◆監修・編集責任者
B2B EC-COLUMN
この記事のポイント
- 依頼の前に、対象の発注の種類、切り替える取引先と順番、従来手段の扱い、問い合わせ窓口の4つを自社で決めておく。
- 取引先の負担は、登録の要否、費用、受け取り方と回答の経路で変わるため、候補の製品ごとに確かめる。
- 取引先の移行は1社ずつの調整を伴うため、一部先行で始め、同時に進める社数は窓口の人数で決める。
- 一つの注文は一つの経路で送り、併用は取引先ごとに終える条件を決めて区切る。
- 断られた取引先には従来手段を残し、承諾を迫ったり費用を押しつけたりしない。法の扱いは公取委・中小企業庁の最新資料で確認する。
目次

発注アプリを取引先に依頼する前に、自社で決めておく4つのこと
電話やFAXで出していた注文を発注アプリにまとめたのに、取引先からの納期回答は電話で返ってくる。
結局、アプリと電話の両方を見ることになる。
取引先への依頼でつまずくと、このような二重運用が残ります。
取引先の負担は、登録が要るか、費用がかかるか、FAXやメールで受け取れるかで大きく変わります。
声をかける前に、対象の発注、切り替える先、従来手段の扱い、問い合わせ窓口の4つを自社で決めてください。
そのうえで取引先の状況に合わせて一部から始めるのが現実的です。
断られた先には従来手段を残し、承諾を迫ったり費用を押しつけたりしないことも欠かせません。
対象にする発注の種類を絞る
ここで挙げる4つは、取引先に声をかけたときに答えに詰まりやすい点を整理したものです。
依頼の前に片付けておくことを目的にしています。
決まった手順があるわけではありません。
ただ、どれかが決まっていないと、依頼の場で「それは追ってご連絡します」という返事が増え、取引先も判断しにくくなります。
最初に決めるのは、どの発注をアプリに移すかです。
見積依頼、注文、納期の確認は、同じ「発注業務」でも取引先側の作業が違います。
注文であれば、取引先は受け取って出荷の準備に入ります。
見積依頼であれば条件を読んで価格を返し、納期の確認であれば現場の予定を見て日付を答えます。
「発注はすべてアプリにします」と伝えると、取引先はこの3種類の作業がすべて変わると受け止めます。
その結果、影響を見積もるだけで時間がかかります。
移す対象を、品番と数量が決まっていて毎回同じ形で出す注文に絞ると、取引先にとって変わるのは受け取り方だけになりやすく、説明も短く済みます。
一方、仕様を相談しながら進める見積依頼は、文面だけでは条件を伝えきれません。
電話でのやり取りが残る場合があります。
そうした発注まで最初からアプリに載せると、情報がアプリと電話の両方に散らばり、かえって二重運用の原因になります。
あわせて、取引先からの返事をどこで受けるかも決めておきます。
注文はアプリで送るのに、受領の連絡や納期回答が電話やメールで戻ってくることがあります。
そうなると、発注担当はアプリの送信記録と電話のメモを突き合わせなければなりません。
返事の経路まで決めて初めて、アプリに集めたい情報の範囲がはっきりします。
切り替える取引先の範囲と順番
次に、どの取引先から切り替えるかを決めます。
案内を一斉に送っても、実際の切り替えは1社ごとの日程調整になる場合があります。
医薬品・健康食品の製造・販売・卸を手がけるピップグループは、約500社の小売店とEDI(企業間で受発注データを電子的にやり取りする仕組み)を使っています。
担当者によれば、その切り替えは小売店1社ずつスケジュールを合わせて進める必要があり、事前調整から利用開始まで1カ月ほどかかるとのことです2。
この例は2016年時点のものです。
ISDN(電話回線を使うデジタル通信)の終了に伴い、EDIの通信手順を変える必要があったという事情があります。
新しく発注アプリを入れる場合とは作業の中身が違うため、1カ月という期間をそのまま当てはめることはできません。
