◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 食材トラブルの責任は、まず取引基本契約・発注書・約款の合意で決まり、定めのない部分を民法・商法が補う
- 発注書どおりに届いた誤発注の取消しや返品は、契約の定めと仕入先との合意次第になる
- 品質不良や納期遅れでは、受け取り時の検品と仕入先への連絡を記録で示せるかが権利の行使を支える
- 未加工の農林畜水産物は製造物責任法の対象外で、加工食品では製造業者・輸入業者・表示製造業者が責任を負う側になる
- 令和8年1月1日以降の発注に適用される取適法では、食材に関わる委託で自社が委託する側にも守られる側にもなりうる
目次

食材発注のトラブルで、発注側に生じる損失と責任の入口
発注担当者が数量の単位を取り違えた、仕入先の納品が遅れて仕込みが間に合わなかった、届いた食材が原因で客から苦情が出た。
こうした場面で損失をどちらがどこまで負うかは、まず取引基本契約や発注書で何を約束していたかで決まります。
約束していない部分は、民法・商法などの法律が補います。
生鮮食材のような未加工の農水産物は、製造物責任法の対象外です1。
発注側が事前に整えられるのは、契約条項、発注と検品の記録、保険の補償範囲の三つです。
この三つが、トラブル後の話し合いの結論を左右します。
発注・納品・検品・提供のどこで起きるか
結果が同じ「使えない食材」でも、どの行為の段階で起きたかによって、話し合う相手と根拠が変わります。
発注は発注側が行います。
納品は仕入先とその配送が担い、検品は再び発注側が行い、提供は発注側が客に対して行います。
責任の話は、この四つの行為のどこでつまずいたのかを切り分けるところから始まります。
たとえば、飲食店の発注担当者が、翌日の宴会に向けて青果卸へ野菜を発注する場面を考えてみます。
担当者がケース単位と個単位を取り違えて入力したなら、問題は発注の段階にあります。
担当者の発注は正しかったのに卸が別の規格の品を積んでいたなら、納品の段階の問題です。
届いた箱の底の傷みを店のスタッフが見落としたまま冷蔵庫に入れたなら、納品の不良に検品の見落としが重なります。
その野菜を使った料理で客から苦情が出たなら、提供の段階で表に出た問題について、さかのぼって原因を探すことになります。
最後の例のように、一つのトラブルが複数の段階にまたがることもあります。
仕入先の不良が原因でも、受け取った側の確認の仕方が後から問われることがあり、どちらがどれだけ負うかは事情によって変わります。
その割合を一般論で決めることはできません。
ただ、どの段階で何が起きたかを記録で示せるかどうかで、話し合いの出発点は大きく変わります。
発注側に残る負担の種類
トラブルが起きたとき、発注側の手元に残る負担はおおむね次のように分かれます。
- 使えない食材や余った食材の代金と、廃棄の手間
- 代わりの食材を急いで調達するための追加の費用
- 品切れや献立変更で失う売上
- 客への返金・治療費などの賠償と、その対応にかかる手間
- 営業の停止や評判の低下による損失
これらの負担を仕入先に求められるかどうかは、原因がどちらの側にあったかで分かれます。
先ほどの例で、担当者の入力ミスによって多く届いた野菜は、発注書の記載どおりに納品されています。
そのため仕入先が約束を破ったとは言いにくく、余った分の負担は発注側に残りやすくなります。
反対に、正しく発注したのに規格違いの品が届いたのであれば、仕入先に対応を求める余地が生まれます。
どこまで求められるのか、営業上の損失まで含められるのかは、契約で何を決めていたかと、法律がそれをどう補うかで決まります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 発注(発注側)
- 数量・単位の取り違え
- 品目・納品日の誤り
- 納品(仕入先・配送)
- 納期遅れ・欠品
- 規格違い・傷み
- 検品(発注側)
- 不良の見落とし
- 仕入先への連絡の遅れ
- 提供(発注側から客へ)
- 食中毒・アレルギー事故
- 客からの苦情
責任は契約の合意と法律のどちらで決まるのか
