判断も先に決めておくと計画が止まりません。制度を前提にした計画は、採択の可否で計画ごと崩れることがあります。自己資金だけで回収できる範囲を、あらかじめ押さえておきましょう。
保存要件への対応は、制度の申請とは別に進めておく準備です。電子でやり取りした注文データは、取引年月日、取引金額、取引先の3項目で検索できる状態を保ちます1。2026年時点では、判定期間の売上高が5,000万円以下である場合など、一定の条件に当てはまる事業者について検索要件が不要となる取扱いも置かれています1。紙で受け取った注文書を読み取って保存する場合は、入力の期限や記録の残し方に別の定めがあります1。あわせて、優良な電子帳簿の要件を満たして届け出た場合には過少申告加算税が5%軽減される措置も2026年時点で設けられており、対応の順序を考える材料になります1。導入する仕組みがこれらの要件をどこまで満たすかは、見積もりの前に確認する項目です。後から要件に合わせる改修は、最初から組み込むより費用がかさみます。
取引先への案内は、費用の見積もりに入れ忘れやすい作業です。案内文の作成、担当者への説明、操作の手引きの用意という3つに人の時間がかかります。発注側にも作業の変更をお願いする以上、切り替えの利点を相手の言葉で伝える必要があります。納期の連絡が早くなる、注文の控えが手元に残るといった点は、発注側にも効くでしょう。一斉の案内ではなく、件数の多い取引先から個別に相談する進め方が通りやすくなります。
併用の段取りは、FAXを続ける取引先を残したまま移行を進めるための準備です。移行の期限を切らずに始めると、2つの受け口を長く抱えることになります。切り替え済みと未切り替えの件数を月ごとに数え、進み具合を見える形にしてください。担当者の配置は、入力の時間が減った分を確認と取引先対応へ振り向ける形が現実的でしょう。人を減らすための移行ではなく、負担の偏りを直すための移行だと社内で共有しておくと、協力を得やすくなります。

費用対効果を判断する指標と進め方
費用対効果の判断に使う指標は、投資の回収期間と、1件あたりの処理コストの2つで足ります。初期費用と月額の合計を、削減できる月あたりの人件費で割ると、回収までの月数が出ます。回収期間が社内の投資判断の基準に収まるかを見て、収まらなければ対象を絞り直します。進め方は、対象を絞って始め、効果を測ってから範囲を広げる順序が安全でしょう。最初から全取引先を対象にすると、想定と違ったときの引き返しが難しくなります。
回収期間の計算は単純で、仮に初期費用が60万円、月額が2万円、削減できる人件費が月8万円だとします。月の差額は6万円ですから、初期費用を割ると10か月で回収する計算になります。この60万円と2万円と8万円を、自社の見積もりと試算に入れ替えてください。削減できる人件費は、先に出した1件あたりの処理コストと件数から導きます。回収後は、月々の差額がそのまま効果として残る形になるでしょう。
もう1つの指標は、導入後の1件あたりの処理コストです。導入前の値と並べると効果が金額と時間の両方で示せ、件数が増減しても比較できます。3か月ごとの四半期単位で測り直し、下がり止まったらその時点で次の手を検討しましょう。測る手順は導入前と同じにそろえ、工程の区切りを変えないでください。区切りが変われば、前後の数字を並べても比べたことになりません。
対象を絞って始める場合の基準は件数と様式の2つで、件数が多く様式が固定された取引先から始めると効果が早く出ます。最初の対象は、1つの部署と数社の取引先にとどめてください。小規模での運用で工程の詰まりを洗い出し、手順書を直してから範囲を広げます。広げる判断は、1件あたりの処理コストが想定どおり下がったことを確かめてから下します。順序を守れば、想定が外れても影響は最初の範囲にとどまるでしょう。
見積もりを取る際は、初期費用と月額のほかに確認しておく項目があります。基幹システムとの連携方式、既存のFAX番号の引き継ぎ、保存要件への適合、支援の範囲と期間の4点です。連携方式が決まらないまま契約すると、追加の開発費が後から乗ります。社内だけで進めるなら、受注業務の知識、基幹システムの仕様、税務の保存要件、取引先との調整という4つの領域を担う人手が要るでしょう。兼任で回す場合は、繁忙期に工程が止まる前提で日程を組んでください。
費用対効果の判断は、外部の平均値ではなく自社の実測値から始まります。1件あたりの処理コストを出し、手段ごとの下がる費用と残る費用を並べ、回収期間で線を引きます。国内企業のIT投資の動向を追った調査でも、業務の進め方の見直しは継続的な課題として挙げられています7。この調査は1年ごとに実施され、2026年に公表された版まで同じ枠組みで結果が積み重ねられていますので、自社の変化を年次で照らし合わせられます7。同じ判断を毎年繰り返せるように、試算の手順を文書として残しておいてください。手順が残れば、担当者が替わっても同じ物差しで比べられます。