それでも、取引先ごとに受け取り方や担当者の都合が違う以上、相手に合わせて1社ずつ進める作業が生じる点は、アプリの導入でも同じだと考えられます。
そこで、最初から全取引先を対象にするかどうかではなく、「最初の数社をどこにするか」と「残りの取引先をどの順で進めるか」を決めておきます。
こうしておけば、依頼の場で開始日を具体的に示せます。
どの取引先を先にするかは、取引先の状況によって変わります。
この考え方は後の節で整理します。
従来手段(電話・FAX・メール)の扱い
二重運用を生む原因として見落としやすいのが、従来手段をいつ、どう使うかの取り決めです。
たとえば、アプリで送った注文を、念のためFAXでも送ったとします。
取引先は同じ内容の注文を2通受け取ります。
どちらが正式な注文なのか、2件分の出荷が必要なのかを確かめるため、電話をかけてくるかもしれません。
発注側にも、どちらの経路で送った注文に回答が来たのかを照らし合わせる手間が増えます。
これを避けるには、「一つの注文は一つの経路で送る」と決めておくのが分かりやすい方法です。
その取引先の切り替え日より前は従来手段、切り替え日以降はアプリと決め、同じ注文を二つの経路に流さないようにします。
移行の途中で不安があるなら、FAXを重ねて送るのはやめましょう。
アプリで送ったことを電話でひと言伝えるなど、確認の連絡を足すほうが、注文そのものの重複を防げます。
急ぎの数量変更や取消をどう扱うかも、ここで決めておきたい点です。
電話での変更を認める場合は、受けた変更を誰がアプリの記録に反映するかも決めてください。
決めておかないと、アプリ上の注文と実際の注文が食い違ったまま残ります。
取引先からの問い合わせ窓口
最後に、取引先が困ったときの連絡先を決めます。
切り替えの直後に取引先から来やすいのは、「届いていない」「どこを見ればよいか分からない」「納期の回答はどこから返すのか」といった、操作と経路に関する問い合わせです。
答える人が決まっていないと、取引先はいつもの発注担当に電話をかけ、そのまま注文の変更まで電話で済ませてしまうことがあります。
窓口を決めることは、取引先への配慮であると同時に、電話が新しい経路の代わりに使われるのを防ぐ意味もあります。
窓口の人数は、同時に何社の切り替えを進められるかにも関わります。
1社ごとに日程を合わせ、開始直後の問い合わせに答える作業は、取引先の数だけ重なるからです。
4つの取り決めは別々に見えますが、互いにつながっています。
対象の発注を絞れば取引先の変わる作業が減り、窓口に余裕があれば同時に進める社数を増やせます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 対象の発注の種類
- 取引先で変わる作業
- 返事を受ける経路
- 切り替える取引先と順番
- 依頼の場で示せる開始日
- 従来手段の扱い
- 同じ注文が二つの経路で届くか
- 電話で受けた変更の記録先
- 問い合わせ窓口
- 同時に進められる取引先の数
- 電話が新しい経路の代わりに使われるか
取引先は何を受け取り、何を操作し、どんな負担が増えるのか
登録が要る型と要らない型
依頼を受けた取引先がまず知りたいのは、自分たちの作業がどう変わるかです。
発注側が同じように「発注アプリを入れた」と言っても、取引先の側で起きることは製品の仕組みによって大きく違います。
一つは、取引先が何も登録せず、これまでどおりFAXやメールで発注書を受け取る型です。
たとえば、ラクーンコマースのCOREC(コレック)は発注側向けのページで次のように説明しています。
受注側は費用がかからず、会員登録も不要で、発注書はFAXまたはメールで届き、内容を確認するだけでよいというものです3。
これはCORECの仕様であり、発注アプリ全般に当てはまるわけではありません。
ただ、この型であれば、取引先にとっての変化は「届く発注書の様式が変わる」程度にとどまります。
もう一つは、取引先がアカウントを作り、アプリの画面にログインして注文を受け取ったり、受領や納期を回答したりする型です。