契約・発注書・約款の合意が先に働く
企業間の食材取引では、次のような書面や記録が合意の中身を形づくります。
取引基本契約書、個別の発注書と注文請書、仕入先が示す取引約款や取引条件書、そして電話・FAX・受発注システムでのやり取りです。
トラブルが起きたときに最初に確かめるのは、法律の条文ではなく、これらに何が書かれているかです。
キャンセルの期限、返品を受け付ける条件、検品と連絡の方法、賠償の範囲や上限、天候不良などで責任を負わない場合の定めがあれば、原則としてそれに沿って処理されます。
難しいのは、取引基本契約を交わさないまま、電話やFAXで発注を重ねてきた取引です。
この場合、合意の中身は、これまでの取引の積み重ね、納品書や請求書の記載、仕入先から最初に渡された取引条件の書面などから読み取ることになります。
何が約束だったのかを後から示す材料が少ないため、トラブルのたびに双方の記憶がぶつかりやすくなります。
なお、合意で決めたことがすべてそのまま通るわけではありません。
取引の内容や当事者の規模によっては、取適法のように、発注する側が取ってはならない行為を定める法律が関わってきます。
この点は、後の節で発注側の立場から整理します。
民法の契約不適合と商法の検査・通知
契約や発注書で決めていない部分は、民法と商法が補います。
民法では、引き渡された物が種類・品質・数量について契約の内容に合っていないことを「契約不適合」と呼びます。
この場合、買い手は、代わりの品や不足分の納品(追完)、代金の減額、損害賠償、契約の解除を求められる仕組みになっています。
規格違いの野菜や数量の不足は、この枠組みで考えることになります。
ここで発注側が見落としやすいのは、買い手の側にも果たすべき行動があることです。
民法には、不適合を知ってから仕入先に知らせるまでの期限に関する定めがあります。
事業者どうしの売買については、商法に、受け取った物を検査し、不適合を見つけたら通知することに関する規定があります。
期間の長さや起点、受け取った時点では見つけにくい不適合の扱いは、条文と契約の定めをあわせて確かめる必要があります。
取引基本契約に検品期間や通知方法の条項があれば、まずそれが基準になります。
生鮮食材でこの点が重くなるのは、時間がたつほど不適合を示すことが難しくなるからです。
傷んだ葉物を使い切ったり廃棄したりした後では、届いた時点で傷んでいたのか、店で保管するうちに傷んだのかを説明できません。
受け取った時点の状態を写真や温度の記録で残し、仕入先への連絡を日時の分かる形で行っておく。
それが、法律や契約が求める検査と通知を果たしたと示す材料になります。
▼ 図の内容を文字で読む
- 先に働く契約の合意
- 取引基本契約書
- 発注書と注文請書
- 取引約款・取引条件書
- 電話・FAX・受発注システムのやり取り
- 定めのない部分を補う法律
- 民法の契約不適合(追完・代金の減額・損害賠償・解除)
- 商法の検査と通知
- 合意に制限をかける法律
- 取適法(発注する側が取ってはならない行為)
仕入先の納期遅れ・品質不良、自社の誤発注はどう負担されやすいか
誤発注
自社の誤発注は、発注書の記載どおりに納品されている限り、仕入先は約束を守ったことになります。
そのため、発注側がキャンセルや返品を求めても、仕入先に応じる義務があるかは、契約や取引条件にキャンセル・返品の定めがあるかで決まります。
定めがなければ、応じるかどうかは仕入先の判断に委ねられることになります。
生鮮食材では、この話し合いが特に難しくなります。
仕入先がすでに市場で買い付けたり、カットなどの加工を済ませたり、配送の手配をしたりしていれば、取り消された品を他へ回すのは容易ではありません。
そこで、すでにかかった費用をどちらが負うかが論点になります。
受付の締め時間より前の取り消しは無償、締め時間の後は実費を負担するといった区分を契約で決めておけば、その都度の交渉は要らなくなります。
誤発注かどうか自体が争いになることもあります。
担当者は正しい数量を電話で伝えたつもりでも、仕入先の受注担当が聞き違えて入力していれば、原因は仕入先の側にあります。