よくある質問
既存のFAX番号や複合機は、そのまま使えますか。
番号を引き継げるかどうかは、契約している回線の種類と切り替え先の仕組みによって変わります。引き継げない場合は、取引先へ新しい番号を案内する作業と、旧番号を並行して受け続ける期間が必要になります。複合機は紙で出す用途が残る間は使い続けられますので、見積もりの前に引き継ぎの可否を確かめてください。
取引先がFAXをやめられない場合は、どう進めればよいですか。
受注側だけで完結する手段から始める進め方が現実的です。受信を電子化して紙の出力と保管をなくし、読み取りの自動化で入力の時間を縮めれば、取引先の運用を変えずに費用を下げられます。そのうえで、件数の多い取引先から個別に相談し、切り替えられる相手だけを段階的に移していく形になるでしょう。
補助制度を使う場合、申請から導入までにどのような順序を守る必要がありますか。
公募要領の確認、対象経費の切り分け、申請、交付決定、発注という順序です*6。交付決定の前に発注した費用は対象外となる扱いが示されていますので、導入の時期を工程表へ落とすときは注意が要ります。補助率や上限額、クラウド利用料の対象年数は年度と公募回ごとに定められますから、その時点の公募要領で確かめてください*6。
読み取りの自動化を入れれば、確認の担当者は不要になりますか。
確認の工程は残ります。手書きの数量やかすれた印字、罫線のずれた注文書では読み取りの結果が揺れますので、人が突き合わせる手順を前提に設計してください。担当者の役割は、全件の入力から、読み取り結果の確認と例外への対応へ移っていきます。削減できる時間を見積もるときも、この確認の時間を差し引いて計算します。
紙で受け取った注文書は、いつまで保管する必要がありますか。
取引書類は税法上、原則として七年間の保存が求められます*1。読み取って電子で保存する方法を選ぶ場合は、入力の期限や記録の残し方に定めがありますので、要件を満たす運用かどうかを確かめてください*1。紙のまま保管するなら、書庫の場所代とファイリングの時間も費用として数えておく必要があります。
- *1 出典:国税庁「電子帳簿保存法関係(特設ページ・制度の概要とスキャナ保存等の区分)」(2026) 経路
- *2 出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2026」(2026) 経路
- *3 出典:総務省 情報流通行政局「令和7年 通信利用動向調査報告書(企業編)」(2026) 経路
- *4 出典:厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査 結果の概況」(2026) 経路
- *5 出典:一般財団法人流通システム開発センター「流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)」(2026) 経路
- *6 出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構「中小企業デジタル化・AI導入支援事業(デジタル化・AI導入補助金2026)通常枠」(2026) 経路
- *7 出典:一般社団法人日本情報システム・ユーザー協会「企業IT動向調査報告書2026」(2026) 経路
画像の出典元
- A cashier uses a touchscreen system for taking orders in a r/Photo by iMin Technology on Pexels
- A row of individuals dressed in white suits and sneakers standing in alignment indoors, casting shadows./Photo by cottonbro studio on Pexels
- A diverse group of people standing in line indoors, wearing white outfits, with a focus on unity and harmony./Photo by cottonbro studio on Pexels
- A group of diverse individuals in white outfits standing seriously in a brick-walled warehouse./Photo by cottonbro studio on Pexels