この型では、取引先の回答まで発注側の画面に集まる可能性があります。
その一方で、取引先には新しいIDとパスワードの管理や、画面操作の習得が加わります。
取引先が複数の発注元と取引していれば、発注元ごとに違う画面を見ることになり、それが負担として受け止められることもあります。
どちらの型が良いかは、発注側が何を集めたいかで変わります。
送った注文の記録をそろえたいだけなら、登録の要らない型でも目的に近づけます。
取引先の回答までアプリに集めたいなら、回答がどの経路で戻り、発注側のどこに記録されるのかを、候補の製品ごとに確かめる必要があります。
受け取り方を変えずに済む型でも、回答が電話で戻ってくるなら、二重運用の一部は残ります。
費用が発生する場合の確認点
費用は、取引先が受け入れるかどうかを左右しやすい条件です。
取引先について確かめたいのは、利用料がかかるか、新しい端末や通信の準備が要るか、その費用を誰が負担する前提になっているか、の3つです。
受注システムどうしをデータでつなぐ方法として、中小企業共通EDI標準があります。
中小企業庁のミラサポplusの記事によれば、受注側の企業はこの標準に対応したプロバイダーと業務アプリを利用するだけで済み、大きな費用はかからないとされています1。
ただし、記事は金額を示していません。
「大きな費用はかからない」は無料という意味ではありません。
取引先がどのアプリを使い、月々いくらかかるかは、取引先の事情と候補の製品の資料をもとに個別に確かめることになります。
発注側の費用にも、取引先の数に関わる条件が含まれていることがあります。
CORECの無料プランでは、発注書への商品登録ができる取引先は1社のみとされています3。
先行する1社で試すには十分でも、2社目以降へ広げる段階ではプランの見直しが必要になります。
このように、段階的な移行計画と料金の条件は結びついています。
この条件はその製品とプランに固有のもので、ほかの製品の費用の目安にはなりません。
取引先に費用が生じる場合、その負担を取引先に求めてよいかどうかには、法律上の注意点も関わります。
この点は、断られたときの対応とあわせて最後の節で扱います。
FAXやメールで受け取る場合の受信確認
取引先の受け取り方が変わらない型でも、発注側には「本当に届いたか」を確認する作業が残ります。
FAXやメールは、送った側から相手の手元の状態が見えにくい経路だからです。
CORECの発注側向けページは、送信に失敗した場合は発注側に通知され、再送信できると説明しています3。
送信の失敗に気づけるかどうかは、取引先に届かないまま納期が近づく事態を避けるうえで大切な点です。
一方で、送信が成功したことと、取引先の担当者が内容を確認して出荷の手配に入ったことは別の事柄です。
FAXが届いていても、紙が別の書類に紛れれば、取引先の中で注文が止まってしまいます。
そこで、移行の初期だけは、新しい経路で送った注文が受け取れているかを取引先にひと言確かめる期間を設ける方法があります。
大切なのは、その確認をいつやめるかを最初から決めておくことです。
確認の電話が習慣として残ると、アプリと電話の両方を使う状態が続き、切り替えた意味が薄れます。
確認をやめる条件の決め方は、併用期間の節で取り上げます。
| 観点 | 登録不要でFAX・メールで受け取る型 | アカウントを作り画面で受け取る型 | 共通EDI標準対応のアプリでつなぐ型 |
|---|---|---|---|
| 取引先の登録 | 不要(CORECの説明) | 必要 | 対応するプロバイダーと業務アプリの利用 |
| 取引先の費用 | かからない(CORECの説明) | 製品ごとに確認 | 大きな費用はかからないとの説明(金額は示されていない) |
| 受け取り方 | 届いたFAXやメールを確認 | 画面にログインして確認 | 対応アプリで受け取る |