電話での発注は、どちらが間違えたのかを後から確かめる材料が残りにくい方法です。
発注書や受発注システムの履歴、仕入先からの注文請書などの記録が、負担の行き先を分けます。
納期遅れ・欠品
約束した日時に食材が届かない、あるいは数量が足りないのは、仕入先が約束を果たしていない状態です。
発注側は、不足分の納品や、遅れによって生じた損害の賠償を求める立場になります。
話し合いの対象になりやすいのは、近くの店で代わりの食材を買った追加の費用のように、遅れとの結びつきが分かりやすい損害です。
一方、仕込みが間に合わずに宴会の予約を断った分の売上まで請求できるかは、一律には言えません。
遅れとその損失がどこまで結びついているか、仕入先がその事情を知りえたかなどで判断が変わるからです。
契約に賠償額の上限や、天候不良・不漁など仕入先の責めによらない事情による欠品を免責する条項があれば、その範囲も影響します。
発注側に残しておきたいのは、遅れや欠品の連絡をいつ誰から受けたか、代わりの調達にいくら払ったか、その結果どの献立や予約を変えたかという流れの記録です。
損害を請求する場面でも、請求はせずに次回の取引条件を見直す場面でも、この記録がなければ損失の大きさを説明できません。
品質不良・表示の誤り
傷み、規格違い、異物の混入、温度管理の不備による品質低下は、契約の内容に合わない物が届いた状態として扱われます。
このとき分かれ目になるのは、検品の時点で見つけられる不良か、使ってみるまで分からない不良かです。
外見で分かる傷みは、受け取り時の確認で見つけられたはずだと言われやすくなります。
箱の中心部の腐敗や味の異常のように受け取り時には分かりにくいものは、見つけた時点ですぐに連絡したかどうかが問われます。
アレルゲンや産地などの表示の誤りも不適合の問題ですが、提供した後に客の健康被害として表に出うる点で重さが違います。
仕入先が原材料や規格を変えたのに、店のメニュー表示や給食の献立表に反映されなかった場合、客と向き合うのは提供した側です。
この場面は、次に見る提供後の事故の問題につながっていきます。
| 状況 | 契約で見る条項 | 発注側が示す記録 | 話し合いの焦点 |
|---|---|---|---|
| 自社の誤発注 | キャンセル期限と費用負担・返品条件 | 発注書・システム履歴・注文請書 | 仕入先がすでに負った費用の分け方 |
| 納期遅れ・欠品 | 納期・賠償の範囲や上限・免責 | 遅れの連絡時刻・代替調達の費用 | 営業上の損失まで結びつくか |
| 品質不良・表示の誤り | 検品期間と通知方法・不適合時の対応 | 受け取り時の写真や温度・連絡の日時 | 検品で見つけられた不良かどうか |
▼ 図の内容を文字で読む
- 自社の誤発注
- 発注書どおりの納品なら仕入先は約束を守った
- キャンセル・返品は契約の定め次第
- 仕入先がすでに負った費用の分け方
- 納期遅れ・欠品
- 代わりの食材の追加費用は結びつきが分かりやすい
- 営業上の損失まで求められるかは一律には言えない
- 賠償の上限・免責の条項が影響する
- 品質不良・表示の誤り
- 検品で見つけられた不良かどうか
- 使うまで分からない不良は見つけてすぐ連絡したか
- 表示の誤りは提供後の客の健康被害につながる
提供後に食中毒・アレルギー事故が起きたとき、飲食店と仕入先の責任はどう分かれるか
製造物責任法の対象と対象外
提供後に客が体調を崩したり、アレルギー症状が出たりしたとき、仕入先にも責任を求められるか。
それを考える手がかりの一つが製造物責任法(PL法)で、製造物の欠陥によって損害が生じた場合の、製造業者等の賠償責任を定めています。
同法の対象となる製造物は製造または加工された動産で、未加工の農林畜水産物は対象外です1。
このため、収穫したままの野菜や水揚げしたままの魚を納める仕入先には、同法が直接及ばない場合があります。
加工された食品であれば、業として製造・加工・輸入した者や、製造業者として氏名などを表示した者が責任を負う側になります1。
仕入れたものを売るだけの販売業者は原則として対象外ですが、輸入業者や表示製造業者に当たる場合は対象になります1。