| 自社システムへの転記 | 従来と同じ | 画面から打ち直す場合がある | 形式がそろえば減らせる余地 |
▼ 図の内容を文字で読む
- 登録不要でFAX・メールで受け取る
- 会員登録は不要で、受注側の費用はかからないとの説明(一つの製品の仕様)
- 発注書はFAXまたはメールで届き、内容を確認する
- 回答が電話で戻るなら二重運用の一部は残る
- アカウントを作り画面で受け取る
- 新しいIDとパスワードの管理、画面操作の習得が加わる
- 回答まで発注側の画面に集まる可能性がある
- 発注元ごとに違う画面を見る負担が出ることもある
- 共通EDI標準に対応したアプリでつなぐ
- 対応するプロバイダーと業務アプリを利用する
- 大きな費用はかからないとされるが金額は示されていない
- 費用は取引先の事情と製品の資料で個別に確認する
取引先の状況別に、発注アプリの利用をどう依頼し、どこまで求めるか
依頼で伝える内容をそろえる
ここまでで、自社が決めることと、取引先に起きる変化の違いが見えてきました。
これを依頼の文面に落とすときは、取引先の状況にかかわらず、次の点を伝えておくと、取引先は自社の作業への影響を判断しやすくなります。
- アプリに移す発注の種類と、取引先側で変わる作業
- 登録の要否と、取引先に費用が生じるかどうか
- 切り替えの開始日の候補と、従来手段と並べて使う期間の考え方
- 受領や納期の回答を返してもらう経路
- 問い合わせ先と、従来手段を続けたい場合の伝え方
最後の項目は、意外に大切です。
従来手段を続ける選択肢が示されていないと、取引先は断ると取引に響くのではないかと考え、返事を先送りにするかもしれません。
そのうえで、取引先の状況によって、頼む内容と求める範囲を変えていきます。
以下の対応づけは、取引先の負担の違いから考えた進め方の提案です。
どの取引先でもこのとおりに受け入れられると示す資料があるわけではありません。
アプリに慣れた先
ほかの発注元とのやり取りで、すでに受発注のアプリや電子的な仕組みを使っている取引先は、画面操作や電子での受け取りそのものへの抵抗が比較的小さいと考えられます。
こうした取引先は、最初に切り替える候補になります。
頼むことは、開始日の調整、回答を返してもらう経路の確認、そして試してみて分かりにくかった点を教えてもらうことです。
先行する取引先からの指摘は、FAX中心の取引先に説明するときの資料づくりに役立ちます。
ただし、別の製品に慣れていても、自社が選んだ製品の画面に慣れているわけではありません。
操作の説明は省かないようにしましょう。
慣れている取引先だからこそ見つけられる手順の分かりにくさを集める期間と位置づけると、先行させる意味が大きくなります。
FAX中心の先
受注をFAXで受け、紙で回している取引先にとって、アカウント登録や画面操作を求められることは、新しい仕事が一つ増えることを意味します。
担当者がパソコンの前にいる時間が短い職場なら、画面の通知に気づくこと自体が難しい場合もあります。
このような取引先には、まず受け取り方を変えずに始められるかを確かめます。
前の節で見た登録不要の型であれば、発注側はアプリで発注書を作り、取引先には従来どおりFAXやメールで届けられます3。
取引先に頼むのは、操作を覚えてもらうことではありません。
届く発注書の様式が変わることを知っておいてもらうことと、受領や納期の回答をどう返してもらうかの確認です。
注文番号や品番の並びが変わるだけでも、取引先の現場では読み違いが起きることがあります。
最初の数回は、新旧の様式の違いを一緒に確認しておくと安心です。
逆に、取引先の回答までアプリに集めたい事情がある場合は、FAX中心の取引先を先行組から外す方法が考えられます。
ほかの取引先での運用が落ち着いてから、改めて相談するという順番です。
別の受注システムがある先
取引先がすでに自社の受注システムを持っている場合、気にしたいのは取引先の中で起きる転記です。
取引先は、FAXやメールで受け取った注文を自社の受注システムに打ち直し、出荷や請求の処理につなげているかもしれません。
そこへ発注側のアプリ画面で注文を受け取る方式を求めると、取引先は画面を見ながら受注システムに打ち直すことになります。
作業は減らないどころか、確認する画面が一つ増えてしまいます。
この転記を減らす考え方の一つが、データの形式をそろえることです。
中小企業共通EDI標準は、取引先ごとにばらばらだったEDIのデータフォーマットを共通化し、導入の手間とコストを大幅に減らすことをめざすもので、2018年4月に初版が公開されています1。
発注側と取引先の双方がこの標準に対応したアプリやプロバイダーを使えれば、取引先の受注システムが読める形で発注データを受け渡せる余地があります。
ただし、取引先の受注システムや発注側の候補のアプリが対応しているかどうかは、それぞれの製品の資料で確かめるまで分かりません。
対応が確認できるまでは、どちらの受け取り方なら取引先の作業が増えないかを比べる、という見方が役に立ちます。
画面での受け取りを求めるより、これまでどおりFAXやメールで受け取って受注システムに入力してもらうほうが、取引先の手間が増えない場合もあります。
この場合、取引先側の打ち直しは残ります。
ただ、それは移行前と同じ作業であり、新たに頼む負担ではありません。
▼ 図の内容を文字で読む
- アプリに慣れた先
- 最初に切り替える候補にする
- 頼むのは開始日の調整、回答の経路の確認、分かりにくかった点の指摘
- 自社の製品の操作説明は省かない
- FAX中心の先
- 受け取り方を変えずに始められるかを確かめる
- 頼むのは届く様式が変わることの把握と、回答の返し方の確認
- 回答までアプリに集めたいなら先行組から外す
- 別の受注システムがある先
- 画面での受け取りを求めると打ち直しが増えることがある
- 標準への対応は製品の資料で確かめる
- 確認できるまで、取引先の作業が増えない受け取り方を比べる
一斉切り替えか一部先行か、併用はいつまで認めるか
1社ずつ約1カ月かかる実例から窓口の人数を考える
全取引先を同じ日に切り替えるか、一部の取引先から始めるかは、迷いやすい点です。
判断の手がかりになるのは、取引先の移行にどれだけ時間がかかり、実際にどの程度の取引先が移るのかという実例です。
先に触れたピップグループの例では、事前調整から利用開始まで1社あたり1カ月ほどかかるという説明に加え、2016年12月時点の状況も示されています。
約500社の取引先のうち、IP網に対応した仕組みへ移行済みだったのは10%強でした2。
ISDNの終了に伴う切り替えでありながら、その時点で移行を終えた取引先は一部にとどまっていたことになります。
取引先側の状況についても、少し古い数字があります。
ミラサポplusの記事が紹介する日本公庫総研の2018年の調査によると、中小の商業・サービス業で、電子文書での商取引や受発注情報の管理にITツールを使っている割合は18.5%と、2割を下回っていました1。
これは2018年の中小商業・サービス業を対象とした数字で、現在の導入率を示すものではありません。
ピップグループの事例とは対象も時点も違うため、二つを組み合わせて何かを計算することはできません。
それでも二つの資料から、ある見立ては立てられます。
取引先の移行には1社ごとの調整が伴い、電子的な受発注への慣れにも取引先によって差があり得る、ということです。
そうであれば、全取引先に同じ手順で一斉に移ってもらう計画は、調整が一度に集中し、問い合わせに答えきれない時期を生みやすくなります。
この記事では、一部の取引先から先行し、順に広げていく進め方をおすすめします。
同時にいくつの取引先を進めるかは、取引先の数ではなく、自社の窓口が受け止められる量で決めるのが現実的です。
たとえば、窓口が1人でほかの発注業務と兼務しているなら、日程調整と開始直後の問い合わせを同時に抱えられるのは数社程度かもしれません。