どこからが「加工」に当たるかは品目と工程によって判断が分かれうるため、カット野菜や下処理済みの魚などは、具体的な工程に照らして考える必要があります。
同法に基づく損害賠償の請求には期間の制限があります。
損害と賠償義務者を知った時から3年、製造業者等が製品を引き渡した時から10年で時効となり、生命・身体の侵害などには特則があります1。
仕入先に責任を求める可能性があるなら、事故のあとで原因の食材の品名・ロット・納品日を特定できなければなりません。
納品書や表示ラベルを残しておくことが、この期間内に動くための前提になります。
生鮮食材のように同法が及ばない場合、仕入先との責任の分け方は、契約上の責任と、どちらにどのような落ち度があったか、その落ち度と事故がどう結びつくかで争われることになります。
店の保管や調理の過程、仕入先の取り扱いのどちらにも原因の可能性があるため、負担の割合をあらかじめ決めることはできません。
食品衛生法上の飲食店の衛生管理と仕入先の選び方
事故の原因が仕入れた食材にあったとしても、客に料理を出したのは飲食店や給食の運営者です。
客への説明や保健所の調査に最初に向き合うのも提供した側であり、仕入先との責任の分け方はその後の話になります。
店側にとっては、仕入先にどう求償するかより先に、自社が衛生管理として何をしていたかを示せるかが問われます。
自社の衛生管理の計画に、受け入れ時に温度・外観・表示・期限のどれを確かめるかが書かれていれば、その確認の記録が店側の取り組みを示す材料になります。
計画に書かれた確認が実際には行われていなかったなら、そのこと自体が店側の落ち度として見られるおそれもあります。
仕入先の選び方も同じです。
規格書を出してもらえるか、原材料や産地を変えたときに連絡が来るか、温度管理された配送かといった点を選んだ理由として説明できれば、事故の後に「なぜこの仕入先から買っていたのか」という問いに答えられます。
アレルギー事故では、仕入先の原材料変更と店の表示とのずれが一つの入口になります。
加工食品の原材料が変わっても、店のメニューや献立表のアレルゲン表示が古いままなら、客は誤った情報で料理を選ぶことになります。
規格書の変更をいつ受け取り、いつ表示に反映したかを残しておけば、変更の連絡がなかったのか、受け取ったのに反映しなかったのかを区別できます。
その区別が、仕入先と店のどちらの過程に問題があったかを話し合う材料になります。
| 仕入先の立場 | 製造物責任法の扱い | 発注側が残しておく情報(提案) |
|---|---|---|
| 未加工の農林畜水産物を納める | 対象外 | 産地や納品時の状態の記録 |
| 加工食品を製造・加工して納める | 製造業者として対象 | 品名・ロット・規格書 |
| 加工食品を輸入して納める | 輸入業者として対象 | 輸入者の表示・ロット |
| 製造業者として自社名を表示した商品を納める | 表示製造業者として対象 | 表示ラベル・ロット |
| 仕入れた加工食品を販売するだけ | 原則として対象外 | 製造業者・輸入業者の表示 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 対象外
- 未加工の農林畜水産物を納める仕入先
- 仕入れたものを売るだけの販売業者(原則)
- 対象
- 加工食品を製造・加工した業者
- 加工食品を輸入した業者
- 製造業者として氏名などを表示した者
- 判断が分かれる
- カット野菜や下処理済みの魚など、加工に当たるかは具体的な工程で考える
仕入先との取引で、発注側が守る側にも守られる側にもなる法律上の注意点
取適法の対象になる取引とならない取引
仕入先との関係では、発注側が損失を負う側としてだけでなく、法律に守られた相手に対して義務を負う側になる場面があります。
その一つが、下請代金支払遅延等防止法(下請法)を改めた中小受託取引適正化法(取適法)で、令和8年1月1日に施行されました2。
この改正で、適用の基準に従業員基準が加わり、対象取引に特定運送委託が加わったほか、協議に応じない一方的な代金決定や手形払等が禁止されました2。