その数社が落ち着いてから次の数社に進む、という単位で計画を立てると、取引先に約束した開始日を守りやすくなります。
なお、社内と取引先とで切り替えのしかたを分けることもできます。
登録不要の型のように取引先の受け取り方が変わらない仕組みなら、発注側の担当者は全員同じ日から新しい方法で発注書を作り、取引先には順に案内する、という形も考えられます。
社内の作業はそろえて一度に変え、取引先との調整は1社ずつ進めるという分け方です。
併用期限を取引先ごとに区切る
一部先行で進めると、しばらくはアプリに移った取引先と従来手段のままの取引先が混在します。
さらに、移行中の取引先とは、新しい経路と確認の連絡を並べて使う期間があります。
この併用をいつまで認めるかについて、業界共通の目安を示す資料はありません。
ピップグループの1カ月ほどという期間も事前調整から利用開始までの期間であり、併用期間の長さではありません。
目安がない以上、期限は取引先ごとに区切るのが現実的です。
その際は、日付だけで決めるよりも、終える条件で決めるほうが、取引先と話し合いやすくなります。
たとえば、「アプリ経由の注文で、受け取りと納期の回答が漏れなく回ったことを何回か確かめられたら、確認の電話をやめ、FAXでの送付も止める」という決め方です。
回数は、注文の頻度に合わせて取引先と相談して決めます。
月に数回しか注文しない取引先なら、同じ回数を満たすまでに時間がかかるので、期間ではなく回数で区切る意味が出てきます。
取引先ごとの状態は、一覧にしておくと抜けを防げます。
取引先名の横に、現在の経路、切り替えの開始日、併用を終える条件、確認の連絡を誰がしているかを書いておけば、どの取引先でまだ電話やFAXが残っているかがひと目で分かります。
併用が予定より長引いている取引先は、取引先側か自社側のどこかに、まだ解けていない不便が残っていると考えられます。
▼ 図の内容を文字で読む
- 事前調整
- 開始日・受け取り方・回答の経路・窓口を合わせる
- 利用開始
- 一つの注文は一つの経路で送る
- 併用と確認
- 受け取りと納期の回答が漏れなく回ったかを見る
- 終える条件を満たしたかを確かめる
- 従来手段の停止
- 確認の電話とFAX送付をやめ、取引先の一覧を更新する
- 次の取引先の事前調整へ戻る
断られた・使われないときの対応と、法の対象取引かの確認
従来手段を残す先の運用
段階的に進めていくと、依頼しても断る取引先や、登録はしたものの実際には使わない取引先が出てくることがあります。
断られた取引先については、従来手段を残すと決めたうえで、自社側の記録をどう扱うかを考えます。
問題になりやすいのは、アプリで出す注文と手書きのFAXで出す注文が混ざり、発注の記録が二か所に分かれることです。
月末に発注残を確かめるとき、アプリの一覧とFAXの控えの両方をめくらなければなりません。
製品によっては、発注側がアプリで発注書を作り、取引先にはFAXやメールで届けられるものもあります3。
こうした仕組みが使えるなら、取引先の受け取り方は従来のまま、発注の記録だけを自社側で一か所にまとめられます。
使えない場合でも、従来手段で出した注文を誰がどこに記録するかを決めておけば、記録が散らばる範囲を小さくできます。
登録したのに使われない取引先については、まずどこで止まっているかを確かめます。
注文は画面で受けているが、回答だけ電話で返している。
画面に注文が届いた知らせに気づかない。
アプリを担当していた人が異動した。
止まっている理由によって、操作の説明をし直すのか、回答の経路を変えるのか、従来手段に戻すのかが変わります。
理由を聞かないまま改めて利用をお願いしても、同じところで止まってしまいます。
断られた取引先や、返事が保留のままの取引先については、その理由と改めて相談できそうな時期を記録しておくと、次の機会を逃しにくくなります。
取引先の担当者が替わった、ほかの発注元でアプリを使い始めた、といった変化があれば、受け止め方も変わる可能性があります。
承諾の強要や費用負担で問題になり得る行為
取引先にアプリの利用を頼むとき、頼み方によっては法律上の問題になり得ます。
公正取引委員会が改正前の下請法のもとで示していた「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」には、次のような整理がありました4。
- 発注内容を示す書面を渡す代わりに電磁的記録で提供するには、事前に取引先(下請事業者)の承諾が必要で、承諾しない場合に取引の削減や停止を示して迫ることは問題になり得る
- システムの開発費などを取引先に負担させたり、発注側が指定する機器やサービスの購入を強制したりすると、下請法違反や優越的地位の濫用のおそれがある(利用に応じて追加で発生する費用を、取引先が得る利益の範囲内で負担してもらう場合などは除かれる)
- 受信と同時に書面で出力されるFAXへの送信は書面の交付にあたり、電子メールは送信しただけでは提供にならず、相手方のファイルに記録されて提供になる
この整理を依頼の場面に置き換えると、避けたいことが見えてきます。
「アプリを使っていただけない場合は、今後の取引を見直します」と受け取られる言い方はしないことです。
取引先に専用の機器やサービスを買ってもらうことを、取引の条件のように伝えないことです。
アプリの導入にかかった費用を、取引先への請求や値引きの要請で回収しようとしないことです。
前の節までで述べたように、従来手段を続ける選択肢を示し、断られた取引先には従来手段を残す進め方は、こうした迫り方を避けることにもつながります。
FAXの扱いも押さえておきたい点です。
この留意事項では、受信と同時に紙に出力されるFAXへの送信は、書面の交付として扱われていました4。
つまり、登録不要の型でFAXに発注書を届ける場合とメールで届ける場合とでは、この整理のうえでの位置づけが違っていたことになります。
メールで送るなら、取引先が受け取って記録できているかを確かめることには、業務上だけでなくこの点でも意味があります。
取適法の対象取引かの確認
ここまでの整理は、改正前の下請法のもとでの留意事項です。
下請法は改正され、2026年1月から改正後の法律(取適法)が施行されています。
改正後に、電子的な方法で発注内容を示すときの承諾や書面の扱いがどうなっているかについて、この記事では確定した説明をしていません。
公正取引委員会と中小企業庁が出している最新の資料で確認してください。
そもそも、自社の取引がこの法律の対象になるかどうかは、自社と取引先の資本金や、どのような委託にあたるかといった取引の内容によって決まります。
同じ会社の中でも、取引先によって対象になる取引とならない取引が混在することがあります。
判断に迷う場合は、取引先ごとの条件を整理したうえで、社内の法務担当や顧問の専門家に、最新の資料と照らし合わせて確かめてもらうのが確実です。

対象にならない取引であっても、承諾を迫ったり費用を押しつけたりする頼み方が、取引先との関係を損ねることに変わりはありません。
法律の対象かどうかを確かめることと、取引先が自分で選べる形で依頼することは、分けて考えるとよいでしょう。
取引先ごとに受け取り方や受注の仕組みが違うと、どの取引先から、どの受け取り方で始めるかを自社だけで決めるのは難しくなります。
いまの発注経路と取引先ごとの受け取り方を書き出し、二重運用が残りそうな箇所と、先行する取引先の候補を一緒に整理できます。無料相談で要件を整理する
要点の整理
| 軸 | 基準 |
|---|---|
| 依頼前に決めること | 対象の発注の種類、切り替える取引先と順番、従来手段の扱い、問い合わせ窓口 |
| 取引先の負担 | 登録の要否、費用の有無と負担者、受け取り方と回答の経路を候補の製品ごとに確認 |
| 進め方 | 慣れた取引先から一部先行し、同時に進める社数は窓口の人数で決める |