適用されるのは、令和8年1月1日以降に発注した取引です3。
食材の発注で取適法が関わりうるのは、発注側が他の事業者に物の製造などを委託する場面です。
たとえば、小売店や給食事業者が、味付けや規格を指定して惣菜や加工食品を作らせる取引は、製造の委託として対象になりうる取引です。
一方、卸や市場から既製の食材を買うだけの取引がどこまで対象になるかは、仕様の指定の有無など取引の中身によって判断が分かれます。
一律に対象外と決めつけず、公正取引委員会の資料や専門家の助言で確かめておくと安全です。
規模の要件も変わりました。
資本金の基準が当てはまらない場合には従業員の基準が使われ、従業員数は製造委託等をした時点で、賃金台帳に記載された従業員(派遣社員を除く)で数えます3。
資本金は小さくても従業員の多い飲食チェーンや給食会社が委託する側に当たる、取引先の惣菜メーカーが守られる側に当たる、といった組み合わせが生じえます。
以前に下請法の対象外と判断した取引も、委託をする時点の人数で見直す意味があります。
委託事業者側になるときの注意
自社が委託する側に当たる取引では、代金の決め方と支払い方に注意が要ります。
原材料の値上がりなどを理由に委託先から価格の見直しを求められたとき、協議に応じないまま自社の側で代金を決めることは禁止されました2。
支払いを手形などで行うことも禁止されています2。
前の節までで見てきた揉め事も、この取引では別の意味を持ちます。
自社の誤発注で余った惣菜を受け取らずに返す、品質への不満を理由に代金を差し引くといった対応は、通常の売買なら話し合いの範囲に収まることもあります。
しかし取適法の対象となる委託では、委託事業者がしてはならない行為との関係が問題になりえます。
どの対応が許されないかの細部は委託の内容によって変わるため、公正取引委員会の資料で確かめたうえで、契約にキャンセルや不良品の扱いを定めておくことが、委託先との対立を減らす手立てになります。
反対に、自社が惣菜や加工品を作って納める側で、取引先から仕様を指定されて製造を委託されているなら、自社は取適法で守られる側になりえます。
一方的な代金の決定や手形での支払いを求められたときは、自社と取引先の規模が適用の基準に当たるかを確かめる意味があります。
揉めないために契約条項と社内手順で決めておくこと
契約条項で決める項目
ここまでの場面に共通するのは、起きた後で「何を約束していたか」を示せないと、話し合いが記憶のぶつけ合いになるという点です。
取引基本契約や取引条件書で次の項目を決めておくと、場面ごとに立ち返る基準ができます。
- 発注の締め時間と、締め時間の前後でのキャンセルの扱いと費用の負担
- 数量の単位(ケース・個・重量)と、正式な発注として扱う方法(書面・FAX・受発注システムなど)
- 検品を行う期間と、不適合を見つけたときの連絡先・連絡方法
- 不適合があったときの対応(代わりの品の納品・返品・代金の減額)の選び方
- 賠償の範囲と上限、天候不良・不漁などで責任を負わない場合
- 原材料・産地・規格を変えるときの事前連絡と規格書の提出
- 発注・納品・検品の記録を、どちらがどれだけの期間保存するか
それぞれの項目は、前の節で見たトラブルに対応しています。
締め時間とキャンセルの扱いは誤発注の負担を、数量の単位と発注方法は誤発注かどうかの争いを整理します。
検品期間と連絡方法は品質不良での権利の行使を、賠償の範囲と免責は納期遅れや欠品のときの請求の幅を、規格書の変更連絡は提供後のアレルギー事故を、それぞれ事前に整理するためのものです。
検品期間の長さや賠償の上限をどう決めるかは、扱う食材の日持ちや取引の規模によって変わるため、一般的な正解はありません。
注意したいのは、仕入先が用意した取引条件書をそのまま受け入れている場合です。
仕入先側の書式は仕入先の事情に合わせて作られているため、検品期間が短く定められていたり、賠償の範囲が狭く限られていたりすることがあります。
発注側が気づかないまま、自社の権利の幅を狭めていることもあります。
取引を始めるときや条件を見直すときに、上の項目が自社の運用で守れる内容かを照らし合わせておくと、トラブルの後で条項に驚くことが減ります。
発注・検品の社内手順と記録
契約で決めた内容も、社内の手順で実行されなければ意味を持ちません。
発注から提供までの社内の流れに次の確認と記録を組み込んでおくと、権利を失う原因と誤発注の原因の両方を減らすことにつながります。
- 発注を確定する前に、品目・単位・数量・納品日を、前回の発注や予定の献立と照らし合わせる
- 締め時間の前に発注を確定し、仕入先からの受注確認(注文請書や確認メール)を保存する
- 納品時に、数量・温度・外観・表示・期限を確かめ、気になる点は写真で残す
- 不適合を見つけたら、その場で仕入先に連絡し、連絡の日時と相手、伝えた内容を記録する
- 原材料や規格の変更連絡を受けたら、提供前にメニューや献立表の表示に反映し、反映した日を残す
それぞれの手順で減るものは異なります。
発注前の照合は、単位の取り違えや桁の誤りのような入力の誤りに気づく機会を増やしますが、照らし合わせる元の献立や予定が間違っていれば防げません。
受注確認の保存や受発注システムの履歴は、「電話でそう言った」「聞いていない」という確認のやり取りを減らし、誤発注がどちらの側で起きたかを後から示せるようにします。
納品時の写真や連絡の記録は、不良がいつからあったのかという争いに答える材料になり、事業者どうしの売買で求められる検査と通知を行ったことを示す支えになります。
記録は、残すだけでなく後から探せることが大切です。
紙の納品書に検品のメモを書き込み、写真は担当者のスマートフォンに、連絡は個人の電話に、と散らばっていると、必要になったときに一つの納品にひも付けられません。
納品書の番号や納品日を共通の手がかりにして、発注・検品・連絡の記録を同じ場所にまとめておく。
そうしておけば、提供後の事故で製造物責任法の請求期間を意識して動く場面でも、原因の食材を特定する手間が減ります。

保険でカバーされるもの・されないものの見分け方
賠償・営業損失・リコール費用の違い
契約と記録を整えても、提供後の事故の損失を自社だけで負いきれない場面はありえます。
それに備える保険を見るときに分けて考えたいのは、客など他人に対する賠償、自社が営業を止めたことによる損失、製品を回収・告知するための費用の三つです。
食品事業者向けには、提供した飲食物や製品が原因の賠償を扱う生産物賠償責任保険や、回収の費用を扱うリコール保険といった種類があります。
ただ、一つの保険でこの三つがすべて補償されるとは限らず、どれが含まれ、どれが別の契約や特約になるかは商品ごとに異なります。
約款で確認する免責と対象業種

補償の有無を見分けるときは、まず約款で、補償の対象が賠償・営業損失・回収費用のどれかを確かめます。
次に、免責金額と、補償しない場合として挙げられている事由を確かめます。
その保険が飲食店・給食・惣菜製造のどの事業内容を対象としているかも重要で、加工食品の製造者向けの商品では、飲食の提供が対象に含まれない可能性もあります。
仕入先が保険に入っているかどうかも事故の後の話し合いに影響するため、取引を始めるときに加入の有無と補償の範囲を尋ねておく選択肢があります。
発注内容や受注確認、検品の記録が電話・FAX・紙の納品書に散らばっていると、トラブルの後にどちらの側で何が起きたかを示しにくくなります。
いまの受発注の流れのどこで発注内容や受注確認が残らず、どこで記録が分断されているかを整理できます。契約条項の有効性など法的な判断は、弁護士など専門家への相談が前提です。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 責任の決まり方 | 契約・発注書・約款の合意が先で、定めがない部分を民法・商法が補う |
| 誤発注 | 発注書どおりの納品なら、キャンセル・返品は契約の定めと仕入先との合意次第 |
| 納期遅れ・品質不良 | 受け取り時の検品と仕入先への連絡を、日時の分かる形で残す |
| 提供後の事故 | 未加工の農林畜水産物は製造物責任法の対象外。加工品は製造業者・輸入業者・表示製造業者が対象 |
| 取適法 | 令和8年1月1日以降の発注に適用。資本金基準が当てはまらなければ従業員基準 |