| 併用の終え方 | 取引先ごとに、受け取りと回答が漏れなく回ったことを確かめる条件で区切る |
| 断られたとき | 従来手段を残し、一つの注文は一つの経路で送る。承諾を迫らず、費用を押しつけない |
| 法律の確認 | 改正後の扱いと対象取引かどうかは、公取委・中小企業庁の最新資料で確認 |

併用を終える条件や、断られた取引先の記録の残し方は、運用を始めてから見直しが必要になりやすい部分です。 取引先ごとの移行状況を踏まえて、従来手段を止める条件や、発注の記録を一か所にまとめる方法を確かめられます。
よくある質問
取引先がアプリの登録を嫌がったら、FAXやメールのままでもよいですか。
かまいません。
登録を求めずにFAXやメールで発注書を届けられる製品もあり、たとえばCORECは受注側の会員登録を不要としています3。
大切なのは、その取引先には従来手段で送ると決め、同じ注文をアプリとFAXの両方で送らないことです。
発注の記録を自社側のどこにまとめるかも、あわせて決めておきます。
取引先に費用負担をお願いしてもよいですか。
取引の内容によっては、慎重な判断が必要です。
改正前の下請法のもとでの公取委の留意事項は、システム開発費などを取引先に負担させることや、指定する機器・サービスの購入を強制することを、下請法違反や優越的地位の濫用のおそれがある行為としていました4。
一方で、利用に応じて追加で発生する費用を、取引先が得る利益の範囲内で負担してもらう場合などは除かれるとされていました4。
改正後の扱いや自社の取引が対象かどうかは、最新の公取委・中小企業庁の資料で確認したうえで判断してください。
まずは、取引先に費用が生じない受け取り方を選べないかを検討するのが現実的です。
取引先が別の受注システムを使っている場合、二重入力をどう避けますか。
取引先は、受け取った注文を自社の受注システムに打ち直している場合があります。
中小企業共通EDI標準のようにデータの形式をそろえる仕組みに双方が対応できれば、その打ち直しを減らせる余地があります1。
対応が確認できるまでは、アプリ画面での受け取りを求めず、従来どおりFAXやメールで受け取ってもらうほうが、取引先の作業が増えない場合もあります。
併用期間は何カ月が目安ですか。
業界共通の目安を示す資料はありません。
EDIの切り替え事例には1社あたり1カ月ほどという数字がありますが、これは事前調整から利用開始までの期間で、併用期間ではありません2。
月数で一律に決めるよりも、取引先ごとに「アプリ経由の注文で受け取りと回答が漏れなく回ったことを何回か確かめたら、従来手段を止める」といった条件で区切るほうが、注文頻度の違いにも合わせやすくなります。
取適法が施行された後、電子メールやアプリでの発注の承諾は不要になったのですか。
この記事では、改正後の承諾の扱いについて確定した説明をしていません。
本文で紹介した「承諾が必要で、迫ることは問題になり得る」という整理は、改正前の下請法のもとでの公取委の留意事項によるものです4。
改正後の扱いと、自社の取引が対象になるかどうかは、公正取引委員会・中小企業庁の最新の資料で確認してください。
承諾の要否にかかわらず、取引先が従来手段も選べる形で依頼しておけば、受け入れの判断を取引先に委ねられます。
- 1 出典:中小企業庁(ミラサポplus)「企業間のデータ連携で、受発注の業務コストを削減する!」(2018年)
- 2 出典:日経BP(日経クロステック)「ISDN移行のハードルは業界によって様々、EDIなどは早期対応が必要」(2016年)
- 3 出典:株式会社ラクーンコマース「COREC(コレック)発注側向け料金・機能ページ」(2026年)
- 4 出典:公正取引委員会「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」(令和5年改正版)
画像の出典元
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