| 保険 | 賠償・営業損失・回収費用のどれが対象か、免責と対象業種を約款で見分ける |
取引先ごとに契約条件や発注方法が違うと、社内の手順だけでは記録の残し方をそろえにくくなります。 取引先別の発注方法と記録の残り方を並べ、受発注の仕組みで共通にできる部分と、取引先ごとの合意で決める部分を切り分けられます。
よくある質問
誤発注した食材は、仕入先に返品やキャンセルを求められるのか
発注書の記載どおりに納品されていれば、仕入先は約束どおりに納めたことになるため、返品やキャンセルを当然に求められるわけではありません。
応じてもらえるかは、契約や取引条件書にキャンセル期限・返品条件の定めがあるか、仕入先がすでに買い付けや加工、配送の手配をしているかによります。
締め時間の前後での扱いと費用の負担をあらかじめ決めておくと、その都度の交渉が要らなくなります。
納品された食材に不具合があったとき、いつまでに仕入先へ連絡すればよいのか
民法には不適合を知ってから通知するまでの期限に関する定めがあり、事業者どうしの売買では商法にも受け取った物の検査と通知に関する規定があります。
具体的な期間や起点は条文と契約の定めで変わり、取引基本契約に検品期間の条項があればそれが基準になります。
生鮮食材は時間がたつほど不良の時期を示しにくくなるため、見つけたらその場で連絡し、日時と内容を残しておくことが実務上の備えになります。
生鮮食材で食中毒が起きた場合、仕入先に賠償を請求できるのか
未加工の農林畜水産物は製造物責任法の対象外のため、生鮮食材の仕入先には同法が直接及ばない場合があります1。
その場合は、契約上の責任や、仕入先と店のどちらにどのような落ち度があり、それが事故とどう結びつくかで争われることになります。
請求が認められるか、負担をどう分けるかは事情次第です。
加工食品であれば製造業者・輸入業者・表示製造業者が同法の対象となり、損害と賠償義務者を知った時から3年、引き渡しから10年という期間の制限があります1。
取適法は食材の仕入れにも関係するのか
仕様を指定して惣菜や加工食品を作らせるような製造の委託は、対象になりうる取引です。
既製の食材を買うだけの取引がどこまで当たるかは取引の中身で判断が分かれるため、一律に対象外とは考えないほうが安全です。
令和8年1月1日以降の発注に適用され、資本金基準が当てはまらない場合は、委託した時点の従業員数(賃金台帳に記載、派遣社員を除く)による基準が使われます3。
飲食店向けの保険で、食中毒の営業休止の損失は補償されるのか
保険によって異なります。
客への賠償、営業を止めたことによる損失、回収の費用は性質の違う損失で、一つの保険ですべてが補償されるとは限りません。
約款で、営業損失が補償の対象に入っているか、別の契約や特約が要るか、免責金額と補償しない事由、対象となる業種を確かめる必要があります。
発注書に免責条項がない場合、仕入先の納期遅れの損害は請求できるのか
免責の定めがないことは、請求が自動的に認められることを意味しません。
契約に定めがない部分は民法の考え方で判断され、遅れの原因が仕入先の側にあるか、天候不良などやむをえない事情だったか、遅れと損害がどこまで結びつくかが問われます。
代わりの食材を買った追加の費用のように結びつきが分かりやすい損害と、予約を断った分の売上のように判断が分かれやすい損害があります。
いずれも、連絡の時刻や支払った額の記録が請求の前提になります。
- 1 出典:消費者庁「製造物責任法の概要Q&A」(2026年確認)
- 2 出典:公正取引委員会「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(2026年)
- 3 出典:公正取引委員会「取適法施行に当たり事業者の皆様に御留意いただきたい事項」(2026年)
画像の出典元
- A couple working together to sign important legal documents at a desk in an office setting./Photo by Kindel Media on Pexels